深溝玉軸受
【課題】軸受トルクを低減することが可能な深溝玉軸受を提供する。
【解決手段】深溝玉軸受10は、内輪12と、外輪11と、内輪12と前記11の間を周方向に転動可能な複数の玉13と、玉13をポケット25内に収容した樹脂製の保持器20と、を備えた油潤滑で使用される深溝玉軸受であって、外輪11の軸方向両端部には、半径方向内側に延びる油留板14が設けられる。保持器20は、2枚の合成樹脂製の環状素子20a、20bからなり、各環状素子20a、20bは円環部21a、21bと、円環部21a、21bから軸方向に突出する複数の柱部22a、22bとを備え、隣接する柱部の対向面には玉13の外周にならう複数の半球状ポケット25a、25bが形成され、保持器20の軸方向寸法は全周に亘って一様である。
【解決手段】深溝玉軸受10は、内輪12と、外輪11と、内輪12と前記11の間を周方向に転動可能な複数の玉13と、玉13をポケット25内に収容した樹脂製の保持器20と、を備えた油潤滑で使用される深溝玉軸受であって、外輪11の軸方向両端部には、半径方向内側に延びる油留板14が設けられる。保持器20は、2枚の合成樹脂製の環状素子20a、20bからなり、各環状素子20a、20bは円環部21a、21bと、円環部21a、21bから軸方向に突出する複数の柱部22a、22bとを備え、隣接する柱部の対向面には玉13の外周にならう複数の半球状ポケット25a、25bが形成され、保持器20の軸方向寸法は全周に亘って一様である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のトランスミッションにおいて、高速運転に使用される深溝玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に深溝玉軸受で使用される樹脂製保持器としては、例えば、図12に示す冠型保持器と呼ばれる保持器101がある。この保持器101は、合成樹脂の射出成形により形成されており、円環状のリム部102と、リム部102の軸方向端面に円周方向に所定の間隔を存して複数配置される柱部103と、柱部103、103間に互いに隣り合うように形成され、複数の玉を円周方向に略等間隔で転動可能に保持するポケット部104と、ポケット部104の内周面の円周方向両端部に形成される一対の爪部105a、105bと、一対の爪部105a、105bの各先端間に形成される開口部106と、を備える。そして、開口部106から玉を一対の爪部105a、105bを押し広げつつポケット部104に押し込むことによって、ポケット部104内に玉が微小なすきまを介して転動可能に保持される。
【0003】
しかしながら、従来の深溝玉軸受に組み込まれているこの冠型保持器101は、玉案内方式の保持器であり、近年の高速回転化への対応により、ポケット内径側端部が玉107と接触し摩耗することで、図13に示すように、保持器開口部側の軸方向端部108に保持器101の回転による遠心力が働き、リム側の軸方向端部109を捩れ軸とした弾性あるいは塑性変形による捩れ変形が生じ、保持器外径面が外輪内径面と接触して保持器が摩耗したり、異状発熱やトルク増大などの問題が生じるおそれがあった。
【0004】
高速回転用の軸受として、特許文献1には、図14に示すように、冠型保持器110のポケットの球面中心Pを保持器径方向厚み中心Cより外径側にし、内径側の玉抱え込み量を確保する軸受が開示されている。これにより、保持器110の外径側への捩れ変形を抑制し、保持器110と外輪間の摺動を防止している。
【0005】
また、特許文献2には、図15に示すように捩れ変形を抑制することを目的として2つの環状素子111、111を組み合わせた波型保持器112が開示されている。
【特許文献1】実開平5−34317号公報
【特許文献2】特開2003−343571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1に記載の冠型保持器を備えた軸受であっても高速回転させた場合、ポケット内径側が遠心力により油不足になるため摩耗し最終的には捩れ変形を抑えられなくなり保持器110が外輪に摺動し、いわゆる振れ回りしてしまうおそれがあった。そして、振れ回りが起こると保持器110に異常な力が加わるため保持器が破損してしまうおそれがある。
【0007】
また、冠型保持器110においては、図14の矢印Aで示す凹部に油が接触するため軸受トルクが増加してしまうという問題があった。
【0008】
また、上記特許文献2に記載の構造においても、高速回転時には遠心力により保持器内径側と玉摺動部の潤滑不足が発生し、この部分に摩耗が起きてしまい、最終的には振れ回りが生じるおそれがあった。さらに、この波型形状の保持器においては、図15の矢印Bで示す凹部が、玉の両側に形成されているため冠型保持器に比べ潤滑油の攪拌抵抗が大きくなり軸受トルクが高いという欠点があった。また、保持器の摩耗を防止するために保持器を球面ポケットではなく円筒ポケットにし、外輪案内にすることも考えられるが、保持器と外輪との摺動によりトルクが増大してしまうため望ましくはない。
【0009】
本発明は、このような不都合を解消するためになされたものであり、その目的は、軸受トルクを低減することが可能な深溝玉軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪の間を周方向に転動可能な複数の玉と、前記玉をポケット内に収容した樹脂製の保持器と、を備えた油潤滑で使用される深溝玉軸受であって、
前記外輪の軸方向両端部には、半径方向内側に延びる油留部が設けられ、
前記保持器は、2枚の合成樹脂製の環状素子からなり、
各環状素子は円環部と、前記円環部から軸方向に突出する複数の柱部とを備え、隣接する前記柱部には前記玉の外周にならう半球状ポケットが形成され、
前記保持器の軸方向寸法が全周に亘って一様であることを特徴とする深溝玉軸受。
(2)前記保持器の軸方向断面において、前記柱部の径方向寸法は前記円環部の径方向寸法より大きいことを特徴とする(1)に記載の深溝玉軸受。
(3)前記内輪の外周面の軸方向両側には、油を供給又は排出するための切り欠きが設けられていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の深溝玉軸受。
(4)前記油留部の内径寸法が、前記玉のピッチ円直径より小さいことを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。
(5)前記内輪の外周面と前記油留部との最短距離が、前記玉の直径の9%以上であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の深溝玉軸受。
【発明の効果】
【0011】
本発明の深溝玉軸受によれば、外輪の軸方向両端部に油留部が設けられており、軸受内部を油浴状態にし保持器と玉の摺動部に常に油が行き渡るようにすることで、保持器の摩耗を抑制し、振れ回りを防止することができる。
