渦電流探傷による残存肉厚の評価方法及び評価装置
【課題】き裂長さの影響を受けにくく、残存肉厚の評価を高精度に行うことができる渦電流探傷を利用した方法及び装置を提供する。
【解決手段】残存する肉厚が異なる複数のスリットを設けた対比試験体に対して複数の試験周波数による渦電流探傷を実施し、各スリットについての2つの異なる試験周波数間のECT信号の位相差と残存する肉厚との相関を示す校正曲線群を得る。また、被検査体に対して前記複数の試験周波数による渦電流探傷を実施して前記2つの異なる試験周波数間のECT信号の位相差を算出する。算出された位相差と前記校正曲線群の位相差とを対比することにより被検査体の検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価する。
【解決手段】残存する肉厚が異なる複数のスリットを設けた対比試験体に対して複数の試験周波数による渦電流探傷を実施し、各スリットについての2つの異なる試験周波数間のECT信号の位相差と残存する肉厚との相関を示す校正曲線群を得る。また、被検査体に対して前記複数の試験周波数による渦電流探傷を実施して前記2つの異なる試験周波数間のECT信号の位相差を算出する。算出された位相差と前記校正曲線群の位相差とを対比することにより被検査体の検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に発生したき裂の反開口面側を検査面として渦電流検査を実施し、き裂の先端から検査面側までの残存肉厚を評価する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物のき裂の測定方法としては、測定装置を持ち運びが容易で精度良く測定が出来る超音波探傷や渦電流探傷が用いられることが多い。超音波探傷は、超音波をセンサから発信し、き裂から反射される音波を受信しき裂の有無や形状を測定する手法である。これに対して、渦電流探傷は、センサから交流磁場を発生して導電性材料に渦電流を誘起させ、き裂がある場合に生じる渦電流の乱れをセンサのコイルインピーダンスの変化としてとらえ、き裂の有無や形状を測定する手法である。
【0003】
渦電流探傷に関する検査では、例えば非特許文献1に示すように、主として伝熱管の検査として自己誘導方式自己比較方式の内挿プローブを利用したものがあり、減肉や割れの定量評価が実施されている。この評価方法は、減肉の程度によって変化する渦電流の位相情報を利用したもので、位相法と呼ばれる。この位相法を利用した渦電流探傷としては、鋼管内部の局部腐食の検査に適用するもの(例えば、特許文献1参照。)、電縫鋼管の欠陥検査に適用するもの(例えば、特許文献2参照。)、ガスタービン翼などの構造物の検査に適用するもの(例えば、特許文献3参照。)などが従来より提案されている。
【非特許文献1】社団法人日本非破壊検査協会編「新非破壊検査便覧」、P425−427
【特許文献1】特開2000−65801号公報
【特許文献2】特開2002−350406号公報
【特許文献3】特開2003−43016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、内装プローブは伝熱管以外の例えば平板に近いような部位には利用できない。このような部位には、一般に上置きタイプのプローブが利用される。本発明は、上置きタイプのプローブで、特に、検査面の裏面側から進展するき裂に対して、検査面からき裂までの残存肉厚を評価する手法に関するものである。例えば、上置きタイプの相互誘導型標準比較方式のプローブでは、残存肉厚が同じ場合であってもき裂の長さにより渦電流探傷による信号や位相が異なる特性がある。このため、伝熱管検査に利用される位相法のようにき裂深さと位相が1対1に対応せず評価できない課題がある。
【0005】
そこで本発明は、き裂長さの影響を受けにくい残存肉厚の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、渦電流探傷を利用して検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価する方法において、残存する肉厚が異なる複数のスリットを設けた対比試験体に対して複数の試験周波数による渦電流探傷を実施し、各スリットについての2つの異なる試験周波数間のECT信号の位相差と残存する肉厚との相関を示す校正曲線群を得ると共に、被検査体に対して前記複数の試験周波数による渦電流探傷を実施して前記2つの異なる試験周波数間のECT信号の位相差を算出し、算出された位相差と前記校正曲線群の位相差とを対比することにより被検査体の検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記対比試験体に対する渦電流探傷を実施する際、各スリットごとに前記複数の試験周波数を切り替えることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記対比試験体に対する渦電流探傷を実施する際、前記試験周波数を第1の試験周波数に切り替えて前記複数のスリットの全てについての渦電流探傷を実施し、全てのスリットに対する第1の試験周波数による渦電流探傷が終了した後、試験周波数を第2の試験周波数に切り替えて再度前記複数のスリットの全てについての渦電流探傷を実施することを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、前記被検査体に対する渦電流探傷を実施する際、前記複数の試験周波数のうちの周波数が低い方の試験周波数又はそれとは別の前記複数の試験周波数のうちの周波数が高い方の試験周波数よりも周波数が低い試験周波数で前記被検査体に対する渦電流探傷を実施し、き裂信号が得られない場合にはき裂なしと判断して試験を終了し、き裂信号が得られた場合には前記複数の試験周波数による渦電流探傷を実施することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、前記対比試験体に対する渦電流探傷を実施する際及び前記被検査体に対する渦電流探傷を実施する際、前記複数の試験周波数が重畳された多重周波数による渦電流探傷を実施することを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、前記対比試験体として、肉厚方向に貫通したスリット及び残存する肉厚の大きさが異なる複数のスリットを設けた対比試験体を用い、貫通したスリットのECT信号を基準にして、前記校正曲線群を得る際の各試験周波数ごとのECT信号の位相を定めることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、渦電流探傷を利用して検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価する装置において、プローブと、残存肉厚が異なる複数のスリットを設けた対比試験体と、対比試験体に設けた残存肉厚値の入力部と、複数の試験周波数による測定が可能な渦電流探傷器と、2つの異なる試験周波数のECT信号の位相差を算出する演算部と、該位相差と対比試験体の残存肉厚値の記憶部と、被検査体の測定結果から求めた位相差の記憶部と、表示装置を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、渦電流探傷を利用して検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価する装置において、プローブと、肉厚方向に貫通したスリット及び残存肉厚の異なる複数スリットを設けた対比試験体と、対比試験体に設けた残存肉厚値の入力部と、複数の試験周波数による測定が可能な渦電流探傷器と、2つの異なる試験周波数のECT信号の位相差を算出する演算部と、該位相差と対比試験体の残存肉厚値の記憶部と、被検査体の測定結果から求めた位相差の記憶部と、表示装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の残存肉厚の評価方法及び評価装置は、異なる2つの試験周波数のECT信号の位相差を利用して校正曲線を作成し、この校正曲線に基づいて検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価するので、き裂長さの影響を受けにくく、渦電流探傷により残存肉厚の評価を高精度に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず、本発明の実施形態を説明するに先立ち、被検査体に発生する渦電流の特徴及びき裂長さが位相に影響を与える理由を図7乃至図20に基づいて説明する。
