説明

清浄度判定装置および方法

【課題】従来の清浄度判定装置では、大型で複雑な形状に形成される部材をワークとする場合には、ワーク表面と投光部および受光部との位置関係を高精度に保持した状態で測定を行うことが困難であり、適正な判定を安定して行うことができなかった。
【解決手段】投光部20からワーク50表面に赤外線光を照射して、受光部30にて反射光を検出し、検出した反射光からワーク表面での吸光度を算出し、算出した吸光度を用いてワーク表面の清浄度を判定する装置1であって、前記投光部は、面光源21と、照射された赤外線光を集束させる集束レンズ23とを備え、前記受光部は、ワーク表面の汚れ物質51に対して赤外吸収が生じる波長の赤外線光が透過可能な干渉フィルタ33と、ワーク表面からの反射光を受光する受光センサ31とを備え、赤外線光のワーク表面への照射範囲Raを、ワーク50表面からの反射光の受光範囲Rbよりも大きく構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク表面に赤外線光を照射し、前記ワーク表面からの反射光を検出して、検出した反射光からワーク表面での吸光度を算出し、算出した吸光度と、予め求めておいたワーク表面の汚れ付着量と吸光度との関係とを用いて、ワーク表面の清浄度を判定する清浄度判定装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、エンジンのシリンダブロック、シリンダヘッド、およびチェーンケースや、トランスミッションのミッションケースを組み付ける場合、その組み付け面に液状ガスケット等のシール材を塗布してオイル漏れ等が発生することを防止している。
前記エンジンのシリンダブロック等やトランスミッションのミッションケースといった各部材における組み付け面は、鋳造部品に機械加工を施して形成されており、加工後の組み付け面には加工油が付着しているため、前記各部材を機械加工の後に洗浄して、付着した加工油を除去するようにしている。
【0003】
前述のように、前記組み付け面に付着した加工油は洗浄により除去されるが、場合によっては完全に除去しきれずに、洗浄後の組み付け面に加工油が残留したり、また洗浄剤が加工面に残留したりすることがある。
このように、加工油や洗浄剤がシール材を塗布する組み付け面に残留していると、シール材のシール性が低下してオイル漏れ等の原因となるため、シール材が塗布される面(シール面)に加工油や洗浄剤等の汚れ物質が付着しているか否かを把握することが重要である。
そこで、従来は、シール面への汚れ物質の付着状況、すなわちシール面の清浄度を、次のようにして測定していた。
【0004】
例えば、前記シール面に所定長さおよび所定幅の粘着テープを貼り付けして、貼り付けた粘着テープを貼り付け面に対する略垂直上方へ引張って剥離させ、その剥離に必要な荷重を計測し、計測した剥離荷重の大きさに基づいて前記シール面の清浄度を判定していた。
しかし、貼り付けた粘着テープの剥離荷重によりシール面の清浄度を判定する方法では、粘着テープの剥離等の作業を人手により行っていて、粘着テープの剥離角度や剥離速度等にばらつきが生じたり、粘着テープのシール面に対する粘着力の温度依存性が高いため、同じ清浄度でも温度によって測定される剥離荷重の大きさが異なったりするため、測定値の精度が低く適正な判定をすることが困難であった。
また、人手による測定のため測定に多くの時間を要することとなり、エンジンやトランスミッションの組立て工程におけるサイクルタイム内で測定を完了させることが困難であった。
【0005】
このような問題点を解決して高い精度でシール面等のワーク表面の清浄度を判定する方法として、特許文献1に示すような技術がある。
つまり、特許文献1においては、投光部に備えられる赤外線光源からワーク表面に対して赤外線光を照射するとともに、汚染物質が付着するワーク表面にて反射した赤外線光を受光部にて受光して、受光した赤外線光の吸収量を検知し、検知した吸収量に応じてワーク表面の清浄度を測定する装置が考案されている。この場合、例えば有機分子に多く含まれるC-H基に対して吸収が生じる波長の赤外線光のみを検知することで、有機分子にて構成される汚染物質を検出するようにしている。
【特許文献1】特開2002−350342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の特許文献1に記載される、ワーク表面に赤外線光を照射し、汚染物質が付着するワーク表面にて反射した赤外線光の吸収量を検知して、検知した吸収量に応じてワーク表面の清浄度の測定を行う従来の装置においては、一般的に、赤外線光を照射する光源として点光源を用い、点光源からの赤外線光をワーク表面の極狭い範囲に集光させて照射するとともに、赤外線光の受光範囲を前記照射範囲と同じ範囲に設定しているため、測定を行うワーク表面と前記装置との間の距離や角度が若干変化しただけでも、検知される赤外線光の吸収量が大きく変化して、ワーク表面の清浄度を適切に判定することができないという問題がある(例えば、許容できるワーク表面と前記装置との距離変化は±0.5mm程度)。
