説明

液状物質を処理する噴気式超音波照射装置及びシステム

【課題】超音波(周波数20kHz以上)の発振が可能な条件で噴気量を可及的に増大させて発振エネルギーの大きい噴気式超音波照射装置の構築を可能にすると共に、発振された超音波を液状物質に効果的に作用させ得る超音波照射装置及びシステムを創出する。
【解決手段】高圧ガスを同心円ノズルから噴出せしめると共に該ノズルの出口に対面して同心円状の共鳴溝を設けて超音波を発振させるので、超音波発生の必須条件である狭いノズル幅でも、同心円径を増やすことにより周波数に影響なく噴気量即ち発振エネルギーを増大できる。又、同心円ノズルの出口近傍の細孔から液状物質を供給してガスの高速気流で液滴粒子を微細化し比表面積を増やして超音波を照射すると共に、超音波と液滴粒子を反射板で軸方向に集約するなど、液状物質に超音波を効果的に作用せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油水エマルジョン製造や廃水処理などのプロセスにおいて、液状物質を処理する噴気式超音波照射装置及びシステムに係わる。
【背景技術】
【0002】
近年油水エマルジョンの優れた燃焼性能が注目されているが、長時間安定したエマルジョンを維持するために界面活性剤の添加や撹拌操作に加えて超音波の強い分散乳化作用を利用する目的で20kHz程度の低周波領域の超音波が照射される(例えば、特許文献1参照)。また、有機廃水のメタン化前処理においても汚泥粒子の可溶化目的で超音波の破砕作用を利用するなど、液状物質の処理では多分野で低周波領域の超音波が利用されている。しかし一般の超音波発振装置に使用されている圧電型や磁歪型の振動子は、いずれも高周波領域の発振には適しているが出力が小さいので実装置では多数の振動子を設ける必要があり、また振幅を増幅するホーンの接液部にキャビテーションエロージョンの対策を必要とするなど、実施上の課題が多い(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
一方、高速気流を利用する発振法としては、図2に示すように、圧縮空気1が供給されるノズル23の出口24に対面してノズル口径とほぼ同径の円筒型共鳴孔25を設け、ノズルから噴射される高速気流を共鳴孔25に衝突させることによって超音波を発振する噴気式超音波発振器がある。この方法はハルトマン法として周知であり、共鳴孔の深さをL,直径をdとすると、発生する音波の波長λは、噴気圧力やノズルから共鳴孔面までの距離Xに若干影響されるが、ほぼλ≒4(L+0.3d)となることが実験的に確認されている。即ち、空気中の音速を340m/sとすれば発振する音波の周波数N≒85/(L+0.3d)となるので、仮にL=d=3mmに設定すればN≒22kHzとなり、周波数20kHz程度の低周波領域の超音波を発振することができる(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
この噴気式超音波発振器は構成が簡単であり、特に場内で圧縮空気や高圧水蒸気を利用できる場合には有利と看做される。しかし上記の説明で明らかなように、本法によって周波数20kHz以上の超音波を発生させる為には共鳴条件として共鳴孔の孔径と深さLを極端に小さくする必要がある。従ってノズルの口径dも5mm程度以下に制限されるので噴気量が少なくなり、即ち発生する超音波エネルギーが小さいので単機の大容量化は極めて困難である。
【0005】
【特許文献1】特開2006−28215
【非特許文献1】日刊工業新聞社発行・飯田康夫著「ソノプロセスのはなし」、など
【非特許文献2】小林理研ニュースNo.33.2及びNo.34.2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上に鑑み本発明は、油水エマルジョンや廃水などの液状物質を噴気式超音波発振装置で処理することを目的として、超音波(周波数20kHz以上)の発振が可能な条件で噴気量を可及的に増大させて発振エネルギーの大きい噴気式超音波発振装置の構築を可能にすると共に、発振され超音波を液状物質に効果的に作用させ得る噴気式超音波照射装置及びシステムの創出を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、圧縮空気や水蒸気などの高圧ガスを同心円ノズルから噴出せしめると共に、該ノズルの出口に対面して同心円状の共鳴溝を設けて超音波を発振せしめることを特徴とする、噴気式超音波照射装置である。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の噴気式超音波照射装置において、同心円ノズルの外側に円錐台状の反射板を固定し、ノズルの半径方向に放射された超音波を軸方向に屈折せしめることを特徴としている。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の噴気式超音波照射装置において、同心円ノズルの出口近傍の内筒に多数の細孔を設け、液状物質を内筒から供給して該細孔群から噴出する液滴粒子に超音波を照射せしめることを特徴としている。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、上端部にベントを設けたタンクの上部に請求項3に記載の噴気式超音波照射装置を懸垂せしめ、タンク内に浮遊する液滴粒子に超音波を照射せしめることを特徴としている。
【0011】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のシステムにおいて、タンクをカスケード状に連結して超音波照射処理を繰り返すことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、20kHz以上の超音波の発振条件を満たすために共鳴溝の幅すなわち噴気ノズルの幅を狭くしても、内筒の外径を増やすことによって噴気ノズルの出口面積を増やせるので、発振する超音波周波数に影響することなく噴気量を増加せしめて超音波エネルギーを大きくすることができる効果がある。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、ノズルの半径方向に放射さた超音波を反射板によって軸方向に集約できるので、発振された超音波の利用効率を高める効果がある。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、ノズル出口近傍の細孔群から噴出する液状物質はノズル出口からの高速噴流による吸引とせん断作用で微細化され、液滴が微粒子となって比表面積が増大するので、液滴に対する超音波の照射効果が向上する効果がある。