説明

液相レーザーアブレーション方法及び装置

【課題】装置を構成する光学部品等に液体が付着せず、光学部品の汚損損傷が少なく、長期にわたってレーザーアブレーション操作を連続的に安定的して継続できる液相レーザーアブレーション装置及び方法を提供する。
【解決手段】被微細化成分を配置した液体を貯留する容器と、上記液体を介して上記被微細化成分に照射するレーザー光を発振するためのレーザー発振装置と、上記液体の液面に対するレーザー光の入射角度を変更自在に構成した反射ミラーと、上記レーザー発振装置から発振されたレーザー光を集光する集光レンズと、上記容器の上面を覆う蓋体と、上記蓋体又は上記容器の側面で上記液体の液面上方に設けられたレーザー光導入口とを備えたことを特徴とする液相レーザーアブレーション装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液相中でパルスレーザー光を用いて被微細化成分のアブレーションを行って粒径がナノメートルオーダーの微細な粒子を生成する液相レーザーアブレーション方法および装置に係り、特に装置を構成する光学部品等に液体が付着せず、光学部品の消耗損傷が少なく、長期にわたってレーザーアブレーション操作を連続的に安定的して継続できる液相レーザーアブレーション方法及び液相レーザーアブレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種粉末の成形体にパルスレーザー光を照射して、微細化成分として放出された粒径がナノメートルオーダーの微細粒子を生成する方法は、従来は主として真空容器中などの減圧条件下の気相中で実施されてきた。
【0003】
上記気相レーザーアブレーション方法に対して、
a)ナノ粒子の飛散が少なく、生成したナノ粒子を全て製品として利用できる点、
b)高価な真空装置が不要であり、装置構成が簡素で設備費が安価である点、
c)生成したナノ粒子の粒度分布がシャープであり、粒径のばらつきが少ない点、
d)生成したナノ粒子が外気に接触しないために、不純物の混入が無く、高純度のナノ粒子が得られる点、
e)生成したナノ粒子が気相中よりも凝集しにくく、ナノ粒子が液相中に均一に分散した状態で取り出すことができ、ナノ粒子の濃度の調整も容易である点、
等の理由で、液相中でアブレーション操作を行う液相レーザーアブレーション方法の研究が鋭意進められている。
【0004】
図8は、特開2004−90081号公報(特許文献1)に開示された従来の液相レーザーアブレーション装置の構成例を示している。レーザー発振装置21から発振されたレーザー光Lは反射ミラー22で液体24方向に反射され、液体面に垂直に入射される。すなわち、上記特許文献1には、上記液相レーザーアブレーション装置において、容器(セル)11中の液体24に浸漬されて被微細化成分を含有するターゲット32の表面に、集光レンズ23により集束されたレーザー光Lを上方より照射して、ターゲット32を構成する例えば金属や酸化物などのナノ粒子を生成する方法が開示されている。
【0005】
また図7は、特開2006−122845号公報(特許文献2)に開示された従来の他の液相レーザーブレーション装置の構成例を示している。すなわち、上記特許文献2には液相レーザーブレーション装置において、液体24を満たしたガラス製の容器11の側壁に貫通口16を設け、この貫通口16にレーザー光導入窓(窓体)14が嵌め込まれている。容器11内の液体24中に浸漬されているターゲット32の表面にレーザー光の焦点が形成されるように、レーザー発振装置21から水平方向に発振されたレーザー光Lを集光レンズ23により集束させた後に、レーザー光導入窓14を経由して水平方向にレーザー光を照射して、ターゲット32成分を原子、分子、イオン又はクラスター状の微細化粒子として生成する液相レーザーアブレーション装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−090081号公報
【特許文献2】特開2006−122845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載された従来の液相レーザーアブレーション装置においては、レーザー光が液面に入射した際に発生する衝撃力により、あたかも水面に石を投げ落とした場合に水が跳ね返ると同様の態様で、入射した場所の液面から「液体の跳ね返り現象」が生じる結果、入射点の上方及びその周囲に液滴が飛び散り、周辺設備を汚損する問題点があった。
【0008】