【0016】
一般的に、半無限空間に拡がる導体面に平行な一様交流磁界が入射した場合の導体に発生する渦電流は、振幅が(1)式、位相が(2)式となる。これより、渦電流は表層から導体の深さ方向に向かって減少していくことが分かる。また(2)式より、位相は表層から深さ方向むかって遅れ位相(−位相)として変化することが分かる。
【数1】
【0017】
渦電流探傷は、き裂により渦電流が妨げられることに起因するインピーダンスの変化分を測定するものである。このため、渦電流の位相と裏面き裂の残存肉厚変化によるECT信号の位相は、同じ傾向を示す。例えば、き裂の残存肉厚が深くなるに従い、ECT信号は遅れ位相で変化する。図7は励磁コイル11と検出コイル12を持つ相互誘導方式標準比較プローブでSUS316L材13に設けた十分長いスリット14を測定した結果を示しており、位相遅れの様子を観察できる。
【0018】
上記した1、2式は半無限空間に拡がる導体面に平行な一様交流磁界が入射した場合を示すが、実際の探傷では、コイルにより被検査体の限られた領域に渦電流を誘起する。この場合、深さ方向に渦電流が減少し、位相が遅れる現象は同様であるが、被検査体の水平方向にも渦電流の大きさと位相が変化することになる。このような渦電流の分布は、測定で直接観察することは困難である。そこで、一般的に、有限要素法による3次元数値計算を利用して導出することが出来る。
【0019】
図8は被検査体として工業材料として利用されるSUS316材平板13を対象として、平板の上にコイル15を配置した時の渦電流の流れを示している。渦電流はコイル15の近傍に、還流するように発生する。この渦電流の表面分布を図9に示す。図9は図8の黒線で示した表面の渦電流の大きさをプロットした結果である。これより、コイルの中心から離れるに従い渦電流の振幅が減少する傾向を示すことが分かる。また、図10は図9に示した渦電流の位相を示している。この結果から、水平方向に位相遅れが生じることが分かる。図11はコイル15の直下での被検査体断面の渦電流の様子を示した模式図である。被検査体に生じた渦電流は、深さ方向に振幅が減少し、遅れ位相が生じるだけでなく、水平方向にも同様の傾向を示す。この結果の定性的な妥当性を検証するため、次の測定を実施した。被検査体として検査面の逆方向から(裏面から)スリット14を表面から1mm部分まで施したSUS316L13を用いて、プローブをスリットの真上まで走査した場合、スリットの真上の手前5mmまで走査した場合、スリットの真上の手前10mmまで走査した場合でECT信号の位相を比較した。図12は渦電流探傷結果のリサージュ波形を示す。リサージュ波形は、X軸正側から反時計回りの角度が位相に対応する。上述したように渦電流は水平方向にも位相遅れを示すため、0mm、5mm、10mmと走査した順にリサージュ波形から読み取った位相がθB,θC,θDと徐々に遅れる傾向を示す。この結果から、渦電流の水平方向の分布に位相遅れが生じていることが検証できる。
【0020】
次に、き裂長さと位相の関係について説明する。上述したように被検査体に発生する渦電流には水平方向にも位相遅れが生じる。これに起因して渦電流が分布する範囲よりき裂長さが短くなると、位相に影響を与えることになる。この理由を、図13に示す模式図で説明する。図13は同図上のように被検査体にコイル15を配置し被検査体13に渦電流を発生させた状態で、断面16の渦電流分布を同図下に示している。図はき裂長さが長いスリット18の模式図である。き裂長さが長い場合、コイルにより誘発する渦電流の全ての領域が影響を受けるため、水平方向に変化する位相の全ての影響を受ける。これに対して、図14にはき裂長さが短いスリット19の模式図を示す。この場合、渦電流の位相遅れの程度が少ない領域の影響を受ける。このため、ECT信号はき裂長さが長い場合と異なる位相を示す。き裂長さが長い場合を基準とすると、き裂長さが短くなると位相が進む方向に変化する。この位相変化の特性は、残存肉厚を定量評価する際の問題点となる。
【0021】
図15は、き裂長さをパラメータとして位相と残存肉厚の関係を数値計算により検討した結果である。図中の残存肉厚0mmはき裂が進展して貫通した場合を模擬している。基準となる位相は渦電流の分布より長いき裂長さ70mmの貫通き裂を測定したECT信号の位相を、0度としてまとめている。グラフは縦軸に位相、横軸に残存肉厚を示す。横軸の残存肉厚が等しい場合で比較すると、き裂長さが短くなるほど位相が+側に、つまり進むように変化することが分かる。このため、位相と残存肉厚の特性曲線はき裂長さにより、幅を持つ特性を示すため、位相値から残存肉厚を推定することは不可能となる。
【0022】
本発明は、き裂長さの影響を受けにくい残存肉厚評価方法として、2つの試験周波数で測定した結果の位相差を利用することが特徴である。以下、この原理について説明する。
【0023】
上述したように、図13及び図14で説明した現象により、き裂長さの影響はECT信号の位相変化として得られるが、渦電流の発生する領域と密接に関係することが分かる。例えば、試験周波数が異なる場合でも、渦電流の水平方向の分布が同じであれば、き裂長さの影響を同じように受けることになる。
【0024】
図16は数値計算により、試験周波数3kHzと約3倍である10kHzでの被検査体表面に発生する渦電流の水平方向分布を比較したものである。この結果から分かるように10kHzの方が渦電流の分布が狭くなるものの、ほぼ同様の水平方向の分布を示すことが分かる。つまり、き裂長さの影響を受け始める様子も、3kHzと同様の傾向を示すと考えられる。
【0025】
図17は試験周波数3kHzと10kHzのき裂長さの影響を数値計算により検討した結果である。グラフは縦軸に位相、横軸にき裂長さを示し、残存肉厚1mmと3mmのき裂についてプロットしている。基準となる位相は、図15と同様に試験周波数3kHz、き裂長さ70mmの貫通き裂を測定したECT信号の位相を0度としている。試験周波数3kHの残存肉厚1mm及び10kHzの残存肉厚1mm、試験周波数3kHの残存肉厚3mm及び10kHzの残存肉厚3mmのき裂長さ特性を比較するとほぼ同様の特性を示すことがわかる。これは上述したように渦電流の水平方向の分布がほぼ同様であることによる。
【0026】
したがって、同一き裂長さの試験周波数3及び10kHzの位相の差は、き裂長さによらず概ね等しくなることが分かる。つまり、試験周波数の異なる2つの測定結果を位相差で整理すると、き裂長さの影響を受けにくい残存肉厚特性を得ることができる。
【0027】