【0012】
また、保持器の軸方向寸法が全周に亘って一様であり、従来の冠型保持器や波型保持器のような軸方向側面に玉にならう凹凸がないため、軸受の低トルク化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る深溝玉軸受の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図、図2は図1の深溝玉軸受に組み込まれる保持器の全体斜視図、図3は玉を備えた図2の保持器の部分斜視図である。
深溝玉軸受10は、内周面に外輪軌道面11aを有する外輪11と、外周面に内輪軌道面12aを有する内輪12と、これら外輪軌道面11aと内輪軌道面12aとの間に転動自在に設けられた複数の玉13と、外輪11の内周面と内輪12の外周面との間に設けられて複数の玉13を転動可能に保持する合成樹脂製の保持器20と、外輪11の内周面の軸方向両端部に設けられた溝11bに固定された金属製の油留板14(油留部)と、を備える。
【0015】
保持器20は、軸方向両側に円環部21a、21bと、円環部21a、21bの複数箇所から円周方向に等しい間隔をあけて円環部21a、21bを互いに連接する複数の柱部22と、を備える、いわゆる両持ち保持器である。円環部21a、21bは、保持器20の軸方向断面において、端面が円弧状に形成され、円環部21a、21bの軸方向両端部間距離、すなわち保持器20の軸方向寸法は保持器20の全周に亘って一様になっている。また、円周方向に隣り合う柱部22の対向面は、玉13の転動面にならって玉13よりも僅かに大きい曲率半径を有する部分球状ポケット25となっており、これにより保持器20は玉13により軸方向及び径方向の位置決めがなされ、回転時に玉13により案内される玉案内方式となっている。
【0016】
また、柱部22の内径側環状面と外径側環状面には、凸部23、24が設けられ、保持器20の軸方向断面において、柱部22の径方向寸法が円環部21a、21bの径方向寸法より大きくなっている。これらの凸部23,24は径方向における保持器20と外輪11及び内輪12との距離を小さくするように柱部22の全周に亘って設けられている。なお、本実施形態においては、凸部23、24の上面は内輪12の外周面及び外輪11の内周面と実質的に同じ径方向寸法となっているが、凸部23、24の上面を内輪軌道面12a又は外輪軌道面11aと接触しない程度に内輪12の外周面より小さく、又は外輪11の内周面より大きくしてもよい。
【0017】
保持器20は樹脂により形成され、樹脂材料として、ポリアミド46やポリアミド66などのポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェレンサルサイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルニトリル(PEN)などが例示される。また、上記樹脂に、例えば、ガラス繊維や炭素繊維などの繊維状充填材を10〜50wt%程度適宜添加することによって、保持器20の剛性および寸法精度を向上させることができる。
【0018】
図4には、保持器20の各構成要素の分解斜視図を示す。
保持器20は、第1素子20a(環状素子)及び第2素子20b(環状素子)からなる組み合わせ保持器である。第1素子20a及び第2素子20bは、それぞれ円環部21a、21bと、所定の間隔で配設された柱部22a、22bとを備え、周方向における柱部22a、22bと柱部22a、22bの間に玉13の外周にならう複数の半球状ポケット25a、25bを有している。
【0019】
第1素子20aの各柱部22aの先端面には、周方向略中央から軸方向に垂直に突き出した突起部26が形成され、第2素子22bの各柱部22bには、周方向略中央から軸方向に窪んだ凹部27が設けられている。第1素子20aと第2素子20bを組み付ける際には、第1素子20aの突起部26と第2素子20bの凹部27が係合することにより径方向および軸方向の位置決めを行ない、エポキシ系接着剤等により第1素子20aと第2素子20bが接着・固定され、一体形成されている。このように第1素子20aと第2素子20bを組み合わせることにより、各柱部22a、22bにより柱部22が構成され、半球状ポケット25a、25bにより部分球状ポケット25が構成される。
【0020】
油留板14は、例えば、SPCC等の金属板材をプレス加工して、略円環状に形成したものであり、その外周部14aは、外輪11の内周面の軸方向端部に設けられた溝11bに圧入・固定され、その内周部14bは、内輪12の外周面12bと隙間を空けて配置されている。尚、油留板14は、金属製の芯材をゴム、合成樹脂等の弾性材で被覆して全体円環状に形成してもよい。なお、油留板14の内周部14bと内輪12の外周面12bとの隙間は、潤滑油の供給口又は排出口として機能する。
【0021】
上述のように構成された深溝玉軸受10は、軸方向いずれか一方を潤滑油の供給側、他方を排出側に配置され、例えば、ハウジングに外輪11が内嵌され、回転軸に内輪12が外嵌されて、自動車の変速機等の装置に組み込まれ、内輪12と外輪11との相対回転を自在とする。この際、各玉13は、自転しつつ、内輪12の周囲を公転する。また、保持器20は各玉13の公転速度と同じ速度で、内輪12の周囲を回転する。
【0022】
また、ハウジングと回転軸との間の空間は、潤滑油を供給・排出するための供給路及び排出路として作用する。そして、潤滑油が、潤滑油タンク(図示せず)から供給路を介して深溝玉軸受10の側方から供給されると、潤滑油は、油留板14の内周部14bと内輪12の外周面12bとの開口部15から深溝玉軸受10の内部に流入し、深溝玉軸受10の回転に伴って潤滑油が保持器20や玉13によって攪拌される。
【0023】
このとき、深溝玉軸受10に供給された潤滑油は、遠心力により外径側に飛ばされ、外輪11の両端部に設置した油留板14にて塞ぎ止められ、深溝玉軸受10の内部は油浴状態となる。潤滑油は、外輪11、内輪12、玉13、及び保持器20の摺動面を潤滑した後、供給側の開口部とは反対側の開口部15から排出路に排出される。
【0024】
上記のように構成された本発明の深溝玉軸受10は、保持器20の軸方向寸法が保持器20の全周に亘って一様になっており、従来の冠型保持器や波型保持器と比べ、軸方向側の凹凸がない分、摩擦抵抗を低減し、軸受トルクを低減することができる。
【0025】
また、深溝玉軸受10は、合成樹脂製の保持器20を使用しているため、保持器自体の慣性質量を十分に小さくでき、その分だけ、軸受の軽量化や回転速度の高速化を図ることができる。また、合成樹脂製の保持器20は射出成形により大量生産できるために経済的である。
【0026】
