説明

減肉腐食速度の推定方法

【課題】 現在の減肉腐食速度を合理的な基準に基づいて推定し、産業資源を有効に利用できる技術を提供する。
【解決手段】 土壌3中から立設される鉄筋7コンクリート9製の建築物と、土壌3中から建築物内に引き込まれる配管5とを有して構成され、配管5の一部が鉄筋7と電気的に接続し、アノード部としての配管5と鉄筋7との間に土壌3を介して形成されるマクロセルにより、配管5に発生する腐食の減肉腐食速度の推定するに、鉄筋7と配管5との間に発生している電位差ΔEと、マクロセルの電気的抵抗Rとを測定する測定工程を実行し、測定された電位差ΔE、マクロセルの電気的抵抗R及び前記土壌3の土壌比抵抗ρとに基づいて減肉腐食速度を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌中から立設される鉄筋コンクリート製の建築物と、土壌中から前記建築物内に引き込まれる腐食検討対象物とを有して構成され、前記腐食検討対象物の一部が前記建築物を成す鉄筋と電気的に接続し、アノード部としての腐食検討対象物とカソード部としての鉄筋との間に土壌を介して形成されるマクロセルにより前記アノード部に発生する腐食の減肉腐食速度の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート製の建築物は、その基礎部分が埋設されており、鉄筋はコンクリートを介して土壌と電気的に接続された状態にある。
一方、この種の建築物内には、腐食検討対象物、例えば、ガス管といった導電性の配管が土中から配設される。ガス管の中には、絶縁性の塗覆装を備えたもの、この塗覆装を備えないものもある。このような構成の建築物の地上部位において、ガス管の一部が、鉄筋と電気的に接続する場合がある。
一方、ガス管が塗覆装を備えない場合は、地中においてそのまま、塗覆装を備える場合はその欠陥部位において、導電性材料からなるガス管が土壌と電気的に接続し、図3(a)に示すような、ガス管−土壌−建築物のコンクリート鉄筋−ガス管に渡るマクロセルMCが形成される。
従来、この種の腐食の推定にあっては、被覆損傷状態をその面積の推定により行っているのみであった。このような被覆損傷の面積を推定する場合、土壌中に埋設された配管にあっては、その接地抵抗Rsを測定し、この接地抵抗Rsから経験式に基づいて、被覆損傷面積を求め、腐食の問題があるか否かを判断している。
例えば、この種の被覆損傷の面積Sの推定にあたっては、土壌の比抵抗をρ、接地抵抗をRsとして、S=K(ρ/Rs)として求める。
この技術は、従来、慣用的に行われてきた技術であり、特に文献を示すことができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来技術では、被覆損傷面積Sを求めることができるに過ぎず、現場にある腐食検討対象物の具体的な減肉腐食速度を推定することができず、従来、真に問題となる腐食状況より、かなり安全側で腐食管理を行っているのが実情である。
結果、この種の腐食検討対象物の管理を合理的な基準に基づいて行っているとは言えず、産業資源の管理上、無駄があった。
【0004】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、現在の減肉腐食速度を合理的な基準に基づいて推定することができ、産業資源を有効に利用できる技術を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願では、減肉腐食速度を求めるに、以下の二つの方法を採用する。
方法1
腐食検討対象物と鉄筋との間に発生している電位差ΔEとマクロセルの抵抗Rとの測定値に基づいて求める。
方法2
腐食検討対象物と鉄筋との間に発生している電位差ΔEとマクロセルの抵抗Rに基づいて決まる電流値Iとの測定値に基づいて求める。
【0006】
以下、方法1、方法2の順に説明する。
方法1
