説明

温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物及びそれを用いた温間又は熱間塑性加工方法

【課題】潤滑性能に優れ且つ作業環境及び作業効率の悪化を抑制できる温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物及びそれを用いた温間又は熱間塑性加工方法を提供する。
【解決手段】本温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物は、芳香族スルホン酸化合物(例えば、ナフタレン系スルホン酸、ナフタレン系スルホン酸の塩、ナフタレン系スルホン酸のホルマリン縮合物、及び、ナフタレン系スルホン酸のホルマリン縮合物の塩のうちの少なくとも1種)を含み、この芳香族スルホン酸化合物の含有量が、温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物を100質量%とした場合に、0.01〜70質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物及びそれを用いた温間又は熱間塑性加工方法に関する。更に詳しくは、潤滑性能に優れ且つ作業環境及び作業効率の悪化を抑制できる温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物及びそれを用いた温間又は熱間塑性加工方法に関する。
本発明は、温間又は熱間領域における金属の鍛造、圧延等の塑性加工分野等において好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来から金属の塑性加工において、金属材料と工具或いは金型間との摩擦を低減し、金属の塑性変形を一層円滑に行うと共に、工具或いは金型の冷却、保護及び工具や金型からの金属材料の離型を容易にする目的で潤滑剤が使用されている。このような潤滑剤としては、例えば、潤滑性及び離型性に優れるという観点から、黒鉛粉末、カルボン酸塩等を油又は水に分散したタイプの黒鉛系潤滑剤が広く利用されている。
【0003】
これらの潤滑剤のうち、油に分散したタイプのものは、引火の問題や、周辺に飛散したミストが汚れを抱き込み、機械周りに付着することで作業環境を悪化させるという問題があり、最近では水に分散したタイプの水系潤滑剤の使用が増えつつある。
水系潤滑剤の中では、性能の面から黒鉛粉末を水に分散した潤滑剤が使用されている。しかし、塗布する際に黒鉛粉末が飛散したり、機械に付着したりして作業環境を悪化させるという欠点がある。また、使用回数を重ねるに従って、黒鉛粉末が潤滑剤を塗布するパイプやノズルに詰まり、作業に支障をきたすと共に、これらを清掃するために余分な作業が必要となる。その結果、塑性加工の作業効率を大きく悪化させるという問題点もある。
そのため、黒鉛系潤滑剤の問題点を解決するために、黒鉛粉末を含有しない無黒鉛型の潤滑剤が求められている。この要求に応えるものとしては、ガラス系潤滑剤及びカルボン酸系潤滑剤が知られている(例えば、特許文献1〜5等参照)。
しかし、これらの潤滑剤は、その1次性能である潤滑性が黒鉛系潤滑剤に及ばない場合がほとんどであり、より高い潤滑性を有する無黒鉛系潤滑剤の開発が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−265974号公報
【特許文献2】特開2003−206493号公報
【特許文献3】特開2003−306689号公報
【特許文献4】特開2004−18758号公報
【特許文献5】特開平8−157860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、潤滑性能に優れ且つ作業環境及び作業効率の悪化を抑制できる温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物及びそれを用いた温間又は熱間塑性加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の問題を解決する目的で検討した過程において、芳香族スルホン酸化合物を含有させることで、良好な潤滑性能を示す温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。尚、本発明における「潤滑性能」には、加工後に金型・ロール等の工具から被加工材を引き離す際の離型性も含まれる。これは、潤滑性が不足して焼付き等が生じると、離型性も悪くなるためである。
【0007】
本発明は、以下に示す通りである。
(1)芳香族スルホン酸化合物を含むことを特徴とする温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物。
(2)上記芳香族スルホン酸化合物が、芳香族スルホン酸、芳香族スルホン酸の塩、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物、及び、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物の塩のうちの少なくとも1種である上記(1)に記載の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物。
(3)上記芳香族スルホン酸化合物が、ナフタレン系スルホン酸、ナフタレン系スルホン酸の塩、ナフタレン系スルホン酸のホルマリン縮合物、及び、ナフタレン系スルホン酸のホルマリン縮合物の塩のうちの少なくとも1種である上記(1)に記載の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物。
