説明

温度応答性及び生分解性ポリデプシペプチド並びにその製造方法

【課題】 本発明は、医用材料として好適な温度応答性及び生分解性を兼ね備えたポリデプシペプチド、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】 一般式(I):
【化1】


(式中、R1はC1−6アルキル基、水酸基で置換されたC1−6アルキル基、又はC1−3アルコキシ基で置換されたC1−6アルキル基、R2は水素原子又はメチル基、xは4以上の整数であり、yは0以上の整数であり、nは1又は2を示す)
で表されるポリデプシペプチド、及びその製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用材料として好適な温度応答性と生分解性を兼ね備えたポリデプシペプチド化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、温度やpHなどの外部刺激に応答する高分子が様々な分野で注目されてきている。特に、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミドなどの温度応答性高分子は、インテリジェント材料として医用材料やドラッグデリバリーシステムへの応用が検討されてきた。しかし、これまでに知られている温度応答性高分子のほとんどはその主鎖がビニルポリマーで構成されているため生体内非分解性であり、生体内に残留することが禁忌とされる用途には適していなかった。
【0003】
また、特許文献1には、生物吸収性デプシペプチド重合体が記載されているが、該重合体の側鎖部分にN−アルキルカルバモイル基やカルボキシル基を有するものについては開示がない。
【0004】
近年、温度応答性及び生分解性のポリアミノ酸化合物が報告されている(例えば、非特許文献1及び2を参照)。しかし、これらの化合物は、主鎖がペプチド結合を有するため、生分解性が極めて緩和であり生体内に残留する可能性が高くなると考えられ、インジェクタブルポリマー製剤等の用途には必ずしも適していない。
【特許文献1】特開平1-211574号公報
【非特許文献1】S. Kobayashi et. al., Chem. Commun., 2003, 106-107
【非特許文献2】S. Kobayashi et. al., Biomacromolecules 2003, 4, 1132-1134
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来技術の問題点に鑑み、医用材料として好適な温度応答性及び生分解性を兼ね備えたポリデプシペプチド、並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、側鎖にイソプロピルアミド基を有し、主鎖に容易に加水分解されるエステル結合を有するポリデプシペプチド(ポリエステルアミド交互共重合体)が、温度応答性及び生分解性を兼ね備えた機能性高分子であることを見出し、さらにこれを発展させて本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は以下の温度応答性及び生分解性ポリデプシペプチド化合物並びにその製造方法を提供する。
【0008】
項1. 一般式(I):
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1はC1−6アルキル基、水酸基で置換されたC1−6アルキル基、又はC1−3アルコキシ基で置換されたC1−6アルキル基、R2は水素原子又はメチル基、xは4以上の整数であり、yは0以上の整数であり、nは1又は2を示す)
で表されるポリデプシペプチド。
【0011】
項2. 一般式(I)において、R1が直鎖又は分岐鎖のC1−4アルキル基、R2が水素原子、x+yが4〜400の整数、x/(x+y)が0.85〜1、nが1であり、数平均分子量が1000〜100000程度の項1に記載のポリデプシペプチド。
【0012】
項3. 一般式(II):
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R2は水素原子又はメチル基、xは4以上の整数であり、yは0以上の整数であり、nは1又は2を示す)
で表されるカルボン酸化合物に、一般式(III):
1NH2 (III)
(式中、R1はC1−6アルキル基、水酸基で置換されたC1−6アルキル基、又はC1−3アルコキシ基で置換されたC1−6アルキル基を示す)
で表されるアミノ化合物を反応させることを特徴とする、一般式(I):
【0015】
【化3】