上記の目的を達成するための、土壌中から立設される鉄筋コンクリート製の建築物と、土壌中から前記建築物内に引き込まれる腐食検討対象物とを有して構成され、前記腐食検討対象物の一部が前記建築物を成す鉄筋7と電気的に接続し、アノード部としての腐食検討対象物とカソード部としての鉄筋との間に土壌を介して形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の減肉腐食速度の推定方法の特徴構成は、
前記鉄筋と前記腐食検討対象物との間に発生している電位差ΔEと、前記マクロセルの電気的抵抗Rとを測定する測定工程を実行するとともに、
前記測定工程において測定された電位差ΔE、マクロセルの電気的抵抗R及び前記土壌の土壌比抵抗ρとに基づいて前記アノード部に発生する腐食の減肉腐食速度を推定する。
【0007】
鉄筋コンクリート製の建築物と、その中に設置されている腐食検討対象物との関係において、腐食検討対象物の一部と鉄筋とが接触し、腐食検討対象物−土壌−建築物のコンクリート−鉄筋−腐食検討対象物に渡るマクロセルが形成された場合、腐食検討対象物のアノード部に発生する減肉腐食速度は、鉄筋と腐食検討対象物との間に発生している電位差ΔEと、マクロセルの電気的抵抗Rとに関係する物理量となる。
従って、これらを測定するとともに、マクロセルの一部をなす土壌の比抵抗ρを考慮して、減肉腐食速度を求めることができる。
【0008】
さらに、ここで、前記マクロセルの電気的抵抗Rとして、前記腐食検討対象物と土壌との間の抵抗である接地抵抗Rsを使用することができる。
腐食の原因となるマクロセルを考えた場合、土壌−建築物のコンクリート−鉄筋−腐食検討対象物における抵抗はほぼ無視でき、腐食検討対象物と土壌との間における抵抗である所謂接地抵抗Rsが支配的となる。そこで、この接地抵抗Rsを使用することで、本願に係る減肉腐食速度を良好に推定できる。また、接地抵抗Rsの測定は、従来公知の方法を利用して容易である。
【0009】
この方法の適用に際しては、具体的には、Kを電流から腐食速度への換算係数、kを、腐食検討対象物の腐食部の面積Sと土壌比抵抗ρと前記接地抵抗Rsとの関係定数であるS/(ρ/Rs)として、
減肉腐食速度dr/dtを、(K×ΔE×Rs)/(k×ρ)として求めることができる。
【0010】
さらに、この接地抵抗Rsを求めるに、クランプ接地抵抗計を使用することが好ましい。
クランプ接地抵抗計においては、電圧付加用のクランプと、電流測定用のクランプとを備え、これらクランプを、腐食検討対象物を挟み込むように配設して、マクロセルの抵抗を代表する抵抗としての接地抵抗Rsを測定することができる。
よって、地上に延出されている腐食検討対象物を利用して、減肉腐食速度の推定に有用な測定値を簡便且つ迅速に得ることができる。
【0011】
方法2
上記の目的を達成するための、土壌中から立設される鉄筋コンクリートからなる建築物と、土壌中から前記建築物内に引き込まれる腐食検討対象物とを有して構成され、前記腐食検討対象物の一部が前記建築物を成す鉄筋と電気的に接続し、アノード部としての腐食検討対象物とカソード部としての前記鉄筋との間に形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の減肉腐食速度の推定方法の特徴構成は、
前記鉄筋と前記腐食検討対象物との間に発生している電位差ΔEと、前記マクロセルの電気的抵抗Rに基づいて決まる電流値Iとを測定する測定工程を実行するとともに、
前記測定工程において測定された電位差ΔEと前記電流値I及び前記土壌の土壌比抵抗ρとに基づいて前記アノード部に発生する腐食の減肉腐食速度を推定することにある。
【0012】
鉄筋コンクリート製の建築物と、その中に設置されている腐食検討対象物との関係において、腐食検討対象物の一部と鉄筋とが接触し、腐食検討対象物−土壌−建築物のコンクリート−鉄筋−腐食検討対象物に渡るマクロセルが形成された場合、腐食検討対象物のアノード部に発生する減肉腐食速度は、鉄筋と腐食検討対象物との間に発生している電位差ΔEと、マクロセルを流れる腐食電流とに関係する。従って、電位差と、その腐食電流の推定値としての前記電流値Iを測定するとともに、マクロセルの一部をなす土壌の比抵抗を考慮して、減肉腐食速度を求めることができる。
【0013】
