説明

渦電流探傷方法

【課題】フレキシブルなプローブを用いて、曲面の検査をする場合でも、リフトオフ量を精度良く評価できる渦電流探傷方法を提供することにある。
【解決手段】励磁コイル1Aと検出コイル1Bの並び方向が検査面の曲面方向と同じ渦電流探傷プローブを用いる。ステップS60において、検査面に渦電流プローブを設置する前から、設置するまで信号において、X又はY成分のいずれかの最大値信号値V0と設置時点の信号値V1の大小関係を比較する。そして、ステップS70,S80にて、渦電流プローブを検査面に密着させる際に発生する検出のX成分又はY成分の信号値とリフトオフの特性と最大値信号値V0と設置時点の信号値V1のいずれかを用いて、リフトオフ特性からリフトオフ値を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流探傷方法に係り、特に、被検査体に対するプローブの密着性を確認するに好適な渦電流探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
渦電流探傷法は、導電性の被検査体を対象としてコイルにより発生する交流磁場により、被試験体に渦電流を誘起させ、欠陥による渦電流の乱れに起因するコイルのインピーダンス変化から欠陥の有無を評価する手法である。ここで、渦電流探傷はプローブと被検査体の距離であるリフトオフの変化によっても、信号が発生する。この特性を利用することでリフトオフを測定することが可能である。
【0003】
一方、プローブとして、広範囲の測定や曲面の検査が可能である複数のコイルを規則的に配列したフレキシブルに曲がるマルチコイルプローブが開発されている(例えば、引用文献1参照)。フレキシブルなプローブを用いることで、曲面の検査が可能となった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】第8回表面探傷シンポジウム講演論文集p.139−142
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、引用文献1記載のプローブで曲面の検査をする場合、検査面に密着しているかを評価することが必要となる。特に遠隔操作による狭隘部の検査では、検査面に対して適切に設置できたかの確認が重要となる。
【0006】
上述したリフトオフ変化による信号を利用して検査面への設置を評価する方法があるが、特許文献1記載のフレキシブルなプローブを用いた場合、リフトオフ信号にプローブの曲がりによる信号が重畳するため、リフトオフ量を精度良く評価できないという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、フレキシブルなプローブを用いて、曲面の検査をする場合でも、リフトオフ量を精度良く評価できる渦電流探傷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、励磁コイルと検出コイルの並び方向が検査面の曲面方向と同じ渦電流探傷プローブを用いて、前記検査面に前記渦電流プローブを設置する前から、設置するまで信号において、X又はY成分のいずれかの最大値信号値V0と設置時点の信号値V1の大小関係を比較する工程と、前記渦電流プローブを前記検査面に密着させる際に発生する検出のX成分又はY成分の信号値とリフトオフの特性と前記最大値信号値V0と前記設置時点の信号値V1のいずれかを用いて、前記リフトオフ特性からリフトオフ値を求める工程を備えるようにしたものである。
かかる方法により、フレキシブルなプローブを用いて、曲面の検査をする場合でも、リフトオフ量を精度良く評価できるものとなる。
【0009】
(2)また、上記目的を達成するために、本発明は、励磁コイルと検出コイルの並び方向が検査面の曲面方向と同じ渦電流探傷プローブを用いて、前記検査面に前記渦電流プローブを設置する前から、設置するまで信号において、X成分信号又はY成分信号から、最大値信号値V0と設置時点の信号値V1の大小関係を比較する工程と、前記渦電流プローブを前記検査面に密着させる際に発生する上に凸となる電圧特性を有するX成分又はY成分の最大値からの差電圧値とリフトオフの特性と、前記最大値信号値V0と前記設置時点の信号値V1との差電圧値を用いて、前記リフトオフ特性からリフトオフ値を求める工程を備えるようにしたものである。
かかる方法により、フレキシブルなプローブを用いて、曲面の検査をする場合でも、リフトオフ量を精度良く評価できるものとなる。
【0010】
