説明

測位装置、測位システム、測位方法、測位プログラム

【課題】少なくとも1つの衛星からの信号を受信できれば、正確な位置と正確な時刻とを得ることができる測位装置、測位システム、測位方法、測位プログラムを提供する。
【解決手段】高精度発振器121が発生する高精度なリファレンスクロック信号に基づいて、内部クロック発振部111が内部クロック信号を発振する。RF受信部112は、この内部クロック信号を用いて人工衛星からの衛星信号を受信時刻の記録を行いながら複数回受信する。測位演算部114は、複数回受信した衛星信号とその受信時刻とを用いて測位演算を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工衛星を利用した測位装置、測位システム、測位方法、測位プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
GPS(Global Positioning System)と呼ばれる人工衛星を利用した測位システムが知られている(例えば、非特許文献1)。GPSを利用した測位システムでは、時刻同期がなされている複数の送信機(GPS衛星)からの信号を受信機(測位装置)が受信する。受信機では自身の時刻に基づき、各送信機から受信機までの擬似伝搬時間を得る。この擬似伝搬時間と、単位時間あたりの電波の伝搬距離から、受信機と送信機間の擬似距離が求められる。
【0003】
受信機における受信タイミングの検出には、スペクトラム拡散の相関演算を利用している。各送信機からは、それぞれ異なるPN(Pseudo Noise)符号を用いてスペクトラム拡散を施した信号を送信している。この信号を受信した受信機では、受信した信号とPN符号との相関演算を行い、相関値が極大となるタイミングから、当該PNに対応する特定の送信機からの信号の受信タイミングを得る。
【0004】
GPSを利用した測位システムでは、スペクトラム拡散方式を利用しているため、複数の送信機からの信号を同時に受信し、復調することが可能となる。GPSを利用した測位システムでは、前述のこの擬似伝搬距離の算出を、同一時刻に受信した信号に対して異なる複数のPN符号を用いて行い、同時に複数の送信機までの擬似伝搬距離を得る。
【0005】
一方、各送信機の位置情報(座標)は、送信機からの送信信号に重畳されており、これを受信機で受信することにより得られる。ただし、Assisted−GPSのようなシステムでは、各送信機の位置情報(座標)は、ネットワークを介す等の別の手段により得るものもある。ここで求めた「受信機と各送信機との擬似距離」と、「各送信機の位置情報(座標)」を基に、受信機の位置情報を算出することが可能となる。
【0006】
以下、従来の位置情報の算出方法をより詳しく説明する。
図8は、従来の位置情報の算出方法における信号と時間との関係を示す図である。
図9は、従来の位置情報の算出方法における送信機と受信機との関係を示す模式図である。
図8において、Tは、送信機での基準時刻であり、T’は、受信機での基準時刻であり、T’は、受信機での受信時刻である。なお、送信機の時計と受信機の時計との間には、送信機に対する受信機の時刻誤差δのずれが生じているものとする。
【0007】
この場合、擬似距離rは、以下の式で表すことができる。
=ρ+cδ=ρ+s
ただし、
擬似距離r:送信機iに対する受信機の時刻誤差により生ずる距離誤差を含んだ距離、
真の距離ρ:送信機iと受信機の真の距離、
距離誤差s:時刻誤差により生ずる真の距離との誤差、
電波の速度c:単位時間当たりの電波の伝送距離とする。
【0008】
ここで、受信した信号から擬似距離rを求めることができる。
=c×(T’−T’)
【0009】
受信機の位置を(x,y,z)とし、送信機iの位置を(x,y,z)とするとき、擬似距離rは、次のように表すことができる。
【数1】

【0010】
ここで、送信機i=1〜4に対して、それぞれの距離は、次のように表すことができる。
【数2】

【0011】
従来は、未知数x,y,z,sに関して上記の4つの方程式を解くことにより、受信機の正しい位置及び正しい時刻を得ていた。すなわち、同時に4つ以上の送信機からの信号を受信することが必要であった。
また、受信機の高度Hが既知のときは、この高度の情報を下記の式で与えることにより、3つ以上の送信機からの信号が受信できれば(すなわち、3つの方程式を解けば)、受信機の正しい平面上の位置及び正しい時刻を得ることができた。
