説明

減速機構及びこれを備えたモータ駆動力伝達装置

【課題】軸受の寿命低下を抑制することができる減速機構、及びこれを備えたモータ駆動力伝達装置を提供する。
【解決手段】減速伝達機構5は、偏心部42aを有するモータ軸42と、モータ軸42の偏心部42aに軸受54を介して回転可能に支持され、中心軸線Oの回りに等間隔をもって並列する複数のピン挿通孔501bを有する外歯歯車からなる円環状の入力部材50と、入力部材50にその歯数よりも大きい歯数をもって噛合する内歯歯車からなる自転力付与部材52と、自転力付与部材52によって入力部材50に付与された自転力を受けて出力し、複数のピン挿通孔501bをそれぞれ挿通する複数の出力部材53とを備え、入力部材50は、外歯歯車の外歯が設けられた鉄系金属製の外側部材500、及び外側部材500の内周面に取り付けられた金属又は樹脂製の内側部材501を有し、内側部材501の材料の密度が外側部材500の材料の密度よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば駆動源として電動モータを有する電気自動車に用いて好適な減速機構、及びこれを備えたモータ駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のモータ駆動力伝達装置には、モータ駆動力を発生させる電動モータ、及びこの電動モータのモータ駆動力を差動機構に伝達する減速伝達機構を備え、自動車に搭載されたものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
電動モータは、車載バッテリの電力によって回転する偏心部付きのモータ軸を有し、減速伝達機構の軸線上に配置されている。
【0004】
減速伝達機構は、その軸線の周囲に一対の減速伝達部を有し、電動モータと差動機構(デフケース)との間に介在して配置され、かつモータ軸及びデフケースに連結されている。一方の減速伝達部はモータ軸に、また他方の減速伝達部はデフケースにそれぞれ連結されている。
【0005】
以上の構成により、電動モータのモータ軸が車載バッテリの電力によって回転し、これに伴いモータ駆動力が電動モータから減速伝達機構を介して差動機構に伝達され、この差動機構から左右の車輪に配分される。
【0006】
ところで、この種のモータ駆動力伝達装置の減速伝達部は、電動モータのモータ軸の回転によって公転運動を行う公転部材、この公転部材に自転力を付与する外ピン、及びこの外ピンの内側で公転部材の自転力を差動機構に回転力として出力する内ピンを有している。
【0007】
そして、外ピンがモータ駆動力伝達装置のハウジングに、また内ピンがハウジングの内側で公転部材を挿通して差動機構のデフケースにそれぞれ取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−218407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に示すモータ駆動力伝達装置によると、公転部材(入力部材)が偏心して回転することから、入力部材を回転可能に支持する軸受への負荷が大きくなり、軸受の寿命が低下していた。
【0010】
従って、本発明の目的は、入力部材を支持する軸受の負荷を小さくし、もって軸受の寿命低下を抑制することができる減速機構、及びこれを備えたモータ駆動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、(1)〜(4)の減速機構及びこれを備えたモータ駆動力伝達装置を提供する。
【0012】
(1)偏心部を有する回転軸と、前記回転軸の前記偏心部に軸受を介して回転可能に支持され、中心軸線の回りに等間隔をもって並列する複数の貫通孔を有する外歯歯車からなる円環状の入力部材と、前記入力部材にその歯数よりも大きい歯数をもって噛合する内歯歯車からなる自転力付与部材と、前記自転力付与部材によって前記入力部材に付与された自転力を受けて出力し、前記複数の貫通孔をそれぞれ挿通する複数の出力部材とを備え、前記入力部材は、前記外歯歯車の外歯が設けられた鉄系金属製の外側部材、及び前記外側部材の内周面に取り付けられた金属又は樹脂製の内側部材を有し、前記内側部材の材料の密度が前記外側部材の材料の密度よりも小さい減速機構。
【0013】
(2)上記(1)に記載の減速機構において、前記入力部材は、前記内側部材がアルミニウム系金属で形成されている。
【0014】