また、保持器20は球面ポケット25を有し、玉案内されるため、保持器20が外輪11や内輪12と摺動しないため低トルク化することができる。
【0027】
また、保持器20の柱部22の内径側環状面と外径側環状面の両方に円環部21a、21bより径方向の肉厚を大きくした凸部23、24が設けられているため、柱部の内径側環状面23と内輪軌道面12aとの距離及び外径側環状面24と外輪軌道面11aとの距離を小さくなり、潤滑油が留まる空間を小さくすることで攪拌抵抗を低減し、軸受トルクを低減することができる。なお、本実施形態においては、柱部22の内径側環状面と外径側環状面の両方に円環部21a、21bより径方向の肉厚を大きくした凸部23、24が設けられているが、いずれか一方にのみ形成してもよい。
【0028】
また、保持器20を構成する第1素子20aと第2素子20bは接着剤を用いて固定するため、各素子20a、20bの係合部を複雑に加工する必要はなく、加工性が良い。
【0029】
さらに、油留板14と内輪12との間には、潤滑油の供給口又は排出口となる開口部15を有しており、潤滑油の給排出性を損なうことがないため、潤滑油が滞留し続けることがなく、深溝玉軸受10の昇温を抑制することができる。これにより、保持器20と玉13、及び保持器20と外輪11の摺動部には常に潤滑油が存在するため、摺動部の潤滑性が向上し、摩耗を抑制し、保持器20の振れ回りを防止できる。
【0030】
〈変形例1〉
図5は保持器20の変形例を示す部分斜視図である。変形例1の保持器20Aは、第1素子20aと第2素子20bの固定方法が、第1実施形態の深溝玉軸受10の保持器20と異なる以外は同様であり、図中、保持器20と同一の構成部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0031】
保持器20Aを構成する第1素子20aと第2素子20bの環状部21a、21bと柱部22a、22bには、軸方向に貫通する貫通孔33が設けられ、図5に示すように、一方にナット34を取り付け、他方からソケットボルト35を挿入しナット34に螺合させることで第1素子20aと第2素子20bが固定されている。なお、軸方向のバランスを考慮して、ソケットボルト35とナット34は周方向に交互に配置している。これにより、第1素子20aと第2素子20bを確実に固定することができ、さらに第1素子20aと第2素子20bを同一形状とすることができる。
【0032】
〈変形例2〉
図6は保持器20の他の変形例を示す部分斜視図である。変形例2の保持器20Bは、第1素子20aと第2素子20bの固定方法が、第1実施形態の深溝玉軸受10の保持器20と異なる以外は同様であり、図中、保持器20と同一の構成部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0033】
保持器20Bを構成する第1素子20aの各柱部22aの先端面には、図6(a)に示すように周方向略中央から軸方向に垂直に突き出した突起部46が設けられ、突起部46の先端には突起部外径面から外径側に僅かに突出した鉤部47が形成されている。
【0034】
保持器20Bを構成する第2素子20bの各柱部22bと環状部21bには軸方向に貫通する貫通孔48が設けられ、第1素子20aと第2素子20bを組み付ける際に、第1素子20aの鉤部47と対向する壁部の軸方向略中間に鉤部と係合する段部(不図示)が形成されている。
【0035】
本変形例においては、第1素子20aの突起部47を第2素子20bの貫通孔48に挿入し、第1素子20aの鉤部47を第2素子20bの段部に係合させることで第1素子20aと第2素子20bが固定されている。これによると、係合部の加工が複雑になるが、接着剤を使用せずに第1素子20aと第2素子20bを確実に固定することができる。
【0036】
(第2実施形態)
図7は本発明の第2実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図である。なお、図中、第1実施形態と同一の構成部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0037】
本実施形態においては、図7(a)に示すように、第1実施形態の油留板14の代わりに深溝玉軸受10Aの外輪11Aを内嵌するハウジング50に軸受内部に突出する突出部50aを設けるとともに、深溝玉軸受10Aの軸方向反対側を覆うハウジング蓋体51に軸受内部に突出する突出部51aを設け、これらの突出部50a,51aを油留部として機能させている。
【0038】
また、図7(b)に示すように、第1実施形態の油留板14の代わりに深溝玉軸受10Bの外輪11Aを内嵌するハウジング50とハウジング蓋体51との間に別部材として、軸受内部に突出する突出部52a、53aを備えた環状板52,53を挿入し、これらの突出部52a、53aを油留部として機能させてもよい。
【0039】
これにより、第1実施形態における油留板14と同様の機能をハウジング50(ハウジング蓋体51)または環状板52,53にもたせることができ、外輪11Aに油留板14用の溝11bを形成する必要なく汎用の外輪を使用することができる。
【0040】
(第3実施形態)
図8は本発明の第3実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図である。第3実施形態の深溝玉軸受は内輪の形状が異なる以外は第1実施形態の深溝玉軸受と同様である。なお、図中、第1実施形態と同一の構成部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0041】
図8(a)に示す第3実施形態の深溝玉軸受10Cは、潤滑油の供給口又は排出口となる開口部15を確保するため、内輪12Aの外周面12bの軸方向両端部を切り欠いてテーパ面12cを形成し、開口面積を大きくしている。また、図8(b)に示す深溝玉軸受10Dは、潤滑油の供給口又は排出口となる開口部15が確保するため、内輪12Bの外周面12bの軸方向両端部に切り欠いて段部12dを形成し、開口面積を大きくしている。
【0042】
油浴部分を確保するためには油留板14の内径寸法を小さくすることが望ましいが、油留板14の内径14bと内輪12の外周面12bとの差が小さすぎると潤滑油の給排出性を損ない軸受温度が上昇してしまう。従って、内輪12の外周面12bの軸方向両端部に切り欠くことにより、開口部15の開口面積を確保して、潤滑油が滞留し続けることを防止し、深溝玉軸受10C,10Dの昇温を抑制することができる。
【実施例】
【0043】
次に、本発明に係る深溝玉軸受の実施例について説明する。
[実施例1]
[保持器振れ回り比較試験]
