説明

液質センサ、液質検出装置及び方法

【課題】海水が流れる機器からの液漏れを検出する液漏れ検出センサ及び液漏れ検出装置を提供する。
【解決手段】液漏れ検出の対象機器である復水器101の下方に設置されて漏れ液である海水102とは性質の異なる溶液である凝縮水103中内に設置されてなる一対の導線104−1,104−2からなる液漏れ検出センサ100であって、前記一対の導線104−1,104−2の両方が、少なくとも一部を露出するように絶縁材が存在してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電設備の復水器等、例えば海水が流れる機器からの液漏れ等の液質の変化を検出する液質センサ、液質検出装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火力発電設備等においては、ボイラで発生した蒸気を復水器で冷却凝縮させ、ボイラ水(純水)として循環使用している。ここで、復水器内ボイラ蒸気を冷却する冷却管が設けられ、該冷却管には冷却用の海水が流れているが、該冷却管に亀裂等が生じると、そこから海水が液漏れし、凝縮したボイラ凝縮水に混入し、該凝縮水に塩分が混じって各種配管等を腐食させることになる。そこで、復水器からの海水の液漏れをチェックすべく、各種の海水漏洩検出装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記した従来技術の場合、復水器下部に凝縮したボイラ水を採取して液分析を行うため、リークした海水がボイラ水で大幅に希釈され、その分検出感度が低下するという問題がある。又、実際の海水リークは復水器の一部が亀裂して生じるが、上記技術の場合、復水器のどの場所がリークしているかを特定することができず、対応に時間がかかる問題もあった。
【0004】
そこで、本出願人は、図20に示すような漏れ検出装置を提案した。図20に示すように、従来の漏れ検出装置は、液漏れ検出の対象機器200の下方に設置され、一の方向に平行な第1方向と、該一の方向と交差する第2方向とに配置されて互いに離間する多数の金属線2A〜2H、3A、3Bと、いずれかの第1方向の金属線3Aと第2方向の金属線2Dとの間の電気伝導度の値と、そのときの各金属線3A,2Dの交差した位置とに基づいて対象機器の漏れ位置を特定する漏れ位置特定手段201とを備えたものである(特許文献2、図1)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−141596号公報
【特許文献2】特開2004−144708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2にかかる漏れ検出装置は、漏れ検出対象機器の下方に設置され、海水と凝縮水とが落下してくる際の電気伝導率の差による電極間の抵抗の変化を検出しようとしている。この方法では、滴下する水が電極間に入る場合とそうでない場合(空間又は水蒸気が電極間に存在する場合)の電極間の電気的特性の変化に比べて、水で希釈された海水の混入による電気的特性の変化が小さい点、及び滴下する海水を検出するには、センサを面状に、しかも非常に密に張り巡らす必要があり、飛散する海水を容易に検出することができない、という問題がある。
【0007】
そこで、飛散する海水を検出可能とするために、図21に示すように、落下水の回収槽210中に、一対の裸電極211−1、211−2からなる検出センサ212を浸漬させて、TDR(Time Domain Reflectometory)装置213により一対の裸電極の抵抗を計測するようにした。
しかしながら、裸電極の空気中の抵抗では、図22に示すように、1.8mの場合、減衰率3割程度で良好な反射を示しているが、水中で測定した場合には、図23に示すように、1.8mの最初の部分で減衰率が極端に低下し、測定できないという、問題がある。
よって、復水器のような広範囲な部分の海水の微小な液漏れを精度よく検出することが困難であるという問題がある。
【0008】
よって、飛散する海水を確実に検知可能とし、且つ微小な海水の量の液漏れを液中において広範囲に検出することができる液漏れ検出装置の出現が要望されている。
【0009】