(3)上記(1)又は(2)に記載の減速機構において、前記入力部材は、前記内側部材が前記複数の貫通孔を有する。
【0015】
(4)モータ駆動力を発生させる電動モータと、前記電動モータの前記モータ駆動力を減速して駆動力伝達対象に伝達する減速伝達機構とを備えたモータ駆動力伝達装置において、前記減速伝達機構は、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の減速機構である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、入力部材を支持する軸受の負荷を小さくし、軸受の寿命低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置が搭載された車両の概略を説明するために示す平面図。
【図2】本発明の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置を説明するために示す断面図。
【図3】本発明の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置の減速伝達機構を説明するために模式化して示す断面図。
【図4】本発明の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置の入力部材を説明するために示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態に係るモータ駆動力伝達装置につき、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1は四輪駆動車の概略を示す。図1に示すように、四輪駆動車101は、駆動源をエンジンとする前輪側の動力系、及び駆動源を電動モータとする後輪側の動力系が用いられ、モータ駆動力伝達装置1,エンジン102,トランスアクスル103,一対の前輪104及び一対の後輪105を備えている。
【0020】
モータ駆動力伝達装置1は、四輪駆動車101における後輪側の動力系に配置され、かつ四輪駆動車101の車体(図示せず)に支持されている。
【0021】
そして、モータ駆動力伝達装置1は、電動モータ4(後述)のモータ駆動力を一対の後輪105に伝達し得るように構成されている。これにより、電動モータ4のモータ駆動力が減速伝達機構5及びリヤディファレンシャル3(共に後述)を介してリヤアクスルシャフト106に出力され、一対の後輪105が駆動される。モータ駆動力伝達装置1等の詳細については後述する。
【0022】
エンジン102は、四輪駆動車101における前輪側の動力系に配置されている。これにより、エンジン102の駆動力がトランスアクスル103を介してフロントアクスルシャフト107に出力され、一対の前輪104が駆動される。
【0023】
(モータ駆動力伝達装置1の全体構成)
図2はモータ駆動力伝達装置の全体を示す。図2に示すように、モータ駆動力伝達装置1は、リヤアクスルシャフト106(図1に示す)の軸線を軸線Oとするハウジング2と、モータ駆動力を後輪105(図1に示す)に配分するリヤディファレンシャル3と、リヤディファレンシャル3を作動させるためのモータ駆動力を発生させる電動モータ4と、電動モータ4のモータ駆動力を減速してリヤディファレンシャル3に伝達する減速伝達機構5とから大略構成されている。
【0024】
(ハウジング2の構成)
ハウジング2は、後述する自転力付与部材52の他、リヤディファレンシャル3を収容する第1のハウジングエレメント20、電動モータ4を収容する第2のハウジングエレメント21、及び第2のハウジングエレメント21の片側開口部(第1のハウジングエレメント20側の開口部とは反対側の開口部)を閉塞する第3のハウジングエレメント22を有し、車体に配置されている。
【0025】
第1のハウジングエレメント20は、ハウジング2の一方側(図1の左側)に配置され、全体が第2のハウジングエレメント21側に開口する段状の有底円筒部材によって形成されている。第1のハウジングエレメント20の底部には、リヤアクスルシャフト106(図1に示す)を挿通させるシャフト挿通孔20aが設けられている。第1のハウジングエレメント20の開口端面には、第2のハウジングエレメント21側に突出する円環状の凸部23が一体に設けられている。凸部23の外周面は、第1のハウジングエレメント20の最大外径よりも小さい外径をもち、かつ軸線Oを中心軸線とする円周面で形成されている。第1のハウジングエレメント20の内周面は、リヤアクスルシャフト106の外周面との間にシャフト挿通孔20aを封止するシール部材24が介在して配置されている。
