説明

減圧ライン

【解決手段】
本発明は、消振ダンパ(14)により接続される2個のライン部(12、13)を備える減圧ライン(10)に関する。消振ダンパ(14)は、鉛直方向に延びる外側パイプ(18)と内側パイプ(20)とで形成されており、内側パイプ(20)は外側パイプ(18)から間隔をあけて配置されている。弾性的な張力スリーブ(30)は、外側パイプ(18)及び内側パイプ(20)の開口端(19、42)の間に固定されており、この固定により、外側パイプ(18)及び内側パイプ(20)の開口端(19、42)が気密的に接続されている。したがって、良好な振動抑制特性を備えた消振ダンパが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2個のライン部が消振ダンパにより接続されている減圧ラインに関する。
【背景技術】
【0002】
真空技術分野では、真空接続部の振動を遮断するために消振ダンパが利用されている。特に真空ポンプにより生じる振動が、真空ポンプに接続されている振動に繊細な受部(例えば電子顕微鏡など)に伝達されることを防止する場合、または防止しなければならない場合、真空接続部の振動を遮断するために消振ダンパが利用される。
【0003】
特許文献1は、消振ダンパを用いた手段によりポンプ部分からの振動が遮断された高真空フランジを備えるターボ分子真空ポンプを開示している。この消振ダンパは波形金属ベローズであり、別体である外部サポートゴム製被覆部を有している。このゴム製被覆部は、ポンプ部に対する軸方向に沿って高真空フランジを強固に支持している。したがって、振動の伝達はある程度しか抑制されず、高真空フランジに接続される振動に繊細な装置(例えば、電子顕微鏡など)の機能に実質的な影響を及ぼしかねない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第10001509号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、改善された振動抑制特性を有する消振ダンパを備えた減圧ラインを提供することを目的とする。
【0006】
本発明は、請求項1−8それぞれで記載した特徴を有する減圧ライン又は減圧ポンプを用いて、上記目的の達成を目指す。
【0007】
本発明の減圧ラインに於いては、互いに対して移動が制限されている2個のライン部が、剛接的接続方法でなく気密的接続方法により、消振ダンパを介してつながっている。つなげられる2個のライン部のそれぞれは、パイプの形状をしている。つまり、一方のライン部が鉛直方向に延びる外側のパイプに対応し、他方のライン部が鉛直方向に延びる内側のパイプに対応する。内側パイプは、径方向に所定の距離を隔てて、外側パイプの内部に配置される。したがって内側パイプと外側パイプとは、軸方向に所定の長さ分オーバーラップしている。2個の対応するパイプ開口端をつなぐ部分が弾性的な張力スリーブであり、この弾性的な張力スリーブの開口端は両パイプの端部に固定されることが望ましい。このような構成により、2個のパイプ間が気密的接続方法を用いてつなげられる。本発明における“張力スリーブ”とは、例えば、減圧ラインの内側と外側との圧力差により2個のパイプが互いに軸方向内側に押された場合に、張力を生じる部分を意味している。2個のパイプと張力スリーブとの軸長方向断面は、N字の輪郭となり、張力スリーブがN字の輪郭の対角線を形成することになる。
【0008】
内側パイプと外側パイプとが互いに軸方向内側に押された場合、消振ダンパの構造が非常にコンパクトになることがわかる。張力スリーブは、減圧ラインの内側と外側との圧力差を利用することにより生じる軸方向の力にさらされるが、2個のパイプ間の軸方向距離およびオーバーラップする領域の最大値は制限されているため、2個のライン部間における軸方向の直接的な接触を避ける目的で更なる手段を用意する必要がない。Dは材料の弾性度に依存するが、張力スリーブは減圧ラインの外側および内側の圧力差の低下をもたらし得る。しかしながら張力スリーブは、同時に、圧力差により少なくとも減圧サイド側にわずかに膨らみ、張力スリーブの軸方向の有効長または突出が再び低減される。
【0009】
張力スリーブは、軸方向に延びるホース形状とほぼ同じ形状に構成されており、非常に広範囲の横振動が抑制される。又は、横振動が伝達されなくなる。一方、軸長方向の振動は張力スリーブの弾性度のみにより抑制される。張力スリーブの丈が幅に比べて短い場合でも、縦横が逆ではあるが、上記とほぼ同じ結果となる。
【0010】