(3)また、上記目的を達成するために、本発明は、励磁コイルと検出コイルの並び方向が検査面の曲面方向と同じ渦電流探傷プローブを用いて、前記検査面に前記渦電流プローブを設置する前から、設置するまで信号において、X成分信号又はY成分信号から、最大値信号値V0と設置時点の信号値V1の大小関係を比較する工程と、前記渦電流プローブを試験体に密着させる際に発生する下に凸となる電圧特性有するX成分又はY成分の最大値からの差電圧値とリフトオフの特性と、前記最大値信号値V0と前記設置時点の信号値V1との差電圧値を用いて、前記リフトオフ特性からリフトオフ値を求める工程を備えるようにしたものである。
かかる方法により、フレキシブルなプローブを用いて、曲面の検査をする場合でも、リフトオフ量を精度良く評価できるものとなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フレキシブルなプローブを用いて、曲面の検査をする場合でも、リフトオフ量を精度良く評価できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法にて用いるフレキシブルなマルチコイルプローブの構成の説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法にて用いるマルチコイルプローブの曲がりの影響の説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法にて用いるマルチコイルプローブの曲がりの影響の説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法にて用いるマルチコイルプローブの曲がりの影響の説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法における、リフトオフ信号と検査面の曲率の影響の説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法における、リフトオフ信号と検査面の曲率の影響の説明図である。
【図7】本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法における、リフトオフ信号と検査面の曲率の影響の説明図である。
【図8】本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法における、リフトオフ信号とリフトオフ量の関係を示す検量線の説明図である。
【図9】本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法を用いたリフトオフ量の算出方法を示すフローチャートである。
【図10】本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法を用いたリフトオフ量の算出方法の説明図である。
【図11】本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法を用いたリフトオフ量の算出方法の説明図である。
【図12】本発明の第2の実施形態による渦電流探傷方法で用いる検量線の説明図である。
【図13】本発明の第2の実施形態による渦電流探傷方法を用いたリフトオフ量の算出方法を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第2の実施形態による渦電流探傷方法を用いたリフトオフ量の算出方法の説明図である。
【図15】本発明の第2の実施形態による渦電流探傷方法を用いたリフトオフ量の算出方法の説明図である。
【図16】本発明の各実施形態による渦電流探傷方法におけるリフトオフ特性の評価法の他の例の説明図である。
【図17】本発明の第2の実施形態による渦電流探傷方法で対象とするリサージュ図形の説明図である。
【図18】本発明の第3の実施形態による渦電流探傷方法を用いたリフトオフ量の算出方法を示すフローチャートである。
【図19】本発明の第4の実施形態による渦電流探傷方法を用いたリフトオフ量の算出方法を示すフローチャートである。
【図20】本発明の各実施形態による渦電流探傷方法に用いるプローブの他の構成の説明図である。
【図21】本発明の各実施形態による渦電流探傷方法に用いるプローブの他の構成の説明図である。
【図22】本発明の各実施形態による渦電流探傷方法に用いるプローブの他の構成の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1〜図11を用いて、本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による渦電流探傷方法にて用いるフレキシブルなマルチコイルプローブの構成について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法にて用いるフレキシブルなマルチコイルプローブの構成の説明図である。図1(A)は平面図であり、図1(B)は正面図である。
