説明

渦流探傷方法及び装置

【課題】検出コイル間の差動信号の校正作業の手間を軽減することにより、高能率で探傷可能な渦流探傷方法及び装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る渦流探傷装置100は、長手方向に直線状に配列された偶数個の検出コイル11からなる検出コイル列が、短手方向に隣接する検出コイルの端部同士が短手方向から見て互いに重なり合うように、短手方向に2列配列されて構成される検出コイル群1と、検出コイル群における長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号と、短手方向に隣接する検出コイル間の差動信号とを切り替えて出力する切り替え手段21と、切り替え手段によって出力された差動信号の検出感度及び位相を調整する調整手段23、25と、検出コイル群を被探傷材Pの軸方向及び周方向に相対移動させる移動手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管、丸ビレット、丸棒など、断面略円形の被探傷材に存在する欠陥を検出する渦流探傷方法及び装置に関する。特に、本発明は、検出コイル間の差動信号についての校正作業の手間を軽減することにより、高能率で探傷可能な渦流探傷方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
管、丸ビレット、丸棒などの表面に存在する欠陥を検出する方法として、従来より渦流探傷方法が用いられている。
【0003】
渦流探傷方法に用いられるプローブコイルとしては、いわゆる自己比較方式のプローブコイルと、いわゆる標準比較方式のプローブコイルとが知られている。自己比較方式のプローブコイルは、少なくとも1対の検出コイル(被探傷材に誘起された渦電流を検出するコイル)を具備し、被探傷材に対向配置された各検出コイルでの検出信号の差(各検出コイル間の差動信号)を出力するように構成されている。標準比較方式のプローブコイルは、少なくとも1対の検出コイルを具備し、一方の検出コイルを被探傷材に対向配置し、他方の検出コイルを標準となるものに対向配置して各検出コイルでの検出信号の差を出力するように構成されている。自己比較方式のプローブコイルを用いれば、標準比較方式のプローブコイルを用いる場合に比べて、プローブコイルの相対移動に伴う被探傷材とプローブコイルとのリフトオフ変動等に起因したノイズ信号が抑制され、S/N比が大きくなるため、微小な欠陥を検出できるという利点がある。このため、渦流探傷方法には、自己比較方式のプローブコイルが広く用いられている。
【0004】
自己比較方式のプローブコイルを用いた渦流探傷技術としては、例えば、特許文献1〜4に記載の技術が提案されている。
【0005】
特許文献1には、被検査材の軸方向に沿って並設され、それぞれが被検査材の軸方向の磁力線を生じるように励磁される1対のコイルから構成され、該1対のコイルに誘導する電圧差に基づいて被検査材を探傷する渦流探傷センサが開示されている。この渦流探傷センサは、自己比較方式のプローブコイルに相当する。そして、この渦流探傷センサを被検査材の軸方向に螺旋状に相対移動させることによって被検査材は探傷される。また、特許文献1には、未探傷領域が生じないように、複数の渦流探傷センサを被検査材の軸方向に千鳥状に2列に配置する構成が開示されている。
【0006】
特許文献2には、円筒形高透磁率磁芯材料の表面に巻いた励磁巻線の表面に、その円周方向全域にわたり複数個の偏平な検出コイルを千鳥状に配置し、外部を保持体で覆った渦流探傷用内挿型プローブが開示されている。各検出コイルは、未探傷領域が生じないように、内挿型プローブの軸方向から見てラップする部分を有する。そして、この内挿型プローブを管内面に挿入し、管軸方向に移動させて、隣接する1対の検出コイル間の差動信号により管内面が探傷される。この1対の検出コイルが、自己比較方式のプローブコイルに相当する。
【0007】
特許文献3には、断面円形の被検査材の表面に対して垂直磁場を形成するセンサコイルを、被検査材の軸心を中心とする同心円上に多数配設し(具体的には、千鳥状に2列に配列し)、相隣するセンサコイルを1対として順次通電すると共に、センサコイルを被検査材の軸長方向へ相対移動させる渦流探傷装置が開示されている。このセンサコイルを被検査材の軸長へ相対移動させて、隣接する1対のセンサコイル間の差動信号により被検査材が探傷される。この1対のセンサコイルが、自己比較方式のプローブコイルに相当する。
【0008】
特許文献4には、円柱状ボビンの外周に、コイル長が70mm以下に巻装した1対の検出コイルの端部がボビンの軸方向から見て重複するように、検出コイルを複数対千鳥状に配置した内挿プローブを用いて、内管内壁全面を探傷する二重管の内挿渦流探傷方法が開示されている。この内挿プローブを管軸方向に移動させて、1対の検出コイル間の差動信号により二重管が探傷される。この1対の検出コイルが、自己比較方式のプローブコイルに相当する。
【特許文献1】特開昭63−65361号公報
【特許文献2】特開昭61−198055号公報
【特許文献3】特開平2−212761号公報
【特許文献4】特開平6−249836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の技術は、被探傷材の軸方向に千鳥状に2列に配置した複数の検出コイルを被探傷材の軸方向に螺旋状に相対移動させることにより、1回の走査(相対移動)で未探傷領域を生じさせることなく被探傷材を探傷可能としている。また、特許文献2〜4に記載の技術は、被探傷材の周方向に千鳥状に2列に配置した複数の検出コイルを被探傷材の軸方向に相対移動させることにより、1回の走査(相対移動)で未探傷領域を生じさせることなく被探傷材を探傷可能としている。
【0010】
特許文献1〜4の何れの技術についても、複数の検出コイルを千鳥状に配置することによって探傷領域を広げている点で、探傷能率は向上するといえる。しかしながら、従来、検出コイル間の差動信号の検出感度及び位相の校正は、差動信号を得る1対の検出コイル毎に行っているため、検出コイルの数が増えれば増えるほど、校正作業に手間を要する。従って、探傷精度を高めるために、検出コイル間の差動信号についての校正作業の頻度を高めると、その分だけ、探傷能率が低下するという問題がある。