この液滴の飛散量はレーザー光の出力によっても異なるが、液面から通常20〜30cmもの範囲で跳ね返るのが一般的である。これらの跳ね返った液体が集光レンズや反射用ミラーなどの光学部品に付着すると、その付着部分においてレーザー光の吸収、散乱、反射などが起こるため、上記光学部品を破壊したり、また付着部分が部分的に削れて(剥離して)発生した光学部品の微細成分が液中に混入してコンタミネーションを起こす結果、製品としてのナノ粒子群に混入して製品の純度を低下させたりする等の危険性が高かった。
【0009】
また、光学部品の汚損損傷によりレーザー光の照射条件が一定にならず不安定に変化することになり、ターゲットに対してレーザー光を長期間安定して照射することができず、装置の運転制御が煩雑になる等の問題点も生起していた。
【0010】
一方、特許文献2に記載された従来の液相レーザーアブレーション装置においては、液面にレーザー光を照射させる方式ではないために、「液体の跳ね返り」という現象は生じないが、窓材(レーザー光導入窓)が、たとえレーザー光に対して透過性の高い石英ガラスやフッ化カルシウムなどの材質で形成されたレーザー光導入窓であっても、容器内の液体と接触している部分(界面)においては、前記特許文献1に記載された装置と同様に、レーザー光の吸収、散乱、反射などが起こる。そして、窓材に傷が生じて、その損傷部位においてレーザー光の透過率が低下し、効率的なアブレーション操作が実施できなくなるばかりか、削れて発生した窓材片がコンタミネーションとして製品に混入し、ナノ粒子の製品純度を低下させる問題点もあった。
【0011】
さらに、窓材についた傷の部位に繰り返してレーザー光が照射されることにより、そこにクラックが生じ、最終的には窓材が破損されてしまうという危険性も高く、部品交換に多くの手間とコストを要する難点もあった。また、特許文献1の場合と同様に、レーザー光の照射条件が一定にならず、ターゲットに対してレーザー光を長期間安定して照射することができず、装置の運転制御が煩雑になる等の問題点も生起していた。
【0012】
本発明は、上記従来技術が有する課題を解決するためになされたものであり、液体が跳ね返っても集光レンズや反射用ミラー、容器の窓材などの光学部品には付着せず、またこれらの光学部品に液体を接触させないことにより、連続的に安定してレーザーアブレーションを実施することが可能であり、微細化粒子を安定して生成することが可能な液相レーザーアブレーション方法および装置を提供することを目的とする。
【0013】
また、被微細化成分を含有するターゲットにレーザー光を照射して微細化粒子を生成する場合は、レーザー光をターゲットに安定して照射することにより、連続的にレーザーアブレーションを行って、微細化粒子を効率的に生成する液相レーザーアブレーション方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明に係る液相レーザーブレーション装置は、被微細化成分を配置した液体を貯留する容器と、上記液体を介して上記被微細化成分に照射するレーザー光を発振するためのレーザー発振装置と、上記液体の液面に対するレーザー光の入射角度を変更自在に構成した反射ミラーと、上記レーザー発振装置から発振されたレーザー光を集光する集光レンズと、上記容器の上面を覆う蓋体と、上記蓋体又は上記容器の側面で上記液体の液面上方に設けられたレーザー光導入口とを備えたことを特徴とする。
【0015】
また上記液相レーザーアブレーション装置において、前記被微細化成分は被微細化成分を含有するターゲット成形体として上記液体中に配置されていることが好ましい。
【0016】
一方、上記液相レーザーアブレーション装置において、前記被微細化成分は被微細化成分の粒子が上記液体中に分散したスラリーとして配置されるように構成しても良い。
【0017】
すなわち、本発明に係る液相レーザーアブレーション装置において、被微細化成分を液体中に配置する形態に応じて、下記の2通りの液相レーザーアブレーション法によって微細化粒子を生成する方法が採用できる。つまり、被微細化成分を含有するターゲットを用いて、このターゲットを液体中に浸漬しターゲットにレーザー光を照射して微細化粒子を生成する方法と、被微細化成分の比較的大きな粒子(粒径がサブμm〜数mm)が分散したスラリー(分散液)を用いて、このスラリー中の粒子にレーザー光を照射して微細化粒子を生成する方法が採用できる。
【0018】
容器の上面が蓋体で覆われているので、レーザー光の照射によって跳ね返った液体またはスラリーが集光レンズや反射ミラーに付着することが無いので、長期間にわたってレーザーアブレーションを安定して継続することができ、ナノ粒子を効率的に生成できる。
【0019】
