説明

温熱環境装置

【課題】本願発明の課題は、サウナあるいはガン治療のための温熱環境装置において、心臓の健康状態をいかに表示するかにある。
【解決手段】本願発明は、温熱環境装置であって、心拍データに基づいて心臓の状態を直感的に表示する装置を具備した温熱環境装置である。上記直感的に表示する装置は、上記心拍データに基づいて、1拍ごとに状態空間表示を行う装置およびDFAにより求めた健康状態指数(スケーリング指数)表示である。状態空間表示においては、10拍程度を同時に表示すると、異常を確認するのが容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、サウナおよびガンの温熱治療に用いられる温熱環境装置において、心臓の状態を表示する装置を備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
温熱環境として最も有名なものは、サウナである。サウナは、今から2000年前、白夜の国フィンランドのスラブ族が、太陽の恩恵の少ない北欧の風土の中で、厳しい寒さと労働の疲れをいやすために生活の知恵として生み出した「自然健康法」である。
【0003】
今日、サウナは、北欧をはじめ、ヨーロッパやロシアなどに受け継がれて、わが国には1960年代に紹介され、今やサウナ愛好家は1000万人を越すといわれている。
【0004】
人類は、文化の進歩に反比例して、自分のからだを最小限にしか使わないために、筋肉は弱体化し、体は固く、体力は、年々低下の傾向にある。そのうえ、夏は冷房、冬は暖房と、自然環境の温度変化から身体を甘やかした結果、抵抗力も低下してしまっているのが現代人の特徴である。また美食や食事の不摂生によって健康を損ねた、いわば半健康の人々が多くなっている。
【0005】
しかし、肥満の人はやせるために、眠れない人は安眠のために、あるいは美容のためにと、サウナならではの効果が期待できるので、個人の健康状態や、その利用目的に合わせて、効果的にサウナに入るという、サウナ入浴法が考えられる。
【0006】
しかしながら、このような半健康人にとって、摂氏90度から100度、あるいはそれを超えるような高温サウナに頑張って入るサウナ浴は苦しいばかりか危険ですらある。
【0007】
そこで、サウナに入っている間に、心臓の健康状態が表示できれば、安心してサウナに入ることができる。もし、自分で自分の心臓を監視できる方法があれば、自分で自分のリズムの乱れを見ることが出来る。たとえその理由しくみは分からなくても、「おかしい」ということを認識できる。心臓が健康なら、早さは変動しても、リズムは乱れない。リズムが乱れないという意味は、突然一拍が延長したり短縮したりしないという意味である。
【0008】
一方、サウナとは異なる温熱環境として、ガンの治療方法としての温熱治療が注目を浴びている。医薬品は、病を治すための必ずしも最良の方法ではなく、治療困難な病における温熱治療の効果が徐々に認知されつつあり、全国の大学病院や主な医療機関に全身低温浴ルームが相当数導入されている。また、Circulation誌等の一流雑誌においても、温熱治療に関する論文が発表されている。
【0009】
一方、心臓の状態を直感的に表示する方法として、状態空間表示が知られている(下記「非特許文献1」参照)。この状態空間表示は、心電図あるいは指先の脈波図の情報に基づき、基準の時系列信号とその基準の時系列信号から所定時間遅れた信号により二次元表示するものである。
【0010】
また、心拍間隔のゆらぎ測定により心臓の健康状態を解析するトレンド除去心拍分析(Detrended Fluctuation Analysis、以下「DFA」という。下記「特許文献1」参照)という技術がある。
【0011】
上記状態空間表示およびDFAにおいては、心拍計測を行うので、静止状態であることが好ましいが、サウナに入っている時あるいは温浴治療を行っている時は、静止状態を保っているので、極めて好ましい状況にある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Proceedings of IDETC/CIE 2005, ASME 2005International Design Engineering Technical Conferences & Computers andInformation in Engineering Conference, September 24-28, 2005, Long Beach,California USA, DETC2005-84646
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008―173160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本願発明の課題は、サウナあるいはガン治療のための温熱環境装置において、心臓の健康状態をいかに表示するかにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明は、温熱環境装置であって、心拍データに基づいて心臓の状態を直感的に表示する装置を具備した温熱環境装置である。