この方法の適用に際しては、具体的には、Kを電流から腐食速度への換算係数、kを、腐食検討対象物の腐食部の面積Sと土壌比抵抗ρと前記接地抵抗Rsとの関係定数であるS/(ρ/Rs)として、
減肉腐食速度dr/dtを、(K×ΔE)/(k×ρ×I)として求めることができる。
【0014】
ここで、マクロセルの電気的抵抗Rに基づいて決まる電流値Iを求めるに、交流電流源より、前記電位差ΔEを発生する電流を前記マクロセルMCに流し、その状態で発生する電流量を前記電流値Iとすることができる。
例えば、クランプ接地抵抗計と同様なシステムを使用して、電圧付加用のクランプと、電流測定用のクランプとを備え、これらクランプを腐食検討対象物を挟み込むように配設して、マクロセルを構成する鉄筋−腐食検討対象物間に一定の電位ΔEを発生させることで、マクロセルを流れると考えられる腐食電流と等価な電流の推定値を実際に測定することができる。
よって、このようにして地上に延出されている腐食検討対象物を利用して、減肉腐食速度の推定に有用な測定値を簡便且つ迅速に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態について、以下、A:減肉腐食速度の推定装置、B:減肉腐食速度の推定方法、C:本願手法の導出過程の順に、図面に基づいて説明する。
【0016】
A:減肉腐食速度の推定装置
図1は、本願に係る減肉腐食速度の推定装置1のシステム構成を示す図であり、この推定装置1は、入力に従って、所定の演算処理を実行し、演算結果を出力するコンピュータによって構成されている。
【0017】
コンピュータは、良く知られているように、作業者が入力操作を行うキーボード等の入力部1aと、演算結果を出力するためのディスプレイ、プリンター等の出力部1bとを備えて構成されるとともに、演算部1cにおける演算に必要な定数(K,k)を記憶した記憶部1dと、入力部1aから入力される入力情報に従って、記憶部1dに記憶された記憶情報を使用して、所定の演算式に従って出力情報を得る演算部1cを備えて構成されており、この演算部1cに備えられる導出手段2で導出された結果が、前記出力部1bより出力される構成が採用されている。
【0018】
前記演算部1cは、演算処理を実行するハードウェアと所定の演算を実行するように構成されたソフトウェアとの協働により、一定の入力から一定の出力を得ることができる導出手段2が構築されている。ここで、本願に係る減肉腐食速度の推定装置1にあっては、図1に示すように、第1減肉腐食速度導出手段2a、第2減肉腐食速度導出手段2bの2種の導出手段2が備えられている。
以下、それぞれの手段2a,2bに関して説明する。
【0019】
1 第1減肉腐食速度導出手段2a
この手段2aは、建築物において鉄筋と腐食検討対象物との間において形成されるマクロセルMCを対象とし、腐食検討対象物と土壌との接触部位に発生する腐食に関して、その減肉腐食速度dr/dtを求める手段である。
この手段2aにあっては、入力されてくる鉄筋(この電位は土壌・コンクリートの電位と同じと見なす)と腐食検討対象物との間に発生している電位差ΔEと、マクロセルの電気的抵抗Rと、土壌比抵抗ρに基づいて、減肉腐食速度を求める。
具体的には、
Kを電流から腐食速度への換算係数、kを、腐食検討対象物の腐食部の面積Sと土壌比抵抗ρと前記接地抵抗Rsとの関係定数であるS/(ρ/Rs)として、
減肉腐食速度dr/dtを、(K×ΔE×Rs)/(k×ρ)として求める。
図1にあっては、下記数1として示している。
【数1】

【0020】
ここで、Kは記憶部1dに記憶されている係数であり、電流から腐食速度への換算係数であり、kも理論的若しくは実験的に求まる定数である。
【0021】
2 第2減肉腐食速度導出手段2b
この手段2bは、建築物において鉄筋と腐食検討対象物との間において形成されるマクロセルを対象とし、腐食検討対象物と土壌との接触部位に発生する腐食に関して、その減肉腐食速度dr/dtを求める手段である。
この手段2bにあっては、図1に示すように、入力されてくる鉄筋(この電位は土壌・コンクリートの電位と同じと見なす)と腐食検討対象物との間に発生している電位差ΔEと、マクロセルMCの電気的抵抗Rに基づいて決まるマクロセル電流Iと、土壌比抵抗ρに基づいて、減肉腐食速度を求める。
