説明

液状ポリイミド組成物及びポリイミド膜

【課題】 250℃以下の低温プロセスで耐熱性に優れたポリイミド膜の作製が可能な液状ポリイミド組成物を提供する。
【解決手段】 一般式(1)で示される置換基を有するポリイミド及び有機溶媒を含有する液状ポリイミド組成物。
【化1】


[式中、R1は水素原子又はメチル基、R2及びR3はそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基、*はそれが付された結合が他のポリイミド構成単位に結合することを表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状ポリイミド組成物に関する。更に詳しくは、溶媒可溶性ポリイミドと有機溶媒を必須成分として含有する液状ポリイミド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは高ガラス転移温度に起因する高い耐熱性に加え、優れた機械的・電気的・化学的特性を併せ持つことから、電気・電子材料分野において各種基材の保護、絶縁及び接着等の用途に用いられており、フレキシブルプリント配線回路用基板、テープオートメーションボンディング用基材、半導体素子の保護膜及び集積回路の層間絶縁膜等として不可欠な材料となっている。
【0003】
多くのポリイミド樹脂は不溶不融であるため、ポリイミド膜の作製には、通常、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸のアミド系溶媒溶液を基質上に塗布し、続いて熱イミド化を行う二段法が用いられる。この熱イミド化工程では、脱水閉環反応(イミド化)と脱溶及び生成水の除去のために300℃以上での高温加熱が必要であるため、素子の損傷や熱応力による膜の剥離や変形、信頼性低下等が指摘されている。また、ポリアミック酸溶液は、主溶媒であるアミド系極性溶媒の吸湿によってポリアミック酸の加水分解が加速されるため、冷蔵保存を必要とする等保存安定性に大きな問題がある。
【0004】
上記の問題から、ポリアミック酸に代わる液状ポリイミド材料として、溶媒可溶性ポリイミドの使用が提案されている。溶媒可溶性ポリイミドは、イミド化された状態で溶媒に可溶であるため、保存安定性に優れた液状ポリイミド材料を提供できる。また、使用時には、塗布後のイミド化反応が不要であるため、250℃以下の低温プロセスでポリイミド膜を作製することができる。
【0005】
溶媒可溶性ポリイミドとしては、例えば、主鎖上に嵩高い脂環式構造を導入して凝集力を低下させた脂環式ポリイミド(例えば、特許文献1参照)、或いは可溶性ブロックを主鎖中に導入して溶媒との相互作用を増大させたブロック共重合ポリイミド(例えば、特許文献2参照)等が提案されている。
しかしながら、これらの溶媒可溶性ポリイミドは、従来のポリアミック酸の熱イミド化により得られるポリイミドに比べて塗膜の耐熱性や機械特性等が劣るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−163089号公報
【特許文献2】特開2008−231420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、250℃以下の低温プロセスで耐熱性に優れたポリイミド膜の作製が可能な液状ポリイミド組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。即ち、本発明は、一般式(1)で示される置換基を有するポリイミド及び有機溶媒を含有する液状ポリイミド組成物、及び該液状ポリイミド組成物を塗布後、加熱処理して得られるポリイミド膜である。
【化1】

[式中、R1は水素原子又はメチル基、R2及びR3はそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基、*はそれが付された結合が他のポリイミド構成単位に結合することを表す。]
【発明の効果】
【0009】
本発明の液状ポリイミド組成物を用いることにより、耐熱性に優れたポリイミド膜を容易に形成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の液状ポリイミド組成物は、一般式(1)で示される置換基を有するポリイミド及び有機溶媒を必須成分とする。一般式(1)で示される置換基は、嵩高いエステル構造を有するためポリイミドを溶媒に可溶とし、また、塗膜の加熱処理工程においてエステル結合が解離することにより、塗膜に優れた耐熱性を付与することができる。
【0011】