(4)上記芳香族スルホン酸化合物の含有量が、温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物を100質量%とした場合に、0.01〜70質量%である上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物。
(5)水溶性高分子化合物を更に含有する上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物
(6)上記水溶性高分子化合物は、分子内にイミド基を含んでおり、且つ重量平均分子量が1000〜100万である上記(5)に記載の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物
(7)温間若しくは熱間鍛造加工、又は、温間若しくは熱間圧延加工に用いられる上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物。
(8)上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物を使用することを特徴とする温間又は熱間塑性加工方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物は、芳香族スルホン酸化合物を含有しているため、潤滑性能に優れており、且つ作業環境及び作業効率の悪化を抑制できる。また、温間又は熱間領域における金属の鍛造、圧延等の塑性加工に好適に利用することができる。
また、芳香族スルホン酸化合物が芳香族系スルホン酸アルカリ塩である場合には、十分な潤滑性能が得られる。
更に、芳香族スルホン酸化合物を特定の割合で含有する場合には、十分な潤滑性能が得られる。
また、温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物が水溶性高分子化合物を更に含有する場合には、作業環境及び作業効率の悪化を十分に抑制することができる。
本発明の温間又は熱間塑性加工方法においては、潤滑性能に優れる上記温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物を使用するため、作業環境及び作業効率の悪化を抑制でき、効率よく金属の塑性加工を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物は、芳香族スルホン酸化合物を含むことを特徴とする。
上記「芳香族スルホン酸化合物」は、分子中に芳香族環とそれに結合した1つ以上のスルホン酸基を有したものである。このスルホン酸基の数は、1つ以上であれば特に限定されない。
この芳香族スルホン酸化合物としては、例えば、(1)ベンゼン系スルホン酸、ナフタレン系スルホン酸、アントラセン系スルホン酸等の芳香族スルホン酸、(2)前記芳香族スルホン酸の塩、(3)前記芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物、(4)前記芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物の塩等が挙げられる。これらの芳香族スルホン酸化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0010】
上記ベンゼン系スルホン酸としては、例えば、ベンゼンスルホン酸、アルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基等の置換基を有するアルキルベンゼンスルホン酸(例えば、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸等)、ヒドロキシスルホン酸、スルファニル酸等が挙げられる。
上記ナフタレン系スルホン酸としては、例えば、ナフタレンスルホン酸、アルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基等の置換基を有するナフタレンスルホン酸等が挙げられる。
上記アントラセン系スルホン酸としては、例えば、アントラセンスルホン酸、アルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基等の置換基を有するアントラセンスルホン酸等が挙げられる。
【0011】
また、上記芳香族スルホン酸の塩及び上記芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物の塩は、無機塩であっても、有機塩であってもよい。
上記無機塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、上記有機塩としては、例えば、アミン塩等が挙げられる。これらのなかでも、水溶性、安定性の維持の観点から、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が好ましく、より好ましくはアルカリ金属塩、更に好ましくはナトリウム塩、カリウム塩である。
【0012】
また、本発明においては、これらの芳香族スルホン酸化合物のなかでも、ナフタレン系スルホン酸、ナフタレン系スルホン酸の塩、ナフタレン系スルホン酸のホルマリン縮合物及びナフタレン系スルホン酸のホルマリン縮合物の塩のうちの少なくとも1種であることが好ましい。更には、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物のナトリウム塩、1、3、6−ナフタレントリスルホン酸のナトリウム塩が好ましい。この場合、潤滑性能に優れ且つ作業環境及び作業効率の悪化を十分に抑制できる温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物を確実に得ることができる。
【0013】
更に、本発明における芳香族スルホン酸化合物の重量平均分子量は、水溶性、安定性の維持の観点から、通常、100〜50000であり、好ましくは150〜10000、より好ましくは200〜5000である。
