説明

液状体の吐出量ばらつき測定方法

【課題】受容層を備えたメディアにノズルから液状体を吐出し、着弾面積を元に相対的な体積差を求める方法では、メディアの表面状態により広がり具合が変わり、着弾面積の絶対値はメディアの位置、測定するときの湿度等で揺らぐため、そのままではノズル間での相対的な吐出量ばらつきを測定することが難しいという課題があった。
【解決手段】各々加圧部を備える複数のノズルと被吐出物とを相対的に移動させる走査ステップと、前記走査ステップ毎に吐出エネルギーを段階的に変化させて前記加圧部に与え、前記複数のノズルから液状体を液滴として前記被吐出物に吐出するステップと、前記被吐出物に着弾した前記液滴の着弾面積を求めるステップと、を含む。吐出エネルギーを段階的に変化させることで、吐出エネルギーと着弾面積との関係が高い相対精度で得られ、吐出量ばらつきの測定精度が向上した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状体の吐出量ばらつき測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙や、フィルムに受容層を備えたメディア等印刷対象への印刷手段として、インクジェット方式が用いられている。また昨今、液晶装置のカラーフィルターや、有機EL素子を製造する方法としてもインクジェット方式が適用されてきている。
【0003】
インクジェット方式は、複数のノズルから液状体を被吐出体(紙や、メディア等)に吐出することで被吐出体に液状体を塗布する方式である。
このとき、吐出量を制御する制御装置の設定と、実際の吐出量との対応が取られていることが重要となる。この対応が不十分だと、走査方向に筋状のむらが発生し、表示品位や、有機EL素子の性能を落としてしまうこととなる。
制御装置の設定と実際の吐出量との対応を取り、複数のノズルに対して同じ吐出量に設定した場合に、複数のノズルから各々同じ量の液状体を吐出させるためには、各ノズルに対して吐出量ばらつきを測定し校正することが要求される。
吐出量の測定方法としては、フィルムに受容層を備えたメディアにノズルから液状体を吐出し、その着弾面積を元に体積差の絶対値を求める方法が知られている。この場合、標準試料を作成しておき、この標準試料との差分を取り、校正を行う手順を取ることが一般的に知られている。
【0004】
また、特許文献1に示すように、インクジェット装置のノズルから吐出された液状体をシャーレ形態の記録媒体で受けて後、天板で覆い、その面積を測ることで吐出された液滴の体積を測定する方法が知られている。
また、特許文献2に示すように、有機溶媒を満たしたシャーレ内にノズルから液状体を続けて吐出し、吐出後の重量から吐出前の重量を引き、吐出回数で除算することで一回の吐出における吐出量を抽出する方法が知られている。
また、溶質を含むインクであれば乾燥させて、残った固形分を薄膜干渉計などの測定手段を用いて測定する方法についても研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−153603号公報
【特許文献2】特開2006−159576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示された測定方法では、測定に時間がかかり、多数のノズル(例えば180個)を備えるインクジェット方式のものでは、実用的な時間で測定することが困難であるという課題があった。
また、受容層を備えたメディアにノズルから液状体を吐出し、着弾面積を元に体積差の絶対値を求める方法では、メディアの表面状態により広がり具合が変わる。例えば、着弾面積の絶対値はメディアの位置、測定するときの湿度等で揺らぐ。そのため、そのままではノズル間での吐出量ばらつきを測定することが難しいという課題があった。
また、薄膜干渉計を用いる場合、乾燥後の固形分の形状をなめらかな山型に制御する必要があり、インクによっては必ずしも制御が出来ない。
また、乾燥工程が必要であるため測定に時間がかかるという課題がある。有機EL素子の製造に用いられるインクは、インクの固形分濃度が1%程度と希薄な場合があり、十分な体積測定精度を持って測定することが困難であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例にかかる液状体の吐出量ばらつき測定方法は、各々加圧部を備える複数のノズルと被吐出物とを相対的に移動させる走査ステップと、前記走査ステップ中に吐出エネルギーを段階的に変化させて前記加圧部に与え、前記複数のノズルから液状体を液滴として前記被吐出物に吐出するステップと、前記被吐出物に着弾した前記液滴の着弾面積を求めるステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
