説明

混合物質、及び多孔性物質の保存方法

本発明は、多孔性物質、とりわけ石材若しくは木材から成る対象物の保存のための液状混合物質に関し、この際に前記混合物は、有機変性された二酸化ケイ素、とりわけオルガノ(アルコキシ)シラン(オルモジル)の群から成る少なくとも2つの物質を含む。本発明はさらに、多孔性物質の保存方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性物質、とりわけ石材若しくは木材から成る対象物を保存するための、メチルメタクリラート不含の混合物質に関する。本発明はさらに、多孔性物質を保存するための方法に関する。
【0002】
風化からの保護、及び既に風化してしまった天然石の保存は、岩石の表面(すなわち目で見える面)を、保護物質の供給により保護及び強化するという考えから常に出発する。しかしながらあらゆる保護物質の供給は、到達領域において岩石の物理的特性の変化につながる。この物理的特性の変化はしばしば、将来的な損傷と結びついている。従ってあらゆる保存手法の目的は、この変化を可能な限り僅少に保つことであり、岩石の断面全体(すなわち中心に至るまで)にわたる保存を確立して、異なる物理的特性を有する領域を回避することであろう。
【0003】
基本的な点でこの要求を実現していたのが、1972以来発展してきたアクリル樹脂完全含浸法であり、この方法は事前に完全に乾燥させた岩石を、真空と圧力を利用して中心までメチルメタクリラート(MMA)を全身浴で含浸させ、そして引き続きこのMMAを重合してアクリルガラスにするものである。この方法では、含浸溶液全体が硬化のために用いられるため、細孔がPMMAにより完全に満たされ、その結果、水の吸収と通気性が完全に妨げられる。
【0004】
史跡では永年にわたって、多孔質システムの内部にある保護膜により(細孔内壁の裏張りにより)保護作用及び強化作用が得られる、開孔型の(offenporig)保存方法が望まれていた。史跡で使用が認容されるテトラエトキシシラン(TEOS)(ケイ酸エステル(KSE)という言葉でより有名である)(この反応進行後の「最終生成物」は、純粋なSiO2から成るケイ酸ゲルである)によっては、細孔内壁の裏張りという目的は、達成されない。加水分解及び重縮合の完全反応により、このゲルは壊れやすく、かつひび割れやすい。そして、生成するSiO2は細孔空間において崩れやすい土塊状(Bruchschollenartig)である。従って保護作用と強化作用はかなり弱い上に、付加的なミクロの細孔システムが生成し、この結果、吸水性と排水性が制御不能なほど影響を受ける。このケイ酸ゲル形成を変性させて、充分な弾性、塗膜形成性を有するゲルを生成させようとする試みは、実現することができなかった。内部表面を被覆するために適しているシステムは、モノマーから成り、かつこれにより非常に小さな細孔にも到達できるシステムだけである。モノマー−ポリマーシステムの形の塗料システム、外面的な適用では有用性が実証されているナノシステムは、多くの多孔性システム、とりわけ岩石に対して浸透力が不足するため、除外される。
【0005】
本発明の課題は、多孔性物質、とりわけ多孔質物体において、水及び加害性物質の攻撃に対して細孔システム内で耐性のある保護層を生成することであり、かつ同時に細孔システム内に結合剤が存在しない構成をもたらすことである。
【0006】
本発明によればこの課題は、混合物が、有機変性された二酸化ケイ素、とりわけオルガノ(アルコキシ)シラン(オルモジル(Ormosil))の群から成る少なくとも2つの物質を含むことにより、解決される。
【0007】
意外なことに、オルガノ(アルコキシ)シラン(「オルモジル」とも呼ばれる、すなわちorganic modified silica=有機変性されたSiO2)の様々な組み合わせが、内部表面のこのような被覆に適していることが判明した。この混合物質は、ナノシステム、及び溶剤と固体物質とから成る「塗料」システムとは異なり、分子量の大きさが原因で非常に良好な浸透力を有し、かつ非常に小さな細孔空間に到達することができる。
【0008】
内部の中空空間に到達後、この混合物質は加水分解と重縮合により硬化し、その結果固体物質含分は4〜69%、とりわけ8〜30%が、細孔内壁を裏張りする膜として細孔空間内に残存する。
【0009】
加水分解と重縮合により進行する硬化は、とりわけ体積の大きい対象物の場合、プログラム制御された温度と水分導入により、意外なほど良好に制御することができる。
【0010】
吸収性が良好な多孔性物質の場合、良好な浸透力の(時間的には充分な)維持下では、意外なことに、加水分解の開始のため、相応する水含分を添加できることが、試験により証明された。
【0011】
細孔空間内で生成するケイ酸ゲルは、ひび割れのない、透明な、水不溶性の、接着性が良好な膜として歴然と(nachweislich)細孔内壁を覆い、この結果、所望の細孔裏張り効果が生じる。
【0012】
意外なことに、必要となる浸透時間での浸透力に否定的な影響をそれほど与えることなく、必要な水を浸漬の直前に添加することができる。
【0013】
特に有利には、接着促進剤、とりわけオルガノシランを1〜10%添加する。重要になるのはまた、液状アクリラート不含の混合物質が得られることである。
【0014】
本発明の有利な構成は、従属請求項に記載されている。
【0015】
本発明の実施例を、以下でより詳しく記載する。
【0016】
本発明による液状混合物質は、多孔性物質、とりわけ木材若しくは石材から成る対象物の浸漬による保存のために使用される。
【0017】
グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)と、アルコール性溶液中のアミノプロピルトリエトキシシラン(APTS)とから成る作用物質システムの2つの成分を、保存すべき物質である多孔性システムへの注入前に、化学量論的な量で一つにし、そして反応させて水を脱離し、端に6つのアルコキシ基を有する中間生成物にする。部分的な加水分解によって作用物質システムを活性化し、そして縮合して水とアルコールを脱離させてケイ酸ゲルにする。このゲルの構造内には有機成分がSi原子の間に包含されており、応力の低いゲル構造の構成に対してまるでスペーサーのようである(図を参照)。
【0018】
【化1】