また、本発明の芳香族スルホン酸化合物には、リグニンスルホン酸及びその塩、ポリスチレンスルホン酸等の高分子スルホン酸及びその塩であって、分子量50000以上のものは含まないこととすることができる。
【0014】
上記芳香族スルホン酸化合物の含有量は、本温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物を100質量%とした場合に、通常、70質量%以下であり、好ましくは0.01〜70質量%、より好ましくは0.1〜50質量%、更に好ましくは0.5〜50質量%、特に好ましくは1〜30質量%である。この含有量が70質量%以下である場合には、潤滑性能に優れ且つ作業環境及び作業効率の悪化を十分に抑制できる温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物となるため好ましい。また、この含有量が70質量%を超える場合、原液としての安定性を保つことが難しく、成分の析出・沈降が生じて好ましくない。
尚、鍛造、圧延等の塑性加工に使用する際の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物における上記芳香族スルホン酸化合物の含有量は、本温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物を100質量%とした場合に、0.01〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜10質量%、更に好ましくは0.05〜5質量%、特に好ましくは0.05〜3質量%である。この含有量が30質量%を超える場合には、それ以上の潤滑性能の向上が望めない。そのため、この含有量が30質量%を超える場合(例えば、30〜70質量%である場合)には、使用する際に、後述するように潤滑剤組成物原液に水を配合して稀釈するなどして上記芳香族スルホン酸化合物の含有量を調整することが好ましい。
【0015】
本発明の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物には、通常、水が配合される。この水の配合量については特に限定はないが、通常、本温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤を100質量%とした場合に、10〜99.5質量%、好ましくは40〜95質量%、より好ましくは50〜90質量%、更に好ましくは60〜80質量%である。この水の含有量が10質量%以上の場合には、潤滑剤組成物の粘度を低くして作業性の悪化を抑制することができるので好ましい。一方、この含有量が99.5質量%以下である場合には、潤滑成分の不足による潤滑性の低下を抑制し、塑性加工後の製品形状の悪化を防ぐことができるので好ましい。
尚、本発明では、上記のように最初から水を配合した組成物とするだけでなく、使用する際に水を加えて所定の組成物として使用することもできる。また、必要に応じて、使用の際に更に水で稀釈(通常、10〜100倍)して使用することもできる。
【0016】
また、本発明の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物には、水溶性高分子化合物を含有させることができる。
上記「水溶性高分子化合物」としては、例えば、分子内にカルボキシル基を含む化合物、スルホニル基を含む化合物及びヒドロキシル基を含む化合物等が挙げられる。更には、これらの化合物がイミド化され、分子内にイミド基を含む化合物が挙げられる。これらのなかでも、分子内にイミド基を含むものが好ましい。尚、本発明における「イミド基」とは、イミノ基(=NH)を有するアミドを意味し、通常、酸無水物とアンモニアの作用で生成する。また、加熱しただけで酸無水物を生成する酸の場合は、そのアンモニウム塩を加熱してもイミドを生ずる。例えばマレイン酸無水物をアンモニアガスでイミド化することができる。
【0017】
具体的な水溶性高分子化合物としては、(1)炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸及びその誘導体のうちの少なくとも1種の(共)重合体、(2)炭素−炭素二重結合を有するスルホン酸及びその誘導体のうちの少なくとも1種の(共)重合体、(3)炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸若しくはその誘導体のうちの少なくとも1種と、炭素−炭素二重結合を有するスルホン酸若しくはその誘導体の少なくとも1種との共重合体、(4)炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸若しくはその誘導体のうちの少なくとも1種と、上記水溶性高分子化合物を構成する単量体と重合可能な他の単量体のうちの少なくとも1種との共重合体、(5)炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸若しくはその誘導体のうちの少なくとも1種と、炭素−炭素二重結合を有するスルホン酸若しくはその誘導体のうちの少なくとも1種と、上記水溶性高分子化合物を構成する単量体と重合可能な他の単量体のうちの少なくとも1種との共重合体、及び(6)これらの(共)重合体の一部をイミド化したもの等が挙げられる。更には、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系化合物、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、又はその一部をイミド化したもの等を用いることもできる。
尚、これらの水溶性高分子は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