本発明は、前記問題に鑑み、例えば復水器の海水リーク等の液漏れを高感度で安定して検出することが可能となる液質センサ、液質検出装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、溶液中の液質の変化を検出する一対の導線からなる液質センサであって、前記溶液中に設置される一対の導線の両方の導線が、少なくとも一部を露出するように絶縁材が存在してなることを特徴とする液質センサにある。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記液質の変化が、一対の導線が設置される溶液とは異なる溶液の落下又は侵入又は拡散によるものであることを特徴とする液質センサにある。
【0012】
第3の発明は、第1の発明において、前記液質の変化が、一対の導線が設置される溶液を励起させる媒体の侵入によるものであることを特徴とする液質センサにある。
【0013】
第4の発明は、第2の発明において、液漏れ検出の対象機器の下方に設置されると共に、漏れ液とは性質の異なる溶液中内に設置されてなることを特徴とする液質センサにある。
【0014】
第5の発明は、第1乃至4のいずれか一つの発明において、前記絶縁材の露出部が導線の軸方向に亙って、所定間隔をもって形成されてなることを特徴とする液質センサにある。
【0015】
第6の発明は、第1乃至4のいずれか一つの発明において、前記絶縁材の露出部が導線の軸方向に亙って形成されてなることを特徴とする液質センサにある。
【0016】
第7の発明は、第1乃至4のいずれか一つの発明において、前記絶縁材の比誘電率が3以下であることを特徴とする液質センサにある。
【0017】
第8の発明は、第1乃至4のいずれか一つの発明において、一対の導線と、一対の導線を覆う絶縁部と、該絶縁部の一部に形成され、一対の導線の一部を各々露出する溝部とからなる液質センサにある。
【0018】
第9の発明は、第1乃至4のいずれか一つの発明において、一対の平板状の導線と、導線の少なくとも端面を露出するように一対の導線を絶縁する絶縁部とからなる液質センサにある。
【0019】
第10の発明は、第1乃至4のいずれか一つの発明において、平板状又は芯状の導線と略コの字状の導線と、前記平板状又は芯状の導線を略コの字状の導線の内部に配設すると共に前記平板状又は芯状の導線の一部を露出部としつつその周囲を絶縁する絶縁部とからなる液質センサにある。
【0020】
第11の発明は、第1乃至4のいずれか一つの発明において、芯状の導線と、該芯状の導線の周囲に絶縁材を介して配設される外被状の導線と、該外被状の導線と絶縁材の一部を切欠く溝部を形成し、前記芯状の導線の一部を露出してなる液質センサにある。
【0021】
第12の発明は、第1乃至4のいずれか一つの発明において、芯状の導線と、該芯状の導線の周囲に絶縁材を介して配設される網状の導線と、前記絶縁材の一部を切欠く溝部を形成し、前記芯状の導線の一部を露出してなることを特徴とする液質センサにある。
【0022】
第13の発明は、第1乃至4のいずれか一つの発明において、芯状の導線と、該芯状の導線の周囲に断面矩形状又は円形の複数の中実状又は中空状の絶縁材を介して配設される網状の導線とからなることを特徴とする液質センサにある。
【0023】
第14の発明は、第1乃至13のいずれか一つの発明において、一対の導線がケーブル状であることを特徴とする液質センサにある。
【0024】
第15の発明は、第1乃至14のいずれか一つの液質センサと、前記一対の導線の間にパルス電圧を印加してから各導線の間に反射電圧が戻るまでの時間に基づいて、前記液質変化位置を特定する液液質位置特定装置と具備することを特徴とする液質検出装置にある。
【0025】
第16の発明は、第15の発明において、前記対象機器が復水器であると共に、前記液漏れ液が海水であることを特徴とする液質検出装置にある。
【0026】
第17の発明は、第16の液質検出装置を用い、先ず、漏洩が発生していない定常状態の導線のインピーダンスを定期的に測定し、信号生値と距離との関係からなる原波形を管理し、前記導線のインピーダンス測定値と予め設定した規定値とを比較し、規定値を超えてインピーダンスが変化した時には、漏洩発生の可能性有る旨の判断を行なうと共に、規定値以内の時には定常状態である旨の判断を行なうことを特徴とする液質検出方法にある。
【0027】
第18の発明は、第17の発明において、インピーダンス波形の伸縮及び傾きを修正し、その後判断を行なうことを特徴とする液質検出方法にある。
【0028】
第19の発明は、第17の発明において、導線の浸漬の始点及び終点のインピーダンス測定値のレベル差を、予め設定した規定値と比較し、この差分の結果より、規定値を超えてインピーダンスが変化した時には、漏洩発生の可能性有る旨の判断を行なうと共に、規定値以内の時には定常状態である旨の判断を行なうことを特徴とする液質検出方法にある。