【0011】
本発明は、斯かる従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、断面略円形の被探傷材に存在する欠陥を検出する渦流探傷方法及び装置であって、検出コイル間の差動信号の校正作業の手間を軽減することにより、高能率で探傷可能な渦流探傷方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、長手方向に直線状に配列された偶数個の検出コイルからなる検出コイル列が、短手方向に隣接する検出コイルの端部同士が短手方向から見て互いに重なり合うように、短手方向に2列配列されて構成される検出コイル群を、各検出コイルの長手方向が断面略円形の被探傷材の軸方向に沿うように該被探傷材に対向配置して、該被探傷材に存在する欠陥を検出する渦流探傷方法であって、以下の各ステップを含むことを特徴とする渦流探傷方法を提供する。
(1)校正ステップ:校正用の被探傷材に、該校正用被探傷材の軸方向に延びる人工きずであって、前記検出コイル群を構成する長手方向及び短手方向に隣接する2対の検出コイルの長さ以上に延びる人工きずを設け、前記検出コイル群を前記人工きずに対向配置して、前記校正用被探傷材の周方向に前記検出コイル群を相対移動させることにより、短手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の検出感度及び位相を校正する。
(2)調整ステップ:前記検出コイル群を用いて得られる検出対象欠陥についての長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の最大振幅及び位相と、前記校正ステップで用いる人工きずについての短手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の最大振幅及び位相との予め取得した関係に基づき、長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の検出感度及び位相を調整する。
(3)探傷ステップ:前記調整ステップで調整した後の前記検出コイル群を被探傷材に対向配置し、前記検出コイル群を被探傷材の軸方向に螺旋状に相対移動させて、長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号に基づき、前記被探傷材に存在する欠陥を検出する。
【0013】
本発明で用いる検出コイル群は、長手方向に直線状に配列された偶数個の検出コイルからなる検出コイル列が、短手方向に隣接する検出コイルの端部同士が短手方向から見て互いに重なり合うように、短手方向に2列配列されて構成される。そして、この検出コイル群が、各検出コイルの長手方向が断面略円形の被探傷材の軸方向に沿うように該被探傷材に対向配置され、被探傷材に存在する欠陥が検出される。換言すれば、本発明で用いる検出コイル群は、被探傷材に対向配置された状態で、被探傷材の軸方向に千鳥状に2列(被探傷材の周方向に2列)に配置した複数の検出コイルを備え、被探傷材の周方向に隣接する検出コイルの端部同士が被探傷材の周方向から見て互いに重なり合うように構成されている。そして、本発明の探傷ステップにおいて、検出コイル群を被探傷材に対向配置し、検出コイル群を被探傷材の軸方向に螺旋状に相対移動させて、長手方向(被探傷材の軸方向)に隣接する検出コイル間の差動信号に基づき、被探傷材に存在する欠陥を検出するため、1回の走査(相対移動)で未探傷領域を生じさせることなく被探傷材を探傷可能である。
【0014】
そして、本発明の校正ステップでは、校正用の被探傷材に、検出コイル群を構成する長手方向(被探傷材の軸方向)及び短手方向(被探傷材の周方向)に隣接する2対の検出コイルの長さ以上に延びる人工きずを設け、検出コイル群を人工きずに対向配置して、校正用被探傷材の周方向に検出コイル群を相対移動させることにより、短手方向(被探傷材の周方向)に隣接する検出コイル間の差動信号の検出感度及び位相が校正される。換言すれば、人工きずを探傷する際に得られる短手方向(被探傷材の周方向)に隣接する検出コイル間の差動信号(きず信号)の最大振幅が予め決めた所定値となるように、差動信号の検出感度(差動信号の増幅率)が調整される。また、人工きず以外の部位を探傷する際に得られる短手方向(被探傷材の周方向)に隣接する検出コイル間の差動信号(リフトオフ変動等に起因したノイズ信号)の位相と、上記きず信号の位相とを弁別し易いように、差動信号の位相が調整される。本発明の校正ステップによれば、校正用被探傷材の周方向に検出コイル群を相対移動させることにより、短手方向(被探傷材の周方向)に隣接する検出コイル間の差動信号の検出感度及び位相を、少なくとも2対の検出コイル分だけ同時に校正できるため、従来のように1対の検出コイル毎に校正する場合に比べて、校正作業の手間を軽減することができ、探傷能率を高めることが可能である。なお、人工きずの長さが、検出コイル群を構成する長手方向(被探傷材の軸方向)及び短手方向(被探傷材の周方向)に隣接する2対の検出コイルの長さと同等であり、且つ、検出コイル群が、長手方向(被探傷材の軸方向)及び短手方向(被探傷材の周方向)に隣接する4対以上の検出コイルを備える場合には、いずれか隣接する2対の検出コイルを人工きずに対向配置して校正した後、検出コイル群を校正用被探傷材の軸方向に相対移動させ、残りの隣接する2対の検出コイルを人工きずに対向配置して校正を行えばよい。
【0015】