【0007】
特に、従来において赤外線光の照射により表面の清浄度を判定する場合には、測定対象となるワークは、主に面粗度が小さく略鏡面状の表面を有する半導体基板等であり、このワークを据付型で大型に構成される装置のステージに高精度に位置決めして載置した上で、前記ワークに対して高精度に位置決めされた投光部および受光部により赤外線吸収量の測定を行っていたので、ワーク表面と前記装置との間の距離や角度のばらつきが問題になることはなかったが、大型で複雑な形状に形成される重量物であるエンジンやトランスミッションの構成部材となる鋳造部品をワークとする場合には、これらのワークを前記装置のステージに載置して、ワーク表面と投光部および受光部との位置関係を高精度に保持した状態で測定を行うことが困難であり、適正な判定を安定して行うことができなかった。
【0008】
そこで、本発明においては、エンジンやトランスミッションの構成部材等のように大型で複雑な形状のワークについても、赤外線光の吸収量を精度良く測定して、ワーク表面の清浄度を容易かつ適切に判定することができる清浄度判定装置および方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する清浄度判定装置および方法は、以下の特徴を有する。
即ち、請求項1記載の如く、ワーク表面に赤外線光を照射する投光部と、前記ワーク表面からの反射光を検出する受光部と、前記受光部にて検出した反射光からワーク表面での吸光度を算出し、算出した吸光度、および予め求めておいたワーク表面の汚れ物質付着量と吸光度との関係を用いて、ワーク表面の清浄度を判定する処理部とを備えた清浄度判定装置であって、前記投光部は、所定の大きさを有した赤外線光を照射する面光源と、前記面光源から照射される赤外線光を集束させて集束光とするレンズとを備え、前記受光部は、ワーク表面に付着する汚れ物質に対して赤外吸収が生じる波長の赤外線光が透過可能なフィルタと、前記フィルタを透過したワーク表面からの反射光を受光する受光器とを備え、前記投光部から照射される赤外線光のワーク表面への照射範囲を、前記受光部におけるワーク表面からの反射光の受光範囲よりも大きく構成した。
これにより、清浄度判定装置は、該清浄度判定装置とワークとの距離や角度等の位置関係や、ワークの表面状態等といった不確定な変動要素に対する、受光器にて受光する反射光の強度変化、ひいては算出される吸光度の変化を抑えることができ、高いロバスト性をもって清浄度の判定を行うことができる。
従って、ワークがシリンダブロックやミッションケース等のように大きくて複雑な形状を有した部材であって、ワーク表面に対する清浄度判定装置の距離や角度等の姿勢を常に一定にすることが困難な場合でも、容易かつ安定的に清浄度の判定を適切に行うことが可能となる。
【0010】
また、請求項2記載の如く、前記受光部における反射光の受光範囲は、前記ワーク表面において清浄度を判定する領域の大きさに応じて調節可能である。
これにより、様々な大きさのワークに対して、清浄度判定装置を用いての清浄度の判定を行うことが可能となり、該清浄度判定装置の汎用性を向上させることができる。
【0011】
また、請求項3記載の如く、前記照射範囲の大きさは、前記清浄度判定装置において許容される前記投光部及び受光部とワーク表面との間の距離変動により生じる、受光範囲の照射範囲に対するワーク表面方向へのずれ量の大きさに応じた大きさに構成される。
これにより、清浄度判定装置にて許容される範囲内であれば、前記距離の大きな変動があった場合でも、受光範囲が照射範囲内に確実に収まることとなって、受光器にて受光する反射光強度の変動を抑えることができ、ワーク表面の清浄度の適切な判定を、容易かつ安定的に行うことが可能である。
【0012】
また、請求項4記載の如く、ワーク表面に赤外線光を照射し、前記ワーク表面からの反射光を受光して、受光した反射光からワーク表面での吸光度を算出し、算出した吸光度、および予め求めておいたワーク表面の汚れ付着量と吸光度との関係を用いて、ワーク表面の清浄度を判定する清浄度判定方法であって、前記ワーク表面には、面光源から照射された所定の大きさを有する赤外線光を集束させた集束光を照射し、前記ワーク表面からの反射光の受光は、ワーク表面に付着する汚れ物質に対して赤外吸収が生じる波長の赤外線光が透過可能なフィルタを透過した反射光を受光することで行い、照射される赤外線光のワーク表面への照射範囲が、前記ワーク表面からの反射光の受光範囲よりも大きい。
