説明

深冷空気分離装置およびその制御方法

【課題】粗アルゴン塔のコンデンサの凝縮能力が高い場合にも,精留塔および粗アルゴン塔内部の精留状態を安定化させ,粗アルゴン塔を安定的に短時間で起動することが可能な深冷空気分離装置およびその制御方法を提供すること。
【解決手段】原料空気から窒素および酸素を精留分離する上塔112および下塔114からなる精留塔と,上記上塔から酸素およびアルゴンを含むアルゴン原料ガスが供給され,上記アルゴン原料ガスから粗アルゴンを精留分離する粗アルゴン塔118と,を備えた深冷空気分離装置110において:上記上塔から上記粗アルゴン塔に上記アルゴン原料ガスを供給する供給配管154に,上記アルゴン原料ガスの供給量を制御する第1供給配管102,第2供給配管103および流量調整弁104を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,深冷空気分離装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
深冷空気分離装置は,低温状態にした空気から,窒素,酸素およびアルゴンをそれぞれの沸点の差を利用して精留分離する装置である。それぞれの沸点は大気圧下において,酸素が約−183℃,アルゴンが約−186℃,空気が約−194℃,窒素が約−196℃である。図7は,従来の深冷空気分離装置の概略図である。深冷空気分離装置10は,例えば,上塔12および下塔14からなる精留塔,粗アルゴン塔18などから構成されている。
【0003】
まず,原料空気は,圧縮機で圧縮され,その後水洗塔で水冷される。次に,吸着器で水および二酸化炭素が除去される。この過程を経て精製された原料空気は,主熱交換器で冷却され,配管40を経て下塔14の下部に導入される。
【0004】
下塔14では,原料空気が粗精留されて,下部には液体空気が溜まり,上部には窒素ガスが溜まる。この窒素ガスは,主凝縮器16で凝縮され液体窒素となり,上塔12の上部に還流液として,配管58を経て導入される。また,下部に溜まった液体空気は,上塔12の中間部に配管46,48を経て気液混合状態で導入される。
【0005】
上塔12では,精留が行われ,窒素,酸素およびアルゴンにそれぞれ分離される。上塔12の下部には,液体酸素が溜まり,上部には窒素ガスが溜まる。これらの窒素と酸素は,それぞれ配管64,66を経て製品ガスとして外部に取り出される。また,上塔12の中間部には,アルゴンガスの濃度が比較的高い部分が生じる。かかる部分から取り出された酸素およびアルゴンを含むアルゴン原料ガスは,配管54を経て粗アルゴン塔18に供給される。
【0006】
粗アルゴン塔18では,アルゴン原料ガスが精留されて,下部には液体酸素が溜まり,上部には,粗アルゴンガスが溜まる。液体酸素は,配管56を経て上塔の中間部に戻され,粗アルゴンガスは,さらに精製されるため配管60を経て精製アルゴン設備(図示せず)に供給される。粗アルゴン塔18の上部には,コンデンサ20が設けられており,コンデンサ20が作用すると,アルゴン原料ガスのアルゴンが凝縮され,還流液として粗アルゴン塔18の上部から降下される。
【0007】
精留塔で安定した精留状態となった後に,さらに粗アルゴン塔の動作を開始するに際し,精留塔を安定した状態に維持する技術が提案されている(例えば,特許文献1を参照)。具体的には,特許文献1では,精留塔の上塔の中間部から粗アルゴン塔に取り出されるアルゴン原料ガスの供給量が変動したときに,アルゴン原料ガスの一部を上塔に戻すためのバイパス配管が設けられる。
【0008】
【特許文献1】特開平5−1883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし,粗アルゴン塔18を起動する際に粗アルゴン塔18のコンデンサ20の凝縮作用が高い場合,例えば,コンデンサ20の能力が大きい場合などには,粗アルゴン塔18内部の圧力は,精留塔の上塔12の圧力より大幅に低下する(なお,通常時の圧力は,粗アルゴン塔18内部のほうが,精留塔の上塔12に比べて0.01MPa程度僅かに低い)。その結果,上塔12のほぼ中間部に存在するアルゴン濃度が比較的高いガスだけでなく,その上下に存在するガスも同時に粗アルゴン塔へ引き込まれる。そのため,上塔12と下塔14および粗アルゴン塔18の精留状態が不安定となる問題があった。
【0010】
また,粗アルゴン塔の圧力が上塔より低下するので,上記特許文献1のようにバイパス配管を設けた場合,バイパス配管におけるアルゴン原料ガスの流れ方向は上塔に戻る方向ではなく,反対に上塔から粗アルゴン塔へ流れる。そのため,上塔112と下塔114および粗アルゴン塔の精留状態が不安定となる問題があった。
【0011】
そこで,本発明は,上記問題に鑑みてなされたものであり,本発明の目的とするところは,粗アルゴン塔を起動する際に粗アルゴン塔のコンデンサの凝縮作用が高い場合などにも,精留塔および粗アルゴン塔内部の精留状態を安定化させることが可能な,新規かつ改良された深冷空気分離装置およびその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,原料空気から窒素および酸素を精留分離する上塔および下塔からなる精留塔と,前記上塔から酸素およびアルゴンを含むアルゴン原料ガスが供給され,前記アルゴン原料ガスから粗アルゴンを精留分離する粗アルゴン塔と,を備えた深冷空気分離装置において:前記上塔から前記粗アルゴン塔に前記アルゴン原料ガスを供給する供給配管に,前記アルゴン原料ガスの供給量を制御する供給量制御手段を設けたことを特徴とする,深冷空気分離装置が提供される。かかる構成により,アルゴン原料ガスの供給量を制御することができるため,粗アルゴン塔を起動する際に粗アルゴン塔のコンデンサの凝縮作用が高い場合などにも,精留塔や粗アルゴン塔内部の精留状態を安定化させることができる。
【0013】