また、上記直感的に表示する装置は、上記心拍データに基づいて、1拍ごとに状態空間表示を行う装置である。
【0016】
上記状態空間表示は、2次元表示である。その2次元表示は、取得した基本心拍データのデジタル値を直交座標の一つの軸の値とし、該基本心拍データを数コマずらしたデータを他方の軸の値として2次元表示している。
【0017】
具体的には、閉じた円形の曲線である。2拍以上連続して表示することにより、以前の拍との相違を確認することができる。拍数を多数重ねるためには、それだけ、静止状態で測定する時間を長く要するので、測定者に苦痛を与えることとなり、好ましくない。したがって、1拍1秒程度として、30秒程度、すなわち、30拍以下とするのが好ましい。実際には、連続10拍を繰り返すのがもっとも現実的だと考えられる。
【0018】
また、本願発明は、上記直感的に表示する装置が心拍データに基づいてトレンド除去心拍分析を行い心臓の健康状態を指数により表示する温熱環境装置である。
また、本願発明は、上記直感的に表示する装置が上記心拍データに基づいて、1拍ごとに状態空間表示を行うとともにトレンド除去心拍分析を行い心臓の健康状態を指数により表示する温熱環境装置である。
【0019】
また、本願発明は、心拍データの取得には、銀塩化銀電極を用いることを特徴とする温熱環境装置である。
また、本願発明は、心拍データの増幅を行う際には、増幅器の前段に微分回路を設け、心拍データの基準値が一定となるようにしたことを特徴とする温熱環境装置である。
また、本願発明は、心拍データの取得は、心電図または指先の脈血圧センサーにより行うことを特徴とする温熱環境装置である。

【発明の効果】
【0020】
本願発明においては、温熱環境装置内に入っている間に、心拍を計測し、その情報をもとに、状態空間表示またはDFAにより心臓の健康状態を表示するようにしたので、該装置内に滞在する人は、己の心臓の健康状態を直感的に把握することが可能となった。
【0021】
上記状態空間表示により、心臓の筋肉に異常がある場合、すなわち心臓の筋収縮速度・持続力の異常、つまり、筋収縮機構(カルシウムイオン機構、NaやKイオン機構)に異常がある場合、その異常が明示的に表示される。利用者が継続して利用していれば、以前の場合と比べて軌道が変われば、心臓の収縮の仕方について、以前とは違った状態になったことが、一目で分かるようになった。
【0022】
さらに、心臓自身の問題に重なって、自律神経の影響がある。これには
(1)身体内部の反応としてのストレス反応等でホルモンや化学物質の影響
(2)外部の影響(驚き、不安、ストレス因子の多い生活環境など)
がある。
上記(1)と(2)は、生理学的にまとめて言えば、ホルモンを含めて自律神経活動(神経インパルスの頻度、ゆらぎかた、リズム、それらの信号を運ぶ化学分子の挙動)を通した心臓への影響である。
【0023】
上記(1)と(2)が原因で、空間状態表示上の形状を変えることもあるが、もっとわかりやすいのがDFA法である。ゆらぎ方が変わったのは、心電図を見た程度では何もわからないが、DFAなら数値で表現されるので、一目瞭然である。ゆらぎかたが変わったら、上記(1)又は(2)に何らかの異常があると疑われる。
【0024】
また、安定した記録を得るために、基線がずれないアンプを製作したが、これにより、状態空間表示とDFA表示とを自動計算することが可能となった。このアンプの成功により
・状態空間表示に使えば、健康なら「いつでも同じ」軌道を取ること、
・ゆらぎ解析DFAに使えば、「一拍のミスも無く」計算されること、
が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】2拍分の心拍が記録された心電図
【図2】基本データのデジタル値と5ms遅延データ
【図3】状態空間表示の例
【図4】健常者と拡張型心筋症患者の状態空間表示
【図5】心室性期外収縮患者の状態空間表示
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下においては、本願発明を実施するための形態を示す。
【実施例1】
【0027】
温熱環境装置内に入っている状態において、通常の心電図または指先センサーにより指先脈波図を取得する。心電図又は指先脈波図等の心拍データを取得するための電極として、長時間の安定した記録を保障するために、不分極電極である銀塩化銀電極(例えば、日本光電(株)製ディスポ電極VitordeV)を用いる。これは、皮膚につけた電極が分極を起し、界面接触電位が発生し、ゼロレベルが上下して基線が変動することを防ぐものである。
【0028】