【0016】
(但し、R1、R2、x、y及びnは前記に同じ)
で表されるポリデプシペプチドの製造方法。
【0017】
項4. 項1又は2に記載のポリデプシペプチドを含有するインジェクタブルポリマー製剤。
【0018】
項5. 項1又は2に記載のポリデプシペプチドのインジェクタブルポリマー製剤への使用。
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
ポリデプシペプチド
一般式(I)で表される本発明のポリデプシペプチドは、温度応答性及び生分解性を有する化合物である。
【0021】
一般式(I)において、R1で示されるC1−6アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル等の直鎖又は分岐鎖のC1−6アルキル基が挙げられる。好ましくは直鎖又は分岐鎖のC1−4アルキル基であり、より好ましくはエチル、n−プロピル、イソプロピルであり、特にイソプロピルが好ましい。
【0022】
1で示される水酸基で置換されたC1−6アルキル基としては、上記で示される直鎖又は分岐鎖のC1−6アルキル基に少なくとも1個の水酸基(好ましくは1個の水酸基)が置換した化合物が挙げられる。中でも、一般式:−(CH2p−OH(pは2〜6の整数)で表される直鎖の基が好ましく、より好ましくはpが4、5又は6である基である。
【0023】
1で示されるC1−3アルコキシ基で置換されたC1−6アルキル基としては、上記で示される直鎖又は分岐鎖のC1−6アルキル基に少なくとも1個のC1−3アルコキシ基(好ましくは1個のC1−3アルコキシ基)が置換した化合物が挙げられる。C1−3アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ又はイソプロポキシが挙げられる。好ましくは、一般式:−(CH2j−O(CH2kCH3(jは2〜6の整数、kは0又は1の整数)で表される直鎖の基であり、より好ましくはjが2であり、kが0又は1である基である。
【0024】
一般式(I)において、R2は水素原子又はメチル基であるが、好ましくは水素原子である。なお、R2がメチル基の場合、メチル基が結合する炭素原子が不斉炭素となり得る。本発明の高分子化合物においては、該不斉炭素の立体配置は(R)体、(S)体或いはそれらの混合物であってもよく、特に(S)体であるものが好ましい。
【0025】
一般式(I)において、xは4以上の整数であり、好ましくは10〜400の整数、より好ましくは30〜400の整数である。
【0026】
一般式(I)において、yは0以上の整数であり、好ましくは0〜40の整数、より好ましくは0〜4の整数である。特に、xとyとの関係が、x+yが4〜400の整数、好ましくは10〜400の整数、より好ましくは30〜400の整数であり、x/(x+y)が0.85〜1(好ましくは、0.9〜1、特に0.95〜1)を満たす場合に、本発明のポリデプシペプチドに好適な温度応答性及び生分解性が付与される。
【0027】
一般式(I)において、nは1又は2を示し、好ましくはnが1である。
【0028】
また、一般式(I)において、基:−(CH2n−CONHR1及び/又は基:−(CH2n−COOHが結合する炭素原子が不斉炭素となりうる。本発明の高分子化合物においては、該不斉炭素の立体配置は(R)体、(S)体或いはそれらの混合物であってもよい。特に、該不斉炭素の立体配置は、(S)体であるものが好ましい。後述するポリデプシペプチドの製造方法からも分かる様に、該不斉炭素は原料のα−アミノ酸(アスパラギン酸:Asp或いはグルタミン酸:Glu)のα−炭素に由来することから、該不斉炭素の立体配置が(S)体のものは、天然のL−アスパラギン酸に由来する。
【0029】
本発明のポリデプシペプチドは、数平均分子量(Mn)が1000〜100000程度であればよく、特に5000〜20000程度であることが好ましい。また、本発明のポリデプシペプチドは、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)が2以下、好ましくは1.0〜1.7の範囲にあり、分子量分布が狭いという特徴を有している。数平均分子量及び重量平均分子量は、例えばGPC(溶媒:ジメチルホルムアミド)等の公知の方法を用いて測定できる。
【0030】
本発明のポリデプシペプチドのうち好ましいものとして、一般式(I)においてR1が直鎖又は分岐鎖のC1−4アルキル基、R2が水素原子、x+yが4〜400の整数、x/(x+y)が0.85〜1を満たし、nが1であり、数平均分子量が1000〜100000程度である高分子化合物が挙げられる。
【0031】
本発明の高分子化合物のうち特に好ましいものとして、一般式(I)においてR1がイソプロピル基、R2が水素原子、x+yが30〜400の整数、x/(x+y)が0.9〜1を満たし、nが1であり、数平均分子量が5000〜20000程度である高分子化合物が挙げられる。
【0032】
ポリデプシペプチドの製造方法
一般式(I)で表されるポリデプシペプチドは、例えば次のようにして合成することができる。
【0033】
原料化合物としては、通常アスパラギン酸(Asp)又はグルタミン酸(Glu)を用いられる。該原料化合物であるアミノ酸の側鎖カルボン酸を、硫酸等の酸触媒存在下ベンジルアルコールによりベンジルエステル化し、塩基(トリエチルアミン等)の存在下、一般式(IV)で表される化合物(例えば、ブロモアセチルブロマイド)を反応させN−アシル化して化合物(V)を得る。次いで塩基(炭酸水素ナトリウム等)で閉環反応させて標記の化合物(VI)を得る。
【0034】
なお、X1及びX2で表されるハロゲン原子としては、それぞれ塩素原子、臭素原子等が挙げられ、このうち臭素原子が好ましい。この合成方法は、具体的には、例えば、T. Ouchi, et. al., Macromol. Chem. Phys. 197, 1823-1833 (1996) 等に準じて実施することができる。
【0035】
【化4】