【0014】
マルチコイルプローブPは、可撓性基板1に、複数のコイル1A,2A,…,(n+1)A,1B,2B,…,(n+1)Bを、規則的に取り付けたものとして構成される。図示の例では、コイル1A,2A,…,(n+1)Aは、可撓性基板1の長手方向に等間隔で配置される。また、コイル1B,2B,…,(n+1)Bも、可撓性基板1の長手方向に等間隔で配置される。コイル1A,2A,…,(n+1)Aと、コイル1B,2B,…,(n+1)Bとは、可撓性基板1の短手方向において、互い違いに、すなわち、千鳥配置で配置される。
【0015】
ここで、可撓性基板1の性質により、プローブ自体が曲がることで、被検査面の曲率に密着させることができる。
【0016】
複数のコイル1A,2A,…,(n+1)A,1B,2B,…,(n+1)Bの内、例えば、コイル1Aを励磁コイルとして用いて、検査部に渦電流を発生させ、励磁コイル以外の、例えば、コイル2Aを検出コイルとして用いることで、検出信号を得ることができる。
【0017】
本実施形態のマルチコイルプローブは、励磁コイルと検出コイルを有する相互誘導形標準比較型の渦電流探傷プローブであり、プローブと被検査面との距離(リフトオフ)に対応して信号が発生する。
【0018】
次に、図2〜図4を用いて、本実施形態による渦電流探傷方法にて用いるマルチコイルプローブの曲がりの影響について説明する。
図2〜図4は、本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法にて用いるマルチコイルプローブの曲がりの影響の説明図である。
【0019】
ここでは、励磁及び検出コイルの例として、図1に示したコイルnAを励磁コイルとしてこの励磁コイルにより励磁して、コイル(n+1)A,nBを検出コイルとして利用する場合の、プローブの曲がりによる影響について説明する。
【0020】
図2において、図2(A)は、プローブPを平坦に伸ばした状態である。それに対して、図2(B)はプローブPを曲げた状態である。
【0021】
図3は、図2(A)から図2(B)の状態にプローブの平坦度を変えた場合の、検出コイル(n+1)Aからの検出信号のリサージュ図形を示している。なお、検出コイルnBからは信号は発生しないものである。
【0022】
図3において、図2(A)のようにプローブを平坦に伸ばした状態におけるX成分及びY成分の出力を原点Aとする。この状態から、図2(B)に示すようにプローブを曲げると、それに応じて、リサージュ図形は、点Aから点Bに変化する。
【0023】
これは、プローブが曲がることにより、図2に示した励磁コイルnAと検出コイル(n+1)Aの間隔が変化することに起因する現象である。例えば、図4に示すように、励磁コイル1Aと検出コイル2Aは、曲げによりコイル間隔の変化することから、検出コイル2Aと鎖交する磁束5が変化し信号が発生する。
【0024】
これに対して、検出コイル1Bは、検出コイル2Aとほぼ90度異なる位置に配置している,すなわち、可撓性基板1の短手方向に配列されているため、図2(B)に示すように、プローブの可撓性基板1が長手方向に曲げられたとしても、短手方向には曲げられないため、検出コイルnBからは信号は発生しないものである。つまり、図4の紙面に垂直な方向(以下、「曲面方向」と称する)に励磁コイルと検出コイルが配置される位置関係では、プローブが曲がることによるコイル間隔変化がないため、信号は発生しないものである。
【0025】
次に、図5〜図7を用いて、本実施形態による渦電流探傷方法における、リフトオフ信号と検査面の曲率の影響について説明する。
図5〜図7は、本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法における、リフトオフ信号と検査面の曲率の影響の説明図である。
【0026】
ここでは、プローブ曲がりによる信号が発生しない、励磁コイルと検出コイルの位置関係が曲面方向である場合に関して説明する。すなわち、例えば、図1に示したコイルnAを励磁コイルとして用い、コイルnBを検出コイルとして用いる。
【0027】
特性評価として、図5に示すように、プローブPを平面状の試験体10に配置した「状態3」から、プローブPを離した「状態1」とし、この間の、リフトオフ量を増大させていく場合の信号を検出して、特性を評価する。
【0028】
また、図6に示すように、プローブPを曲面を有する試験体10’の表面に配置した「状態4」から、プローブPを曲げたままの状態で、試験体10’の表面から離していく信号、つまり、リフトオフ量を増大させていく特性を測定する。
【0029】