【0029】
第20の発明は、第17の発明において、次いで、計測する導線の有効範囲内をスタート点より移動式N点K次曲線の傾きを算出し、その後局所的な信号の変化を信号速度として算出し、この信号速度の変化より、漏洩有りの判断と漏洩位置の特定を行なうことを特徴とする液質検出方法にある。
【0030】
第21の発明は、第20の発明において、次いで導線有効範囲内をスタート点より移動式N点K次曲線の傾きを算出し、その後局所的な信号の変化を信号速度として算出し、この信号速度の変化より、漏洩有りの判断と漏洩位置の特定を行なうことを特徴とする液質検出方法にある。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、液漏れを広範囲に亙って確実に検出でき、例えば復水器の海水リークを高感度で安定して検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0033】
本発明による実施例1に係る液質センサ、液質検出装置及び方法について、図面を参照して説明する。
本発明の液質センサは、溶液中の液質の変化を検出する一対の導線からなる液質センサであって、前記溶液中に設置される一対の導線の両方の導線が、少なくとも一部を露出するように絶縁材が存在してなるものである。ここで、液質変化とは、例えば液質センサが浸漬されている溶液とは異なる溶液の落下及び侵入又は拡散により信号が変化するものに限定されるものではなく、例えばX線等の光や音等の媒体の励起作用によって、前記液質の構成要素を変化(変質又は拡散等)するようなものも含まれる。また、媒体自体が変化する等の経時的な要素の変化も含まれる。
【0034】
以下、本実施例では、液質センサとして液漏れ検出センサを一例として説明する。
図1は、実施例1に係る液質センサの一具体例である液漏れ検出センサを示す概念図である。本実施例では液漏れ対象機器として復水器を用いている。
図1に示すように、本実施例に係る液漏れ検出センサ100は、液漏れ検出の対象機器である復水器101の下方に設置されて漏れ液である海水102とは性質の異なる溶液である凝縮水103中内に設置されてなる一対の導線104−1,104−2からなる液漏れ検出センサであって、前記一対の導線104−1,104−2の両方が、少なくとも一部を露出するように絶縁材が存在してなるものである。符号105は凝縮水103を回収する回収槽、106はスチームである。
【0035】
一対の導線104−1,104−2はTDR法において、海水漏れがある場合に電気伝導率の変化による一対の導線(2電極)104−1,104−2間の抵抗変化によりその液漏れを検出するようにしている。
【0036】
前記絶縁材の露出部はその導線の軸方向に亙って、所定間隔をもって形成されてなるものが好ましい。所定間隔とは例えば30cm、50cm・・・毎に露出部が形成されていることをいう。
また、前記絶縁材の露出部が導線の軸方向の全てに亙って形成されてなるものが更に好ましい。全てに亙って露出部が形成されていることにより、漏れの検出範囲が向上するからである。
【0037】
また、前記絶縁材の比誘電率は3以下とするのが好ましい。一般に水の比誘電率はその条件によっても異なるが、80程度であるのでその影響を受けないような例えば樹脂等の比誘電率が3以下のものとするようにしている。
比誘電率が3以下の絶縁材としては、例えばポリエチレン(PE、比誘電率:2.3)、ポリプロピレン(PP、比誘電率:2.3〜2.7)等の樹脂を例示することができる。
【0038】
以下、液漏れ検出センサの具体的な実施例について図2乃至図7を参照して説明する。
【実施例2】
【0039】
本実施例に係る液漏れ検出センサの断面概略図を図2に示す。図2に示すように、本実施例に係る液漏れ検出センサ10は、一対の導線11−1、11−2と、一対の導線11−1、11−2を覆う絶縁部13と、該絶縁部13の一部に形成され、一対の導線11−1、11−2の一部を各々露出する溝部14−1、14−2とからなるものである。
溝部の幅は、導線よりも小さくして、該導線の飛び出しを防止している。具体的には、導線の1/3〜1/10程度とすればよい。
本実施例では、導線は2mmφとしており、前記絶縁部13の溝部は1mm程度としている。
【0040】
前記溝部14−1、14−2の露出部15−1,15−2により、海水の漏れによる電気伝導率の変化による一対の導線11−1、11−2からなる電極間の抵抗変化を高感度に検出することができる。