【数3】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】坂井 丈泰著 「GPS技術入門」 東京電機大学出版局 2003年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、従来の技術では、受信機は、正確な位置や正確な時刻を得るためには、少なくとも4つ(条件によっては3つ)の送信機からの信号を同時に受信する必要があった。したがって、同時に4つ(又は3つ)の送信機からの信号が取得できないと、正確な位置及び時刻を得ることができないという問題があった。
【0014】
本発明の課題は、少なくとも1つの衛星からの信号を受信できれば、正確な位置と正確な時刻とを得ることができる測位装置、測位システム、測位方法、測位プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の事項を提案している。
【0016】
(1)本発明は、人工衛星からの衛星信号を受信時刻の記録を行いながら複数回受信する衛星信号受信手段(112)と、前記衛星信号の受信時刻を予め設定した時刻ずれ量以下で測定するための内部クロック信号を発振する内部クロック発振手段(111)と、前記衛星信号受信手段が複数回受信した前記衛星信号とその受信時刻とを用いて測位演算を行う測位演算手段(114)とを備える測位装置(110,210,410,610)を提案している。
【0017】
この発明によれば、衛星信号受信手段は、人工衛星からの衛星信号を受信時刻の記録を行いながら複数回受信する。内部クロック発振手段は、衛星信号の受信時刻を予め設定した時刻ずれ量以下で測定するための内部クロック信号を発振する。測位演算手段は、衛星信号受信手段が複数回受信した衛星信号とその受信時刻とを用いて測位演算を行う。したがって、少なくとも1つの衛星からの信号を受信できれば、正確な位置と正確な時刻とを得ることができる。
【0018】
(2)本発明は、(1)に記載の測位装置において、前記内部クロック発振手段(111)は、外部から取得したリファレンスクロック信号に基づいて前記内部クロック信号を発振することを特徴とする測位装置(110,210,610)を提案している。
【0019】
この発明によれば、内部クロック発振手段は、外部から取得したリファレンスクロック信号に基づいて内部クロック信号を発振する。したがって、必要なときにのみリファレンスクロック信号を外部から取得してりようすることにより、正確な位置と正確な時刻とを得ることができる。
【0020】
(3)本発明は、(2)に記載の測位装置において、前記内部クロック発振手段(111)は、当該測位装置に直接接続されて当該測位装置の一部として機能する補助装置(120,220,520)から前記リファレンスクロック信号を取得することを特徴とする測位装置(110,210)を提案している。
【0021】
この発明によれば、内部クロック発振手段は、当該測位装置に直接接続されて当該測位装置の一部として機能する補助装置からリファレンスクロック信号を取得する。したがって、簡単な構成で高精度なリファレンスクロック信号を利用できる。
【0022】
(4)本発明は、(3)に記載の測位装置において、前記補助装置(120)は、前記リファレンスクロック信号を発振するリファレンスクロック発振器(121)を備えることを特徴とする測位装置(110)を提案している。
【0023】
この発明によれば、補助装置は、前記リファレンスクロック信号を発振するリファレンスクロック発振器を備えるので、簡単な構成で高精度なリファレンスクロック信号を利用できる。
【0024】
(5)本発明は、(3)に記載の測位装置において、前記補助装置(220,520)は、無線又は有線の通信又は放送により前記リファレンスクロック信号又は前記リファレンスクロック信号の基準とすることができる基準信号を受信することを特徴とする測位装置(210)を提案している。
【0025】
この発明によれば、補助装置は、無線又は有線の通信又は放送により前記リファレンスクロック信号又は前記リファレンスクロック信号の基準とすることができる基準信号を受信する。したがって、高精度の発振器を個々の測位装置専用で用いることなく、高精度なリファレンスクロック信号を利用できる。
【0026】