図7は、励磁コイルと検出コイルの間隔5mm、試験周波数100kHzでの実測結果を示している。試験体としては、曲率半径30mm,65mm,100mmの曲面を有する試験体と、平面を有する試験体の4種類を用いている。
【0030】
そして、プローブPが試験体の表面に接触している状態における検出信号のX方向成分及びY方向成分がそれぞれ0となるように、0点調整し、その後、図5若しくは図6にて説明したように、プローブを試験体の表面から徐々に離し、そのときのプローブの検出コイルからの信号によりリサージュ図形を描いたものが、図7である。
【0031】
図7において、実線は、試験体が平板の場合のリフトオフ信号のリサージュ図形を示し、破線は、試験体が曲率半径100mmの曲面を有する試験体の場合のリフトオフ信号のリサージュ図形を示している。一点鎖線は試験体が曲率半径65mmの曲面を有する試験体の場合のリフトオフ信号のリサージュ図形を示し、2点鎖線は試験体が曲率半径30mmの曲面を有する試験体の場合のリフトオフ信号のリサージュ図形を示している。
【0032】
図7より、励磁コイルと検出コイルの位置関係が曲面方向である条件では、リフトオフによる信号はほぼ同じように発生することが分かる。図7において、符号LF1で示すX成分電圧及びY成分電圧が0であり、プローブPが試験体に接触している場合の信号である。それに対して、プローブPが試験体から離れると、図7の例では、Y成分電圧が増加し、X成分電圧が減少する。符号LF2の付近においてY成分電圧が最大となる。この状態からさらにプローブPを試験体から離すと、Y成分電圧が減少し、X成分電圧は減少する。
【0033】
このように、励磁コイルと検出コイルの位置関係が曲面方向である場合、リフトオフ信号は曲率の影響を殆ど受けないといえる。そこで、本実施形態では、この特性を利用することで、検査面の曲率に関係なくリフトオフを評価するようにしている。
【0034】
次に、図8を用いて、本実施形態による渦電流探傷方法における、リフトオフ信号とリフトオフ量の関係を示す検量線について説明する。
図8は、本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法における、リフトオフ信号とリフトオフ量の関係を示す検量線の説明図である。
【0035】
図8は、平板の試験体による試験結果を基に作成した検量線を示している。図8において、縦軸の信号電圧は、図7におけるY成分電圧を示し、横軸はリフトオフ量(プローブと試験体の距離)を示している。
【0036】
検量線は、図7のプローブの密着状態を示す点LF1から、リフトオフの増加による通過点を示す点LF2を示す特性と、点LF2から点LF3までの変化を示す特性Bから構成される。
【0037】
この特性を利用して、図8にて後述する手順により、曲面にプローブを設置した際のリフトオフ量を評価できる。
【0038】
次に、図9〜図11を用いて、本実施形態による渦電流探傷方法を用いたリフトオフ量の算出方法について説明する。
図9は、本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法を用いたリフトオフ量の算出方法を示すフローチャートである。図10及び図11は、本発明の第1の実施形態による渦電流探傷方法を用いたリフトオフ量の算出方法の説明図である。図10(A)はリサージュ図形を示し、図10(B)はY信号成分の時間変化を示している。図11(A)はリサージュ図形を示し、図11(B)はY信号成分の時間変化を示している。
【0039】
ステップS10において、検査面に設置する前の状態で出力信号の0V設定を実施する。例えば、図10(A)に示すように、プローブPを検査面に設置する前の状態で、出力信号のY成分及びX成分が点LF3’のようにそれぞれ0Vとなるように、設定する。
【0040】
次に、ステップS20において、測定を開始し、ステップS30において、その後プローブPを検査面に接近させて、最終的に検査面にプローブPを押し付けて設置する。この間の信号を検出することで、ステップS40において、信号測定終了となる。
【0041】
次に、ステップS50において、励磁コイルと検出コイルが曲面方向と同じ方向に配置されている検出コイル信号に関して、最大値V0及び設置後の信号値V1を抽出する。例えば、図10(A)に示す例では、点LF2’の時のY成分が最大電圧V0となり、プローブPが検査面に押し付けられた時の点LF1’のY成分が設置後の電圧V1となる。
【0042】
そして、ステップS60において、電圧V0と電圧V1の大小比較を実施する。V0>V1の場合、リサージュ波形では図10に示すような場合である。最大値V0は点LF2’であり、設置後の信号値V1は点LF1’である。この値は、図10(B)に示すY成分信号は、それぞれLF2’、LF1’に対応する。
