説明

温度補償型光ファイバブラッググレーティング

【課題】高精度に温度補償することができる温度補償型光ファイバブラッググレーティングの提供。
【解決手段】光ファイバの一部にグレーティング部が形成され、該グレーティング部を含む光ファイバが基材に固定された光ファイバブラッググレーティングにおいて、2種類以上の負膨張繊維を組み合わせて含む基材にグレーティング部を含む光ファイバが固定されたことを特徴とする温度補償型光ファイバブラッググレーティング。負膨張繊維が2種類であり、これらの負膨張繊維の線膨張係数の差が5×10−6以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバブラックグレーティング(以下、FBGと略記する。)に関し、特に、FBGの温度特性を安定させる構造を有し、光通信及び歪センサとして使用される温度補償型FBGに関する。
【背景技術】
【0002】
FBGの中心波長は、温度変化に対応して変化する(0.01nm/℃)ため、正確に安定して中心波長を測定したい場合、温度感度を低減する必要がある。FBGの中心波長の温度補償方法としては、負の熱膨張係数を持つ基材に正の膨張係数を持つFBGを固定する方法が知られている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0003】
特許文献1には、光フィルタ素子と、該光フィルタ素子の波長温度依存性に対して逆の寸法温度依存性を有する補助材とを、該光フィルタ素子のフィルタ波長が目的の値となる温度において固定したことを特徴とする光フィルタが開示されている。
【0004】
特許文献2には、屈折率が周期的に変化するグレーティングが形成されている光ファイバが、負の熱膨張係数を有する繊維を含有する樹脂浸透フィルムで挟み込まれていることを特徴とする温度無依存光ファイバグレーティングが開示されている。
【0005】
一般的な温度補償型FBGの構造を図1に示す。図中符号1は温度補償型FBG、2は光ファイバ、3はグレーティング部、4は負膨張基材、5は接着剤である。この温度補償型FBG1は、光ファイバ2の一部にグレーティング部3が形成され、該グレーティング部3を含む光ファイバ2が負膨張基材4に固定された構造になっている。通常、この種の温度補償型FBG1は、中心波長を調整するため張力を印加した状態で基材に固定される(0.013nm/gf)。
【0006】
ここで、温度補償の原理について説明する。
温度が上がるとFBGの屈折率変化に伴い、0.01nm/℃のレートで中心波長が長波に変動しようとする。このとき、負膨張基材4は温度上昇に伴い縮むため、張力が0.013nm/gfのレートで緩むことを利用している。
【特許文献1】特開2003−344671号公報
【特許文献2】特開2004−109551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した特許文献1,2に開示された技術情報に従って実施を試みたところ、以下の問題点に遭遇した。
特許文献1には、実施例として、樹脂にガラス繊維と超高分子量ポリエチレン繊維であるダイニーマ(東洋紡績株式会社の登録商標)との混合物を混ぜた負膨張基材にFBGを固定した構造が開示されているが、この構造では、ヒステリシスがあるため、同じ温度でも精度良く温度補償することができない(後述する実施例の<予備実験1>参照。)。また、ヒートサイクルを行うにつれて、中心波長が短波長側にずれていく(後述する実施例の<予備実験2>参照。)現象が見られた。
【0008】
特許文献2には、実施例として、超高分子量ポリエチレン繊維であるダイニーマ(東洋紡績株式会社の登録商標)を含む樹脂浸透フィルムでFBGを挟み、温度補償する構造が例示されている。しかし、この構造を実証した結果、繊維の負膨張度合いが強すぎて、温度補償度合いが悪い。すなわち、ダイニーマの線膨張係数が−10×10−6程度であり、一方、光ファイバの線膨張係数は0.5×10−6程度であることから、ヒステリシスがあるため、同じ温度でも精度よく温度補償することができない。
【0009】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、高精度に温度補償することができる温度補償型FBGの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明は、光ファイバの一部にグレーティング部が形成され、該グレーティング部を含む光ファイバが基材に固定されたFBGにおいて、
2種類以上の負膨張繊維を組み合わせて含む基材にグレーティング部を含む光ファイバが固定されたことを特徴とする温度補償型FBGを提供する。