図9に示す深溝玉軸受(図8(b)の深溝玉軸受と同一)を用いて、油留板の内径寸法(油留板内径Ds:65mm)を固定し内輪端部の外径寸法(Di)を変化させることにより開口部の開口量(y)を変化させ、玉径(Dw)に対する開口量(y)の比である開口比(y/Dw)に対する振れ回りが発生するまでの時間を、以下の条件で求めた。なお、比較例としては、保持器形状以外は同一仕様の冠型樹脂保持器を使用し、同一の試験条件で試験を行なった。
〈仕様〉
軸受名番:日本精工株式会社製単列深溝玉軸受6011
玉のピッチ円直径:72.5mm
保持器:球面ポケット組み合わせ樹脂保持器
保持器材料:ポリアミド46(カーボン繊維を15%充填)
油留板:SPCCをプレス成形加工し、外輪端部に加締めて装着
【0044】
〈試験条件〉
潤滑方法:VG24の鉱油を強制潤滑給油
油量:0.1L/min
給油温度:120℃
回転数:30000rpm
荷重:2000N
試験時間:20時間、50時間、100時間、以後100時間毎に振れ回りの有無を計測
【0045】
【表1】
【0046】
保持器の振れ回り比較試験の結果を表1及び図10に示す。この保持器振れ回り比較試験の結果より、比較例である冠型保持器に比べ、本実施例の球面ポケット組み合わせ保持器の場合には、保持器振れ回り開始時間が大幅に伸びることがわかった。
【0047】
また、開口比(y/Dw)が9%以上となると本実施例の球面ポケット組み合わせ保持器の振れ回り開始時間の向上はほぼ飽和し、開口比(y/Dw)が11%以上となると本実施例の球面ポケット組み合わせ保持器の振れ回り開始時間は完全に飽和する。これより、開口比(y/Dw)が9%以上が好ましく、11%以上がさらに好ましい。
【0048】
[実施例2]
[保持器振れ回り比較試験2]
実施例1と同様の仕様、試験条件で、開口部の開口量(y:1.14mm)を固定し、油留板の内径寸法(Ds)を表2のように変化させて、油留板の内径寸法(Ds)と玉のピッチ円直径(Dpcd)の差に対する振れ回りが発生するまでの時間を求めた。なお、内輪端部の外径寸法は内輪端部に別途、円環状の遮蔽板を設け、遮蔽板の外径寸法を内輪端部の外径寸法とみなし試験を行なった。
【0049】
【表2】
【0050】
保持器振れ回り比較試験の結果を表2及び図12に示す。この保持器振れ回り比較試験の結果より、比較例である冠型保持器に比べ、本実施例の球面ポケット組み合わせ保持器の場合には、保持器振れ回り開始時間が大幅に伸びることがわかった。
【0051】
また、油留板内径が玉のピッチ円直径Dpcdより大きいと、外径側に開口部が存在するため、より大きな遠心力が開口部に作用し油留板内径側の潤滑油が軸受外に飛ばされる。したがって、保持器内径側の玉との摺動部に油浴状態を形成できなくなり、摩耗により振れ回り抑制効果が低減する。一方、油留板内径を玉のピッチ円直径Dpcd以下とすると振れ回り防止効果が現れ、油留板内径を保持器内径以下とすると振れ回り防止効果が飽和状態となる。
【0052】
以上の結果から、油留板内径が玉のピッチ円直径以下ならば保持器と玉との間に潤滑油を油浴状態を維持できるため、耐振れ周り性を向上させることができ、保持器内径以下がさらに好ましい。
【0053】
[実施例3]
[軸受トルク比較試験]
図9に示す深溝玉軸受(図8(b)の深溝玉軸受と同一)を用いて、油留板の内径寸法(油留板内径Ds:65mm)を固定して軸受トルクを測定した。比較例として、保持器形状以外は同一仕様の油留板ありの冠型樹脂保持器と油留板なしの冠型樹脂保持器を使用し、同一の試験条件で試験を行なった。
〈仕様〉
軸受名番:日本精工株式会社製単列深溝玉軸受6011
玉のピッチ円直径:72.5mm
保持器:球面ポケット組み合わせ樹脂保持器
保持器材料:ポリアミド46(カーボン繊維を15%充填)
保持器内径:68.3mm
油留板:SPCCをプレス成形加工し、外輪端部に加締めて装着
油留板内径:65mm
開口比(y/Dw):11%
【0054】
〈試験条件〉
潤滑方法:VG24の鉱油を強制潤滑給油
油量:0.25L/min
給油温度:110℃
回転数:9000rpm
荷重:300N
【0055】
【表3】
【0056】
軸受トルク比較試験の結果を表3に示す。この軸受トルク比較試験の結果より、比較例である油留板を備えた冠型保持器に比べ、爪部による凹凸形状がない本発明の球面ポケット組み合わせ樹脂保持器の場合には、軸受トルクを低減することができた。また、比較例である油留板を備えていない冠型保持器と比べた場合でさえ、本実施例の球面ポケット組み合わせ保持器の場合には、軸受トルクを低減することができた。
【0057】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図である。
【図2】図1の深溝玉軸受に組み込まれる保持器の全体斜視図である。
【図3】玉を備えた図2の保持器の部分斜視図である。
【図4】図2の保持器の部分分解斜視図である。
【図5】保持器の変形例を示す部分斜視図である。
【図6】保持器の他の変形例を示す部分斜視図である。
【図7】本発明の第2実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図である。
【図9】保持器振れ回り比較試験で使用される本発明の深溝玉軸受の要部断面図である。
【図10】保持器振れ回り比較試験1の試験結果を示すグラフである。
【図11】保持器振れ回り比較試験2の試験結果を示すグラフである。
【図12】従来の深溝玉軸受用冠型樹脂保持器の斜視図である。
【図13】従来の転がり軸受用冠型保持器が組み込まれた転がり軸受の不具合を説明するための要部断面図である。
【図14】特許文献1に記載の転がり軸受用冠型保持器の説明図である。
【図15】特許文献2に記載の転がり軸受用波型保持器の説明図である。
【符号の説明】
【0059】
10、10A、10B、10C、10D 深溝玉軸受
11 外輪
12 内輪
13 玉
14 油留板(油留部)
20、20A、20B 保持器
21a 第1素子(環状素子)
21b 第2素子(環状素子)
23、24 凸部(保持器凸部)
25 ポケット
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のトランスミッションにおいて、高速運転に使用される深溝玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に深溝玉軸受で使用される樹脂製保持器としては、例えば、図12に示す冠型保持器と呼ばれる保持器101がある。この保持器101は、合成樹脂の射出成形により形成されており、円環状のリム部102と、リム部102の軸方向端面に円周方向に所定の間隔を存して複数配置される柱部103と、柱部103、103間に互いに隣り合うように形成され、複数の玉を円周方向に略等間隔で転動可能に保持するポケット部104と、ポケット部104の内周面の円周方向両端部に形成される一対の爪部105a、105bと、一対の爪部105a、105bの各先端間に形成される開口部106と、を備える。そして、開口部106から玉を一対の爪部105a、105bを押し広げつつポケット部104に押し込むことによって、ポケット部104内に玉が微小なすきまを介して転動可能に保持される。