【0043】
この場合、ステップS70において、リフトオフ量の評価は、図8に示した検量線の特性Aを利用してリフトオフ量を算出する。
【0044】
一方、これ以外の場合(V0=V1)、リサージュ波形では図11に示すような場合で、大きなリフトオフ量の状態で設置した場合である。最大値V0と設置後の信号値V1は点LF1’で、同一点となる。
【0045】
この場合、ステップS80において、リフトオフ量の評価は、図8に示した検量線の特性Bを利用してリフトオフ量を算出する。
【0046】
このようにして算出されたリフトオフ量から、被検査面にプローブを押付けた際の密着性を確認できるので、適切な探傷が実施可能となる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、フレキシブルなプローブを用いて、曲面の検査をする場合でも、リフトオフ量を精度良く評価できるものとなる。
【0048】
次に、図12〜図15を用いて、本発明の第2の実施形態による渦電流探傷方法について説明する。なお、本実施形態による渦電流探傷方法にて用いるフレキシブルなマルチコイルプローブの構成は、図1に示したものと同様である。
【0049】
最初に、図12を用いて、本実施形態で用いる検量線について説明する。
図12は、本発明の第2の実施形態による渦電流探傷方法で用いる検量線の説明図である。
【0050】
本実施形態は、プローブを検査面に設置する過程において、検査面以外の近傍構造物と接近又は接触するような場合に適用される。この状態では、測定開始時点で構造物の信号が含まれている可能性があるため、上述した第1の実施形態で示した測定開始時点を基準点とすると、誤差を生じるために正確に評価できなくなる。そこで、基準点を図8の最大点LF2とする。
【0051】
図12は、基準点を図8の最大点LF2とした場合の検量線を示している。検量線は、横軸にリフトオフ量、縦軸にY成分信号における図8の最大点LF2からの差電圧として整理したものを利用する。
【0052】
図8のプローブの密着状態を示す点LF1からリフトオフの増加による通過点を示す点LF2’(リフトオフ量X)の特性A’を示す。
【0053】
図8の最大点LF2に対する差電圧を利用するため、リフトオフ量Xを越える領域に関しては、正確なリフトオフ量を求められないため、リフトオフ量は一律Xとの判定となる。ここで、リフトオフ量Xは、例えば、1mm程度である。一般に適切な探傷を行うためには、リフトオフ量は1mm以下にする必要がある。従って、本実施形態のように、リフトオフ量X(例えば、1mm)以上の領域のリフトオフ量が求められないとしても、格別問題になるものではない。
【0054】
次に、図13〜図15を用いて、本実施形態による渦電流探傷方法を用いたリフトオフ量の算出方法について説明する。
図13は、本発明の第2の実施形態による渦電流探傷方法を用いたリフトオフ量の算出方法を示すフローチャートである。図14及び図15は、本発明の第2の実施形態による渦電流探傷方法を用いたリフトオフ量の算出方法の説明図である。図14(A)はリサージュ図形を示し、図14(B)はY信号成分の時間変化を示している。図15(A)はリサージュ図形を示し、図15(B)はY信号成分の時間変化を示している。
【0055】
ステップS10において、検査面に設置する前の状態で出力信号の0V設定を実施する。例えば、図14(A)に示すように、プローブPを検査面に設置する前の状態で、出力信号のY成分及びX成分が点LF3’のようにそれぞれ0Vとなるように、設定する。
【0056】
次に、ステップS20において、測定を開始し、ステップS30において、その後プローブPを検査面に接近させて、最終的に検査面にプローブPを押し付けて設置する。この間の信号を検出することで、ステップS40において、信号測定終了となる。
【0057】
次に、ステップS50Aにおいて、励磁コイルと検出コイルが曲面方向と同じ方向に配置されている検出コイル信号に対して、X又はY成分のうち、リフトオフ特性で上に凸となる傾向を示す成分に関して、最大値V0及び設置後の信号値V1を抽出する。例えば、図14(A)に示す例では、点LF2’の時のY成分が最大電圧V0となり、プローブPが検査面に押し付けられた時の点LF1’のY成分が設置後の電圧V1となる。
【0058】
そして、ステップS60において、電圧V0と電圧V1の大小比較を実施する。V0>V1の場合、リサージュ波形では図10に示すような場合である。最大値V0は点LF2’であり、設置後の信号値V1は点LF1’である。この値は、図13(B)に示すY成分信号は、それぞれLF2’、LF1’に対応する。
【0059】