これによれば、使用する被吐出物の領域を例えば10cm×10cm程度で済ませることができる。そのため、被吐出物に液滴を吐出した標準試料を基準として用いる場合と比べ、被吐出物の表面状態が標準試料とは異なるものの、被吐出物の表面状態は揃った状態で被吐出物に液滴を吐出することができる。そのため、着弾面積の相対的な精度が標準試料を用いる場合と比べ、高くすることができる。
【0010】
[適用例2]上記適用例にかかる吐出量ばらつき測定方法であって、前記複数のノズルのうち、隣り合うノズルは前記液滴の吐出を止めておくことを特徴とする。
【0011】
上記した適用例によれば、隣り合うノズルでの吐出を止めておくことで、隣り合うノズルの駆動によるクロストークの発生を抑制することができる。
【0012】
[適用例3]上記適用例にかかる吐出量ばらつき測定方法であって、少なくとも一つの当該段階と略同じ吐出エネルギーで前記複数のノズルから液状体を液滴として前記被吐出物に吐出することを特徴とする。
【0013】
上記した適用例によれば、少なくとも一つの当該段階で略同じ吐出エネルギーで吐出を行う。そのため、複数のノズルに対して吐出量再現性を調べることが可能となる。なお、「略」とは、意図的に吐出エネルギーを変えない場合において発生する誤差成分や、同じと見なせる程度の吐出エネルギーの差を指すものとする。
【0014】
[適用例4]上記適用例にかかる吐出量ばらつき測定方法であって、前記着弾面積の代表値を、当該段階毎に求めるステップをさらに備えることを特徴とする。
【0015】
上記した適用例によれば、ノズル数分の値ではなく、各段階毎に代表値を求めることで扱う数値の数を削減でき、数値処理を簡便化することができる。
【0016】
[適用例5]上記適用例にかかる吐出量ばらつき測定方法であって、前記代表値のいずれかを基準として、当該段階毎に求められた前記代表値を規格化するステップをさらに備えることを特徴とする。
【0017】
上記した適用例によれば、基準とした値で代表値を規格化する。規格化した値は無次元量になるため、容易に取り扱うことができる。
【0018】
[適用例6]上記適用例にかかる吐出量ばらつき測定方法であって、前記吐出エネルギーと、規格化された前記代表値との関係を求めるステップをさらに備えることを特徴とする。
【0019】
上記した適用例によれば、吐出エネルギーと規格化された前記代表値との関係が得られる。そのため、吐出エネルギーに対する相対的な吐出量を、当該段階の間でも補間して把握することができる。
【0020】
[適用例7]上記適用例にかかる吐出量ばらつき測定方法であって、当該段階毎に前記複数のノズルの各々について、前記着弾面積を前記代表値で規格化するステップをさらに備えることを特徴とする液状体の吐出量ばらつき測定方法。
【0021】
上記した適用例によれば、着弾面積は基準とした値で規格化される。規格化された値は無次元量になるため、容易に取り扱うことができる。
【0022】
[適用例8]上記適用例にかかる吐出量ばらつき測定方法であって、当該段階毎に前記着弾面積を前記代表値で規格化した値と、規格化された前記代表値とのずれを、前記吐出エネルギーと、規格化された前記代表値との関係に基づいて、前記吐出エネルギーに換算して求めるステップをさらに備えることを特徴とする。
【0023】
上記した適用例によれば、吐出エネルギーと着弾面積との関係を元に、代表値とのずれを吐出エネルギーに換算して求めることができる。そのため、着弾面積のずれ分を、直接吐出エネルギーの補正量として換算できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)は、透明インクを吐出器から吐出する状態を示す断面図、(b)は、液状体を受容層に浸透させ、液状体が塗布された状態を示す断面図、(c)は、液状体が塗布された領域の面積を測定(観察)している状態を示す模式断面図。
【図2】吐出ヘッドの構成を示す断面図。
【図3】a)は、ノズルを備えた吐出ヘッドの模式平面図、(b)は、ノズルの数が180個ある吐出ヘッドを用いた場合の吐出パターンを示す模式平面図、(c)は、吐出電圧と、各々の水準における着弾面積の代表値を100%の吐出電圧に対応する代表値で規格化した着弾面積との関係を示す表、(d)は、吐出電圧と、着弾面積との関係を2次関数にフィッティングさせるデータを示す表、(e)は、吐出電圧と着弾面積との関係を示す点と、吐出電圧と着弾面積との関係を2次関数にフィッティングした後の関係とを示すグラフ。
【図4】ばらつきを求める手順を示すフローチャート。
【図5】フローチャートの各々のステップに対応する処置状態を示す平面図。
