説明

淡水化装置

【課題】低コストで製造することができるとともに、従来に比べ、エネルギーロスが少なく、海水や汚染水等の原水から効率のよく蒸留水を得ることができる淡水化装置を提供することを目的としている。
【解決手段】蒸発缶2aの内部を、伝熱板22を介して上下方向に仕切ることによって2つの蒸留室20a,20bを形成し、下段の蒸留室20aに供給された水W1を加熱する加熱手段3を設け、上段の蒸留室20bにこの蒸留室20b内の水蒸気を凝縮させる冷却手段4を設けるとともに、下段の蒸留室20aで発生した水蒸気を下段の蒸留室20aの天井面を構成する伝熱板22の下面で凝縮させて回収するとともに、水蒸気の凝縮によって発生した凝縮熱が伝熱板22を介して上段の伝熱板20b上で受けられた水W1に伝わるようにした

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水・塩分を含んだ水・工業排水などの原水から蒸留法により淡水を得る淡水化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水資源の枯渇問題を受け、全世界的に淡水化技術への関心が高まっている。現在工業的に主流となっている淡水化方法は、熱源によって原水を蒸発させ、発生した水蒸気を凝縮させることによって凝縮水、すなわち、蒸留水を得るいわゆる蒸発法と、逆浸透膜を通して原水を高圧でろ過することによって脱塩された淡水を得るいわゆる膜ろ過法が存在する。蒸発法のうち、容器内を減圧し、蒸留室を多重化したいわゆる多重効用減圧蒸留方式(MED)は太陽熱のエネルギーを直接的に利用できるほか、ヒートポンプなどの熱源を利用して効率的に淡水化できる可能性があることから、近年盛んに研究されている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
ところで、多重効用減圧蒸留においてエネルギー効率の指標として、蒸留成績係数(Coefficient Of Performance of Distillation、以下、「COPD」と記す)がある。
すなわち、COPDとは、以下の式(1)で求めることができ、2重効用(蒸発缶が2つ)の場合、最大で2となる。
【0004】
【数1】

(式(1)中、Lは蒸発潜熱 [kJ・kg-1] 、ΣMoutは蒸留水量 [kg]、ΣQinは供給熱量 [kJ]をあらわす。)
【0005】
しかしながら、非特許文献1や特許文献1のようなシェルアンドチューブ型の熱交換器を用いて高いエネルギー効率を実現するためには、チューブの全長を長くとるとともに、チューブには高価なチタンを用いる必要があり、装置が複雑になるとともに装置の製造コストの面で問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3698730号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】K. Uda et al., 1994 ASME/JSME/JSES International Solar Energy Conf, ASME Book, No.00837, 513-519 (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みて、従来に比べ、低コストで製造することができるとともに、エネルギーロスが少なく、海水や汚染水等の原水から効率のよく蒸留水を得ることができる淡水化装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明にかかる淡水化装置は、2つ以上の蒸留室を備え、各蒸留室内に原水を供給するとともに減圧状態にして、1つの蒸留室内の原水を加熱手段によって加熱して、原水中の水を蒸発させる一方、前記1つの蒸留室以外の蒸留室内に設けられた原水の加熱源として他の蒸留室で発生した水蒸気の凝縮によって放出される凝縮熱を用いるようにした淡水化装置であって、蒸発缶の内部を、伝熱板を介して上下方向に仕切ることによって複数の蒸留室を形成し、最下段の蒸留室に供給された原水を加熱する加熱手段を設け、最上段の蒸留室にこの蒸留室内の水蒸気を凝縮させる冷却手段を設けるとともに、下段の蒸留室で発生した水蒸気を下段の蒸留室の天井面を構成する伝熱板の下面で凝縮させて回収するとともに、水蒸気の凝縮によって発生した凝縮熱が伝熱板を介して上段の伝熱板上で受けられた原水に伝わるようにしたことを特徴としている。