前記供給量制御手段は,前記供給配管の一部を分岐させた第1供給配管および第2供給配管と;第2供給配管に設けられた流量調整弁と;を有しており,前記第1供給配管の径は,前記供給配管の分岐していない部分の径よりも細くてもよい。かかる構成により,供給配管を1本としたときよりも,供給配管の配管径を細くすることができるので,設備費用を安価にすることができ,また配管施工が容易となる。
【0014】
前記粗アルゴン塔の上部には,前記アルゴンを凝縮するコンデンサが設けられ,前記供給量制御手段は,前記コンデンサ内の液体空気の液面高さ及び/又は前記コンデンサ内の気化された液体空気のガス圧に基づいて,前記供給量を制御してもよい。かかる構成において,供給量制限手段は,粗アルゴン塔を起動する際に粗アルゴン塔のコンデンサの凝縮作用が高い場合などに,アルゴン原料ガスの供給量の増減に応じて,供給量を制御することができる。
【0015】
上記課題を解決するために,本発明の別の観点によれば,原料空気から窒素および酸素を精留分離する上塔および下塔からなる精留塔と,前記上塔から酸素およびアルゴンを含むアルゴン原料ガスが供給され,前記アルゴン原料ガスから粗アルゴンを精留分離する粗アルゴン塔と,を備えた深冷空気分離装置の制御方法において:前記粗アルゴン塔の上部に設けられたコンデンサ内の液体空気の液面高さ及び/又は前記コンデンサ内のガス圧を検知し,前記検知した液面高さ及び/又は前記検知したガス圧に基づいて,前記上塔から前記粗アルゴン塔に前記アルゴン原料ガスを供給する供給配管に流れる前記アルゴン原料ガスの供給量を制御することを特徴とする,深冷空気分離装置の制御方法が提供される。かかる構成により,アルゴン原料ガスの供給量を制御することができるため,粗アルゴン塔を起動する際に粗アルゴン塔のコンデンサの凝縮作用が高い場合などにも,精留塔や粗アルゴン塔内部の精留状態を安定化させることができる。
【0016】
前記検知した液面高さが所定の第1の高さ以下となった場合,或いは,前記検知したガス圧が所定の第1のガス圧以上となった場合,前記供給量を制限してもよい。かかる構成により,粗アルゴン塔を起動する際に粗アルゴン塔のコンデンサの凝縮作用が高い場合などに,アルゴン原料ガスの供給量を低減させることができる。
【0017】
前記供給量を制限した後に,前記検知した液面高さが所定の第2の高さ以上となった場合,或いは,前記検知したガス圧が所定の第2のガス圧以下となった場合,前記供給量の制限を解除してもよい。かかる構成により,アルゴン原料ガスの供給量を通常時の供給量に復帰することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば,粗アルゴン塔を起動する際に粗アルゴン塔のコンデンサの凝縮作用が高い場合などにも,精留塔および粗アルゴン塔内部の精留状態を安定化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書および図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
まず,本発明の第1の実施形態にかかる深冷空気分離装置について説明する。図1は,本発明の第1の実施形態にかかる深冷空気分離装置および原料空気前処理装置を示す概略図である。図2は,図1の点線円内を拡大した同実施形態にかかる粗アルゴン塔のコンデンサを示す概略図である。
【0021】
深冷空気分離装置110は,低温状態にした空気を原料として,窒素,酸素およびアルゴンを精留分離する装置である。
【0022】
深冷空気分離装置110に導入される原料空気は,まず,原料空気前処理装置190によって前処理される。原料空気前処理装置190は,例えば,空気ろ過器192,圧縮機194,水洗塔196,MS(Molecular Sieve)吸着器198a,198bなどから構成される。
【0023】
空気ろ過器192は,原料空気前処理装置190の空気取り入れ側である上流側に設置され,空気ろ過器の下流側には,圧縮機194が接続される。圧縮機194の下流側には,水洗塔196が接続され,水洗塔196の下流側には,MS吸着器198a,198bが接続される。MS吸着器198a,198bは,同じ構成のものが2系統並行して設置される。
【0024】
空気ろ過器192は,大気から取り入れられた空気中に含まれる粉塵を除去する。圧縮機194は,空気ろ過器192を通過した空気を,例えば0.5MPa(ゲージ圧,以下同じ)に圧縮する。水洗塔196は,圧縮されたことにより温度が上昇している温度の高い圧縮空気を冷却する。圧縮空気は,水洗塔196の下部から導入される。水洗塔196は,水洗塔196の上部から水を降らすことによって,空気を冷却する。また,水洗塔196は,通過する空気から空気ろ過器192では除去されなかった粉塵を除去できる。
【0025】
MS吸着器198a,198bは,水洗塔196から排出された空気に含まれる水蒸気,二酸化炭素を除去する。なお,MS吸着器198a,198bには,深冷空気分離装置110から配管142を介して廃窒素が供給され,MS吸着器198a,198bをパージすることができる。また,原料空気前処理装置190において,MS吸着器198a,198bを2系統並列して設けている場合,通常はいずれか一方のみを開放して使用する。かかる構成により,例えば,一方のMS吸着器198aが飽和したときに,他方のMS吸着器198bを使用し始めることができるので,深冷空気分離装置110を連続して作動させることができる。以上の過程を経ることで,水および二酸化炭素を含まない乾燥した空気が得られ,この空気が原料として,深冷空気分離装置110に導入される。
【0026】
次に,深冷空気分離装置110について説明する。深冷空気分離装置110は,例えば,上塔112および下塔114からなる精留塔,粗アルゴン塔118などから構成されている。上塔112は,下塔114の上部に配置され,上塔112と下塔114は主凝縮器116を介して接続される。
【0027】