(6)本発明は、(1)に記載の測位装置において、リファレンスクロック信号を発振するリファレンスクロック発振器(416)を備え、前記内部クロック発振手段(111)は、前記リファレンスクロック発振器が発生した前記リファレンスクロック信号に基づいて前記内部クロック信号を発振することを特徴とする測位装置(410)を提案している。
【0027】
この発明によれば、リファレンスクロック発振器は、リファレンスクロック信号を発振する。内部クロック発振手段は、リファレンスクロック発振器が発生したリファレンスクロック信号に基づいて内部クロック信号を発振する。したがって、測位装置単体で少なくとも1つの衛星からの信号を受信できれば、正確な位置と正確な時刻とを得ることができる。
【0028】
(7)本発明は、(4)又は(6)に記載の測位装置において、前記リファレンスクロック発振器(121,416)は、人工衛星からの衛星信号に基づいて校正されることを特徴とする測位装置を提案している。
【0029】
この発明によれば、リファレンスクロック発振器は、人工衛星からの衛星信号に基づいて校正される。したがって、リファレンスクロック発振器が発振するリファレンスクロック信号の精度を高めることができ、さらに正確な位置と正確な時刻とを得ることができる。
【0030】
(8)本発明は、(4)又は(6)に記載の測位装置において、前記リファレンスクロック発振器(121,416)は、人工衛星からの衛星信号に基づいて前記リファレンスクロック信号を発振することを特徴とする測位装置を提案している。
【0031】
この発明によれば、リファレンスクロック発振器は、人工衛星からの衛星信号に基づいて前記リファレンスクロック信号を発振する。したがって、個々のリファレンスクロック発振器を高精度の発振器としなくとも、正確な位置と正確な時刻とを得ることができる。
【0032】
(9)本発明は、(2)に記載の測位装置において、無線又は有線の通信又は放送により前記リファレンスクロック信号を受信する受信部(621)を備えることを特徴とする測位装置(610)を提案している。
【0033】
この発明によれば、受信部は、無線又は有線の通信又は放送により前記リファレンスクロック信号を受信する。したがって、高精度の発振器を個々の測位装置専用で用いることなく、高精度なリファレンスクロック信号を利用できる。また、測位装置に補助装置を取り付けることなく測位を行える。
【0034】
(10)本発明は、測位装置(110,210,410,610)と、前記測位装置にリファレンスクロック信号又は前記リファレンスクロック信号の基準とすることができる基準信号を送る基準信号送信装置(230,530)とを有する測位システムであって、前記測位装置は、人工衛星からの衛星信号を受信時刻の記録を行いながら複数回受信する衛星信号受信手段(112)と、前記衛星信号の受信時刻を予め設定した時刻ずれ量以下で測定するための内部クロック信号を外部から受信したリファレンスクロック信号に基づいて発振する内部クロック発振手段(111)と、前記衛星信号受信手段が複数回受信した前記衛星信号とその受信時刻とを用いて測位演算を行う測位演算手段(114)とを備え、前記基準信号送信装置は、前記リファレンスクロック信号又は前記基準信号を自ら発振、又は、外部(240,340)から取得し、前記測位装置へ送信することを特徴とする測位システムを提案している。
【0035】
この発明によれば、衛星信号受信手段は、人工衛星からの衛星信号を受信時刻の記録を行いながら複数回受信する。内部クロック発振手段は、衛星信号の受信時刻を予め設定した時刻ずれ量以下で測定するための内部クロック信号を外部から受信したリファレンスクロック信号に基づいて発振する。測位演算手段は、衛星信号受信手段が複数回受信した衛星信号とその受信時刻とを用いて測位演算を行う。基準信号送信装置は、リファレンスクロック信号又は前記基準信号を自ら発振、又は、外部から取得し、測位装置へ送信する。したがって、高精度の発振器を個々の測位装置専用で用いなくとも、少なくとも1つの衛星からの信号を受信できれば、正確な位置と正確な時刻とを得ることができる。
【0036】
(11)本発明は、内部クロック信号を発振する内部クロック発振ステップ(S10)と、人工衛星からの衛星信号を受信時刻の記録を行いながら複数回受信する衛星信号受信ステップ(S20)と、前記衛星信号受信ステップで複数回受信した前記衛星信号とその受信時刻とを用いて測位演算を行う測位演算ステップ(S50)とを実行する測位方法を提案している。
【0037】