これにより、清浄度の判定を行う清浄度判定装置とワークとの距離や角度等の位置関係や、ワークの表面状態等といった不確定な変動要素に対する、受光器にて受光する反射光の強度変化、ひいては算出される吸光度の変化を抑えることができ、高いロバスト性をもって清浄度の判定を行うことができる。
従って、ワークがシリンダブロックやミッションケース等のように大きくて複雑な形状を有した部材であって、ワーク表面に対する前記清浄度判定装置の距離や角度等の姿勢を常に一定にすることが困難な場合でも、容易かつ安定的に清浄度の判定を適切に行うことが可能となる。
【0013】
また、請求項5記載の如く、前記反射光の受光範囲を、前記ワーク表面において清浄度を判定する領域の大きさに応じて調節する。
これにより、様々な大きさのワークに対して清浄度の判定を行うことが可能となり、該清浄度判定装置の汎用性を向上させることができる。
【0014】
また、請求項6載の如く、前記照射範囲の大きさを、前記清浄度判定方法において許容される赤外線光の投光部及び受光部とワーク表面との間の距離変動により生じる、受光範囲の照射範囲に対するワーク表面方向へのずれ量の大きさに応じた大きさに構成する。
これにより、清浄度判定装置にて許容される範囲内であれば、前記距離の大きな変動があった場合でも、受光範囲が照射範囲内に確実に収まることとなって、受光する反射光強度の変動を抑えることができ、ワーク表面の清浄度の適切な判定を、容易かつ安定的に行うことが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高いロバスト性をもってワーク表面の清浄度の判定を行うことができ、ワークがシリンダブロックやミッションケース等のように大きくて複雑な形状を有した部材であって、ワーク表面に対する前記清浄度判定装置の距離や角度等の姿勢を常に一定にすることが困難な場合でも、容易かつ安定的に清浄度の判定を適切に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0017】
図1に示す清浄度判定装置1は、エンジンやトランスミッションの構成部材等の表面の清浄度を判定する装置であって、ワーク50の表面に赤外線光を照射する投光部20、およびワーク50の表面にて反射した反射光を受光する受光部30を有するセンサヘッド部10と、前記センサヘッド部10にて検知された反射光の吸光度に基づいてワーク50表面の清浄度の判定を行う処理部40とを備えている。
前記投光部20および受光部30は、一つのケース11内に収納されている。
【0018】
前記センサヘッド部10の投光部20は、面状の所定の大きさを有する赤外線光を照射する面光源21と、p偏光(照射される赤外線光のうち、ワーク50表面に対する入射光と反射光の作る面内に電場ベクトルの方向が向いている成分)のみを透過させるp偏光子22と、前記面光源21から照射された赤外線光を集束させる集束レンズ23とを備えている。
【0019】
また、前記センサヘッド部10の前記受光部30は、前記面光源21から照射され、ワーク50の表面にて反射した反射光を集束させる集束レンズ32と、前記集束レンズ32により集束された反射光を受光する受光センサ31と、前記集束レンズ32と受光センサ31との間に配置され、反射光のうち特定の波長の赤外線光のみを透過させる干渉フィルタ33とを備えている。
【0020】
前記干渉フィルタ33は、円盤状部材に複数のフィルタ33a・33a・・・を周方向に配置して構成されており、モータ34により回転軸33bを中心にして回転駆動可能となっている。
前記複数のフィルタ33a・33a・・・は、互いに異なる波長の赤外線光を透過させるフィルタに構成されており、該複数のフィルタ33a・33a・・・のうちの一つは、有機物に含まれるC−H結合の振動波長域の赤外線光、つまりC−H結合の存在により吸光が生じる波長域の赤外線光を透過させるフィルタに構成されている。
なお、C−H結合の吸収波長ピ−クは3.4μmとなっている。
【0021】
前記処理部40は、演算装置41および記憶装置42を備えており、前記演算装置では、受光センサ31にて検知した反射光からワーク50表面での吸光度を算出し、算出した吸光度からワーク50表面の清浄度を判定することが行われる。また、前記記憶装置42には、予め求められた、ワーク50表面に付着している汚れ物質51の量とワーク50表面で反射した赤外線光の吸光度との関係が記憶されている。
【0022】
本例の場合、例えば前記ワーク50はエンジンのシリンダブロック、シリンダヘッド、およびチェーンケースや、トランスミッションのミッションケースであり、計測対象となる前記ワーク50の汚れ物質51は、機械加工する際の加工油や、付着した加工油を洗浄・除去するための洗浄剤である。