【図6】吐出電圧と規格化された着弾面積との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、液状体の吐出量を制御する制御信号として、複数の吐出量水準(本実施形態では5水準)に対する制御信号を用いた場合について説明する。
(液状体、液状体の吐出系、測定系)
【0026】
まず、液状体について説明する。液状体として、溶媒中に溶質として染料や顔料を溶解・分散させたものや、有機EL素子やカラーフィルターを形成するための溶質を含むもの等、多岐にわたるものを用いることができるが、ここでは有機EL素子の形成に用いられる透明な液状体(以下、透明インクとも称する)を例に取って説明する。
図1(a)は、透明インクを吐出器から吐出する状態を示す断面図、図1(b)は、液状体を受容層に浸透させ、液状体が塗布された状態を示す断面図、図1(c)は、液状体が塗布された領域の面積を測定(観察)している状態を示す模式断面図である。
【0027】
メディア100は、受容層101と支持膜102とを含む。受容層101は、例えば45μm程度の厚さを備えるセラミック等や、親液性の樹脂を含む透明な膜である。そして、受容層101は支持膜102として、例えば150μm程度の厚さを備えたPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂等により支えられている。
【0028】
透明インク140は、吐出器120中に収められ、例えば溶媒としてシクロヘキシルベンゼン(沸点240℃)中に溶質として固形物としてのポリビニルカルバゾールを溶解/分散させたものを用いている。シクロヘキシルベンゼンの沸点は240℃であり、吐出器120から吐出させる場合、またメディア100に吐出した後でも乾燥しにくく、かつ減圧加熱乾燥させた場合、速やかに乾燥する性質を備えている。また、溶媒として、1,4−ジメチルナフタレン(沸点263℃)も吐出器120から吐出させる場合、またメディア100に吐出した後でも乾燥しにくく、かつ減圧加熱乾燥させた場合、速やかに乾燥する性質を備えている。
ポリビニルカルバゾールは、発光層や、ホール輸送層として機能する物質である。なお、溶質としてはAlq3や、その他のものを目的に応じて使い分けることができる。また、溶媒としては、ブチルカルビトールアセテート(沸点247℃)等を用いても良い。
【0029】
溶媒の沸点は、200℃以上程度であれば良く、エチレングリコール(沸点197.3℃)等を用いても良い。そして、230℃以上であれば好適であり、観察精度をより高めることが可能となる。そして吐出器120は、透明インク140をメディア100に向けて液滴141として吐出する。吐出量は図示せぬ制御装置によって電気的に制御され、吐出量を変えることができる。メディア100は透明インク140を液滴141として受ける。この液滴141により、メディア100に着弾領域100aが形成される。
【0030】
着弾領域100aを形成した後、着弾領域100aの面積を測定する。図1(c)は、光源からの光をメディアの一方の面から透過させて、他方の面に備えられた撮像装置により塗布領域の射影を捉える測定装置の断面図である。測定装置160は、光源161、光学系162、撮像部163、情報処理部164、モニター165、を備える。
【0031】
光源161は、メディア100を透過させる光を射出する。光学系162は、光源161から発せられた光を整形する。そして、この光を分析対象(この場合にはメディア100)に射出し、透過させる。撮像部163は、分析対象(この場合にはメディア100)を通過した光を撮像する。情報処理部164は、撮像部163が得た光分布情報を処理し、例えば着弾領域100aの面積を抽出する。モニター165は、例えば、メディア100に形成された着弾領域100aを写す。
【0032】
(液滴吐出ヘッドの構成)
図2は、吐出ヘッドの構成を示す断面図である。図2に示すように、吐出ヘッド200は、ノズルプレート55を備え、ノズルプレート55は、ノズルNを備えている。ノズルNと相対する位置には、ノズルNに連通するキャビティ61が設けられている。
【0033】
キャビティ61は縦振動に振動して、キャビティ61内の容積を拡大縮小する振動板64と、上下方向に伸縮して振動板64を振動させる加圧部としての圧電素子63が配設されている。そして、吐出ヘッド200が圧電素子63を制御駆動するための吐出信号を受けると、圧電素子63が伸張して、振動板64がキャビティ61内の容積を縮小する。その結果、ノズルNから縮小した容積分の液状体が液滴141として吐出される。なお、本実施形態では、加圧手段として、縦振動型の圧電素子63を用いたが、特に、これに限定されず、例えば、下電極と圧電体層と上電極とを積層形成した撓み変形型の圧電素子を用いてもよい。また、圧力発生手段として、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズルから液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエーターなどを使用してもよい。さらには、発熱体を用いてノズル内に泡を発生させ、その泡によって液状体を液滴として吐出させる構成を有する吐出ヘッドであってもよい。以降の実施形態では、圧電素子を用いた例について説明している。この場合、圧電素子に加えた吐出電圧は吐出エネルギーとほぼ相関性を持っており、吐出電圧と吐出エネルギーとは略比例関係にある。
