説明

温調装置

【課題】エイジングによってチャンバーの温度を温調目標値までシフトする際に円滑な温調を実現する温調装置を構成する。
【解決手段】チャンバーの温度をエイジング制御によって温調目標値SP3までシフトする際に、制御開始時におけるチャンバーの温度を基準にして、シフト値Uだけ温調目標値SP3に近い目標値SPを設定した状態でV時間だけ温調を行うことで温度変化率を取得する。次に、温度変化率が基準値W内にある場合には、この温度変化率を維持する標準温調制御を反復して行う。これとは逆に、温度変化率が想定を超える場合には、この温度変化率より小さい温度変化率を作り出すようにシフト値Uより小さい値の補正シフト値Xに基づいて目標値SPを設定して補正温調制御を反復して行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒の圧縮、凝縮、膨張、蒸発を行う冷凍サイクルによってチャンバーから取り込んだ空気を冷却する冷却手段と、加熱する加熱手段とを備え、温調後の空気を前記チャンバーに供給する温調装置に関し、詳しくは、クリーンルームの温調制御のように高精度の温調制御を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような温調装置として特許文献1と特許文献2が存在する。特許文献1には、冷媒が、圧縮機14、凝縮器15、電子膨張弁17及び蒸発器19を循環する冷凍サイクルを備えた精密温湿度制御装置が示されている。この特許文献1では、外気OAを冷却する蒸発器19の吹出側に再加熱器20を設置しており、再加熱器20では圧縮機14からでたホットガスの一部で、蒸発器19で冷却された空気を再加熱すると共に、その再加熱された空気を加湿器21で加湿して温湿度制御された空調空気SAとする。この制御時には、設定温度と空調空気SAの温度に基づいて三方比例制御弁16の分流比を制御する吹出温度制御部40と、設定湿度と空調空気の湿度から加湿器21での加湿量を制御する吹出湿度制御部41と、その加湿器21への制御出力と予め最小の加湿量となるように加湿出力設定値SP6とが入力され、これに基づいてインバータ装置27の運転周波数、電子膨張弁17の開度、凝縮器15への冷却水量を制御する制御出力を作り出すための加湿出力制御部45とを備えることで消費電力を低減している。
【0003】
また、特許文献2には、特許文献1と共通する構成に加えて補助電気ヒータ50を備えた精密温度制御が示されている。補助電気ヒータ50は、蒸発器19に空気を取り込む方向での上流側に配置され、外気温度と設定温度との偏差が大きい場合には、この補助電気ヒータ50によって空気を加熱することにより、補助電気ヒータ50と再加熱器20とで加熱が行われ、外気温度と設定温度との偏差が大きく異なる状況でも良好に精密温度制御を行えるものにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−302088号公報 (段落番号〔0018〕〜〔0040〕、図3)
【特許文献2】特開2004−170044号公報(図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、メンテナンスを行った直後のように、チャンバーの温度が外気温と等しい状況等においてチャンバーの温調制御を開始する場合には、急激な温度変化を避けると共に、チャンバー内の蓄熱を完全に除去する目的から、一週間程度の期間を掛けてチャンバーの温度を徐々にシフトさせる制御を行うのが一般的である。このように時間を掛けて徐々に温調を行う操作をエイジングと称している。
【0006】
このエイジングを行う場合には、チャンバーの温度を計測し、この計測値が単位時間内において大きく変動しないようにチャンバーの温度をフィードバックする温調制御を行うことが重要となる。この温調制御の1つの形態として、チャンバーの温調目標値と、エイジング開始時のチャンバーの温度との偏差を、例えば、1℃単位で分割することによって複数の制御目標値を設定し、温調目標値との差が大きい制御目標値から、差が小さい制御目標となるようにエイジングを行う際の制御目標を順次変更する形態で制御を行うことも考えられる。
【0007】
しかしながら、このように制御目標を変更する形態で温調制御を行う場合でも、チャンバー内に設置された機器の熱容量によっては、比較的短時間のうちに制御目標に達することもあり、結果として急激な温度変化を招くことも考えられ、改善の余地があった。