また、本清浄度判定装置1においてワーク50表面の清浄度を判定する場合、センサヘッド部10とワーク50との間に所定の間隔dを設けた状態で、該センサヘッド部10をセットするようにしている。
【0023】
このように構成される清浄度判定装置1においては、次のようにしてワーク50表面の清浄度が判定される。
まず、投光部20の面光源21から所定の大きさを有した赤外線光が照射され、照射された赤外線光はp偏光子22を通過することでp偏光のみとなる。その後、赤外線光は集束レンズ23を通過して集束され、集束光となった赤外線光がワーク50表面における所定の大きさの範囲Raに照射される。
【0024】
照射された赤外線光はワーク50表面にて反射し、その反射光は受光部30の集束レンズ32により集束され、前記干渉フィルタ33を通過した後に、前記受光センサ31にて受光される。前記受光部30における受光は、所定の大きさの受光範囲Rbにて行われる。
この場合、前記干渉フィルタ33を通過することで、反射光のうち特定の波長の赤外線光のみが受光センサ31にて受光されることとなる。
【0025】
前記投光部20からワーク50表面への赤外線光の照射範囲Raは、受光部30における赤外線光の受光範囲Rbよりも大きな範囲に構成されており、例えば前記照射範囲Raの大きさは、前記受光範囲Rbの大きさの略10倍程度以上の大きさに設定されている。
【0026】
前記受光センサ31により受光された反射光は前記処理部40に入力され、該処理部40の演算装置41にて反射光の吸光度が算出される。
ここで、赤外線光の吸光度は、ランベルト・ベールの法則に従って、次の[数1]により表わされる。
【0027】
【数1】

【0028】
なお、前記[数1]において、Iは測定対象となるワーク50の反射光強度(汚れ物質51が付着しているワーク50表面で反射した反射光の強度)であり、Ioは基準ワーク(汚れ物質51が付着しておらず清浄な表面を有するワーク)の反射光強度であり、kは定数であり、cは汚れ物質51の濃度であり、Lは赤外線光が汚れ物質51内を通過した長さとなる光路長である。
前記光路長Lは、詳細には図2に示すように、投光部20からの照射光がワーク50表面の汚れ物質51内を通過する距離L1と、受光部30への反射光がワーク50表面の汚れ物質51内を通過する距離L2とを加えた長さである。
【0029】
つまり、吸光度は、[数1]によると、−log(I/Io)により算出することができ、前記演算装置41においては、これにより吸光度を算出している。
このように算出される吸光度は、例えば前記受光センサ31にて受光される赤外線光が、C−H結合により吸光が生じる波長域の赤外線光であった場合、ワーク50表面で反射した際に汚れ物質51中に含まれるC−H結合により吸光が生じ、受光センサ31にて受光する反射光強度が弱くなるため、測定対象となるワーク50の反射光強度Iが弱くなると(基準ワークの反射光強度Ioは一定である)、前記吸光度が増加することとなる。
【0030】
また、本例においては、計測対象となるワーク50の汚れ物質51は加工油および洗浄剤であって一定であり、前記汚れ物質51の濃度cは一定とみなすことができるので、[数1]により「(赤外線光の吸光度)∝(光路長L)」の関係が成り立つ。
また、ワーク50表面への汚れ物質51の付着量が増大すると、該汚れ物質51の厚みが増して、赤外線光が汚れ物質51内を通過する距離Lが長くなることから、「(光路長L)∝(汚れ物質51の付着量)」の関係が成り立つ。
さらに、ワーク50の表面は、付着している汚れ物質51の量が少ないほど清浄度が高いといえるので、「(汚れ物質51の付着量)≒(ワーク50表面の清浄度)」の関係が成り立つ。
【0031】
従って、「(赤外線光の吸光度)∝(汚れ物質51の付着量)≒(ワーク50表面の清浄度)」の関係が成り立つと言え、(赤外線光の吸光度)と(汚れ物質51の付着量)との関係を予め求めておけば、その関係を用いて前記演算装置41にて算出した反射光の吸光度から、ワーク50表面の清浄度を定量的に計測して判定することが可能となる。
【0032】
そこで、処理部40においては、図3に示すような「(赤外線光の吸光度)と(汚れ物質51の付着量)との関係」を予め求めておき、前記記憶装置42に記憶させている。
そして、前記演算装置41においては、前述のように算出された吸光度を、記憶装置42に記憶されている「(赤外線光の吸光度)と(汚れ物質51の付着量)との関係」に当て嵌めて、ワーク50表面への汚れ物質51の付着量を求め、求めた汚れ物質51の付着量からワーク50表面の清浄度を判定するようにしている。
この場合、判定は、ワーク50表面がどの程度の清浄度を有しているかを具体的な数値やランク等で表わすことで行うことができ、また、ワーク50表面の清浄度が所定の閾値よりも高いか低いかで判定することもできる。