【0026】
第2のハウジングエレメント21は、ハウジング2の軸線方向中間部に配置され、全体が軸線Oの両方向に開口する無底円筒部材によって形成されている。第2のハウジングエレメント21の片側開口部(第1のハウジングエレメント20側の開口部)には、電動モータ4と減速伝達機構5との間に介在する段状の内フランジ21aが一体に設けられている。内フランジ21aの内周面には、レース取付用の円環部材25が取り付けられている。第2のハウジングエレメント21の片側開口端面(第1のハウジングエレメント20側の開口端面)には、第1のハウジングエレメント20側に突出する円環状の凸部27が一体に設けられている。凸部27の外周面は、第2のハウジングエレメント21の最大外径よりも小さく、かつ凸部23の外径と略同一の外径をもち、軸線Oを中心軸線とする円周面で形成されている。
【0027】
第3のハウジングエレメント22は、ハウジング2の他方側に配置され、全体が第2のハウジングエレメント21側に開口する段状の有底円筒部材によって形成されている。第3のハウジングエレメント22の底部には、リヤアクスルシャフト106を挿通させるシャフト挿通孔22aが設けられている。シャフト挿通孔22aの内側開口周縁には、電動モータ4側に突出するステータ取付用の円筒部22bが一体に設けられている。第3のハウジングエレメント22の内周面は、リヤアクスルシャフト106の外周面との間にシャフト挿通孔22aを封止するシール部材28が介在して配置されている。
【0028】
(リヤディファレンシャル3の構成)
リヤディファレンシャル3は、デフケース30,ピニオンギヤシャフト31,一対のピニオンギヤ32及び一対のサイドギヤ33を有するベベルギヤ式の差動機構からなり、モータ駆動力伝達装置1の一方側に配置されている。
【0029】
これにより、デフケース30の回転力がピニオンギヤシャフト31からピニオンギヤ32を介してサイドギヤ33に配分され、さらにリヤアクスルシャフト106(図1に示す)から左右の後輪105(図1に示す)に伝達される。
【0030】
一方、左右の後輪105間に駆動抵抗差が発生すると、デフケース30の回転力がピニオンギヤ32の自転によって左右の後輪105に差動配分される。
【0031】
デフケース30は、軸線O上に配置され、かつ第1のハウジングエレメント20に玉軸受34を介して、また電動モータ4のモータ軸42に玉軸受35を介してそれぞれ回転可能に支持されている。そして、デフケース30は、電動モータ4のモータ駆動力を減速伝達機構5から受けて軸線Oの回りに回転するように構成されている。
【0032】
デフケース30には、差動機構部(ピニオンギヤシャフト31,ピニオンギヤ32及びサイドギヤ33)を収容する収容空間30a、及び収容空間30aに連通して左右のリヤアクスルシャフト106をそれぞれ連結する一対のシャフト挿通孔30bが設けられている。
【0033】
また、デフケース30には、減速伝達機構5に対向する円環状のフランジ30cが一体に設けられている。フランジ30cには、軸線Oの回りに等間隔をもって並列する複数(本実施の形態では6個)のピン取付孔300cが設けられている。
【0034】
ピニオンギヤシャフト31は、デフケース30の収容空間30aで軸線Oに直交する軸線L上に配置され、かつ軸線L回りの回転及び軸線L方向の移動がピン36によって規制されている。
【0035】
一対のピニオンギヤ32は、ピニオンギヤシャフト31に回転可能に支持され、かつデフケース30の収容空間30aに収容されている。
【0036】
一対のサイドギヤ33は、デフケース30の収容空間30aに収容され、かつシャフト挿通孔30bを挿通するリヤアクスルシャフト106(図1に示す)にスプライン嵌合によって連結されている。そして、一対のサイドギヤ33は、そのギヤ軸を一対のピニオンギヤ32のギヤ軸に直交させ、一対のピニオンギヤ32に噛合するように構成されている。
【0037】
(電動モータ4の構成)
電動モータ4は、ステータ40,ロータ41及びモータ軸(回転軸)42を有し、軸線O上でリヤディファレンシャル3に減速伝達機構5を介して連結され、かつステータ40がECU(Electronic Control Unit:図示せず)に接続されている。そして、電動モータ4は、ステータ40がECUから制御信号を入力してディファレンシャル3を作動させるためのモータ駆動力をロータ41との間で発生させ、ロータ41をモータ軸42と共に回転させるように構成されている。
