説明

深さ方向の元素濃度分析方法

【課題】深さ方向の元素濃度分析方法に関し、二次イオン質量分析法を実施するに際し、分析領域周辺の情報を取り込むことなく,所望の領域のみの情報を得られるようにして、微量元素の精確な深さ方向分布を知得する。
【解決手段】被測定対象物に照射される一次イオンビームの走査領域の一部において、該被測定対象物に電圧を印加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に一次イオンを照射して二次イオンを引出すことで、微量元素の深さ方向分布を測定する際、所望の情報のみを高精度で取得できる深さ方向の元素濃度分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、二次イオン質量分析法では,加速した一次イオンをコンデンサーレンズなどで絞ってイオンビームとし、そのイオンビームを分析の対象である試料位置に照射するのであるが、イオンビームは、いかに絞っても、その強度には面内分布が存在し、中心部が最大強度になっている。
【0003】
図3は一次イオンをコンデンサーレンズで絞った場合に於ける面内分布を表す線図であり、図に於いて、fは試料表面に於けるイオンビームの集束点、Iは均一な電流密度の下に於ける一次イオンビームの総電流量、jは電流密度、j0 は電流密度の最大値をそれぞれ示していて、イオンビームの電流密度jは中心部分で最も高く、ガウス分布形状を成している。
【0004】
図3の上半部には、一次イオンビームが試料の表面に於ける集束点fで収束する様子が表され、下半部には、一次イオンビームが試料内で分布する様子がビーム像として実線で示され、その実線で示された条件に於いて、電流密度jを均一とした場合の一次イオンビームの分布を破線で示してあり、総電流量IはI=j0 s 2 πで表することができ、そして、j0 は電流密度の最大値である。
【0005】
このようなことから、深さ方向の元素濃度分析を行う場合、イオンビームをそのまま試料に照射すると強度分布に対応した深さの情報を一括して検出することになり,精確な深さ方向元素濃度分布を測定することはできない。
【0006】
そのため、通常、一次イオンビームは、ある一定の領域を走査し、その中心部のみから情報を選択的に抽出する方法、例えば、エレクトリックゲート法、光学アパーチャー法が採用されている。
【0007】
図4はエレクトリックゲート法を実施する場合の説明図であり、図に於いて、11は試料、11Aは一次イオンビームが照射されることに依って発生したクレータ、12は一次イオン走査領域、13はエレクトリックゲートをオンにする領域をそれぞれ示している。
【0008】
エレクトリックゲート法では、走査する一次イオンビームが分析領域に位置するときのみ、二次イオン引き出し電極に電圧が加わって、二次イオンの検出を行う構成になっている。
【0009】
前記したところから明らかなように、エレクトリックゲート法では、一次イオンビームの走査の過程で、一次イオンビームが試料の中心部に達したときのみ、二次イオン引き出し電極に電圧を印加して二次イオンを検出するようにしている。
【0010】
図5は光学アパーチャー法を実施する場合の説明図であり、(A)は一次イオンビームの走査はしない場合、(B)は走査をする場合をそれぞれ示し、図に於いて、1は試料、1Aは分析領域の径、1Bはクレータ、1Cはクレータの深さ、1Dはクレータに生成された段差、2はアパーチャー、2Aはアパーチャーの径、3は一次イオンビーム、3Aは一次イオンビームの径、3Bは一次イオンビームの入射角、4は二次イオンビーム、5はラスタープレートをそれぞれ示している。
【0011】
ここで具体的数値を挙げると、分析領域の径1Aは350μm、クレータ1Bの深さ1Cは1μm、クレータ1Bに生成された段差1Dは0.017μm、アパーチャーの径2Aは50μm、走査しない場合の一次イオンビームの径3Aは250μm、走査する場合の一次イオンビームの径3Aは50μm、一次イオンビームの入射角3Bは45°となっている。
【0012】
光学アパーチャー法では、一次イオンビームを照射している間中、二次イオン引き出し電極に電圧を印加して二次イオンを引き出すのであるが、この引き出し電極の後ろにアパーチャーを置き,試料に於ける中央部からの二次イオンだけを検出系に導入するようになっている。