なお、図3によると、吸光度が高いほど汚れ物質51の付着量が多く、ワーク50表面の清浄度が低くなっていることがわかる。
【0033】
以上のごとく、ワーク50表面の清浄度の判定を行う清浄度判定装置1においては、面光源21からのワーク50に対する照射光の入射角θが、垂直からブリュースター角だけ傾斜させた角度となるように構成している。
ここで、ブリュースター角とは、面光源21からの赤外線光が前記汚れ物質51に入射するときに、該赤外線光におけるp偏光成分の汚れ物質51表面での反射率が0になる入射角のことをいい、空気と汚れ物質51の光の屈折率で決定される固有値である。本例の場合は、例えばブリュースター角は56°となっている。
【0034】
このように、本清浄度判定装置1では、面光源21からの照射光の入射角をブリュースター角とするとともに、該照射光のうち前記p偏光子22を通過したp偏光のみがワーク50表面に照射されるように構成しているので、照射光が汚れ物質51の表面で反射したり、汚れ物質52の層内で多重反射したりすることを防止でき、これらの反射により生じる赤外線光の吸収率の誤差を除去することができる。
これにより、ワーク50表面の清浄度の判定精度を向上させることが可能となっている。
【0035】
また、ワーク50表面へ照射される赤外線光は、面光源21からの照射光を集束レンズ23にて集束しつつ、広い照射範囲Raでワーク50表面へ集束光を照射しているので、面光源21とワーク50との間の距離や角度、つまりセンサヘッド部10とワーク50との間隔dや、センサヘッド部10のワーク50に対する角度が若干変化した場合でも、反射光の強度変化が殆どなく、点光源からの赤外線光を照射した場合のように反射光の強度が大きく変化する場合とは異なって、算出される吸光度の大きさが変動することは殆どない。
さらに、広い範囲に集束光を照射することで、平行光を照射した場合に比べて光の指向性が弱まるため、ワーク50表面の面粗度の影響や加工目の影響を受けにくくなり、吸光度の変動を抑えることができる。
【0036】
また、本清浄度判定装置1においては、前記投光部20からの赤外線光のワーク50表面に対する照射範囲Raの大きさを、前記受光部30の受光範囲Rbの大きさに対して大きく構成しているので、前記センサヘッド部10とワーク50との間隔dが変化した場合でも、前記受光部30における受光センサ31にて受光する反射光の強度変化を抑えることが可能となっている。
【0037】
つまり、従来の、投光部の光源からワーク表面に対して赤外線光を照射するとともに、ワーク表面にて反射した赤外線光を受光部にて受光して、ワーク表面の清浄度を測定する装置では、一般的に、赤外線光の照射範囲Raの大きさと受光範囲Rbの大きさとが同じ大きさに設定されている。
【0038】
このように、赤外線光の照射範囲Raと受光範囲Rbとを同じ大きさに設定した場合において、図4(a)に示すように、センサヘッド部10とワーク50との間隔dが適正な間隔doに保持されているときには、前記照射範囲Raの位置と受光範囲Rbの位置とが一致しており、投光部20から照射した赤外線光の全てを受光部30にて受光することができる(但し、汚れ物質51による吸収分は除く)。
一方、図4(b)に示すように、赤外線光の照射範囲Raと受光範囲Rbとを同じ大きさに設定した場合で、センサヘッド部10とワーク50との間隔dが、例えば適正な間隔doよりも大きな間隔daとなったときには、前記照射範囲Raの位置と受光範囲Rbの位置とがずれるため、投光部20から照射した赤外線光の一部しか受光部30にて受光することができない。
【0039】
このように、照射範囲Raと受光範囲Rbとを同じ大きさに設定した場合は、センサヘッド部10とワーク50との間隔dがすこしでもずれると、受光センサ31にて受光する赤外線光量が適正な間隔doの場合に比べて減少して、受光センサ31にて受光する反射光強度が変動することとなる。
【0040】
これに対し、本清浄度判定装置1のように、赤外線光の照射範囲Raを受光範囲Rbよりも大きく構成した場合において、図5(a)に示すように、センサヘッド部10とワーク50との間隔dが適正な間隔doに保持されているときには、前記受光範囲Rbの全てが照射範囲Raの範囲内に含まれており、投光部20から照射した赤外線光の全てを受光部30にて受光することが可能となっている(但し、汚れ物質51による吸収分は除く)。
一方、図5(b)に示すように、赤外線光の照射範囲Raを受光範囲Rbよりも大きく構成した場合で、センサヘッド部10とワーク50との間隔dが、例えば適正な間隔doよりも大きな間隔daとなったときには、前記照射範囲Raの位置と受光範囲Rbの位置とがずれることとなる。