【0003】
しかしながら、従来の深溝玉軸受に組み込まれているこの冠型保持器101は、玉案内方式の保持器であり、近年の高速回転化への対応により、ポケット内径側端部が玉107と接触し摩耗することで、図13に示すように、保持器開口部側の軸方向端部108に保持器101の回転による遠心力が働き、リム側の軸方向端部109を捩れ軸とした弾性あるいは塑性変形による捩れ変形が生じ、保持器外径面が外輪内径面と接触して保持器が摩耗したり、異状発熱やトルク増大などの問題が生じるおそれがあった。
【0004】
高速回転用の軸受として、特許文献1には、図14に示すように、冠型保持器110のポケットの球面中心Pを保持器径方向厚み中心Cより外径側にし、内径側の玉抱え込み量を確保する軸受が開示されている。これにより、保持器110の外径側への捩れ変形を抑制し、保持器110と外輪間の摺動を防止している。
【0005】
また、特許文献2には、図15に示すように捩れ変形を抑制することを目的として2つの環状素子111、111を組み合わせた波型保持器112が開示されている。
【特許文献1】実開平5−34317号公報
【特許文献2】特開2003−343571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1に記載の冠型保持器を備えた軸受であっても高速回転させた場合、ポケット内径側が遠心力により油不足になるため摩耗し最終的には捩れ変形を抑えられなくなり保持器110が外輪に摺動し、いわゆる振れ回りしてしまうおそれがあった。そして、振れ回りが起こると保持器110に異常な力が加わるため保持器が破損してしまうおそれがある。
【0007】
また、冠型保持器110においては、図14の矢印Aで示す凹部に油が接触するため軸受トルクが増加してしまうという問題があった。
【0008】
また、上記特許文献2に記載の構造においても、高速回転時には遠心力により保持器内径側と玉摺動部の潤滑不足が発生し、この部分に摩耗が起きてしまい、最終的には振れ回りが生じるおそれがあった。さらに、この波型形状の保持器においては、図15の矢印Bで示す凹部が、玉の両側に形成されているため冠型保持器に比べ潤滑油の攪拌抵抗が大きくなり軸受トルクが高いという欠点があった。また、保持器の摩耗を防止するために保持器を球面ポケットではなく円筒ポケットにし、外輪案内にすることも考えられるが、保持器と外輪との摺動によりトルクが増大してしまうため望ましくはない。
【0009】
本発明は、このような不都合を解消するためになされたものであり、その目的は、軸受トルクを低減することが可能な深溝玉軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪の間を周方向に転動可能な複数の玉と、前記玉をポケット内に収容した樹脂製の保持器と、を備えた油潤滑で使用される深溝玉軸受であって、
前記外輪の軸方向両端部には、半径方向内側に延びる油留部が設けられ、
前記保持器は、2枚の合成樹脂製の環状素子からなり、
各環状素子は円環部と、前記円環部から軸方向に突出する複数の柱部とを備え、隣接する前記柱部には前記玉の外周にならう半球状ポケットが形成され、
前記保持器の軸方向寸法が全周に亘って一様であることを特徴とする深溝玉軸受。
(2)前記保持器の軸方向断面において、前記柱部の径方向寸法は前記円環部の径方向寸法より大きいことを特徴とする(1)に記載の深溝玉軸受。
(3)前記内輪の外周面の軸方向両側には、油を供給又は排出するための切り欠きが設けられていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の深溝玉軸受。
(4)前記油留部の内径寸法が、前記玉のピッチ円直径より小さいことを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。
(5)前記内輪の外周面と前記油留部との最短距離が、前記玉の直径の9%以上であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の深溝玉軸受。
【発明の効果】
【0011】
本発明の深溝玉軸受によれば、外輪の軸方向両端部に油留部が設けられており、軸受内部を油浴状態にし保持器と玉の摺動部に常に油が行き渡るようにすることで、保持器の摩耗を抑制し、振れ回りを防止することができる。
【0012】
また、保持器の軸方向寸法が全周に亘って一様であり、従来の冠型保持器や波型保持器のような軸方向側面に玉にならう凹凸がないため、軸受の低トルク化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る深溝玉軸受の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図、図2は図1の深溝玉軸受に組み込まれる保持器の全体斜視図、図3は玉を備えた図2の保持器の部分斜視図である。
深溝玉軸受10は、内周面に外輪軌道面11aを有する外輪11と、外周面に内輪軌道面12aを有する内輪12と、これら外輪軌道面11aと内輪軌道面12aとの間に転動自在に設けられた複数の玉13と、外輪11の内周面と内輪12の外周面との間に設けられて複数の玉13を転動可能に保持する合成樹脂製の保持器20と、外輪11の内周面の軸方向両端部に設けられた溝11bに固定された金属製の油留板14(油留部)と、を備える。
【0015】
保持器20は、軸方向両側に円環部21a、21bと、円環部21a、21bの複数箇所から円周方向に等しい間隔をあけて円環部21a、21bを互いに連接する複数の柱部22と、を備える、いわゆる両持ち保持器である。円環部21a、21bは、保持器20の軸方向断面において、端面が円弧状に形成され、円環部21a、21bの軸方向両端部間距離、すなわち保持器20の軸方向寸法は保持器20の全周に亘って一様になっている。また、円周方向に隣り合う柱部22の対向面は、玉13の転動面にならって玉13よりも僅かに大きい曲率半径を有する部分球状ポケット25となっており、これにより保持器20は玉13により軸方向及び径方向の位置決めがなされ、回転時に玉13により案内される玉案内方式となっている。
【0016】
また、柱部22の内径側環状面と外径側環状面には、凸部23、24が設けられ、保持器20の軸方向断面において、柱部22の径方向寸法が円環部21a、21bの径方向寸法より大きくなっている。これらの凸部23,24は径方向における保持器20と外輪11及び内輪12との距離を小さくするように柱部22の全周に亘って設けられている。なお、本実施形態においては、凸部23、24の上面は内輪12の外周面及び外輪11の内周面と実質的に同じ径方向寸法となっているが、凸部23、24の上面を内輪軌道面12a又は外輪軌道面11aと接触しない程度に内輪12の外周面より小さく、又は外輪11の内周面より大きくしてもよい。