【0008】
本発明の目的は、エイジングによってチャンバーの温度を温調目標値まで円滑にシフトする温調装置を合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特徴は、冷媒の圧縮、凝縮、膨張、蒸発を行う冷凍サイクルによってチャンバーから取り込んだ空気を冷却する冷却手段と、加熱する加熱手段とを備え、温調後の空気を前記チャンバーに供給する温調装置であって、
前記チャンバーの内部温度と温調目標値との偏差が規定値を超える場合にエイジング制御を行い、前記偏差が規定値を超えない場合に高精度温調制御を行う制御手段を備え、
前記制御手段は、前記エイジング制御において、前記チャンバー内の温度を計測するチャンバー温センサの計測値を基準にして設定値だけ前記温調目標値に近い値のエイジング制御の目標値を設定して温調制御を行い、この温調制御の開始時点と設定時間経過時点との前記チャンバー温センサの計測値から温度変化率を求めると共に、
この温度変化率が基準値未満である場合には、この温度変化率を維持するように前記設定値に基づいて目標値が設定される標準温調ステップを実行し、この温度変化率が基準値を超える場合には、温度変化率が前記基準値未満となる目標値が新たに設定される補正温調ステップを実行する点にある。
【0010】
この構成によると、エイジング制御を行う際には、エイジング制御の目標値に基づいて温調制御を行うことによってチャンバー内に設置された機器の熱容量を反映した温度変化率を求めることが可能となる。次に、温度変化率が基準値未満である場合には、急激な温度変化を招くものではないので、初期目標を設定した際に用いた設定値に基づいてエイジング制御の目標値を設定する形態で標準温調ステップを実行することにより、チャンバーの温度を温調目標値に近づけることが可能となる。また、温度変化率が基準値を超える場合には、急激な温度変化を招くので、初期目標を設定した際に用いた設定値より小さい値に基づいてエイジング制御の目標値を新たに設定して補正温調ステップを実行することにより、チャンバーの温度を温調目標値に近づけることが可能となる。その結果、エイジングによってチャンバーの温度を温調目標値まで円滑にシフトする温調装置が構成されたのである。
【0011】
本発明は、前記チャンバー温センサの計測値と前記温調目標値との差が予め設定された閾値未満に達した後に、前記制御手段は、前記エイジング制御の目標値を設定して温調制御を開始すると共に、前記温度変化率を求める制御に移行しても良い。これによると、温度変化率を求める制御を実行するタイミングを、温調目標値との関係で適切に設定できる。
【0012】
本発明は、前記制御手段は、1つの前記標準温調ステップにおける設定時間が経過したタイミングで、この標準温調ステップの開始時と設定時間経過後の前記チャンバー温センサの計測値から温度変化率を求め、この温度変化率が基準値を超えていることを判定した場合には、この温度変化率に対応して補正値を設定すると共に、この補正値に基づいてエイジング制御の目標値を設定して前記補正温調ステップに移行しても良い。これによると標準温調ステップを設定時間実行した際にも、チャンバーの温度変化率が高い場合には、この温度変化率に対応して補正温調ステップに移行することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔温調装置の基本構成〕
図1、図2に示すように、恒温に維持されるべきクリーンルームで成るチャンバーRを備えた施設の内部に、チャンバーRの空気を吸引して温度調節を行った後にチャンバーRに供給することにより空気を循環させてチャンバーRの温度を目標とする温度(温調目標値・例えば、23℃)に維持する制御を行う温調装置が構成されている。
【0014】
前記チャンバーRの内部には、精密な温度管理を必要とする半導体製造ライン等を構成する機器Bが設置されている。チャンバーRの側壁1は温度管理のために断熱性の優れた壁材で形成され、天井壁2は空気循環のために空気の通過を許すメッシュやスリットを有した構造の壁材が使用され、平滑な床面3が形成されている。複数の側壁1の1つには温調制御系に空気を送り出す吸気開口1Aが形成されている。尚、このチャンバーRから空気を排出するための経路を床面3より下部に形成しても良く、この場合、床面3には空気が流通する多数の開口が形成される。