ただし、上記の校正ステップでは、短手方向(被探傷材の周方向)に隣接する検出コイル間の差動信号について校正しており、探傷ステップで実際に探傷する際に用いる長手方向(被探傷材の軸方向)に隣接する検出コイル間の差動信号について校正するものではない。このため、本発明では、前記検出コイル群を用いて得られる検出対象欠陥(例えば、被探傷材の表面が窪んだピット状きずや貫通きずなどの微小きず)についての長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の最大振幅及び位相と、校正ステップで用いる人工きずについての短手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の最大振幅及び位相との関係を予め取得しておく。そして、本発明の調整ステップにおいて、この予め取得した関係に基づき、長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の検出感度及び位相を調整する。これにより、校正ステップにおいて、短手方向(被探傷材の周方向)に隣接する検出コイル間の差動信号の検出感度及び位相を校正しさえすれば、前記予め取得した関係に基づき、長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の検出感度及び位相を容易に調整可能である。なお、検出対象欠陥が微小きずである場合、この微小きずについての長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の振幅は、微小きずがいずれか一方の検出コイルの中心に対向する位置にあるときに最大となる。このため、微小きずについての長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の最大振幅を得るには、被探傷材の軸方向についての検出コイル群の相対位置を微妙に調整する必要が生じ、手間を要する。しかしながら、微小きずについての長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の最大振幅及び位相と、校正ステップで用いる人工きずについての短手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の最大振幅及び位相との関係が変化しないとすれば、この関係を取得するために、微小きずについての長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の最大振幅を一度だけ取得すればよい。すなわち、微小きずについての長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の最大振幅を取得し、この最大振幅及び位相と、校正ステップで用いる人工きずについての短手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の最大振幅及び位相との関係を取得した後は、人工きずを用いて短手方向(被探傷材の周方向)に隣接する検出コイル間の差動信号についてのみ校正すればよいため、校正作業の手間を軽減することができ、探傷能率を高めることが可能である。
【0016】
以上のように、本発明に係る方法によれば、検出コイル間の差動信号の校正作業の手間が軽減され、探傷効率を高めることが可能である。なお、本発明における「長手方向」及び「短手方向」とは、それぞれ検出コイル群を構成する各検出コイルの長手方向及び短手方向を意味する。また、本発明における「長手方向及び短手方向に隣接する2対の検出コイルの長さ」とは、長手方向及び短手方向に隣接する2対の検出コイルの長手方向の総長さを意味する。
【0017】
好ましくは、前記人工きずは、前記検出コイル群の長さ以上に前記校正用被探傷材の軸方向に延びるものとされる。
【0018】
斯かる好ましい方法によれば、検出コイル群を人工きずに対向配置して、校正用被探傷材の周方向に検出コイル群を一回相対移動させるだけで、全ての検出コイル間の差動信号について校正することが可能である。すなわち、校正ステップを実行する際に、検出コイル群を校正用被探傷材の軸方向に相対移動させる必要が無いため、校正作業の手間がより一層軽減され、より一層探傷効率を高めることが可能である。なお、本発明における「検出コイル群の長さ」とは、検出コイル群を構成する全ての検出コイルの長手方向の総長さを意味する。
【0019】
また、前記課題を解決するため、本発明は、長手方向に直線状に配列された偶数個の検出コイルからなる検出コイル列が、短手方向に隣接する検出コイルの端部同士が短手方向から見て互いに重なり合うように、短手方向に2列配列されて構成される検出コイル群であって、各検出コイルの長手方向が断面略円形の被探傷材の軸方向に沿うように該被探傷材に対向配置された検出コイル群と、前記検出コイル群における長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号と、短手方向に隣接する検出コイル間の差動信号とを切り替えて出力する切り替え手段と、前記切り替え手段によって出力された差動信号の検出感度及び位相を調整する調整手段と、前記検出コイル群を被探傷材の軸方向及び周方向に相対移動させる移動手段とを備えることを特徴とする渦流探傷装置としても提供される。
【0020】
本発明に係る装置によれば、切り替え手段によって短手方向に隣接する検出コイル間の差動信号を出力し、移動手段によって検出コイル群を被探傷材の周方向に相対移動させながら、調整手段によって短手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の検出感度及び位相を調整することにより、前述した本発明に係る方法の校正ステップを実行することが可能である。また、切り替え手段によって長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号を出力し、調整手段によって長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の検出感度及び位相を調整することにより、前述した本発明に係る方法の調整ステップを実行することが可能である。さらに、切り替え手段によって長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号を出力し、移動手段によって検出コイル群を被探傷材の軸方向及び周方向に同時に(すなわち、螺旋状に)相対移動させることにより、前述した本発明に係る方法の探傷ステップを実行することが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、検出コイル間の差動信号についての校正作業の手間を軽減することにより、管、丸ビレット、丸棒など、断面略円形の被探傷材に存在する欠陥を高能率で探傷可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態について、被探傷材が管である場合を例に挙げて説明する。