さらに、上記液相レーザーアブレーション装置において、前記液体の液面に対するレーザー光の入射角度が0度を超え90度未満であることが好ましい。このレーザー光の入射角度が0度を超え90度未満であることは、補角で表示すると「90度を超え180度未満」と同義である。
【0020】
この場合、レーザー光の液体液面に対する入射角度が垂直以外の角度と成るために、入射した場所の液面からレーザー光導入方向と同じ方向への「液体の跳ね返り現象」が生じることが無く、入射点付近の周辺設備を汚損する恐れが全く無い。また、跳ね返った液体が集光レンズや反射用ミラーなどの光学部品に付着することが無いために、レーザー光の吸収、散乱、反射などが起こらず、しかも光学部品の剥離片による汚染が解消され製品の純度低下を効果的に防止することができる。
【0021】
なお、上記液体の液面に対するレーザー光の入射角度は10度以上80度以下であることがより好ましく、20度以上70度以下であることがさらに好ましい。
【0022】
また、光学部品の汚損損傷が少ないために、レーザー光の照射条件が一定になり、レーザー光を長期間安定して照射することができ、装置の運転制御が容易に成るという格別なる効果が得られる。
【0023】
さらに上記液相レーザーアブレーション装置において、前記レーザー光導入口に、光透過性を有する窓体が嵌め込まれていることが好ましい。この場合、レーザー光の導入口又はそこから導出したレーザー光導入管の先端部に窓体を嵌め込んで容器を密閉にした場合であっても、レーザー光の照射によって跳ね返った液体又はスラリーがこの窓体に付着することがないので、レーザー光の照射条件が変わることが無く、連続的に安定した状態でレーザーアブレーションを継続することが可能になり、微細化粒子を効率的に生成することができる。
【0024】
また、上記窓体を設置することにより、液体および生成したナノ粒子が外気に接触しないために、製品に混入する不純物量を大幅に低減できる。
【0025】
また、上記液相レーザーアブレーション装置において、前記レーザー光の導入口に、液面に対するレーザー光の入射角度と同じ取付け角度でレーザー光導入管を配置することが好ましい。このようにレーザー光導入管を配置することにより、レーザー光の入射角度と同じ角度でレーザー光の導入経路が形成できる。
【0026】
しかも、レーザー光導入管がレーザー光の入射角度と同じ取付け角度で設けられているために、レーザー光導入管を通ってレーザー光が照射された場合においても、前記のような「液体の跳ね返り」による付着がレーザー光導入管には生じない。
【0027】
さらに上記液相レーザーアブレーション装置において、前記レーザー光導入管の先端部に、光透過性を有する窓体が嵌め込まれていることが好ましい。この窓体を設置することにより、液体および生成したナノ粒子が外気に接触しないために、製品に混入する不純物量を低減できる。
【0028】
また本発明に係る液相レーザーアブレーション方法は、被微細化成分を配置した液体にレーザー光を照射して被微細化成分をアブレーションして微細化粒子を生成する液相レーザーアブレーション方法において、上記液体の液面に対するレーザー光の入射角度を、0度を超え90度未満の範囲に設定することを特徴とする。
【0029】
さらに上記液相レーザーアブレーション方法において、前記装置構成と同様に、前記被微細化成分は被微細化成分を含有するターゲット成形体として上記液体中に配置したり、または前記被微細化成分は被微細化成分の粒子を上記液体中に分散したスラリーとして配置したりすることが可能である。
【発明の効果】
【0030】
上記液相レーザーアブレーション装置および方法によれば、液体中に配置された被微細化成分を含有するターゲット又は被微細化成分の粒子が分散したスラリーにレーザー光を照射するに際して、液面に対して垂直以外の角度から照射することが可能であり、また蓋体によって容器の上面も覆うことにより、レーザー光の照射によって跳ね返った液体又はスラリーが集光レンズや反射用ミラー等の光学部品に付着することがない。したがって、レーザー光の吸収、散乱、反射などが起こらず、しかも光学部品の剥離による汚染が解消され製品の純度低下を効果的に防止することができる。
【0031】
また、レーザー光の照射によって跳ね返った液体又はスラリーの光学系への付着がないので、レーザー光の照射条件が変動することが無く、連続的に安定した状態でレーザーアブレーションを継続することが可能になり、微細化粒子を効率的に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る液相レーザーアブレーション装置の一実施形態の全体構成を示す断面図。