【0015】
温調装置は、吸気開口1Aから導入空間5を介して吸引した空気を冷却手段としての冷却部Cで冷却した後に第1加熱部Dで加熱すると共に、この第1加熱部Dで加熱された空気をダクト6を介してファン7に送り、次に、このファン7から送り出された空気を第2加熱部Eで加熱し、送風路8によってチャンバーRの上部空間9に供給し、エアーフィルタ10によって塵埃を除去し、チャンバーRの天井壁2からチャンバーR内に供給する空気の循環系を備えている。尚、第1加熱部Dと第2加熱部Eとで本発明の加熱手段が構成されている。
【0016】
この温調装置は、チャンバーR内に設置された機器Bの内部温度を計測するチャンバー温センサTS3と、前記ファン7から送り出される空気の温度を計測する送風部温センサTS1と、天井壁2からチャンバー内に供給される空気の温度を計測する吹出部温センサTS2とを備えている。これらのセンサはサーミスタ等、空気温を電気信号として取得するものが使用されている。
【0017】
また、温調装置は、主制御ユニットHR3と、送風部温センサTS1の計測値に基づいて第1加熱部Dを制御する第1制御ユニットHR1と、吹出部温センサTS2の計測値に基づいて第2加熱部Eを制御する第2制御ユニットHR2とを備えている。
【0018】
主制御ユニットHR3、第1制御ユニットHR1、第2制御ユニットHR2は独立して制御対象に制御信号を出力して温調制御を行う機能を有するものであるが、夫々とも相互に情報のアクセスを行う信号系が形成されている。そして、主制御ユニットHR3にセットされているプログラムの情報を第1制御ユニットHR1と第2制御ユニットHR2とに与えることで温調制御が行われる。この温調制御により、チャンバーRの内部温度を温調目標値を基準にして±0.05℃で範囲内に収める高い精度の温度管理を実現する。
【0019】
〔温調系〕
冷却部Cは冷媒によって空気を冷却する冷凍サイクルを備えている。つまり、圧縮機12で圧縮された冷媒は主流路Lmに沿って配置された凝縮器14、膨張弁15に順次送られ、次に、冷却部Cを構成する蒸発器16に送られ、この後、圧縮機12に戻すように冷凍サイクルが構成されている。また、圧縮機12で圧縮された冷媒の一部は、分岐流路Lbに分流されて第1加熱部Dを構成する再加熱器17に送られ、膨張弁13を経て主流路Lmの膨張弁15と蒸発器16との間に戻される。
【0020】
尚、第1加熱部Dは電気ヒータによって空気を加熱するように構成しても良い。また、図1、図2では膨張弁13、凝縮器14、膨張弁15を冷媒処理ユニットFとして示している。
【0021】
圧縮機12は、冷媒を圧縮するポンプとして機能するものであり、この圧縮機12を駆動する電動モータMとして三相モータが使用されている。
【0022】
膨張弁13は、冷媒の膨張を許す機能を有するものであり、電磁弁等のアクチュエータの作動によって冷媒の流量を調節しており、さらに、主流路Lmに対する分岐流路Lbの冷媒の分流比の調節を電磁式に行う。
凝縮器14は、圧縮された冷媒を冷却水や外気によって冷却して液化する熱交換系を備えている。膨張弁15は液化した冷媒の膨張を許す機能を有するものであり、電磁弁等のアクチュエータの作動等によって冷媒の流量を調節可能に構成されている。
【0023】
冷却部Cは、蒸発器16において空気との接触面積を拡大する多数のフィンを備えた構造を有している。第1加熱部Dは、前述したように主流路Lmに送られる冷媒の潜熱を空気に与えるように再加熱器17において空気との接触面積を拡大する多数のフィンを備えた構造を有している。尚、冷却部Cは一般的な構成を示したものであり、冷却機能を有するものであれば、これ以外の構成のものを用いても良い。
【0024】
ファン7は、電動モータで駆動されるシロッコファンが用いられている。第2加熱部Eは通電により発熱する電気ヒータ18を備えている。
【0025】
主制御ユニットHR3は、電動モータMを制御するためのモータ制御回路(図示せず)と、膨張弁15を制御する弁制御回路(図示せず)とを備えると共に、チャンバーRの温度を温調目標値に高精度で維持するための高精度温調制御部21と、温調目標値とチャンバー温センサTS3で計測される計測値との偏差が規定値を超える状況においてエイジング制御を実現するエイジング制御部22とを備えている。この高精度温調制御部21とエイジング制御部22とはソフトウエアによって構成されるものであるが、ソフトウエアとハードウエアとの組み合わせによって構成されるものでも良い。
