説明

液状食品の処理方法

【課題】超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素を使用した液状食品の処理方法について、二酸化炭素の臨界圧力を少し超える程度の比較的小さな圧力により、液状食品中の混在物に二酸化炭素を効率良く浸透させることができるようにする。
【解決手段】細孔部15aを有する細孔ライナー部材15と、大きな径の孔部16aを複数設けた多孔ライナー部材16とを、交互に重ね合わせることで、細孔部15aと複数の孔部16aとを連通する流路を形成して、該流路での液状食品の流れを、細孔部15aで流速を上昇させ、複数の孔部16aで流速を低下させ、細孔部15aと複数の孔部16aとの接続部分で撹拌させるようにし、そのような流速の変化と撹拌を複数回繰り返すことで、液状食品中の混在物に二酸化炭素を浸透させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料などの液状食品に対して殺菌等の処理を施すための方法に関し、特に、液状食品中に混入している細菌や酵母等の混在物に、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素を浸透させた後、減圧することにより二酸化炭素を急激に気化させて、混在物の細胞膜などを破壊するような液状食品の処理方法において、液状食品中の混在物に二酸化炭素を効率良く浸透させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液化炭酸ガスは、温度が31.1℃以上で圧力が7.38MPa以上になると、超臨界状態の二酸化炭素になって、細胞や粒子内への浸透が可能なものとなる。そこで、果汁,生酒等の飲料や醤油,ソース等の調味料のような液状食品に対して、その中に混入している細菌や酵母等の混在物を殺菌したり不活性化したりするために、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素を液状食品中の混在物に浸透させてから、液状食品を減圧して二酸化炭素を急激に気化させることで、混在物の細胞膜や隔壁を破壊して混在物を殺菌したり不活性化する、というような液状食品の処理方法が従来から提案されている。
【0003】
すなわち、本出願人の出願に係る下記の特許文献には、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素と液状食品とを高圧下で衝突させて混合させ、さらに、二酸化炭素が混合された液状食品を二分割して再度衝突させることで、液状食品中の混在物に二酸化炭素を浸透させた後、液状食品を減圧して二酸化炭素を急激に気化させることで、混在物の細胞膜や隔壁を破壊して混在物を殺菌したり不活性化する、ということが開示されている。
【特許文献1】特開2003−199544号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような従来公知の液状食品の処理方法によれば、レトルト殺菌のように高温で長時間に亘って液状食品を処理する必要が無いため、液状食品の風味や栄養分を残存させることができるという利点があるものの、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素を液状食品中の混在物に浸透させるためには、二酸化炭素と液状食品を衝突させる際に100MPa程の高圧を発生させるポンプが二基必要となることから、処理装置が大掛かりなものとなって設備費用や稼動費用のコストアップを招くこととなる。
【0005】
本発明は、上記のような問題の解消を課題とするものであり、具体的には、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素を使用した液状食品の処理方法について、二酸化炭素の臨界圧力を少し超える程度の比較的小さな圧力により、液状食品中の混在物に二酸化炭素を効率良く浸透させることができるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するために、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素を、液状食品と混合して液状食品中の混在物に浸透させた後、減圧することで二酸化炭素を急激に気化させるような液状食品の処理方法において、二酸化炭素が混合された液状食品を通過させる流路として、細孔部を有する細孔ライナー部材と、該細孔部よりも大きな径の孔部を一つの細孔部に対して複数設けた多孔ライナー部材とを、交互に重ね合わせることで、細孔ライナー部材の細孔部と多孔ライナー部材の複数の孔部とを連通する流路を形成して、該流路での液状食品の流れを、細孔ライナー部材の細孔部で流速を上昇させ、多孔ライナー部材の複数の孔部で流速を低下させ、両方のライナー部材の細孔部と複数の孔部とを接続する部分で撹拌させるようにし、そのような流速の変化と撹拌を複数回繰り返すことで、液状食品中の混在物に二酸化炭素を浸透させるようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