次にこの微弱な生体信号を増幅する。信号には低周波から高周波までいろいろな周波数成分が含まれており、従来の心電図においては、低周波数成分により、基線の緩やかな変動が起こっていた。特に障害になるのは画面からのスケールアウトである。この望まない変動を除去するため、オペアンプの入力側に微分回路(CR回路)を入れ基線の変動しない心拍データを取得した。
【0029】
<状態空間表示>
心電図および指先センサー等からの心拍の時系列信号(基本信号)は、1秒当たり1000個のデータから形成されている。サンプリングレート1kHzである。この基本データをy軸に取る。次に、上記基本データから数コマ(例えば、5コマなら5ミリ秒、10コマなら10ミリ秒)遅らせたデータ(すなわち、基本データを全部コピーして数個分ずらしたデータ)をx軸に取る。このxyを使った2次元グラフが状態空間表示となる。
【0030】
ここでは、2次元としたが、遅らせるデータを作る回数を増やせば、多次元解析が可能になる。
【0031】
このように、時系列信号における現時点と所定時間遅れた信号との相関関係、すなわち、現在と未来(何ミリ秒後)との関係、または複数の時点の相互の関係を研究したのは、数学者ターケンスである(1981年)。
【0032】
本願発明者は、この状態空間の考え方を生物に初めて応用し、そこに規則性を発見したのである(上記「非特許文献1」参照)。その規則性に異常が存在する場合は、病気であるか体に異常がある可能性が高いことを発見した。
【0033】
図1は、ノコギリガザミの2拍分の心拍が記録された心電図である。1秒間に1000個のデータ(基本データ)が取られている。
図2に、基本データのデジタル値と5コマ(5ms)ずらしたデータ(以下、5ms遅延しているデータを「5ms遅延データ」という。)を示す。
【0034】
ここで、基本データをy軸にとり、遅延データをx軸にとり、x−y平面に表示すると、図3に示されるような、円形のグラフが得られるが、この円形のグラフが2次元状態空間表示である。
【0035】
図3に、ノコギリガザミの2拍分のデータに基づく状態空間表示を示す。データの取り方により、右回りである場合と左回りである場合がある。
【0036】
図4に、健常者の状態空間表示および拡張型心筋症患者の状態空間表示を対比して示す。図2にあるデータからxyグラフを描くと、1拍毎に周回する円形軌道が得られる。これをリアルタイムで実施すると、拍動するたびに輝点が画面上を円運動する様を表示できる。拍動が規則正しいならば運動の軌跡はいつも同じ軌道となる。疾病があると軌道が変異するので一目瞭然である。
【0037】
ただし、円の大きさ(直径)は、記録アンプの増幅率の問題であり、心臓の病気には無関係である。体の大きさ、気候、湿度、皮膚の水分量等にも影響される。
【0038】
正常な心臓においては、比較的単純な円形の軌道が得られる。軌道の中に直線部が多く出る運動場のトラックの形状に似る。健常者あるいは心臓患者であれ、形状は様々であるが、円形軌道を描くことが試験の結果で分かっている。
【0039】
図4から明らかなように、拡張型心筋症の場合には、形状がゆがんでいる。全体がなだらかな、くねる動きを呈する。収縮をシャープに行えないことに起因していると考えられる。
【0040】
図5に心室性期外収縮患者の状態空間表示を示す。この図から他と異なった脈動があると、その脈動の軌跡だけが他と異なった軌跡として表示されることが明らかである。
【0041】
図4においては、拡張型心筋症の状態空間表示を示し、図5においては、心室性期外収縮患者の状態空間表示を示したが、その他の心臓疾患の場合にも、正常な心臓の場合に示される単純な円形とは異なった様々な状態空間表示が現れる。したがって、単純な円形とは異なった状態空間表示が現れた場合には、心臓のどこかに異常があることが疑われるので、医者の診察が望まれることになる。
【0042】
図4および図5からわかるように、状態空間表示は、1拍で1周するので、重ねて表示する場合においては、2拍から30拍程度を重ねて表示するのが望ましい。5拍から20拍程度がさらに好ましい。これより長いと、静止状態を維持するのが困難になり、測定者に苦痛をもたらすことになり、これより短いと正常拍と異常拍の区別がしにくい場合がある。実際には、10拍程度を繰り返し表示するのが現実的だと考えられる。
【0043】
<DFA>
従来、心拍信号にゆらぎが存在することは知られており、最近は、心拍信号の周波数(フーリエ)解析結果が病院や医学現場で論議され始めている。例えば、種々のゆらぎ成分(スペクトル成分)の中で、高周波成分(HF)は、抑制性神経活動(副交感神経の心臓作用効果)を反映するものであり、低い周波数の成分(LF)は、交感・副交感の両方を反映しており、自律神経の「バランス」を見るには、HFとLFの比を計算するというような技術が、近年、具体的に検討されている。
【0044】
心拍のゆらぎが隠れた情報を含んでいる可能性があるという考え方は、1980年代に基礎理論が発表されているが、一昼夜等の長時間の心電データを適切に処理するには当時のコンピュータでは計算時間も膨大になり、適切な解析結果を得るまでには至っていなかった。