【0013】
図5(A)に見られるように、一次イオンビーム3で走査しない場合、削れた試料1の底は平坦にならず、分析領域に於いて0.017μmの段差を生ずる。然しながら、図5(B)に見られるように、一次イオンビーム3で走査を行う場合、削れた試料1の底は平坦になる。
【0014】
上記説明したエレクトリックゲート法及び光学アパーチャー法は、それなりに有効であったが、近年の半導体装置などの製造分野に於いては、極浅領域に高濃度の不純物を注入する為、その深さ方向分布は極めて浅く、且つ、急峻である。
【0015】
この為、分析に用いる一次イオンは低加速化が強いられ,ビーム径を絞り難くなってきている。そして、これに伴い、一次イオンの走査で形成されるクレーターのエッジは急峻性を失い、中央部の有効な二次イオン抽出領域は狭くなり、二次イオン抽出領域周辺の情報が紛れ込みやすい状態に在る。
【0016】
近年の半導体分析に於いては、上記説明した二つの抽出法を用いたり、或いは、SIMS分析で試料に電圧を印加することも行われているが(例えば、特許文献1を参照。)、深さ方向分布の情報精度が不十分な場合が数多く見られる。
【特許文献1】特開昭63−226867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明では、二次イオン質量分析法を実施するに際し、分析領域周辺の情報を取り込むことなく,所望の領域のみの情報を得られるようにし、微量元素の精確な深さ方向分布を知得する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に依る深さ方向元素濃度分析方法に於いては、被測定対象物に照射される一次イオンビームの走査領域の一部において、該被測定対象物に電圧を印加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
前記手段を採ることに依り、イオン注入された元素の深さ方向分布は、図1に見られるように、その急峻性は向上しているので、分析領域周辺からの情報を取り込むことなく、所望の領域からの情報のみを検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明では、従来の二次イオン抽出法、即ち、エレクトリックゲート法、或いは、光学アパーチャー法の何れを実施する場合に於いても、以下に説明する手段を付加して実施することで優れた効果を享受することができる。
【0021】
即ち、一次イオンで試料を走査中、分析領域(二次イオン検出領域)と、その周辺部とで試料に印加する電圧を変えるようにする。即ち、二次イオンのエネルギー分布と試料への印加電圧との関係で見た場合、分析領域では二次イオンのエネルギー分布強度が高くなる電圧を印加し、そして、周辺部では二次イオンのエネルギー分布強度が低くなる電圧を印加する。
【0022】
図1は一次イオンを試料に照射して発生する二次イオンのエネルギー分布を表す線図であり、縦軸には規格化された二次イオン強度を、また、横軸には試料電位をそれぞれ採ってある。
【0023】
試料に電圧を加えることに依って二次イオン強度は変化するので、試料電位に対して、二次イオン強度をプロットすると図1に見られる二次イオンエネルギー分布が得られる。
【0024】
因に、従来のエレクトリックゲート法に於いては、二次イオンの引き出し電圧を一次イオンの走査に連動してオン・オフしているが、本発明に於いては、試料に印加する電圧を一次イオンの走査に連動して変化させることが大きな相違点となっている。
【実施例1】
【0025】
図2は本発明に依る微量元素の深さ方向分布の分析法を実施して得られた結果を従来のエレクトリックゲート法を実施して得られた結果と比較して表した線図であり、また、該線図には本発明を実施する場合の一次イオン走査パターンの1例を附記してある。
【0026】
図2ではSi中にイオン注入したInの深さ方向分布を表していて、縦軸には二次イオン強度(個/秒)を、そして、横軸には深さ(nm)をそれぞれ採ってあり、また、Aは本発明の分析法を実施した得られた結果、Bは従来のエレクトリックゲート法を実施して得られた結果をそれぞれ示している。
【0027】
図2からすると、本発明の分析法を実施した得られた結果は従来のエレクトリックゲート法を実施して得られた結果に比較して、深さ方向分布のダイナミックレンジが大きく、分布は急峻であることが看取される。これは,周囲からの情報の紛れ込みを有効に防げていることを意味している。