【0010】
本発明において、蒸発缶の材質は、特に限定されないが、蒸留室内が外部雰囲気の影響を受けないように、断熱性のできるだけ高い方が好ましいこと、また、装置の軽量化や低コスト化を考慮すると、樹脂が好ましい。
蒸発缶を形成する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、これらの発泡体、繊維強化体、これらの複合体が挙げられ、補強材として金属材料を組み合わせても構わない。
【0011】
伝熱板の材質としては、熱伝導性の高いものが好ましく、銅、アルミニウム、銀、これらの合金が挙げられ、コスト及び熱伝導性を考慮すると銅が好ましい。
伝熱板は、特に限定されないが、その下面が水平面に対し傾斜していることが好ましい。すなわち、傾斜によって伝熱板の下面で凝縮した凝縮水が伝熱板の下面に沿って下流側に流れる。そして、下流側に凝縮水の受けを設けておくことによって容易に凝縮水を回収することができる。
【0012】
伝熱板は、伝熱面積を大きくするために、波板状としてもよいし湾曲させるようにしても構わない。
伝熱板は、伝熱面積を大きくするため、あるいは、伝熱板上面に受けられた原水の沸騰を促進させるために粗面化しても構わない。
【0013】
また、伝熱板の下面は、親水化されていることが好ましい。すなわち、凝縮した水の水滴が、伝熱板の下面を覆ってしまうと、凝縮により発生する凝縮熱が伝熱板上面に受けられた上の段の蒸留室内の原水に伝わりにくくなる。そこで、凝縮して発生した水滴が伝熱板の下面からすぐに流れ落ちるよう、凝縮面は親水化する。
伝熱板を親水化する方法としては、金属板を親水化できる方法であれば、特に限定されないが、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、レーザー照射、電子線照射、化学処理(エッチング)、コーティング(無機親水化処理剤、有機親水化処理剤、光触媒塗料)などが挙げられる。
【0014】
なお、伝熱板の下面は、水平面に対して傾斜していることが好ましい。すなわち、凝縮して発生した水滴が傾斜により伝熱板の下面に沿って傾斜の下流側に流れ、凝縮した水の水滴が、伝熱板の下面を覆ってしまうことを防止できる。また、凝縮した水滴が傾斜の下流側で纏まるため、凝縮水を回収しやすくなる。
伝熱板の下面を傾斜させる方法としては、特に限定されず、蒸発缶そのものを傾斜させる方法、伝熱板として、下面が傾斜構造(例えば、中央から周壁に向かって、徐々に下がる湾曲面なども含む)となったものを用いる方法、伝熱板が傾斜した状態で蒸発缶内を伝熱板によって仕切る方法などが挙げられる。
【0015】
伝熱板の上面は、撥水処理されていることが好ましい。すなわち、伝熱板の上面が撥水化処理されていると、伝熱板の上面での原水の沸騰が活発におこり、よりエネルギー効率よく水蒸気を発生させることができる。
撥水処理の方法としては、特に限定されないが、フッ素系処理、有機ケイ素化合物処理、電子線照射などが挙げられる。
【0016】
本発明の淡水化装置は、特に限定されないが、各蒸留室の原水溜まり部と、伝熱板との間に原水の沸騰によって発生する原水飛沫が、凝縮水に混入することを防止するトラップを設けることが好ましい。
トラップの構造は、不純物を含む原水飛沫が、凝縮水に混入することを防止できれば特に限定されないが、水蒸気が効率よく伝熱板に到達して、伝熱板で凝縮した水滴を効率よく回収できることから、例えば、中央に通気孔を有する上に向かって凸の略傘形をしていて、トラップ上面が凝縮水の受け部となっている構造とすることが好ましい。
【0017】
上記通気孔の孔径は、孔径が大きすぎると伝熱板で凝縮した液滴が再び原水に戻ってしまう可能性があり、逆に小さすぎると原水から発生した水蒸気が伝熱板側に移動することを阻害する。しかし、蒸発缶の口径やトラップの傘形の傾斜角度等によって、最適な径が異なるため、最適な口径は、適宜経験的に求められる。