一般式(1)中、R1は水素原子又はメチル基である。R1が炭素数2以上の炭化水素基であると、塗膜の耐溶媒性が不十分となる場合がある。R2及びR3はそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキルであり、溶媒溶解性の観点から、炭素数2〜6のアルキル基であることが好ましい。炭素数が7以上のアルキル基であると、合成が困難になる場合がある。また、不飽和炭化水素基であると、溶媒溶解性が不十分となる場合がある。
【0012】
本発明におけるポリイミドは、例えば、一般式(1)で示される置換基を有するジアミンとテトラカルボン酸二無水物を反応させることにより得ることができる。尚、ジアミン成分として一般式(1)で示される置換基を有しないジアミンを併用することができる。
【0013】
一般式(1)で示される置換基を有しないジアミンとしては、炭素数6〜20の芳香族ジアミン(m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン及び4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等)及び炭素数6〜20の脂環式ジアミン(1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルエーテル、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン及び2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン等)が挙げられる。これらのジアミンは、単独で使用しても2種類以上を併用してもよい。
【0014】
一般式(1)で示される置換基を有しないジアミンの内、耐熱性の観点から、炭素数6〜20の芳香族ジアミンが好ましく、更に好ましいのは、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテルである。
【0015】
一般式(1)で示される置換基を有するジアミンとしては、前記一般式(1)で示される置換基を有しない炭素数6〜20のジアミンに一般式(1)で示される置換基を導入した炭素数12〜60のジアミン等が挙げられる。
【0016】
ジアミンに一般式(1)で示される置換基を導入する方法は、特に限定されず、ジアミンの構造に適した有機合成法を適宜選択することができる。例えば、ジアミンが芳香族ジアミンの場合、ジニトロ安息香酸誘導体のカルボキシル基を官能基変換により修飾して一般式(1)で示される置換基に変換した後にニトロ基を還元する方法、芳香族ジニトロ化合物に求電子置換型の反応によりアシル基又はホルミル基を導入した後、官能基変換により一般式(1)で示される置換基に変換した後にニトロ基を還元する方法等が挙げられる。
【0017】
一般式(1)で示される置換基を有するジアミンの中でも、溶媒溶解性と耐熱性の観点から、一般式(2)で示されるジアミンが好ましい。
【0018】
【化2】

【0019】
一般式(2)におけるR1は水素又はメチル基である。R1が炭素数2以上の炭化水素基であると、塗膜の耐溶媒性が不十分となる場合がある。R2及びR3はそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基であり、溶媒溶解性の観点から、炭素数2〜6のアルキル基であることが好ましい。炭素数が7以上のアルキル基であると、合成が困難になる場合がある。また、不飽和炭化水素基であると、溶媒溶解性が不十分となる場合がある。
一般式(1)で示される置換基を有するジアミンは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
一般式(1)で示される置換基の含有量は、溶解性を十分なものとし、かつポリイミド膜に十分な強度を与える観点からはポリイミドの重量に対して20〜70重量%であることが好ましく、更に好ましくは30〜70重量%である。
【0021】
テトラカルボン酸二無水物としては、通常のポリイミド合成に用いられるものを用いることができ、具体例としては、炭素数10〜20の芳香族テトラカルボン酸二無水物(ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物及び3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等)及び炭素数8〜20の脂環式テトラカルボン酸二無水物(1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物及び3',4,4'‐ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物等)等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