実際に位相差で整理するためには、2つの試験周波数をもちいるためそれぞれ基準となる位相を設定する必要がある。一例として、図18に示すように探傷面の裏側から進展した貫通き裂を想定し、このき裂のECT信号の位相と0度とする。この設定により、残存肉厚0mm(貫通き裂)の位相差を0度とすることができる。このようにして図15に示す試験周波数3kHzと10kHzの結果から得られる位相差と残存肉厚の特性を図19に示す。この結果より、図15でき裂長さによる巾をもつ特性が、ほぼ1つの特性に集約され、残存肉厚の評価が可能となる。
【0028】
図20は試験周波数3kHzと5kHz、3kHzと10kHz、3kHzと20kHzの位相差による特性をしめす。この結果より、より離れた2つの試験周波数を利用することで、残存肉厚に対する位相差が大きく変化する傾向を示し評価精度が向上するものの、一方で、どうしても水平方向の渦電流分布が高周波でより狭くなるためき裂長さの影響を受け特性曲線がばらつく傾向があるものの単純に位相を利用した場合より、き裂長さの影響を受けにくい。
【0029】
以下、本発明に係る渦電流探傷による残存肉厚の評価方法の第1例を図1により説明する。本発明の評価方法では、貫通スリット及び残存肉厚が異なる複数のスリットを設けた対比試験体を利用する。ここでは残存肉厚が異なるスリットをn個設けた対比試験体を考える。
【0030】
対比試験体の検査面側にプローブを設置し、異なる2つの試験周波数により測定を開始する(手順S1)。最初に対比試験体に設けた貫通スリットで基準位相を設定する(手順S2)。貫通スリットのECT信号は、異なる試験周波数で同じ位相になるように探傷器の位相調整機能を利用して設定する。基準位相の設定後、試験周波数Aでスリット1の測定Aを実施(手順S3)し、ECT信号から位相θA k=1を求める。次に、試験周波数Bでスリット1の測定Bを実施(手順S4)し、ECT信号から位相θB k=1を求める。ここで、θA k=1は試験周波数Aで対比試験体のK=1番目のスリットから得られるECT信号の位相を示し、θB k=1は試験周波数Bで対比試験体のK=1番目のスリットから得られるECT信号の位相を示す。次に、処理1を実施する(手順S5)。ここで、試験周波数AとBの位相差θB k=1−θA k=1の演算を実施し、Δθk=1を求める。この手順S3,S4,S5を対比試験体に設けた残存肉厚が異なるスリットn個に全てに対して繰り返し実施する。スリットn個に対して終了した時点(手順S6)で、Δθk=1、・・・、Δθk=nのデータが蓄積される。次に処理2として、スリット1の残存肉厚値と位相差Δθk=1、スリット2の残存肉厚値とΔθk=2、・・、スリットnの残存肉厚値と位相差Δθk=nのデータを縦軸に位相差Δθと横軸に残存肉厚として校正曲線を作成する(手順S7)。これが、図19に示すき裂長さを受けにくい校正曲線となる。次に、被検査体の測定Aを実施する(手順S8)。この測定は試験周波数Aで行い、ECT信号の位相θ‘Aを求める。次に、被検査体の測定Bを実施する(手順S9)。この測定は試験周波数Bで行い、ECT信号の位相θ‘Bを求める。ここで、θ‘A及びθ‘Bは試験周波数A及びBによる被検査体を探傷して得られるECT信号の位相を示す。次に、処理3として、位相差Δθ’=θ’B−θ’Aを求める(手順S10)。次に、処理4として、このΔθ’と処理2で作成した校正曲線と対応させることで、残存肉厚を評価する(手順S40)。
【0031】
本例の評価方法は、試験周波数A,BのECT信号の位相差を利用して校正曲線を作成し、この校正曲線に基づいて検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価するので、き裂長さの影響を受けにくく、渦電流探傷により残存肉厚の評価を高精度に行うことができる。
【0032】
被検査体からき裂信号が得られない場合にはき裂なしと判断して試験終了するので、所要の検査を高能率に行うことができる。
【0033】
次に、本発明に係る渦電流探傷による残存肉厚の評価方法の第2例を図2により説明する。本例の評価方法は、各スリットごとに試験周波数を試験周波数Aと試験周波数Bとに交互に切り替えるのではなく、全てのスリットを試験周波数Aで連続的に渦電流探傷した後、試験周波数を試験周波数Bに切り替えて再度各スリットについての渦電流探傷を繰り返すことを特徴とする。
【0034】
これを実現するために、スリット1〜nの測定Aでは、試験周波数Aで、対比試験体に設けた残存肉厚が異なる複数のスリットに対してプローブを走査して、残存肉厚が異なるn個のECT信号が得られるように測定し、スリット1からnまでの位相θA k=1、・・・、θA k=n を求める(手順S41)。次に、スリット1〜nの測定Aで、試験周波数Bとして同様に測定し、スリット1からnまでの位相θB k=1、・・・、θB k=n を求める(手順S42)。その後、処理1で、位相差Δθk=1=θB k=1−θA k=1、・・・、Δθk=n=θB k=n−θA k=nを算出し、位相差Δθk=1、・・・、Δθk=nのデータを縦軸に残存肉厚を横軸として校正曲線を作成する(手順S43)。次に、被検査体の測定Aを実施する(手順S8)。この測定は試験周波数Aで行い、ECT信号の位相θ‘Aを求める。次に、被検査体の測定Bを実施する(手順S9)。この測定は試験周波数Bで行い、ECT信号の位相θ‘Bを求める。次に、処理2として、位相差Δθ’=θ’B−θ’Aを求める(手順S44)。次に、処理3として、このΔθ’と処理1:43で作成した校正曲線と対応させることで、残存肉厚を評価する(手順S45)。本例の評価方法は、各スリットごとに試験周波数を切り替える必要がないので、所要の検査を高能率に行うことができる。
【0035】
次に、本発明に係る渦電流探傷による残存肉厚の評価方法の第3例を図3により説明する。本例の評価方法は、被検査体の測定として広域の探傷を実施し、き裂信号が得られた場合にのみ複数試験周波数による測定を行うことを特徴とする。
【0036】
図3に示したスリット1〜nの測定A(手順S41)、スリット1〜nの測定A(手順S42)、処理1(手順S43)で校正曲線を作成する。次の被検査体の測定(手順S46)では、試験周波数AとBで周波数が低い方、又はそれとは別の試験周波数AとBで周波数が高い方の試験周波数よりも周波数が低い周波数で被検査体の測定を行う。ここでき裂信号が得られない場合はき裂なしと判断(手順S47)し、試験終了となる。一方、き裂信号が得られた場合は、き裂信号部の測定として、試験周波数Aの測定により位相θ’A、試験周波数Bの測定により位相θ’Bを測定する(手順S48)。その後、処理2で位相差Δθ’=θ’B−θ’Aを求める(手順S49)。最後に、処理3として、このΔθ’と処理1:43で作成した校正曲線と対応させることで、残存肉厚を評価する(手順S50)。本例の評価方法は、被検査体からき裂信号が得られない場合にはき裂なしと判断して試験終了するので、所要の検査を高能率に行うことができる。
【0037】
次に、本発明に係る渦電流探傷による残存肉厚の評価方法の第4例を図4により説明する。本例の評価方法は、通常、渦電流探傷器に備わっている多重周波測定の機能を利用することで、試験周波数Aと試験周波数Bとで同時に測定することを特徴とする。
【0038】
本例においては、図4のスリットKの測定(手順S40)及び被検査体の測定(手順S42)を実行する際、試験周波数Aと試験周波数Bとが重畳された多重周波数による渦電流探傷を実施する。本例の評価方法は、試験周波数を切り替えて複数回の渦電流探傷を行う必要がないので、所要の検査を高能率に行うことができる。
【0039】
次に、本発明に係る渦電流探傷による残存肉厚の評価方法の第5例を図5により説明する。本例の評価方法は、3周波数以上の試験周波数で渦電流探傷を行うことを特徴とする。