また、トラップの通気孔と原水の水面との間隔が狭く、原水の飛沫が凝縮水に混入する可能性がある場合、上記トラップの通気孔部分には、さらに、デミスタを設けるようにしてもよい。
【0018】
本発明の淡水化装置は、各蒸留室内が減圧されるようになっているが、蒸留室内の圧力は、特に限定されないが、不凝縮ガスが排気され、5kPa程度の水の飽和蒸気圧力に程度まで減圧することが好ましい。
本発明の淡水化装置は、最も下段の蒸留室の原水は、加熱手段によって加熱される。この加熱手段の熱源としては、特に限定されないが、例えば、電気ヒーター、太陽熱、廃熱、ヒートポンプ、等が挙げられ、エネルギーコストを考慮すると太陽熱、廃熱やヒートポンプが好ましい。
ちなみに、ヒートポンプの場合、下段の蒸留室に加熱側を配置し、上段の蒸留室に冷却側を配置すれば、冷却装置を別途設ける必要がなくなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる淡水化装置は、以上のように、蒸発缶の内部を、伝熱板を介して上下方向に仕切ることによって複数の蒸留室を形成しただけの単純な構造であるため、低コストで製造できる。
そして、下段の蒸留室で発生した水蒸気を下段の蒸留室の天井面を構成する伝熱板の下面で凝縮させて回収するとともに、水蒸気の凝縮によって放出される凝縮熱が伝熱板を介して上段の伝熱板上で受けられた原水に伝わるようにしたので、凝縮熱が効率よく直上の蒸留室内の原水に伝わり、少ない消費エネルギーで原水を高効率に蒸留できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明にかかる淡水化装置の1つの実施の形態を模式的にあらわす図である。
【図2】本発明にかかる淡水化装置の1つの実施の形態を模式的にあらわす図である。
【図3】試験例1において測定した蒸発収量を対比してあらわすグラフである。
【図4】試験例1において測定した蒸発収量から求めたCOPDを対比してあらわすグラフである。
【図5】試験例2において測定した蒸発収量を対比してあらわすグラフである。
【図6】試験例2において測定した蒸発収量から求めたCOPDを対比してあらわすグラフである。
【図7】試験例3において測定した蒸発収量から求めたCOPDを対比してあらわすグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明を、その実施の形態をあらわす図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1は、本発明にかかる淡水化装置の1つの実施の形態をあらわしている。
図1に示すように、この淡水化装置1aは、蒸発缶2aと、加熱手段3と、冷却手段4と、減圧手段5と、を備えている。
【0022】
蒸発缶2aは、上下が天板21aと底板21bとによって閉じられた円筒状をしている合成樹脂製の本体21が、その内部を伝熱板22によって蒸留室20aと蒸留室20bに仕切られている。
伝熱板22は、銅などの高熱伝導材料からなり、上下面が粗面化されているとともに上面が撥水処理され、下面が親水化処理されている。
各蒸留室20a,20bは、トラップ23によって上下が仕切られている。
【0023】
トラップ23は、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート等の合成樹脂で形成されていて、中央部に通気孔23aが穿設されるとともに中央部から周縁部に向かって徐々に低くなる略傘形状をしている。
トラップ23の通気孔23a部分は、デミスタ24が設けられている。
デミスタ24は、デミスタ本体24aと、邪魔板24bとを備えている。
デミスタ本体24aは、金属製の網から形成した通気孔23aと略同径の筒状をしている。
デミスタ本体24aを構成する網の目の大きさは、水蒸気がスムーズに通過するとともに、原水飛沫が通過できない大きさに設定されている。
邪魔板24bは、デミスタ本体24aの筒の下端を塞ぎ、原水W1の沸騰によって発生する原水W1の飛沫がデミスタ本体24a内に入り込まないように邪魔するようになっている。