この発明によれば、内部クロック発振ステップでは、内部クロック信号を発振する。衛星信号受信ステップでは、人工衛星からの衛星信号を受信時刻の記録を行いながら複数回受信する。測位演算ステップでは、衛星信号受信ステップで複数回受信した衛星信号とその受信時刻とを用いて測位演算を行う。したがって、少なくとも1つの衛星からの信号を受信できれば、正確な位置と正確な時刻とを得ることができる。
【0038】
(12)本発明は、コンピュータに、内部クロック信号を発振する内部クロック発振ステップ(S10)と、人工衛星からの衛星信号を受信時刻の記録を行いながら複数回受信する衛星信号受信ステップ(S20)と、前記衛星信号受信ステップで複数回受信した前記衛星信号とその受信時刻とを用いて測位演算を行う測位演算ステップ(S50)とを実行させることを特徴とする測位プログラムを提案している。
【0039】
この発明によれば、内部クロック発振ステップでは、内部クロック信号を発振する。衛星信号受信ステップでは、人工衛星からの衛星信号を受信時刻の記録を行いながら複数回受信する。測位演算ステップでは、衛星信号受信ステップで複数回受信した衛星信号とその受信時刻とを用いて測位演算を行う。したがって、少なくとも1つの衛星からの信号を受信できれば、正確な位置と正確な時刻とを得ることができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、少なくとも1つの衛星からの信号を受信できれば、正確な位置と正確な時刻とを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による測位装置の第1実施形態を示す図である。
【図2】測位装置110の測位動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明による測位装置を含む測位システムの第3実施形態を示す図である。
【図4】本発明による測位装置を含む測位システムの第4実施形態を示す図である。
【図5】本発明による測位装置の第5実施形態を示す図である。
【図6】第3実施形態の測位システムを有線通信を用いる形態に変更した変形形態を示す図である。
【図7】第3実施形態の測位システムにおける受信部221の機能を測位装置610に内蔵した変形形態を示す図である。
【図8】従来の位置情報の算出方法における信号と時間との関係を示す図である。
【図9】従来の位置情報の算出方法における送信機と受信機との関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態について詳細に説明する。
なお、本実施形態における構成要素は適宜、既存の構成要素等との置き換えが可能であり、また、他の既存の構成要素との組み合わせを含む様々なバリエーションが可能である。したがって、本実施形態の記載をもって、特許請求の範囲に記載された発明の内容を限定するものではない。
【0043】
(第1実施形態)
図1は、本発明による測位装置の第1実施形態を示す図である。
測位装置110は、内部クロック発振部111と、RF受信部112と、ベースバンド信号処理部113と、測位演算部114と、GPSアンテナ115とを備えている。また、測位装置110は、外部に接続された補助装置120を備えている。
【0044】
補助装置120は、測位装置110とケーブルを介して直接接続されており、測位装置110の一部として機能する。また、補助装置120は、高精度発振器121を備えている。高精度発振器121は、非常に高い精度のリファレンスクロック信号を発振し、発振したリファレンスクロック信号を測位装置110の内部クロック発振部111へ送るリファレンスクロック発振器である。高精度発振器としては、例えば、ルビジウム発振器やセシウム発振器等を用いるとよい。
従来のGPS測位装置に用いられている水晶発振器としては、TCXO(Temperature Compensated Crystal Oscillator)が多く用いられている。TCXOは、略1×10−6程度の周波数精度を持っている。一方、本実施形態に用いるルビジウム発振器であれば、略1×10−11程度、セシウム発振器であれば、略1×10−12程度の周波数精度を持っている。このように、本実施形態で用いる高精度発信器は、従来用いられている発振器と比較して非常に高い精度を備えている。
【0045】