【0023】
<1.渦流探傷装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る渦流探傷装置の概略構成を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態に係る渦流探傷装置100は、検出コイル群1と、信号処理部2とを備えている。また、渦流探傷装置100は、検出コイル群1を管Pの軸方向及び周方向に相対移動させる移動手段(図示せず)を備える。
【0024】
検出コイル群1は、長手方向(図1のX方向)に直線状に配列された偶数個(本実施形態では4つ)の検出コイル11からなる検出コイル列が、短手方向に2列配列されて構成されている。具体的には、検出コイル11a、11c、11e、11gからなる検出コイル列と、検出コイル11b、11d、11f、11hからなる検出コイル列とが、短手方向(図1のY方向)に配列されている。そして、これらの検出コイル列は、短手方向に隣接する検出コイル11の端部同士が短手方向から見て互いに重なり合うように配列されている。この検出コイル群1は、各検出コイル11の長手方向が管Pの軸方向に沿うように管Pの外面に対向配置されている。なお、未探傷領域を生じさせることなく管Pを探傷するため、検出コイル11の長手方向の配列ピッチ(例えば、検出コイル11aの中心と検出コイル11bの中心との長手方向の離間距離)は、検出コイル11で欠陥の検出が可能な有効長さLE以下とされる。換言すれば、検出コイル11は、その配列ピッチが有効長さLE以下となるように、端部同士が短手方向から見て互いに重なり合うように配列されている。
【0025】
本実施形態に係る検出コイル11は、周縁に導線が巻回されており、管Pに誘起された渦電流によって生じる管Pの外面に垂直な方向の交流磁界の変化を検出すると共に、管Pの外面に垂直な方向に交流磁界を作用させて渦電流を誘起する励磁コイルの機能を兼ねた、いわゆる自己誘導型コイルとされている。
【0026】
ここで、検出コイル11の寸法が小さいほど、ピット状きずや貫通きずなどの微小きずを検出し易いため、これら微小きずの検出能を高めるには、検出コイル11の寸法を小さくすることが好ましい。一方、後述のように、検出コイル11を管Pの軸方向に螺旋状に相対移動させて探傷するに際し、管Pの周方向1回転当たりの各検出コイル11の探傷幅(管Pの探傷領域の軸方向寸法)を広くする方が、探傷能率は向上する。このため、検出対象欠陥が微小きずである場合には、検出コイル11として、長手方向(管Pの軸方向)の寸法と短手方向(管Pの周方向)の寸法との比が比較的大きな細長形状の検出コイルを用いることが好ましい。例えば、検出対象欠陥が内径2mmのピット状きずである場合には、検出コイル11の短手方向の寸法(具体的には、欠陥の検出が可能な有効幅WE)は、好ましくは2mm以下、より好ましくは1mm以下とされる。また、検出コイル11の長手方向の寸法(欠陥の検出が可能な有効長さLE)は、好ましくは4mm以上とされる。
【0027】
本実施形態に係る信号処理部2は、切り替え手段21(21a〜21d)と、発信器22と、増幅器23(23a〜23d)と、同期検波器24(24a〜24d)と、位相回転器25(25a〜25d)と、バンドパスフィルタ26(26a〜26d)と、A/D変換器27(27a〜27d)と、検出部28(27a〜27d)とを備える。なお、本実施形態の増幅器23及び位相回転器25が、本発明における「切り替え手段によって出力された差動信号の検出感度及び位相を調整する調整手段」に相当する。
【0028】
発信器22は、各検出コイル11に所定周波数の交流電流を供給する。これにより、前述のように、各検出コイル11から管Pの外面に垂直な方向に作用する交流磁界が生じ、管Pに渦電流が誘起される。そして、管Pに誘起された渦電流によって生じる管Pの外面に垂直な方向の交流磁界の変化が各検出コイル11で検出され、検出信号として出力される。
【0029】
切り替え手段21は、検出コイル群1における長手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号と、短手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号とを切り替えて出力する機能を有する。本実施形態では、検出コイル群1が8つの検出コイル11a〜11hからなることに応じて、4つの切り替え手段21a〜21dが設けられている。具体的には、切り替え手段21aには、検出コイル11a、11b、11cでの検出信号がそれぞれ入力される。そして、切り替え手段21aは、長手方向に隣接する検出コイル11a、11cでの検出信号の差を差動信号として出力するか、或いは、短手方向に隣接する検出コイル11a、11bでの検出信号の差を差動信号として出力するかを切り替える。
【0030】
同様にして、切り替え手段21bには、検出コイル11b、11c、11dでの検出信号がそれぞれ入力される。そして、切り替え手段21bは、長手方向に隣接する検出コイル11b、11dでの検出信号の差を差動信号として出力するか、或いは、短手方向に隣接する検出コイル11c、11dでの検出信号の差を差動信号として出力するかを切り替える。切り替え手段21cには、検出コイル11e、11f、11gでの検出信号がそれぞれ入力される。そして、切り替え手段21cは、長手方向に隣接する検出コイル11e、11gでの検出信号の差を差動信号として出力するか、或いは、短手方向に隣接する検出コイル11e、11fでの検出信号の差を差動信号として出力するかを切り替える。切り替え手段21dには、検出コイル11f、11g、11hでの検出信号がそれぞれ入力される。そして、切り替え手段21dは、長手方向に隣接する検出コイル11f、11hでの検出信号の差を差動信号として出力するか、或いは、短手方向に隣接する検出コイル11g、11hでの検出信号の差を差動信号として出力するかを切り替える。