【0017】
保持器20は樹脂により形成され、樹脂材料として、ポリアミド46やポリアミド66などのポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェレンサルサイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルニトリル(PEN)などが例示される。また、上記樹脂に、例えば、ガラス繊維や炭素繊維などの繊維状充填材を10〜50wt%程度適宜添加することによって、保持器20の剛性および寸法精度を向上させることができる。
【0018】
図4には、保持器20の各構成要素の分解斜視図を示す。
保持器20は、第1素子20a(環状素子)及び第2素子20b(環状素子)からなる組み合わせ保持器である。第1素子20a及び第2素子20bは、それぞれ円環部21a、21bと、所定の間隔で配設された柱部22a、22bとを備え、周方向における柱部22a、22bと柱部22a、22bの間に玉13の外周にならう複数の半球状ポケット25a、25bを有している。
【0019】
第1素子20aの各柱部22aの先端面には、周方向略中央から軸方向に垂直に突き出した突起部26が形成され、第2素子22bの各柱部22bには、周方向略中央から軸方向に窪んだ凹部27が設けられている。第1素子20aと第2素子20bを組み付ける際には、第1素子20aの突起部26と第2素子20bの凹部27が係合することにより径方向および軸方向の位置決めを行ない、エポキシ系接着剤等により第1素子20aと第2素子20bが接着・固定され、一体形成されている。このように第1素子20aと第2素子20bを組み合わせることにより、各柱部22a、22bにより柱部22が構成され、半球状ポケット25a、25bにより部分球状ポケット25が構成される。
【0020】
油留板14は、例えば、SPCC等の金属板材をプレス加工して、略円環状に形成したものであり、その外周部14aは、外輪11の内周面の軸方向端部に設けられた溝11bに圧入・固定され、その内周部14bは、内輪12の外周面12bと隙間を空けて配置されている。尚、油留板14は、金属製の芯材をゴム、合成樹脂等の弾性材で被覆して全体円環状に形成してもよい。なお、油留板14の内周部14bと内輪12の外周面12bとの隙間は、潤滑油の供給口又は排出口として機能する。
【0021】
上述のように構成された深溝玉軸受10は、軸方向いずれか一方を潤滑油の供給側、他方を排出側に配置され、例えば、ハウジングに外輪11が内嵌され、回転軸に内輪12が外嵌されて、自動車の変速機等の装置に組み込まれ、内輪12と外輪11との相対回転を自在とする。この際、各玉13は、自転しつつ、内輪12の周囲を公転する。また、保持器20は各玉13の公転速度と同じ速度で、内輪12の周囲を回転する。
【0022】
また、ハウジングと回転軸との間の空間は、潤滑油を供給・排出するための供給路及び排出路として作用する。そして、潤滑油が、潤滑油タンク(図示せず)から供給路を介して深溝玉軸受10の側方から供給されると、潤滑油は、油留板14の内周部14bと内輪12の外周面12bとの開口部15から深溝玉軸受10の内部に流入し、深溝玉軸受10の回転に伴って潤滑油が保持器20や玉13によって攪拌される。
【0023】
このとき、深溝玉軸受10に供給された潤滑油は、遠心力により外径側に飛ばされ、外輪11の両端部に設置した油留板14にて塞ぎ止められ、深溝玉軸受10の内部は油浴状態となる。潤滑油は、外輪11、内輪12、玉13、及び保持器20の摺動面を潤滑した後、供給側の開口部とは反対側の開口部15から排出路に排出される。
【0024】
上記のように構成された本発明の深溝玉軸受10は、保持器20の軸方向寸法が保持器20の全周に亘って一様になっており、従来の冠型保持器や波型保持器と比べ、軸方向側の凹凸がない分、摩擦抵抗を低減し、軸受トルクを低減することができる。
【0025】
また、深溝玉軸受10は、合成樹脂製の保持器20を使用しているため、保持器自体の慣性質量を十分に小さくでき、その分だけ、軸受の軽量化や回転速度の高速化を図ることができる。また、合成樹脂製の保持器20は射出成形により大量生産できるために経済的である。
【0026】
また、保持器20は球面ポケット25を有し、玉案内されるため、保持器20が外輪11や内輪12と摺動しないため低トルク化することができる。
【0027】
また、保持器20の柱部22の内径側環状面と外径側環状面の両方に円環部21a、21bより径方向の肉厚を大きくした凸部23、24が設けられているため、柱部の内径側環状面23と内輪軌道面12aとの距離及び外径側環状面24と外輪軌道面11aとの距離を小さくなり、潤滑油が留まる空間を小さくすることで攪拌抵抗を低減し、軸受トルクを低減することができる。なお、本実施形態においては、柱部22の内径側環状面と外径側環状面の両方に円環部21a、21bより径方向の肉厚を大きくした凸部23、24が設けられているが、いずれか一方にのみ形成してもよい。
【0028】
また、保持器20を構成する第1素子20aと第2素子20bは接着剤を用いて固定するため、各素子20a、20bの係合部を複雑に加工する必要はなく、加工性が良い。
【0029】
さらに、油留板14と内輪12との間には、潤滑油の供給口又は排出口となる開口部15を有しており、潤滑油の給排出性を損なうことがないため、潤滑油が滞留し続けることがなく、深溝玉軸受10の昇温を抑制することができる。これにより、保持器20と玉13、及び保持器20と外輪11の摺動部には常に潤滑油が存在するため、摺動部の潤滑性が向上し、摩耗を抑制し、保持器20の振れ回りを防止できる。
【0030】
〈変形例1〉
図5は保持器20の変形例を示す部分斜視図である。変形例1の保持器20Aは、第1素子20aと第2素子20bの固定方法が、第1実施形態の深溝玉軸受10の保持器20と異なる以外は同様であり、図中、保持器20と同一の構成部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0031】
保持器20Aを構成する第1素子20aと第2素子20bの環状部21a、21bと柱部22a、22bには、軸方向に貫通する貫通孔33が設けられ、図5に示すように、一方にナット34を取り付け、他方からソケットボルト35を挿入しナット34に螺合させることで第1素子20aと第2素子20bが固定されている。なお、軸方向のバランスを考慮して、ソケットボルト35とナット34は周方向に交互に配置している。これにより、第1素子20aと第2素子20bを確実に固定することができ、さらに第1素子20aと第2素子20bを同一形状とすることができる。
【0032】
〈変形例2〉