【0036】
(式中、Bzlはベンジル、X1及びX2は同一又は異なるハロゲン原子を示し、R2及びnは前記に同じ)
続いて、上記化合物(VI)を触媒(スズ 2-エチルヘキサノエート等)を用いて開環重合させて化合物(VII)とし、これを酸触媒(トリフルオロメタンスルホン酸:TFMSA)により側鎖のベンジルエステルを遊離のカルボン酸に変換してカルボン酸化合物(II)を得る。さらに該化合物を、縮合剤(ジシクロヘキシルカルボジイミド及び1−ヒドロキシベンゾトリアゾール:DCC/HOBt等)の存在下、一般式(III)で表されるアミン化合物と反応させることにより、本発明の高分子化合物(I)を得る。
【0037】
【化5】

【0038】
(式中、Bzl、R1、R2、x、y及びnは前記に同じ)
ここで、一般式(III)で表されるアミノ化合物を原料化合物(II)に対し1等量以上(好ましくは1.3等量以上)用いた場合には、一般式(I)においてyは0となり側鎖に遊離のカルボン酸を含まないポリデプシペプチドが得られる。また、一般式(III)で表されるアミノ化合物の配合量を減少させた場合には、一般式(I)においてx/(x+y)<1となり遊離のカルボン酸を含むポリデプシペプチドが得られる。
【0039】
ポリデプシペプチドの性質及び用途
上述したように一般式(I)で表される本発明のポリデプシペプチドは、温度応答性及び生分解性を併せもつ点に特徴を有している。
【0040】
ここで温度応答性とは、一般に化合物の水溶液が下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature、LCST)以上の温度に加熱すると白濁し、それ以下の温度に冷却すると再び溶解して透明に戻るという可逆的な相分離挙動を示す性質をいう。
【0041】
本明細書において、曇点をもってLCSTとする。曇点とは、昇温過程において、光透過度が50%まで低下する温度を意味する。なお、澄明点とは、降温過程において、光透過度が50%まで上昇する温度を意味する。曇点及び澄明点は、例えば実施例5の条件に従って求めることができる。
【0042】
本発明のポリデプシペプチドは、25〜35℃程度の範囲にLCSTが存在する。このLCSTは、特定の濃度のポリデプシペプチド水溶液を、一定の温度変化の速度で昇温又は降温させて、特定波長の光の透過率を測定して曇天を評価することにより求めることができる。具体的には実施例5を参照すればよい。
【0043】
特に、本発明のポリデプシペプチドは、一般式(I)の組成(xとyの比)を一定の範囲内で変化させることによりLCSTを変化させることができる。このLCSTの変化の程度は、一般式(I)のポリデプシペプチドの置換基の構造、重合度等により若干変化するが上記の範囲内で可変である。
【0044】
例えば、一般式(I)のnが1、R1がC1−6アルキル基で示されるポリデプシペプチドにおいて、側鎖にカルボキシル基を有しない場合(yが0の場合)には曇点が29℃程度、澄明点が27℃程度となる。一方、側鎖にカルボキシル基を有する単位を9%程度有する場合(x/(x+y)が0.91の場合)には曇点が約31℃程度、澄明点が約33℃程度となり、yが0の場合よりLCST(曇点)が上昇する。すなわち、側鎖にカルボキシル基を有する単位の割合を増加させることにより、LCSTを上昇させることができる。
【0045】
しかし、側鎖にカルボキシル基を有する単位を20%程度有する場合(x/(x+y)が0.8の場合)には、曇点及び澄明点は観測されない(例えば、実施例5を参照)。
【0046】
従って、x及びyの設定が重要となり、x/(x+y)が0.85〜1(好ましくは、0.9〜1、特に0.95〜1)を満たす場合に、本発明のポリデプシペプチドに好適な温度応答性が付与される。さらに、一般式(I)において、nが1、R1がC1−3のアルキル基(特にイソプロピル基)、R2が水素原子、x+yが5000〜20000の整数であるポリデプシペプチドの場合にこの挙動がよくあてはまる。
【0047】