なお、トラップの通気孔と原水の水面との間隔が広いなど、原水の飛沫が凝縮水に混入する可能性がない場合には設けなくても構わない。
【0024】
各蒸留室20a,20bのトラップ23より下側の周壁には、原水供給管7aとドレン管7bとが接続されている。
原水供給管7aは、図示していないが、原水タンクに接続されていて、原水タンクから海水や汚濁水等の原水W1を蒸留室20a,20b内に供給するようになっている。
ドレン管7bは、蒸留によって濃縮された濃縮水及びこの濃縮水に含まれる固形物を蒸留室20a,20bから排出するようになっている。
【0025】
加熱手段3は、最下段の蒸留室20aの底に沿って設けられた熱交換用配管31と、この熱交換用配管に熱媒体を供給する熱媒体供給手段(図示せず)とを備えている。
熱交換用配管31は、ステンレス鋼などの耐食性に優れた金属材料から形成されていて、蒸留室20aの底に沿って蛇行するように、あるいは、渦状に設けられている。
【0026】
冷却手段4は、最上段の蒸留室(この実施の形態では、2段目の蒸留室)20bの天井に沿って設けられた冷却管41と、この冷却管41に冷媒を循環させるチラーユニット(図示せず)とを備えている。
冷却管41は、ステンレス鋼などの耐食性に優れた金属材料から形成されていて、蒸留室20bの天井に沿って蛇行するように、あるいは、渦状に設けられている。
【0027】
減圧手段5は、真空ポンプ5aと、吸引配管5bとを備えている。
吸引配管5bは、2つの分岐管路51,51に分岐されている。
一方の分岐管路51は、下段の蒸留室20aのトラップ23の最も低くなった部分を臨む位置で、その一端が蒸留室20aと接続されている。
他方の分岐管路51は、上段の蒸留室20bのトラップ23の最も低くなった部分を臨む位置で、その一端が蒸留室20bと接続されている。
【0028】
そして、両分岐管路51は、それぞれ上流側(蒸留室20a,20b側)と、下流側(真空ポンプ5a側)とが中間に設けられた凝縮水溜め容器51aを介して分離されていて、蒸留室20a,20bのトラップ23の上に溜まった凝縮水W2が蒸留室20a,20bから吸引されて凝縮水溜め容器51aに溜まるが、蒸留室20a,20b内から吸引された空気は凝縮水溜め容器51aの上部空間を通り、真空ポンプ5a側へ排気されるようになっている。
図1中、6は圧力計である。
【0029】
つぎに、この淡水化装置1aを用いた原水W1の淡水化方法の原理を詳しく説明する。
この淡水化装置1aを用いた原水W1の淡水化方法は、まず、原水供給管7aを介して蒸留室20a,20b内にそれぞれ所定のレベルまで原水W1を供給する。
そして、真空ポンプ5aを稼働して各蒸留室20a,20b内を不凝縮ガスが排気され、5kPa程度の水の環境温度付近における飽和蒸気圧力になるまで減圧する。
また、同時に加熱手段3によって下段の蒸留室20a内の原水W1を加熱する。この加熱によって、蒸留室20a内は、不凝縮ガスが排気され、5kPa程度の水の環境温度付近における飽和蒸気圧力に減圧されているため、蒸留室20a内の原水W1は環境温度付近かつ小温度差で容易に沸騰が起こり、蒸留室20a内の原水W1中の水が水蒸気となって蒸発する。
蒸留室20a内で、蒸発した水蒸気は、図1において矢印で示すように、デミスタ24を介してトラップ23の中央に設けられた通気孔23aを通り、蒸留室20aのトラップ23の上方空間内で拡散して伝熱板22の下面全体に接触する。
伝熱板22の下面に接触した水蒸気は、伝熱板22の下面で凝縮する。そして、凝縮水W2がトラップ23上面に受けられ、トラップ23の傾斜によって蒸発缶2aの内壁面に沿う部分に溜まる。
トラップ23上面に溜まった凝縮水W2は、分岐管路51を介して凝縮水溜め容器51aに吸引されて溜められる。
【0030】
一方、水蒸気の凝縮によって、凝縮熱が発生するが、この凝縮熱は、伝熱板22を介して伝熱板22の上面に受けられた上段の蒸留室20bの原水W1に伝わる。
上段の蒸留室20b側の原水W1は、伝熱板22を介して伝わる凝縮熱によって加熱され、下段の蒸留室20aの原水W1と同様に、環境温度付近かつ小温度差で容易に沸騰して、原水W1中の水が水蒸気となって蒸発する。