【0019】
保存用液体は異なる組成であってよく、この際に当該混合物は、オルガノ(アルコキシ)シラン(オルモジル)の群からなる物質を少なくとも1つ含む。
【0020】
ここでは以下の混合物が、特に有利である:
a)混合物の1つの物質が、少なくとも1つのエポキシド単位を含有するオルモジルである。
b)混合物の1つの物質が、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)である。
c)混合物の1つの物質が、少なくとも1つのアミン官能基を含有するオルモジルである。
d)混合物の1つの物質が、ガンマアミノプロピルトリエトキシシラン(APTS)である。
e)混合物の2つの物質が、前掲a)とc)の特徴を有するオルモジルから成る。
f)混合物の2つの物質が、前掲b)とd)の特徴を有するオルモジルから成る。
【0021】
好適には親水性の溶剤として、1〜6の炭素原子を有するアルコール、とりわけエタノール又はメタノールを添加する。
【0022】
少なくとも1つのエポキシド単位を含有するオルモジル対、少なくとも1つのアミン官能基を含有するオルモジルの質量比が、1:0.2〜1:10、好適には1:0.7〜1:1.7、及びとりわけ当該質量比が1:1.07である。
【0023】
さらに選択的には、少なくとも1つのエポキシド単位を有するオルモジル、及び少なくとも1つのアミン官能基を含有するオルモジルの他に、さらに少なくとも1つのさらなるオルモジルが含有されている。ここでさらなるオルモジルとは、
ガンマ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、
ビニルトリエトキシシラン、
ジメチルジエトキシシラン、及び/又は
ジメチルジメトキシシラン
である。
【0024】
重要なのは、加水分解を開始させるために混合物に対して、相応する水含分が添加されていることである。
【0025】
さらなる実施例:
対象物の形の多孔性物質、例えば石材又は木片をまず乾燥させ、そしてその後、少なくとも2つのオルモジルと、1つの溶解用液(好適にはエタノール)とから成る液体に浸漬する。この際、少なくとも1つのエポキシド単位を含有するオルモジル対、少なくとも1つのアミン官能基を含有するオルモジルの質量比は、1:1.07である。有利な混合物は、オルモジル1 2.4g、オルモジル2 2.3g、及びエタノール28gから成る。エタノール28gの場合、対象物中で固体物質の堆積は約9.5%〜約10%に達する。この際にエタノール含量は、0〜50gに選択することができる。
【0026】
本方法によって対象物の耐風化性も強度も、より高くなる。このことは弾性率の著しい向上に示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性物質、とりわけ石材若しくは木材から成る対象物の保存のための、メチルメタクリラート不含の液状混合物質において、前記混合物が、有機変性された二酸化ケイ素(オルモジル)、とりわけオルガノ(アルコキシ)シランの群から成る少なくとも2つの物質を含むことを特徴とする、液状混合物質。
【請求項2】
前記混合物の1つの物質が、少なくとも1つのエポキシド単位を含有するオルモジルであることを特徴とする、請求項1に記載の混合物質。
【請求項3】
前記混合物の1つの物質が、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の混合物質。
【請求項4】
前記混合物の1つの物質が、少なくとも1つのアミン官能基を含有するオルモジルであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の混合物質。
【請求項5】
前記混合物の1つの物質が、ガンマアミノプロピルトリエトキシシラン(APTS)であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の混合物質。
【請求項6】
親水性溶剤、好適には1〜6の炭素原子を有するアルコールの添加を特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の混合物質。
【請求項7】
前記アルコールが、エタノール又はメタノールであることを特徴とする、請求項6に記載の混合物質。
【請求項8】
少なくとも1つのエポキシド単位を含有するオルモジル対、少なくとも1つのアミン官能基を含有するオルモジルの質量比が、1:0.2〜1:10、好適には1:0.7〜1:1.7、及びとりわけ当該質量比が1:1.07であることを特徴とする、請求項2から7までのいずれか1項に記載の混合物質。
【請求項9】
少なくとも1つのエポキシド単位を有するオルモジル、及び少なくとも1つのアミン官能基を含有するオルモジルの他に、さらに少なくとも1つのさらなるオルモジルが含有されていることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の混合物質。
【請求項10】
前記混合物に添加するさらなるオルモジルが、ガンマメタクリロキシプロピルトリメトキシシランであることを特徴とする、請求項9に記載の混合物質。
【請求項11】
前記混合物に添加するさらなるオルモジルが、ビニルトリエトキシシランであることを特徴とする、請求項9に記載の混合物質。
【請求項12】
前記混合物に添加するさらなるオルモジルが、ジメチルジエトキシシランであることを特徴とする、請求項9に記載の混合物質。
【請求項13】
前記混合物に添加するさらなるオルモジルが、ジメチルジメトキシシランであることを特徴とする、請求項9に記載の混合物質。
【請求項14】
加水分解を開始させるために前記混合物に対して、相応する水含分が添加されていることを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載の混合物質。
【請求項15】
多孔性物質を1つのオルモジルで浸漬し、そして引き続き乾燥させることにより、請求項1から14までのいずれか1項に記載の混合物を用いて、多孔性物質を保存するための方法。

【公表番号】特表2010−531902(P2010−531902A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513728(P2010−513728)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【国際出願番号】PCT/EP2008/004968
【国際公開番号】WO2009/003594
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(310013163)ハイムダル ホールディング ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【Fターム(参考)】