また、本発明のポリデプシペプチドは、主鎖にエステル結合及びアミド結合を有するポリエステル−アミド交互共重合体であり、医用材料として好適な生分解性を有している。
【0048】
背景技術の項でも述べたように、従来のポリ−N−イソプロピルアクリルアミド等の温度応答性高分子は、主鎖がポリエチレン鎖であるため十分な生体内での分解は望めない。また、非特許文献1及び2に記載された主鎖がアミド結合のみからなる温度応答性及び生分解性高分子では、アミド結合の加水分解は極めて緩和であり医用材料として用いる場合に体内の残留性が高く必ずしも満足できるものではない。
【0049】
その点、本発明のポリデプシペプチドは、医用材料として好適な生分解性を有しており、これらの先行技術とは一線を画するものであるといえる。例えば温度25〜40℃程度における純水中での分子量の半減期は48〜168時間程度であり、特に哺乳動物(特にヒト)の体温に近い36〜37℃程度では、該半減期は48〜96時間程度となる。しかも、本発明のポリデプシペプチドの水溶液は、一定時間において、LCSTよりも高い体温に近い温度での分解速度(分解率)が、LCST未満の温度での分解速度よりも遅くなるという特徴をも有している。これは、水中のポリデプシペプチドは、LCSTよりも高い温度では不溶状態にあり水との接触が少なくなるため、LCST未満の温度の溶液状態で存在する場合に比べ、ポリデプシペプチドの主鎖の加水分解が抑制されるためと考えられる。このように、温度コントロールにより分解速度を調節することも可能となる。
【0050】
このように、本発明のポリデプシペプチドは、室温(例えば10〜25℃程度)と体温(35〜37℃程度)の間にLCST(曇点)を有することから、温度応答性且つ生分解性ハイドロゲルとしての応用範囲は極めて広範である。
【0051】
例えば、ポリデプシペプチドと薬物とを含む医薬組成物とすることができる。特に本発明のポリデプシペプチドは、室温付近では溶液状態となり体温付近では不溶状態となるため、注射時には薬物を含む溶液状態で取扱が容易であり、体内に投与されて不溶物となり薬物の早期の拡散を抑制し特定部位での滞留性が向上する。そのため、本発明のポリデプシペプチドは、インジェクタブル製剤、特に持続性のインジェクタブル製剤における生分解性ポリマー材料として好適に用いることができる。投与形態としては、例えば、皮下注射、筋肉内注射等が挙げられる。
【0052】
該医薬組成物に用いられる薬物としては、特に限定されないが、生理活性を有するペプチド類、蛋白類、その他の抗生物質、抗腫瘍剤、解熱剤、鎮痛剤、消炎剤、鎮咳去痰剤、鎮静剤、筋弛緩剤、抗てんかん剤、抗潰瘍剤、抗うつ剤、抗アレルギー剤、強心剤、不整脈治療剤、血管拡張剤、降圧利尿剤、糖尿病治療剤、抗凝血剤、止血剤、抗結核剤、ホルモン剤、麻薬拮抗剤などがあげられる。
【0053】
本発明の医薬組成物における薬物の治療有効量は、持続性注射剤とした場合に数時間から数ケ月、持続的にその薬効を発現しうる量を放出することのできる薬物量をいうが、薬物の種類、持続放出させる期間等によって定められる。
【0054】
例えば約1週間〜約1ケ月の徐放製剤とするためには、通常ペプチド類の場合には医薬組成物100mgあたり約1μg〜50mg程度含有させればよい。
【発明の効果】
【0055】
本発明のポリデプシペプチドは、温度応答性及び生分解性を兼ね備えている。しかもこのポリデプシペプチドは、医用材料として好適な温度応答性及び生分解性を有していることから、特に、生分解性インジェクタブルポリマー製剤用材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
次に本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明がこれに限定されるものではない。
【0057】
実施例1(本発明の高分子化合物の製造)
(1)Macromol. Chem. Phys. 197, 1823-1833 (1996) に記載の方法に従い、下記のグリコール酸−アスパラギン酸交互共重合体(poly[Glc-alt-Asp])を製造した。
【0058】
【化6】