【0011】
本発明の温度補償型FBGにおいて、負膨張繊維が2種類であり、これらの負膨張繊維の線膨張係数の差が5×10−6以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の温度補償型FBGにおいて、2種類の負膨張繊維の線膨張係数がそれぞれ−10×10−6、−6×10−6であることが好ましい。
【0013】
本発明の温度補償型FBGにおいて、2種類の負膨張繊維が超高分子量ポリエチレン繊維とポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維であることが好ましい。
【0014】
本発明の温度補償型FBGにおいて、基材が2種類の負膨張繊維を樹脂で固定したFRP基材であることが好ましい。
【0015】
前記温度補償型FBGにおいて、2種類の負膨張繊維を固定する樹脂がビニルエステル樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の温度補償型FBGは、2種類以上の負膨張繊維を組み合わせて含む基材にグレーティング部を含む光ファイバが固定された構成としたので、2種類以上の負膨張繊維の配合を最適化することで、光ファイバの温度変化を高精度に補償することができ、温度補償性能に優れたFBGを提供できる。
本発明の温度補償型FBGは、従来技術での単独の負膨張繊維を配合した場合と異なり、ヒステリシスが無いため、同じ温度であれば同じ中心波長が得られ、信頼性の高いものとなる。
本発明の温度補償型FBGは、予め10サイクル程度のヒートサイクルを行っておけば、その後のヒートサイクルでも中心波長が変化することが無くなり、長期的な信頼性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図2は、本発明の温度補償型FBGの第1実施形態を示す側面図である。本実施形態の温度補償型FBG10Aは、光ファイバ2の一部にグレーティング部3が形成され、2種類以上の負膨張繊維を組み合わせて含むFRP基材11にグレーティング部3を含む光ファイバ2が載置され、FRP基材11の両端部で紫外線硬化型接着剤などの接着剤5によって固定された構成になっている。
【0018】
本実施形態において、FRP基材11としては、負膨張繊維が2種類であり、これらの負膨張繊維の線膨張係数の差が5×10−6以下であることが好ましい。より具体的には、2種類の負膨張繊維の線膨張係数がそれぞれ−10×10−6、−6×10−6であることが好ましく、2種類の負膨張繊維が超高分子量ポリエチレン繊維とポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維であることがより好ましい。
【0019】
本実施形態において、FRP基材11は、前述した2種類の負膨張繊維を樹脂で固定してなるものであり、2種類の負膨張繊維を固定する樹脂としては、ビニルエステル樹脂であることが好ましい。このFRP基材11の寸法は、光ファイバ2(グレーティング部3)の温度補償を確実に行うことができる機械的強度が得られる範囲で適宜設定可能である。また、FRP基材11の形状も、光ファイバ2の温度補償を確実に行うことができれば、特に限定されない。
【0020】
本実施形態の温度補償型FBG10Aは、2種類の負膨張繊維を組み合わせて含むFRP基材11にグレーティング部3を含む光ファイバ3が固定された構成としたので、2種類の負膨張繊維の配合を最適化することで、光ファイバ2の温度変化を高精度に補償することができ、温度補償性能に優れたFBGを実現できる。
本実施形態の温度補償型FBG10Aは、従来技術での単独の負膨張繊維を配合した場合と異なり、ヒステリシスが無いため、同じ温度であれば同じ中心波長が得られ、信頼性の高いものとなる。
本実施形態の温度補償型FBG10Aは、予め10サイクル程度のヒートサイクルを行っておけば、その後のヒートサイクルでも中心波長が変化することが無くなり、長期的な信頼性を確保することができる。
【0021】
図3は、本発明の温度補償型FBGの第2実施形態を示す側面図である。本実施形態の温度補償型FBG10Bは、図2に示す第1実施形態の温度補償型FBG10Aと同様の構成要素を備えて構成されている。本実施形態の温度補償型FBG10Bは、FRP基材11の表面に光ファイバ2を載置し、その長手方向全域で固定したことを特徴としている。本実施形態の温度補償型FBG10Bは、前述した第1実施形態の温度補償型FBG10Aとほぼ同様の効果を得ることができ、さらに、FRP基材11と光ファイバ2との固着部分が大きくなるので、FRP基材11による温度補償効果をより確実に発揮することができる。