【0038】
ステータ40は、電動モータ4の外周側に配置され、かつ第2のハウジングエレメント21における内フランジ21aに取付ボルト43によって取り付けられている。
【0039】
ロータ41は、電動モータ4の内周側に配置され、かつモータ軸42の外周面に取り付けられている。
【0040】
モータ軸42は、軸線O上に配置され、かつ一方側端部が円環部材25の内周面に玉軸受44及びスリーブ45を介して、また他方側端部が第3のハウジングエレメント22の内周面に玉軸受46を介してそれぞれ回転可能に支持され、全体がリヤアクスルシャフト106(図1に示す)を挿通させる円筒状の軸部材によって形成されている。
【0041】
モータ軸42の一方側端部には、その軸線(軸線O)に偏心量δをもって偏心する軸線Oをもつ平面円形状の偏心部42a、及び軸線Oに偏心量δ(δ=δ=δ)をもって偏心する軸線Oをもつ平面円形状の偏心部42bが一体に設けられている。そして、一方の偏心部42aと他方の偏心部42bとは、軸線Oの回りに等間隔(180°)をもって並列する位置に配置されている。すなわち、一方の偏心部42aと他方の偏心部42bとは、軸線Oから軸線Oまでの距離と軸線Oから軸線Oまでの距離とを等しく、かつ軸線Oと軸線Oとの間の軸線O回りの距離を等しくするようにモータ軸42の外周面に配置されている。また、偏心部42aと偏心部42bとは、軸線Oの方向に沿って並列する位置に配置されている。
【0042】
モータ軸42の他方側端部には、その外周面と円筒部22bの内周面との間に介在する回転角度検出器としてのレゾルバ47が配置されている。レゾルバ47は、ステータ470及びロータ471を有し、第3のハウジングエレメント22内に収容されている。ステータ470は円筒部22bの内周面に、ロータ471はモータ軸42の外周面にそれぞれ取り付けられている。
【0043】
(減速伝達機構5の構成)
図3は減速伝達機構を示す。図4は入力部材を示す。図2,図3及び図4に示すように、減速伝達機構5は、一対の入力部材50・51,自転力付与部材52及び出力部材53を有し、リヤディファレンシャル3と電動モータ4との間に介在して配置されている。そして、減速伝達機構5は、前述したように、電動モータ4のモータ駆動力を減速してリヤディファレンシャル3に伝達するように構成されている。
【0044】
一方の入力部材50は、外側部材500及び内側部材501を有する円環状の外歯歯車からなり、他方の入力部材51のリヤディファレンシャル3側に配置され、かつモータ軸42の偏心部42aに玉軸受54を介して回転可能に支持されている。そして、一方の入力部材50は、電動モータ4からモータ駆動力を受けて偏心量δをもつ矢印m,m方向の円運動(軸線O回りの公転運動)を行うように構成されている。
【0045】
外側部材500は、一方の入力部材50の外周部に配置され、全体が例えば7.0〜8.8g/cmの密度をもつ鋳鉄等の鉄系金属からなる円環部材によって形成されている。これにより、外側部材500が変形し難く、互いに隣り合う2つの外歯間の寸法変化が抑制される。外側部材500の材料としては、鋳鉄に代えて鋳鋼,鋼を用いてもよく、他の鉄系金属を用いてもよい。
【0046】
外側部材500には、インボリュート歯形をもつ複数の外歯500aが軸線Oを中心軸線とする円周(外周面)に沿って設けられている。外歯500aの歯数Zは、例えばZ=195に設定されている。
【0047】
内側部材501は、一方の入力部材50の内周部に配置され、かつ外側部材500の内周面に取り付けられ、全体が例えば1.2〜1.4g/cmの密度をもつ布入りフェノール樹脂等の樹脂からなる円環部材によって形成されている。内側部材501の材料としては、布入りフェノール樹脂に代えて他の樹脂を用いてもよい。
【0048】
内側部材501には、軸線Oを中心軸線とし、かつモータ軸42の偏心部42aとの間に玉軸受54を介在させる中心孔501aが設けられている。また、内側部材501には、軸線O回りに等間隔をもって並列する複数(本実施の形態では6個)のピン挿通孔(貫通孔)501bが設けられている。ピン挿通孔501bの孔径は、出力部材53の外径に針状ころ軸受55(後述)の外径を加えた寸法よりも大きい寸法に設定されている。
【0049】