減圧ラインが部分的または全体的に真空である場合、張力スリーブは軸方向を優先する。張力スリーブは、好ましくは軸線に対して45度未満で傾いており、より好ましくは20度未満で傾いている。言い換えると、円錐の平均傾斜度が45度未満または20度未満である。円錐の傾きとして採用する角度であり軸線に対する0度までの角度は、種々の要因のうち、遮断すべき振動が存在する空間軸又は遮断すべき振動が抑制される空間軸に依存している。
【0011】
張力スリーブの軸長は、少なくとも径方向幅の2倍であることが好ましい。このような構成により、減圧ラインの外側および内側間の圧力差により生じる比較的大きな軸方向の力を受け取ることが可能となる。比較的長い張力スリーブの丈または比較的小さな張力スリーブの円錐角度により、特に径方向の振動伝達が大幅に抑制され又は回避される。とりわけ、例えばターボポンプのような、特に径方向の振動を生じる高速回転装置に2個のライン部のうちの一つが接続してある場合、この構成は特に重要になってくる。
【0012】
好ましい実施の形態の一つでは、流体を満たすことに適した少なくとも一つの空洞を張力スリーブが備えている。使用する流体は、ガス又は液体であってもよい。この空洞は、張力スリーブの一部または全長に広がっていてもよい。またこの空洞は、張力スリーブの外周の一部または全体に、環状に広がっていてもよい。別個の空洞が複数存在する構成であってもよい。
【0013】
異なる流体を用いて張力スリーブの空洞を満たすことにより、張力スリーブの振動抑制特性を変更することが可能である。たとえば、一般的な周辺状況それぞれに対して継続的に対応する機能として、振動抑制特性を設定することが可能となる。
【0014】
操作条件に応じて空洞内の流体量を制御する張力スリーブ制御部を備えることが可能である。このような構成により、操作中の減圧ラインの振動抑制特性を変更することが可能となる。また、張力スリーブ制御部が張力スリーブの丈をも制御する構成であってもよい。このような構成においては、たとえば、高速回転真空ポンプの動作開始時に一定形状の張力スリーブを設定することができる。またこのような構成においては、たとえば空洞を空にすることにより、動作開始時に2個のライン部が機械的に直接つながり、一時的に振動を抑制しない状態にすることも可能である。このことに関する利点は、以下のことを考慮した場合に理解しやすいであろう。たとえば、電子顕微鏡を切り離し、ターボ分子真空ポンプにより生じる振動を遮断する場合、ターボ分子ポンプを標準回転速度で操作するために、消振ダンパをほとんど調整する必要がない。しかしながら、消振ダンパをほとんど調整しない場合、ターボ分子ポンプが徐々に回転速度を上げる際に不安定となり共鳴現象を引き起こす可能性がある。したがってそのような状況を援助するために、徐々に回転速度を上げる間、張力スリーブ制御部は2個のライン部が非振動抑制接続となるように制御し、徐々に回転速度を上げる期間の終了後に張力スリーブの空洞に流体を満たすことにより、消振ダンパが利用可能となるように制御する。
【0015】
更に張力スリーブの空洞は、内側パイプと外側パイプとの間の径方向の空間における詰め物として機能することも可能であり、内側パイプと外側パイプとの間の径方向の相対移動を抑制する。または、内側パイプが外側パイプと直接接触することを抑制する。
【0016】
実施の形態として、コンプレッション停止機能および/又はテンション停止機能を備えることが好ましい。コンプレッション停止機能は、たとえばターボ分子ポンプが徐々に回転速度を上げる場合に、2個のライン部を十分に固く接続するために使用される。更にコンプレッション停止機能は、たとえば大きな軸方向の衝撃などにより張力スリーブが破損した場合、2個のライン部が軸方向に接近することを制限する。一方テンション停止機能は、非動作時の重力などに対処するために用いられる。すなわちテンション停止機能は、特に、ある圧力バランスが減圧ラインの内外に行き渡る場合に用いられる。
【0017】
独立請求項8においては、請求項1から7の特徴を備える消振ダンパを介して、減圧ポンプが受部と接続される。
【0018】
減圧ポンプはターボ分子ポンプであり、受部は電子顕微鏡であることが好ましい。電子顕微鏡は、ターボ分子ポンプの動作中に回避できない揺動および振動に対して極めて繊細である。記載した消振ダンパは、電子顕微鏡とターボ分子ポンプとの分離に特に適している。
【0019】
以下、本発明に関する2個の実施の形態を図面に基づいて具体的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】消振ダンパを用いた手段により2個のライン部が接続されている減圧ラインの縦断面図である。
【図2】電子顕微鏡に接続されており、ターボ分子ポンプと電子顕微鏡とを接続するための消振ダンパを有するターボ分子ポンプの図である。