【0040】
本例においては、図5のスリット1〜nの測定(手順S50)及び被検査体の測定(手順S52)を実行する際、渦電流探傷器に備わっている多重周波測定の機能を利用することで、3周波数以上の試験周波数で渦電流探傷を実行する。本例の評価方法は、3周波数以上の試験周波数で渦電流探傷を実行するので、 複数のマスタカーブを作成でき残肉厚さの程度によりマスタカーブを使い分けることが可能となる。
【0041】
以下、本発明に係る渦電流探傷による残存肉厚の評価方法を実現する装置につき、図6を用いて説明する。
【0042】
渦電流探傷プローブ30を渦電流探傷器33と結線する。対比試験体31には貫通スリットと複数の残存肉厚の異なるスリットを設けている。最初に対比試験体を用いて校正曲線を作成するため、対比試験体の貫通スリットを異なる2つの試験周波数で測定し、それぞれの試験周波数におけるECT信号の位相を同じ値になるように探傷器の設定を行う。その後、異なる2つの試験周波数で残存肉厚の異なるスリットの測定を行い、スリットごとにECT信号の位相の差を演算部34で求め、スリット番号と位相差及び入力部32から入力するスリット番号に対応した残存肉厚値をメモリ35に記憶する。これにより、メモリ35には1対1に対応した残存肉厚値と位相差のデータベースが構築される。次にプローブを実際の被検査体に設置して、対比試験体の測定と同様に異なる2つの試験周波数でECT信号を測定し、演算部34で位相差Δθ’を算出する。その後、演算部34にメモリ35にデータベースを読み出し、位相差Δθ’に対応する残存肉厚値を算出する。この残存肉厚値を表示部36に表示することで、残存肉厚の評価を実施できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は被検査体が導電性材料で、検査面の裏面から進展するき裂の先端から検査面までの残存肉厚を評価する用途に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】第1実施形態に係る残存肉厚の評価方法を示すフロー図である。
【図2】第2実施形態に係る残存肉厚の評価方法を示すフロー図である。
【図3】第3実施形態に係る残存肉厚の評価方法を示すフロー図である。
【図4】第4実施形態に係る残存肉厚の評価方法を示すフロー図である。
【図5】第5実施形態に係る残存肉厚の評価方法を示すフロー図である。
【図6】本発明に係る残存肉厚の評価装置を示すブロック図である。
【図7】残存肉厚と位相との関係を示す図である。
【図8】コイルが作る渦電流を模式的に示す図である。
【図9】コイルが作る渦電流の被検査体表面の振幅分布を示す図である。
【図10】コイルが作る渦電流の被検査体表面の位相分布を示す図である。
【図11】平面にコイルが作る渦電流の説明図である。
【図12】被検査体の表面方向の位相変化を示す図である。
【図13】き裂長さが長い場合のき裂長さと位相変化との関係を示す図である。
【図14】き裂長さが短い場合のき裂長さと位相変化との関係を示す図である。
【図15】き裂長さをパラメータとした残存肉厚特性を示すグラフ図である。
【図16】異なる試験周波数での被検査体表面の振幅分布を示すグラフ図である。
【図17】異なる試験周波数での欠陥長さと位相との関係を示すグラフ図である。
【図18】対比試験体を用いた校正曲線の作成方法を示す説明図である。
【図19】異なる2つの試験周波数による校正曲線を示すグラフ図である。
【図20】異なる4つの試験周波数による校正曲線を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0045】
11 検出コイル
12 励磁コイル
13 SUS316L試験体
14 スリット
15 励磁コイル
30 渦電流探傷プローブ
31 対比試験体
32 入力部
33 渦電流探傷器
34 演算部
35 メモリ
36 表示部
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に発生したき裂の反開口面側を検査面として渦電流検査を実施し、き裂の先端から検査面側までの残存肉厚を評価する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物のき裂の測定方法としては、測定装置を持ち運びが容易で精度良く測定が出来る超音波探傷や渦電流探傷が用いられることが多い。超音波探傷は、超音波をセンサから発信し、き裂から反射される音波を受信しき裂の有無や形状を測定する手法である。これに対して、渦電流探傷は、センサから交流磁場を発生して導電性材料に渦電流を誘起させ、き裂がある場合に生じる渦電流の乱れをセンサのコイルインピーダンスの変化としてとらえ、き裂の有無や形状を測定する手法である。
【0003】
渦電流探傷に関する検査では、例えば非特許文献1に示すように、主として伝熱管の検査として自己誘導方式自己比較方式の内挿プローブを利用したものがあり、減肉や割れの定量評価が実施されている。この評価方法は、減肉の程度によって変化する渦電流の位相情報を利用したもので、位相法と呼ばれる。この位相法を利用した渦電流探傷としては、鋼管内部の局部腐食の検査に適用するもの(例えば、特許文献1参照。)、電縫鋼管の欠陥検査に適用するもの(例えば、特許文献2参照。)、ガスタービン翼などの構造物の検査に適用するもの(例えば、特許文献3参照。)などが従来より提案されている。
【非特許文献1】社団法人日本非破壊検査協会編「新非破壊検査便覧」、P425−427
【特許文献1】特開2000−65801号公報
【特許文献2】特開2002−350406号公報
【特許文献3】特開2003−43016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、内装プローブは伝熱管以外の例えば平板に近いような部位には利用できない。このような部位には、一般に上置きタイプのプローブが利用される。本発明は、上置きタイプのプローブで、特に、検査面の裏面側から進展するき裂に対して、検査面からき裂までの残存肉厚を評価する手法に関するものである。例えば、上置きタイプの相互誘導型標準比較方式のプローブでは、残存肉厚が同じ場合であってもき裂の長さにより渦電流探傷による信号や位相が異なる特性がある。このため、伝熱管検査に利用される位相法のようにき裂深さと位相が1対1に対応せず評価できない課題がある。
【0005】
そこで本発明は、き裂長さの影響を受けにくい残存肉厚の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、渦電流探傷を利用して検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価する方法において、残存する肉厚が異なる複数のスリットを設けた対比試験体に対して複数の試験周波数による渦電流探傷を実施し、各スリットについての2つの異なる試験周波数間のECT信号の位相差と残存する肉厚との相関を示す校正曲線群を得ると共に、被検査体に対して前記複数の試験周波数による渦電流探傷を実施して前記2つの異なる試験周波数間のECT信号の位相差を算出し、算出された位相差と前記校正曲線群の位相差とを対比することにより被検査体の検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記対比試験体に対する渦電流探傷を実施する際、各スリットごとに前記複数の試験周波数を切り替えることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記対比試