上記のような本発明の液状食品の処理方法によれば、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素を液状食品に混合してから、細孔ライナー部材と多孔ライナー部材とを交互に重ね合わせることで形成された流路を通過させることにより、二酸化炭素が混合された液状食品の流れに対して、流速の変化と撹拌が複数回繰り返されることから、二酸化炭素の臨界圧力を少し超える程度の圧力により液状食品を流すだけで、液状食品中の混在物(細菌や酵母等)に二酸化炭素を充分に浸透させることができて、液状食品を効率良く確実に処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素を使用した液状食品の処理方法について、二酸化炭素の臨界圧力を少し超える程度の比較的小さな圧力により、液状食品中の混在物に二酸化炭素を効率良く浸透させることができるようにするという目的を、最良の形態として以下の実施例に具体的に示すように、二酸化炭素が混合された液状食品を通過させる流路として、細孔部を有する細孔ライナー部材と、該細孔部よりも大きな径の孔部を一つの細孔部に対して複数設けた多孔ライナー部材とを、交互に重ね合わせることで、細孔ライナー部材の細孔部と多孔ライナー部材の複数の孔部とを連通する流路を形成して、該流路での液状食品の流れを、細孔ライナー部材の細孔部で流速を上昇させ、多孔ライナー部材の複数の孔部で流速を低下させ、両方のライナー部材の細孔部と複数の孔部とを接続する部分で撹拌させるようにし、そのような流速の変化と撹拌を複数回繰り返すことで、液状食品中の混在物に二酸化炭素を浸透させる、ということで実現した。
【実施例】
【0009】
本発明の液状食品の処理方法の一実施例について以下に説明すると、本実施例では、図1に示すように、先ず、タンク1に貯留された液状食品を、直径約6mmの管内を通して、ヒーター2で加温しながら、送出圧力が10〜20MPaであるポンプ3を使用して、約100ml/minの流量でタンク1から流出させ、同時に、ボンベ4から供給される液化炭酸ガスを、直径約6mmの管内を通して、送出圧力が10〜20MPaであるポンプ5を使用し、約100ml/minの流量でボンベ4から流出させる。
【0010】
そして、ポンプ3,5の下流側で、加温された液状食品と液化炭酸ガスを合流させて、直径約6mmの管内で混合させると共に、その混合物の温度と圧力を、二酸化炭素の超臨界温度と超臨界圧力である31.1℃以上で7.38MPa以上として、液状食品に混合された液化炭酸ガスを、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素に変質させてから、この超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素が混合された液状食品を、直径約6mmの管内を通して、約0.059m/secの流速でミキサー6に供給する。
【0011】
超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素が混合された液状食品は、ミキサー6の内部を通過させることで、液状食品中の混在物(細菌や酵母等)に二酸化炭素を充分に浸透させてから、コイル状に管が巻かれた反応コイル7の部分により長く管内を通すようにしてミキサー6から保持槽8に供給し、更に、二酸化炭素の超臨界状態又は亜臨界状態を保つように加圧・加温された保持槽8の内部で約15分間ほど保持してから、開閉弁9を通して処理槽10の内部に送り込み、この処理槽10で急速に大気圧に戻している。
【0012】
そのように超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素が混合された液状食品が、処理槽10で急速に大気圧に戻されることにより、液状食品中の二酸化炭素は、超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素から気体状態の二酸化炭素に爆発的に変質して膨張する。その際、液状食品の混在物(細菌や酵母等)に浸透していた二酸化炭素も、気体状態の二酸化炭素に爆発的に変質して膨張するため、細菌や酵母等の混在物は、その細胞膜や隔壁が破壊されて、殺菌され不活性化されることとなる。
【0013】
この点について、具体的に、本実施例では、細菌として、Lactobacillus homohiochii (火落菌)を液状食品中に添加して効果の実証試験を行ったところ、液状食品中に添加した細菌を略完全に殺菌することができ、さらに、Saccharomyces cerevisiae(パン酵母)を液状食品中に添加して効果の実証試験を行ったところ、同様に、液状食品中に添加した酵母を略完全に不活性化することができた。