【実施例3】
【0041】
本実施例に係る液漏れ検出センサの断面概略図を図3に示す。図3に示すように、本実施例に係る液漏れ検出センサ20は、一対の平板状の導線21−1、21−2と、該一対の平板状の導線21−1、21−2の少なくとも端面を露出して露出部25−1.25−2を形成するように一対の導線21−1、21−2を絶縁する絶縁部23とからなるものである。
【0042】
前記露出部25−1,25−2により、海水の漏れによる電気伝導率の変化による一対の導線21−1、21−2からなる電極間の抵抗変化を高感度に検出することができる。
【実施例4】
【0043】
本実施例に係る液漏れ検出センサの断面概略図を図4に示す。図4に示すように、本実施例に係る液漏れ検出センサ30は、平板状の導線31と略コの字状の導線32と、前記平板状の導線31を略コの字状の導線32の内部に配設すると共に前記平板状の導線31の一部を露出部35としつつその周囲を絶縁する絶縁部33とからなるものである。本実施例では、平板状としているが、本発明はこれに限定されず、芯状のものであってもよい。
【0044】
前記露出部35により、海水の漏れによる電気伝導率の変化による一対の導線31、32からなる電極間の抵抗変化を高感度に検出することができる。
【実施例5】
【0045】
本実施例に係る液漏れ検出センサの断面概略図を図5に示す。図5に示すように、本実施例に係る液漏れ検出センサ40は、芯状の導線41と、該芯状の導線41の周囲に絶縁部43を介して配設される外被状の導線42と、該外被状の導線42と絶縁材43の一部を切欠く溝部44を形成し、前記芯状の導線41の一部を露出して露出部45を形成してなるものである。
本実施例はいわゆる同軸型のケーブル形状であり、中心の導線41−1はその径を2mmφ、絶縁部43の外径は10mmφとしている。
【0046】
前記露出部45により、海水の漏れによる電気伝導率の変化による一対の導線41、42からなる電極間の抵抗変化を高感度に検出することができる。
【実施例6】
【0047】
本実施例に係る液漏れ検出センサの断面概略図を図6に示す。図6に示すように、本実施例に係る液漏れ検出センサ50は、芯状の導線51と、該芯状の導線51の周囲に絶縁材53を介して配設される網状の導線52と、前記絶縁材53の一部を切欠く溝部54を形成し、前記芯状の導線51の一部を露出して露出部55を形成してなるものである。
【0048】
前記露出部55により、海水の漏れによる電気伝導率の変化による一対の導線51、52からなる電極間の抵抗変化を高感度に検出することができる。
【実施例7】
【0049】
本実施例に係る液漏れ検出センサの断面概略図を図7に示す。図7に示すように、本実施例に係る液漏れ検出センサ60は、芯状の導線61と、該芯状の導線61の周囲に断面円形の複数の中実状又は中空状の絶縁部63を介して配設される網状の導線62とからなるのである。断面円形の複数の中実状又は中空状の絶縁部63は複数束ねられて芯状の導線61の周囲に配設されるので、それらが形成する隙間により導線61の露出部65が形成される。
【0050】
前記露出部65により、海水の漏れによる電気伝導率の変化による一対の導線51、52からなる電極間の抵抗変化を高感度に検出することができる。
【0051】
ここで、前述した実施例7に係る液漏れ検出センサ60を用いて、水中に浸漬した場合におけるTDRの測定結果を図8に示す。
液漏れ検出センサ60は、全体の長さが約20mとし、機器接続部分から約8mの付近から約1.8mの長さを水槽の水中に入れてある。
この液漏れ検出センサ60は、図8に示すように、終端部分の反射がほぼ1000mρであり、殆ど減衰していないことがわかる。
このように、絶縁部63により導線の被覆を多くして露出部65及び電極間に入る水の量を少なくすることにより、水中での減衰を小さくし、長距離での計測を実現することが判明した。
【実施例8】
【0052】
このような液漏れ検出センサを用いた液質検査装置の一例である液漏れ検出装置の一例を図9に示す。
図9に示すように、液質検査装置の一例である液漏れ検出装置70は、前述の実施例7に係る液漏れ検出センサ60と、前記一対の導線の間にパルス電圧を印加してから各導線の間に反射電圧が戻るまでの時間に基づいて、前記対象機器の液漏れ位置を特定する液漏れ位置特定装置71と具備するものである。復水器101は複数の冷却チューブ101aを有しており、該冷却チューブに冷却水である海水102が流入されている。ボイラからのスチーム106は、冷却チューブで冷却され、凝縮水103となり、下部の回収槽105で回収される。
