説明

温度計測装置

【課題】 被測定物体の温度計測を高速に行うことが可能な温度計測装置を提供する。
【解決手段】 半導体光電陰極C1は、印加電圧に応じて波長に対する量子効率の特性が異なる。したがって、検出器駆動回路Eを制御して印加電圧を制御すると、波長特性が異なる出力(電子量:検出信号)を得ることができる。これら複数の出力は、被測定物体Aの温度と相関を有するので、解析装置Dは、被測定物体Aの温度を演算することができる。この装置では、機械的な回転フィルタではなく、半導体光電陰極C1への印加電圧制御により波長特性を変化させているため、高速の温度計測が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被測定物体からの熱放射を検出し、当該検出値に基づいて被測定物体の温度を計測する放射温度計が知られている。
【0003】
全ての物体は有限の温度を持ち、その温度に応じて自ら電磁波を放射する。この熱放射の強度(I)と波長(λ)の関数は、物体の温度(T)に依存し、プランクの法則として知られている。一般に、温度(T)が高くなるほど、熱放射強度(I)のスペクトルピークは短波長側にシフトする。したがって、被測定物体からの熱放射を、分光器を用いて波長分解した後、波長毎の放射強度を放射検出器で検出し、得られたスペクトルのピークを与える波長(λmax)が判明すれば、スペクトルピーク波長(λmax)と温度(T)との対応表を用いて、温度(T)を求めることができる。対応表はメモリに格納しておき、演算には小型のマイクロプロセッサや汎用のコンピュータを用いることができる。
【0004】
スペクトルピークを得るためには分光器が必要となるため、分光器を用いない簡易な構造の放射温度計も知られている。このような放射温度計としては、全放射温度計、単色温度計、二色温度計が知られている。
【0005】
図5は、全放射温度計の計測原理を示すグラフである。
【0006】
図5(a)の熱放射強度の波長依存性のグラフに示すように、プランクの法則に基づき、温度(T)が上昇するほど、熱放射強度(I)のスペクトルの広波長帯域における積分値(面積S)は増加する。なお、このグラフは両対数グラフであり、熱放射強度(I)は縦軸、波長(λ)は横軸である。すなわち、被測定物体の温度が、TLOW<TMID<THIGHの場合、各スペクトルの積分値は、SLOW<SMID<SHIGHの関係を満たす。
【0007】
図5(b)は、温度(T)と面積(S)の関係を示すグラフであり、面積(S)が判明すれば、温度(T)を演算することができる。面積(S)は、放射検出器(光検出器(赤外線含む))の出力電流(i)とは比例的な関係にあるため、当該電流(i)と面積(S)の対応表を用いて、放射検出器の出力電流(i)を面積(S)に変換し、面積(S)と温度(T)との対応表を用いて、求められた面積(S)を温度(T)に変換すればよい。
【0008】
図6は、単色温度計の計測原理を示すグラフである。
【0009】
図6(a)の熱放射強度の波長依存性のグラフに示すように、プランクの法則に基づき、温度(T)が上昇するほど、熱放射強度(I)の各波長における絶対値は増加する。なお、このグラフは両対数グラフである。すなわち、被測定物体の温度が、TLOW<TMID<THIGHの場合、単一の波長(λ)における熱放射強度(I)は、ILOW<IMID<IHIGHの関係を満たす。
【0010】
図6(b)は、温度(T)と熱放射強度(I)の関係を示すグラフであり、特定の波長(λ)における強度(I)が判明すれば、温度(T)を演算することができる。特定の波長(λ)における強度(I)は、例えば、波長(λ)の光のみを透過させる狭域バンドバスフィルタを放射検出器(光検出器(赤外線含む))の光入射面側に設け、狭域バンドバスフィルタを透過した熱放射の強度を計測する。この熱放射強度(I)と放射検出器の出力電流(i)とは比例的な関係にあるため、当該電流(i)と熱放射強度(I)の対応表を用いて、放射検出器の出力電流(i)を熱放射強度(I)に変換し、熱放射強度(I)と温度(T)との対応表を用いて、求められた熱放射強度(I)を温度(T)に変換すればよい。
【0011】
図7は、二色温度計の計測原理を示すグラフである。
【0012】
図7(a)の熱放射強度の波長依存性のグラフに示すように、プランクの法則に基づき、温度(T)が上昇すると、特定の波長間のスペクトルの傾きが変化する。なお、このグラフは両対数グラフである。赤外線の短波長側に2つの波長λ、λを設定した場合、被測定物体の温度が、TLOW<TMID<THIGHとしたとき、各波長λ、λにおける強度を与える2つの座標を結ぶ直線の傾き(係数)a,a,aは、a>a>aの関係を満たす。すなわち、温度(T)の増加に対して、係数a,a,aは単調に減少する。