このようにして上段の蒸留室20bで発生した水蒸気は、図1において矢印で示すように、デミスタ24を介してトラップ23の中央に設けられた通気孔23aを通り、蒸留室20bのトラップ23の上方空間内で拡散し、冷却手段4によって冷却されて凝縮する。そして、凝縮水W2がトラップ23上面に受けられ、トラップ23の傾斜によって蒸発缶2aの内壁面に沿う部分に溜まる。
トラップ23上面に溜まった凝縮水W2は、分岐管路51を介して凝縮水溜め容器51aに吸引されて溜められる。
【0031】
この淡水化装置1aは、以上のように、蒸発缶2a内を伝熱板22で上下方向に仕切るだけの簡単な構造であるので、低コストで製造できる。
しかも、下段の蒸留室20a内で発生した水蒸気が凝縮することのよって発生する凝縮熱が伝熱板22を介して直ちに上段の蒸留室20bの原水W1の加熱に用いられるのでエネルギー効率がよい。
また、不凝縮ガスが排気されるとともに、5kPa程度の水の飽和蒸気圧力に減圧され、蒸留室20a内の原水W1は環境温度付近かつ小温度差で容易に沸騰が起こるので、蒸発缶2aを熱に弱い合成樹脂で形成しても蒸発缶2aが熱変形を起こすといった問題がない。
また、蒸発缶2aを合成樹脂で形成したので、金属材料に比べ、熱伝導性が低く、環境への熱損失および温度上昇による顕熱損失を抑制することができるとともに、装置全体の軽量化を図ることができる。
【0032】
図2は本発明にかかる淡水化装置の第2の実施の形態をあらわしている。
図2に示すように、この淡水化装置1bは、蒸発缶2b内が2つの伝熱板22を介して3つの蒸発室20c〜20e に仕切られていて、最下段の蒸発室20cに加熱手段3を備え、最上段の蒸発室20eに冷却手段4が設けられ、中段の蒸発室20dには加熱手段3及び冷却手段4が設けられていないとともに、蒸発缶2bが蒸発缶2bの底板21bの下方にスペーサ8を設けて、伝熱板22の下面が水平面に対して一方向(この実施の形態では、図2で左方向に)に向かって5度程度の下り勾配となるように保持されている以外は、上記淡水化装置1aと同様になっている。
【0033】
この淡水化装置1bは、上記のように伝熱板22の下面が水平面に対して一方向に向かって5度程度の下り勾配となるように保持されているので、伝熱板22の下面で凝縮した凝縮水W2は、伝熱板22の下面に沿って下り方向側に直ちに流れる。したがって、伝熱板22の下面において常に安定して水蒸気の凝縮が行われる。
【0034】
本発明は、上記の実施の形態に限定されない。例えば、上記の実施の形態では、加熱手段として、熱交換器を最下段の蒸留室内に設けているが、最下段の蒸留室の底を伝熱板として、この伝熱板と蒸発缶の底との間に加熱媒体の充填可能な空間を設け、この空間内に加熱媒体を循環させて加熱するようにしても構わない。また、蒸留室は3段以上設けるようにしても構わない。
【0035】
以下に、本発明の具体的な実施例を詳しく説明する。
〔試験ユニットの作製〕
デミスタ24を設けなかった以外は、図1に示す淡水化装置1aと同様の形状をした上下2段の蒸留室20a,20bを備え、各部が以下の材質及び寸法条件の淡水化装置の試験ユニットA〜Jを作製した。
【0036】
(試験ユニットA)
〔蒸発缶2a〕
材質:透明塩化ビニル樹脂
形状及び大きさ:肉厚10mm、内径400mmの円筒状で、底板21b上面から天板21a下面までの高さが500mmである円筒形状
〔伝熱板22〕
材質:銅平板
大きさ:伝熱面積0.13 m2、肉厚0.5 mm
仕切り位置:蒸発缶2aの底板上面から200mmの高さ位置
〔下段の蒸留室20aのトラップ23〕
材質:ポリ塩化ビニル
傾斜角度:10°
通気孔径:内径100mm
最下端の高さ位置:蒸発缶2aの底板21b上面から100mmの高さ位置
〔上段の蒸留室20bのトラップ23〕
材質:ポリ塩化ビニル
傾斜角度:10°
通気孔径:内径100mm
最下端の高さ位置:伝熱板22から100mmの高さ位置
〔加熱手段3〕
最大出力3kWの電気ヒーター
〔冷却手段4〕
伝熱面積0.12 m2、冷却水循環量2.3 L/minのクーラー