前記回収槽105には液漏れ検出センサ60が液面から所定の距離をもって浸漬されている。
【0053】
図10は、液漏れ検出センサ60を液面から所定距離を持って浸漬させておく吊り具80であり、ワイヤ81を介して複数のフロート82を繋いでいる。そしてワイヤ81から垂下された複数の連結具83により、液面から所定距離を持って凝縮水中に浸漬させるようにしている。
【0054】
液漏れ検出センサ60と液漏れ位置特定装置71とは信号線72により連結され、検出結果を情報処理し、モニタ73にその結果を警告として表示することになる。
この表示は、信号強度及びその信号強度から液漏れの有無とその場所等である。
【0055】
図11は、図9の液漏れ検出装置70を使用して、海水リークの検知を模擬した場合のTDR計測試験結果を示す例である。
試験は、液漏れ検出センサ60の約10mの区間を750×750mmmの容器の中に渦巻状に設置し、循環する純水中に沈めておき、海水を局部的に滴下した場合においてTDR測定を行った。
【0056】
図11に示すように、水中に浸漬した液漏れ検出センサ60の一部分(4m〜5m及び7m〜8m)においてインピーダンスの変化が発生し、その変化が時間とともに大きくなっていることが判明した。
【0057】
一般に復水器は、長手方向に延びる細管が一平面上でこれと直角な方向に180度曲げられた後、該長手方向へ折り返される構造が繰り返されたものを1ユニットとし、このユニットが上下方向に多数積層された構成になっている。そして、細管の入側から流入した冷却海水は、復水器の外側に吹き付けられるボイラ蒸気を冷却して凝縮水とし、細管の出側から流出するようになっている。前記凝縮水は下方に設置された回収槽に溜められ、その後循環水として再利用される。
【0058】
このような複数の細管において、例えば海水腐食による漏れが発生した場合には、当該腐食箇所から海水が漏れ、回収槽に落下される。回収槽は凝縮水のみであるので、液漏れ検出センサは通常ほぼ一定の値を示しているが、海水が落下するとその落下部分のイオン濃度が変化し、この変化を電気伝導率の変化として検出することで漏れを特定することができる。
【0059】
以上の実施例においては、液漏れ対象機器として復水器を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、液漏れと性質の異なる液中に本発明に係る液漏れ検出センサを設置し、TDR装置においてその信号強度を計測することで漏れを的確に検出することができる。
【実施例9】
【0060】
次に、復水器の回収槽内に設置した前記液漏れ検出センサの信号処理方法について説明する。
(1)第1の信号処理方法
先ず、定常状態(漏洩が発生していない状態)のケーブルインピーダンスを前述したTDR計測方法により、定期的に測定し、図12に示すような信号生値と距離との関係からなる原波形を管理する。
次に、ケーブルインピーダンス測定値と予め設定した規定値とを比較する。
【0061】
そして、規定値(例えば信号生値:30)を超えてインピーダンスが減少した時に「漏洩発生の可能性有り」の判断を行なう。また、規定値以内の時には「定常状態」である判断を行なう。
本信号処理方法においては、ケーブルの初期インピーダンスが均一でなくても、初期状態からの変化として検出できることとなる。
【0062】
また、復水器では真空状態であるので、その真空開始の初期においては、ボイドの発生がある。このボイドの発生によりインピーダンスのピーク波形が伸縮により変化する。この場合には、所定時間の各ピーク値を判断して、ピーク値のずれを修正することで、図12に示すような生データに修正する。これにより、ボイドがケーブルに纏わりついてインピーダンスの波形が変化した場合でも修正することができる。
【0063】
ここで、前記修正はボイドの発生による水質の変化以外に、例えば温度等の環境変化等の場合も同様に対応することができる。
また、長さ方向の伸縮の変化のみならず、波形の全体的な傾きを修正することも有効である。
【0064】
(2)第2の信号処理方法
定常状態(漏洩が発生していない状態)のケーブルインピーダンスを定期的に測定し、原波形を管理する(図12参照)。
次に、浸漬ケーブルの始点及び終点のケーブルインピーダンス測定値のレベル差を、予め設定した規定値と比較する。この差分の結果を図13に示す。
【0065】
図13に示す第2の信号処理に係る差分データでは、図12のような生値のみとは異なり、距離方向のケーブルのインピーダンスを考慮しているので、全体としての異常の有無の判断が向上する。