テトラカルボン酸二無水物の内、耐熱性の観点から、炭素数10〜20の芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、更に好ましいのは、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物である。
【0023】
本発明における有機溶媒としては、アミド系溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びN−メチルピロリドン等)、ラクトン系溶媒(γ−ブチルラクトン及びγ−バレロラクトン等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル及び酢酸アミル等)、塩素系溶媒(トリクロロエタン及びジクロロエチレン等)及びエーテル系溶媒テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル及びジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等)等が挙げられる。
また、本発明の液状ポリイミド組成物から塗膜やフィルム状のポリイミド成形体を得る際、乾燥工程を効率よく行う目的で、前記溶媒の一部を高揮発性溶媒に代えることができる。高揮発性溶媒としては、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素や、シクロヘキサン及びメチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素が挙げられる。これらの高揮発性溶媒を使用する場合、その使用量は、ポリイミドを溶解可能な範囲で適宜選択される。
これらの溶媒の内、溶解性及び粘度安定性の観点から、炭素数3〜10のアミド系溶媒、炭素数3〜10のラクトン系溶媒及び炭素数3〜10のエーテル系溶媒が好ましい。
有機溶媒は、単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0024】
ポリイミドの製造方法としては、公知の方法を用いることができる。イミド化の方法としては、例えば、(i)高温加熱下、生成水を系外に除去しながらイミド化させる方法、(ii)溶媒中でイミド化促進剤を用いて比較的低温でイミド化させる方法等が挙げられる。
【0025】
上記ポリイミドの製造方法の内、一般式(1)で示される置換基の熱安定性の観点から、製造方法(ii)が好ましい。製造方法(ii)の好ましい形態としては、例えば、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸製造後、イミド化促進剤としてピリジンと無水酢酸を加え、40〜120℃の温度でイミド化する方法等が挙げられる。
【0026】
ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の仕込みモル比は、所望するポリイミドの分子量、に応じて適宜選択することができる。ジアミンとテトラカルボン酸無水物は、1:0.85〜0.85:1の仕込みモル比で反応させることが好ましく、更に好ましくは1:0.90〜0.90:1、特に好ましくは、1:0.95〜0.95〜1である。上記仕込みモル比の範囲を超えてどちらかを過剰に用いると、得られるポリイミドの分子量が低くなり、成膜性や膜の機械強度が不十分となる場合がある。
また、ジアミン中の一般式(1)で示される置換基を有するジアミンの量を適宜調整することで、ポリイミド中の一般式(1)で示される置換基の含有量を調整することができる。
【0027】
反応に使用する溶媒としては、上述の有機溶媒が挙げられ、その使用量は、生成するポリイミドを溶解できる量であればよいが、生成するポリイミドの成膜性及び機械強度を十分なものとし、かつ反応中のゲル化を抑える観点からは、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の総量の重量濃度が5〜50重量%、更に好ましくは10〜40重量%となるように調整することが好ましい。
【0028】
イミド化促進剤としては、特に制限はなく、一般に用いられている化合物、例えば、塩基性物質と脱水縮合剤の併用が挙げられる。
【0029】
塩基性物質としては、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン及びトリブチルアミン等のアミン類並びに炭酸カリウム及び水酸化ナトリウム等の無機塩基を使用することができる。中でもピリジンは、安価に入手できる点や、溶解性に優れる点で好ましく用いられる。塩基性物質の使用量は、ポリイミド前駆体に含まれるアミック酸基のモル数に対して通常下限が1.0倍、好ましくは2.0倍である。上限は特に制限はないが、通常は50モル倍、好ましくは30モル倍である。塩基性物質が少なすぎると反応の進行が遅くなり、多すぎると除去が困難になる。