【0013】
赤外線の長波長側に2つの波長λ、λを設定した場合、被測定物体の温度が、TLOW<TMID<THIGHとしたとき、各波長λ、λにおける強度を与える2つの座標を結ぶ直線の傾き−b,−b,−bを与える係数b,b,bは、b<b<bの関係を満たす。すなわち、温度(T)の増加に対して係数b,b,bは単調に増加する。
【0014】
図7(b)は、温度(T)と係数の関係を示すグラフであり、温度(T)の増加に対して、係数a,a,a又はb,b,bが、単調に減少又は増加する。
【0015】
いずれの波長設定を採用してもよいが、一般には短波長側の設定が用いられる。二色温度計は、一般には、2つの放射検出器(光検出器(赤外線含む))と、2つの狭域バンドパスフィルタを要する。短波長側の計測設定の場合、波長λの熱放射のみを透過させる狭域バンドパスフィルタと、波長λの熱放射のみを透過させる狭域バンドパスフィルタを、それぞれ、第1の放射検出器及び第2の放射検出器の光入射面側に配置しておき、各放射検出器の出力電流(i1)、(i2)を測定する。
【0016】
各波長λ、λにおける熱放射強度(I1)、(I2)と放射検出器の出力電流(i1)、(i2)とは比例的な関係にあるため、当該電流(i1)、(i2)と熱放射強度(I1)、(I2)の対応表を用いて、放射検出器の出力電流(i1)、(i2)を熱放射強度(I1)、(I2)に変換し、熱放射強度(I1)、(I2)と波長λ、λから得られる直線の傾きの係数a,a,aを求め、温度(T)と係数a,a,aの対応表を用いて、求められた係数a,a,aを温度(T)に変換すればよい。長波長側の設定の場合も同様である。
【0017】
なお、各計測における演算には、データの補正を行う手段が知られており、精度を高めるための研究がなされている。
【0018】
また、上述の2つのフィルタと、放射検出器の出力を用いた二色温度計や、その他の放射温度計を組み合わせたものが、例えば、以下の特許文献1、特許文献2に記載されている。
【0019】
特許文献1は、被測定物体から輻射されるエネルギーのうち、異なる2つの波長のエネルギー成分を抽出し、両者の強度の比に基づいて、被測定物体の温度を決定する色温度計であって、異なる波長を透過する2種類の半円状のフィルタを回転させることで2波長のエネルギー成分を光電子増倍管(PMT)で抽出する技術を開示している。
【0020】
特許文献2は、被測定物体から輻射されるエネルギーのうち、異なる波長のエネルギー成分を抽出し、両者の強度の比に基づいて、被測定物体の温度を決定する色温度計であって、被測定物体からの輻射エネルギーを光ファイバにより分光装置に導くと共に、分光器で分光された異なる波長のエネルギー成分毎にPMTで検出する技術を開示している。
【特許文献1】特開平6−102096号公報
【特許文献2】特開平10−104084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、上述の特許文献1においては、異なる2つの波長のエネルギー成分を抽出するために、異なる特性のフィルタを1つの放射検出器の前面で回転させているため、検出速度はフィルタの回転速度に依存する。このフィルタの回転は機械的に行われるため、温度検出を高速に行うことはできないという問題がある。
【0022】
また、特許文献2においては、異なる波長のエネルギー成分を抽出するために分光器を用いているため、装置が大型化するという問題がある。
【0023】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、被測定物体の温度計測を高速に行うことが可能な温度計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上述の課題を解決するため、本発明に係る温度計測装置は、被測定物体からの放射光が入射する半導体光電陰極と、半導体光電陰極に電圧を印加する可変電圧印加手段と、可変電圧印加手段を制御して電圧を変化させる制御手段と、制御手段により電圧を変化させた場合に、半導体光電陰極から出力される電子量に基づいて、被測定物体の温度を演算する演算手段とを備えることを特徴とする。
【0025】
半導体光電陰極は、印加電圧に応じて波長に対する量子効率の特性が異なる。したがって、可変電圧印加手段を制御して印加電圧を制御すると、波長特性が異なる出力(電子量)を得ることができる。これら複数の出力は、被測定物体の温度と相関を有するので、被測定物体の温度を演算することができる。本発明では、機械的な回転フィルタではなく、半導体光電陰極への印加電圧制御により波長特性を変化させているため、高速の温度計測が可能となる。