【図2】本発明に係る液相レーザーアブレーション装置の他の実施形態の要部構成を示す断面図。
【図3】本発明に係る液相レーザーアブレーション装置の他の実施形態の要部構成を示す断面図。
【図4】本発明に係る液相レーザーアブレーション装置の他の実施形態の要部構成を示す断面図。
【図5】本発明に係る液相レーザーアブレーション装置の他の実施形態の要部構成を示す断面図。
【図6】本発明に係る液相レーザーアブレーション装置の他の実施形態の要部構成を示す断面図。
【図7】従来の液相レーザーアブレーション装置の全体構成を示す断面図。
【図8】従来の他の液相レーザーアブレーション装置の全体構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明の液相レーザーアブレーション装置の一実施形態の全体構成を示す断面図である。本実施形態は、被微細化成分を含有するターゲット成形体を液体中に配置した例を示している。
【0034】
すなわち、本実施形態に係る液相レーザーアブレーション装置は、被微細化成分を配置した液体31を貯留する容器11と、上記液体31を介して上記被微細化成分に照射するレーザー光Lを発振するためのレーザー発振装置21と、上記液体31の液面に対するレーザー光Lの入射角度θを変更自在に構成した反射ミラー22と、上記レーザー発振装置21から発振されたレーザー光Lを集光する集光レンズ23と、上記容器11の上面を覆う蓋体12と、上記蓋体12に設けられたレーザー光導入口13とを備えて構成される。
【0035】
また、上記被微細化成分は、被微細化成分を含有するターゲット成形体32として上記液体31中に浸漬配置されている。
【0036】
容器11は上面が開口された、断面が略矩形の容器である。容器11の開口部には平板状の蓋体12が装着される。容器11の上端面と蓋体12の周縁部との間には、リング状パッキン(図示省略)が介装されており、両者を密着できる構造になっている。
【0037】
蓋体12の一部は開口されレーザー光導入口13を構成している。図1では蓋体12にレーザー光導入口13を開口したが、容器11の側面で液体の液面上方に開口しても良い。
【0038】
レーザー光Lを発振するレーザー発振装置21と、レーザー光Lの反射ミラー22と、レーザー光Lを集光する集光レンズ23とで光学系が構成されている。レーザー光の波長としては、特に制限されないが、例えばパルスレーザー光を発振するNd:YAGレーザーの基本波(波長:1064nm)、2倍波(532nm)、3倍波(355nm)、4倍波(266nm)が好適に使用される。他の照射条件の一例としては、出力:100mJ/パルス、パルス回数:10パルス/secも好適である。
【0039】
容器11内には液体31が貯留され、液体31中にはターゲット32が浸漬されている。容器11及び蓋体12の材質等は特に制限されず、ポリプロピレン等の合成樹脂製で構成できるし、ガラス製でも良い。
【0040】
液体31は透明性(透光性)が高いものが好ましいが、特に限定されない。例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン、アセトン、水等を使用することができる。
【0041】
集光レンズ31によって集束されたレーザー光Lは、ほぼその焦点位置で液体31中のターゲット32の表面に照射されるように構成している。
【0042】
なお、図1に示す液相レーザーアブレーション装置では、ターゲット32を容器11の底面に水平に配置しているが、照射されたレーザー光Lがターゲット32の平面に対して略垂直に照射されるように、ターゲット32を傾斜させて配置しても良い。
【0043】
また、レーザー光Lがターゲット32表面の同じ位置に繰り返して照射され、ターゲット32のその位置のみがアブレーションされないために、公知の方法や機構により、容器11そのものを左右・前後に平行移動させたり、公知の各種駆動装置によってターゲット32のみを左右・前後に平行移動又は偏心回転させたりすることにより、ターゲット全体にレーザー光Lが均一に照射されるように構成することが、より好ましい。
【0044】

上記実施形態に係る液相レーザーアブレーション装置において、レーザー発振装置21から発振されたレーザー光Lは、反射面が回動自在な反射ミラー22によって所定角度の方向に反射される。反射されたレーザー光Lの、液体31の液面に対する入射角度θは0度を超え90度未満、好ましくは、10度以上80度以下に設定される。反射されたレーザー光Lは、さらに集光レンズ23によって集光されてレーザー光導入口13を経て、液体31の底部に配置されたターゲット32に照射される。このとき、ターゲット32に含有される被微細化成分はレーザー光によってアブレーションされて微細粒径のナノ粒子が生成される。