【0026】
エイジング制御部22は、エイジング制御の初期の制御を行う初期制御モジュール22aと、エイジング制御時におけるチャンバーRの温度変化率を取得する温度変化率取得モジュール22bと、エイジング制御の目標値として予め想定した値を設定して温調制御を行う標準温調制御モジュール22cと、エイジング制御の目標値として補正した値を設定して温調制御を行う補正温調制御モジュール22dとで構成されている。エイジング制御部22の制御形態については後述する。
【0027】
第1制御ユニットHR1は、送風部温センサTS1の計測値に基づいて第1加熱部Dの温度制御を行うために、膨張弁13を制御する弁制御回路(図示せず)を備えると共に、この第1加熱部Dの制御を実現するソフトウエアを備えている。
【0028】
第2制御ユニットHR2は、吹出部温センサTS2の計測値に基づいて第2加熱部Eの温度制御を行うために、第2加熱部Eの電気ヒータ18に供給する電力を制御する電力制御回路(図示せず)を備えると共に、この第2加熱部Eの制御を実現するソフトウエアを備えている。
【0029】
本実施形態では、主制御ユニットHR3、第1制御ユニットHR1、第2制御ユニットHR2夫々を併せて温調制御を実現する制御手段が構成されている。
【0030】
〔制御形態〕
この温調装置では、チャンバー温センサTS3で計測される計測値PV3と、チャンバーRにおける制御目標としての温調目標値SP3との偏差が規定値を超える場合にエイジング制御を行い、前記偏差が規定値を超えない場合に高精度温調制御を行うように制御手段の制御形態が設定され、この制御形態を図3のフローチャートのように示すことが可能である。また、このフローチャートと明細書中に用いる符号類の対応関係を図4に一覧化して示している。
【0031】
以下に説明する温調制御とは、目標値(SP)を基準にして送風部温センサTS1と吹出部温センサTS2とで計測されるべき制御目標値を設定すると共に、これら送風部温センサTS1と吹出部温センサTS2との計測値をフィードバックする形態で、冷却部Cと、第1加熱部Dと、第2加熱部Eとを、これらに対応する主制御ユニットHR3と、第1制御ユニットHR1と、第2制御ユニットHR2とが制御するものである。つまり、温調制御が実行されることにより、チャンバーRに供給される空気の温度を調節してチャンバー温センサTS3の計測値PV3が目標値SPで平衡させる制御が可能となる。
【0032】
尚、これらの制御において平衡させる制御の意味は、制御目標(目標値SP)とセンサの計測値(計測値PV3等)とが完全に一致させる制御を指すものではなく、制御目標を基準にして高温側と低温側とに設定された温度領域にセンサの計測値が含まれる状態となるように空気の温度を上昇又は下降させる制御を指す。また、平衡とは制御目標と計測値との偏差の絶対値が所定値未満に達する状態であると説明することも可能である。
【0033】
この温調制御が開始されると、チャンバーRにおける制御目標としての温調目標値SP3と、チャンバー温センサTS3で計測される計測値PV3とを取得すると共に、温調目標値SP3と計測値PV3との偏差の絶対値を取得して規定値S℃と比較する。
【0034】
この比較によって温調目標値SP3と計測値PV3との偏差の絶対値が規定値S℃を超える場合には、チャンバーRの温度を温調目標値SP3に向け設定時間を費やしてシフトさせるエイジング制御が行われる(エイジング制御部22が実行する)。これとは逆に、温調目標値SP3と計測値PV3との偏差の絶対値が規定値S℃未満である場合には、温調目標値SP3にチャンバー温センサTS3の計測値PV3を平衡させる高精度温調制御が行われる(#101、#115ステップ・高精度温調制御部21が実行する)。
【0035】
エイジング制御では、エイジング制御の目標値SPとしてチャンバー温センサTS3の計測値PV3より所定値だけ温調目標値SP3に近い値を設定して温調制御が開始され、このエイジング制御の目標値SPと、チャンバー温センサTS3の計測値PV3との差の絶対値が閾値T℃未満に低減するまで温調制御を継続する(#102、#103ステップ)。この段階でのエイジング制御は、温度変化率を求めて制御する前の準備段階のエイジング制御である。
【0036】