上塔112と下塔114からなる精留塔,粗アルゴン塔118は,例えば棚段塔や充填塔で構成することができる。本発明の実施形態では,いずれも適用することができる。棚段塔は,塔の内部に水平な棚を複数の段にわたって配置した精留塔である。それぞれの棚によって仕切られた段ごとに気液平衡が成立している。充填塔は,塔の内部に充填物を収容した精留塔であり,充填物の表面で気液接触が行われる。精留塔の内部では,低温の液体を精留塔上部から下降させ,高温の気体を精留塔下部から上昇させることで,気体と液体の熱交換を生じさせる。
【0028】
下塔114は,原料空気を粗精留し,液体空気と窒素に分離する。下塔114の下部には,原料空気前処理装置190から原料空気を導入する配管140が下部に接続される。下塔114の上部には,窒素を取り出す配管158,液体空気を取り出す配管146が接続される。また,下塔114の上部には主凝縮器116が設置される。
【0029】
下塔114の下部には,窒素を約79%含有した原料空気が配管140を介して下部に導入される。原料空気は粗精留されて,下塔114の下部には,例えば−174℃の酸素を約40%含有した液体空気が溜まり,上部には窒素ガスが溜まる。精留が安定した下塔114の内部では,下部では酸素濃度が高く,上部になるにつれて窒素濃度が高くなるように空気が分布している。下塔114の上部に溜まった窒素は,主凝縮器116で凝縮され液化窒素となり,膨張弁176を経て上塔112の上部に還流液として導入される。また,下塔114の下部に溜まった液体空気は,過冷却器128,膨張弁172を経て,上塔112の中間部に気液混合状態で導入される。液体空気は,膨張弁によってゲージ圧0.5MPaから0.05MPaに膨張されるので,上塔112は断熱膨張した液体空気によって冷却される。
【0030】
上塔112は,原料空気をさらに精留し,窒素,酸素およびアルゴンにそれぞれ分離する。上塔112の上部には,還流液としての窒素を導入する配管158が接続される。上塔112の下部には,純度の高い製品酸素ガスを取り出す配管166が接続される。上塔112の塔頂部には,純度の高い製品窒素を取り出す配管162が接続される。上塔112の中間部には,粗アルゴン塔118のコンデンサ120内で気化した空気を導入する配管150,コンデンサ120内の液体空気を導入する配管152が接続される。また,上塔112の中間部には,下塔114で液化した液体空気を取り出す配管146を途中で分岐して,当該液体空気を導入する配管148が接続される。さらに上塔112の中間部には,酸素およびアルゴンを含有するアルゴン原料ガスを取り出す配管154,粗アルゴン塔118の下部に溜まった液体酸素を導入する配管156が接続される。また,上塔112には,圧縮機130から膨張した原料空気を導入する配管147も接続される。上塔112の下部には主凝縮器116が設置される。
【0031】
上塔112の下部には液体酸素が溜まり,上部には窒素ガスが溜まる。このとき,例えば,上部の温度は−192℃,下部の温度は−180℃であり,上部に行くほど低温である。窒素ガスは,上塔112塔頂部から配管162を介して取り出された後,過冷却器128と主熱交換器126を通過して,常温で製品窒素ガスとして取り出される。酸素ガスは,上塔112下部から取り出された後,主熱交換器126を通過して,常温で製品酸素ガスとして取り出される。例えば,窒素の純度は99.999%であり,酸素の純度は99.6%である。また,上塔112の中間部には,アルゴン濃度が容積比率で例えば9〜13%程度と比較的高い部分が生じる。この部分のガスは,アルゴン原料ガスとして取り出され,配管154を経由して粗アルゴン塔118に導入される。
【0032】
主凝縮器116には,下塔114上部に溜まった高温高圧の窒素ガスが導入され,窒素ガスは,上塔112下部に溜まった低温の液体酸素との熱交換が行われる。その結果,下塔114上部の窒素ガスが液化され,下塔114下部へ降下し,上塔112下部の液体酸素が気化され,上塔112上部へ上昇することとなる。
【0033】
粗アルゴン塔118の下部には,アルゴン原料ガスを導入する配管154,粗アルゴン塔118の下部に溜まった液体酸素を取り出す配管156が接続される。また,粗アルゴン塔118の上部には,コンデンサ120が設置される。コンデンサ120には,下塔114から液体空気を導入する配管146が接続される。コンデンサ120の上部には,気化した空気を取り出す配管150が接続される。コンデンサ120の下部には,液体空気を取り出す配管152が接続される。さらに,コンデンサ120の内部には,熱交換器122,気液分離機123が設置される。熱交換器122は,粗アルゴン塔118上部に溜まった粗アルゴンを導入する配管168が接続さる。熱交換器122の下流側には,気液分離器123が接続される。気液分離器123は,粗アルゴン塔118の上部にアルゴンを還流液として降下させる配管170と,気化したアルゴンを排出する配管160が接続される。
【0034】
粗アルゴン塔118では,塔の下部に導入されたアルゴン原料ガスが精留される。粗アルゴン塔118の下部には液体酸素が溜まり,上部には,アルゴンを約98%含有した粗アルゴンガスが溜まる。液体酸素は,上塔112の中間部に戻され,粗アルゴンガスは,さらに精製されるため,配管160,弁184を経て精製アルゴン塔(図示せず)に供給される。なお,精製アルゴン装置では,粗アルゴンガスに含有した酸素を水素と反応させ水として除去し,約99.999%のアルゴンガスが精製される。
【0035】