【0037】
(試験ユニットB)
伝熱板22として、下面(下段の蒸留室20a側の面)を150番の紙やすりで研磨して粗面化した平銅板を用いた以外は、試験ユニットAと同様にした。
【0038】
(試験ユニットC)
伝熱板22として、下面(下段の蒸留室20a側の面)を150番の紙やすりで研磨して粗面化するとともに、粗面化後さらに下面に撥水ワックス(協和興材社の商品名Permaluxe Super Compound)を、表面を完全に被覆するように適量塗布した平銅板を用いた以外は、試験ユニットAと同様にした。
【0039】
(試験ユニットD)
伝熱板22として、下面(下段の蒸留室20a側の面)に撥水ワックス撥水ワックス(協和興材社の商品名Permaluxe Super Compound)を、表面を完全に被覆するように適量塗布した平銅板を用いた以外は、試験ユニットAと同様にした。
【0040】
(試験ユニットE)
伝熱板22として、下面(下段の蒸留室20a側の面)に親水ワックス(錦之堂社の商品名WATER・X)を、表面を完全に被覆するように適量塗布した平銅板を用いた以外は、試験ユニットAと同様にした。
【0041】
(試験ユニットF)
伝熱板22として、下面(下段の蒸留室20a側の面)を150番の紙やすりで研磨して粗面化するとともに、粗面化後さらに下面に親水ワックス(錦之堂社の商品名WATER・X)を、表面を完全に被覆するように適量平銅板を用いた以外は、試験ユニットAと同様にした。
【0042】
(試験ユニットG)
伝熱板22として、上面(上段の蒸留室20b側の面)を150番の紙やすりで研磨して粗面化した平銅板を用いた以外は、試験ユニットAと同様にした。
【0043】
(試験ユニットH)
伝熱板22として、上面(上段の蒸留室20b側の面)に撥水ワックス(協和興材社の商品名Permaluxe Super Compound)を、表面を完全に被覆するように適量塗布した平銅板を用いた以外は、試験ユニットAと同様にした。
【0044】
(試験ユニットI)
伝熱板22として、上面(上段の蒸留室20b側の面)を150番の紙やすりで研磨して粗面化するとともに、粗面化後さらに上面に撥水ワックス(協和興材社の商品名Permaluxe Super Compound)を、表面を完全に被覆するように適量塗布した平銅板を用いた以外は、試験ユニットAと同様にした。
【0045】
(試験ユニットJ)
伝熱板22として、下面(下段の蒸留室20a側の面)を150番の紙やすりで研磨して粗面化するとともに、粗面化後さらに下面に親水ワックス(錦之堂社の商品名WATER・X)を、表面を完全に被覆するように適量塗布し、かつ、上面(上段の蒸留室20b側の面)を150番の紙やすりで研磨して粗面化するとともに、粗面化後さらに上面に撥水ワックス(協和興材社の商品名Permaluxe Super Compound)を、表面を完全に被覆するように適量塗布した平銅板を用いた以外は、試験ユニットAと同様にした。
【0046】
(試験例1)
上記試験ユニットA〜Fのそれぞれの試験ユニットについて、下段の蒸留室20aに原水としての水道水5L、上段の蒸留室20bに原水としての水道水8Lを注入し、真空ポンプ5aを作動させて各蒸留室20a,20b内を水の飽和蒸気圧力まで減圧した後、スライダックを用いて500Wの出力に調整した上記電気ヒーターを用いて下段の蒸留室20a内の原水を加熱するとともに、クーラーを作動させ、各部の温度が一定になったのを確認してから凝縮水の回収を始め、1時間後に試験ユニットを止めて蒸留収量(凝縮水収量)を測定する試験をそれぞれ3回行った。
そして、上記試験例1で求めた各蒸留収量を比較して図3に示すとともに、各蒸留収量から求めたCOPDを比較して図4に示した。
なお、図3及び図4において、ノーマルは試験ユニットA,ヤスリは試験ユニットB,ヤスリ+撥水ワックスは試験ユニットC,撥水ワックスは試験ユニットD,親水ワックスは試験ユニットE,ヤスリ+親水ワックスは試験ユニットFをそれぞれあらわす。
図3及び図4から、本発明の淡水化装置は、COPDの値が大きくエネルギー効率が高いことがよくわかる。