【0022】
図4は、本発明の温度補償型FBGの第3実施形態を示す側面図である。本実施形態の温度補償型FBG10Cは、FRP基材の形状以外は、図2に示す第1実施形態の温度補償型FBG10Aと同様の構成要素を備えて構成されている。本実施形態の温度補償型FBG10Bは、円筒状のFRP基材11を用い、その円筒内に光ファイバ2のグレーティング部3とその両側部分を収容し、接着剤又は基材樹脂との溶着によってFRP基材11と光ファイバ2とを固定した構造になっている。本実施形態の温度補償型FBG10Bは、前述した第1実施形態の温度補償型FBG10Aとほぼ同様の効果を得ることができ、さらに、円筒状のFRP基材11内に光ファイバ2のグレーティング部3を収容し、固定しているので、機械的強度を高めることができる。
【実施例】
【0023】
<予備実験1>
超高分子量ポリエチレン繊維であるダイニーマ(東洋紡績株式会社の登録商標、線膨張係数:−10×10−6、以下「ダイニーマ」と記す。)とガラス繊維(線膨張係数:8×10−6)の配合を変えて作製した3種類のFRP基材(A〜C)を作製した。FRP基材の各繊維の配合条件は、次の通りとした(質量比)。
A:ダイニーマ:ガラス繊維=9:1
B:ダイニーマ:ガラス繊維=8:2
C:ダイニーマ:ガラス繊維=7.5:2.5
【0024】
前記の通り作製したA〜Cの各FRP基材に、それぞれグレーティング部を形成した光ファイバを載置し、一定の張力を印加した状態で紫外線硬化型接着剤により固定し(図1参照)、3種類のFBG(A〜C)を作製した。
【0025】
A〜Cの各FBGを温度調節可能な測定室内に入れ、各FBGの反射中心波長を測定しながら、測定室の温度を、−20℃〜80℃の範囲で50サイクル変化させ、測定温度−20℃〜80℃の範囲における各FBGの反射中心波長シフトを測定した。各温度での待ち時間は30分とした。その測定結果を図5に示す。なお、図5に示す結果は、各FBGとも−20℃の時の波長を基準とし、25サイクル目の中心波長変動値である。
【0026】
図5より、ダイニーマとガラス繊維の配合を変えることで、温度補償することが可能であるが、ヒステリシスがあるため、同じ温度でも精度よく温度補償することができない。この原因としては、ダイニーマの線膨張係数(−10×10−6)とガラス繊維の線膨張係数(8×10−6)の差が大きいため、温度変化によって二つの繊維間の引っ張りによる微小な変形(歪)が発生している為と考えられる。
【0027】
<予備実験2>
予備実験1で作製したA〜Cの各FBGについて、同様に温度調節可能な測定室内に入れ、各FBGの反射中心波長を測定しながら、測定室の温度を、−20℃〜80℃の範囲で50サイクル変化させ、60℃における中心波長を基準として、中心波長のヒートサイクル回数依存度を調べた。その測定結果を図6に示す。
【0028】
図6より、ヒートサイクルを行うにつれて、中心波長が短波長側にずれていくことが多かった。この原因としては、ダイニーマの線膨張係数(−10×10−6)とガラス繊維の線膨張係数(8×10−6)の差が大きい為、ヒートサイクルによる熱履歴によって、二つの繊維間の引っ張りによる微小な変形(歪)が大きくなっている為と考えられる。このため、ダイニーマ+ガラス繊維の組み合わせでは、長期的な信頼性は望めない。
【0029】
[実施例]
本発明に係る実施例として、図2に示す温度補償型FBGを作製した。
(1)ダイニーマ;線膨張係数−10×10−6
(2)ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維であるザイロン(東洋紡績株式会社の登録商標、線膨張係数:−6×10−6、以下「ザイロン」と記す)、
の2種類を用い、これらの繊維を一定方向に配列し、両者をビニルエステル樹脂により一体化してFRP基材を作製した。ここで、(1)と(2)の配合比率を変え、D〜Fの3種類のFRP基材を作製した。
FRP基材の各繊維の配合条件は、次の通りとした。
D:ダイニーマ:ザイロン=3:7
E:ダイニーマ:ザイロン=4:6
F:ダイニーマ:ザイロン=5:5
【0030】
前記の通り作製したD〜Fの各FRP基材に、それぞれグレーティング部を形成した光ファイバを載置し、一定の張力を印加した状態で紫外線硬化型接着剤により固定し(図2参照)、3種類のFBG(D〜F)を作製した。このとき、紫外線硬化型接着剤はFRP基材の両端に使用した。
FRP基材は細すぎると、FBGに印加された張力に負けて折れてしまうため、本実施例では外径3mm、長さ50mmとした。
【0031】