具体的には、Kを電流から腐食速度への換算係数、kを、腐食検討対象物の腐食部の面積Sと土壌比抵抗ρと前記接地抵抗Rsとの関係定数であるS/(ρ/Rs)として、減肉腐食速度dr/dtを、(K×ΔE)/(k×ρ×I)として求める。
図1にあっては、下記数2として示している。
【0022】
【数2】

【0023】
従って、この装置1では、図1に示すように、鉄筋(この電位は土壌・コンクリートの電位と同じと見なす)と腐食検討対象物との間に発生している電位差ΔE、マクロセルMCの電気的抵抗R、またはこれによって定まる電流値I及び土壌比抵抗ρを入力として、腐食検討対象物の現在の減肉腐食速度dr/dtを出力として得る。
【0024】
B:減肉腐食速度の推定方法
以下、図2、3、4,5に基づいて、この減肉腐食速度の推定装置1を使用して減肉腐食速度の状況を推定する手順に関して説明する。
腐食推定の対象である土壌3中に埋設された絶縁性塗覆層4を有する配管5(本願にいう腐食検討対象物となる)であって、塗覆層4に欠陥が発生し、配管5の一部が土壌3に直接接触して腐食を発生している場合に関して説明する。
この例の場合、配管5の一端が鉄筋コンクリート9の建築物6内で、その鉄筋7に電気的に接続しており、鉄筋7−配管5−配管の土壌3に接触する部位に発生した腐食部8−土壌3−コンクリート9−鉄筋7を介するマクロセルMCが形成される。
従って、配管5の土壌3に接触する部位に発生した腐食部8の近傍の配管部位が本願にいうアノード部となり、鉄筋7がカソード部となる。
【0025】
図3には、このようなマクロセルMCの形成状況が示されており、図3(a)及び(b)に、配管5の接地抵抗Rsを従来方式あるいはクランプ接地抵抗計10を使用して測定する状況を示している。
このマクロセルMCを対象とする場合、マクロセルMCのアノード部とカソード部との間に発生している電位差(実質的には配管5と鉄筋7との間に発生している電位差)ΔEは図3(a)に示すように、土壌3に電極11bを設置して、配管5との電位差V0を測定することで得ることができる。このとき、交流電流源14から電流を流すことはない。
【0026】
一方、配管5と土壌3との間の抵抗(所謂:接地抵抗Rs)は、図3(a)に示す接地抵抗測定用のシステムC1において、交流電流源14より電流を流し、電流計12により測定される電流量A0と電圧計13により測定される電位差V0との関係から求めることが可能である。このシステムC1では、電極11a,11bに対して、交流電流源14が設けられ、電極11aとコンクリート9、鉄筋7、配管5、電流計12を介する電流測定回路15を流れる電流量A0を測定するとともに、土壌3と配管5間との電位差V0を電圧測定回路16で測定することにより、接地抵抗Rs=V0/A0を得ることができる。
【0027】
一方、図3(b)に示すように、クランプ式の接地抵抗計10を使用したシステムC2にて求めることも可能である。このクランプ式の接地抵抗計10にあっては、一方のクランプ10bでマクロセルMC内に一定電圧の交流電流を流し、他方のクランプ10aでマクロセルMC内に発生する電流を測定することで、マクロセルMCの抵抗R(実際は配管5と土壌3との間の接地抵抗Rsにより代表される値となり、この値を使用できる)を得ることができる。
【0028】
図2に戻って、本願の減肉腐食速度の推定工程(#2、#3、#4)は、配管5の接地抵抗Rsを測定して、本願が問題とするマクロセル腐食が発生しているかどうかを判定する準備工程(#1)に引き続いて行われる工程であり、現場作業において実測値を得る測定工程(#2、#3)と、得られた実測値に基づいて、これを本願独特の減肉腐食速度の推定装置1に入力して、所定の出力を得る工程(#4)から成立している。無論、これらを所定のシーケンスに従って順次、一装置で行なうものとすることもできる。
【0029】
1 準備工程
この準備工程にあっては、配管5の接地抵抗Rsを測定する(#1)。
そして、このようにして測定される接地抵抗Rsが所定値(例えば10Ω)以上である場合はマクロセル腐食の発生はないとし、以降の解析は行わない(#1−1:no)。