また、伝熱板の下面を粗面化するあるいは親水化すればよりエネルギー効率があがり、粗面化及び親水化を併用すれば安定したエネルギー効率の向上が見られることがよくわかる。
さらに、各試験ユニットB〜Fの伝熱板22の下面側(凝縮側)の状態を蒸発缶2aの外側から目視により観察したところ、粗面化した試験ユニットB、親水化した試験ユニットE、粗面化するとともに親水化した試験ユニットFについては下面が膜凝縮の様相を呈し、凝縮した水がスムーズに落ち、凝縮が促進されていた。一方、撥水化した試験ユニットC,Dについては下面が滴状凝縮であった。本来、滴状凝縮は水滴離脱の際に伝熱板22の下面の凝縮水W2が拭い去られ、伝熱板22の下面が露出するというのが特徴であるが、今回の実験では、水滴が発生した場に停滞したままで、離脱することがあまり見受けられなかった。
このことから、伝熱板22の下面は、粗面化、親水化あるいは粗面化及び親水化することが好ましいと考えられる。
【0047】
(試験例2)
上記試験ユニットA及び試験ユニットG〜Iのそれぞれの試験ユニットについて、下段の蒸留室20aに原水としての水道水5L、上段の蒸留室20bに原水としての水道水8Lを注入し、真空ポンプ5aを作動させて各蒸留室20a,20b内を水の飽和蒸気圧力まで減圧した後、スライダックを用いて500Wの出力に調整した上記電気ヒーターを用いて下段の蒸留室20a内の原水を加熱するとともに、クーラーを作動させ、各部の温度が一定になったのを確認してから凝縮水の回収を始め、1時間後に試験ユニットを止めて蒸留収量(凝縮水終了)を測定する試験をそれぞれ3回行った。
そして、上記試験例2で求めたで求めた各蒸留収量を比較して図5に示すとともに、各蒸留収量から求めたCOPDを比較して図6に示した。
なお、図5及び図6において、ノーマルは試験ユニットA,ヤスリは試験ユニットG,撥水ワックスは試験ユニットH,ヤスリ+撥水ワックスは試験ユニットIをそれぞれあらわす。
図5及び図6から、本発明の淡水化装置が、COPDの値が大きくエネルギー効率が高いことがよくわかる。
また、伝熱板の上面を粗面化するあるいは撥水化すればよりエネルギー効率があがり、粗面化及び撥水化を併用すれば安定したエネルギー効率の向上が見られることがよくわかる。
さらに、上記試験ユニットG〜Iのそれぞれの試験ユニットについて、各試験ユニットの伝熱板22の上面側(沸騰側)の状態を蒸発缶2aの外側から目視により観察したところ、粗面化した試験ユニットGの場合、沸騰開始直後の気泡の数は少ないものの、定常状態になった際に他に比べて表面上の多くの場所から気泡が発生した。また、撥水化した試験ユニットHの場合、沸騰開始直後から他と比較して気泡の発生量が多かった。しかし、原水温度が定常状態に達すると沸騰が起こる場所が限られていた。粗面化及び撥水化した試験ユニットIの場合、上記2つの特徴が現れ、活発に沸騰が起きた。
このことから伝熱板22の上面は、粗面化及び撥水化することが好ましいと考えられる。
【0048】
(試験例3)
上記試験ユニットA及び試験ユニットJのそれぞれの試験ユニットについて、下段の蒸留室20aに原水としての水道水5L、上段の蒸留室20bに原水としての水道水8Lを注入し、真空ポンプ5aを作動させて各蒸留室20a,20b内を水の飽和蒸気圧力まで減圧した後、スライダックを用いて300W〜1000Wまで、100W刻みで出力を変化させて上記電気ヒーターを用いて下段の蒸留室20a内の原水を加熱するとともに、クーラーを作動させ、各部の温度が一定になったのを確認してから凝縮水の回収を始め、1時間後に試験ユニットを止めて蒸留収量(凝縮水終了)を測定する試験をそれぞれ行った。
そして、求められた蒸留収量を元にCOPDを演算し、その結果を図7に示した。なお、図7中、non−treated surfaseは、試験ユニットAを、treated surfaseは、試験ユニットJをそれぞれあらわす。
図7に示すように、900Wの熱量を加えた系においては、試験ユニットJはもちろんのこと、試験ユニットAにおいてもかなり高いエネルギー効率を得られるとともに、特に試験ユニットJにおいては、COPDが1.86と、効率100%であるCOPDが2の最大値に略近い高いエネルギー効率が得られることがわかる。また、試験ユニットJについては、900Wの熱量を加えた系において、蒸留収量が約2.7 L/hで、試験ユニットAに比べ33%も蒸留収量が向上していた。