しかし、前記照射範囲Raは受光範囲Rbよりも大きく構成されているので、両者の位置がずれた場合でも、前記受光範囲Rbの全てが照射範囲Raの範囲内に含まれることとなっており、投光部20から照射した赤外線光の全てを受光部30にて受光することが可能となっている(但し、汚れ物質51による吸収分は除く)。
【0041】
このように、赤外線光の照射範囲Raを受光範囲Rbよりも大きく構成した場合は、センサヘッド部10とワーク50との間隔dがずれたときでも、受光センサ31にて受光する赤外線光量が変化せず、受光センサ31にて受光する反射光強度の変動を抑えることができる。
【0042】
また、前記照射範囲Raの大きさは、前記清浄度判定装置1において許容される赤外線光の投光部20及び受光部30とワーク50表面との間の距離変動(すなわち前記センサヘッド部10とワーク50との間隔dの変動)により生じる、受光範囲Rbの照射範囲Raに対するワーク表面方向へのずれ量の大きさに応じた大きさに構成して、前記間隔dの変動により受光範囲Rbが照射範囲Raに対してずれた場合でも、受光範囲Rbの全てが照射範囲Ra内に収まるように構成している。
つまり、少なくとも、赤外線光の入反射方向に延びる楕円形状に形成される照射範囲Raの半長径を、前記間隔dの適正な間隔doからの変動により生じる受光範囲Rbの照射範囲Raに対するずれ量に応じて、受光範囲Rbの半長径よりも長く構成して、該照射範囲Raが受光範囲Rbよりも大きくなるようにしている。
【0043】
例えば、前記間隔dの変動量をXとし、受光範囲Rbの照射範囲Raに対するずれ量をYとし、前記入射角θの補角をθaとすると、「tan(θa)=X/Y」の関係が成り立つ。
本例の場合、赤外線光の入射角θがブリュースター角である56°に設定されていて前記補角θaが34°となるため、本清浄度判定装置1において許容される前記間隔dの適正な間隔doからの変動量Xを±4mmに設定して、例えば前記間隔dを適正な間隔doから4mmだけ大きくしたとすると(変動量X=4とすると)前述の関係から、前記ずれ量Yは略6mm(厳密には5.97mm)となる。
従って、照射範囲Raの半長径は、少なくとも、受光範囲Rbの半長径よりも前記ずれ量Y(本例の場合略6mm)だけ大きく形成される。
【0044】
なお、センサヘッド部10とワーク50との間には、前記間隔dの変動に加えて、該センサヘッド部10とワーク50との角度の変動(入射角θの変動等)等といった、照射範囲Raと受光範囲Rbとの位置ずれの原因となる変動が生じ得るため、前記照射範囲Raの半長径の長さを、受光範囲Rbの半長径に前記ずれ量Yを加えた値に、さらに所定の長さだけ加えた値とすることもできる。
さらに、照射範囲Raの半短径も、受光範囲Rbの半短径よりも長く構成して、より確実に受光範囲Rbが照射範囲Ra内に収まるようにすることもできる。
【0045】
本例においては、例えば、受光範囲Rbの半長径を4mmおよび半短径を2.5mmとし、照射範囲Raの半長径を15mmおよび半短径を7.5mmとして、前記照射範囲Raの面積を受光範囲Rbの面積の略10倍程度(厳密には11.25倍)の大きさの面積となるように設定しており、前記間隔dの適正な間隔doからの変動が、本清浄度判定装置1にて許容される変動量Xのうち、最大の変動(例えば±4mm)があったとしても、該照射範囲Raに受光範囲Rbが確実に収まるように構成している。
【0046】
このように、センサヘッド部10とワーク50との間隔dの変動により生じる、受光範囲Rbの照射範囲Raに対するずれ量の大きさに応じた大きさに、該照射範囲Raを構成することで、清浄度判定装置1にて許容される範囲内であれば、前記間隔dの大きな変動があった場合でも、受光範囲Rbが照射範囲Ra内に確実に収まることとなって、受光センサ31にて受光する反射光強度の変動を抑えることができ、ワーク50表面の清浄度の適切な判定を、容易かつ安定的に行うことが可能である。
【0047】
以上のように、本清浄度判定装置1は、センサヘッド部10とワーク50との距離や角度等の位置関係や、ワーク50の表面状態等の不確定な変動要素に対する、受光センサ31にて受光する反射光の強度変化、ひいては算出される吸光度の変化を抑えることができ、高いロバスト性をもって清浄度の判定を行うことができる。
これにより、ワーク50がシリンダブロックやミッションケース等のように大きくて複雑な形状を有した部材であって、ワーク50表面に対する清浄度判定装置1の距離や角度等の姿勢を常に一定にすることが困難な場合でも、容易かつ安定的に清浄度の判定を適切に行うことが可能となっている。
【0048】