【0026】
また、本発明に係る温度計測装置は、放射光の短波長側を遮断するフィルタを、半導体光電陰極の光入射面側に配置することが好ましい。短波長側(赤外領域である場合も含む)の光は背景光などを含んでいる場合が多いので、これをカットすることで、より正確な温度計測を行うことが可能となる。
【0027】
また、本発明に係る温度計測装置は、半導体光電陰極からの電子を増倍する電子増倍部と、電子増倍部からの電子を収集する陽極とを有する光電子増倍管を備えることが好ましい。半導体光電陰極を具備する光電子増倍管は、感度が高いため、微弱な光を正確に検出することができ、したがって、より正確な温度計測を行うことが可能となる。
【0028】
また、本発明に係る温度計測装置の制御手段は、上記電圧を2段階以上変化させることを特徴とする。この場合、各段階に応じて波長特性が異なる複数の出力、すなわち、演算の基礎となる複数のデータを得ることができる。
【0029】
また、本発明に係る温度計測装置の演算手段は、第1電圧における半導体光電陰極からの電子量を第1値、第2電圧における半導体光電陰極からの電子量を第2値とした場合、第1値と第2値の比率を演算し、この比率と温度との相関関係を予め記憶しておき、演算された比率に対応する温度を出力することを特徴とする。
【0030】
入射光強度は熱源としての被測定物体までの距離によって変化するが、その比率は距離や強度などによって変化しにくい。したがって、各電圧の場合の電子量の比率を温度と対応づけて記憶しておき、演算された比率に基づき、温度をルックアップテーブル方式で読み出せば、正確な温度計測を行うことが可能となる。
【0031】
なお、電圧が3段階以上に変化する場合、その中で選択された2段階毎に求められた温度の平均を演算するなどの処理を行えば、より正確な温度計測が可能となる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の温度計測装置によれば、被測定物体の温度計測を高速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、実施の形態に係る温度計測装置について説明する。同一要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0034】
図1は、実施の形態に係る温度計測装置のブロック図である。
【0035】
被測定物体Aからの放射光hνは、光ファイバなどの光伝送系Bを介して、光電子増倍管Cの半導体光電陰極C1に入射する。光伝送系Bとしてはミラーを用いてもよく、この光伝送系Bの光入射面と、被測定物体Aとの間には、図示しない放射光集光用のレンズが介在している。光電子増倍管Cから出力された検出信号は、解析装置Dに入力され、解析装置Dの解析結果(温度)は、表示装置Fに表示される。なお、光電子増倍管Cは、検出器駆動回路Eによって駆動されており、検出器駆動回路Eから出力される駆動信号は、解析装置D内のクロックと同期している。すなわち、解析装置Dから出力される同期信号に同期して、検出器駆動回路Eから出力される駆動信号の電圧レベルが変化する。また、解析装置Dは、測定された温度に基づいて、被測定物体Aを駆動する被測定物体駆動装置Gを制御する。この制御は解析装置Dから被測定物体駆動装置Gに出力される制御信号によって行われる。
【0036】
被測定物体Aは、機械加工や半導体プロセスにおける加工対象物であり、計測された温度が所定条件に到達した場合には、被測定物体駆動装置Gは被測定物体Aに適当な処理を実行する。例えば、被測定物体駆動装置Gをベルトコンベアとすると、このベルトコンベアは、加熱処理が終了した被測定物体Aを搬送する。被測定物体駆動装置Gが溶接用のロボットアームであるとすると、溶接が終了した場合にロボットアームは被測定物体Aの特定位置とは別の位置に移動する。被測定物体Aをヒータとして、被測定物体駆動装置Gをヒータへの電力供給源とし、温度の自動制御を行うことも可能である。
【0037】
光電子増倍管Cは、半導体光電陰極C1、電子増倍部C2、陽極C3及びこれらを収容する真空容器C4を備えている。電子増倍部C2には、検出器駆動回路Eから駆動電圧が与えられるが、この駆動電圧は必要に応じて変化させ、利得調整を行ってもよい。すなわち、電子増倍部C2への印加電圧を増加させれば利得が増加し、減少させれば利得が減少するので、光電子増倍管Cからの出力に基づき、被測定物体Aからの放射光が弱い場合には利得を増加させ、強い場合には利得を減少させる制御を行うことも可能である。複数のダイノードから構成される電子増倍部C2のタイプとしては、ライン型、ボックスアンドグリッド型、メッシュ型など様々な形状のものが知られている。