さらに、試験ユニットJの900Wの熱量を加えた系において、クーラーの入口冷却水温度、クーラーの出口冷却水温度、下段の蒸留室20aの原水温度、下段の蒸留室20aの水蒸気温度、上段の蒸留室20bの原水温度、上段の蒸留室20bの水蒸気温度、伝熱板22の下面温度、及び伝熱板22の上面温度のそれぞれの試験開始から終了までの温度変化を調べたところ、最も高温の下段の蒸留室20aの原水温度と、最も低温のクーラー内の冷却水との温度差が最大で約20℃しかなく、比較的小温度差で高効率な蒸留が行われたと判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明にかかる淡水化装置は、特に限定されないが、例えば、海水などの淡水化や砒素などに汚染された井戸水等の淡水化に使用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1a,1b 淡水化装置
2a,2b 蒸発缶
20a,20b,20c,20d,20e 蒸留室
22 伝熱板
23 トラップ
23a 通気孔
24 デミスタ
3 加熱手段
4 冷却手段
5 減圧手段
W1 原水
W2 凝縮水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の蒸留室を備え、各蒸留室内に原水を供給するとともに減圧状態にして、1つの蒸留室内の原水を加熱手段によって加熱して、原水中の水を蒸発させる一方、前記1つの蒸留室以外の蒸留室内に設けられた原水の加熱源として他の蒸留室で発生した水蒸気の凝縮によって放出される凝縮熱を用いるようにした淡水化装置であって、
蒸発缶の内部を、伝熱板を介して上下方向に仕切ることによって複数の蒸留室を形成し、最下段の蒸留室に供給された原水を加熱する加熱手段を設け、最上段の蒸留室にこの蒸留室内の水蒸気を凝縮させる冷却手段を設けるとともに、下段の蒸留室で発生した水蒸気を下段の蒸留室の天井面を構成する伝熱板の下面で凝縮させて回収するとともに、水蒸気の凝縮によって発生した凝縮熱が伝熱板を介して上段の伝熱板上で受けられた原水に伝わるようにしたことを特徴とする淡水化装置。
【請求項2】
蒸発缶が樹脂で形成されている請求項1に記載の淡水化装置。
【請求項3】
伝熱板の下面が水平面に対し傾斜している請求項1または請求項2に記載の淡水化装置。
【請求項4】
伝熱板の上下面の少なくとも一方が粗面化されている請求項1〜請求項3のいずれかに記載の淡水化装置。
【請求項5】
伝熱板の下面が親水処理されている請求項1〜請求項4のいずれかに記載の淡水化装置。
【請求項6】
伝熱板の上面が撥水処理されている請求項1〜請求項5のいずれかに記載の淡水化装置。
【請求項7】
原水の沸騰によって発生する原水飛沫が凝縮水に混入することを防止するトラップが、蒸留室内に設けられている請求項1〜請求項6のいずれかに記載の淡水化装置。
【請求項8】
トラップが、中央に通気孔を有する上に向かって凸の略傘形をしていて、トラップ上面が凝縮水の受け部となっている請求項7に記載の淡水化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−5428(P2011−5428A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151766(P2009−151766)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1) 掲載日 平成21年5月26日 (2) ホームページのアドレス http://www.htsj.or.jp/index−j.html http://www.jstage.jst.go.jp/browse/nhts/_vols/−char/ja
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】