【0066】
そして、予め規定していた規定値(例えば差分信号:−30)を超えて減少した時に「漏洩発生の可能性有り」の判断を行なう。また、規定値以内の時には「定常状態」である判断を行なう。
【0067】
前記第1の信号処理方法では、図12において、初期のインピーダンス分布が均一でない場合、測定結果の差分を単にとるだけではサンプリングのずれ等による影響から、差分値の大小が発生してしまうことがある。例えばSin関数の位相がずれた2つの差分を計算すると、Sinの微分値が最大のところで、差分値が最大となる。
これに対して、第2の信号処理方法では、このような位相のずれによって生じる信号ずれによる誤検知を防止できる。
【0068】
このように、第2の信号処理ではケーブルの距離方向の信号の変化を検知することで、全体としての漏洩の異常の有無を判断することができる。
【0069】
(3)第3の信号処理方法
第1の信号処理又は第2の信号処理において、漏洩可能性有りの時には、更に以下の信号処理を行なう。
先ず、ケーブルのインピーダンスを定期的に測定し、順次以下の処理を施す。
a)第2の信号処理の平滑化処理を行なう。この平滑化処理は、M点(例えば5点)移動平均処理を行ない、その結果を差分・平均処理とする(図14参照)。
b)次に、図14の差分データより信号速度算出を行なう。例えばケーブル有効範囲内をスタート点より移動式N点二次曲線(下記式(1))の傾きを、例えば微分処理にて求め(下記式(2))、局所的な信号の変化を信号速度として算出する(図15)。
二次近似式:y=ax2+bx+c ・・・(1)
速度算出:dy/dx=2ax+b ・・・(2)
ここで、x値はN点のセンターの距離値である。
【0070】
図15に示すように、この信号速度の変化(おおきな落ち込みがある)より、漏洩有りの確定的判断と漏洩位置の特定を行なう。
前記信号の速度データより、必要に応じて警報を出力する。
また、図16に示すように、例えば複数の閾値を設け、段階的に海水漏洩注意(レベル1)、軽故障(レベル2)、重故障(レベル3)の警報種別と漏洩箇所を発信する。
【0071】
このように、第3の信号処理を行なうようにすることで、ケーブルのインピーダンス分布から、海水漏洩の程度及び漏洩位置を特定することができる。
【0072】
なお、差分データにおいて、ノイズが少ない場合には、平滑化処理を省略することができる。
【0073】
また、図13に示すような差分データ処理を行なうことなく、直接信号生値(図12)から信号速度算出処理を行い、図15に示すような海水漏洩の程度及び漏洩位置を特定するようにしてもよい。
【0074】
また、図17に示すように、信号処理をディスプレー状に表示することで、回収槽105の特定の個所での信号121の強度を示すようにして、視覚的な判断を迅速に行なうようにするようにしてもよい。
【0075】
次に、液漏れ検出装置を用いた海水漏洩の検出方法について説明する。
図18は液漏れ検出装置を用いた海水漏洩の検出方法を実施するフロー図である。
図18に示すように、液漏れ検出装置の警報の有無を判断する(S101)。
警報が有る場合には、海水濃度の高い位置及びその拡がりを確認する(S102)。
確認後、海水がリークしている系統の特定を行なう(S103)。
次いで、系統の停止を行なう(S104)。
【0076】
また、ステップS101において、警報が無い場合には、液漏れ検出装置の警報レベルではないが、特定位置での異常な信号挙動を確認する(S105)。
挙動が無い場合には、引き続き液漏れ検出装置での警報の有無を確認する(S101)。
一方、挙動が有る場合には、特定の系統の停止の有無を判断する(S106)。
停止と判断した場合には、特定の系統の停止を行なう(S104)。
【0077】
本実施例によれば、復水器の海水漏洩を高感度で安定して検出することが可能となる。
また、海水漏洩を確実に検知可能となり、漏洩の発生箇所の特定が迅速に行なうことができる。
【0078】
また、各種検査装置(塩素濃度計等)と本液漏れ検出装置との併用による海水漏洩の検出方法について説明する。
図19は各種検査装置と液漏れ検出装置とを用いた海水漏洩の検出方法を実施するフロー図である。
図19に示すように、各種検査装置の警報の有無を判断する(S201)。
警報が有る場合には、液漏れ検出装置での警報の有無を判断する(S202)。
前記液漏れ検出装置で警報が有る場合には、海水濃度の高い位置及びその拡がりを確認する(S203)。