このエイジング制御の最初の温調制御は初期制御モジュール22aが実現する。また、エイジング制御の目標値SPと、チャンバー温センサTS3の計測値PV3との差の絶対値を取得し、この絶対値が閾値T℃未満に低減するまで温調制御が行われることで、第2加熱部Eから送風路8、上部空間9、エアーフィルタ10を含む空気の供給系の温度を目標値SPに近似する温度までシフトさせ、この空気の供給系の蓄熱を除去し、この空気の供給系の熱容量の制御に対する影響を低減することになる。
【0037】
次に、目標値SPを温調目標値SP3に対してシフト値U℃だけ近づけた目標値SPを新たに設定した後に、V時間が経過するまで温調制御(標準温調ステップ)が実行される(#104〜#106ステップ)。
【0038】
この標準温調ステップは、標準温調制御モジュール22cが実現する。この標準温調ステップでは、標準温調ステップの開始時点におけるチャンバー温センサTS3の計測値PV3と、標準温調ステップの終了時点(V時間経過時点)におけるチャンバー温センサTS3の計測値PV3’との差の絶対値(温度変化率に対応する)を取得して基準値Wと比較される(#107ステップ)。
【0039】
この#107ステップの処理は、温度変化率取得モジュール22bが実現する。この比較によって、計測値PV3と計測値PV3’との差の絶対値が基準値W未満である場合には、温度変化率(温度勾配)が基準値Wより低い(温度のシフトが低速で行われている)ので、目標値SPが温調目標値SP3に近似する場合の除き(#108ステップ)、#104ステップから標準温調ステップの温調制御が再開される。
【0040】
この標準温調ステップは、反復して行われるものであり、チャンバーRの温度を60分毎に0.2℃未満ずつシフトさせる温調制御を実現する。図4に示す如く、シフト値Uとして、1.0℃の値が与えられ、基準値Wとして0.2℃が与えられている場合には、標準温調ステップのループを5回以上反復することによりチャンバーRの温度を1℃上昇させることができる。
【0041】
このような理由から、#104ステップでは、この標準温調ステップのループを通過する処理を5回以上反復した場合にエイジング制御の目標値SPをシフト値U℃だけ温調目標値SP3に近づけるように目標値SPが更新される。
【0042】
ちなみに、この#104ステップにおいて目標値SPをシフト値U℃だけ温調目標値SP3に近づけるように、この目標値SPを更新する処理としては、ループを通過する回数に基づいて行うものでなくても良く、例えば、PV3’の値と目標値SPとの差が、設定された値未満まで近づいた時点で、目標値SPを更新するように処理形態を設定しても良い。
【0043】
そして、この標準温調ステップが反復して行われ、目標値SPが更新されることにより、目標値SPが温調目標値SP3に近似する値に達したことが#108ステップで判断された場合、具体的には、目標値SPと温調目標値SP3との差の絶対値が基準値Y℃未満に達した場合に高精度温調制御(#113ステップ)に移行するのである。
【0044】
前述とは逆に、計測値PV3と計測値PV3’との差の絶対値が基準値Wを超える場合には、温度変化が急速に行われることを意味するので、目標値SPとして、先に設定されている目標値SPに代えて、シフト値U℃が与えられる以前の目標値SPに対して前記シフト値U℃より小さい値となる補正シフト値X℃だけ温調目標値に近い値の目標値SPを設定した後に、V時間が経過するまで温調制御(補正温調ステップ)が実行される(#109〜#111ステップ)。
【0045】
この補正温調ステップは、補正温調制御モジュール22dが実行する。また、補正シフト値Xは、#107ステップで取得した計測値PV3と計測値PV3’との差の絶対値に基づいて設定される。つまり、この絶対値は温度変化率(温度勾配)を示すものであり、この温度変化率はチャンバーRの熱容量を反映している。このような理由から温度変化率が大きいほど、この温度変化率に反比例する補正シフト値Xとしてシフト値U℃より小さい値が与えられる。
【0046】
また、補正シフト値Xに基づいて目標値SPが設定された場合に、チャンバーRの温度変化が抑制され、結果として、この補正温調ステップにおいてV時間が経過した後のチャンバーRの温度と、この補正温調ステップの開始時のチャンバーRの温度との差の絶対値が0.2℃を超えないように、この補正シフト値Xが設定される。
【0047】
補正温調ステップにおいてV時間が経過した時点において、温調目標値SP3と目標値SPとの差の絶対値が基準値Y℃未満である場合には、この補正温調ステップを反復して行う(#112ステップ)。