【図3】空洞を備える実施の形態2の消振ダンパを用いた図2の集成装置である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、消振ダンパ14を介して相互接続されている2個のライン部12、13を有する減圧ライン10の一部を概略的に示している。動作時には、減圧ライン10の内側は大気圧より低い空気圧となり、外側は大気圧と同じ空気圧となる。
【0022】
上側ライン部12は、鉛直方向に延びる外側パイプ18を備えており、この外側パイプ18の内側には鉛直方向に延びる内側パイプ20がはめ込まれる。外側パイプ18と内側パイプ20との径方向断面は円形でよいが、円形に限定されるものではない。外側チューブ18と内側チューブ20との部分外形は円筒形でよいが、円筒形に限定されるものではない。
【0023】
内側パイプ20の開口端42と外側パイプ18の開口端19とは、変形可能に形成された張力スリーブ30を介して接続されている。この張力スリーブ30は、柔軟性があるが弾力性はない、または弾力性がそれほどない。スリーブホース32の開口端は気密的接続方法により、外側パイプ及18び内側パイプ20それぞれの開口端19、42と接続してある。この接続は、たとえば適切なねじ止めリング及び/又は接着を介した接続であってもよい。
【0024】
内側パイプ20及び外側パイプ18は、径方向に一定の距離を隔てて配置されており、本実施の形態においては、この一定の距離が張力スリーブ30の断面における径方向のスリーブ幅Rとほぼ一致している。内側パイプ20は、一定の長さをもって重なるように外側パイプ18内にはめ込まれており、本実施の形態においては、この長さはスリーブの軸方向の丈Lとほぼ一致している。スリーブ長Lは、径方向のスリーブ幅Rの数倍ある。したがって、減圧ライン10の外側と内側との間で圧力差が生じていない場合、張力スリーブ30またはスリーブホース32は、軸線34に対して20度未満の角度で傾いている。減圧ライン10の外側と内側との間で圧力差が生じている場合、スリーブホース32は減圧方向において遠位に膨らむが、スリーブホース32の平均角度は変化しない。張力スリーブが遠位に膨らむための空間は、外側パイプ18の円形径方向伸縮空間22により確保され得る。
【0025】
外側パイプ18の内側面には、径方向内側に突出する肩リング40が形成されている。この肩リング40は、内側パイプ20の開口端42と連帯して張力ストッパ44を形成する。張力ストッパは、外側パイプ18の内側における内側パイプ20の移動を制限する。外側パイプ18に対する内側パイプ20の対応衝撃移動を緩和するために、内側パイプの開口端42は、対応する柔軟性および弾力性を有するストップリング46を備えている。
【0026】
図2は、減圧ポンプ60と受部70とを備える集成装置を示している。受部70は、気密的接続方法によりダンパ収容部74に接続された電子顕微鏡72を備えている。このダンパ収容部74は、伸縮空間22を囲う外側パイプ18を一部に有している。
【0027】
減圧ポンプ60は、ポンプロータ62を有するターボ分子ポンプであり、減圧ポンプの収容部、ロータ62及び消振ダンパ14に利用する非円筒形の内側パイプ20のような環状の構成要素を、吸い込み側に複数備えている。
【0028】
この実施の形態の消振ダンパ14は基本的に減圧ポンプ60の吸い込み側端部の周囲径方向外側に配置されるため、図2から明らかであるが、非常にコンパクトな構造とすることができる。
【0029】
図2は、配置された部位70の外側と内側との間に実質的な圧力差が生じている状況を示している。スリーブホース32は圧力差が原因で、径方向外側へ減圧状態を指す向きに膨らんでいる。そのため減圧ポンプ60は、軸方向に沿ってダンパ収容部74から離れる方向にわずかに移動することになる。このような構成により、圧力差がない場合または圧力差がわずかにある場合に、減圧ポンプ60の弾性的に変形可能なストップリング46が、ダンパ収容部74の対応前端面75上に配置されることになる。したがって、減圧ポンプ60が徐々に回転速度を上げる場合、減圧ポンプ60と受部72との間に非振動抑制型の強固な機械的接続が形成される。減圧ポンプ60は、対応する減圧状態の場合のみ、スリーブホース32が遠位に膨らむことにより軸方向に沿ってダンパ収容部74から離れるように移動する。したがって、減圧ポンプ60とダンプ収容部74との間に、振動抑制を良好に行うが剛接的接続ではない気密的接続のみが形成されることになる。
【0030】