粗アルゴン塔118の上部に設けられたコンデンサ120には,下塔114から供給された約−174℃の液体空気が溜められる。コンデンサ120内には,液体空気の液面が一定に保たれるように,下塔114から液体空気が供給されている。この液体空気の供給は,弁178によって制御されている。コンデンサ120内の熱交換器122で,粗アルゴン塔118上部に溜まった粗アルゴンガスが一部凝縮される。凝縮されたアルゴンは,粗アルゴン塔118上部から還流液として,配管170,弁182を経て降下される。また凝縮されないアルゴンは,粗アルゴンガスとして精製アルゴン塔に供給される。コンデンサ120に溜まっている液体空気は,一部が下部から取り出され,配管152と弁180を経て,上塔112に導入される。弁180は,開度一定である。コンデンサ120内の気化した液体空気は,配管150と弁174を経て上塔112に導入される。弁174は,コンデンサ120の圧力制御を行う。
【0036】
主熱交換器126は,深冷空気分離装置110の上流側に設置される。主熱交換器126を通過する配管は,原料空気前処理装置190によって前処理された原料空気が下塔114に供給される配管140,上塔112上部から窒素を取り出した配管162,164,上塔112下部から酸素を取り出した配管166,圧縮機130によって圧縮された空気が流れる配管145である。
【0037】
主熱交換器126は,配管140を通過する精製された原料空気を常温から約−170℃ほどの低温に冷却する。また,主熱交換器126は,上塔112から取り出された酸素および窒素を製品として供給できるように常温まで加熱する。
【0038】
過冷却器128は,上塔112から製品ガスとして取り出された窒素を加熱し,下塔114に溜まった高温高圧の窒素ガスを冷却する。過冷却器128を通過する配管は,上塔112上部から窒素を取り出した配管162,164,下塔114下部から液体空気を取り出した配管146,下塔114上部から窒素を取り出した配管158である。
【0039】
圧縮機130は,原料空気が供給される配管140から分岐した配管144,熱交換器132と主熱交換器126を経由して再び圧縮機130に戻る配管145,上塔112に原料空気を供給する配管147と接続する。
【0040】
圧縮機130は,常温で供給された原料空気を例えば0.8MPaから1.1MPaに圧縮する。その圧縮空気は,熱交換器132で水と熱交換されて冷却され,さらに,主熱交換器126において約−110℃まで冷却される。その結果,冷却された圧縮空気は,圧縮機130において例えば0.05MPaまで膨張され,約−170℃まで冷却される。そして,この過程を経た冷却空気が上塔112に供給される。
【0041】
次に,深冷空気分離装置110の動作について,図1および図2を参照して説明する。起動時,主熱交換器126,上塔112,下塔114は,常温状態である。深冷空気分離装置110に導入された水と二酸化炭素が除去された原料空気は,配管140を経て,下塔114に供給される。また,原料空気は,配管140の途中で分岐された配管144から取り出され,圧縮機130に導入される。
【0042】
下塔114を通過した原料空気は,配管158と膨張弁176,配管146,148と膨張弁172を経て,上塔112に供給される。また,圧縮機130に導入された空気も上塔112に供給される。下塔114から上塔112に供給される空気は,膨張弁176,172を介して,断熱膨張して上塔112に供給されるので,冷却されている。また,圧縮機130を介して上塔112に供給される空気も,膨張によって冷却されている。
【0043】
これらの上塔112に供給された冷却空気は,次に,配管162,164,166を経由して,主熱交換器126を,徐々に冷却する。主熱交換器126が冷却されると,原料空気前処理装置190から配管140を通じて主熱交換器126を経由した原料空気は,下塔114に一部液化した状態で供給される。その結果,下塔114の下部には,液体空気が溜まり始める。
【0044】
下塔114の下部に溜まった液体空気は,配管146と膨張弁172を経て,上塔112の中間部に気液混合状態で供給される。すると,上塔112の下部に低温の液体が溜まり始める。上塔112の下部に溜まった低温の液体は,主凝縮器116を介して,下塔114の上部のガスを冷却し還流液を発生させる。さらに,上塔112の下部に溜まった低温の液体は,主凝縮器116によって過熱され,還流ガスを発生させる。その結果,上塔112および下塔114で,精留作用が開始される。この精留状態をしばらく継続させると,上塔112および下塔114の各部の液体や気体の濃度が既定の状態に近づき,精留状態は安定化する。
【0045】
上塔112および下塔114の精留状態が安定した後,上塔112内部の酸素濃度が例えば約88%となったとき,粗アルゴン塔118のコンデンサ120を起動する。コンデンサ120は,下塔114の下部に溜まった液体空気の一部を,配管146を経由させて,コンデンサ120に導入することによって,凝縮作用を開始する。コンデンサ120の凝縮作用によって,まず粗アルゴン塔118内部の酸素が液化し始める。その結果,粗アルゴン塔118内部の体積が収縮するため,圧力差によって,上塔112から粗アルゴン塔118にアルゴン原料ガスが供給され始める。引き続き,粗アルゴン塔118内の精留状態を継続させると,粗アルゴン塔118の各部の液体や気体の濃度が既定の状態に近づいてくる。
【0046】
次に,粗アルゴン塔118の起動時にコンデンサ120の凝縮作用高めた場合の精留状態について説明する。粗アルゴン塔118の起動に際しては,上塔112中の酸素やアルゴンの組成比,コンデンサ120の温度は,安定化していない。そのため,粗アルゴン塔118の起動中に,上塔112の酸素濃度が高くなると,粗アルゴン塔118が安定するまで例えば約4〜8時間と時間を要する。上塔112から粗アルゴン塔118に供給配管154を経て供給されるアルゴン原料ガスの酸素濃度が高くなると,粗アルゴン塔118で液化される液体の量が増加する。すると,粗アルゴン塔118内部の体積が収縮するため,圧力差によって,粗アルゴン塔118へのアルゴン原料ガスの供給量が増加する。その結果,多量に上塔112内の空気が粗アルゴン塔118に供給される。
【0047】