【0048】
この補正温調ステップは、反復して行われるものであり、チャンバーRの温度を60分毎に、0.2℃未満の値だけシフトさせる温調制御を実現する。従って、#109ステップでは前述した#104ステップと同様に、補正温調ステップのループを通過する処理を設定回以上繰り返した場合にエイジング制御の目標値SPを補正シフト値X℃だけ温調目標値SP3に近づけるように、この目標値SPの値を更新する。
【0049】
そして、目標値SPが温調目標値SP3に近似する状況に達した場合、具体的には、目標値SPと温調目標値SP3との差の絶対値が基準値Y℃未満に達したことを#112ステップで判断した場合に高精度温調制御に移行するのである。
【0050】
高精度温調制御(#113ステップ)では、送風部温センサTS1の計測部位における送風部目標値SP1として、温調目標値SP3より僅かに低い温度が設定されると共に、送風部温センサTS1の計測値PV1と送風部目標値SP1とを平衡させる制御が実行される。また、吹出部温センサTS2の計測部位における吹出部目標値SP2として温調目標値SP3が設定されると共に、吹出部温センサTS2の計測値PV2と吹出部目標値SP2とを平衡させる制御が実行される。更に、チャンバー温センサTS3の計測部位における温調目標値SP3が設定され、チャンバー温センサTS3の計測値PV3と温調目標値SP3とを平衡させる温調制御が実行され、この高精度温調制御はリセットされるまで継続される(#114ステップ)。
【0051】
〔制御の別実施形態〕
(a)前記温調制御において#104〜#107ステップのループでは、設定された値未満の温度変化率(温度勾配)を得るための制御を行うものであるため、エイジング制御の目標値SPを設定する際のシフト値Uとして、例えば、0.2℃だけ温調目標値SP3に近づく値を与えておき、この後、設定時間以上を費やして0.2℃だけシフトしたことを判断した場合に、#104ステップの処理に戻り、この#104ステップにおいて、エイジング制御の目標値SPが0.2℃だけ温調目標値SP3に近づく値を与えるように処理形態を設定しても良い。
【0052】
つまり、#104ステップを通過する場合には、必ずシフト値Uだけエイジング制御の目標値SPを更新し、チャンバーRの温度がシフト値Uだけシフトした場合に#104ステップに戻るように制御のループを設定するのである。
【0053】
このように制御形態を設定したものでは、#104ステップにおいて設定される目標値SPが、先に設定された目標値SPより目標値SPのシフト量が小さくなり、急激な温度変化を招くことがない。また、制御のループにおいて#104ステップを通過する際には、必要とする温度のシフトが行われているので、精度の高い昇温が実現する。
【0054】
尚、この別実施形態のように処理形態を設定した場合でも、この#104〜#107ステップのループにおいて温度変化率を取得し、このように取得した温度変化率が基準値Wを超える場合に、補正温度制御に移行する制御は必要とする。
【0055】
(b)前記温調制御において#109〜#112ステップのループにおいても、設定された値未満の温度変化率(温度勾配)を得るための制御を行うものである。従って、この制御においても、(a)の別実施形態と同様に、#109ステップを通過する場合には必ず補正シフト値Xだけエイジング制御の目標値SPを更新するように制御形態を設定しても良い。
【0056】
(c)温調制御の開始時において、チャンバーRの内部温度と温調目標値SP3との偏差が規定値を超えていることが明らかである場合には、#101ステップの処理に代えて、オペレータが人為的にスイッチを操作する等の操作によって、エイジング制御を開始するように処理形態を設定する。
【0057】
(d)高精度温調制御では、チャンバー温センサTS3の計測部位における温調目標値SP3は決まった値であるが、送風部温センサTS1の計測部位における送風部目標値SP1、あるいは、吹出部温センサTS2の計測部位における吹出部目標値SP2については、送風部目標値SP1が吹出部目標値SP2より低温であれば良く、効率的な制御を実現する値であれば任意の値を設定して良い。
【0058】
〔実施例効果〕
