説明

混合ガスの分析方法及び装置

【課題】 %オーダーで混合された混合ガスの各ガス成分の濃度を四重極質量分析計を用いてリアルタイムかつ連続的に測定が可能な混合ガスの分析方法及び装置を提供する。
【解決手段】 混合ガス中に含まれる最も濃度の高い成分を希釈ガスとして使用し、該希釈ガスによって希釈した混合ガスを四重極質量分析計に導入し、前記最も濃度の高い成分を除く成分を分析対象として各成分の濃度を測定する。四重極質量分析計は、希釈ガスをベースガスとし、分析対象となる各成分の合計量をベースガス中の濃度が10%以下とした校正ガスを使用して校正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合ガスの分析方法及び装置に関し、詳しくは、混合ガスを構成する各成分濃度を迅速に、かつ、連続的に測定するための混合ガスの分析方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス製造分野や半導体製造分野をはじめとする各種プロセスにおいて、気体又は液体の濃度管理を低コストかつリアルタイムで行う必要性がある。例えば、空気分離プラントの粗アルゴン流等では、空気成分が%オーダーで混在しているが、ガス中の窒素濃度や酸素濃度を制御することで、製品気体の濃度を管理できるようになる。また、半導体製造分野でも、最近では、混合レアガスによるエッチングプロセス後の排ガス中に数種以上のガスが%オーダーで存在するため、分解プロセス上、リアルタイムで測定することが求められる。
【0003】
ガス中に含まれる比較的高濃度の成分の分析方法として、従来からガスクロマトグラフ(GC)、非分散赤外分光法(NDIR)や質量分析計等が利用されてきた。しかしながら、ガスクロマトグラフは間欠的にしか測定できないため、成分濃度をリアルタイムでかつ連続的に監視することができなかった。
【0004】
また、非分散赤外分光法は、リアルタイムかつ連続測定が可能で、インラインモニタリングにも適応できる方法として多用されている。しかしながら、原理上、測定対象成分が赤外活性成分に限定されるため、窒素や酸素等の2原子分子やアルゴンやキセノン等の単原子分子は測定できないという欠点を有していた。
【0005】
質量分析計は、イオン源で測定種がイオン化され、その質量数/電荷数(質量電荷比)によって、分離部で分離され、後段の検出器で電流を検出する。イオン化に関しては、幾つかの方法があるが、電子衝撃法がもっとも普及している。電子衝撃法は50〜100eV(通常70eV)の加速電子を用いて分子を衝突させてイオン化する。また、前記分離部は、低い質量電荷比から高い質量電荷比まで高速で走査できること、走査時に全質量領域においてピーク間隔が同じであるためピーク間隔が同じであること、装置自身が小型、低価格で可搬型のものがあることなどからもっとも普及している。このような質量分析計は、感度が高く分離部を有しているため選択性もよい。また、イオン源から検出器部まで、真空下で分析が行われるため、少ない試料流量で高速応答が可能である。
【0006】
しかしながら、質量分析計は、イオン源の圧力により、ガスの感度係数が変化することが知られている。通常、質量分析計においては、イオン源内への試料導入は、コンダクタンスバルブやキャピラリーあるいはオリフィス等を通過することが多く、試料ガスの分子量によって通過する体積流量が異なる。したがって、排気量を制御していない一定体積流量を排気する排気系の場合、ガス組成によりイオン源内の圧力が異なる。
【0007】
このとき、ガス中の不純物濃度がppm以下の場合は、大部分が一種のガスで構成されているため、イオン源内に入る試料の体積流量は略一定であるが、%オーダーのガスが混在した組成の場合、その混在比率によって、イオン源内の圧力が異なり、しいては、感度係数が異なって正確な定量値が得られない。
【0008】
例えば、図4は窒素中の各不純物の検量線を、図5はアルゴン中の各不純物の検量線を示したものであるが、これらの図から、各不純物感度(検量線傾き)が窒素中の場合とアルゴン中の場合とで異なっていることが分かる(例えば、非特許文献1参照。)。