【0034】
(吐出制御信号と吐出量との関係)
以下、複数の吐出量水準に対する制御信号を用いた場合について説明する。吐出量水準数は任意の値を用いることができるが、本実施形態では、各水準間の変動比率を、吐出用の圧電素子に印加する電圧を1.5%刻みで変え、水準数を5水準(都合±3%)とした場合について説明する。ここでは、吐出用の圧電素子に印加する電圧を変えることで吐出量を変えているが、例えば気泡を形成し、その圧力で液状体を吐出する場合には、気泡形成用の電力を変える等、吐出量を制御する信号を変えることで本実施形態と同様に対応することができる。
【0035】
図3(a)は、ノズルを備えた吐出ヘッドの模式平面図、図3(b)は、ノズルの数が180個ある吐出ヘッドを用いた場合の吐出パターンを示す模式平面図、図3(c)は、吐出電圧と、各々の水準における着弾面積の代表値を100%の吐出電圧に対応する代表値で規格化した着弾面積との関係を示す表、図3(d)は、吐出電圧と、着弾面積との関係を2次関数にフィッティングさせるデータを示す表、図3(e)は、吐出電圧と着弾面積との関係を示す点と、吐出電圧と着弾面積との関係を2次関数にフィッティングした後の関係とを示すグラフである。
図3(a)に示す吐出ヘッド200は、例えば1インチ(2.54cm)当たり180個のピッチでノズルNを180個備えている。元データは、5(水準)×180(ノズルNの総数)×4(同じ条件で4回測定を行い、データの信頼性を向上させている)=3600個、と大きいデータとなるため、説明上不要な部分についてはデータの記載を省いている。
【0036】
ここで、ノズルNは、1インチ程度の幅に収まるように設けられていることから、メディア100に塗布された着弾領域100aも1インチ程度の幅に収まる。そのため、メディア100の表面状態は各ノズルNに対して、ほぼ同じ状態に保たれる。そのため、面積の比率は、液滴141の体積の比率に対して相関性を持った量となる。
【0037】
(ばらつきを求める手法)
次に、ばらつきを求める手法について説明する。図4は、ばらつきを求める手順を示すフローチャートである。図5は、各々のステップに対応する処置状態を示す平面図である。
【0038】
まず、ステップS1として吐出ヘッド200とメディア100とを相対的に移動させ、初期状態として定められた位置に配置する。ノズルNはメディア100で隠れるが、ここでは便宜上、黒丸で記載する。ノズルNからの吐出量は、100%を中心として段階的に変化させる。ここでは±1.5%刻みで±3%の計5水準を用いるものとする。ここで100%とは、例えば有機EL素子を形成する場合、最も頻繁に使われる吐出量を基準(100%)とすることが好適である。このステップが終了した状態を図5(a)に示す。
【0039】
次に、ステップS2として、吐出ヘッド200とメディア100とを相対的に移動させながら、複数(この場合では180個)のノズルNから、97.0%,98.5%,100.0%,101.5%,103.0%の吐出電圧(吐出エネルギー)で液滴141を吐出し、例えばメディア100に着弾させる(液状体を液滴として前記被吐出物に吐出するステップ)。
図5(a)ではノズルNが、メディア100の、100.0%の位置に差し掛かった状態を示し、同図(b)では、100.0%のエネルギーで液滴141が吐出された状態を示す。
図5(c)ではノズルNが、メディア100の、101.5%の位置に差し掛かった状態を示し、同図(b)では、101.5%のエネルギーで液滴141が吐出された状態を示す。
このようにノズルNと、メディア100との位置関係を走査させながら吐出を行う。
なお、「100.0%の位置」とは、たまたま100.0%のエネルギーで液滴141が着弾した場所であり、その位置を基準として97.0%,98.5%,100.0%,101.5%,103.0%が得られる領域を示している。即ち、面積測定用の起点にあたるものである。
【0040】
次に、ステップS3として、規定の水準数と吐出回数とを比較し、規定の水準数と同じ回数分吐出を行ったか否かを判断する。吐出回数の方が小さかった場合、ステップS3に戻る。そして、吐出回数と規定の水準数とが等しくなった場合、吐出を停止する。このステップをYesで抜けると、メディア100に、各水準に着弾領域100aが形成され、図3(b)に示すように配列されることとなる。