【0045】
しかし、DFAを用いる解析法においては、心拍ゆらぎの測定にあたり、数十分から数時間の時間を要し、迅速且つ簡便・的確な判断ができないという問題点があった。ここで、トレンドとは、長周期の傾向をいう。したがって、トレンド除去心拍分析とは、データから長周期の傾向を除去して心拍の分析を行う手法のことである。
【0046】
上記長時間の計測から被測定者の負担を軽減する方法が提示されている(特許文献1参照)。そこでは、連続30分間の心拍測定に代えて、3分間の心拍測定を行い、DFA法を用いて、心臓の健全度を示唆するスケーリング指数を算出推定している。
【0047】
本願発明においては、温熱環境装置の室内において、上記特許文献1に記載されている短時間(3分間)心拍測定DFAを用いて、心臓の健康度を示唆するスケーリング指数を表示するものである。この指数を用いて、心臓の健康状態を判断することができる。スケーリング指数が1に近い値なら、正常である。これに対し、低い数値(0.5から0.8)なら、ストレスが疑われ、運動やサプリメントを要するので、環境装置の表示盤に注意信号を発すればよい。また、異常に高い数値(1.2から1.5)のときは、心臓疾患の可能性があるので、表示盤に警告を発すればよい。
【0048】
状態空間表示およびDFAは、まったく異なった原理に基づく心臓の異常監視方法であるので、両者を同時に表示すれば、さらに、信頼性の高い装置となる。
【0049】
実施に当たっては、心電図や心拍数も同時に表示するようにしてもよい。
また、檜の香りを漂わせたり、音楽を流して気分をゆったりさせるのも効果的である。

【産業上の利用可能性】
【0050】
本願発明は、温熱環境において、2次元表示である状態空間表示またはDFAに基づいて、心臓の健康状態を示す数値(スケーリング指数)を表示するものである。サウナにおいて上記表示を行えば、サウナの高温環境での心臓の負担を己の目で確認することが可能であり、ガンの温熱治療においては、ガン患者の心臓についての知見が直感的に表示されるので、安心して、ガンの治療に専念できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温熱環境装置であって、心拍データに基づいて心臓の健康状態を直感的に表示する装置を具備したことを特徴とする温熱環境装置。
【請求項2】
請求項1に記載の温熱環境装置であって、上記直感的に表示する装置は、上記心拍データに基づいて、1拍ごとに状態空間表示を行う装置であることを特徴とする温熱環境装置。
【請求項3】
請求項2に記載の温熱環境装置において、上記状態空間表示は、2次元表示であることを特徴とする温熱環境装置。
【請求項4】
請求項3に記載の温熱環境装置において、上記状態空間表示は、取得した基本心拍データのデジタル値を直交座標の一つの軸の値とし、該基本心拍データを数コマずらしたデータを他方の軸の値として2次元表示をしたことを特徴とする温熱環境装置。
【請求項5】
請求項2に記載の温熱環境装置において、上記状態空間表示を2拍以上30拍以下連続して行うことを特徴とする温熱環境装置。
【請求項6】
請求項1に記載の温熱環境装置であって、上記直感的に表示する装置は、心拍データに基づいてトレンド除去心拍分析を行い心臓の健康状態指数を表示する装置であることを特徴とする温熱環境装置。
【請求項7】
請求項1に記載の温熱環境装置であって、上記直感的に表示する装置は、上記心拍データに基づいて、1拍ごとに状態空間表示を行う装置及びトレンド除去心拍分析を行い心臓の健康状態指数を表示する装置を具備することを特徴とする温熱環境装置。
【請求項8】
請求項1に記載の温熱環境装置において、心拍データの取得には、銀塩化銀電極を用いることを特徴とする温熱環境装置。
【請求項9】
請求項1に記載の温熱環境装置において、心拍データの増幅を行う際には、増幅器の前段に微分回路を設け、心拍データの基準値が一定となるようにしたことを特徴とする温熱環境装置。
【請求項10】
請求項1に記載の温熱環境装置において、心拍データの取得は、心電図により行うことを特徴とする温熱環境装置。
【請求項11】
請求項1に記載の温熱環境装置において、心拍データの取得は、指先の脈血圧センサーにより行うことを特徴とする温熱環境装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−19794(P2011−19794A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168555(P2009−168555)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【出願人】(503415264)株式会社ノムス (3)
【出願人】(503010276)株式会社 野村工建 (3)
【Fターム(参考)】