【0009】
また、混合ガスのマトリックスのイオン化ポテンシャルにより、不純物の感度が異なる。イオン源内は1.3×10−2〜1.3×10−4Pa(10−4〜10−6Torr)程度の真空下で、フィラメントからの熱電子の衝突によりイオン化される。しかしながら、イオン化されたマトリックス分子がイオン源内で目的とする不純物分子種と衝突を起こす。したがって、イオン化されたマトリックスが保持しているエネルギー量によって不純物の感度が変化する。
【0010】
さらに、例えば、図4に示した窒素ガス中の各不純物の検量線から分かるように、軽元素ほど、その感度が高い。これは、低密度分子ほどガス拡散係数が大きいため、熱電子との衝突確率が上がり、イオン化効率が高くなると考えられる。したがって、ガスマトリックスにより、拡散係数が異なるため、不純物感度が変化することも考えられる。
【非特許文献1】釜山、森清、「四重極質量分析計による,多成分系ガスの定量分析に関する問題点の検討」、岩石鉱物科学、日本岩石鉱物鉱床学会、日本鉱物学会、平成15年1月30日、32巻、1号、1〜11頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、質量分析計は、多くの利点を有しているが、%オーダーで混合されたガスの組成分析は、極めて困難であるという問題点があった。
【0012】
そこで本発明は、%オーダーで混合された混合ガスの各ガス成分の濃度を四重極質量分析計を用いてリアルタイムかつ連続的に測定が可能な混合ガスの分析方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の混合ガスの分析方法は、混合ガス中の各成分の濃度を四重極質量分析計を使用して測定する混合ガスの分析方法において、前記混合ガス中に含まれる最も濃度の高い成分を希釈ガスとして使用し、該希釈ガスによって希釈した混合ガスを前記四重極質量分析計に導入し、前記最も濃度の高い成分を除く成分を分析対象として各成分の濃度を測定することを特徴としている。
【0014】
さらに、本発明の混合ガスの分析方法は、前記四重極質量分析計の校正は、前記希釈ガスをベースガスとし、分析対象となる各成分の合計量を前記ベースガス中の濃度が10%以下とした校正ガスを使用して行うことを特徴としている。加えて、前記分析対象となる成分の濃度は、前記四重極質量分析計から得られる濃度データを前記希釈ガスによる希釈倍率に合わせて補正し、前記最も濃度の高い成分の濃度は、測定した分析対象となる各成分の濃度百分率を100からそれぞれ差し引くことによって算出することを特徴としている。
【0015】
また、本発明の混合ガスの分析装置は、混合ガス中の各成分の濃度を四重極質量分析計を使用して測定する混合ガスの分析装置おいて、混合ガスを導入する混合ガス導入経路と、混合ガス中に含まれる最も濃度の高い成分を希釈ガスとして導入する希釈ガス導入経路と、導入された前記混合ガスと希釈ガスとを一定割合で混合するガス混合部と、希釈ガスで希釈された混合ガスを一定流量で前記四重極質量分析計に導入する測定ガス導入経路と、該四重極質量分析計から得られる濃度データを前記希釈ガスによる希釈倍率に合わせて補正することにより分析対象となる各成分の濃度を算出するとともに測定した分析対象となる各成分の濃度百分率を100からそれぞれ差し引くことによって前記最も濃度の高い成分の濃度を算出する演算器とを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、試料ガス中のマトリックス効果を低減して%オーダーで混合されたガス試料の組成をリアルタイムで分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の混合ガスの分析装置の一形態例を示す概略ブロック図である。この分析装置は、試料となる混合ガスの流量を調整するための混合ガス流量調整手段11を備えた混合ガス導入経路12と、希釈ガスの流量を調整するための希釈ガス流量調整手段13を備えた希釈ガス導入経路14と、両経路12,14から導入された混合ガスと希釈ガスとを均一に混合する混合部15と、希釈ガスで希釈された混合ガス(以下、測定ガスという)を一定流量で四重極質量分析計16に導入する測定ガス導入経路17と、四重極質量分析計16から得られる濃度データに基づいて混合ガス中の各成分の濃度を算出する演算器18と、過剰な測定ガスを排出する排気経路19とを有している。