【0038】
半導体光電陰極C1の光入射面側と電子出射面側の間に電圧が印加される。この印加電圧は、検出器駆動回路Eによって制御される。光電子増倍管Cの出力(検出信号)は、半導体光電陰極C1から出射された電子量に比例する。したがって、上述の温度計測装置は、被測定物体Aからの放射光hνが入射する半導体光電陰極C1と、半導体光電陰極C1に電圧を印加する検出器駆動回路(可変電圧印加手段)Eと、検出器駆動回路Eを制御してこの電圧を変化させる解析装置(制御手段)Dと、解析装置Dにより電圧を変化させた場合に、半導体光電陰極C1から出力される電子量に基づいて、被測定物体Aの温度を演算する解析装置(演算手段)Dとを備えている。
【0039】
半導体光電陰極C1は、印加電圧に応じて波長に対する量子効率の特性が異なる(図3参照)。したがって、検出器駆動回路Eを制御して印加電圧を制御すると、波長特性が異なる出力(電子量:検出信号)を得ることができる。これら複数の出力は、被測定物体Aの温度と相関を有するので、解析装置Dは、被測定物体Aの温度を演算することができる。この装置では、機械的な回転フィルタではなく、半導体光電陰極C1への印加電圧制御により波長特性を変化させているため、高速の温度計測が可能となる。
【0040】
なお、本例では、放射光hνの短波長側を遮断するフィルタFLを、半導体光電陰極C1の光入射面側に配置してある。短波長側(赤外領域である場合も含む)の光は背景光などを含んでいる場合が多いので、これをカットすることで、より正確な温度計測を行うことが可能となる。フィルタFLとしては、両面を研磨したシリコン基板や、色ガラスフィルタなどを用いることができ、これを光伝送系Bと半導体光電陰極C1との間に介在させる。
【0041】
また、光電子増倍管Cは、半導体光電陰極C1からの電子を増倍する電子増倍部C2と、電子増倍部C2からの電子を収集する陽極C3とを有している。半導体光電陰極C1を具備する光電子増倍管Cは、感度が高いため、微弱な光を正確に検出することができ、したがって、より正確な温度計測を行うことが可能となる。
【0042】
図2は、各要素の詳細構造を説明するための図である。
【0043】
この半導体光電陰極C1は、半導体基板11上に形成された光吸収層12、光吸収層12上に形成された電子放出層13、電子放出層13上に形成されバイアス印加パターンを有する半導体層14、及び電子放出層13上に形成された仕事関数低下用の活性層Lを備えている。半導体基板11の裏面側には電極層16が形成されており、半導体層14上には電極層15が形成されている。電極層16と電極層15との間には、可変電圧源E2からバイアス電圧が印加され、電極層15の電位は電極層16の電位よりも相対的に高く設定される。
【0044】
各半導体層の(1)材料、(2)導電型、(3)キャリア濃度、(4)厚みは以下の通りである。
・半導体基板11
(1)InP
(2)p型
(3)5×1015cm−3以上
(4)500μm
・光吸収層12
(1)InGaAs
(2)p型
(3)8×1015cm−3以上1×1017cm−3以下
(4)0.01μm〜5μm
・電子放出層13
(1)InP
(2)p型
(3)8×1015cm−3以上1×1017cm−3以下
(4)0.1μm〜2μm
・半導体層14
(1)InP
(2)n型
(3)1×1018cm−3以上
(4)0.05μm〜1μm
【0045】
電極層16はAuZnからなり、光照射の妨げとならないように半導体基板11の裏面の一部に形成されている。電極層15と電極層16の間には、電極層15を正とするバイアス電圧が印加される。
【0046】
半導体層14は、電子放出層13の一部が露出するようにリソグラフィーを用いて線幅0.1μm以上4μm以下、間隔0.1μm以上4μm以下のストライプ状にパターニングされている。電極層15はTiからなり、厚みは0.02μmないし0.05μmである。
【0047】
半導体基板11を介して光吸収層12に放射光hνが入射すると、光吸収層12は入射した放射光hνに感応して正孔/電子対(キャリア)を発生する。光吸収層12で発生した電子は、バイアス電圧によって生じる電界にしたがって、表面側の電極層15方向へ走行する。光吸収層12で発生した電子は、電子放出層13及び活性層Lを順次介して真空中に放出される。
【0048】