【0031】
なお、切り替え手段21としては、切り替え回路等を具備し、適宜の制御信号に基づいて、切り替え回路が、出力する差動信号を自動的に切り替える構成の他、押しボタンスイッチ等を押すことにより、電気的接続を機械的に切り替え、出力する差動信号を手動で切り替える構成を採用することも可能である。
【0032】
増幅器23は、切り替え手段21から出力された差動信号を増幅した後、同期検波器24に出力する。本実施形態では、4つの切り替え手段21a〜21dが設けられていることに応じて、4つの増幅器23a〜23dが設けられている。
【0033】
同期検波器24は、発振器22から出力される参照信号に基づき、増幅器23の出力信号を同期検波する。本実施形態では、4つの増幅器23a〜23dが設けられていることに応じて、4つの同期検波器24a〜24dが設けられている。具体的に説明すれば、発振器22から各同期検波器24a〜24dに向けて、各検出コイル11に供給する交流電流と同一の周波数で同一の位相を有する第1参照信号と、該第1参照信号の位相を90°だけ移相した第2参照信号とが出力される。そして、同期検波器24a〜24dは、増幅器23a〜23dの出力信号から、第1参照信号の位相と同位相の信号成分(第1信号成分)及び第2参照信号の位相と同位相の信号成分(第2信号成分)を分離・抽出する。分離・抽出された第1信号成分及び第2信号成分は、それぞれ位相回転器25に出力される。
【0034】
位相回転器25は、同期検波器24から出力された第1信号成分及び第2信号成分の位相を互いに同一の所定量だけ回転(移相)し、例えば、第1信号成分をX信号、第2信号成分をY信号として、バンドパスフィルタ26に出力する。本実施形態では、4つの同期検波器24a〜24dが設けられていることに応じて、4つの位相回転器25a〜25dが設けられている。なお、位相回転器25から出力されるX信号及びY信号は、互いに直交する2軸(X軸、Y軸)で表されるX−Yベクトル平面においていわゆるリサージュ波形と称される信号波形(すなわち、振幅をZ、位相をθとして極座標(Z、θ)で表した検出コイル11間の差動信号波形(正確には、増幅器23によって増幅した後の差動信号波形))を、X軸及びY軸にそれぞれ投影した成分に相当することになる。
【0035】
バンドパスフィルタ26は、位相回転器25から出力されたX信号及びY信号から所定の帯域の周波数成分のみを透過させて、A/D変換器27に出力する。本実施形態では、4つの位相回転器25a〜25dが設けられていることに応じて、4つのバンドパスフィルタ26a〜26dが設けられている。
【0036】
A/D変換器27は、バンドパスフィルタ26の出力信号をA/D変換し、検出部28に出力する。本実施形態では、4つのバンドパスフィルタ26a〜26dが設けられていることに応じて、4つのA/D変換器27a〜27dが設けられている。
【0037】
検出部28は、A/D変換器27の出力データ(すなわち、バンドパスフィルタ26によって所定の周波数成分のみが透過されたX信号及びY信号をA/D変換したデジタルデータ。以下、X信号データ及びY信号データという)に基づいて、管Pに存在する欠陥を検出する。具体的に説明すれば、検出部28は、入力されたX信号データ及びY信号データに基づき、検出コイル11間の差動信号(正確には、増幅器23によって増幅し、バンドパスフィルタ26によって所定の帯域の周波数成分のみを透過させた後の差動信号)の振幅Z及び位相θを演算する。X信号データの値をX、Y信号データの値をYとすると、振幅Z及び位相θは、下記の式(1)及び(2)によって演算される。
Z=(X+Y1/2 ・・・ (1)
θ=tan−1(Y/X) ・・・ (2)
【0038】
次に、検出部28は、前記演算した振幅Zが予め定めたしきい値よりも大きいか否かを判定する。振幅Zが予め定めたしきい値以下である場合、検出部28は、この振幅Zを有する差動信号は欠陥での差動信号ではないと判定する。一方、振幅Zが予め定めたしきい値よりも大きい場合には、検出部28は、この振幅Zを有する差動信号は欠陥での差動信号であると判定し、必要に応じて、欠陥を検出したことを知らせる所定のアラームを出力する。
【0039】
なお、本実施形態では、検出部28が振幅Zの大小によって欠陥の有無を判定する構成について説明したが、これに限るものではなく、検出部28が、X信号データの値あるいはY信号データの値の何れかの大小によって欠陥の有無を判定する構成を採用することも可能である。
【0040】
検出コイル群1を管Pの軸方向及び周方向に相対移動させる移動手段(図示せず)としては、例えば、管Pを載置して周方向に回転させるローラと、管Pを載置して軸方向に搬送するローラとを組み合わせた構成を挙げることができる。また、前記移動手段としては、管Pを載置して周方向に回転させるローラと、検出コイル群1を管Pの軸方向に移動させる一軸駆動機構とを組み合わせた構成を挙げることもできる。
【0041】
<2.渦流探傷方法の説明>
以下、上述した構成を有する渦流探傷装置100を用いた本発明の一実施形態に係る渦流探傷方法について説明する。本実施形態に係る渦流探傷方法は、校正ステップと、調整ステップと、探傷ステップとを含む。以下、各ステップについて順次説明する。
【0042】
<2−1.校正ステップ>
図2に示すように、校正ステップでは、校正用の管P1(実際に探傷を行って製品として出荷される管Pと寸法や材質が同じである管)に、該校正用管P1の軸方向に延びる人工きずであって、検出コイル群11を構成する長手方向及び短手方向に隣接する2対の検出コイル11の長さL2以上に延びる人工きずN(例えば、長尺のノッチきず)を設ける。図2に示す例では、好ましい態様として、検出コイル群1の長さL1以上に延びる人工きずNを設けている。なお、人工きずNの幅(校正用管P1の周方向についての寸法)は、好ましくは、検出コイル11の有効幅WE(図1参照)以下とされる。
【0043】