内部クロック発振部111は、補助装置120の高精度発振器121から受信したリファレンスクロック信号に基づいて、内部クロック信号を発振する。具体的には、内部クロック発振部111は、入力したリファレンスクロック信号を参照し、内部クロック信号の発振周期を同期させる。内部クロック発振部111は、発振した内部クロック信号をRF受信部112及びベースバンド信号処理部113へ送る。
【0046】
RF受信部112は、GPSアンテナ115を介してGPS衛星からの衛星信号を受信する衛星信号受信手段である。また、RF受信部112は、内部クロック発振部111から取得した内部クロック信号を用いて、衛星信号の受信時刻を予め設定した時刻ずれ量(後述)以下で測定する。
ベースバンド信号処理部113は、RF受信部112が受信した衛星信号をデコードして、衛星信号に含まれる情報を取り出す。
【0047】
測位演算部114は、RF受信部112が複数回受信した衛星信号とその受信時刻とを用いて測位演算を行う。
ここで、測位演算部114が行う測位演算について説明する。
測位演算部114では、衛星信号を4回受信し、それぞれの衛星信号を用いて疑似距離r(測位装置から人工衛星までの距離であって、時刻誤差に起因する誤差を含む距離)を求める。各擬似距離rは、以下の式(1)のように表すことができる。
【数4】

ただし、式(1)において、受信機の位置を(x,y,z)とし、送信機iの位置を(x,y,z)とし、単位時間当たりの電波の伝送距離(電波の速度)をcとし、各測定における時刻誤差をδ(t)とする。
【0048】
ここで、各測定における時刻誤差をδ(t)とすると、時刻誤差により生ずる真の距離との誤差である距離誤差s(t)との間には、次の関係がなり立つ。
cδ(t)=s(t
【0049】
本実施形態では、衛星信号の受信は必ずしも同時に行っていない。すなわち、各擬似距離の測定は、必ずしも同時に行っていない。したがって、精度が悪い従来の測位装置110内の内部クロック発振部を用いていたとすると、各測定における時刻誤差は一定ではないので、i≠jのとき以下の関係となる。
δ(t)≠δ(t
【0050】
ここで、測定期間中に内部クロック発振部111が発振する内部クロック信号に生ずる最大の時刻ずれをΔtとし、許容する疑似距離測定誤差Dとする。時刻ずれΔtと許容する疑似距離測定誤差Dとの関係が、cΔt≦Dの関係を満たす場合には、各測定における時刻誤差は一定とみなすことができる。そこで、本実施形態では、内部クロック発振部111が発振する内部クロック信号に生ずる最大の時刻ずれΔtが上記関係を満たすようにしている。内部クロック信号の最大の時刻ずれは、リファレンスクロック信号の最大の時刻ずれと同等となる。よって、本実施形態は、高精度発振器121が発振するリファレンスクロック信号に生ずる最大の時刻ずれがD/c以下となるような精度の高い高精度発振器121を用いている。
【0051】
上述のように、各測定における時刻誤差が一定とみなすことができると、i≠jのとき以下の式(2)の関係が成立する。
δ(t)=δ(t) ・・・式(2)
【0052】
式(1)及び式(2)より、連立方程式を解くことにより、変数x,y,z,δ(t)の値を得ることができる(測位演算)。これにより、測位装置の正確な位置と正確な時刻を得られる。
【0053】
図2は、測位装置110の測位動作を示すフローチャートである。
測位装置110により測位を行う場合には、測位装置110は、測位完了まで静止させる、又は、許容誤差範囲内での移動にとどめる。
ステップ(以下、単にSとする)10では、内部クロック発振部111は、補助装置120から入力したリファレンスクロック信号を参照し、内部クロック信号の発振周期を同期させながら内部クロック信号を発振する(内部クロック発振ステップ)。
【0054】
S20では、RF受信部112は、GPSアンテナ115を介してGPS衛星からの衛星信号を受信する(衛星信号受信ステップ)。このとき、内部クロック信号にしたがい衛星信号を受信した受信時刻を取得する。
S30では、測位演算部114は、GPS衛星からの衛星信号とその受信時刻とを用いて疑似距離の算出を行う。
【0055】
S40では、測位演算部114は、4つの疑似距離の取得を完了したか否かを判定する。4つの疑似距離の取得を完了したらS50へ進み、4つの疑似距離の取得を完了していない場合には、S20へ戻る。なお、4つの疑似距離は、従来のように4つの衛星から同時に取得する必要がない。例えば、1つの衛星から受信時刻をずらして4回取得してもよいし、2つの衛星から受信時刻をそれぞれずらして2回ずつ取得してもよい。