【0014】
ところで、上記のような液状食品の処理方法において、液状食品中の混在物(細菌や酵母等)に二酸化炭素(超臨界状態又は亜臨界状態)を浸透させるためのミキサー6については、本実施例では、フィルターでバブリングして処理するタイプの装置ではなく、一つの細孔部を設けた細孔ライナー部材と複数の孔部を設けた多孔ライナー部材とを交互に重ね合わせることで流路が形成された静止型の混合器を使用しており、このミキサー6の内部の流路を液状食品が通過することで、液状食品の流れのせん断と乱流の効果により、液状食品と二酸化炭素との混合を積極的に促進させて、液状食品中の混在物(細菌や酵母等)に二酸化炭素を充分に浸透させるようにしている。
【0015】
本実施例の方法で使用されるミキサー6は、具体的には、図2に示すように、有底円筒状のハウジング11と、ハウジング4の上端開口を閉鎖するプラグ12と、ミキサー6の入口側と出口側に配置される各パッキング13,14と、ハウジング11の筒内で各パッキング13,14の間に設けられる複数(図示したものではそれぞれ5個ずつ)の細孔ライナー部材15と多孔ライナー部材16とからなるもので、プラグ12は、パッキング13を介装させた状態で、ハウジング11に着脱可能に螺着されている。
【0016】
ミキサー6の有底円筒状のハウジング11には、その底部の中央に直径約2mmの円筒形の出口孔11aが形成されており、また、ハウジング4を閉鎖するプラグ12には、その中央に直径約2mmの円筒形の入口孔12aが形成されていて、ミキサー6の入口側と出口側に配置される各パッキング13,14には、それぞれ出口孔11a又は入口孔12aと合致するような孔部13a,14aが貫通されている。
【0017】
ハウジング11の内部に設けられるそれぞれ複数(それぞれ5個ずつ)の細孔ライナー部材15と多孔ライナー部材16とは、交互に重ね合わされた状態でハウジング11の内部に収納されていて、細孔ライナー部材15には、図3(A),(B)に示すように、直径約0.3mmの円筒形の細孔部15aの両側にそれぞれ円錐台状通路15bを設けた一つの流路が形成され、また、多孔ライナー部材16には、図4(A),(B)に示すように、直径約1mmの円筒形の孔部16aの両側にそれぞれ円錐台状通路16bを設けた四つの流路が形成されていて、それぞれの円錐台状通路15b,16bは、何れも、細孔部15aや孔部16aから外側に拡径して、その外端(最大径の部分)での直径が約2mmとなるように形成されている。
【0018】
多孔ライナー部材16の四つの流路(孔部16aと円錐台状通路16b)は、多孔ライナー部材16の軸心の周りに等間隔に形成されており、細孔ライナー部材15と多孔ライナー部材16とを重ね合わせた状態では、図5に示すように、細孔ライナー部材15の一つの円錐台状通路15bは、多孔ライナー部材16の四つの円錐台状通路16bに対して、均等に分割された状態で、それぞれ図中に斜線で示したような凸レンズ形状(円錐台状通路15bの外周円の約1/4の円弧と、円錐台状通路16bの外周円の約1/4の円弧とで囲まれた部分)のスリットによって接続されることとなる。
【0019】
上記のように細孔ライナー部材15と多孔ライナー部材16とを重ね合わせることで流路が形成された本実施例のミキサー6によれば、入口孔12aから出口孔11aに向けてミキサー6内の流路を通過する液状食品の流れは、細孔ライナー部材15の細孔部15aで流速が上昇し、多孔ライナー部材16の複数の孔部16aで流速が低下して、スリットで連通された円錐台状通路15b,16bの部分で撹拌されることとなり、そのような流速の変化と撹拌が複数回(本実施例では5回)繰り返されることとなる。
【0020】
具体的には、本実施例では、ミキサー6に供給された液状食品(超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素が混合された液状食品)は、直径約2mmのプラグ12の入口孔12aとパッキング13の孔部13aを通過して細孔ライナー部材15の流路に入ってから、直径約0.3mmの細孔部15aでは流速が約400倍に増速して、約23.59m/secとなり、この増速による加速度により二酸化炭素が液状食品の混在物(細菌や酵母等)に浸透して吸収される。
【0021】
次いで、細孔ライナー部材15の細孔部15aを通った液状食品は、凸レンズ形状のスリットにより連通された細孔ライナー部材15と多孔ライナー部材16のそれぞれの円錐台状通路15b,16bで減速しながら撹拌されて、この撹拌により二酸化炭素が更に液状食品の混在物(細菌や酵母等)に浸透して吸収される。
【0022】