例えば、センサヘッド部10とワーク50との間隔dの変化による吸光度の大きさの変動について言えば、点光源からの赤外線光をワーク50に照射し、照射範囲Raと受光範囲Rbとを同じ大きさに構成した場合では、算出される吸光度の変化が許容範囲から外れるのは、前記間隔dの変化が±0.5mm程度以上となったときであるが、本清浄度判定装置1の場合のように、面光源21からの赤外線光を集束させつつ広い範囲に照射し、照射範囲Raを受光範囲Rbよりも大きく構成した場合は、前記間隔dの変化が±4mm程度の範囲内であれば算出される吸光度の変化を許容範囲内に収めることが可能となっている。
【0049】
また、図6に示すように、前記清浄度判定装置1は、エンジンのシリンダブロック91とシリンダヘッド92を接合した部材における、チェーンケースの取り付け面91a・92aの清浄度を判定するために用いることができる。
図6には、例えばシリンダブロック91とシリンダヘッド92とチェーンケース(図示せず)との3面合わせ部における、シリンダヘッド92の取り付け面92aに赤外線光を照射している状態を示している。
【0050】
前記取り付け面91a・92aにはチェーンケースとの間をシールするシール材が塗布されるが、該取り付け面91a・92aには、前記シール材によるシール性を阻害する汚れ物質51として、加工クーラント中に含まれる加工油やエンジンオイル等の油分、および加工クーラントを洗浄するための界面活性剤が付着している可能性がある。
従って、本清浄度判定装置1により、前記取り付け面91a・92aの清浄度を判定して、シリンダブロック91とシリンダヘッド92とチェーンケースとの3面合わせ部におけるシール性を確保するようにしている。
【0051】
このように、取り付け面91a・92aの清浄度を判定する場合、前述のように、前記投光部20の面光源21からp偏光子22および集束レンズ23を通じて前記取り付け面91a・92aへ赤外線光を照射し、該取り付け面91a・92aにて反射した赤外線光の反射光を、受光部30の集束レンズ32および干渉フィルタ33を通じて受光センサ31にて受光し、受光した反射光の強度に基づいて、前記処理部40にて取り付け面91a・92aの清浄度が判定される。
【0052】
この場合、反射光が透過される干渉フィルタ33のフィルタ33aは、前記油分や界面活性剤といった有機物に含まれるC−H結合により吸収される波長域の赤外線光を透過させるフィルタに構成されており、このC−H結合により吸収される波長域の赤外線光を測定波長として用いている。
このように、フィルタ33aにより所定の波長域の赤外線光のみから吸光度を測定し、清浄度の判定を行うことで、判定するための処理時間を短縮することが可能となり、例えばワーク50の製造工程において、該ワーク50表面の清浄度の判定を、製造ラインの中で全数に対して自動で行うことが可能となる。
【0053】
また、本清浄度判定装置1においては、反射光を、前記測定波長を透過させるフィルタ33aに加えて、前記測定波長よりも短くてC−H結合により吸収されない波長域の赤外線光を透過させるフィルタ33aと、前記測定波長よりも長くてC−H結合により吸収されない波長域の赤外線光を透過させるフィルタ33aとに透過させ、この測定波長よりも短い波長および長い波長を参考波長として用い、これらの参考波長に対する測定波長の吸光度合いを吸光度として算出することが可能となっている。
このように、測定波長および2つの参考波長の3波長を用いて吸光度を算出することで、前記取り付け面91a・92a等のワーク50の表面状態(反射率等)の影響を受けにくくなり、正確な吸光度を算出して的確な判定を行うことができる。
【0054】
また、受光部30による前記受光範囲Rbは、投光部20からの照射範囲Raよりも小さく構成されているが、この受光範囲Rbの大きさは、前記取り付け面91a・92a等の測定対象となるワーク50表面の大きさに応じて、適宜調節可能に構成されている(但し、照射範囲Ra>受光範囲Rbとなる範囲で調節を行う)。
このように、受光範囲Rbの大きさを調節可能に構成することで、様々な大きさのワークに対して、本清浄度判定装置1を用いての清浄度の判定を行うことが可能となり、該清浄度判定装置1の汎用性を向上させることができる。
【0055】
また、前記清浄度判定装置1におけるセンサヘッド部10のケース11には、把手12が取り付けられており、作業者が該把手12を把持して清浄度判定装置1を持ち運ぶことができるように構成されている。
このように、清浄度判定装置1を持ち運び可能とすることで、清浄度の測定対象となるワーク50がシリンダブロックやミッションケースのように大きくて複雑な形状を有した部材であった場合でも、清浄度判定装置1をワーク50のほうに移動させて容易に清浄度の判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】清浄度判定装置を示す側面断面図である。