上塔112から粗アルゴン塔118へ多量に空気が供給されることから,上塔112の中間部に存在するのみならず,中間部の上下に存在する空気も供給されることとなる。このような空気は,酸素濃度が高く,また窒素を含有する場合もあるため,粗アルゴン塔118の精留状態は不安定となる。精留状態が不安定な状態において,粗アルゴン塔118の下部に溜まる液体は純度が悪化するため,配管156を経て上塔112に戻る液体も純度が悪化する。純度の悪化した戻り液は,上塔112での精留状態をさらに不安定にする。
【0048】
また,アルゴンの回収効率を高めるために,コンデンサ120の凝縮作用を高めた場合,コンデンサ120内の液体空気は急激に蒸発し,コンデンサ120内部の圧力は急激に上昇する。コンデンサ120内の液体空気の供給は,下塔114とコンデンサ120との圧力差が原動力である。したがって,コンデンサ120内の圧力が高まり,下塔114とコンデンサ120の圧力差が小さくなることによって,弁178が全開になったとしても,コンデンサ120への液体空気の供給は不可能となる。液体空気がコンデンサ120内から減少し,空になると,コンデンサ120の凝縮作用が行われなくなり,上塔112や下塔114,粗アルゴン塔118の精留状態が不安定となる。
【0049】
また,コンデンサ120の凝縮作用を高めると,粗アルゴン塔118内部で液化される液体の量が増加する。すると,起動時に上塔112の酸素濃度が高くなった場合と同様に,粗アルゴン塔118内部の体積が収縮するため,圧力差によって,粗アルゴン塔118へのアルゴン原料ガスの供給量が増加する。そのため,上記と同様に,上塔112や下塔114,粗アルゴン塔118の精留状態が不安定となる。この場合,再び安定するまで,例えば約12〜24時間と長時間を要する。
【0050】
そこで,本実施形態では,粗アルゴン塔118を起動する際にコンデンサ120の凝縮作用が高い場合などにも,上塔112や下塔114,粗アルゴン塔118の精留状態を安定化させるため,上塔112から粗アルゴン塔118に供給されるアルゴン原料ガスの供給量を制御できるようになっている。以下,本実施形態の供給量制御手段について説明する。上塔112の中間部から粗アルゴン塔118に供給される酸素およびアルゴンを含むアルゴン原料ガスは,供給配管154を経て供給される。そこで,供給配管154に,アルゴン原料ガスの供給量を制御する供給量制御手段が設けられている。
【0051】
図3を参照して,本実施形態にかかる供給量制御手段を説明する。図3は,本実施形態にかかる供給量制御手段が設けられた深冷空気分離装置110を示す概略図である。
【0052】
供給量制御手段は,供給配管154の一部を分岐させた第1供給配管102および第2供給配管103と,第2供給配管103に設けられた流量調整弁104と,を有しており,第1供給配管102の径は,供給配管154の分岐していない部分である101,105よりも細い。
【0053】
アルゴン原料ガスを供給する供給配管154は,例えば中間部分で第1供給配管102と第2供給配管103に分岐されており,その他の部分で1本の配管101,105となっている。これによって,上塔112から排出されたアルゴン原料ガスは,1本の配管101を通り,ついで第1供給配管102と第2供給配管103に分流され,さらに1本の配管105に合流して,粗アルゴン塔118に流入する。第1供給配管102と第2供給配管103は,分岐された後,互いに平行となるように配置されることが望ましい。
【0054】
供給配管154の分岐していない部分とは,1本の配管101,105であり,上塔112と供給配管154との接続部分から供給配管154が分岐されるまでの部分,または,第1供給配管102と第2供給配管103が合流する部分から粗アルゴン塔118と供給配管154との接続部分までをいう。
【0055】
本実施形態では,第1供給配管102の配管径は,1本の配管101,105の配管径より細い。第1供給配管102の配管径は,例えばレデューサを介して縮小することができる。また,第2供給配管103には,アルゴン原料ガスの供給量を制御する流量調整弁104が設けられている。流量調整弁104は,例えばバタフライ弁などで構成される。流量調整弁104には,弁の開閉を制御する制御装置(図示せず)が設けられている。この制御装置は,後述するコンデンサ120内の液面高さ,またはガス圧を検知するセンサ124の検出結果を受けて,流量調整弁104の開閉を自動的に制御する。
【0056】
図3では,1本の配管101,105と第1供給配管102が本管であり,第2供給配管103がバイパス管である。したがって,バイパス管に流量調整弁104が設けられた実施形態となっている。なお,本実施形態の変形例として,第2供給配管103を本管に設け,第1供給配管102をパイパス管に設けることで,本管に流量調整弁104が設けられるとしてもよい。
【0057】
かかる構成により,第2供給配管103に設けられた流量調整弁104が全閉されると,アルゴン原料ガスは配管径の細い第1供給配管102のみを通過するので,アルゴン原料ガスの供給量は通常時の供給量より低減する。これにより,粗アルゴン塔118のコンデンサ120の凝縮能力が高まっても,粗アルゴン塔118に供給されるアルゴン原料ガスの供給量は制限されるため,粗アルゴン塔118内部の精留状態は,早期に安定化することとなる。
【0058】
第1供給配管102と第2供給配管103の配管径は,第1供給配管102と第2供給配管103に流れる供給量を合わせて,粗アルゴン塔118の精留安定時のアルゴン原料ガスの供給量が確保できるように設計され。また,第1供給配管102の配管径は,1本の配管101,105より細くするように設計する必要がある。すなわち,第1供給配管102の配管径は,コンデンサ120の凝縮作用が高いときの第1供給配管102を流れるアルゴン原料ガスの供給量が,精留安定時の第1供給配管102と第2供給配管103を流れる供給量と等しい量となるような配管径とする。
【0059】