SiやGaAs、InPなどの半導体の表面に特定の原子が付着すると、バルク中のエネルギーバンド構造に起因して伝導帯の電子エネルギーと真空準位との差は小さくなる。材料によっては、伝導帯のほうが高くなり所謂負性電子親和力(Negative Electron Affinity :NEA)が生じる。電子親和力を低下させる手段としては、セシウム(Cs)や酸素(O)を半導体の表面に付着させることで実現することができる。すなわち、電子放出層13の上に形成される活性層Lの材料としては、Sb−Cs、Sb−Rb−Cs、Sb−K−Cs、Na−K−Sb、Na−K−Sb−Cs、Cs−Te、Cs−Iなどを採用することができる。
【0049】
なお、光吸収層12に用いられるInGaAsは赤外域において吸収係数が高く、InPよりもエネルギーバンドギャップが狭いことが知られている。なお、In0.53Ga0.47AsはInPに格子整合することが知られている。なお、半導体光電陰極C1は上述の構造のものに限定されない。
【0050】
検出器駆動回路Eは、電源回路E1と、可変電圧源E2を備えている。電源回路E1は、電子増倍部C2に増倍用の電圧を印加すると共に、半導体光電陰極C1の電極16と陽極C3との間にも電圧を印加する。陽極C3の電位が最も高く設定されている。半導体光電陰極C1から出射された電子eは、電子増倍部C2内に導入され、電子数が増倍されて、陽極C3で収集される。
【0051】
陽極C3から出力された検出信号は、解析装置D内の電流計D1で検出され、電源回路E1に戻る。解析装置Dは、電流計D1で検出された検出信号に基づいて、被測定物体Aの温度を演算するコンピュータD2を備えている。演算結果としての温度は表示信号として、コンピュータD2から表示装置Fに送信される。また、演算された温度が所定条件を満たした場合の被測定物体駆動装置Gの制御信号が、コンピュータD2から送信される。
【0052】
コンピュータD2による演算処理について説明する。コンピュータD2は、デジタル演算を行うものであるが、この代わりにアナログで演算を行う回路を用いることもできる。
【0053】
可変電圧源E2は、コンピュータD2からの指示に応じて、半導体光電陰極C1に、周期的な変調電圧を印加する。本例の場合は、この電圧は、2段階以上変化させる。換言すれば、コンピュータD2(制御手段)は、上記電圧を2段階以上変化させる。この場合、各段階に応じて波長特性が異なる複数の出力、すなわち、演算の基礎となる複数のデータを得ることができる。なお、電圧が3段階以上に変化する場合、その中で選択された2段階毎に求められた温度の平均を演算するなどの処理を行えば、より正確な温度計測が可能となる。
【0054】
図3は、半導体光電陰極C1への入射光の波長(nm)と量子効率(%)の関係を示すグラフである。
【0055】
同図に示すように、半導体光電陰極C1への印加電圧は、例えば2V(一点鎖線)、3V(二点鎖線)、4V(実線)というように設定する。印加電圧に応じて、半導体光電陰極C1内で発生する空乏層の厚みが変化する。逆バイアス電圧の場合には、印加電圧が大きくなるほど空乏層の厚みが大きくなる。印加電圧に応じて、空乏層の厚みと光電子の出射効率が変化し、波長毎の感度特性が変化する。
【0056】
いずれの波長においても、印加電圧が増加するにしたがって、量子効率は増加している。この印加電圧をV、量子効率をQE、波長をλとすると、関数をfとして、QE=f(λ,V)と表すことができる。QEの特定波長帯域内の積分値は、検出信号(出力電流(=i);半導体光電陰極からの電子量)であるため、∫QE(λ,V)dλ=i(V)である。コンピュータD2には出力電流iが入力されているので、出力電流i(V)から被測定物体Aの温度Tを演算する。
【0057】
電圧V=V1のときに出力電流がi(V1)=S1であり、電圧V=V2のときに出力電流がi(V2)=S2であったとすると、出力電流i(V2)を基準として、比率R=S1/S2を演算する。すなわち、背景光強度に因らない出力電流S1に規格化する補正を行う。
【0058】
出力電流S1,S2は熱放射強度(入射光強度:エネルギー)Iと比例的な関係にあり、また、図6(b)に示すように、熱放射強度Iは温度Tの関数である。したがって、出力電流S1(比率(R))が判明すれば、熱放射強度Iを求めることができ、熱放射強度Iから温度Tを演算することができる。これらの関係は、試行実験によって予めメモリ内に記憶させておく。
【0059】
すなわち、本実施形態のコンピュータ(演算手段)D2は、第1電圧V1における半導体光電陰極C1からの電子量を第1値S1=(i(V1))、第2電圧V2における半導体光電陰極C1からの電子量を第2値S2=(i(V2))とした場合、第1値S1と第2値S2の比率R(=S1/S2)を演算し、この比率Rと温度Tとの相関関係を予め記憶しておき、演算された比率Rに対応する温度Tを表示装置Fに出力している。
【0060】