【0028】
実施例1に於いては、一次イオンビームのスキャンニングを行う際、通常のラスター走査、即ち、X−Yスキャンニングではなく、図2に付記してあるように、渦巻状に走査するスパイラルスキャンニングを行い、且つ、スパイラルスキャンニングの外周と内部とで試料に印加する電圧を変えることで本発明に於ける目的を容易に達成することができる。
【0029】
本発明に於いては、前記説明した実施の形態を含め、多くの形態で実施することができるので、以下、それを付記として例示する。
【0030】
(付記1)
被測定対象物に照射される一次イオンビームの走査領域の一部において、該被測定対象物に電圧を印加することを特徴とする深さ方向の元素濃度分析方法。
【0031】
(付記2)
前記被測定対象物に電圧を印加する領域が、二次イオン検出領域であることを特徴とする(付記1)記載の深さ方向の元素濃度分析方法。
【0032】
(付記3)
前記被測定対象物に印加する電圧と該電圧に対応した二次イオン強度の関係を予め求め、前記二次イオン検出領域の周辺部における該二次イオン強度が、該二次イオン検出領域における二次イオン強度よりも小さくなるように該被測定対象物に電圧を印加することを特徴とする(付記2)記載の深さ方向の元素濃度分析方法。
【0033】
(付記4)
前記被測定対象物に印加する電圧と該電圧に対応した二次イオン強度の関係を予め求め、前記二次イオン検出領域において該二次イオン強度が最大となるように該被測定対象物に電圧を印加することを特徴とする(付記2)または(付記3)記載の深さ方向の元素濃度分析方法。
【0034】
(付記5)
前記一次イオンビームの走査が、スパイラル走査であることを特徴とする(付記1)乃至(付記4)記載の深さ方向の元素濃度分析方法。
【0035】
(付記6)
前記スパイラル走査において、走査領域内で該被測定対象物に印加する電圧を変化させ ること特徴とする(付記5)記載の深さ方向の元素濃度分析方法。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】一次イオンを試料に照射して発生する二次イオンのエネルギー分布を表す線図である。
【図2】本発明に依る微量元素の深さ方向分布の分析法を実施して得られた結果を従来のエレクトリックゲート法を実施して得られた結果と比較して表した線図である。
【図3】一次イオンをコンデンサーレンズで絞った場合に於ける面内分布を表す線図である。
【図4】エレクトリックゲート法を実施する場合の説明図である。
【図5】光学アパーチャー法を実施する場合の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象物に照射される一次イオンビームの走査領域の一部において、該被測定対象物に電圧を印加することを特徴とする深さ方向の元素濃度分析方法。
【請求項2】
前記被測定対象物に電圧を印加する領域が、二次イオン検出領域であることを特徴とする請求項1記載の深さ方向の元素濃度分析方法。
【請求項3】
前記被測定対象物に印加する電圧と該電圧に対応した二次イオン強度の関係を予め求め、前記二次イオン検出領域の周辺部における該二次イオン強度が、該二次イオン検出領域における二次イオン強度よりも小さくなるように該被測定対象物に電圧を印加することを特徴とする請求項2記載の深さ方向の元素濃度分析方法。
【請求項4】
前記被測定対象物に印加する電圧と該電圧に対応した二次イオン強度の関係を予め求め、前記二次イオン検出領域において該二次イオン強度が最大となるように該被測定対象物に電圧を印加することを特徴とする請求項2または3記載の深さ方向の元素濃度分析方法。
【請求項5】
前記一次イオンビームの走査が、スパイラル走査であることを特徴とする請求項1乃至4記載の深さ方向の元素濃度分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−232838(P2008−232838A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73070(P2007−73070)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】