具体的に,配管径の設定例について説明する。例えば,供給量制御手段が設けられず,1本の配管のみの場合に,平常時の供給量を40,000Nm/hとする。コンデンサ120の凝縮作用が高まり,粗アルゴン塔118内の圧力が低下したとき(以下,異常時という)の供給量を80,000Nm/hとする。
【0060】
供給配管154を流れるアルゴン原料ガスの供給量は,上塔112と粗アルゴン塔118の圧力差によって変化する。一般に,流量(供給量)と圧力差(以下,ΔPという)の平方根とは,比例する関係にあるため,異常時のΔPは,平常時の4倍になっていると推定される。したがって,異常時のΔPが平常時の4倍になった場合,第2供給配管103に設けられた流量調整弁104を全閉し,第1供給配管102のみで平常時の流量が流れるように抑制するためには,第1供給配管102の断面積は,供給配管154が1本の配管のみの場合の1/2の断面積とすればよい。したがって,第1供給配管102の配管径は,供給配管154の0.7倍となる。例えば,供給配管154の配管径が1000mmの場合は,第1供給配管は700mmとなる。
【0061】
さらに,平常時において,第2供給配管103に設けられた流量調整弁104を全開し,第1供給配管102と第2供給配管103の供給量を合わせた流量と,供給配管154が1本の配管のみの場合の平常時の供給量を等しくするためには,第2供給配管103の配管径をDとすると,
(1000mm)=(700mm)+D
より,D=700mmとなる。したがって,第1供給配管102と第2供給配管103の配管径は,ともに供給配管154の配管径の0.7倍となる。
【0062】
次に,図4および図5を参照して,供給配管154に流れるアルゴン原料ガスの供給量を制限する方法について説明する。図4は,アルゴン原料ガスの供給量,コンデンサ120内の液面高さ,流量調整弁104の開閉操作の経時変化を示したタイミングチャートである。図5は,アルゴン原料ガスの供給量,コンデンサ120内のガス圧,流量調整弁104の開閉操作の経時変化を示したタイミングチャートである。
【0063】
まず,図4(a),(b)および図5(a),(b)を参照して,アルゴン原料ガスの供給量を制御しない場合のアルゴン原料ガスの供給量,コンデンサ120内の液面高さ,ガス圧の経時変化について説明する。
【0064】
アルゴン原料ガスの供給量は,通常時,ほぼ一定の値を維持している。このとき,コンデンサ120内の液面高さ,ガス圧も,ほぼ一定に維持される。このときのガス圧は,例えば約50kPaGである。しかし,粗アルゴン塔118の起動時にコンデンサ120の凝縮作用が高まると,アルゴン原料ガスの供給量は急速に上昇する。同時に,コンデンサ120内の液面高さは急激に減少し,コンデンサ120内のガス圧は,例えば130kPaまで急激に上昇する。なお,コンデンサ120内のガス圧の上昇は,コンデンサ120内の液面高さの減少よりも急激であり,ガス圧の変化のほうが早い。
【0065】
次いで,コンデンサ120内の液体空気が減少し,コンデンサ120内の液体空気が空となった場合,コンデンサ120内の液面高さとガス圧は一定となる。このとき,コンデンサ120の凝縮作用も減少するため,粗アルゴン塔118に導入されるアルゴン原料ガスの供給量についても減少する。その後,コンデンサ120内部の精留状態が再び安定してくると,アルゴン原料ガスの供給量は,通常時の一定の値に回復し,コンデンサ120内の液面高さとガス圧も,通常時の液面高さとガス圧に回復する。なお,コンデンサ120内のガス圧の回復は,コンデンサ120内の液面高さよりも早く開始される。また,通常時の一定の値に回復する時点も,コンデンサ120内のガス圧のほうが早い。
【0066】
以上のように,アルゴン原料ガスの供給量を制御しない場合は,粗アルゴン塔118の起動時にコンデンサ120の凝縮作用が高いときに,アルゴン原料ガスの供給量の変化が大きくなるため,精留塔や粗アルゴン塔118の精留状態が不安定となる。
【0067】
次に,図4(c)(d)を参照して,本実施形態でコンデンサ120内の液面高さに基づいて流量調整弁104の開閉制御を行う場合について説明する。
【0068】
コンデンサ120内の液体空気の液面高さを検知し,検知した結果を受けて流量調整弁104が自動的に閉められる。具体的には,検知されたコンデンサ120内の液面高さが,通常時の安定した値から所定の閾値,例えば,通常時の例えば50%に低下したとき(図4(b)のC点),流量調整弁104が閉められ始める(図4(c)のW点)。次いで,流量調整弁104の閉鎖開始から所定の時間t経過後に,流量調整弁104が完全に閉められる(図4(c)のX点)。その結果,従来のコンデンサ120内の液面高さは,図4(b)の実線Gに示すとおりに変化するが,流量調整弁104を閉めることによって,図4(b)の破線Hのように液面高さが変化する。従って,アルゴン原料ガスの供給量が減少するため,図4(d)の破線Bに示すとおり,実線Aに示す従来のアルゴン原料ガスの供給量の上昇に比べて上昇幅が減少する。したがって,粗アルゴン塔118の精留状態を早期に安定化させることができる。なお,上記では,流量調整弁104が閉められる時の液面高さの閾値を50%に設定したが,その値は50%に限定されず,その液面高さは,任意の高さとすることができる。また,その高さは,通常時に対する相対値ではなくて,絶対値で規定してもよい。
【0069】
コンデンサ120内の液面高さが回復し,検知された液面高さが,所定の閾値,通常時の例えば50%となったとき(図4(b)のD点),流量調整弁104が開けられ始める(図4(c)のY点)。次いで,流量調整弁104の開放開始から所定の時間t経過後に,流量調整弁104が完全に開けられる(図4(c)のZ点)。その結果,図4(d)の破線Bに示すとおり,通常時のアルゴン原料ガスの供給量を確保することができる。
【0070】