そして、本ステップでは、検出コイル群1を人工きずNに対向配置して、移動手段(図示せず)により校正用管P1の周方向に検出コイル群1を相対移動させることにより、短手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の検出感度及び位相を校正する。以下、これについて具体的に説明する。
【0044】
まず、図1に示す切り替え手段21を動作させ、切り替え手段21が、短手方向に隣接する検出コイル11での検出信号の差を差動信号として出力する状態にする。具体的には、切り替え手段21aが、短手方向に隣接する検出コイル11a、11bでの検出信号の差を差動信号として出力し、切り替え手段21bが、短手方向に隣接する検出コイル11c、11dでの検出信号の差を差動信号として出力し、切り替え手段21cが、短手方向に隣接する検出コイル11e、11fでの検出信号の差を差動信号として出力し、切り替え手段21dが、短手方向に隣接する検出コイル11g、11hでの検出信号の差を差動信号として出力する状態にする。
【0045】
次に、人工きずNに対向配置した検出コイル群1の各検出コイル11に発信器22から交流電流を供給し、検出コイル群1を校正用管P1の周方向に相対移動させて探傷する。これにより、各検出コイル11から各検出コイル11に対向する校正用管P1の部位についての検出信号が出力される。そして、各切り替え手段21から短手方向に隣接する検出コイル11での検出信号の差が差動信号として出力される。人工きずNを探傷する際に各切り替え手段21から出力される差動信号(きず信号)は、人工きずNが一方の検出コイル列(検出コイル11a、11c、11e、11g)の短手方向中央に対向する位置にあるとき、或いは、人工きずNが他方の検出コイル列(検出コイル11b、11d、11f、11h)の短手方向中央に対向する位置にあるときに、その振幅が最大となる。そして、このきず信号の最大振幅が増幅後に予め決めた所定値となるように、各増幅器23の増幅率を調整する。具体的には、各検出部28で演算されるきず信号の最大振幅Zが予め決めた所定値となるように、各増幅器23の増幅率を調整する。以上のようにして、短手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の検出感度を校正する。
【0046】
また、校正用管P1の人工きずN以外の部位を探傷する際、すなわち、いずれの検出コイル列に対向する位置にも人工きずNがない場合に各切り替え手段21から出力される差動信号(リフトオフ変動等に起因したノイズ信号)の位相と、上記きず信号の位相とを弁別し易いように、差動信号の位相を調整する。具体的には、各検出部28で演算されるきず信号の位相θが予め決めた所定値となるように、各位相回転器25における位相の回転量(移相量)を調整する。以上のようにして、短手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の位相を校正する。
【0047】
図4(a)は、以上に説明した校正ステップによって、短手方向に隣接する一対の検出コイル11間の差動信号の検出感度及び位相を校正する際に得られる信号波形(リサージュ波形、X信号波形、Y信号波形)の一例を示す。なお、図4(a)に示す例では、校正用管P1として、外径160mm、肉厚7mm、長さ300mmのステンレス鋼管(SUS304)を用いた。また、この校正用管P1に、人工きずNとして、幅0.5mm、深さ0.5mm、長さ100mmのノッチきずを設けた。そして、有効幅WEが1mm、有効長さLEが4mmの検出コイル11からなる検出コイル群11をリフトオフ2mmで校正用管P1の外面に対向配置し、校正用管P1を周方向に30m/minで回転させることにより、校正用管P1の周方向に検出コイル群1を相対移動させた。なお、発信器22から供給する交流電流の周波数は130kHzとし、バンドパスフィルタ26の透過周波数帯域は20〜400Hzとした。
【0048】
図4(a)に示す例では、きず信号の最大振幅Zが50dB(100%)となるように、増幅器23の増幅率を調整すると共に、きず信号の位相θが0°となるように、位相回転器25における位相の回転量(移相量)を調整している。
【0049】
<2−2.調整ステップ>
前述した校正ステップを実行した後、調整ステップを実行する。調整ステップを実行するに際しては、検出コイル群1を用いて得られる検出対象欠陥(例えば、被探傷材の表面が窪んだピット状きずや貫通きずなどの微小きず)についての長手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の最大振幅及び位相と、前述した校正ステップで用いる人工きずNについての短手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の最大振幅及び位相との関係を予め取得しておく。
【0050】
上記の関係を取得する際には、図3に示すように、管Pに検出対象欠陥D(人工きず又は自然きず)を設け、検出コイル群1をこの管Pに対向配置する。次に、検出対象欠陥Dが、長手方向に隣接する検出コイル11のうち何れか一方の検出コイル11(図3に示す例では、検出コイル11a)の長手方向中央に対向する位置となるように、移動手段によって検出コイル群1を相対移動させる。そして、移動手段により管Pの周方向に検出コイル群1を相対移動させることにより、検出対象欠陥Dについての長手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の最大振幅及び位相を取得する。以下、より具体的に説明する。
【0051】
まず、図1に示す切り替え手段21を動作させ、切り替え手段21が、長手方向に隣接する検出コイル11での検出信号の差を差動信号として出力する状態にする。具体的には、切り替え手段21aが、長手方向に隣接する検出コイル11a、11cでの検出信号の差を差動信号として出力し、切り替え手段21bが、長手方向に隣接する検出コイル11b、11dでの検出信号の差を差動信号として出力し、切り替え手段21cが、長手方向に隣接する検出コイル11e、11gでの検出信号の差を差動信号として出力し、切り替え手段21dが、長手方向に隣接する検出コイル11f、11hでの検出信号の差を差動信号として出力する状態にする。