【0030】
脱水縮合剤としては、無水酢酸及び無水プロピオン酸等の酸無水物並びにN,N−ジシクロへキシルカルボジイミド等が挙げられる。その使用量は、ポリイミド前駆体に含まれるアミック酸基のモル数に対して通常下限が1.0倍、好ましくは2.0倍である。上限は特に制限はないが、通常は50モル倍、好ましくは30モル倍である。脱水縮合剤が少なすぎると反応の進行が遅くなり、多すぎると除去が困難になる。
【0031】
反応温度は、用いる原料の種類や濃度等にもよるが、通常、下限が−20℃、好ましくは0℃である。反応温度が低すぎると、反応速度が低下したり重合物が析出する場合がある。反応温度の上限は、一般式(1)で示される置換基の熱安定性の観点から、通常150℃、好ましくは120℃である。
【0032】
反応時間は、反応温度にもよるが、0.5〜24時間が好ましい。
【0033】
本発明におけるポリイミドの数平均分子量は、通常5000〜50000、好ましくは7000〜30000である。数平均分子量が5000未満の場合、成膜性や膜の機械強度が不十分となり、50000を超えると粘度上昇のために塗布性が悪化する。
また、多分散度(重量平均分子量を数平均分子量で割った値)は通常10以下、好ましくは5以下である。多分散度が大きすぎると、低分子量成分の割合が大きくなり、成膜性や膜の機械強度が不十分となる場合がある。
数平均分子量は、上記のようにジアミンとテトラカルボン酸二無水物の仕込みモル比や濃度、反応時間等の条件を適宜選択することで調整することができる。
本発明における数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリエチレングリコールを標準物質として測定される。
【0034】
本発明の液状ポリイミド組成物は、一般式(1)で示される置換基を有するポリイミドと有機溶媒を必須成分として含有する。有機溶媒の含有量は、ポリイミドの重量濃度が好ましくは5〜50重量%、更に好ましくは10〜40重量%となるように調整されることが推奨される。上記濃度範囲よりも低濃度であると、均一な塗膜の形成が困難似なる場合がある。また、上記濃度範囲より高濃度である場合、ポリイミドが析出する等保存安定性が悪くなる場合がある。
【0035】
本発明の液状ポリイミド組成物の調製方法としては、特に制限はなく、例えば、(i)上記イミド化反応により得られた重合溶液を本発明の液状ポリイミド組成物としてそのまま使用する方法、(ii)一旦単離したポリイミドを所望の有機溶媒に再溶解させて調製する方法等が挙げられる。
【0036】
上記液状ポリイミド組成物の調整方法の内、未反応の原料やイミド化剤等の不純物残留量を少なくできる点で、(ii)の方法が好ましい。ポリイミドの単離方法としては、上記重合溶液をポリイミドの貧溶媒中に加えて再沈殿させ、粉末として単離する方法が好ましい。
【0037】
再沈殿に用いられる貧溶媒としては、水、メタノール、2−プロパノール、ヘキサン及びジエチルエーテル等が挙げられる。これらの貧溶媒は単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよく、その使用量は、ポリイミドを不溶化可能な範囲で適宜選択される。
【0038】
再沈殿後、ろ過等により溶媒を除去して乾燥することにより、ポリイミド粉末を得た後、再び所望の有機溶媒に溶解させて本発明のポリイミド組成物を得ることができる。
【0039】
本発明の液状ポリイミド組成物には、発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、難燃剤、レベリング剤及び脱泡剤等の、コーティング材料分野で慣用されている他の成分を必要に応じて添加することができる。
【0040】
本発明の液状ポリイミド組成物は、基材への塗布工程の後、加熱処理によりポリイミド中の一般式(1)で示される置換基が、エステル基の熱解離により下記一般式(3)又は(4)で示される置換基に変換されることにより、高い耐熱性を有するポリイミド膜を与えることができる。
【0041】
【化3】

【0042】
【化4】

【0043】
一般式(3)及び一般式(4)におけるR1はエステル基の熱解離前の一般式(1)で示される置換基におけるR1と同じものである。
【0044】
上記の塗布工程で使用される塗布方法は、特に制限はなく、所望のポリイミド膜の形態に応じて公知の塗布方法を適宜選択して使用できる。具体的には、スピンコート、スプレーコート及びディップコート等の塗布方法、ドロップキャスト法による塗布方法、バーコーター又はドクターブレードナイフコーター等を用いる塗布方法、スクリーン印刷やインクジェット印刷等の印刷技術等が挙げられる。