【0059】
得られたpoly[Glc-alt-Asp]のキャラクタリゼーション結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
(2)続いて、上記(1)で得られたpoly[Glc-alt-Asp]をイソプロピルアミンでアミド化して本発明のポリデプシペプチドpoly[Glc-alt-Asn(N-isopropyl)]を製造した。
【0062】
【化7】

【0063】
poly[Glc-alt-Asp]50mgのDMF1ml溶液に、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)89.3mgのDMF1ml溶液を加えて室温で1時間攪拌した。その後、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)58.6mgのDMF1ml溶液を加えて氷浴下で1時間、室温で1時間撹拌した後、イソプロピルアミン32.6μlを加えてさらに5時間攪拌した。反応液から吸引ろ過によってDicyclohexylureaを取り除いた後、DMFを濃縮し、中圧カラムを用いたゲルろ過(HW 40)によって精製することにより、ポリデプシペプチドpoly[Glc-alt-Asn(N-isopropyl)](DS100)を得た。
【0064】
目的物であるpoly[Glc-alt-Asn(N-isopropyl)]のキャラクタリゼーション結果を表2に示し、その1H-NMRチャートを図1に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
実施例2(温度応答性の確認)
実施例1で得られた(Poly[Glc-alt- Asn(N-isopropyl)])を1.0wt%になるように調製した水溶液をチューブに入れ、室温で放置したものとドライヤーで加熱したものを肉眼で観察した。その結果、室温で放置したものは透明な水溶液であったのに対して,ドライヤーで加熱すると瞬時に白濁し、逆さにしても流れ落ちない程の粘性を示した。
【0067】
図2に室温での水溶液の様子(図2の上)と、ドライヤーで加熱直後の様子(図2の下)を示した。このことからこのポリマー水溶液には温度応答性があることが確認された。
【0068】
実施例3
実施例1(1)で得られたpoly[Glc-alt-Asp]に対して、イソプロピルアミンを実施例1より減らして用いること以外は実施例1と同様に処理することにより、91%アミド化されたポリデプシペプチド(DS91)を得た。
【0069】
なお、アミド化率の測定は、得られるポリデプシペプチドにおけるイソプロピル基のメチンプロトン(f)とアミノ酸由来のα−炭素上のプロトン(a)との積分値の比から求めた(例えば、図1を参照)。
【0070】
実施例4
実施例1(1)で得られたpoly[Glc-alt-Asp]に対して、イソプロピルアミンを実施例1よりさらに減らして用いること以外は実施例1と同様に処理することにより、80%アミド化されたポリデプシペプチド(DS80)を得た。
【0071】
なお、アミド化率の測定は、得られるポリデプシペプチドにおけるイソプロピル基のメチンプロトン(f)とアミノ酸由来のα−炭素上のプロトン(a)との積分値の比から求めた(例えば、図1を参照)。
【0072】
実施例5(曇点の測定)
実施例1で得られたポリデプシペプチド(DS100)、実施例2で得られたポリデプシペプチド(DS91)及び実施例3で得られたポリデプシペプチド(DS80)の水溶液の曇点(可視光による透過率測定において温度を上昇させていった場合に水溶液の透過率が低温時の50%になる温度)および澄明点(同様に温度を下降させていった場合に水溶液の透過率が低温時の50%になる温度)を調べた。
【0073】
測定条件は下記の通りである。
【0074】
測定装置:ペルチェ式セル恒温装置付きUV-VIS分光光度計 GnenSpec V(那珂インスツルメンツ株式会社製)
測定方法:ポリマー水溶液(濃度5.0wt%)を分光器セルに入れ10℃〜50℃まで0.66℃/minの速度で昇温後、同じ速度で50℃〜10℃まで降温させ,500nmにおける透過率の変化を調べた。
【0075】
上記条件にて昇温、降温した際の透過率変化の結果を図3に示す。ポリデプシペプチド(DS100)について、昇温,降温ともに25〜30℃付近で急激に透過率が減少していることから、温度応答性が確認できた。また、曇点は約29℃、澄明点は約27℃と求められた。
【0076】
また、ポリデプシペプチド(DS91)の結果より、イソプロピルアミド基の導入率を低下させると親水性の増加により曇点が上昇することがわかった。また、ポリデプシペプチド(DS80)の結果より、イソプロピルアミド基の導入率が80 %以下になると温度応答性を示さなくなることがわかった。
【0077】
【表3】