【図2】赤外線光の汚れ物質内での光路長を示す側面断面図である。
【図3】ワーク表面の汚れ物質付着量と吸光度との関係を示す図である。
【図4】赤外線光の照射範囲と受光範囲とを同じ大きさに設定した場合において、センサヘッド部とワークとの間隔が適正であるとき、および適正な間隔よりも大きな間隔であるときの、照射範囲と受光範囲との位置関係を示す図である。
【図5】赤外線光の照射範囲を受光範囲よりも大きく設定した場合において、センサヘッド部とワークとの間隔が適正であるとき、および適正な間隔よりも大きな間隔であるときの、照射範囲と受光範囲との位置関係を示す図である。
【図6】清浄度判定装置を、エンジンを構成するシリンダブロックとシリンダヘッドとチェーンケースとの3面合わせ部の表面の清浄度を判定するために用いた例を示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 清浄度判定装置
10 センサヘッド部
11 ケース
12 把手
20 投光部
21 面光源
22 p偏光子
23 集束レンズ
30 受光部
31 受光センサ
32 集光レンズ
33 干渉フィルタ
33a フィルタ
40 処理部
41 演算装置
42 記憶装置
50 ワーク
51 汚れ物質
d センサヘッド部とワークとの間隔
Ra 照射範囲
Rb 受光範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワーク表面に赤外線光を照射する投光部と、
前記ワーク表面からの反射光を検出する受光部と、
前記受光部にて検出した反射光からワーク表面での吸光度を算出し、
算出した吸光度、および予め求めておいたワーク表面の汚れ物質付着量と吸光度との関係を用いて、ワーク表面の清浄度を判定する処理部とを備えた清浄度判定装置であって、
前記投光部は、所定の大きさを有した赤外線光を照射する面光源と、前記面光源から照射される赤外線光を集束させて集束光とするレンズとを備え、
前記受光部は、ワーク表面に付着する汚れ物質に対して赤外吸収が生じる波長の赤外線光が透過可能なフィルタと、前記フィルタを透過したワーク表面からの反射光を受光する受光器とを備え、
前記投光部から照射される赤外線光のワーク表面への照射範囲を、前記受光部におけるワーク表面からの反射光の受光範囲よりも大きく構成した、
ことを特徴とする清浄度判定装置。
【請求項2】
前記受光部における反射光の受光範囲は、前記ワーク表面において清浄度を判定する領域の大きさに応じて調節可能である、
ことを特徴とする請求項1に記載の清浄度判定装置。
【請求項3】
前記照射範囲の大きさは、前記清浄度判定装置において許容される前記投光部及び受光部とワーク表面との間の距離変動により生じる、受光範囲の照射範囲に対するワーク表面方向へのずれ量の大きさに応じた大きさに構成される、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の清浄度判定装置。
【請求項4】
ワーク表面に赤外線光を照射し、前記ワーク表面からの反射光を受光して、受光した反射光からワーク表面での吸光度を算出し、
算出した吸光度、および予め求めておいたワーク表面の汚れ付着量と吸光度との関係を用いて、ワーク表面の清浄度を判定する清浄度判定方法であって、
前記ワーク表面には、面光源から照射された所定の大きさを有する赤外線光を集束させた集束光を照射し、
前記ワーク表面からの反射光の受光は、
ワーク表面に付着する汚れ物質に対して赤外吸収が生じる波長の赤外線光が透過可能なフィルタを透過した反射光を受光することで行い、
照射される赤外線光のワーク表面への照射範囲が、前記ワーク表面からの反射光の受光範囲よりも大きい、
ことを特徴とする清浄度判定方法。
【請求項5】
前記反射光の受光範囲を、前記ワーク表面において清浄度を判定する領域の大きさに応じて調節する、
ことを特徴とする請求項4に記載の清浄度判定方法。
【請求項6】
前記照射範囲の大きさを、前記清浄度判定方法において許容される赤外線光の投光部及び受光部とワーク表面との間の距離変動により生じる、受光範囲の照射範囲に対するワーク表面方向へのずれ量の大きさに応じた大きさに構成する、
ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の清浄度判定方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−215879(P2008−215879A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50349(P2007−50349)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】