上記炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸としては、例えば、炭素−炭素二重結合を有する脂肪族カルボン酸、炭素−炭素二重結合を有する脂環式カルボン酸、炭素−炭素二重結合を有する芳香族カルボン酸等が挙げられる。
また、上記炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸は、モノカルボン酸でもよく、ジカルボン酸、トリカルボン酸等でもよい。具体的には、例えば、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸及びウンデシレン酸等が挙げられる。これらのうち、特にマレイン酸が好ましく用いられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
更に、上記炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸の誘導体の例としては、エステル、酸塩化物、アミド、無水物等が挙げられる。具体的には、エステルとして、2−メチルマレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル及びマレイン酸モノフェニルエステル等が挙げられる。また、無水物としては、無水フタル酸、無水マレイン酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
上記炭素−炭素二重結合を有するスルホン酸としては、炭素−炭素二重結合を有する脂肪族スルホン酸、炭素−炭素二重結合を有する脂環式スルホン酸、炭素−炭素二重結合を有する芳香族スルホン酸等が挙げられる。
この炭素−炭素二重結合を有するスルホン酸として具体的には、例えば、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルシクロヘキシルスルホン酸等が挙げられる。また、上記炭素−炭素二重結合を有するスルホン酸の誘導体としては、エステル、アミド、無水物等が挙げられる。
【0020】
また、上記他の単量体とは、上記水溶性高分子化合物を構成することができる単量体であって、炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸又はその誘導体、炭素−炭素二重結合を有するスルホン酸又はその誘導体と重合可能であり、且つ、炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸又はその誘導体、炭素−炭素二重結合を有するスルホン酸又はその誘導体以外の単量体をいう。
上記他の単量体としては、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1―ペンテン、1−ドデセン及び1−テトラデセン等のα−オレフィン、スチレン等の芳香族ビニル化合物、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物、ブタジエン、イソプロピレン等のジエン系化合物、及びビニル基やアリル基等のアルケニル基を有するフェノール系化合物並びにその誘導体(エステル等)等が挙げられる。これらのなかでも、特にα−オレフィンが好ましく用いられる。また、上記他の単量体は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
また、上記(共)重合体の一部がイミド化された水溶性高分子化合物の具体例としては、アクリル酸と無水マレイン酸との共重合体をイミド化した化合物、マレイン酸の重合体或いはアクリル酸の重合体をイミド化した化合物、アクリルアミドと無水マレイン酸との共重合体をイミド化した化合物、イソブチレンと無水マレイン酸との共重合体をイミド化した化合物、スチレンスルホン酸と無水マレイン酸との共重合体をイミド化した化合物、アクリル酸若しくはメタクリル酸と無水マレイン酸との共重合体をイミド化した化合物、イソブチレンとアクリル酸若しくはメタクリル酸と無水マレイン酸との共重合体をイミド化した化合物等が挙げられる。
【0022】
また、分子内にイミド基を有する水溶性高分子化合物の構造、性質等については特に限定はない。更に、水溶性高分子化合物の分子内にイミド基を形成する方法についても特に限定はない。例えば、炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸をイミド化して得られるイミド化誘導体の単独重合、又はこれと他の単量体との共重合によって得ることができる。或いは、炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸等の単独重合体、又はこれと他の単量体との共重合体をイミド化することによっても得ることができる。
【0023】
また、この水溶性高分子化合物の分子内におけるイミド基の存在割合については特に限定はない。分子内のイミド基の存在割合の指標となるイミド化率は、通常1〜80モル%、好ましくは5〜75モル%、より好ましくは10〜70モル%である。上記イミド化率を1モル%以上とすると、イミド化していない化合物と比べ潤滑性及び離型性の向上が認められるので好ましい。一方、イミド化率が80モル%を超えるまでイミド化するのは技術的に困難を要することから、上記イミド化率は80モル%以下とするのが好ましい。また、イミド化率が75モル%を超えるまでイミド化を行う場合は長時間を有することから、上記イミド化率は75モル%以下とするのがより好ましい。
【0024】