この場合、ステップS70において、リフトオフ量の評価は、図12に示した検量線の特性A’を利用してリフトオフ量を算出する。
【0060】
一方、これ以外の場合(V0=V1)、リサージュ波形では図15に示すような場合で、大きなリフトオフ量の状態で設置した場合である。最大値V0と設置後の信号値V1は点LF1’で、同一点となる。
【0061】
この場合、ステップS80Aにおいて、リフトオフ量の評価は、このリフトオフ量の評価は、全てリフトオフX以上として評価する。例えば、X以上と評価された場合、再度プローブの設置作業を実施して設置状態が良好となるように調整する。
【0062】
このようにして算出されたリフトオフ量から、被検査面にプローブを押付けた際の密着性を確認できるので、適切な探傷が実施可能となる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態によれば、フレキシブルなプローブを用いて、曲面の検査をする場合でも、リフトオフ量を精度良く評価できるものとなる。
【0064】
次に、図16を用いて、本発明の各実施形態による渦電流探傷方法におけるリフトオフ特性の評価法の他の例について説明する。
図16は、本発明の各実施形態による渦電流探傷方法におけるリフトオフ特性の評価法の他の例の説明図である。
【0065】
図9のステップS50若しくは図13のステップS50Aに関し、図10若しくは図14の説明では、リフトオフ特性信号のY成分で評価している。それに対して、探傷器の位相設定により、図16(A)に示すようにX成分で上に凸となる特性を示す場合がある。リサージュ波形で図16(A)に示すようなリフトオフ特性の場合は、図16(B)に示すように、X成分波形に最大値V0が発生する。この状態での評価手順は、X成分で上述したY成分と同様に検量線を求め、X成分で最大値V0及び設置後の信号値V1を求めるようにすることで、同様の評価が可能となる。なお、図16(C)はY成分波形を示している。
【0066】
次に、図17及び図18を用いて、本発明の第3の実施形態による渦電流探傷方法について説明する。なお、本実施形態による渦電流探傷方法にて用いるフレキシブルなマルチコイルプローブの構成は、図1に示したものと同様である。
【0067】
最初に、図17を用いて、本実施形態による渦電流探傷方法で対象とするリサージュ図形について説明する。
図17は、本発明の第2の実施形態による渦電流探傷方法で対象とするリサージュ図形の説明図である。
【0068】
ここで、探傷器の内部処理等の違いにより、リフトオフによるリサージュ波形が反転や転地されて出力される場合がある。本実施形態は、このような場合に適応できるものである。
【0069】
ここで、図17(A)に示すように、リサージュ波形のリフトオフ特性となり、対応するX成分波形は図17(B)に示すようになり、Y成分波形は図17(C)に示すようになる。ここで、図17(C)に示すように、Y成分波形は下に凸となる。評価手順は、図18を用いて説明するが、最大値V0及び設置後の信号値V1の大小比較が逆となる。
【0070】
次に、図18を用いて、本実施形態による渦電流探傷方法を用いたリフトオフ量の算出方法について説明する。
図18は、本発明の第3の実施形態による渦電流探傷方法を用いたリフトオフ量の算出方法を示すフローチャートである。
【0071】
ステップS10において、検査面に設置する前の状態で出力信号の0V設定を実施する。例えば、図14(A)に示すように、プローブPを検査面に設置する前の状態で、出力信号のY成分及びX成分が点LF3’のようにそれぞれ0Vとなるように、設定する。
【0072】
次に、ステップS20において、測定を開始し、ステップS30において、その後プローブPを検査面に接近させて、最終的に検査面にプローブPを押し付けて設置する。この間の信号を検出することで、ステップS40において、信号測定終了となる。
【0073】
次に、ステップS50Aにおいて、励磁コイルと検出コイルが曲面方向と同じ方向に配置されている検出コイル信号に対して、X又はY成分のうち、リフトオフ特性で上に凸となる傾向を示す成分に関して、最大値V0及び設置後の信号値V1を抽出する。例えば、図14(A)に示す例では、点LF2’の時のY成分が最大電圧V0となり、プローブPが検査面に押し付けられた時の点LF1’のY成分が設置後の電圧V1となる。
【0074】
そして、ステップS60Bにおいて、電圧V0と電圧V1の大小比較を実施する。V0<V1の場合、ステップS70において、リサージュ波形の最小点に対応するリフトオフ量より小さい領域の検量線を利用してリフトオフ量を算出する。検量線は、Y成分が下に凸となる状態で予め作成しておく