【0045】
液状ポリイミド組成物を塗布する基材としては、次工程の加熱処理温度における耐熱性を有していれば特に限定されない。例えば、ガラス基板、シリコン基板、銅やステンレス等の金属基板、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン等の樹脂基板等が用いられる。
【0046】
塗布した液状ポリイミド組成物の加熱処理方法としては、従来公知の方法が使用でき、例えば、熱風乾燥器、加熱減圧乾燥器又はホットプレートによる加熱処理等が適宜使用される。
【0047】
加熱処理の温度としては、ポリイミド中の一般式(1)で示される置換基が、エステル基の解離により一般式(3)又は一般式(4)で示される置換基に変換されうる温度であれば問題ないが、好ましくは120〜250℃、更に好ましくは、150〜200℃である。上記温度範囲よりも低い温度の場合、ポリイミド中の一般式(1)で示される置換基の、一般式(3)又は一般式(4)で示される置換基への変換率(以下、エステル基の解離率と表記する)が低くなり、ポリイミド膜の耐熱性が十分でなくなる傾向にある。また、上記温度範囲よりも高い温度の場合、ポリイミド膜の反りや変形が起こりやすくなる傾向がある。
【0048】
上記エステル基の解離率は、ポリイミドの凝集力及びポリイミド膜の耐熱性の観点から、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。
上記エステル基の解離率は、加熱処理前後の赤外分光スペクトル測定での、エステル基由来のピーク強度から求めることができる。
【0049】
加熱処理の時間は、加熱温度や所望のポリイミド膜の形態にもよるが、エステル基の解離率が上記割合を満たす範囲で適宜選択され、0.5〜24時間であることが好ましい。加熱時間が0.5時間より短いと、熱解離により副生するカルボン酸や溶媒の揮発除去が不十分となり、ポリイミド膜の絶縁性や耐熱性に悪影響を及ぼす可能性がある。また、25時間より長いと、ポリイミド膜の反りや変形が起こる可能性がある。
【0050】
本発明の液状ポリイミド組成物中に含まれる溶媒は、通常は上記の加熱処理工程にて併せて揮発除去されるが、加熱処理工程の前に予備乾燥を行ってもよい。予備乾燥の方法、時間及び温度は、用いる溶媒の沸点や揮発性に応じて適宜選択される。予備乾燥を行う場合には、ボイド抑制の観点から、60℃以下の低温下、常圧で行うことが好ましい。
【0051】
上記作製方法により得られるポリイミド膜は、通常200℃以上のガラス転移温度を示し、優れた耐熱性を有する。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に規定しない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0053】
製造例1 <ビス[2−{1−(2−エチルブタノイルオキシ)エチル}−4−アミノフェニル]エーテル(ODA1)の合成>
(1)ビス(2−カルボキシ−4−ニトロフェニル)エーテルの合成:
冷却管を備えた200mL2口フラスコに2−クロロ−5−ニトロ安息香酸24.2部、ジメチルスルホキシド40部、水1部、炭酸カリウム20.5部及びフッ化カリウム0.45部を加えた。この混合物を窒素気流下、160℃で30時間攪拌し反応させた。反応混合物を室温まで冷却後、水200mL中に注ぎ、濃塩酸を液のpHが2になるまで加え、析出した固体を濾別した。これを熱水から再結晶し、真空乾燥して、ビス(2−カルボキシ−4−ニトロフェニル)エーテル15.2部(収率73%)を得た。
【0054】
(2)ビス(2−クロロカルボニル−4−ニトロフェニル)エーテルの合成:
冷却管を備えた300mL2口フラスコに、上記のビス(2−カルボキシ−4−ニトロフェニル)エーテル13.9部、ジメチルホルムアミド20部及び塩化チオニル120部を加え、混合物を85℃で10時間還流させた。未反応の塩化チオニルとジメチルホルムアミドを減圧下で留去して、ビス(2−クロロカルボニル−4−ニトロフェニル)エーテル14.4部(収率93%)を得た。
【0055】
(3)ビス(2−アセチル−4−ニトロフェニル)エーテルの合成:
300mL2口フラスコにビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル6.4部及びテトラヒドロフラン60部を加え、この混合物に0℃下で1Mのメチルマグネシウムブロミドテトロヒドロフラン溶液40部を加え、0℃で15分反応させて錯体を得た。この混合溶液を−60℃に冷却し、上記のビス(2−クロロカルボニル−4−ニトロフェニル)エーテル6.6部のテトロヒドロフラン溶液80部を30分かけてゆっくり滴下した。滴下終了後、0℃まで昇温し、塩化アンモニウム飽和水溶液50部を加えた。有機層を酢酸エチルで抽出し、溶媒を留去して得られた固体物をヘキサン中に再沈澱することにより、ビス(2−アセチル−4−ニトロフェニル)エーテル5.2部(収率88%)を得た。
【0056】
(4)ビス[2−(1−ヒドロキシエチル)−4−ニトロフェニル]エーテルの合成:
200mL2口フラスコに上記のビス(2−アセチル−4−ニトロフェニル)エーテル5.2部とテトロヒドロフラン100部を加え、室温下、攪拌しながら水素化ホウ素ナトリウム2.2部を4回に分けて加えた。室温下で2時間反応後、水100mLを加え、有機層を酢酸エチルで抽出した。溶媒を留去して得られた固体物をヘキサン中に再沈澱することにより、ビス[2−(1−ヒドロキシエチル)−4−ニトロフェニル]エーテル5.2部(収率99%)を得た。
【0057】
(5)ビス[2−{1−(2−エチルブタノイルオキシ)エチル}−4−ニトロフェニル]エーテルの合成:
200mL2口フラスコに上記のビス[2−(1−ヒドロキシエチル)−4−ニトロフェニル]エーテル5.2部、テトラヒドロフラン30部、ピリジン2.4部及び4−ジメチルアミノピリジン0.1部を加え、0℃に冷却した。この混合物に2−エチルブチリルクロリド4.1部をゆっくり滴下し、0℃で1時間反応させた。室温下で4時間更に反応させた後、反応混合物を酢酸エチル200mL中に注ぎ、固体を濾別した。濾液を0.1Mの希塩酸で洗浄し、溶媒を留去することにより、ビス[2−{1−(2−エチルブタノイルオキシ)エチル}−4−ニトロフェニル]エーテル8.0部(収率96%)を得た。
【0058】
(6)ビス[2−{1−(2−エチルブタノイルオキシ)エチル}−4−アミノフェニル]エーテル(ODA1)の合成:
300mL2口フラスコに上記のビス[2−{1−(2−エチルブタノイルオキシ)エチル}−4−ニトロフェニル]エーテル8.0部、エタノール100部及び塩化第一スズ二水和物30部を加え、窒素雰囲気下、80℃で4時間還流した。反応混合物を室温まで冷却後、氷水100部中に注ぎ、1MのNaOH水溶液を液のpHが8になるまで加えた。有機層を酢酸エチルで抽出後、溶媒を留去して得られる固体物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[ヘキサン/酢酸エチル=3:1(容量比)]で精製することにより、ビス[2−{1−(2−エチルブタノイルオキシ)エチル}−4−アミノフェニル]エーテル(ODA1)6.4部(収率90%)を得た。
【0059】
製造例2 <ビス[2−{1−(2−エチルブタノイルオキシ)プロピル}−4−アミノフェニル]エーテル(ODA2)の合成>
1Mのメチルマグネシウムブロミドテトロヒドロフラン溶液40部の代わりに1Mのエチルマグネシウムブロミドテトロヒドロフラン溶液40部を用いた以外は、製造例1の(1)〜(3)と同様の操作を行い、ビス(2−プロピオニル−4−ニトロフェニル)エーテル5.5部(収率86%)を得た。
ビス(2−アセチル−4−ニトロフェニル)エーテル5.2部をビス(2−プロピオニル−4−ニトロフェニル)エーテル5.5部に代える以外は製造例1の(4)と同様にして、ビス[2−(1−ヒドロキシプロピル)−4−ニトロフェニル]エーテル5.5部(収率99%)を得た。
ビス[2−(1−ヒドロキシエチル)−4−ニトロフェニル]エーテル5.2部をビス[2−(1−ヒドロキシプロピル)−4−ニトロフェニル]エーテル5.5部に代える以外は製造例1の(5)と同様にして、ビス[2−{1−(2−エチルブタノイルオキシ)プロピル}−4−ニトロフェニル]エーテル8.2部(収率97%)を得た。
ビス[2−{1−(2−エチルブタノイルオキシ)エチル}−4−ニトロフェニル]エーテル8.0部をビス[2−{1−(2−エチルブタノイルオキシ)プロピル}−4−ニトロフェニル]エーテル8.2部に代える以外は製造例1の(6)と同様にして、ビス[2−{1−(2−エチルブタノイルオキシ)プロピル}−4−アミノフェニル]エーテル(ODA2)6.5部(収率88%)を得た。
【0060】
製造例3 <ビス[2−{1−(2−エチルヘキサノイルオキシ)プロピル}−4−アミノフェニル]エーテル(ODA3)の合成>
2−エチルブチリルクロリド4.1部の代わりに2−エチルヘキサノイルクロリド5.0部を用いた以外は、製造例2と同様の操作を行い、ビス[2−{1−(2−エチルヘキサノイルオキシ)プロピル}−4−ニトロフェニル]エーテル8.8部(収率96%)を得た。