【0045】
上記実施形態に係る液相レーザーアブレーション装置によれば、レーザー光の液体液面に対する入射角度θが0度を超え90度未満であり、垂直以外の角度と成るために、入射した場所の液面からレーザー光導入方向と同じ方向への液体の跳ね返り現象が生じることが無く、入射点付近の周辺部品を汚損する恐れが少ない。また、跳ね返った液体31が集光レンズ23や反射用ミラー22などの光学部品に付着することが無いために、レーザー光Lの吸収、散乱、反射などが起こらず、しかも光学部品からの剥離片による汚染が解消され、製品の純度低下を効果的に防止することができる。
【0046】
また、光学部品の汚損損傷が少ないために、レーザー光の照射条件が一定になり、レーザー光を長期間安定して照射することができ、装置の運転制御が容易に成るという効果が得られる。
【0047】
図2は、本発明に係る液相レーザーアブレーション装置の他の実施形態を示す要部断面図である。この液相レーザーアブレーション装置は、レーザー光導入口13に透光性を有する窓体14を嵌め込んだ点を除き、図1に示した実施形態と同様な構成である。
【0048】
上記窓体14としては、レーザー光Lの反射による損失を防止するために、反射防止コーティングが施された透明性(透光性)が高い円板状の石英ガラスで構成されている。
【0049】
レーザー光導入口13に上記窓体14を嵌め込んで設置することにより、蓋体12の作用と共に、容器11内をほぼ密閉状態にすることが可能であり、液体31および生成したナノ粒子が外気に接触しないために、製品に混入する不純物量を低減できる。
【0050】
なお、容器11を密閉系にするか、それとも開放系にするかは、使用する液体31、ターゲット32を構成する被微細化成分の物性等により、適宜選択される。また、密閉系にする場合は、公知の方法で容器11内及びその中に保持されている液体31内の空気を、不活性ガスや窒素ガスと置換して容器内部を外気と遮断し実質的に密閉系にすることもできる。
【0051】
図3は本発明に係る液相レーザーアブレーション装置の他の実施形態を示す要部断面図である。この液相レーザーアブレーション装置は、レーザー光導入口13から、液面に対するレーザー光Lの入射角度θと同じ取付け角度で筒状のレーザー光導入管15を導出した点を除き、図1に示した実施形態と同様な構成である。
【0052】
このようにレーザー光導入管15を配置することにより、レーザー光の入射角度と同じ角度でレーザー光の導入経路が形成できる。しかも、レーザー光導入管がレーザー光の入射角度θと同じ取付け角度で設けられているために、レーザー光導入管15を通ってレーザー光Lが照射された場合においても、前記のような「液体の跳ね返り」による付着がレーザー光導入管15の内部には生じない。
【0053】
図4は、本発明の液相レーザーアブレーション装置の他の実施形態を示す要部断面図である。この液相レーザーアブレーション装置は、レーザー光導入管15の他端(先端側)に、光透過性を有する窓体14を嵌め込んだ点以外は、図3に示した実施形態と同様な構成である。なお、上記レーザー光導入管15の材質は、前記容器11の材質と同様である。
【0054】
この窓体14を嵌め込み設置することにより、液体および生成したナノ粒子が外気に接触しないために、製品に混入する不純物量を低減できる。また、飛び散った液体やスラリーが窓体14に付着することが無いのでレーザー光の照射条件を一定に保持できる。
【0055】
図5は本発明に係る液相レーザーアブレーション装置の他の実施形態を示す要部断面図である。この液相レーザーアブレーション装置は、容器11の側面で上記液体31の液面上方にレーザー光導入口13を設け、このレーザー光導入口13からレーザー光導入管15を導出した点以外は、図3に示した実施形態と同様な構成である。また、レーザー光Lの入射角度θと同じ取付け角度で筒状のレーザー光導入管15が導出されている。
【0056】
この実施形態では、容器11の側面で液体31の液面上方にレーザー光導入口13を設け、この導入口13に筒状のレーザー光導入管15の一端を接続して斜め上方に導出しているために、レーザー光導入管15が液体31とは接触せず、図7に示すような液体24に浸かった窓体14のようにレーザー光のよる損傷は発生しない。
【0057】
図6は本発明に係る液相レーザーアブレーション装置の他の実施形態を示す要部断面図である。この液相レーザーアブレーション装置は、レーザー光導入管15の他端(上端部)に透光性を有する窓体14を嵌め込み設置した点以外は、図5に示した実施形態と同様な構成である。