一方の入力部材50の製造は、例えば鋳造によって円環状の外側部材500を形成するとともに、市販されている布入りフェノール樹脂製のパイプ材を切削等で加工して円環状の内側部材501を形成した後、内側部材501を外側部材500内に圧入することにより行われる。
【0050】
上記布入りフェノール樹脂製のパイプ材を切削等で加工して内側部材501を形成する代わりに、射出成形技術を用いて内側部材501を形成してもよい。成形材料としては、ポリフェニレンサルファイド,ポリアミドイミド,ポリエチレン,ポリアミド,ポリアセタール,ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリカーボネート,ポリエーテルサルフォン,ポリエーテルイミド,ポリエーテルエーテルケトン,熱可塑性ポリイミド,熱硬化性ポリイミド,エポキシ樹脂等が用いられる。
【0051】
これら樹脂を成形材料に用いる場合、ガラス繊維,カーボン繊維,アラミド繊維,チタン酸カリウムウィスカー等の強化繊維を樹脂に含有してもよい。強化繊維の質量は、内側部材501全体の質量に対して10〜50質量%程度であることが好ましい。また、樹脂には、充填剤,滑剤,固体潤滑材等の添加剤を含有してもよい。
【0052】
他方の入力部材51は、外側部材510及び内側部材511を有する円環状の外歯歯車からなり、一方の入力部材50の電動モータ4側に配置され、かつモータ軸42の偏心部42bに玉軸受56を介して回転可能に支持されている。そして、他方の入力部材51は、電動モータ4からモータ駆動力を受けて偏心量δをもつ矢印m,m方向の円運動(軸線O回りの公転運動)を行うように構成されている。
【0053】
外側部材510は、他方の入力部材51の外周部に配置され、全体が例えば7.0〜8.8g/cmの密度をもつ鋳鉄等の鉄系金属からなる円環部材によって形成されている。これにより、外側部材510が変形し難く、互いに隣り合う2つの外歯間の寸法変化が抑制される。外側部材510の材料としては、鋳鉄に代えて鋳鋼,鋼を用いてもよく、他の鉄系金属を用いてもよい。
【0054】
外側部材510には、インボリュート歯形をもつ複数の外歯510aが軸線Oを中心軸線とする円周(外周面)に沿って設けられている。外歯510aの歯数Zは、例えばZ=195に設定されている。
【0055】
内側部材511は、他方の入力部材51の内周部に配置され、かつ外側部材510の内周面に取り付けられ、全体が例えば1.2〜1.4g/cmの密度をもつ布入りフェノール樹脂等の樹脂からなる円環部材によって形成されている。内側部材511の材料としては、布入りフェノール樹脂に代えて他の樹脂を用いてもよい。
【0056】
内側部材511には、軸線Oを中心軸線とし、かつモータ軸42の偏心部42bとの間に玉軸受56を介在させる中心孔511aが設けられている。また、内側部材511には、軸線O回りに等間隔をもって並列する複数(本実施の形態では6個)のピン挿通孔(貫通孔)511bが設けられている。ピン挿通孔511bの孔径は、出力部材53の外径に針状ころ軸受57(後述)の外径を加えた寸法よりも大きい寸法に設定されている。
【0057】
他方の入力部材51の製造は、一方の入力部材50の製造と同様にして行われるため、その説明は省略する。
【0058】
上記したように、入力部材50,51は、機械的強度を必要とする部位(外側部材500,510)を鉄系金属で、また外側部材500,510よりも機械的強度を必要としない部位(内側部材501,511)を樹脂でそれぞれ形成することにより、全体として重量を低減(軽量化)するように構成されている。この場合、入力部材50,51の軽量化を図るためには、外側部材500と内側部材501との境界を入力部材50の中心(軸線O)から、また外側部材510と内側部材511との境界を入力部材51の中心(軸線O)からそれぞれ可能な限り離間する部位に配置することが好ましい。
【0059】
自転力付与部材52は、軸線Oを中心軸線とする内歯歯車からなり、第1のハウジングエレメント20と第2のハウジングエレメント21との間に介在して配置され、全体が軸線Oの両方向に開口してハウジング2の一部を構成する無底円筒部材によって形成されている。そして、自転力付与部材52は、一対の入力部材50,51に噛合し、電動モータ4のモータ回転力を受けて公転する一方の入力部材50に矢印n,n方向の自転力を、また他方の入力部材51に矢印l,l方向の自転力をそれぞれ付与するように構成されている。
【0060】