D〜Fの各FBGを温度調節可能な測定室内に入れ、各FBGの反射中心波長を測定しながら、測定室の温度を、−20℃〜80℃の範囲で50サイクル変化させ、測定温度−20℃〜80℃の範囲における各FBGの反射中心波長シフトを測定した。各温度での待ち時間は30分とした。その測定結果を図7に示す。なお、図7に示す結果は、各FBGとも−20℃の時の波長を基準とし、25サイクル目の中心波長変動値である。
【0032】
図7より、ダイニーマとザイロンの配合を変えることで、FBGを高精度に温度補償できることが実証された。また、ダイニーマとガラス繊維を配合した場合と異なり、ヒステリシスが無く、安定した特性が得られている。この原因としては、ダイニーマとザイロンの線膨張差が小さい為、二つの繊維間の変形が小さいことが考えられる。
【0033】
これらのD〜Fの各FBGについて、同様に温度調節可能な測定室内に入れ、各FBGの反射中心波長を測定しながら、測定室の温度を、−20℃〜80℃の範囲で50サイクル変化させ、60℃における中心波長を基準として、中心波長のヒートサイクル回数依存度を調べた。その測定結果を図8に示す。
【0034】
図8より、10サイクル程度までは、中心波長が若干波長に変化するが、ダイニーマとガラス繊維の組み合わせで行った予備実験2の結果(図6)よりも変化が少ないことが分かった。D〜Fの各FBGにおいて中心波長が若干変化する原因としては、ダイニーマとザイロンと樹脂をFRPに加工する際の残留応力、光ファイバとFRP基材とを固定している紫外線硬化型接着剤中の残留応力が解放されることが考えられる。
この実験から、本実施例のFBGにおいては、予め10サイクル程度のヒートサイクルを行っておくことで、長期的な信頼性を確保することができることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】従来の温度補償型FBGの一例を示す側面図である。
【図2】本発明の温度補償型FBGの第1実施形態を示す側面図である。
【図3】本発明の温度補償型FBGの第2実施形態を示す側面図である。
【図4】本発明の温度補償型FBGの第3実施形態を示す側面図である。
【図5】従来技術に基づく予備実験1の結果を示すグラフである。
【図6】従来技術に基づく予備実験2の結果を示すグラフである。
【図7】本発明に係る実施例の結果を示し、−20℃の温度を基準とした場合の温度特性の測定結果を示すグラフである。
【図8】本発明に係る実施例の結果を示し、60℃における中心波長のヒートサイクル回数依存度の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
1…FBG、2…光ファイバ、3…グレーティング部、4…負膨張基材、5…接着剤、10A〜10C…温度補償型FBG、11…FRP基材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバの一部にグレーティング部が形成され、該グレーティング部を含む光ファイバが基材に固定された光ファイバブラッググレーティングにおいて、
2種類以上の負膨張繊維を組み合わせて含む基材にグレーティング部を含む光ファイバが固定されたことを特徴とする温度補償型光ファイバブラッググレーティング。
【請求項2】
負膨張繊維が2種類であり、これらの負膨張繊維の線膨張係数の差が5×10−6以下であることを特徴とする請求項1に記載の温度補償型光ファイバブラッググレーティング。
【請求項3】
2種類の負膨張繊維の線膨張係数がそれぞれ−10×10−6、−6×10−6であることを特徴とする請求項1又は2に記載の温度補償型光ファイバブラッググレーティング。
【請求項4】
2種類の負膨張繊維が超高分子量ポリエチレン繊維とポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の温度補償型光ファイバブラッググレーティング。
【請求項5】
基材が2種類の負膨張繊維を樹脂で固定したFRP基材であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の温度補償型光ファイバブラッググレーティング。
【請求項6】
2種類の負膨張繊維を固定する樹脂がビニルエステル樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の温度補償型光ファイバブラッググレーティング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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