【0058】
この窓体14を嵌め込み設置することにより、液体31および生成したナノ粒子が外気に接触しないために、製品に混入する不純物量を低減できる。また、飛び散った液体31やスラリーが窓体14に付着することが無いのでレーザー光の照射条件を一定に保持できる。
【0059】
次に、図示はしないが、前記ターゲット32に代えて被微細化成分の粒子が分散したスラリーを使用した実施形態を以下に説明する。この液相レーザーアブレーション装置は、例えば、被微細化成分の粒子が分散したスラリーを保持する容器と、該スラリー中の粒子にレーザー光を照射するためのレーザー発振装置と、このレーザー発振装置から発振されたレーザー光を集光する集光レンズと、上記スラリーの液面に対するレーザー光の入射角度を変更自在に構成した反射ミラーと、上記容器の上面を覆う蓋体と、該蓋体又は上記容器の側面にレーザー光の導入口とを備えて構成される。また、スラリーの液面に対するレーザー光の入射角度は、ターゲットを使用する場合と同様に、0度を超え90度未満、好ましくは10度以上80度以下に設定される。
【0060】
また、上記の液相レーザーアブレーション装置を使用して被微細化成分の粒子が分散したスラリーにレーザー光を照射する場合は、スラリー中の粒子に均一にレーザー光が照射されるように、回転軸に取り付けられた各種形状の攪拌子を容器内のスラリー中に挿入して、スラリーを攪拌しておくことが有効である。またテフロン(登録商標)等で表面コーティングした攪拌子(棒状磁石)を容器内に封入し、容器11の外部から回転する磁界で攪拌子に回転動力を伝達するマグネティックスターラーでスラリーを攪拌することも有効である。
【0061】
このように被微細化成分の粒子が分散したスラリーを使用した本実施形態においても、ターゲットを使用した前記実施形態と同様に、レーザー光のスラリー液面に対する入射角度が0度を超え90度未満であり、垂直以外の角度と成るために、入射した場所の液面からレーザー光導入方向と同じ方向への液体の跳ね返り現象が生じることが無く、周辺設備を汚損する恐れが少ない。また、跳ね返った液体が光学部品に付着することが無いために、レーザー光の吸収、散乱、反射などが起こらず、しかも光学部品の剥離による汚染が解消され製品の純度低下を効果的に防止することができる。また、光学部品の汚損損傷が少ないために、レーザー光の照射条件が一定になり、レーザー光を長期間安定して照射することができ、装置の運転制御が容易に成るという効果が得られる。
【0062】
次に具体的な実施例及び比較例に係る液相レーザーアブレーション装置を使用して以下の比較実験を行った。実施例と比較例とにおいて共通して使用される部品の仕様および条件は以下の通りである。
(1)容器としては、内のり寸法が縦50mm×横75mm×深さ52mmの寸法を有する内容積が200cmである箱状のガラス容器であり、充填される液体の有効内容積が160cmである容器を使用した。
(2)容器に充填する液体は純水とした。
(3)ターゲットとしては金(Au)を使用した。
(4)レーザー発振装置としては、波長が266nmである紫外線領域のレーザー光を発振し、出力が100mJ/パルスであり、パルス回数が10パルス/secであるNd:YAGレーザー発振装置を使用した。
【0063】
まず比較例として図8に示す従来の液相レーザーアブレーション装置を使用してアブレーション操作を実施した。ここでレーザー光Lは液体24の液面に対して垂直に入射するように固定した。
【0064】
一方、図8に示す液相レーザーアブレーション装置の光学系を改造して図1に示すような実施例に係る液相レーザーアブレーション装置を作製した。すなわち、反射ミラー22を回動させることにより、容器11に充填した液体(純水)31の液面に対するレーザー光Lの入射角度θが30度〜60度の範囲内でそれぞれ変化させて固定した。
【0065】
そして、上記実施例および比較例に係る液相レーザーアブレーション装置を同一条件で運転したときに、レーザー光の照射によって跳ね返った液体又はスラリーが集光レンズ等の光学系に付着したために、レーザー光の照射条件が5%以上変化するまでの時間および1回の連続運転によって製造できるナノ粒子量を比較した。
【0066】
その結果、実施例装置においてはレーザー光の照射によって跳ね返った液体又はスラリーが集光レンズ等の光学部品に付着することがなかった。そのために、比較例装置を使用した場合ではレーザー光の照射条件が5%以上変化するまでの時間は5分程度であったのに対し、実施例装置の場合では5時間以上照射を続けても、レーザー光の照射条件に5%以上の変化は生じなかった。また、1回の連続運転によって製造できるナノ粒子重量は、比較例装置と比較して、5〜7倍に増加させることができ、ナノ粒子の製造効率を大幅に改善できることが判明した。