ビス[2−{1−(2−エチルブタノイルオキシ)エチル}−4−ニトロフェニル]エーテル8.0部をビス[2−{1−(2−エチルヘキサノイルオキシ)プロピル}−4−ニトロフェニル]エーテル8.8部に代える以外は製造例1の(6)と同様にして、ビス[2−{1−(2−エチルヘキサノイルオキシ)プロピル}−4−アミノフェニル]エーテル(ODA3)6.9部(収率87%)を得た。
【0061】
実施例1 <液状ポリイミド組成物PMDA−ODA1の調製>
300mL2口フラスコに、製造例1で得られたビス[2−{1−(2−エチルブタノイルオキシ)エチル}−4−アミノフェニル]エーテル(ODA1)5.3部とN−メチルピロリドン30部を加え、均一溶液にした後、ピロメリット酸二無水物(PMDA)2.4部を加え、窒素雰囲気下、室温で8時間攪拌して重合反応を行った。得られたポリアミック酸の溶液にイミド化剤として無水酢酸4.2部、ピリジン3.3部を加え、60℃で4時間反応させポリイミド溶液を得た。この溶液を大量のメタノール中に注ぎ、得られた沈殿を濾別し、乾燥することにより、ポリイミドの粉末6.8部(収率93%)を得た。得られたポリイミド粉末をN−メチルピロリドンに濃度が20%となるように溶解させ、液状ポリイミド組成物PMDA−ODA1を得た。
【0062】
実施例2 <液状ポリイミド組成物PMDA−ODA2の調製>
ODA1 5.3部の代わりに、製造例2で得られたビス[2−{1−(2−エチルブタノイルオキシ)プロピル}−4−アミノフェニル]エーテル(ODA2)5.6部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、液状ポリイミド組成物PMDA−ODA2を得た。
【0063】
実施例3 <液状ポリイミド組成物PMDA−ODA3の調製>
ODA1 5.3部の代わりに、製造例3で得られたビス[2−{1−(2−エチルヘキサノイルオキシ)プロピル}−4−アミノフェニル]エーテル(ODA3)6.1部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、液状ポリイミド組成物PMDA−ODA3を得た。
【0064】
実施例4 <液状ポリイミド組成物BPDA−ODA3の調製>
ピロメリット酸二無水物(PMDA)2.4部の代わりに3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)3.2部を用いた以外は、実施例3と同様の操作を行い、液状ポリイミド組成物ドBPDA−ODA3を得た。
【0065】
実施例5 <液状ポリイミド組成物BTDA−ODA3の調製>
ピロメリット酸二無水物(PMDA)2.4部の代わりに3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)3.5部を用いた以外は、実施例3と同様の操作を行い、液状ポリイミド組成物BTDA−ODA3を得た。
【0066】
比較例1 <液状ポリイミド組成物PMDA−ODAの調製>
ODA1 5.3部の代わりに、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)2.2部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、イミド化反応を行ったところ、反応系がゲル化したため、これ以降の実験を行うことができなかった。
【0067】
比較例2 <液状ポリイミド組成物HPMDA−HDAMの調製>
ODA1 5.3部を4,4’−ジアミノジシクロへキシルメタン(HDAM)2.3部に、PMDA2.4部を1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(HPMDA)2.5部に代えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、液状ポリイミド組成物を得た。
【0068】
実施例1〜5及び比較例2で得た液状ポリイミド組成物について、以下の測定法により数平均分子量、多分散度、エステル基の解離率及びガラス転移温度を測定した結果を表1に示す。尚、表1における化合物の略号は以下の通りである。
【0069】
[化合物の略号]
(1)ジアミン成分
ODA:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
HDAM:4,4’−ジアミノジシクロへキシルメタン
ODA1:ビス[2−{1−(2−エチルブタノイルオキシ)エチル}−4−アミノフェニル]エーテル
ODA2:ビス[2−{1−(2−エチルブタノイルオキシ)プロピル}−4−アミノフェニル]エーテル
ODA3:ビス[2−{1−(2−エチルヘキサノイルオキシ)プロピル}−4−アミノフェニル]エーテル