【0018】
試料となる混合ガスは、混合ガス流量調整手段11で一定流量に調整され、希釈ガス流量調整手段13で一定流量に調整された希釈ガスと混合部15で混合する。希釈ガスにより一定の希釈倍率で希釈された測定ガスは、一定流量が四重極質量分析計16に導入され、過剰な測定ガスは排気される。
【0019】
四重極質量分析計16に入った測定ガスは、その濃度に応じた分圧の電流信号を検出器が示す。この信号は、デジタル信号に変換されて演算器18に伝達され、この演算器18で希釈倍率に応じた演算が行われ、各成分の濃度が算出される。
【0020】
前記希釈ガスには、混合ガス中に含まれる最も濃度の高い成分が選択され、希釈倍率は、混合ガス中の各成分の濃度が四重極質量分析計16で分析可能な濃度範囲になるように設定される。
【0021】
ここで、ガス流量を調整する装置で一定体積流量を連続的に流せるものは存在しない。一般的に、ガス流量を調整する装置は、ガスの熱移動を測定して質量流量として制御する熱式質量流量計が使用される。しかしながら、熱式質量流量計は、ガスの質量流量に比例した温度変化を捉えているため、そのガス種によって流量が異なる。例えば、窒素とアルゴンでは、約1.4倍アルゴンの流量が多い。
【0022】
したがって、混合ガスを熱式質量流量計を用いて希釈する場合には、試料ガス中に最も多く含まれる組成に合わせて流量を設定することが望ましい。また、コンダクタンスバルブを使用しての流量調整も行えるが、バルブを通過する流量は、√(1/ρ) (ρ:混合ガスの平均密度)に比例するため、例えば、水素とキセノンとでは水素が約8倍の流量を流れることなり、ガス種によっては大きな相違が出てしまうため望ましくない。
【0023】
混合ガスの希釈倍率は、その倍率が大きいほどマトリックス効果を抑制できるが、希釈倍率が大きすぎると、装置の感度の点から目的の試料成分の定量が困難となる。また、1000倍以上の希釈については、流量調整手段の精度から、正確な倍率での希釈が難しい。例えば、1000ccmと1ccmのマスフローコントローラーを使用して希釈する場合、通常、マスフローコントローラーの精度は、フルスケールの±1%程度あるいは設定値の±1%程度で示されるため、1000ccmのマスフローコントローラーでは±10ccmの精度しか保証されず、正確な倍率で希釈できないことになる。したがって、二次電子増倍管を有する四重極質量分析計16で、%オーダーの成分を分析する場合、1/10〜1/100程度に混合ガスを希釈することが望ましい。
【0024】
演算器18は、得られた濃度値に希釈倍率を乗じて混合ガス中の濃度値に換算する。したがって、濃度信号を使用して装置を制御する場合等、特に、濃度指示値を必要としない場合では演算器を置く必要はない。希釈ガスとして使用した成分の濃度は、混合ガス中に含まれる%オーダーの測定種の合計濃度(百分率)を100から減算することでおおよそ求めることができる。
【0025】
校正ガスには、希釈ガスをベースとした標準ガスを使用する。標準ガスは、分析対象となる成分の合計濃度が10%以下になるように製作し、混合ガスの分析と同レベルの濃度とする。
【実施例1】
【0026】
まず、ヘリウム10.3%、窒素10.3%、酸素11.2%、アルゴン31.6%、二酸化炭素11.3%、キセノン25.3%の混合ガスを製作し、この混合ガスを希釈せずに四重極質量分析計に導入し、前記各成分の感度を計測して校正を行った。なお、各成分のゼロ点は質量分析計内にガスを導入せず、高真空下で得られた電流値とした。
【0027】