また、ステップS3の条件中に、少なくとも一つの水準に対して、再現性を確かめるため複数回略同じ吐出電圧で吐出させる判断を追加することも好適である。また、エネルギーの変え方を、乱数的に変えたりしても良い。なお、「略」とは、意図的に吐出エネルギーを変えない場合において発生する誤差成分や、同じと見なせる程度の吐出エネルギーの差を指すものとする。
【0041】
次に、ステップS4として、液滴141の吐出を受けて得られた着弾領域100aの面積を求める。着弾領域100aの面積を求めるには、溶媒が残っている状態や、溶媒を乾燥させた状態等、測定し易い状態で測定することができる。
【0042】
次に、ステップS5として、同じ吐出電圧で吐出することで得られた着弾面積を元に代表値を設定する。代表値の設定には、例えば各水準毎の着弾面積の平均値や、メジアン、モード、正規分布の頂点、ノズルNの一部(例えば端の10個)を除いて上述の処置をしたものを用いても良い。ここでは、平均値を用いた場合について説明する。平均値を用いることで、安定した(再現性が高い)代表値を得ることができる。
【0043】
次に、ステップS6として、各代表値のいずれかを選択し、選択した代表値で規格化する。具体的には、選択した代表値で各代表値の除算を行う。ここでは、100%の水準をもとに規格化を実行している。
【0044】
次に、ステップS7として、吐出電圧と規格化された着弾面積との関係を求める。例えば最小二乗法や、線形計画法、累乗近似法等を用いることができる。ここでは、最小二乗法を用いて、2次の項の係数まで求めている。
ここで、1次以上の係数を求めることで、ばらつき算出の精度を上げることができる。一般に、吐出電圧(吐出エネルギー)と、メディア100における着弾面積の絶対量との関係と比べ、吐出電圧の差分と着弾面積の差分との関係の方が再現精度が高い。そのため、一定の吐出電圧と着弾面積の絶対量との関係を元に着弾面積を算出する場合と比べ、吐出電圧の差分と着弾面積の差分との関係を調べる方が、高い相対精度で各ノズルN毎の着弾面積のばらつきを求めることができる。
【0045】
次に、ステップS8として、各々の水準における着弾面積を、当該代表値を用いて規格化する。具体的には、当該代表値を用いて当該水準における着弾面積の除算を行う。
【0046】
次に、ステップS9として、各々の水準における着弾面積を代表値で規格化した値と、当該代表値とのずれを、吐出エネルギーと、規格化された代表値との関係に基づいて求める。ここで、一例を挙げ、図面を用いてこのステップについて具体的に説明する。図6は、ステップS9で得られた吐出電圧と規格化された着弾面積との関係を示すグラフであり、図3(e)に示したグラフを拡大したものである。
例えば、本実施形態にかかる100%の吐出条件で、あるノズルNが着弾面積を代表値で101%の量を吐出している場合、吐出電圧換算では、100%に対して0.7%に対応する量を過剰吐出していることとなる。なお、ここではグラフを用いて説明したが、もちろんこれは数値処理により行うことができる。
【0047】
この後、ノズルN間の均一性を向上させる場合にはこの場合、0.7%分吐出電圧を下げることで、100%に引き戻す補正を行うことができる。
【0048】
本実施形態における液状体の吐出量ばらつき測定方法は以下の効果を奏する。
【0049】
比較的狭い面積のメディア100(例えば10cm×10cm程度)でばらつき測定が行える。そのため、メディア100に液滴を吐出して形成した標準試料を基準として用いる場合と比べ、メディア100の表面状態を揃えた状態で液滴141を吐出することができる。そのため、着弾面積の相対的な精度を、標準試料を基準として用いる場合と比べ、高くすることができる。
【0050】
少なくとも一つの当該段階で略同じ吐出エネルギーで吐出を行うことで、複数のノズルNに対して吐出量再現性を調べることが可能となる。
【0051】
ノズルN数分の値ではなく、各段階において代表値を求めることで扱う数値の数を削減でき、数値処理を簡便化することができる。
【0052】
吐出エネルギーと着弾面積との関係を元に、代表値とのずれを吐出エネルギーに換算して求めるため、着弾面積のずれ分を、直接吐出エネルギーの補正量として換算できる。
【0053】
溶媒としてシクロヘキシルベンゼン(沸点240℃)や1,4−ジメチルナフタレン (沸点263℃)を用いた場合、大気雰囲気中での乾燥が遅いため、多数の測定点(例えば3600個)を測定する時間の間、着弾領域100aの形状を保ち続けることができることから乾燥による着弾面積の変動を受けにくいため、変動要因の少ない測定を行うことができる。
【0054】
複数のノズルNに対して、例えば一つおきのノズルNから吐出を行うことで、隣り合うノズルNからの干渉(クロストーク)による影響を避けてばらつきを検出することができる。