験体に対する渦電流探傷を実施する際、前記試験周波数を第1の試験周波数に切り替えて前記複数のスリットの全てについての渦電流探傷を実施し、全てのスリットに対する第1の試験周波数による渦電流探傷が終了した後、試験周波数を第2の試験周波数に切り替えて再度前記複数のスリットの全てについての渦電流探傷を実施することを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、前記被検査体に対する渦電流探傷を実施する際、前記複数の試験周波数のうちの周波数が低い方の試験周波数又はそれとは別の前記複数の試験周波数のうちの周波数が高い方の試験周波数よりも周波数が低い試験周波数で前記被検査体に対する渦電流探傷を実施し、き裂信号が得られない場合にはき裂なしと判断して試験を終了し、き裂信号が得られた場合には前記複数の試験周波数による渦電流探傷を実施することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、前記対比試験体に対する渦電流探傷を実施する際及び前記被検査体に対する渦電流探傷を実施する際、前記複数の試験周波数が重畳された多重周波数による渦電流探傷を実施することを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、前記対比試験体として、肉厚方向に貫通したスリット及び残存する肉厚の大きさが異なる複数のスリットを設けた対比試験体を用い、貫通したスリットのECT信号を基準にして、前記校正曲線群を得る際の各試験周波数ごとのECT信号の位相を定めることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、渦電流探傷を利用して検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価する装置において、プローブと、残存肉厚が異なる複数のスリットを設けた対比試験体と、対比試験体に設けた残存肉厚値の入力部と、複数の試験周波数による測定が可能な渦電流探傷器と、2つの異なる試験周波数のECT信号の位相差を算出する演算部と、該位相差と対比試験体の残存肉厚値の記憶部と、被検査体の測定結果から求めた位相差の記憶部と、表示装置を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、渦電流探傷を利用して検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価する装置において、プローブと、肉厚方向に貫通したスリット及び残存肉厚の異なる複数スリットを設けた対比試験体と、対比試験体に設けた残存肉厚値の入力部と、複数の試験周波数による測定が可能な渦電流探傷器と、2つの異なる試験周波数のECT信号の位相差を算出する演算部と、該位相差と対比試験体の残存肉厚値の記憶部と、被検査体の測定結果から求めた位相差の記憶部と、表示装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の残存肉厚の評価方法及び評価装置は、異なる2つの試験周波数のECT信号の位相差を利用して校正曲線を作成し、この校正曲線に基づいて検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価するので、き裂長さの影響を受けにくく、渦電流探傷により残存肉厚の評価を高精度に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず、本発明の実施形態を説明するに先立ち、被検査体に発生する渦電流の特徴及びき裂長さが位相に影響を与える理由を図7乃至図20に基づいて説明する。
【0016】
一般的に、半無限空間に拡がる導体面に平行な一様交流磁界が入射した場合の導体に発生する渦電流は、振幅が(1)式、位相が(2)式となる。これより、渦電流は表層から導体の深さ方向に向かって減少していくことが分かる。また(2)式より、位相は表層から深さ方向むかって遅れ位相(−位相)として変化することが分かる。
【数1】
【0017】
渦電流探傷は、き裂により渦電流が妨げられることに起因するインピーダンスの変化分を測定するものである。このため、渦電流の位相と裏面き裂の残存肉厚変化によるECT信号の位相は、同じ傾向を示す。例えば、き裂の残存肉厚が深くなるに従い、ECT信号は遅れ位相で変化する。図7は励磁コイル11と検出コイル12を持つ相互誘導方式標準比較プローブでSUS316L材13に設けた十分長いスリット14を測定した結果を示しており、位相遅れの様子を観察できる。
【0018】
上記した1、2式は半無限空間に拡がる導体面に平行な一様交流磁界が入射した場合を示すが、実際の探傷では、コイルにより被検査体の限られた領域に渦電流を誘起する。この場合、深さ方向に渦電流が減少し、位相が遅れる現象は同様であるが、被検査体の水平方向にも渦電流の大きさと位相が変化することになる。このような渦電流の分布は、測定で直接観察することは困難である。そこで、一般的に、有限要素法による3次元数値計算を利用して導出することが出来る。
【0019】
図8は被検査体として工業材料として利用されるSUS316材平板13を対象として、平板の上にコイル15を配置した時の渦電流の流れを示している。渦電流はコイル15の近傍に、還流するように発生する。この渦電流の表面分布を図9に示す。図9は図8の黒線で示した表面の渦電流の大きさをプロットした結果である。これより、コイルの中心から離れるに従い渦電流の振幅が減少する傾向を示すことが分かる。また、図10は図9に示した渦電流の位相を示している。この結果から、水平方向に位相遅れが生じることが分かる。図11はコイル15の直下での被検査体断面の渦電流の様子を示した模式図である。被検査体に生じた渦電流は、深さ方向に振幅が減少し、遅れ位相が生じるだけでなく、水平方向にも同様の傾向を示す。この結果の定性的な妥当性を検証するため、次の測定を実施した。被検査体として検査面の逆方向から(裏面から)スリット14を表面から1mm部分まで施したSUS316L13を用いて、プローブをスリットの真上まで走査した場合、スリットの真上の手前5mmまで走査した場合、スリットの真上の手前10mmまで走査した場合でECT信号の位相を比較した。図12は渦電流探傷結果のリサージュ波形を示す。リサージュ波形は、X軸正側から反時計回りの角度が位相に対応する。上述したように渦電流は水平方向にも位相遅れを示すため、0mm、5mm、10mmと走査した順にリサージュ波形から読み取った位相がθB,θC,θDと徐々に遅れる傾向を示す。この結果から、渦電流の水平方向の分布に位相遅れが生じていることが検証できる。
【0020】
次に、き裂長さと位相の関係について説明する。上述したように被検査体に発生する渦電流には水平方向にも位相遅れが生じる。これに起因して渦電流が分布する範囲よりき裂長さが短くなると、位相に影響を与えることになる。この理由を、図13に示す模式図で説明する。図13は同図上のように被検査体にコイル15を配置し被検査体13に渦電流を発生させた状態で、断面16の渦電流分布を同図下に示している。図はき裂長さが長いスリット18の模式図である。き裂長さが長い場合、コイルにより誘発する渦電流の全ての領域が影響を受けるため、水平方向に変化する位相の全ての影響を受ける。これに対して、図14にはき裂長さが短いスリット19の模式図を示す。この場合、渦電流の位相遅れの程度が少ない領域の影響を受ける。このため、ECT信号はき裂長さが長い場合と異なる位相を示す。き裂長さが長い場合を基準とすると、き裂長さが短くなると位相が進む方向に変化する。この位相変化の特性は、残存肉厚を定量評価する際の問題点となる。