図4(c)のY点からZ点に達するまでの流量調整弁104が全開にかかる時間tは,全閉にかかる時間tよりも長い。例えば,全閉にかかる時間tは10〜20秒であり,全開にかかる時間tは,全閉にかかる時間tの2〜3倍かかる。かかる構成により,コンデンサ120内の液面の状態に応じて,流量調整弁104が開けられることが可能であるので,精留塔やその精留状態を確実に安定化させることができる。
【0071】
なお,上記では,流量調整弁104が開けられる時の液面高さの閾値を50%に設定したが,その値は50%に限定されず,その液面高さは,任意の高さとすることができる。また,その高さは相対値,絶対値のいずれでも規定することができる。なお,例えば装置の特性に適合させることにより,流量調整弁104を開ける時と,流量調整弁104を閉める時の液面高さとは,上記の通り同じ高さであってもよいし,或いは,相異なる高さであってもよい。
【0072】
上記のように,コンデンサ120内の液面の減少時に,流量調整弁104でアルゴン原料ガスの供給量が制御されており,その際コンデンサ120内の液面の減少又は上昇が検知される。そのために,コンデンサ120の液面高さを検知するセンサ124が設けられる。センサ124の検出結果を受けて,流量調整弁104の開閉が制御される。液面高さの検知は,新たにセンサ124を設けず,コンデンサ120の異常を知らせるためのコンデンサ120の液面の急減信号を使用してもよい。かかる構成により,新たにセンサ124を設ける必要がなくなる。
【0073】
以上で説明したように本実施形態では,アルゴン原料ガスの供給量制御のための流量調整弁104の開閉制御は,コンデンサ120内の液面高さに基づいて行われるとしたが,本実施形態は,これに限定されない。すなわち,流量調整弁104の開閉制御は,以下示すとおりコンデンサ120内で気化した液体空気のガス圧に基づいても行うことが可能である。図5(c)(d)を参照して,本実施形態でコンデンサ120内で気化したガス圧に基づいて流量調整弁104の開閉制御を行う場合について説明する。
【0074】
具体的には,コンデンサ120内で気化した液体空気のガス圧を検知し,検知した結果に基づいて流量調整弁104が自動的に閉められる。具体的には,検知されたコンデンサ120内のガス圧が,通常時の安定した値から所定の閾値まで上昇したとき(図5(b)のE点),流量調整弁104が閉められ始める(図5(c)のW’点)。この所定の閾値は,例えば,アルゴン原料ガスの供給量が急激に上昇して,ガス圧が最大値をとる場合のガス圧値(例えば130kPa)を100%としたとき(図5(b)のK点)の例えば95%とすることができる。次いで,流量調整弁104の閉鎖開始から所定の時間t経過後に,流量調整弁104が完全に閉められる(図5(c)のX’点)。その結果,従来のコンデンサ120内のガス圧は,図5(b)の実線Iに示すとおりに変化するが,流量調整弁104を閉めることによって,図5(b)の破線Jのようにガス圧が変化する。従って,アルゴン原料ガスの供給量が減少するため,図5(d)の破線Bに示すとおり,実線Aに示す従来のアルゴン原料ガスの供給量の上昇に比べて上昇幅が減少する。したがって,粗アルゴン塔118の精留状態を早期に安定化させることができる。なお,上記では,流量調整弁104が閉められる時のガス圧の閾値をガス圧が最大値をとる場合のガス圧値の95%に設定したが,その値は95%に限定されず,そのガス圧は,任意の圧力とすることができる。また,その圧力は,ガス圧の最大値に対する相対値ではなくて,絶対値で規定してもよい。
【0075】
コンデンサ120内のガス圧が回復し,検知されたガス圧が,所定の閾値,ガス圧が最大値をとる場合のガス圧値の例えば95%となったとき(図5(b)のF点),流量調整弁104が開けられ始める(図5(c)のY’点)。次いで,流量調整弁104の開放開始から所定の時間t経過後に,流量調整弁104が完全に開けられる(図5(c)のZ’点)。その結果,図5(d)の破線Bに示すとおり,通常時のアルゴン原料ガスの供給量を確保することができる。
【0076】
図5(c)のY’点からZ’点に達するまでの流量調整弁104が全開にかかる時間tは,全閉にかかる時間tよりも長い。例えば,全閉にかかる時間tは10〜20秒であり,全開にかかる時間tは,全閉にかかる時間tの2〜3倍かかる。かかる構成により,コンデンサ120内の液面の状態に応じて,流量調整弁104が開けられることが可能であるので,精留塔やその精留状態を確実に安定化させることができる。
【0077】
なお,上記では,流量調整弁104が開けられる時のガス圧の閾値を95%に設定したが,その値は95%に限定されず,そのガス圧は,任意の圧力とすることができる。また,その圧力は相対値,絶対値のいずれでも規定することができる。なお,例えば装置の特性に適合させることにより,流量調整弁104を開ける時と流量調整弁104を閉める時のガス圧は,上記の通り同じ圧力であってもよく,同じ圧力でなくてもよい。
【0078】
上記の流量調整弁104の制御は,コンデンサ120内の液面高さが一定,または,コンデンサ120内の圧力が一定となるような開閉制御とするため,フィードバック制御を利用することができる。本実施形態では,精度の高い流量制御は不要であり,検知した液面高さ及び/又はガス圧が,所定の液面高さ/ガス圧となったときにのみ流量調整弁104を開放又は閉鎖を開始する制御とすることができる。
【0079】
以上説明したように本発明によれば,粗アルゴン塔を起動する際に粗アルゴン塔のコンデンサの凝縮作用が高い場合などにも,上塔112から粗アルゴン塔118にアルゴン原料ガスを供給する供給配管154に供給量制御手段を設けることによって,好適にアルゴン原料ガスの供給量を制御することができるため,精留塔および粗アルゴン塔内部の精留状態を安定化させることができる。その結果,深冷空気分離装置全体の起動時間を,例えば12〜18時間程度短縮することができる。
【0080】
また,供給量制御手段を,第1供給配管102および第2供給配管103と,第2供給配管103に設けられた流量調整弁104とした場合,上塔112から粗アルゴン塔118へのアルゴン原料ガスの供給配管を1本としたときよりも,供給配管の配管径を細くすることができるので,設備費用を安価にすることができ,また配管施工が容易となる。