確認後、海水がリークしている系統の特定を行ない、次いで、系統の停止を行なう(S204)。
なお、各種検査装置の警報が有る場合でも、液漏れ検出装置での警報が無い場合には、海水の漏洩がないことになるので、引き続き監視を行なう(S205)。
【0079】
これにより、検査装置での警報が誤警報である場合に、迅速な対応が可能となる。
特に、塩素濃度計等においては、気象条件の変化等により、CO2が混入して検査装置でのデータに変動が生じる場合があるが、本液漏れ検出装置との併用により、海水漏洩の有無の瞬時の判断が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上のように、本発明にかかる液漏れ検出センサは、液漏れを広範囲に亙って確実に検出でき、例えば復水器の海水リークを高感度で安定して検出することに用いて適している。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施例1に係る液漏れ検出センサの概略図である。
【図2】実施例2に係る液漏れ検出センサの断面概略図である。
【図3】実施例3に係る液漏れ検出センサの断面概略図である。
【図4】実施例4に係る液漏れ検出センサの断面概略図である。
【図5】実施例5に係る液漏れ検出センサの断面概略図である。
【図6】実施例6に係る液漏れ検出センサの断面概略図である。
【図7】実施例7に係る液漏れ検出センサの断面概略図である。
【図8】実施例7に係る液漏れ検出センサのTDR計測結果図である。
【図9】実施例8に係る液漏れ検出装置の概略図である。
【図10】実施例8に係る吊り具の概略図である。
【図11】海水リークの検知を模擬した場合のTDR計測試験結果を示す図である。
【図12】海水リークの検知を模擬した場合のTDR計測試験の信号生値の結果図である。
【図13】海水リークの検知を模擬した場合のTDR計測試験結果を示す差分信号図である。
【図14】海水リークの検知を模擬した場合のTDR計測試験結果を示す平滑化処理した差分信号図である。
【図15】海水リークの検知を模擬した場合のTDR計測試験結果の信号速度算出結果図である。
【図16】判定と警報メッセージの一例を示す図である。
【図17】警報メッセージの一例を示すディスプレー状のイメージ図である。
【図18】液漏れ検出装置による海水漏洩の検出方法を実施するフロー図である。
【図19】各種検査装置と液漏れ検出装置とを用いた海水漏洩の検出方法を実施するフロー図である。
【図20】従来技術の漏れ検出装置の概略図である。
【図21】従来技術のTDR計測試験装置を示す図である。
【図22】従来技術のTDR計測試験結果を示す図である。
【図23】従来技術のTDR計測試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
100 液漏れ検出センサ
101 復水器
102 海水
103 凝縮水
104−1、104−2 導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中の液質の変化を検出する一対の導線からなる液質センサであって、
前記溶液中に設置される一対の導線の両方の導線が、少なくとも一部を露出するように絶縁材が存在してなることを特徴とする液質センサ。
【請求項2】
請求項1において、
前記液質の変化が、一対の導線が設置される溶液とは異なる溶液の落下又は侵入又は拡散によるものであることを特徴とする液質センサ。
【請求項3】
請求項1において、
前記液質の変化が、一対の導線が設置される溶液を励起させる媒体の侵入によるものであることを特徴とする液質センサ。
【請求項4】
請求項2において、
液漏れ検出の対象機器の下方に設置されると共に、漏れ液とは性質の異なる溶液中内に設置されてなることを特徴とする液質センサ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
前記絶縁材の露出部が導線の軸方向に亙って、所定間隔をもって形成されてなることを特徴とする液質センサ。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
前記絶縁材の露出部が導線の軸方向に亙って形成されてなることを特徴とする液質センサ。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
前記絶縁材の比誘電率が3以下であることを特徴とする液質センサ。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