図6は保持器20の他の変形例を示す部分斜視図である。変形例2の保持器20Bは、第1素子20aと第2素子20bの固定方法が、第1実施形態の深溝玉軸受10の保持器20と異なる以外は同様であり、図中、保持器20と同一の構成部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0033】
保持器20Bを構成する第1素子20aの各柱部22aの先端面には、図6(a)に示すように周方向略中央から軸方向に垂直に突き出した突起部46が設けられ、突起部46の先端には突起部外径面から外径側に僅かに突出した鉤部47が形成されている。
【0034】
保持器20Bを構成する第2素子20bの各柱部22bと環状部21bには軸方向に貫通する貫通孔48が設けられ、第1素子20aと第2素子20bを組み付ける際に、第1素子20aの鉤部47と対向する壁部の軸方向略中間に鉤部と係合する段部(不図示)が形成されている。
【0035】
本変形例においては、第1素子20aの突起部47を第2素子20bの貫通孔48に挿入し、第1素子20aの鉤部47を第2素子20bの段部に係合させることで第1素子20aと第2素子20bが固定されている。これによると、係合部の加工が複雑になるが、接着剤を使用せずに第1素子20aと第2素子20bを確実に固定することができる。
【0036】
(第2実施形態)
図7は本発明の第2実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図である。なお、図中、第1実施形態と同一の構成部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0037】
本実施形態においては、図7(a)に示すように、第1実施形態の油留板14の代わりに深溝玉軸受10Aの外輪11Aを内嵌するハウジング50に軸受内部に突出する突出部50aを設けるとともに、深溝玉軸受10Aの軸方向反対側を覆うハウジング蓋体51に軸受内部に突出する突出部51aを設け、これらの突出部50a,51aを油留部として機能させている。
【0038】
また、図7(b)に示すように、第1実施形態の油留板14の代わりに深溝玉軸受10Bの外輪11Aを内嵌するハウジング50とハウジング蓋体51との間に別部材として、軸受内部に突出する突出部52a、53aを備えた環状板52,53を挿入し、これらの突出部52a、53aを油留部として機能させてもよい。
【0039】
これにより、第1実施形態における油留板14と同様の機能をハウジング50(ハウジング蓋体51)または環状板52,53にもたせることができ、外輪11Aに油留板14用の溝11bを形成する必要なく汎用の外輪を使用することができる。
【0040】
(第3実施形態)
図8は本発明の第3実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図である。第3実施形態の深溝玉軸受は内輪の形状が異なる以外は第1実施形態の深溝玉軸受と同様である。なお、図中、第1実施形態と同一の構成部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0041】
図8(a)に示す第3実施形態の深溝玉軸受10Cは、潤滑油の供給口又は排出口となる開口部15を確保するため、内輪12Aの外周面12bの軸方向両端部を切り欠いてテーパ面12cを形成し、開口面積を大きくしている。また、図8(b)に示す深溝玉軸受10Dは、潤滑油の供給口又は排出口となる開口部15が確保するため、内輪12Bの外周面12bの軸方向両端部に切り欠いて段部12dを形成し、開口面積を大きくしている。
【0042】
油浴部分を確保するためには油留板14の内径寸法を小さくすることが望ましいが、油留板14の内径14bと内輪12の外周面12bとの差が小さすぎると潤滑油の給排出性を損ない軸受温度が上昇してしまう。従って、内輪12の外周面12bの軸方向両端部に切り欠くことにより、開口部15の開口面積を確保して、潤滑油が滞留し続けることを防止し、深溝玉軸受10C,10Dの昇温を抑制することができる。
【実施例】
【0043】
次に、本発明に係る深溝玉軸受の実施例について説明する。
[実施例1]
[保持器振れ回り比較試験]
図9に示す深溝玉軸受(図8(b)の深溝玉軸受と同一)を用いて、油留板の内径寸法(油留板内径Ds:65mm)を固定し内輪端部の外径寸法(Di)を変化させることにより開口部の開口量(y)を変化させ、玉径(Dw)に対する開口量(y)の比である開口比(y/Dw)に対する振れ回りが発生するまでの時間を、以下の条件で求めた。なお、比較例としては、保持器形状以外は同一仕様の冠型樹脂保持器を使用し、同一の試験条件で試験を行なった。
〈仕様〉
軸受名番:日本精工株式会社製単列深溝玉軸受6011
玉のピッチ円直径:72.5mm
保持器:球面ポケット組み合わせ樹脂保持器
保持器材料:ポリアミド46(カーボン繊維を15%充填)
油留板:SPCCをプレス成形加工し、外輪端部に加締めて装着
【0044】
〈試験条件〉
潤滑方法:VG24の鉱油を強制潤滑給油
油量:0.1L/min
給油温度:120℃
回転数:30000rpm
荷重:2000N
試験時間:20時間、50時間、100時間、以後100時間毎に振れ回りの有無を計測
【0045】
【表1】
【0046】
保持器の振れ回り比較試験の結果を表1及び図10に示す。この保持器振れ回り比較試験の結果より、比較例である冠型保持器に比べ、本実施例の球面ポケット組み合わせ保持器の場合には、保持器振れ回り開始時間が大幅に伸びることがわかった。
【0047】
また、開口比(y/Dw)が9%以上となると本実施例の球面ポケット組み合わせ保持器の振れ回り開始時間の向上はほぼ飽和し、開口比(y/Dw)が11%以上となると本実施例の球面ポケット組み合わせ保持器の振れ回り開始時間は完全に飽和する。これより、開口比(y/Dw)が9%以上が好ましく、11%以上がさらに好ましい。
【0048】
[実施例2]
[保持器振れ回り比較試験2]
実施例1と同様の仕様、試験条件で、開口部の開口量(y:1.14mm)を固定し、油留板の内径寸法(Ds)を表2のように変化させて、油留板の内径寸法(Ds)と玉のピッチ円直径(Dpcd)の差に対する振れ回りが発生するまでの時間を求めた。なお、内輪端部の外径寸法は内輪端部に別途、円環状の遮蔽板を設け、遮蔽板の外径寸法を内輪端部の外径寸法とみなし試験を行なった。
【0049】
【表2】
【0050】
保持器振れ回り比較試験の結果を表2及び図12に示す。この保持器振れ回り比較試験の結果より、比較例である冠型保持器に比べ、本実施例の球面ポケット組み合わせ保持器の場合には、保持器振れ回り開始時間が大幅に伸びることがわかった。
【0051】