【0081】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0082】
例えば,上記の実施形態では,供給配管を第1供給配管102と第2供給配管103に分岐したが,本発明の別の実施形態にかかる供給量制御手段は,図6に示すとおり,1本の供給配管254に流量調整弁204を設けることができる。かかる構成により,供給配管を分岐せずに,アルゴン原料ガスの供給量を制御することができる。供給配管254は分岐されることなく1本でその機能を有することができる。また,パイパス管を設ける必要がなく,部品点数が減少し,配管の施工も容易となる。流量調整弁204の開閉制御は,アルゴン原料ガスの供給量が急激に高まったときは,流量調整弁204を全閉するのでなく,所定の供給量まで低減するように流量調整弁204を閉鎖するようにして行う。
【0083】
また,例えば,第1供給配管と第2供給配管を供給配管から分岐するのではなく,上塔112から粗アルゴン塔118までアルゴン原料ガスを供給するための供給配管を2本並列に設けてもよい。このとき,2本の供給配管のうち1本の配管径を,供給配管を1本設けた場合の配管径よりも細くし,他方の1本に流量調整弁を設置することで,アルゴン原料ガスの供給量を制御する供給量制御手段とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は,深冷空気分離装置およびその制御方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる深冷空気分離装置および原料空気前処理装置を示す概略図である。
【図2】図1の点線円内を拡大した同実施形態にかかる粗アルゴン塔のコンデンサを示す概略図である。
【図3】同実施形態にかかる深冷空気分離装置を示す概略図である。
【図4】同実施形態および従来のアルゴン原料ガスの供給量,コンデンサ液面高さ,流量調整弁の開閉操作の経時変化を示すタイミングチャートである。
【図5】同実施形態および従来のアルゴン原料ガスの供給量,コンデンサガス圧,流量調整弁の開閉操作の経時変化を示すタイミングチャートである。
【図6】同実施形態にかかる供給量制御手段の変更例を適用した深冷空気分離装置を示す概略図である。
【図7】従来の深冷空気分離装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0086】
102 第1供給配管
103 第2供給配管
104 流量調整弁
110 深冷空気分離装置
112 上塔
114 下塔
116 主凝縮器
118 粗アルゴン塔
120 コンデンサ
122 熱交換器
123 気液分離器
126 主熱交換器
128 過冷却器
130 圧縮機
132 熱交換器
154 供給配管
190 原料空気前処理装置
194 圧縮機
196 水洗塔
198a,198b MS吸着器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料空気から窒素および酸素を精留分離する上塔および下塔からなる精留塔と,前記上塔から酸素およびアルゴンを含むアルゴン原料ガスが供給され,前記アルゴン原料ガスから粗アルゴンを精留分離する粗アルゴン塔と,を備えた深冷空気分離装置において:
前記上塔から前記粗アルゴン塔に前記アルゴン原料ガスを供給する供給配管に,前記アルゴン原料ガスの供給量を制御する供給量制御手段を設けたことを特徴とする,深冷空気分離装置。
【請求項2】
前記供給量制御手段は,
前記供給配管の一部を分岐させた第1供給配管および第2供給配管と;
第2供給配管に設けられた流量調整弁と;
を有しており,
前記第1供給配管の径は,前記供給配管の分岐していない部分の径よりも細いことを特徴とする,請求項1に記載の深冷空気分離装置。
【請求項3】
前記粗アルゴン塔の上部には,前記アルゴンを凝縮するコンデンサが設けられ,
前記供給量制御手段は,前記コンデンサ内の液体空気の液面高さ及び/又は前記コンデンサ内の気化された液体空気のガス圧に基づいて,前記供給量を制御することを特徴とする,請求項1または2に記載の深冷空気分離装置。
【請求項4】
原料空気から窒素および酸素を精留分離する上塔および下塔からなる精留塔と,前記上塔から酸素およびアルゴンを含むアルゴン原料ガスが供給され,前記アルゴン原料ガスから粗アルゴンを精留分離する粗アルゴン塔と,を備えた深冷空気分離装置の制御方法において:
前記粗アルゴン塔の上部に設けられたコンデンサ内の液体空気の液面高さ及び/又は前記コンデンサ内のガス圧を検知し,
前記検知した液面高さ及び/又は前記検知したガス圧に基づいて,前記上塔から前記粗アルゴン塔に前記アルゴン原料ガスを供給する供給配管に流れる前記アルゴン原料ガスの供給量を制御することを特徴とする,深冷空気分離装置の制御方法。
【請求項5】
前記検知した液面高さが所定の第1の高さ以下となった場合,或いは,前記検知したガス圧が所定の第1のガス圧以上となった場合,前記供給量を制限することを特徴とする,請求項4に記載の深冷空気分離装置の制御方法。
【請求項6】
前記供給量を制限した後に,前記検知した液面高さが所定の第2の高さ以上となった場合,或いは,前記検知したガス圧が所定の第2のガス圧以下となった場合,前記供給量の制限を解除することを特徴とする,請求項5に記載の深冷空気分離装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−192466(P2007−192466A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−11057(P2006−11057)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】