S50では、測位演算部114は、取得した4つの疑似距離から測位装置の正確な位置と正確な時刻とを演算する(測位演算ステップ)。
【0056】
以上説明したように、第1実施形態によれば、少なくとも1つの人工衛星からの信号を4回受信できれば、正確な位置と正確な時刻とを得ることができる。
【0057】
(第2実施形態)
第2実施形態の測位装置の構成は、第1実施形態と同様であり、前述した第1実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
前述した第1実施形態では、高精度発振器121は、非常に高い精度のリファレンスクロック信号を発振し、そのリファレンスクロック信号をそのまま用いても必要な精度の測位を行えた。これに対して、第2実施形態では、高精度発振器121が発振するリファレンスクロック信号の精度をさらに高める形態である。具体的には、高精度発振器121は、校正手段を有している。この校正手段は、測位前に、GPS衛星の衛星信号を参照して校正を行う。なお、GPS衛星の衛星信号は、測位装置110のGPSアンテナ115を介して取得してもよいし、補助装置120にGPSアンテナを設けてこのGPSアンテナを介して取得してもよい。
第2実施形態によれば、測位装置110は、さらに精度の高い測位を行える。
【0058】
(第3実施形態)
図3は、本発明による測位装置を含む測位システムの第3実施形態を示す図である。
第3実施形態の測位システムは、測位装置210と、補助装置220と、基準信号送信装置230と、高精度発振器240とを備えている。
【0059】
測位装置210は、第1実施形態の測位装置110と同様な構成をしている。
補助装置220は、測位装置210とケーブルを介して直接接続されており、測位装置210の一部として機能する。また、補助装置120は、受信部221を備えている。受信部221は、無線通信又は無線放送によりリファレンスクロック信号の基準とすることができる基準信号を受信する。そして、受信部221は、受信した基準信号に基づいてリファレンスクロック信号を再生、又は、生成し、そのリファレンスクロック信号を測位装置210へ送る。
【0060】
基準信号送信装置230は、無線通信又は無線放送により基準信号を補助装置220へ送信する。
本実施形態の基準信号送信装置230には、例えば、携帯電話サービスの基地局装置や、テレビ放送やラジオ放送の放送局装置を利用することができる。デジタル方式の通信や放送では、クロック信号そのものを送ってはいないが、基準信号として利用可能な信号を送信している。すなわち、フレームやスロットと呼ばれるデータの区切りや決まったタイミングで送られてくる制御情報は、このタイミングが正確で精度が高いので、基準信号として用いることができる。なお、アナログテレビ放送では、カラーバースト信号と呼ばれるクロック信号が定期的に、短い時間だけ送信されており、これを基準信号として用いてもよい。
なお、基準信号送信装置230は、携帯電話サービスの基地局装置等の既存の施設を利用せず、測位システムに専用の装置としてもよい。その場合には、直接リファレンスクロック信号を送信するようにしてもよい。
【0061】
高精度発振器240は、第1実施形態の補助装置120が有する高精度発振器121と同様なリファレンスクロック信号を発振し、発振したリファレンスクロック信号を基準信号送信装置230へ送る。リファレンスクロック信号を受信した基準信号送信装置230では、リファレンスクロック信号に基づいて精度の高い基準信号を発振する。
【0062】
上記構成によりリファレンスクロック信号を受信した測位装置210は、第1実施形態の測位装置110と同様な測位演算を行い、正確な位置と正確な時刻とを得ることができる。
【0063】
(第4実施形態)
図4は、本発明による測位装置を含む測位システムの第4実施形態を示す図である。
第4実施形態の測位システムは、第3実施形態の高精度発振器240に代えて高精度発振器340とGPS受信機350とを設けた形態であり、その他の構成は、第3実施形態と同様である。よって、前述した第3実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
【0064】
高精度発振器340は、GPS受信機350からのリファレンスクロック信号を参照して、リファレンスクロック信号を発振する。これにより、高精度発振器340は、精度の高いリファレンスクロック信号を発振できる。