自転力付与部材52の内周面には、凸部23の外周面に嵌合する第1の嵌合部52a、及び凸部27の外周面に嵌合する第2の嵌合部52bが軸線Oの方向に所定の間隔をもって設けられている。また、自転力付与部材52の内周面には、第1の嵌合部52aと第2の嵌合部52bとの間に介在して一方の入力部材50の外歯500a及び他方の入力部材51の外歯510aに噛合するインボリュート歯形の内歯52cが設けられている。内歯52cの歯数Zは例えばZ=208に設定されている。減速伝達機構5の減速比αはα=(Z−Z)/Zから算出される。
【0061】
出力部材53は、一方側端部にねじ部53aを有するとともに、他方側端部に頭部53bを有する複数(本実施の形態では6個)のボルトからなり、一方の入力部材50のピン挿通孔501b及び他方の入力部材51のピン挿通孔511bを挿通してデフケース30のピン取付孔300cにねじ部53aが取り付けられている。また、出力部材53は、頭部53bと他方の入力部材51との間に介在する円環状のスペーサ58を挿通し、軸線Oの回りに等間隔をもって配置されている。そして、出力部材53は、自転力付与部材52によって付与された自転力を一対の入力部材50,51から受けてデフケース30にその回転力として出力するように構成されている。
【0062】
出力部材53の外周面であって、ねじ部53aと頭部53bとの間に介在する部位には、一方の入力部材50におけるピン挿通孔501bの内周面との間の接触抵抗を低減するための針状ころ軸受55が、また他方の入力部材51におけるピン挿通孔511bとの間の接触抵抗を低減するための針状ころ軸受57がそれぞれ取り付けられている。
【0063】
(モータ駆動力伝達装置1の動作)
次に、本実施の形態に示すモータ駆動力伝達装置の動作につき、図1〜図3を用いて説明する。
【0064】
図2において、モータ駆動力伝達装置1の電動モータ4に電力を供給して電動モータ4を駆動すると、この電動モータ4のモータ駆動力がモータ軸42を介して減速伝達機構5に付与され、減速伝達機構5が作動する。
【0065】
このため、減速伝達機構5において、入力部材50,51が例えば図3に示す矢印m方向に偏心量δをもって円運動を行う。
【0066】
これに伴い、入力部材50が外歯500aを自転力付与部材52の内歯52cに噛合させながら軸線Oの回り(図3に示す矢印n方向)に、また入力部材51が外歯510aを自転力付与部材52の内歯52cに噛合させながら軸線Oの回り(図3に示す矢印l方向)にそれぞれ自転する。この場合、入力部材50の自転によってピン挿通孔501bの内周面が針状ころ軸受55のレース550に、また入力部材51の自転によってピン挿通孔511bの内周面が針状ころ軸受57のレース570にそれぞれ当接する。
【0067】
このため、出力部材53には入力部材50,51の公転運動が伝達されず、入力部材50,51の自転運動のみが伝達され、この自転運動による自転力が出力部材53からデフケース30にその回転力として出力される。
【0068】
これにより、ディファレンシャル3が作動し、電動モータ4のモータ駆動力が図1におけるリヤアクスルシャフト106に配分され、左右の後輪105に伝達される。
【0069】
ここで、モータ駆動力伝達装置1においては、動作に伴い入力部材50,51にその円運動に基づいてそれぞれ遠心力が作用する。
【0070】
この場合、一方の入力部材50がその円運動に基づいて生じる遠心力による荷重を受け、この荷重が一方の入力部材50から玉軸受54に作用するが、一方の入力部材50が鉄系金属で形成された外側部材500、及び外側部材500の材料の密度よりも小さい材料で形成された内側部材501からなるため、一方の入力部材50の重量が入力部材全体を鉄系金属で形成する場合と比べて低減され、玉軸受54に作用する負荷が軽減される。
【0071】
同様に、他方の入力部材51がその円運動に基づいて生じる遠心力による荷重を受け、この荷重が他方の入力部材51から玉軸受56に作用するが、他方の入力部材51が鉄系金属で形成された外側部材510、及び外側部材510の材料の密度よりも小さい材料で形成された内側部材511からなるため、他方の入力部材51の重量が入力部材全体を鉄系金属で形成する場合(従来)と比べて低減され、玉軸受56に作用する負荷が軽減される。
【0072】
従って、本実施の形態においては、一方の入力部材50を回転可能に支持する玉軸受54、及び他方の入力部材51を回転可能に支持する玉軸受56の寿命低下を抑制することができる。
【0073】