本実施の形態に於いて、減圧ポンプ60は軸線34を中心として回転する高速回転ロータ62を有するターボ分子ポンプである。ロータ62は、径方向の振動を実質的に発生するが、スリーブホース32の実質的な軸方向移動により、その径方向の振動の超広範囲部分が抑制される。なぜなら、外側パイプ18´と内側パイプ20´とが、ほとんど抵抗なく互いに径方向に移動可能となるからである。
【0031】
図3は、実施の形態2に関する消振ダンパ80を示している。消振ダンパ80は、2個の相互同心スリーブホース81、83により形成される張力スリーブ82を備えている。2個の相互同心スリーブホース81、83の間には円形の空洞84が形成されている。必要に応じて、この空洞84はガスの流体で満たされる。流体量および流体圧を制御するために、実質的にコントロールモジュール88、流体ポンプ86及び流体バルブ85で構成されるスリーブ制御部90を備えている。
【0032】
張力スリーブが有する空洞84の流体圧または流体量を増減することにより、スリーブ制御部90は減圧ポンプ60とダンパ収容部74との間にある軸方向距離を設定でき、張力スリーブ82の振動抑制パラメータを設定できる。張力スリーブが有する空洞84が流体で満たされた場合、張力スリーブ82は更に環状の緩衝部を形成することになり、減圧ポンプ60が径方向でダンパ収容部74と接触することを防止し、外側パイプ18″が径方向で内側パイプ20″と接触することを防止する。たとえば、大気などの気体が流体として使用されているが、液体を流体として使用してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消振ダンパ(14)により接続される2個のライン部(12、13)を備え、
前記2個のライン部(12、13)は相対移動可能であり、
前記消振ダンパ(14)は、鉛直方向に延びる外側パイプ(18)と、鉛直方向に延びており該外側パイプ(18)に挿入される内側パイプ(20)と、前記2つのパイプ(18,20)との間をつなぐ弾性的な張力スリーブ(30)とを備え、
該弾性的な張力スリーブ(30)は、気密的接続により前記外側パイプ(18)に固定される開口端と気密的接続により前記内側パイプ(20)に固定される開口端とを有する
ことを特徴とする減圧ライン(10)。
【請求項2】
張力が与えられた場合に、前記張力スリーブ(30)は軸線(34)に対して45度未満の角度で傾斜しており、好ましくは20度未満の角度で傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の減圧ライン(10)。
【請求項3】
前記張力スリーブのスリーブ長(L)は、前記張力スリーブの径方向幅(R)の少なくとも2倍であることを特徴とする請求項1又は2に記載の減圧ライン(10)。
【請求項4】
前記張力スリーブ(82)は、流体を満たすことが可能な少なくとも1つの空洞(84)を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の減圧ライン(10)。
【請求項5】
前記張力スリーブの空洞(84)内の流体量を動作条件に応じて制御するスリーブ制御部(90)を備えることを特徴とする請求項4に記載の減圧ライン(10)。
【請求項6】
張力ストッパ(44)を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の減圧ライン(10)。
【請求項7】
コンプレッション停止機能を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか一つに記載の減圧ライン(10)。
【請求項8】
消振ダンパ(14)により減圧ポンプ(60)と受部(72)とが接続されており、請求項1から7のいずれか一つに記載の特徴を備える集成装置。
【請求項9】
前記減圧ポンプ(60)はターボ分子ポンプであり、前記受部(72)は電子顕微鏡であることを特徴とする請求項8に記載の減圧ポンプ(60)と受部(72)とを有する集成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−519475(P2010−519475A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550254(P2009−550254)
【出願日】平成20年1月14日(2008.1.14)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050336
【国際公開番号】WO2008/101747
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(508206070)オーリコン レイボルド バキューム ゲーエムベーハー (43)
【Fターム(参考)】