【0065】
第4実施形態によれば、高精度発振器340を簡易な構成としても、精度の高いリファレンスクロック信号を発振でき、正確な位置と正確な時刻とを得ることができる。
【0066】
(第5実施形態)
図5は、本発明による測位装置の第5実施形態を示す図である。
第5実施形態は、第1実施形態において補助装置120が有する高精度発振器121を測位装置410に内蔵した形態である。よって、前述した第1実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
測位装置410は、内部クロック発振部111と、RF受信部112と、ベースバンド信号処理部113と、測位演算部114と、GPSアンテナ115と、高精度発振器416とを備えている。
【0067】
高精度発振器416は、第1実施形態の高精度発振器121と同様のリファレンスクロック信号を発振し、内部クロック発振部111へ送る。
第5実施形態によれば、高精度発振器416を内蔵したので、測位装置410の使い勝手を向上できる。
【0068】
なお、測位装置の処理をコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録し、この記録媒体に記録されたプログラムを測位装置に読み込ませ、実行することによって本発明の測位装置、測位システム、測位方法、測位プログラムを実現することができる。ここでいうコンピュータシステムとは、OSや周辺装置等のハードウェアを含む。
【0069】
また、「コンピュータシステム」は、WWW(World Wide Web)システムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
【0070】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0071】
以上、この発明の実施形態につき、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0072】
(変形形態)
(1)第3実施形態から第5実施形態において、第2実施形態と同様に、GPS衛星の衛星信号を参照して高精度発振器を校正する校正手段をさらに設けてもよい。
【0073】
(2)第3実施形態及び第4実施形態において、無線通信や無線放送を用いてリファレンスクロック信号を送信機から補助装置へ送る例を挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、送信機と補助装置との間をケーブルで接続した有線通信や有線放送を用いてもよい。
図6は、第3実施形態の測位システムを有線通信を用いる形態に変更した変形形態を示す図である。この場合、基準信号送信装置530と補助装置520の受信部521との間では、同期通信を行う。なお、測位装置210及び高精度発振器240は、第3実施形態の測位装置210及び高精度発振器240と同様である。
【0074】
(3)第3実施形態及び第4実施形態において、補助装置によりリファレンスクロック信号を受信し、受信したリファレンスクロック信号を測位装置へ送る例を挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、リファレンスクロック信号を受信して内部クロック発振部へ送る機能を測位装置に内蔵してもよい。
図7は、第3実施形態の測位システムにおける受信部221の機能を測位装置610に内蔵した変形形態を示す図である。測位装置610は、第3実施形態の測位システムにおける受信部221に相当する受信部621を内蔵している。なお、基準信号送信装置230及び高精度発振器240は、第3実施形態の基準信号送信装置230及び高精度発振器240と同様である。
また、リファレンスクロック信号を受信して内部クロック発振部へ送る機能を測位装置に内蔵する形態においても、有線通信や有線放送を用いる形態としてもよい。
【0075】
なお、第1実施形態〜第5実施形態及び変形形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。
【符号の説明】
【0076】
110,210,410,610 測位装置
111 内部クロック発振部
112 RF受信部
113 ベースバンド信号処理部
114 測位演算部
115 GPSアンテナ
120,220,520 補助装置
121,240,340,416 高精度発振器