本発明の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤において、上記水溶性高分子化合物は、通常、ナトリウム塩又はカリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等の塩の形で添加されるので、上記水溶性高分子化合物には、このような塩も含まれる。また、上記水溶性高分子化合物は、水系において、イオンの状態で存在するが、この水溶性高分子化合物においては、このイオン状態のものも含まれる。尚、上記水溶性高分子化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
また、上記水溶性高分子化合物の重量平均分子量は特に限定されないが、1000〜100万であることが好ましく、より好ましくは1万〜80万、更に好ましくは2万〜50万、特に好ましくは3万〜30万、最も好ましくは4万〜20万である。この重量平均分子量が1000〜100万である場合には、十分な潤滑性が得られる共に、適度な粘度範囲となり、増粘のためスプレー塗布が困難になったり、金型汚れなどの問題が発生することが抑制される。
【0026】
また、本発明における上記水溶性高分子化合物は、分子内にイミド基を含んでおり、且つ重量平均分子量が1000〜100万であるものとすることができる。この場合、作業環境及び作業効率の悪化を十分に抑制することができるため好ましい。
【0027】
上記水溶性高分子化合物の含有量は特に限定されないが、本温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物を100質量%とした場合に、60質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01〜50質量%、更に好ましくは0.1〜30質量%である。この含有量が60質量%以下である場合には、潤滑性能に優れ且つ作業環境及び作業効率の悪化を十分に抑制できる温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物となるため好ましい。
また、この水溶性高分子化合物及び上記芳香族スルホン酸化合物の合計を100質量%とした場合に、水溶性高分子化合物の含有量は0.01〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜30質量%、更に好ましくは0.5〜20質量%である。この含有量が0.01〜40質量%である場合には、潤滑性能に優れ且つ作業環境及び作業効率の悪化を十分に抑制できる温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物となるため好ましい。
【0028】
更に、本発明の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物には、通常の温間又は熱間塑性加工用潤滑剤に使用される種々の添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で必要に応じて適宜添加することができる。上記添加剤としては、例えば、防菌防黴剤、防腐剤、消泡剤、界面活性剤及び金属の防錆防食剤等を挙げることができる。また、より過酷な加工条件下で用いる場合には、焼付き防止等の性能を向上させる目的で、硫化鉱油等の極圧添加剤、ステアリン酸カルシウム等の金属セッケン、ポリエチレンワックスエマルション等のエマルション、ポリエチレンワックス、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート及び粉末セルロース等の有機粉体等を添加することができる。尚、本発明の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物には、黒鉛粉末が含有されていないことが好ましく、本潤滑剤組成物は、黒鉛粉末を含有しない無黒鉛型の潤滑剤組成物とすることができる。
尚、本発明の温間及び熱間塑性加工用潤滑剤は、従来の方法により各成分を混合することにより製造することができる。
【0029】
また、本発明の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物は、潤滑性能に優れ且つ作業環境及び作業効率の悪化を抑制できるため、鍛造加工、圧延加工、引き抜き加工、打ち抜き加工及びロールフォーミング加工等の温間又は熱間塑性加工において好適に用いることができる。
【0030】
また、本発明の温間又は熱間塑性加工方法は、前記温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物を使用することを特徴とする。
上記温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物の塗布方法は特に限定されず公知の方法により金型等に塗布することができる。この場合、温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物を前述のように稀釈して使用することができる。また、温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物の塗布量においても適宜調整される。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明においては、以下の具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
【0032】
(1)温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物の調製
表1〜3に示す割合で各成分を配合することにより、実施例1〜11及び比較例1〜6の各温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物を調製した。その際、各潤滑剤組成物の外観を目視にて評価し、その結果を表1〜3に併記した。