次いで、多孔ライナー部材16の四つの流路のそれぞれの円錐台状通路16bで撹拌された液状食品は、多孔ライナー部材16の四つの孔部16aを通過するが、それぞれの孔部16aは直径約1mmであり、しかも、孔部16aは四つあるため、多孔ライナー部材16のそれぞれの孔部16aを通過するときの液状食品の流速は、細孔ライナー部材15の細孔部15aを通過するときの流速の約1/44〜1/45に低下して、約0.53m/secとなり、この急減速によるマイナス加速度により二酸化炭素が更に液状食品の混在物(細菌や酵母等)に浸透して吸収される。
【0023】
上記のように二酸化炭素が混合された液状食品をミキサー6内の流路に流すような本実施例の液状食品の処理方法によれば、二酸化炭素の臨界圧力を少し超える程度の圧力により液状食品をミキサー6に供給してミキサー6内の流路を通過させるだけで、液状食品中の混在物(細菌や酵母等)に二酸化炭素(超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素)を充分に浸透させることができて、液状食品を効率良く確実に処理することができる。
【0024】
以上、本発明の液状食品の処理方法の一実施例について説明したが、本発明の方法は、上記のような具体的な実施例にのみ限定されるものではなく、例えば、細孔ライナー部材と多孔ライナー部材の流路の具体的な構造については、実施例に示したもの(一つの細孔部と四つの孔部の組み合わせ)に限られるものではなく、また、重ね合わせる細孔ライナー部材と多孔ライナー部材のそれぞれの個数についても、実施例に示したもの(5個ずつ)に限られるものではない等、適宜に変更可能なものであることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の方法を実施するための装置全体を概略的に示す説明図。
【図2】図1に示した装置のうちのミキサーの部分の内部構造を示す縦断面図。
【図3】図2に示したミキサーの構成部材の一つである細孔ライナー部材について、(A)上方から見た平面図、および、(B)ライナー部材の軸心に沿った縦断面図。
【図4】図2に示したミキサーの構成部材の一つである多孔ライナー部材について、(A)上方から見た平面図、および、(B)ライナー部材の軸心に沿った縦断面図。
【図5】図3に示した細孔ライナー部材と図4に示した多孔ライナー部材とを重ね合わせたときのそれぞれの流路の接続状態を示す平面説明図。
【符号の説明】
【0026】
1 (液状食品の)タンク
2 ヒーター
3 ポンプ
4 (液化炭酸ガスの)ボンベ
5 ポンプ
6 ミキサー
8 保持槽
10 処理槽
15 細孔ライナー部材
15a (細孔ライナー部材の)細孔部
16 多孔ライナー部材
16a (多孔ライナー部材の)孔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素を、液状食品と混合して液状食品中の混在物に浸透させた後、減圧することで二酸化炭素を急激に気化させるような液状食品の処理方法において、二酸化炭素が混合された液状食品を通過させる流路として、細孔部を有する細孔ライナー部材と、該細孔部よりも大きな径の孔部を一つの細孔部に対して複数設けた多孔ライナー部材とを、交互に重ね合わせることで、細孔ライナー部材の細孔部と多孔ライナー部材の複数の孔部とを連通する流路を形成して、該流路での液状食品の流れを、細孔ライナー部材の細孔部で流速を上昇させ、多孔ライナー部材の複数の孔部で流速を低下させ、両方のライナー部材の細孔部と複数の孔部とを接続する部分で撹拌させるようにし、そのような流速の変化と撹拌を複数回繰り返すことで、液状食品中の混在物に二酸化炭素を浸透させるようにしたことを特徴とする液状食品の処理方法。
【請求項2】
細孔ライナー部材には、細孔部の両側にそれぞれ円錐台状通路を設けた一つの流路を形成し、多孔ライナー部材には、細孔部の約3倍の直径を有する孔部の両側にそれぞれ円錐台状通路を設けた四つの流路を形成して、細孔ライナー部材の一つの円錐台状通路を、多孔ライナー部材の四つの円錐台状通路に分割して接続させることで、多孔ライナー部材の複数の孔部を通過するときの液状食品の流速を、細孔ライナー部材の細孔部を通過するときの流速の約1/44〜1/45に低下させ、両方のライナー部材の円錐台状通路で液状食品が撹拌されるようにし、そのような流速の変化と撹拌を少なくとも四回以上繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の液状食品の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−228680(P2008−228680A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75147(P2007−75147)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【Fターム(参考)】