なお、上記実施の形態においては、入力部材50,51を矢印m方向に円運動させてモータ回転力伝達装置1を作動させる場合について説明したが、入力部材50,51を矢印m方向に円運動させてもモータ回転力伝達装置1を上記実施の形態と同様に作動させることができる。この場合、入力部材50の自転運動は矢印n方向に、また入力部材51の自転運動は矢印l方向にそれぞれ行われる。
【0074】
[実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0075】
入力部材50,51の重量を低減することができるため、減速伝達機構5の駆動時に軸受54,56に作用する負荷が軽減され、玉軸受54,56の寿命低下を抑制することができる。
【0076】
以上、本発明の減速機構及びこれを備えたモータ駆動力伝達装置を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0077】
(1)上記の実施の形態では、入力部材50,51の内側部材501,511が樹脂で形成されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えばアルミニウム系金属で入力部材の内側部材を形成してもよい。また、内側部材の材料としては、アルミニウム系金属に代え、外側部材の材料よりも密度が小さい他の金属を用いてもよい。すなわち要するに、本発明における内側部材の材料としては、外側部材の材料よりも密度が小さい金属又は樹脂であればよい。
【0078】
(2)上記実施の形態では、軸線Oから軸線Oまでの距離と軸線Oから軸線Oまでの距離とを等しく、かつ軸線Oと軸線Oとの軸線O回りの距離を等しくするように一方の偏心部42aと他方の偏心部42bとがモータ回転軸42の外周囲に配置されているとともに、軸線O回りに互いに等間隔(180°)をもって離間する部位で一対の入力部材50,51が配置されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、入力部材の個数は適宜変更することができる。
【0079】
すなわち、入力部材がn(n≧3)個の場合には、電動モータ(モータ軸)の軸線に直交する仮想面において、第1の偏心部の軸線,第2の偏心部の軸線,…,第nの偏心部の軸線がモータ軸の軸線回りの一方向に順次配置されているものとすると、各偏心部の軸線からモータ軸の軸線までの距離を等しく、かつ第1の偏心部,第2の偏心部,…,第nの偏心部のうち互いに隣り合う2つの偏心部の軸線とモータ軸の軸線とを結ぶ線分でつくる挟角を360°/nとするように各偏心部がモータ軸の外周囲に配置されるとともに、軸線O回りに360°/nの間隔をもって離間する部位でn個の入力部材が配置される。
【0080】
例えば、入力部材が3個の場合には、モータ軸の軸線に直交する仮想面において、第1の偏心部の軸線,第2の偏心部の軸線,第3の偏心部の軸線がモータ軸の軸線回りの一方向に順次配置されているものとすると、各偏心部の軸線からモータ軸の軸線までの距離を等しく、かつ第1の偏心部,第2の偏心部,第3の偏心部のうち互いに隣り合う2つの偏心部の軸線とモータ軸の軸線とを結ぶ線分でつくる挟角を120°とするように各偏心部がモータ軸の外周囲に配置されるとともに、その軸線回りに120°の間隔をもって離間する部位で3個の入力部材が配置される。
【0081】
(3)上記実施の形態では、駆動源としてエンジン102及び電動モータ4を併用した四輪駆動車101に適用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、電動モータのみを駆動源とした四輪駆動車又は二輪駆動車である電気自動車にも適用することができる。また、本発明は、エンジン,電動モータによる第1の駆動軸と電動モータによる第2の駆動軸とを有する四輪駆動車にも上記実施の形態と同様に適用可能である。
【0082】
(4)上記実施の形態では、入力部材50,51の中心孔501a,511aの内周面と偏心部42a,42bの外周面との間にそれぞれ深溝玉軸受である玉軸受54,56を用い、偏心部42a,42bに対して入力部材50,51が回転可能に支持されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、深溝玉軸受に換えて深溝玉軸受以外の玉軸受やころ軸受を用いてもよい。このような玉軸受やころ軸受は、例えばアンギュラ玉軸受,針状ころ軸受,棒状ころ軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,自動調心ころ軸受などが挙げられる。また、本発明は、転がり軸受に代えて滑り軸受を用いてもよい。