221,521,621 受信部
230,530 基準信号送信装置
350 GPS受信機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工衛星からの衛星信号を受信時刻の記録を行いながら複数回受信する衛星信号受信手段と、
前記衛星信号の受信時刻を予め設定した時刻ずれ量以下で測定するための内部クロック信号を発振する内部クロック発振手段と、
前記衛星信号受信手段が複数回受信した前記衛星信号とその受信時刻とを用いて測位演算を行う測位演算手段と、
を備える測位装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測位装置において、
前記内部クロック発振手段は、外部から取得したリファレンスクロック信号に基づいて前記内部クロック信号を発振すること、
を特徴とする測位装置。
【請求項3】
請求項2に記載の測位装置において、
前記内部クロック発振手段は、当該測位装置に直接接続されて当該測位装置の一部として機能する補助装置から前記リファレンスクロック信号を取得すること、
を特徴とする測位装置。
【請求項4】
請求項3に記載の測位装置において、
前記補助装置は、前記リファレンスクロック信号を発振するリファレンスクロック発振器を備えること、
を特徴とする測位装置。
【請求項5】
請求項3に記載の測位装置において、
前記補助装置は、無線又は有線の通信又は放送により前記リファレンスクロック信号又は前記リファレンスクロック信号の基準とすることができる基準信号を受信すること、
を特徴とする測位装置。
【請求項6】
請求項1に記載の測位装置において、
リファレンスクロック信号を発振するリファレンスクロック発振器を備え、
前記内部クロック発振手段は、前記リファレンスクロック発振器が発生した前記リファレンスクロック信号に基づいて前記内部クロック信号を発振すること、
を特徴とする測位装置。
【請求項7】
請求項4又は請求項6に記載の測位装置において、
前記リファレンスクロック発振器は、人工衛星からの衛星信号に基づいて校正されること、
を特徴とする測位装置。
【請求項8】
請求項4又は請求項6に記載の測位装置において、
前記リファレンスクロック発振器は、人工衛星からの衛星信号に基づいて前記リファレンスクロック信号を発振すること、
を特徴とする測位装置。
【請求項9】
請求項2に記載の測位装置において、
無線又は有線の通信又は放送により前記リファレンスクロック信号を受信する受信部を備えること、
を特徴とする測位装置。
【請求項10】
測位装置と、前記測位装置にリファレンスクロック信号を送る基準信号送信装置とを有する測位システムであって、
前記測位装置は、
人工衛星からの衛星信号を受信時刻の記録を行いながら複数回受信する衛星信号受信手段と、
前記衛星信号の受信時刻を予め設定した時刻ずれ量以下で測定するための内部クロック信号を外部から受信したリファレンスクロック信号に基づいて発振する内部クロック発振手段と、
前記衛星信号受信手段が複数回受信した前記衛星信号とその受信時刻とを用いて測位演算を行う測位演算手段と、
を備え、
前記基準信号送信装置は、
前記リファレンスクロック信号を自ら発振、又は、外部から取得し、前記測位装置へ送信すること、
を特徴とする測位システム。
【請求項11】
内部クロック信号を発振する内部クロック発振ステップと、
人工衛星からの衛星信号を受信時刻の記録を行いながら複数回受信する衛星信号受信ステップと、
前記衛星信号受信ステップで複数回受信した前記衛星信号とその受信時刻とを用いて測位演算を行う測位演算ステップと、
を実行する測位方法。
【請求項12】
コンピュータに、
内部クロック信号を発振する内部クロック発振ステップと、
人工衛星からの衛星信号を受信時刻の記録を行いながら複数回受信する衛星信号受信ステップと、
前記衛星信号受信ステップで複数回受信した前記衛星信号とその受信時刻とを用いて測位演算を行う測位演算ステップと、
を実行させること、
を特徴とする測位プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−230625(P2010−230625A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81265(P2009−81265)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】