また、油留板内径が玉のピッチ円直径Dpcdより大きいと、外径側に開口部が存在するため、より大きな遠心力が開口部に作用し油留板内径側の潤滑油が軸受外に飛ばされる。したがって、保持器内径側の玉との摺動部に油浴状態を形成できなくなり、摩耗により振れ回り抑制効果が低減する。一方、油留板内径を玉のピッチ円直径Dpcd以下とすると振れ回り防止効果が現れ、油留板内径を保持器内径以下とすると振れ回り防止効果が飽和状態となる。
【0052】
以上の結果から、油留板内径が玉のピッチ円直径以下ならば保持器と玉との間に潤滑油を油浴状態を維持できるため、耐振れ周り性を向上させることができ、保持器内径以下がさらに好ましい。
【0053】
[実施例3]
[軸受トルク比較試験]
図9に示す深溝玉軸受(図8(b)の深溝玉軸受と同一)を用いて、油留板の内径寸法(油留板内径Ds:65mm)を固定して軸受トルクを測定した。比較例として、保持器形状以外は同一仕様の油留板ありの冠型樹脂保持器と油留板なしの冠型樹脂保持器を使用し、同一の試験条件で試験を行なった。
〈仕様〉
軸受名番:日本精工株式会社製単列深溝玉軸受6011
玉のピッチ円直径:72.5mm
保持器:球面ポケット組み合わせ樹脂保持器
保持器材料:ポリアミド46(カーボン繊維を15%充填)
保持器内径:68.3mm
油留板:SPCCをプレス成形加工し、外輪端部に加締めて装着
油留板内径:65mm
開口比(y/Dw):11%
【0054】
〈試験条件〉
潤滑方法:VG24の鉱油を強制潤滑給油
油量:0.25L/min
給油温度:110℃
回転数:9000rpm
荷重:300N
【0055】
【表3】
【0056】
軸受トルク比較試験の結果を表3に示す。この軸受トルク比較試験の結果より、比較例である油留板を備えた冠型保持器に比べ、爪部による凹凸形状がない本発明の球面ポケット組み合わせ樹脂保持器の場合には、軸受トルクを低減することができた。また、比較例である油留板を備えていない冠型保持器と比べた場合でさえ、本実施例の球面ポケット組み合わせ保持器の場合には、軸受トルクを低減することができた。
【0057】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図である。
【図2】図1の深溝玉軸受に組み込まれる保持器の全体斜視図である。
【図3】玉を備えた図2の保持器の部分斜視図である。
【図4】図2の保持器の部分分解斜視図である。
【図5】保持器の変形例を示す部分斜視図である。
【図6】保持器の他の変形例を示す部分斜視図である。
【図7】本発明の第2実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図である。
【図9】保持器振れ回り比較試験で使用される本発明の深溝玉軸受の要部断面図である。
【図10】保持器振れ回り比較試験1の試験結果を示すグラフである。
【図11】保持器振れ回り比較試験2の試験結果を示すグラフである。
【図12】従来の深溝玉軸受用冠型樹脂保持器の斜視図である。
【図13】従来の転がり軸受用冠型保持器が組み込まれた転がり軸受の不具合を説明するための要部断面図である。
【図14】特許文献1に記載の転がり軸受用冠型保持器の説明図である。
【図15】特許文献2に記載の転がり軸受用波型保持器の説明図である。
【符号の説明】
【0059】
10、10A、10B、10C、10D 深溝玉軸受
11 外輪
12 内輪
13 玉
14 油留板(油留部)
20、20A、20B 保持器
21a 第1素子(環状素子)
21b 第2素子(環状素子)
23、24 凸部(保持器凸部)
25 ポケット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪の間を周方向に転動可能な複数の玉と、前記玉をポケット内に収容した樹脂製の保持器と、を備えた油潤滑で使用される深溝玉軸受であって、
前記外輪の軸方向両端部には、半径方向内側に延びる油留部が設けられ、
前記保持器は、2枚の合成樹脂製の環状素子からなり、
各環状素子は円環部と、前記円環部から軸方向に突出する複数の柱部とを備え、隣接する前記柱部の対向面には前記玉の外周にならう複数の半球状ポケットが形成され、
前記保持器の軸方向寸法が全周に亘って一様であることを特徴とする深溝玉軸受。
【請求項2】
前記保持器の軸方向断面において、前記柱部の径方向寸法は前記円環部の径方向寸法より大きいことを特徴とする請求項1に記載の深溝玉軸受。
【請求項3】
前記内輪の外周面の軸方向両側には、油を供給又は排出するための切り欠きが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の深溝玉軸受。
【請求項4】
前記油留部の内径寸法が、前記玉のピッチ円直径より小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。
【請求項5】
前記内輪の外周面と前記油留部との最短距離が、前記玉の直径の9%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。
【請求項1】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪の間を周方向に転動可能な複数の玉と、前記玉をポケット内に収容した樹脂製の保持器と、を備えた油潤滑で使用される深溝玉軸受であって、
前記外輪の軸方向両端部には、半径方向内側に延びる油留部が設けられ、
前記保持器は、2枚の合成樹脂製の環状素子からなり、
各環状素子は円環部と、前記円環部から軸方向に突出する複数の柱部とを備え、隣接する前記柱部の対向面には前記玉の外周にならう複数の半球状ポケットが形成され、
前記保持器の軸方向寸法が全周に亘って一様であることを特徴とする深溝玉軸受。
【請求項2】
前記保持器の軸方向断面において、前記柱部の径方向寸法は前記円環部の径方向寸法より大きいことを特徴とする請求項1に記載の深溝玉軸受。
【請求項3】
前記内輪の外周面の軸方向両側には、油を供給又は排出するための切り欠きが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の深溝玉軸受。
【請求項4】
前記油留部の内径寸法が、前記玉のピッチ円直径より小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。
【請求項5】
前記内輪の外周面と前記油留部との最短距離が、前記玉の直径の9%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−275799(P2009−275799A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127065(P2008−127065)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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