一方、測定される接地抵抗値が比較的低い場合は、マクロセル腐食が発生している可能性が高いと判断して、以下の減肉腐食速度の解析に移る(#1−1:yes)。
2 現場作業
この現場作業にあっては、配管5の近傍における土壌3の土壌比抵抗ρの測定を行う(#2)とともに、現場にて、図3(a)に示す電圧計13を有するシステムC1を用いて、電位差ΔEを測定する(#3)。
一方、接地抵抗Rsを新たに、システムC1若しくはシステムC2を用いて測定する。この時、先に説明した準備工程で得られている接地抵抗Rsをそのまま使用してもよい(#3)。マクロセル電流Iを基準に考える場合は、図3(b)に示されると同様な図4に示すシステムを使用して、交流電源10G、電圧計10V、電流計10Aを備えたシステムC3において、配管5と鉄筋7との間に発生している分の電位差ΔEを交流で与え、その時の電流値Iを測定する(#3)。
このようにすることで、問題とするマクロセルMCに関して、その電位差ΔE、主要な抵抗R、電流Iを得ることができる。
【0030】
3 減肉腐食速度の推定装置による解析
上記のようにして得られた情報が、再度図2に戻って、本願に係る減肉腐食速度の推定装置1に入力される(#4)。
この装置1の演算部1cにそれぞれ備えられる導出手段2a、2bの構成は、先に説明したところであり、第1減肉腐食速度導出手段2aからは、電位差ΔE及び接地抵抗Rsに基づいた現在の減肉腐食速度dr/dtが、第2減肉腐食速度導出手段2bからは電位差ΔE及び電流Iに基づいた現在の減肉腐食速度dr/dtが導出される。
【0031】
上記の方法に基づいて求められた減肉腐食速度の検証結果に関して、以下説明する。
図6は、この検証結果を示す図であり、検証は、複数の現場回収サンプルと模擬サンプルについて、電位差ΔE、接地抵抗Rsを測定し、減肉腐食速度をそれぞれ求めた。
同図の縦軸は本願手法により推定値として求められた減肉腐食速度であり、横軸は、配管5の被覆剥がれ面積Sである。この被覆剥がれ面積Sが大きい程、腐食が進んだ状態に対応する。
同図の結果からも判明するように、本願に係る方法から推定値として得られた減肉腐食速度は、腐食の程度に従って、初期の急速な減少域と、その後の漸減域とから成立しており、腐食の進行に伴う減肉腐食速度の変化傾向の一般的解釈と一致している。
【0032】
C:本願手法の導出過程
以上、説明してきたように、本願にあっては、腐食を、例えば、腐食検討対象物の深さ方向断面で半回転楕円状に減肉が進む、単一の腐食と見なす。即ち、腐食は、図6に示すように、その長軸a・rが腐食検討対象物の表面で形成され、その深さ方向及び前記長軸に直交する方向に短軸rを成すように、均等に進行するものと仮定する。
【0033】
この仮定の下にあっては、腐食体積速度dV/dtは、数3、4を経て数6のように、減肉深さrを用いて表される。
【0034】
【数3】

【0035】
ここで、
Kは、電流から腐食速度への変換係数で、具体的には、1.16cm/year/mAとできる。
ΔEは、これまで説明してきたように、配管(アノード部)と鉄筋(カソード部)との間に発生している電位差ΔEであり、これは、土壌−鉄筋間は等電位と見なせるため、配管と土壌との間の電位差で代表できる。
Rは、これまで説明してきたように、配管の接地抵抗Rsである。
さて、減肉腐食速度dr/dtは、腐食部位の面積をSとして数4のように表記される。
【0036】
【数4】

【0037】
ここで、腐食部位の面積Sと土壌比抵抗ρ及び接地抵抗Rsは、以下の数5のように接続されている。
【0038】
【数5】

【0039】
kは発明者が、理論式及び実験により求めた定数であり、例えば、k=1/SQRT(2π)、あるいは、0.398を採用できる。
【0040】
従って、減肉腐食速度は
dr/dt=(K×ΔE×Rs)/(k×ρ)=(K×ΔE)/(k×ρ×I)として求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