入射光強度は熱源としての被測定物体Aまでの距離によって変化するが、その比率は距離や強度などによって変化しにくい。したがって、各電圧の場合の電子量の比率Rを温度Tと対応づけて記憶しておき、演算された比率Rに基づき、温度Tをルックアップテーブル方式で読み出せば、正確な温度計測を行うことが可能となる。
【0061】
図4は、半導体光電陰極C1に印加される駆動電圧、検出信号、解析信号(温度)のタイミングチャートである。
【0062】
本例では、異なる駆動電圧を印加し、その感度波長を周期的に変え、それぞれの時間タイミング毎に温度計測を行っている。温度Tを演算するため、駆動信号と検出信号とは同期させており、駆動信号のタイミングに合わせて検出信号をサンプリングしている。駆動電圧はV1,V2の2値の方形波パルスからなり、各電圧V1,V2のときの検出信号S1,S2が得られる。解析信号は、上述の温度Tを示すものであり、時間的に隣接する2つのレベルS1,S2に基づいて演算された温度Tを示している。このように、本実施形態に係る温度計測装置では、駆動電圧の変化の周期に同期した高速の温度計測が可能となる。上述の装置では、1つの光電子増倍管を用いるだけで高速の温度計測を行うことができ、システムの信頼性を確保すると同時に、安価な装置を提供することができる。なお、演算方法は上述のものだけでなく、従来から知られるその他の放射温度計の演算も利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施の形態に係る温度計測装置のブロック図である。
【図2】各要素の詳細構造を説明するための図である。
【図3】半導体光電陰極C1への入射光の波長(nm)と量子効率(%)の関係を示すグラフである。
【図4】半導体光電陰極C1に印加される駆動電圧、検出信号、解析信号(温度)のタイミングチャートである。
【図5】全放射温度計の計測原理を示すグラフである。
【図6】単色温度計の計測原理を示すグラフである。
【図7】二色温度計の計測原理を示すグラフである。
【符号の説明】
【0064】
11・・・半導体基板、12・・・光吸収層、13・・・電子放出層、14・・・半導体層、15・・・電極層、16・・・電極、A・・・被測定物体、B・・・光伝送系、C・・・光電子増倍管、C1・・・半導体光電陰極、C2・・・電子増倍部、C3・・・陽極、C4・・・真空容器、D・・・解析装置、D1・・・電流計、D2・・・コンピュータ、E・・・検出器駆動回路、E1・・・電源回路、E2・・・可変電圧源、F・・・表示装置、FL・・・フィルタ、G・・・被測定物体駆動装置、hν・・・放射光、L・・・活性層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物体からの放射光が入射する半導体光電陰極と、
前記半導体光電陰極に電圧を印加する可変電圧印加手段と、
前記可変電圧印加手段を制御して前記電圧を変化させる制御手段と、
前記制御手段により前記電圧を変化させた場合に、前記半導体光電陰極から出力される電子量に基づいて、前記被測定物体の温度を演算する演算手段と、
を備えることを特徴とする温度計測装置。
【請求項2】
前記放射光の短波長側を遮断するフィルタを、前記半導体光電陰極の光入射面側に配置したことを特徴とする請求項1に記載の温度計測装置。
【請求項3】
前記半導体光電陰極からの電子を増倍する電子増倍部と、前記電子増倍部からの電子を収集する陽極と、を有する光電子増倍管を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の温度計測装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記電圧を2段階以上変化させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の温度計測装置。
【請求項5】
前記演算手段は、
第1電圧における前記半導体光電陰極からの電子量を第1値、
第2電圧における前記半導体光電陰極からの電子量を第2値、
とした場合、
前記第1値と第2値の比率を演算し、
前記比率と温度との相関関係を予め記憶しておき、演算された比率に対応する温度を出力することを特徴とする請求項4に記載の温度計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−185482(P2008−185482A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−19985(P2007−19985)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】