【0067】
以上説明した通り、何れの実施形態においても、液体またはスラリーに照射されたレーザー光によって跳ね返った液体またはスラリーが集光レンズや反射用ミラー、窓体などの光学部品に付着しないようにレーザ光の入射角度を調整することが本発明の基本的な構成である。すなわち、少なくともレーザー光は液面に対して垂直以外の角度から照射することが必須の要件である。なお、実施形態によっても異なるが、レーザー光の液面に対する入射角度をθとすると、θは次の関係式:0°<θ<90°又は90°<θ<180°の中から任意に選択することができる。またレーザーブレーション操作中にレーザー光の液面に対する入射角度を適宜変更しても良い。
【符号の説明】
【0068】
11…容器(セル)、12…上蓋、13…レーザー光導入口、14…窓体(レーザー光導入窓)、15…レーザー光導入管、16…貫通口、21…レーザー発振装置、22…反射ミラー、23…集光レンズ、24…液体、31…液体(又は粒子が分散したスラリー)、32…ターゲット、L…レーザー光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被微細化成分を配置した液体を貯留する容器と、上記液体を介して上記被微細化成分に照射するレーザー光を発振するためのレーザー発振装置と、上記液体の液面に対するレーザー光の入射角度を変更自在に構成した反射ミラーと、上記レーザー発振装置から発振されたレーザー光を集光する集光レンズと、上記容器の上面を覆う蓋体と、上記蓋体又は上記容器の側面で上記液体の液面上方に設けられたレーザー光導入口とを備えたことを特徴とする液相レーザーアブレーション装置。
【請求項2】
請求項1記載の液相レーザーアブレーション装置において、前記被微細化成分は被微細化成分を含有するターゲット成形体として上記液体中に配置されていることを特徴とする液相レーザーアブレーション装置。
【請求項3】
請求項1記載の液相レーザーアブレーション装置において、前記被微細化成分は被微細化成分の粒子が上記液体中に分散したスラリーとして配置されていることを特徴とする液相レーザーアブレーション装置。
【請求項4】
請求項1記載の液相レーザーアブレーション装置において、前記液体の液面に対するレーザー光の入射角度が0度を超え90度未満であることを特徴とする液相レーザーアブレーション装置。
【請求項5】
請求項1記載の液相レーザーアブレーション装置において、前記レーザー光の導入口に、光透過性を有する窓体が嵌め込まれていることを特徴とする液相レーザーアブレーション装置。
【請求項6】
請求項1記載の液相レーザーアブレーション装置において、前記レーザー光の導入口から、液面に対するレーザー光の入射角度と同じ取付け角度でレーザー光導入管を導出したことを特徴とする液相レーザーアブレーション装置。
【請求項7】
請求項6記載の液相レーザーアブレーション装置において、前記レーザー光導入管の先端部に、光透過性を有する窓体が嵌め込まれていることを特徴とする液相レーザーアブレーション装置。
【請求項8】
被微細化成分を配置した液体にレーザー光を照射して被微細化成分をアブレーションして微細化粒子を生成する液相レーザーアブレーション方法において、上記液体の液面に対するレーザー光の入射角度を、0度を超え90度未満の範囲に設定することを特徴とする液相レーザーアブレーション方法。
【請求項9】
請求項8記載の液相レーザーアブレーション方法において、前記被微細化成分は被微細化成分を含有するターゲット成形体として上記液体中に配置することを特徴とする液相レーザーアブレーション方法。
【請求項10】
請求項8記載の液相レーザーアブレーション方法において、前記被微細化成分は被微細化成分の粒子を上記液体中に分散したスラリーとして配置することを特徴とする液相レーザーアブレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−170881(P2012−170881A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35060(P2011−35060)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000152181)株式会社奈良機械製作所 (15)
【Fターム(参考)】