次に、純アルゴンに前記各成分をそれぞれ一成分だけ0〜15%混合した試料ガスを希釈せずに四重極質量分析計に導入した。その結果、図2に示すように、導入設定濃度と四重極質量分析計の表示濃度とは大きく異なっていた。ヘリウムに関しては、設定濃度と表示濃度に約80%の差が見られた。
【0028】
次に、アルゴンベースで前記各成分を1〜2%含む校正ガスを、希釈せずに四重極質量分析計に導入して校正を行った後、前記同様にアルゴンと各成分をそれぞれ一成分だけ0〜15%混合した試料ガスを製作し、希釈ガスとしてアルゴンを使用し、10倍に希釈してから四重極質量分析計に導入した。その結果、図3に示すように、希釈した測定ガスの各成分の設定濃度と四重極質量分析計が示す表示濃度とがおおよそ等しくなった。したがって、混合ガスを希釈して四重極質量分析計に導入することにより、そのマトリックス効果を減らし、混合ガスの定量が可能であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の混合ガスの分析装置の一形態例を示す概略ブロック図である。
【図2】希釈無しで測定したときの設定濃度と表示濃度との関係を示す図である。
【図3】10倍に希釈して測定したときの設定濃度と表示濃度との関係を示す図である。
【図4】窒素中の各不純物の検量線を示す図である。
【図5】アルゴン中の各不純物の検量線を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
11…混合ガス流量調整手段、12…混合ガス導入経路、13…希釈ガス流量調整手段、14…希釈ガス導入経路、15…混合部、16…四重極質量分析計、17…測定ガス導入経路、18…演算器、19…排気経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合ガス中の各成分の濃度を四重極質量分析計を使用して測定する混合ガスの分析方法において、前記混合ガス中に含まれる最も濃度の高い成分を希釈ガスとして使用し、該希釈ガスによって希釈した混合ガスを前記四重極質量分析計に導入し、前記最も濃度の高い成分を除く成分を分析対象として各成分の濃度を測定することを特徴とする混合ガスの分析方法。
【請求項2】
前記四重極質量分析計は、前記希釈ガスをベースガスとし、分析対象となる各成分の合計量を前記ベースガス中の濃度が10%以下とした校正ガスを使用して校正することを特徴とする請求項1記載の混合ガスの分析方法。
【請求項3】
前記分析対象となる成分の濃度は、前記四重極質量分析計から得られる濃度データを前記希釈ガスによる希釈倍率に合わせて補正し、前記最も濃度の高い成分の濃度は、測定した分析対象となる各成分の濃度百分率を100からそれぞれ差し引くことによって算出することを特徴とする請求項1記載の混合ガスの分析方法。
【請求項4】
混合ガス中の各成分の濃度を四重極質量分析計を使用して測定する混合ガスの分析装置おいて、混合ガスを導入する混合ガス導入経路と、混合ガス中に含まれる最も濃度の高い成分を希釈ガスとして導入する希釈ガス導入経路と、導入された前記混合ガスと希釈ガスとを一定割合で混合するガス混合部と、希釈ガスで希釈された混合ガスを一定流量で前記四重極質量分析計に導入する分析ガス導入経路と、該四重極質量分析計から得られる濃度データを前記希釈ガスによる希釈倍率に合わせて補正することにより分析対象となる各成分の濃度を算出するとともに測定した分析対象となる各成分の濃度百分率を100からそれぞれ差し引くことによって前記最も濃度の高い成分の濃度を算出する演算器とを備えていることを特徴とする混合ガスの分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−266774(P2006−266774A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83194(P2005−83194)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】