【0078】
実施例6(生分解性の確認)
超純水に実施例1で得られたポリデプシペプチド(DS100)を溶解させ3wt%の溶液とし、バイアル瓶に1ml毎に小分けしてサンプルとした。各サンプルを所定の温度(25℃及び37℃)の水浴に漬けて、その漬け始めの時間を0とし、所定時間ごとにサンプルを取り出し、液体窒素および真空ポンプを用いて凍結乾燥させ試料を得た。こうして得られた試料の分子量をGPC(DMF、標準試料プルラン)で測定し、分解性を見積もった。
【0079】
図4は、測定開始から8時間までの分解性のデータを示す。横軸は経過時間(h)を、縦軸は相対分子量(%;原料の分子量に対する相対値)を表す。●は37℃、○は25℃における測定値である。なお、縦軸の相対分子量(%)は次のようにして求めた。
【0080】
相対分子量(%)=(Mt/M0)×100
0:原料の分子量
t:t時間後の分子量
図5は、測定開始から7日間までの分解性のデータを示す。●は37℃、○は25℃における測定値であり、縦軸の相対分子量(%)も上記と同様にして求めた。
【0081】
図6は、測定開始から7日後の分解物のマススペクトルを測定した結果を示す。図6より、重合度m=1,2…のものが顕著に確認できることから、モノマーレベルまで分解していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施例1で得られるポリデプシペプチドの1H−NMRチャートである。
【図2】実施例1で得られるポリデプシペプチドの室温での水溶液の様子(上)とドライヤーで加熱直後の水溶液の様子(下)を示す図である。
【図3】実施例1で得られるポリデプシペプチドの昇温及び降温した際の透過率変化の結果を示すグラフである。
【図4】実施例1で得られるポリデプシペプチドの純水中での分解挙動を示す(開始から8時間)。
【図5】実施例1で得られるポリデプシペプチドの純水中での分解挙動を示す(開始から7日間)。
【図6】実施例1で得られるポリデプシペプチドの純水中7日間後における分解サンプルのマススペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】

(式中、R1はC1−6アルキル基、水酸基で置換されたC1−6アルキル基、又はC1−3アルコキシ基で置換されたC1−6アルキル基、R2は水素原子又はメチル基、xは4以上の整数であり、yは0以上の整数であり、nは1又は2を示す)
で表されるポリデプシペプチド。
【請求項2】
一般式(I)において、R1が直鎖又は分岐鎖のC1−4アルキル基、R2が水素原子、x+yが4〜400の整数、x/(x+y)が0.85〜1、nが1であり、数平均分子量が1000〜100000程度の請求項1に記載のポリデプシペプチド。
【請求項3】
一般式(II):
【化2】

(式中、R2は水素原子又はメチル基、xは4以上の整数であり、yは0以上の整数であり、nは1又は2を示す)
で表されるカルボン酸化合物に、一般式(III):
1NH2 (III)
(式中、R1はC1−6アルキル基、水酸基で置換されたC1−6アルキル基、又はC1−3アルコキシ基で置換されたC1−6アルキル基を示す)
で表されるアミノ化合物を反応させることを特徴とする、一般式(I):
【化3】

(但し、R1、R2、x、y及びnは前記に同じ)
で表されるポリデプシペプチドの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリデプシペプチドを含有するインジェクタブルポリマー製剤。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−56046(P2007−56046A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−414275(P2003−414275)
【出願日】平成15年12月12日(2003.12.12)
【出願人】(503458788)
【Fターム(参考)】