【0021】
図15は、き裂長さをパラメータとして位相と残存肉厚の関係を数値計算により検討した結果である。図中の残存肉厚0mmはき裂が進展して貫通した場合を模擬している。基準となる位相は渦電流の分布より長いき裂長さ70mmの貫通き裂を測定したECT信号の位相を、0度としてまとめている。グラフは縦軸に位相、横軸に残存肉厚を示す。横軸の残存肉厚が等しい場合で比較すると、き裂長さが短くなるほど位相が+側に、つまり進むように変化することが分かる。このため、位相と残存肉厚の特性曲線はき裂長さにより、幅を持つ特性を示すため、位相値から残存肉厚を推定することは不可能となる。
【0022】
本発明は、き裂長さの影響を受けにくい残存肉厚評価方法として、2つの試験周波数で測定した結果の位相差を利用することが特徴である。以下、この原理について説明する。
【0023】
上述したように、図13及び図14で説明した現象により、き裂長さの影響はECT信号の位相変化として得られるが、渦電流の発生する領域と密接に関係することが分かる。例えば、試験周波数が異なる場合でも、渦電流の水平方向の分布が同じであれば、き裂長さの影響を同じように受けることになる。
【0024】
図16は数値計算により、試験周波数3kHzと約3倍である10kHzでの被検査体表面に発生する渦電流の水平方向分布を比較したものである。この結果から分かるように10kHzの方が渦電流の分布が狭くなるものの、ほぼ同様の水平方向の分布を示すことが分かる。つまり、き裂長さの影響を受け始める様子も、3kHzと同様の傾向を示すと考えられる。
【0025】
図17は試験周波数3kHzと10kHzのき裂長さの影響を数値計算により検討した結果である。グラフは縦軸に位相、横軸にき裂長さを示し、残存肉厚1mmと3mmのき裂についてプロットしている。基準となる位相は、図15と同様に試験周波数3kHz、き裂長さ70mmの貫通き裂を測定したECT信号の位相を0度としている。試験周波数3kHの残存肉厚1mm及び10kHzの残存肉厚1mm、試験周波数3kHの残存肉厚3mm及び10kHzの残存肉厚3mmのき裂長さ特性を比較するとほぼ同様の特性を示すことがわかる。これは上述したように渦電流の水平方向の分布がほぼ同様であることによる。
【0026】
したがって、同一き裂長さの試験周波数3及び10kHzの位相の差は、き裂長さによらず概ね等しくなることが分かる。つまり、試験周波数の異なる2つの測定結果を位相差で整理すると、き裂長さの影響を受けにくい残存肉厚特性を得ることができる。
【0027】
実際に位相差で整理するためには、2つの試験周波数をもちいるためそれぞれ基準となる位相を設定する必要がある。一例として、図18に示すように探傷面の裏側から進展した貫通き裂を想定し、このき裂のECT信号の位相と0度とする。この設定により、残存肉厚0mm(貫通き裂)の位相差を0度とすることができる。このようにして図15に示す試験周波数3kHzと10kHzの結果から得られる位相差と残存肉厚の特性を図19に示す。この結果より、図15でき裂長さによる巾をもつ特性が、ほぼ1つの特性に集約され、残存肉厚の評価が可能となる。
【0028】
図20は試験周波数3kHzと5kHz、3kHzと10kHz、3kHzと20kHzの位相差による特性をしめす。この結果より、より離れた2つの試験周波数を利用することで、残存肉厚に対する位相差が大きく変化する傾向を示し評価精度が向上するものの、一方で、どうしても水平方向の渦電流分布が高周波でより狭くなるためき裂長さの影響を受け特性曲線がばらつく傾向があるものの単純に位相を利用した場合より、き裂長さの影響を受けにくい。
【0029】
以下、本発明に係る渦電流探傷による残存肉厚の評価方法の第1例を図1により説明する。本発明の評価方法では、貫通スリット及び残存肉厚が異なる複数のスリットを設けた対比試験体を利用する。ここでは残存肉厚が異なるスリットをn個設けた対比試験体を考える。
【0030】
対比試験体の検査面側にプローブを設置し、異なる2つの試験周波数により測定を開始する(手順S1)。最初に対比試験体に設けた貫通スリットで基準位相を設定する(手順S2)。貫通スリットのECT信号は、異なる試験周波数で同じ位相になるように探傷器の位相調整機能を利用して設定する。基準位相の設定後、試験周波数Aでスリット1の測定Aを実施(手順S3)し、ECT信号から位相θA k=1を求める。次に、試験周波数Bでスリット1の測定Bを実施(手順S4)し、ECT信号から位相θB k=1を求める。ここで、θA k=1は試験周波数Aで対比試験体のK=1番目のスリットから得られるECT信号の位相を示し、θB k=1は試験周波数Bで対比試験体のK=1番目のスリットから得られるECT信号の位相を示す。次に、処理1を実施する(手順S5)。ここで、試験周波数AとBの位相差θB k=1−θA k=1の演算を実施し、Δθk=1を求める。この手順S3,S4,S5を対比試験体に設けた残存肉厚が異なるスリットn個に全てに対して繰り返し実施する。スリットn個に対して終了した時点(手順S6)で、Δθk=1、・・・、Δθk=nのデータが蓄積される。次に処理2として、スリット1の残存肉厚値と位相差Δθk=1、スリット2の残存肉厚値とΔθk=2、・・、スリットnの残存肉厚値と位相差Δθk=nのデータを縦軸に位相差Δθと横軸に残存肉厚として校正曲線を作成する(手順S7)。これが、図19に示すき裂長さを受けにくい校正曲線となる。次に、被検査体の測定Aを実施する(手順S8)。この測定は試験周波数Aで行い、ECT信号の位相θ‘Aを求める。次に、被検査体の測定Bを実施する(手順S9)。この測定は試験周波数Bで行い、ECT信号の位相θ‘Bを求める。ここで、θ‘A及びθ‘Bは試験周波数A及びBによる被検査体を探傷して得られるECT信号の位相を示す。次に、処理3として、位相差Δθ’=θ’B−θ’Aを求める(手順S10)。次に、処理4として、このΔθ’と処理2で作成した校正曲線と対応させることで、残存肉厚を評価する(手順S40)。
【0031】
本例の評価方法は、試験周波数A,BのECT信号の位相差を利用して校正曲線を作成し、この校正曲線に基づいて検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価するので、き裂長さの影響を受けにくく、渦電流探傷により残存肉厚の評価を高精度に行うことができる。
【0032】
被検査体からき裂信号が得られない場合にはき裂なしと判断して試験終了するので、所要の検査を高能率に行うことができる。
【0033】
次に、本発明に係る渦電流探傷による残存肉厚の評価方法の第2例を図2により説明する。本例の評価方法は、各スリットごとに試験周波数を試験周波数Aと試験周波数Bとに交互に切り替えるのではなく、全てのスリットを試験周波数Aで連続的に渦電流探傷した後、試験周波数を試験周波数Bに切り替えて再度各スリットについての渦電流探傷を繰り返すことを特徴とする。
【0034】
これを実現するために、スリット1〜nの測定Aでは、試験周波数Aで、対比試験体に設けた残存肉厚が異なる複数のスリットに対してプローブを走査して、残存肉厚が異なるn個のECT信号が得られるように測定し、スリット1からnまでの位相θA k=1、・・・、θA k=n を求める(手順S41)。次に、スリット1〜nの測定Aで、試験周波数Bとして同様に測定し、スリット1からnまでの位相θB k=1、・・・、θB k=n を求める(手順S42)。その後、処理1で、位相差Δθk=1=θB k=1−θA k=1、・・・、Δθk=n=θB k=n−θA k=nを算出し、位相差Δθk=1、・・・、Δθk=nのデータを縦軸に残存肉厚を横軸として校正曲線を作成する(手順S43)。次に、被検査体の測定Aを実施する(手順S8)。この測定は試験周波数Aで行い、ECT信号の位相θ‘Aを求める。次に、被検査体の測定Bを実施する(手順S9)。この測定は試験周波数Bで行い、ECT信号の位相θ‘Bを求める。次に、処理2として、位相差Δθ’=θ’B−θ’Aを求める(手順S44)。次に、処理3として、このΔθ’と処理1:43で作成した校正曲線と対応させることで、残存肉厚を評価する(手順S45)。本例の評価方法は、各スリットごとに試験周波数を切り替える必要がないので、所要の検査を高能率に行うことができる。