現在の減肉腐食速度を合理的な基準に基づいて推定することができ、産業資源を有効に利用できる技術を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本願に係る減肉腐食速度の推定装置のシステム構成を示す図
【図2】本願に係る減肉腐食速度の推定方法の手順を示すフロー図
【図3】配管−鉄筋間の電位差、配管の接地抵抗の測定状況を示す図
【図4】マクロセルを流れる電流の測定状況を示す図
【図5】被覆剥がれ面積と減肉腐食速度との関係を示す図
【図6】腐食の形状を示す模擬図
【符号の説明】
【0043】
1 減肉腐食速度の推定装置
2 導出手段
2a 第1減肉腐食速度導出手段
2b 第2減肉腐食速度導出手段
3 土壌
5 配管(腐食検討対象物)
8 腐食部
ΔE 電位差
MC マクロセル
R 抵抗
Rs 接地抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌中から立設される鉄筋コンクリート製の建築物と、土壌中から前記建築物内に引き込まれる腐食検討対象物とを有して構成され、前記腐食検討対象物の一部が前記建築物を成す鉄筋と電気的に接続し、アノード部としての腐食検討対象物とカソード部としての鉄筋との間に土壌を介して形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の減肉腐食速度の推定方法であって、
前記鉄筋と前記腐食検討対象物との間に発生している電位差ΔEと、前記マクロセルの電気的抵抗Rとを測定する測定工程を実行するとともに、
前記測定工程において測定された電位差ΔE、マクロセルの電気的抵抗R及び前記土壌の土壌比抵抗ρに基づいて前記アノード部に発生する腐食の減肉腐食速度を推定する減肉腐食速度の推定方法。
【請求項2】
前記マクロセルの電気的抵抗Rとして、前記腐食検討対象物と土壌との間の抵抗である接地抵抗Rsを使用する請求項1記載の減肉腐食速度の推定方法。
【請求項3】
Kを電流から腐食速度への換算係数、kを、腐食検討対象物の腐食部の面積Sと土壌比抵抗ρと前記接地抵抗Rsとの関係定数であるS/(ρ/Rs)として、
減肉腐食速度dr/dtを、(K×ΔE×Rs)/(k×ρ)として求める請求項2記載の減肉腐食速度の推定方法。
【請求項4】
前記接地抵抗Rsを求めるに、クランプ接地抵抗計を使用する請求項2又は3記載の減肉腐食速度の推定方法。
【請求項5】
土壌中から立設される鉄筋コンクリートからなる建築物と、土壌中から前記建築物内に引き込まれる腐食検討対象物とを有して構成され、前記腐食検討対象物の一部が前記建築物を成す鉄筋と電気的に接続し、アノード部としての腐食検討対象物とカソード部としての前記鉄筋との間に形成されるマクロセルにより、前記アノード部に発生する腐食の減肉腐食速度の推定方法であって、
前記鉄筋と前記腐食検討対象物との間に発生している電位差ΔEと、前記マクロセルの電気的抵抗Rに基づいて決まる電流値Iとを測定する測定工程を実行するとともに、
前記測定工程において測定された電位差ΔEと前記電流値I及び前記土壌の土壌比抵抗ρとに基づいて前記アノード部に発生する腐食の減肉腐食速度を推定する減肉腐食速度の推定方法。
【請求項6】
Kを電流から腐食速度への換算係数、kを、腐食検討対象物の腐食部の面積Sと土壌比抵抗ρと前記腐食検討対象物の接地抵抗Rsとの関係定数であるS/(ρ/Rs)として、減肉腐食速度dr/dtを、(K×ΔE)/(k×ρ×I)として求める請求項5記載の減肉腐食速度の推定方法。
【請求項7】
前記マクロセルの電気的抵抗Rに基づいて決まる電流値Iを求めるに、交流電流源より、前記電位差ΔEを発生する電流を前記マクロセルに流し、その状態で発生する電流量を前記電流値Iとする請求項5又は6記載の減肉腐食速度の推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−300590(P2006−300590A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119636(P2005−119636)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】