【0052】
次に、検出対象欠陥Dを長手方向に隣接する検出コイル11a、11cのうち何れか一方の検出コイルの長手方向中央に対向する位置とした状態で、管Pに対向配置した検出コイル群1の各検出コイル11に発信器22から交流電流を供給し、検出コイル群1を管Pの周方向に相対移動させて探傷する。これにより、切り替え手段21aから長手方向に隣接する検出コイル11a、11cでの検出信号の差が差動信号として出力される。検出対象欠陥Dを探傷する際に切り替え手段21aから出力される差動信号(きず信号)は、検出対象欠陥Dが検出コイル11a、11cのうち何れか一方の検出コイルの中心に対向する位置にあるときに、その振幅が最大となる。そして、このきず信号の最大振幅及び位相を取得する。具体的には、検出部28aで演算されるきず信号の最大振幅Z及び位相θを取得する。
【0053】
同様にして、検出対象欠陥Dを長手方向に隣接する検出コイル11b、11dのうち何れか一方の検出コイルの長手方向中央に対向する位置とした状態で、検出コイル群1を管Pの周方向に相対移動させて探傷し、検出部28bで演算されるきず信号の最大振幅Z及び位相θを取得する。また、検出対象欠陥Dを長手方向に隣接する検出コイル11e、11gのうち何れか一方の検出コイルの長手方向中央に対向する位置とした状態で、検出コイル群1を管Pの周方向に相対移動させて探傷し、検出部28cで演算されるきず信号の最大振幅Z及び位相θを取得する。さらに、検出対象欠陥Dを長手方向に隣接する検出コイル11f、11hのうち何れか一方の検出コイルの長手方向中央に対向する位置とした状態で、検出コイル群1を管Pの周方向に相対移動させて探傷し、検出部28dで演算されるきず信号の最大振幅Z及び位相θを取得する。
【0054】
以上のようにして、検出対象欠陥Dについての長手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の最大振幅及び位相を取得する。なお、検出対象欠陥Dについての長手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の最大振幅及び位相を取得するに際しては、切り替え手段21によって出力する差動信号を切り替える点を除き、増幅器23の増幅率や位相回転器25における位相の回転量(移相量)などは前述した校正ステップで調整した後の条件と同一の条件として探傷を行う。
【0055】
図4(b)、(c)は、以上に説明した検出対象欠陥Dについての長手方向に隣接する一対の検出コイル11間の差動信号の最大振幅及び位相を取得する際に得られる信号波形(リサージュ波形、X信号波形、Y信号波形)の一例を示す。なお、図4(b)に示す例では、検出対象欠陥Dとして、内径2.6mmの貫通きずを設けた。また、図4(c)に示す例では、検出対象欠陥Dとして、内径5mm、深さ0.5mmのピット状きずを設けた。その他の条件については、図4(a)に示す例と同様の条件で探傷した。
【0056】
図4(b)に示す例では、検出対象欠陥Dについての長手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の最大振幅Zは、人工きずNについての短手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の最大振幅Zに対し、4dBだけ大きくなるという関係を有する。また、検出対象欠陥Dについての長手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の位相θは、人工きずNについての短手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の位相θに対し、160°だけ大きくなるという関係を有する。また、図4(c)に示す例では、検出対象欠陥Dについての長手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の最大振幅Zは、人工きずNについての短手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の最大振幅Zに対し、1dBだけ小さくなるという関係を有する。また、検出対象欠陥Dについての長手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の位相θは、人工きずNについての短手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の位相θに対し、180°だけ大きくなるという関係を有する。
【0057】
上記のようにして、検出対象欠陥Dについての長手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の最大振幅及び位相と、人工きずNについての短手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の最大振幅及び位相との関係を予め取得する。
【0058】
そして、調整ステップでは、予め取得した上記の関係に基づき、長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の検出感度及び位相を調整する。例えば、図4(b)に示す例では、検出対象欠陥Dについての長手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の最大振幅Zが、人工きずNについての短手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の最大振幅Zと同等の振幅となるように、増幅器23の増幅率を校正ステップでの調整後の増幅率よりも4dBだけ小さくなるように調整する。また、検出対象欠陥Dについての長手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の位相θが、人工きずNについての短手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の位相θと同等の位相となるように、位相回転器25における位相の回転量(移相量)を校正ステップでの調整後の回転量(移相量)よりも160°だけ小さくなるように調整する。