【0035】
次に、本発明に係る渦電流探傷による残存肉厚の評価方法の第3例を図3により説明する。本例の評価方法は、被検査体の測定として広域の探傷を実施し、き裂信号が得られた場合にのみ複数試験周波数による測定を行うことを特徴とする。
【0036】
図3に示したスリット1〜nの測定A(手順S41)、スリット1〜nの測定A(手順S42)、処理1(手順S43)で校正曲線を作成する。次の被検査体の測定(手順S46)では、試験周波数AとBで周波数が低い方、又はそれとは別の試験周波数AとBで周波数が高い方の試験周波数よりも周波数が低い周波数で被検査体の測定を行う。ここでき裂信号が得られない場合はき裂なしと判断(手順S47)し、試験終了となる。一方、き裂信号が得られた場合は、き裂信号部の測定として、試験周波数Aの測定により位相θ’A、試験周波数Bの測定により位相θ’Bを測定する(手順S48)。その後、処理2で位相差Δθ’=θ’B−θ’Aを求める(手順S49)。最後に、処理3として、このΔθ’と処理1:43で作成した校正曲線と対応させることで、残存肉厚を評価する(手順S50)。本例の評価方法は、被検査体からき裂信号が得られない場合にはき裂なしと判断して試験終了するので、所要の検査を高能率に行うことができる。
【0037】
次に、本発明に係る渦電流探傷による残存肉厚の評価方法の第4例を図4により説明する。本例の評価方法は、通常、渦電流探傷器に備わっている多重周波測定の機能を利用することで、試験周波数Aと試験周波数Bとで同時に測定することを特徴とする。
【0038】
本例においては、図4のスリットKの測定(手順S40)及び被検査体の測定(手順S42)を実行する際、試験周波数Aと試験周波数Bとが重畳された多重周波数による渦電流探傷を実施する。本例の評価方法は、試験周波数を切り替えて複数回の渦電流探傷を行う必要がないので、所要の検査を高能率に行うことができる。
【0039】
次に、本発明に係る渦電流探傷による残存肉厚の評価方法の第5例を図5により説明する。本例の評価方法は、3周波数以上の試験周波数で渦電流探傷を行うことを特徴とする。
【0040】
本例においては、図5のスリット1〜nの測定(手順S50)及び被検査体の測定(手順S52)を実行する際、渦電流探傷器に備わっている多重周波測定の機能を利用することで、3周波数以上の試験周波数で渦電流探傷を実行する。本例の評価方法は、3周波数以上の試験周波数で渦電流探傷を実行するので、 複数のマスタカーブを作成でき残肉厚さの程度によりマスタカーブを使い分けることが可能となる。
【0041】
以下、本発明に係る渦電流探傷による残存肉厚の評価方法を実現する装置につき、図6を用いて説明する。
【0042】
渦電流探傷プローブ30を渦電流探傷器33と結線する。対比試験体31には貫通スリットと複数の残存肉厚の異なるスリットを設けている。最初に対比試験体を用いて校正曲線を作成するため、対比試験体の貫通スリットを異なる2つの試験周波数で測定し、それぞれの試験周波数におけるECT信号の位相を同じ値になるように探傷器の設定を行う。その後、異なる2つの試験周波数で残存肉厚の異なるスリットの測定を行い、スリットごとにECT信号の位相の差を演算部34で求め、スリット番号と位相差及び入力部32から入力するスリット番号に対応した残存肉厚値をメモリ35に記憶する。これにより、メモリ35には1対1に対応した残存肉厚値と位相差のデータベースが構築される。次にプローブを実際の被検査体に設置して、対比試験体の測定と同様に異なる2つの試験周波数でECT信号を測定し、演算部34で位相差Δθ’を算出する。その後、演算部34にメモリ35にデータベースを読み出し、位相差Δθ’に対応する残存肉厚値を算出する。この残存肉厚値を表示部36に表示することで、残存肉厚の評価を実施できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は被検査体が導電性材料で、検査面の裏面から進展するき裂の先端から検査面までの残存肉厚を評価する用途に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】第1実施形態に係る残存肉厚の評価方法を示すフロー図である。
【図2】第2実施形態に係る残存肉厚の評価方法を示すフロー図である。
【図3】第3実施形態に係る残存肉厚の評価方法を示すフロー図である。
【図4】第4実施形態に係る残存肉厚の評価方法を示すフロー図である。
【図5】第5実施形態に係る残存肉厚の評価方法を示すフロー図である。
【図6】本発明に係る残存肉厚の評価装置を示すブロック図である。
【図7】残存肉厚と位相との関係を示す図である。
【図8】コイルが作る渦電流を模式的に示す図である。
【図9】コイルが作る渦電流の被検査体表面の振幅分布を示す図である。
【図10】コイルが作る渦電流の被検査体表面の位相分布を示す図である。
【図11】平面にコイルが作る渦電流の説明図である。
【図12】被検査体の表面方向の位相変化を示す図である。
【図13】き裂長さが長い場合のき裂長さと位相変化との関係を示す図である。
【図14】き裂長さが短い場合のき裂長さと位相変化との関係を示す図である。
【図15】き裂長さをパラメータとした残存肉厚特性を示すグラフ図である。
【図16】異なる試験周波数での被検査体表面の振幅分布を示すグラフ図である。
【図17】異なる試験周波数での欠陥長さと位相との関係を示すグラフ図である。
【図18】対比試験体を用いた校正曲線の作成方法を示す説明図である。
【図19】異なる2つの試験周波数による校正曲線を示すグラフ図である。
【図20】異なる4つの試験周波数による校正曲線を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0045】
11 検出コイル
12 励磁コイル
13 SUS316L試験体
14 スリット
15 励磁コイル
30 渦電流探傷プローブ
31 対比試験体
32 入力部
33 渦電流探傷器
34 演算部
35 メモリ
36 表示部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
渦電流探傷を利用して検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価する方法において、残存する肉厚が異なる複数のスリットを設けた対比試験体に対して複数の試験周波数による渦電流探傷を実施し、各スリットについての2つの異なる試験周波数間のECT信号の位相差と残存する肉厚との相関を示す校正曲線群を得ると共に、被検査体に対して前記複数の試験周波数による渦電流探傷を実施して前記2つの異なる試験周波数間のECT信号の位相差を算出し、算出された位相差と前記校正曲線群の位相差とを対比することにより被検査体の検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価することを特徴とする渦電流探傷による残存肉厚の評価方法。
【請求項2】