一方、これ以外の場合(V0=V1)、 リサージュ波形の最小点に対応するリフトオフ量より大きな領域の検量線を利用するリフトオフ量を算出する。
【0075】
このようにして算出されたリフトオフ量から、被検査面にプローブを押付けた際の密着性を確認できるので、適切な探傷が実施可能となる。
【0076】
以上説明したように、本実施形態によれば、フレキシブルなプローブを用いて、曲面の検査をする場合でも、リフトオフ量を精度良く評価できるものとなる。
【0077】
次に、図19を用いて、本発明の第4の実施形態による渦電流探傷方法について説明する。なお、本実施形態による渦電流探傷方法にて用いるフレキシブルなマルチコイルプローブの構成は、図1に示したものと同様である。
図19は、本発明の第4の実施形態による渦電流探傷方法を用いたリフトオフ量の算出方法を示すフローチャートである。
【0078】
本実施形態は、図13に示した第2の実施形態において、図18に示した第3の実施形態のように、 リフトオフによるリサージュ波形が反転や転地されて出力される場合の例である。
【0079】
ステップS10において、検査面に設置する前の状態で出力信号の0V設定を実施する。例えば、図14(A)に示すように、プローブPを検査面に設置する前の状態で、出力信号のY成分及びX成分が点LF3’のようにそれぞれ0Vとなるように、設定する。
【0080】
次に、ステップS20において、測定を開始し、ステップS30において、その後プローブPを検査面に接近させて、最終的に検査面にプローブPを押し付けて設置する。この間の信号を検出することで、ステップS40において、信号測定終了となる。
【0081】
次に、ステップS50Aにおいて、励磁コイルと検出コイルが曲面方向と同じ方向に配置されている検出コイル信号に対して、X又はY成分のうち、リフトオフ特性で上に凸となる傾向を示す成分に関して、最大値V0及び設置後の信号値V1を抽出する。例えば、図14(A)に示す例では、点LF2’の時のY成分が最大電圧V0となり、プローブPが検査面に押し付けられた時の点LF1’のY成分が設置後の電圧V1となる。
【0082】
そして、ステップS60Bにおいて、電圧V0と電圧V1の大小比較を実施する。V0<V1の場合、ステップS70において、リサージュ波形の最小点に対応するリフトオフ量より小さい領域の検量線を利用してリフトオフ量を算出する。検量線は、Y成分が下に凸となる状態で予め作成しておく。
【0083】
一方、これ以外の場合(V0=V1)、ステップS80Aにおいて、このリフトオフ量の評価は、全てXとして評価する。例えば、Xと評価された場合、再度プローブの設置作業を実施して設置状態が良好となるように調整する。
【0084】
このようにして算出されたリフトオフ量から、被検査面にプローブを押付けた際の密着性を確認できるので、適切な探傷が実施可能となる。
【0085】
以上説明したように、本実施形態によれば、フレキシブルなプローブを用いて、曲面の検査をする場合でも、リフトオフ量を精度良く評価できるものとなる。
【0086】
なお、第3と4の実施形態は、リフトオフ特性信号のY成分で評価した例であったが、探傷器の位相設定により、X成分で下に凸となる特性を示す場合がある。この状態での評価手順は、X成分で検量線を求め、X成分で最大値V0及び設置後の信号値V1を求めるようにすることで同様の評価が可能となる。
【0087】
以上説明したように、本発明の各実施形態によれば、プローブの曲がりの影響を受けないコイル配置による信号を測定して、リサージュ波形のX成分又はY成分の何れかに着目し、ピーク値からの信号変化分を利用して、プローブの密着性を確認することができる。したがって、被検査面にプローブを押付けた際の密着性を確認できるので、適切な探傷が実施可能となる。
【0088】
次に、図20〜図22を用いて、本発明の各実施形態による渦電流探傷方法に用いるプローブの他の構成について説明する。
図20及び図21は、本発明の各実施形態による渦電流探傷方法に用いるプローブの他の構成の説明図である。
【0089】
図20は、マルチプローブP1の他の構成を示している。
【0090】
マルチコイルプローブP1は、可撓性基板1に、複数のコイル1A,2A,…,(n+1)A,1C,2C,…,(n+1)Cを、規則的に取り付けたものとして構成される。図示の例では、コイル1A,2A,…,(n+1)Aは、可撓性基板1の長手方向に等間隔で配置される。また、コイル1C,2C,…,(n+1)Cも、可撓性基板1の長手方向に等間隔で配置される。コイル1A,2A,…,(n+1)Aと、コイル1C,2C,…,(n+1)Cとは、可撓性基板1の短手方向において、同じ位置に配置される。
【0091】
ここで、可撓性基板1の性質により、プローブ自体が曲がることで、被検査面の曲率に密着させることができる。