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、請求項2の作用と相俟って液滴と超音波がタンク内にコンパクトに集約され、液滴がタンク内を浮遊して空中に滞留する間に比表面積の大きい液滴微粒子が効果的に超音波を吸収する効果がある。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、特に有機廃水のメタン化前処理などにおいて、液滴が浮遊した状態で超音波照射が繰り返えされることによって水中の汚泥粒子の外殻が破砕され易くなり、一般に困難とされている可溶化処理が可能となるなどの効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。図1は本発明の噴気式超音波照射装置の実施例の断面図、図2は従来の噴気式超音波発振器の説明図、図3は本発明の噴気式超音波照射システムの実施例概念図、をそれぞれ示す。
【0018】
図2に示す従来の噴気式超音波発振器は、高圧ガス1をノズル23に供給しノズル出口24から噴射された高速気流を対面する円筒型共鳴孔25に衝突させることによって音波を発振するものであるが、前記のように、発生する周波数はほぼ共鳴孔の深さLと孔径(≒ノズル口径d)で定まり、20kHz以上の超音波を発信するためにはdを5mm程度以下に設定する必要があるので、ガスの噴気量が制限され大容量化が困難であった。
【0019】
これに対して図1に示す本発明の噴気式超音波照射装置では、高圧ガス1はガス導管2を経てノズル内筒6とノズル外筒7で囲まれたガス室3に供給され、ノズル出口4から噴出するが、ノズル出口4を内筒6の外周円と隙間d’を隔てた同心円との二円で形成せしめると共に、ノズル出口4に対面して深さL’の同心円状の共鳴溝5を設けている。共鳴溝5はノズル出口4から噴射される高速気流を洩れなく受容れて共鳴させるもので、幅はノズル出口4の幅d’と同等または若干大きく設定される。以上において、同心円状の共鳴溝5の幅は図2の円筒型共鳴溝25の直径と等価の機能を有するものであるから、周波数は共鳴溝5の深さL’と溝幅(≒d’)を適宜選定することによって任意に設定することができる。一方、ガスの噴気量については、ノズル内筒6の外径をDとするとノズル出口4の開口面積=πDd’となるので、Dの選定によって必要な開口面積すなわち必要な噴気量を任意に設定できるので、大容量化が可能となる。
【0020】
さらに、ノズル出口4の近傍で内筒6に細孔11を放射状に多数設け、液状物質導管9から内筒6内の液室10を経て細孔11に液状物質8を供給すると、液室10内の圧力で押し出された液状物質8は、ノズル出口4から噴出した高圧ガス1の高速噴流による負圧とせん断作用で微細化され、液滴が微粒子となって比表面積が増大し、液滴に対する超音波の照射効果が向上する。また、ノズル外筒7に円錐台状の反射板13を固定することによって、ノズルの半径方向に放射された超音波12と液滴14は図示のようにノズルの軸方向に屈折して集約され、超音波効果が液滴に有効に作用する。以上のように、本発明によれば大型化が可能であるのみならず、噴流による超音波の発振と液状物質の微細化と超音波の効果的照射とを単一装置で同時に且つ相互補完的に行うことができる。
【0021】
図3に示す噴気式超音波照射システム例では、前記の噴気式超音波照射装置を、ベント19を上端に設けたタンク15の上部に懸垂せしめて、タンク15内に浮遊する液滝14に超音波12を照射するように構成されているので、照射装置がコンパクト化され、且つ液滴14は液面16に達するまで微粒子として空中に滞留して超音波12を照射されるので、効果的に超音波を吸収できる。
【0022】
特に、有機廃水汚泥の可溶化で水中の汚泥粒子の外殻破砕が困難な場合などのように長時間の照射処理を必要とし、タンク15内の空中滞留時間以内では十分な超音波処理ができない場合は、図3に示すように、タンク15,15’をポンプ17を介してカスケード状に連結し、繰り返し処理を行って処理液18を回収すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】 本発明の噴気式超音波照射装置の実施例の断面図
【図2】 従来の噴気式超音波発振器の説明図
【図3】 本発明の噴気式超音波照射システムの実施例概念図
【符号の説明】
【0024】
1 高圧ガス
2 ガス導管
3 ガス室
4 ノズル出口
5 共鳴溝
6 ノズル内筒
7 ノズル外筒
8 液状物質
9 液状物質導管
10 液室
11 細孔
12 超音波
13 反射板
14 液滴
15、15’ タンク
16 液面
17 ポンプ
18 処理液
19 ベント
23 ノズル
24 ノズル出口
25 共鳴孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮空気や水蒸気などの高圧ガスを同心円ノズルから噴出せしめると共に、該ノズルの出口に対面して同心円状の共鳴溝を設けて超音波を発振せしめることを特徴とする、噴気式超音波照射装置。
【請求項2】
前記同心円ノズルの外筒に円錐台状の反射板を固定し、ノズルの半径方向に放射された超音波を軸方向に屈折せしめることを特徴とする、請求項1に記載の噴気式超音波照射装置。
【請求項3】
前記同心円ノズルの出口近傍の内筒に多数の細孔を設け、液状物質を内筒から供給して該細孔群から噴出する液滴粒子に超音波を照射せしめることを特徴とする、請求項2に記載の噴気式超音波照射装置。
【請求項4】
上端部にベントを設けたタンクの上部に請求項3に記載の噴気式超音波照射装置を懸垂せしめ、タンク内に浮遊する液滴粒子に超音波を照射せしめることを特徴とする、噴気式超音波照射システム。
【請求項5】
前記タンクをカスケード状に連結して超音波照射処理を繰り返すことを特徴とする、請求項4に記載の噴気式超音波照射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−22941(P2009−22941A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211959(P2007−211959)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(599046379)中央機工株式会社 (2)
【出願人】(593001288)株式会社ユーロテック (2)
【Fターム(参考)】