尚、水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、GPC(Gel permeation chromatograph)により、東ソー株式会社製「HPLCシステム」を用いて測定した。また、水溶性高分子化合物のイミド化率(モル比%)は、水溶性高分子化合物中に含まれる窒素分の含有率を全窒素測定機(三菱化成製「TOX−100型」)にて測定し、イミド化率に換算して示した。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
(2)潤滑性能評価
上記(1)で調製した実施例1〜11及び比較例1〜6の各温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤を水で10倍に希釈して稀釈液を調製した。そして、表4に示す試験条件及び塗布条件で各稀釈液を金型に塗布し、熱間領域でのスパイクテスト(特開平5−7969参照)を行うことにより潤滑性を評価し、その結果を表1〜3に併記した。また、スパイクテストの概要を図1に示す。
また、稀釈液の外観を目視にて評価し、その結果を表1〜3に併記した。
尚、潤滑性の評価においては、成形荷重(t)が小さいほど潤滑性が優れていることを示す。
【0037】
【表4】

【0038】
(3)作業環境評価
作業環境を、希釈液の外観及び金型付着物の色を目視により評価し、その結果を表1〜3に併記した。尚、作業現場では塑性加工用潤滑剤塑性物の付着物が、金型及びプレス機周辺に付着して作業環境を汚染するが、その付着物の色調は黒色に比べて白色の方が汚染の程度が軽度であるため、白色に近いほど作業環境が良好といえる。
【0039】
(4)実施例の効果
表1〜3によれば、比較例1〜5の従来の無黒鉛系潤滑剤の成形荷重が72.4〜76.3tであったのに対して、本発明の範囲内の実施例1〜11においては、成形荷重が64.4〜67.2tであり、潤滑性が大きく向上していることが分かった。また、この実施例1〜11における成形荷重は、黒鉛を配合した比較例6の成形荷重(66.0t)と比較しても同等以上の結果を示しており、実施例1〜11の潤滑剤組成物は優れた潤滑性能を有していることが分かった。
また、実施例1〜11を用いた際の金型付着物の色は白色又は微黄色であり、比較例1〜5の従来の無黒鉛系潤滑剤(金型付着物の色:全て白色)と同等の結果であることから、黒鉛を配合した比較例6(金型付着物の色:黒色)よりも作業環境を大幅に改善できることが分かった。そのため、本実施例1〜11の潤滑剤組成物を用いることで、比較例1〜5等の従来の無黒鉛系潤滑剤では塑性加工が困難であり、比較例6のような黒鉛系潤滑剤の使用が必須であった難加工部品への適用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】スパイクテストの概要を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0041】
1;加工前の試験片、1’;加工後の試験片、2;金型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族スルホン酸化合物を含むことを特徴とする温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物。
【請求項2】
上記芳香族スルホン酸化合物が、芳香族スルホン酸、芳香族スルホン酸の塩、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物、及び、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物の塩のうちの少なくとも1種である請求項1に記載の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物。
【請求項3】
上記芳香族スルホン酸化合物が、ナフタレン系スルホン酸、ナフタレン系スルホン酸の塩、ナフタレン系スルホン酸のホルマリン縮合物、及び、ナフタレン系スルホン酸のホルマリン縮合物の塩のうちの少なくとも1種である請求項1に記載の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物。
【請求項4】
上記芳香族スルホン酸化合物の含有量が、温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物を100質量%とした場合に、0.01〜70質量%である請求項1乃至3のいずれかに記載の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物。
【請求項5】
水溶性高分子化合物を更に含有する請求項1乃至4のいずれかに記載の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物
【請求項6】
上記水溶性高分子化合物は、分子内にイミド基を含んでおり、且つ重量平均分子量が1000〜100万である請求項5に記載の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物
【請求項7】
温間若しくは熱間鍛造加工、又は、温間若しくは熱間圧延加工に用いられる請求項1乃至6のいずれかに記載の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の温間又は熱間塑性加工用水溶性潤滑剤組成物を使用することを特徴とする温間又は熱間塑性加工方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−176962(P2007−176962A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−373446(P2005−373446)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)
【Fターム(参考)】