また、図4(c)に示す例では、検出対象欠陥Dについての長手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の最大振幅Zが、人工きずNについての短手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の最大振幅Zと同等の振幅となるように、増幅器23の増幅率を校正ステップでの調整後の増幅率よりも1dBだけ大きくなるように調整する。また、検出対象欠陥Dについての長手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の位相θが、人工きずNについての短手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号の位相θと同等の位相となるように、位相回転器25における位相の回転量(移相量)を校正ステップでの調整後の回転量(移相量)よりも180°だけ小さくなるように調整する。
【0059】
<2−3.探傷ステップ>
探傷ステップでは、前述した調整ステップで調整した後の渦流探傷装置100の検出コイル群1を管Pに対向配置し、移動手段により検出コイル群1を管Pの軸方向に螺旋状に相対移動させる。そして、長手方向に隣接する検出コイル11間の差動信号に基づき、管Pに存在する欠陥を検出する。具体的には、前述のように、検出部28が演算した振幅Zが予め定めたしきい値よりも大きいか否かによって、欠陥の有無を判定する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る渦流探傷装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る渦流探傷方法の校正ステップで用いる人工きずを説明する説明図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る渦流探傷方法の調整ステップで用いる検出対象欠陥を説明する説明図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係る渦流探傷方法で得られる信号波形の例を示す。
【符号の説明】
【0061】
1・・・検出コイル群
2・・・信号処理部
11・・・検出コイル
21・・・切り替え手段
22・・・発信器
23・・・増幅器(調整手段)
24・・・同期検波器
25・・・位相回転器(調整手段)
26・・・バンドパスフィルタ
27・・・A/D変換器
28・・・検出部
100・・・渦流探傷装置
P・・・管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に直線状に配列された偶数個の検出コイルからなる検出コイル列が、短手方向に隣接する検出コイルの端部同士が短手方向から見て互いに重なり合うように、短手方向に2列配列されて構成される検出コイル群を、各検出コイルの長手方向が断面略円形の被探傷材の軸方向に沿うように該被探傷材に対向配置して、該被探傷材に存在する欠陥を検出する渦流探傷方法であって、
校正用の被探傷材に、該校正用被探傷材の軸方向に延びる人工きずであって、前記検出コイル群を構成する長手方向及び短手方向に隣接する2対の検出コイルの長さ以上に延びる人工きずを設け、前記検出コイル群を前記人工きずに対向配置して、前記校正用被探傷材の周方向に前記検出コイル群を相対移動させることにより、短手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の検出感度及び位相を校正する校正ステップと、
前記検出コイル群を用いて得られる検出対象欠陥についての長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の最大振幅及び位相と、前記校正ステップで用いる人工きずについての短手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の最大振幅及び位相との予め取得した関係に基づき、長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号の検出感度及び位相を調整する調整ステップと、
前記調整ステップで調整した後の前記検出コイル群を被探傷材に対向配置し、前記検出コイル群を被探傷材の軸方向に螺旋状に相対移動させて、長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号に基づき、前記被探傷材に存在する欠陥を検出する探傷ステップとを含むことを特徴とする渦流探傷方法。
【請求項2】
前記人工きずは、前記検出コイル群の長さ以上に前記校正用被探傷材の軸方向に延びることを特徴とする請求項1に記載の渦流探傷方法。
【請求項3】
長手方向に直線状に配列された偶数個の検出コイルからなる検出コイル列が、短手方向に隣接する検出コイルの端部同士が短手方向から見て互いに重なり合うように、短手方向に2列配列されて構成される検出コイル群であって、各検出コイルの長手方向が断面略円形の被探傷材の軸方向に沿うように該被探傷材に対向配置された検出コイル群と、
前記検出コイル群における長手方向に隣接する検出コイル間の差動信号と、短手方向に隣接する検出コイル間の差動信号とを切り替えて出力する切り替え手段と、
前記切り替え手段によって出力された差動信号の検出感度及び位相を調整する調整手段と、
前記検出コイル群を被探傷材の軸方向及び周方向に相対移動させる移動手段とを備えることを特徴とする渦流探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−32352(P2010−32352A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194635(P2008−194635)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】