一対の導線と、
一対の導線を覆う絶縁部と、
該絶縁部の一部に形成され、一対の導線の一部を各々露出する溝部とからなる液質センサ。
【請求項9】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
一対の平板状の導線と、
導線の少なくとも端面を露出するように一対の導線を絶縁する絶縁部とからなる液質センサ。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
平板状又は芯状の導線と略コの字状の導線と、
前記平板状又は芯状の導線を略コの字状の導線の内部に配設すると共に前記平板状又は芯状の導線の一部を露出部としつつその周囲を絶縁する絶縁部とからなる液質センサ。
【請求項11】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
芯状の導線と、該芯状の導線の周囲に絶縁材を介して配設される外被状の導線と、
該外被状の導線と絶縁材の一部を切欠く溝部を形成し、前記芯状の導線の一部を露出してなる液質センサ。
【請求項12】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
芯状の導線と、該芯状の導線の周囲に絶縁材を介して配設される網状の導線と、
前記絶縁材の一部を切欠く溝部を形成し、前記芯状の導線の一部を露出してなることを特徴とする液質センサ。
【請求項13】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
芯状の導線と、該芯状の導線の周囲に断面矩形状又は円形の複数の中実状又は中空状の絶縁材を介して配設される網状の導線とからなることを特徴とする液質センサ。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一つにおいて、
一対の導線がケーブル状であることを特徴とする液質センサ。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか一つの液質センサと、
前記一対の導線の間にパルス電圧を印加してから各導線の間に反射電圧が戻るまでの時間に基づいて、前記液質変化位置を特定する液液質位置特定装置と具備することを特徴とする液質検出装置。
【請求項16】
請求項15において、
前記対象機器が復水器であると共に、前記液漏れ液が海水であることを特徴とする液質検出装置。
【請求項17】
請求項16の液質検出装置を用い、
先ず、漏洩が発生していない定常状態の導線のインピーダンスを定期的に測定し、信号生値と距離との関係からなる原波形を管理し、
前記導線のインピーダンス測定値と予め設定した規定値とを比較し、
規定値を超えてインピーダンスが変化した時には、漏洩発生の可能性有る旨の判断を行なうと共に、規定値以内の時には定常状態である旨の判断を行なうことを特徴とする液質検出方法。
【請求項18】
請求項17において、
インピーダンス波形の伸縮及び傾きを修正し、その後判断を行なうことを特徴とする液質検出方法。
【請求項19】
請求項17において、
導線の浸漬の始点及び終点のインピーダンス測定値のレベル差を、予め設定した規定値と比較し、この差分の結果より、規定値を超えてインピーダンスが変化した時には、漏洩発生の可能性有る旨の判断を行なうと共に、規定値以内の時には定常状態である旨の判断を行なうことを特徴とする液質検出方法。
【請求項20】
請求項17において、
次いで、計測する導線の有効範囲内をスタート点より移動式N点K次曲線の傾きを算出し、その後局所的な信号の変化を信号速度として算出し、この信号速度の変化より、漏洩有りの判断と漏洩位置の特定を行なうことを特徴とする液質検出方法。
【請求項21】
請求項20において、
次いで導線有効範囲内をスタート点より移動式N点K次曲線の傾きを算出し、その後局所的な信号の変化を信号速度として算出し、この信号速度の変化より、漏洩有りの判断と漏洩位置の特定を行なうことを特徴とする液質検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2006−267095(P2006−267095A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49329(P2006−49329)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】