【0092】
複数のコイル1A,2A,…,(n+1)A,1C,2C,…,(n+1)Cの内、例えば、コイル1Aを励磁コイルとして用いて、検査部に渦電流を発生させ、励磁コイル以外の、例えば、コイル2Aを検出コイルとして用いることで、検出信号を得ることができる。
【0093】
本実施形態のマルチコイルプローブは、励磁コイルと検出コイルを有する相互誘導形標準比較型の渦電流探傷プローブであり、プローブと被検査面との距離(リフトオフ)に対応して信号が発生する。
【0094】
図21は、シングルプローブP2の一例の構成を示している。
【0095】
シングルプローブP2は、可撓性基板1に、複数のコイル1D,1Eを取り付けたものとして構成される。
【0096】
ここで、可撓性基板1の性質により、プローブ自体が曲がることで、被検査面の曲率に密着させることができる。
【0097】
複数のコイル1D,1Eの内、例えば、コイル1Dを励磁コイルとして用いて、検査部に渦電流を発生させ、励磁コイル以外の、例えば、コイル1Eを検出コイルとして用いることで、検出信号を得ることができる。
【0098】
本実施形態のシングルプローブは、励磁コイルと検出コイルを有する相互誘導形標準比較型の渦電流探傷プローブであり、プローブと被検査面との距離(リフトオフ)に対応して信号が発生する。
【0099】
図22は、シングルプローブP3の他の例の構成を示している。
【0100】
シングルプローブP3は、可撓性基板1に、複数のコイル1F,2F,1G,2Gを取り付けたものとして構成される。
【0101】
ここで、可撓性基板1の性質により、プローブ自体が曲がることで、被検査面の曲率に密着させることができる。
【0102】
複数のコイル1F,2F,1G,2Gの内、例えば、コイル1Fを励磁コイルとして用いて、検査部に渦電流を発生させ、励磁コイル以外の、例えば、コイル2Fや1Gを検出コイルとして用いることで、検出信号を得ることができる。
【0103】
本実施形態のマルチコイルプローブは、励磁コイルと検出コイルを有する相互誘導形標準比較型の渦電流探傷プローブであり、プローブと被検査面との距離(リフトオフ)に対応して信号が発生する。
【符号の説明】
【0104】
P…プローブ
1…可撓性基板
1A,1B…コイル
10…試験体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁コイルと検出コイルの並び方向が検査面の曲面方向と同じ渦電流探傷プローブを用いて、
前記検査面に前記渦電流プローブを設置する前から、設置するまで信号において、X又はY成分のいずれかの最大値信号値V0と設置時点の信号値V1の大小関係を比較する工程と、
前記渦電流プローブを前記検査面に密着させる際に発生する検出のX成分又はY成分の信号値とリフトオフの特性と前記最大値信号値V0と前記設置時点の信号値V1のいずれかを用いて、前記リフトオフ特性からリフトオフ値を求める工程を備えることを特徴とする渦電流探傷方法。
【請求項2】
励磁コイルと検出コイルの並び方向が検査面の曲面方向と同じ渦電流探傷プローブを用いて、
前記検査面に前記渦電流プローブを設置する前から、設置するまで信号において、X成分信号又はY成分信号から、最大値信号値V0と設置時点の信号値V1の大小関係を比較する工程と、
前記渦電流プローブを前記検査面に密着させる際に発生する上に凸となる電圧特性を有するX成分又はY成分の最大値からの差電圧値とリフトオフの特性と、前記最大値信号値V0と前記設置時点の信号値V1との差電圧値を用いて、前記リフトオフ特性からリフトオフ値を求める工程を備えることを特徴とする渦電流探傷方法。
【請求項3】
励磁コイルと検出コイルの並び方向が検査面の曲面方向と同じ渦電流探傷プローブを用いて、
前記検査面に前記渦電流プローブを設置する前から、設置するまで信号において、X成分信号又はY成分信号から、最大値信号値V0と設置時点の信号値V1の大小関係を比較する工程と、
前記渦電流プローブを試験体に密着させる際に発生する下に凸となる電圧特性有するX成分又はY成分の最大値からの差電圧値とリフトオフの特性と、前記最大値信号値V0と前記設置時点の信号値V1との差電圧値を用いて、前記リフトオフ特性からリフトオフ値を求める工程を備えることを特徴とする渦電流探傷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−141238(P2012−141238A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510(P2011−510)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】