(2)酸無水物成分
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
HPMDA:1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物
【0070】
[数平均分子量及び多分散度の測定方法]
実施例1〜5及び比較例2で製造したポリイミド組成物を乾燥後、ジメチルホルムアミドに0.1%となるように溶解し、測定用試料を調整した。該試料溶液について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、以下の測定条件により、標準ポリエチレングリコール換算の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、多分散度(Mw/Mn)を求めた。
装置:島津製作所 RID−6A
カラム:ShodexGPC AD802−S、AD803−S、AD804−S
及びAD805−S
カラム温度:40℃
溶離液:(0.01M臭化リチウム+0.01Mリン酸)/ジメチルホルムアミド
流速:1.0mL/分
検出器:RI
【0071】
[エステル基の解離率の測定方法]
実施例1〜5で作製した液状ポリイミド組成物をスライドガラス(76mm×26mm、厚さ1.0mm)上にバーコーター(No.6)を用いて塗布した。塗膜を室温で12時間自然乾燥させた後、窒素気流下、180℃で30分間熱風乾燥(加熱処理)を行った。フーリエ変換赤外分光光度計(島津製作所 FTIR−8400S)を使用して、180℃での加熱処理前後でのエステル基の吸収(1700cm-1 付近)のピーク強度の変化から、エステル基の解離度を算出した。
【0072】
[ガラス転移温度の測定方法]
上記エステル基の解離率の測定における乾燥操作と同様にして得たポリイミド膜をスライドガラスから剥離後、裁断して、示差熱走査熱量計(パーキンエルマー社 DSC−7)を使用して、毎分10℃の昇温速度で昇温したときの変曲点をガラス転移温度とした。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示す通り、実施例1〜5で作製した液状ポリイミド組成物を用いて得られるポリイミド膜は、比較例2のポリイミド膜よりも大幅に高いガラス転移温度を示し、優れた耐熱性を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の液状ポリイミド組成物は、耐熱性に優れたポリイミド膜を提供できるため、電気・電子材料分野において各種基材の保護、絶縁用のコーティング用材料として有用である。特に、フレキシブルプリント配線回路用基板、テープオートメーションボンディング用基材、半導体素子の保護膜及び集積回路の層間絶縁膜として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される置換基を有するポリイミド及び有機溶媒を含有する液状ポリイミド組成物。
【化1】

[式中、R1は水素原子又はメチル基、R2及びR3はそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基、*はそれが付された結合が他のポリイミド構成単位に結合することを表す。]
【請求項2】
前記ポリイミドが、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物との反応により得られるポリイミドであり、前記ジアミンの少なくとも1種が前記一般式(1)で示される置換基を有する請求項1記載の液状ポリイミド組成物。
【請求項3】
前記ジアミンが、一般式(2)で示されるジアミンである請求項2記載の液状ポリイミド組成物。
【化2】

[式中、R1は水素原子又はメチル基、R2及びR3はそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基、*はそれが付された結合が他のポリイミド構成単位に結合することを表す。]
【請求項4】
前記テトラカルボン酸二無水物が、炭素数10〜20の芳香族テトラカルボン酸二無水物である請求項2又は3記載の液状ポリイミド組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の液状ポリイミド組成物を塗布後、加熱処理して得られるポリイミド膜。

【公開番号】特開2011−16969(P2011−16969A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164143(P2009−164143)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】