【0055】
代表値として各水準毎の着弾面積の平均値を用いることで、安定した(再現性が高い)代表値を得ることができる。
【0056】
メディア100における着弾面積の絶対量との関係と比べ、吐出電圧の差分と着弾面積の差分との関係の方が高い再現精度を持つ。そのため、一定の吐出電圧と着弾面積の絶対量との関係を元に着弾面積を算出する場合と比べ、吐出電圧の差分と着弾面積の差分との関係を調べる方が、高い相対精度でノズルN毎の着弾面積のばらつきを求めることができる。
【0057】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、上述した実施形態に種々の変更や改良等を加えることが可能である。変形例を以下に示す。
[変形例1]
図3(c)を引用して説明する。
ここでは、吐出エネルギーを等間隔に振り、中央の値(100%)を代表値の基準として測定条件を設定したが、これは等間隔に限定されることなく、例えば中央付近では細かい刻みで、中央から離れた位置では、中央付近よりも荒い刻みで設定しても良い。また、中央の代表値以外を代表値の基準としても良い(例えば101.5%を代表値の基準としても良い)。
【符号の説明】
【0058】
N…ノズル、55…ノズルプレート、61…キャビティ、63…圧電素子、64…振動板、100…メディア、100a…着弾領域、101…受容層、102…支持膜、120…吐出器、140…透明インク、141…液滴、160…測定装置、161…光源、162…光学系、163…撮像部、164…情報処理部、165…モニター、200…吐出ヘッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々加圧部を備える複数のノズルと被吐出物とを相対的に移動させる走査ステップと、
前記走査ステップ中に吐出エネルギーを段階的に変化させて前記加圧部に与え、前記複数のノズルから液状体を液滴として前記被吐出物に吐出するステップと、
前記被吐出物に着弾した前記液滴の着弾面積を求めるステップと、
を含むことを特徴とする液状体の吐出量ばらつき測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の液状体の吐出量ばらつき測定方法であって、前記複数のノズルのうち、隣り合うノズルは前記液滴の吐出を止めておくことを特徴とする液状体の吐出量ばらつき測定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液状体の吐出量ばらつき測定方法であって、少なくとも一つの当該段階と略同じ吐出エネルギーで前記複数のノズルから液状体を液滴として前記被吐出物に吐出することを特徴とする液状体の吐出量ばらつき測定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の液状体の吐出量ばらつき測定方法であって、前記着弾面積の代表値を、当該段階毎に求めるステップをさらに備えることを特徴とする液状体の吐出量ばらつき測定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の液状体の吐出量ばらつき測定方法であって、前記代表値のいずれかを基準として、当該段階毎に求められた前記代表値を規格化するステップをさらに備えることを特徴とする液状体の吐出量ばらつき測定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の液状体の吐出量ばらつき測定方法であって、前記吐出エネルギーと、規格化された前記代表値との関係を求めるステップをさらに備えることを特徴とする液状体の吐出量ばらつき測定方法。
【請求項7】
請求項6に記載の液状体の吐出量ばらつき測定方法であって、当該段階毎に前記複数のノズルの各々について、前記着弾面積を前記代表値で規格化するステップをさらに備えることを特徴とする液状体の吐出量ばらつき測定方法。
【請求項8】
請求項7に記載の液状体の吐出量ばらつき測定方法であって、当該段階毎に前記着弾面積を前記代表値で規格化した値と、規格化された前記代表値とのずれを、前記吐出エネルギーと、規格化された前記代表値との関係に基づいて、前記吐出エネルギーに換算して求めるステップをさらに備えることを特徴とする液状体の吐出量ばらつき測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−187500(P2012−187500A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52617(P2011−52617)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】