前記対比試験体に対する渦電流探傷を実施する際、各スリットごとに前記複数の試験周波数を切り替えることを特徴とする請求項1に記載の渦電流探傷による残存肉厚の評価方法。
【請求項3】
前記対比試験体に対する渦電流探傷を実施する際、前記試験周波数を第1の試験周波数に切り替えて前記複数のスリットの全てについての渦電流探傷を実施し、全てのスリットに対する第1の試験周波数による渦電流探傷が終了した後、試験周波数を第2の試験周波数に切り替えて再度前記複数のスリットの全てについての渦電流探傷を実施することを特徴とする請求項1に記載の渦電流探傷による残存肉厚の評価方法。
【請求項4】
前記被検査体に対する渦電流探傷を実施する際、前記複数の試験周波数のうちの周波数が低い方の試験周波数又はそれとは別の前記複数の試験周波数のうちの周波数が高い方の試験周波数よりも周波数が低い試験周波数で前記被検査体に対する渦電流探傷を実施し、き裂信号が得られない場合にはき裂なしと判断して試験を終了し、き裂信号が得られた場合には前記複数の試験周波数による渦電流探傷を実施することを特徴とする請求項1に記載の渦電流探傷による残存肉厚の評価方法。
【請求項5】
前記対比試験体に対する渦電流探傷を実施する際及び前記被検査体に対する渦電流探傷を実施する際、前記複数の試験周波数が重畳された多重周波数による渦電流探傷を実施することを特徴とする請求項1に記載の渦電流探傷による残存肉厚の評価方法。
【請求項6】
前記対比試験体として、肉厚方向に貫通したスリット及び残存する肉厚の大きさが異なる複数のスリットを設けた対比試験体を用い、貫通したスリットのECT信号を基準にして、前記校正曲線群を得る際の各試験周波数ごとのECT信号の位相を定めることを特徴とする請求項1に記載の渦電流探傷による残存肉厚の評価方法。
【請求項7】
渦電流探傷を利用して検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価する装置において、プローブと、残存肉厚が異なる複数のスリットを設けた対比試験体と、対比試験体に設けた残存肉厚値の入力部と、複数の試験周波数による測定が可能な渦電流探傷器と、2つの異なる試験周波数のECT信号の位相差を算出する演算部と、該位相差と対比試験体の残存肉厚値の記憶部と、被検査体の測定結果から求めた位相差の記憶部と、表示装置を備えたことを特徴とする渦電流探傷による残存肉厚の評価装置。
【請求項8】
渦電流探傷を利用して検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価する装置において、プローブと、肉厚方向に貫通したスリット及び残存肉厚の異なる複数スリットを設けた対比試験体と、対比試験体に設けた残存肉厚値の入力部と、複数の試験周波数による測定が可能な渦電流探傷器と、2つの異なる試験周波数のECT信号の位相差を算出する演算部と、該位相差と対比試験体の残存肉厚値の記憶部と、被検査体の測定結果から求めた位相差の記憶部と、表示装置を備えたことを特徴とする渦電流探傷による残存肉厚の評価装置。
【請求項1】
渦電流探傷を利用して検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価する方法において、残存する肉厚が異なる複数のスリットを設けた対比試験体に対して複数の試験周波数による渦電流探傷を実施し、各スリットについての2つの異なる試験周波数間のECT信号の位相差と残存する肉厚との相関を示す校正曲線群を得ると共に、被検査体に対して前記複数の試験周波数による渦電流探傷を実施して前記2つの異なる試験周波数間のECT信号の位相差を算出し、算出された位相差と前記校正曲線群の位相差とを対比することにより被検査体の検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価することを特徴とする渦電流探傷による残存肉厚の評価方法。
【請求項2】
前記対比試験体に対する渦電流探傷を実施する際、各スリットごとに前記複数の試験周波数を切り替えることを特徴とする請求項1に記載の渦電流探傷による残存肉厚の評価方法。
【請求項3】
前記対比試験体に対する渦電流探傷を実施する際、前記試験周波数を第1の試験周波数に切り替えて前記複数のスリットの全てについての渦電流探傷を実施し、全てのスリットに対する第1の試験周波数による渦電流探傷が終了した後、試験周波数を第2の試験周波数に切り替えて再度前記複数のスリットの全てについての渦電流探傷を実施することを特徴とする請求項1に記載の渦電流探傷による残存肉厚の評価方法。
【請求項4】
前記被検査体に対する渦電流探傷を実施する際、前記複数の試験周波数のうちの周波数が低い方の試験周波数又はそれとは別の前記複数の試験周波数のうちの周波数が高い方の試験周波数よりも周波数が低い試験周波数で前記被検査体に対する渦電流探傷を実施し、き裂信号が得られない場合にはき裂なしと判断して試験を終了し、き裂信号が得られた場合には前記複数の試験周波数による渦電流探傷を実施することを特徴とする請求項1に記載の渦電流探傷による残存肉厚の評価方法。
【請求項5】
前記対比試験体に対する渦電流探傷を実施する際及び前記被検査体に対する渦電流探傷を実施する際、前記複数の試験周波数が重畳された多重周波数による渦電流探傷を実施することを特徴とする請求項1に記載の渦電流探傷による残存肉厚の評価方法。
【請求項6】
前記対比試験体として、肉厚方向に貫通したスリット及び残存する肉厚の大きさが異なる複数のスリットを設けた対比試験体を用い、貫通したスリットのECT信号を基準にして、前記校正曲線群を得る際の各試験周波数ごとのECT信号の位相を定めることを特徴とする請求項1に記載の渦電流探傷による残存肉厚の評価方法。
【請求項7】
渦電流探傷を利用して検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価する装置において、プローブと、残存肉厚が異なる複数のスリットを設けた対比試験体と、対比試験体に設けた残存肉厚値の入力部と、複数の試験周波数による測定が可能な渦電流探傷器と、2つの異なる試験周波数のECT信号の位相差を算出する演算部と、該位相差と対比試験体の残存肉厚値の記憶部と、被検査体の測定結果から求めた位相差の記憶部と、表示装置を備えたことを特徴とする渦電流探傷による残存肉厚の評価装置。
【請求項8】
渦電流探傷を利用して検査面から内部き裂までの残存する肉厚を評価する装置において、プローブと、肉厚方向に貫通したスリット及び残存肉厚の異なる複数スリットを設けた対比試験体と、対比試験体に設けた残存肉厚値の入力部と、複数の試験周波数による測定が可能な渦電流探傷器と、2つの異なる試験周波数のECT信号の位相差を算出する演算部と、該位相差と対比試験体の残存肉厚値の記憶部と、被検査体の測定結果から求めた位相差の記憶部と、表示装置を備えたことを特徴とする渦電流探傷による残存肉厚の評価装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
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【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2007−240256(P2007−240256A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61274(P2006−61274)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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