【0083】
(5)上記実施の形態では、出力部材53の外周面であって、ねじ部53aと頭部53bとの間に介在する部位には、入力部材50のピン挿通孔501bの内周面に接触可能な針状ころ軸受55が、また入力部材51のピン挿通孔511bの内周面に接触可能な針状ころ軸受57がそれぞれ取り付けられている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、針状ころ軸受に代えて針状ころ軸受以外のころ軸受や玉軸受を用いてもよい。このような玉軸受やころ軸受は、例えば深溝玉軸受,アンギュラ玉軸受,円筒ころ軸受,棒状ころ軸受,円すいころ軸受,自動調心ころ軸受などが挙げられる。また、本発明は、転がり軸受に代えて滑り軸受を用いてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1…モータ駆動力伝達装置、2…ハウジング、20…第1のハウジングエレメント、20a…シャフト挿通孔、21…第2のハウジングエレメント、21a…内フランジ、22…第3のハウジングエレメント、22a…シャフト挿通孔、22b…円筒部、23…凸部、24…シール部材、25…円環部材、27…凸部、28…シール部材、3…リヤディファレンシャル、30…デフケース、30a…収容空間、30b…シャフト挿通孔、30c…フランジ、300c…ピン取付孔、31…ピニオンギヤシャフト、32…ピニオンギヤ、33…サイドギヤ、34,35…玉軸受、36…ピン、4…電動モータ、40…ステータ、41…ロータ、42…モータ軸、42a,42b…偏心部、43…取付ボルト、44…玉軸受、45…スリーブ、46…玉軸受、47…レゾルバ、470…ステータ、471…ロータ、5…減速伝達機構、50…一方の入力部材、500…外側部材、500a…外歯、501…内側部材、501a…中心孔、501b…ピン挿通孔、51…他方の入力部材、510…外側部材、510a…外歯、511…内側部材、511a…中心孔、511b…ピン挿通孔、52…自転力付与部材、52a…第1の嵌合部、52b…第2の嵌合部、52c…内歯、53…出力部材、53a…ねじ部、53b…頭部、54…玉軸受、55…針状ころ軸受、550…レース、56…玉軸受、57…針状ころ軸受、570…レース、58…スペーサ、101…四輪駆動車、102…エンジン、103…トランスアクスル、104…前輪、105…後輪、106…リヤアクスルシャフト、107…フロントアクスルシャフト、L,O,O,O…軸線、δ,δ,δ…偏心量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏心部を有する回転軸と、
前記回転軸の前記偏心部に軸受を介して回転可能に支持され、中心軸線の回りに等間隔をもって並列する複数の貫通孔を有する外歯歯車からなる円環状の入力部材と、
前記入力部材にその歯数よりも大きい歯数をもって噛合する内歯歯車からなる自転力付与部材と、
前記自転力付与部材によって前記入力部材に付与された自転力を受けて出力し、前記複数の貫通孔をそれぞれ挿通する複数の出力部材とを備え、
前記入力部材は、前記外歯歯車の外歯が設けられた鉄系金属製の外側部材、及び前記外側部材の内周面に取り付けられた金属又は樹脂製の内側部材を有し、前記内側部材の材料の密度が前記外側部材の材料の密度よりも小さい
減速機構。
【請求項2】
前記入力部材は、前記内側部材がアルミニウム系金属で形成されている請求項1に記載の減速機構。
【請求項3】
前記入力部材は、前記内側部材が前記複数の貫通孔を有する請求項1又は2に記載の減速機構。
【請求項4】
モータ駆動力を発生させる電動モータと、
前記電動モータの前記モータ駆動力を減速して駆動力伝達対象に伝達する減速伝達機構とを備えたモータ駆動力伝達装置において、
前記減速伝達機構は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の減速機構であるモータ駆動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−108538(P2013−108538A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252499(P2011−252499)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】