このように、チャンバーRの温度が外部の空気温度と等しい状態からチャンバーRの温調を行う場合のように、チャンバー温センサTS3の計測部位の温調目標値SP3(チャンバーRの目標温度)と、チャンバー温センサTS3の計測値PV3との温度差が大きい状況からエイジング制御を行う際には、最初に初期制御モジュール22aの制御によって、チャンバーRに温調のための空気を供給する系の温度を温調目標値SP3に近い値に設定されることにより、この後の温調制御において、この空気供給系の熱容量の作用を排除できる。
【0059】
次に、標準温調制御モジュール22cの制御により、エイジング制御の目標値SPをシフト値Uに基づいて設定した状態でチャンバーRの温度をシフトさせる標準温調制御ステップによって温調制御を行える。また、この標準温調ステップにおける温調時において温度変化率取得モジュール22bの制御により温度変化率(温度勾配)を取得できる。
【0060】
この温度変化率はチャンバーRの熱容量を反映したものであるため、この温度変化率が所望の値未満である場合には、目標値SPを更新しながら標準温調ステップを実行できる。これとは逆に、温度変化率が所望の値を超える場合には、補正シフト値Xに基づいて目標値SPを新たに設定し、温度変化率を所望の値にする補正温調ステップを実行できる。この後、高精度温調制御に移行するので、チャンバーRの急激な温度変化を抑制しながら緩速で温度のシフトを行い、チャンバーR内に設置された機器Bに悪影響を及ぼすことのない温調制御を実現するのである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】チャンバーと温調装置とを模式的に示す図
【図2】冷凍サイクルと制御構成とを示す図
【図3】温調制御のフローチャート
【図4】制御に使用される符号類を一覧化して示した図
【符号の説明】
【0062】
C 冷却手段(冷却部)
X 補正値(補正シフト値)
R チャンバー
T 閾値
W 基準値
SP 目標値
SP3 温調目標値
HR3 制御手段(主制御ユニットHR3)
TS2 吹出部温センサ
TS3 チャンバー温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒の圧縮、凝縮、膨張、蒸発を行う冷凍サイクルによってチャンバーから取り込んだ空気を冷却する冷却手段と、加熱する加熱手段とを備え、温調後の空気を前記チャンバーに供給する温調装置であって、
前記チャンバーの内部温度と温調目標値との偏差が規定値を超える場合にエイジング制御を行い、前記偏差が規定値を超えない場合に高精度温調制御を行う制御手段を備え、
前記制御手段は、前記エイジング制御において、前記チャンバー内の温度を計測するチャンバー温センサの計測値を基準にして設定値だけ前記温調目標値に近い値のエイジング制御の目標値を設定して温調制御を行い、この温調制御の開始時点と設定時間経過時点との前記チャンバー温センサの計測値から温度変化率を求めると共に、
この温度変化率が基準値未満である場合には、この温度変化率を維持するように前記設定値に基づいて目標値が設定される標準温調ステップを実行し、この温度変化率が基準値を超える場合には、温度変化率が前記基準値未満となる目標値が新たに設定される補正温調ステップを実行する温調装置。
【請求項2】
前記チャンバー温センサの計測値と前記温調目標値との差が予め設定された閾値未満に達した後に、前記制御手段は、前記エイジング制御の目標値を設定して温調制御を開始すると共に、前記温度変化率を求める制御に移行する請求項1記載の温調装置。
【請求項3】
前記制御手段は、1つの前記標準温調ステップにおける設定時間が経過したタイミングで、この標準温調ステップの開始時と設定時間経過後の前記チャンバー温センサの計測値から温度変化率を求め、この温度変化率が基準値を超えていることを判定した場合には、この温度変化率に対応して補正値を設定すると共に、この補正値に基づいてエイジング制御の目標値を設定して前記補正温調ステップに移行する請求項1又は2記載の温調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−236451(P2009−236451A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85910(P2008−85910)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000229047)日本スピンドル製造株式会社 (328)
【Fターム(参考)】