説明

測定装置および測定方法

【課題】筒体内でのコイル状の導電体の偏心状態を正確で、しかも低コストで測定し得る測定装置を提供する。
【解決手段】直線状の金属チューブ2内にその筒長方向に沿って配設されたコイル状の発熱コイル3を備えたグロープラグ1における発熱コイル3の金属チューブ2の軸線Lに対する偏心状態を測定する測定装置Mであって、グロープラグ1に対して軸線Lを中心とした複数のラジアル方向から一定の磁界Fを印加する磁界印加部12と、発熱コイル3のインピーダンスZを測定するインピーダンス測定部13と、磁界印加部12によるグロープラグ1に対する磁界Fの印加状態においてインピーダンス測定部13によって測定されたラジアル方向毎のインピーダンスZに基づいて偏心状態を測定する処理部14とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電材料を用いて直線状に形成された筒体内に筒長方向に沿ってコイル状の導電体が配設された測定対象体におけるその導電体の筒体の軸線に対する偏心状態を測定する測定装置および測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の測定対象体の一例として、下記の特許文献1などに開示されているように、ディーゼルエンジンに使用されるグロープラグが存在する。この種のグロープラグ1は、一般的に、図7に示すように、先端が閉鎖された金属チューブ(筒体)2と、金属チューブ2内に配設された発熱コイル3(コイル状の導電体)と、金属チューブ2の開口された端部にシール4を介して装着された中心電極5と、金属チューブ2内に充填された絶縁粉末6とを備えている。この場合、発熱コイル3は、その一端が金属チューブ2における先端内面に接続され、かつその他端が中心電極5に接続された状態で、金属チューブ2の筒長方向に沿って配設されている。このグロープラグ1では、金属チューブ2、発熱コイル3および中心電極5の経路に電流を供給することによって発熱コイル3が発熱する。
【特許文献1】特許第2949362号公報(第1頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記のグロープラグ1では、発熱コイル3が発熱時に膨張して曲がり(偏心し)、図8に示すように、その一部が金属チューブ2に接近する現象が発生することがある。このため、このグロープラグ1は、この現象の発生時に、曲がった発熱コイル3が金属チューブ2と接触(短絡)しないように、図7に示すように、発熱コイル3が金属チューブ2の軸線L上に位置するように製造されている。
【0004】
しかしながら、発熱コイル3の金属チューブ2内への装着工程において、誤って発熱コイル3が金属チューブ2の軸線L上からずれて配置されていたり、また当初は金属チューブ2の軸線L上に配置されていた発熱コイル3が、一例としてその後に行われる金属チューブ2内への絶縁粉末6の充填工程において、絶縁粉末6からの圧力を受けて金属チューブ2の軸線L上からずれることがある。このため、このようなグロープラグ1(製作時において既に発熱コイル3が図8に示す状態のように軸線L上からずれているグロープラグ)では、使用状態(発熱状態)において、発熱コイル3の膨張による曲がり方向(偏心方向)が、製造時における発熱コイル3のずれ方向と一致したときには、発熱コイル3の軸線Lからの全ずれ量(全偏心量)が多くなる結果、軸線Lからずれた(偏心した)発熱コイル3が図9に示すように金属チューブ2と接触(短絡)することがある。この接触状態(短絡状態)では、発熱コイル3のコイル長が実質的に短くなるため、このグロープラグ1には、供給電流を一定として駆動する条件下では、発熱量が低下するという課題が存在している。
【0005】
このため、発熱時に発熱コイル3と金属チューブ2とが接触(短絡)するおそれのあるグロープラグ1であるか否かを検査する必要がある。この検査の方法としては、第1に、発熱状態において発熱コイル3および金属チューブ2が接触したときには発熱コイル3と金属チューブ2との間の抵抗値が減少することに着目して、グロープラグ1を実際に発熱させると共に発熱状態における発熱コイル3と金属チューブ2との間の抵抗値を測定し、測定した抵抗値と基準値(発熱状態のときに発熱コイル3と金属チューブ2とが接触しない製品(良品)についての発熱コイル3と金属チューブ2との間の抵抗値)とを比較する検査方法が考えられる。しかしながら、発熱コイル3の抵抗値はそもそも小さいため、発熱コイル3が金属チューブ2と接触しない状態での発熱コイル3の抵抗値と、接触した状態での発熱コイル3の抵抗値との差も小さいことから、この第1の検査方法では、測定したこの両抵抗値の差が、接触に起因する差なのか、測定上の誤差による差なのかを判別し難いため、発熱時に発熱コイル3と金属チューブ2とが接触(短絡)するおそれのあるグロープラグ1であるか否かを正確に検査することが困難となっている。
【0006】
また、第2の検査方法として、金属チューブ2内の発熱コイル3の状態をX線スキャナで検査し、この検査結果を表示装置に表示させることで、発熱コイル3の状態を直接検査する検査方法が考えられる。この第2の検査方法によれば、金属チューブ2内での発熱コイル3の曲がり具合(偏心状態)を直接測定することができるため、グロープラグ1を発熱させることなく、発熱時における発熱コイル3と金属チューブ2との接触(短絡)のおそれの有無を検査することが可能である。しかしながら、X線スキャナの使用によって測定コストが高価になるため、検査コストも高価になるという課題が存在している。このため、金属チューブ2(筒体)内での発熱コイル3(コイル状の導電体)の曲がり具合(偏心状態)を正確に、かつ低コストで測定し得る測定装置の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決すべくなされたものであり、筒体内でのコイル状の導電体の偏心状態を正確で、しかも低コストで測定し得る測定装置および測定方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく請求項1記載の測定装置は、直線状の筒体、および当該筒体内に当該筒体の筒長方向に沿って配設されたコイル状の導電体を備えた測定対象体における前記導電体の当該筒体の軸線に対する偏心状態を測定する測定装置であって、前記測定対象体に対して前記軸線を中心とした複数のラジアル方向から一定の磁界を印加する磁界印加部と、前記導電体のインピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、前記磁界印加部による前記測定対象体に対する前記磁界の印加状態において前記インピーダンス測定部によって測定された前記ラジアル方向毎の前記インピーダンスに基づいて前記偏心状態を測定する処理部とを備えている。
【0009】
また、請求項2記載の測定装置は、請求項1記載の測定装置において、前記磁界印加部は、前記軸線を中心とした仮想円上に配設されて前記磁界を発生する1つの磁界発生部、および当該磁界発生部を当該仮想円上で移動させる移動部を備えている。
【0010】
また、請求項3記載の測定装置は、請求項1記載の測定装置において、前記磁界印加部は、前記軸線を中心とした仮想円上における前記各ラジアル方向に対応する位置に配設された複数の磁界発生部を備え、当該複数の磁界発生部は、前記磁界を順次発生する。
【0011】
また、請求項4記載の測定装置は、請求項1記載の測定装置において、前記磁界印加部は、前記軸線を中心とした仮想円上に配設されて前記磁界を発生する1つの磁界発生部、および前記軸線を中心に前記測定対象体を回転させる回転部を備えている。
【0012】
また、請求項5記載の測定装置は、請求項1から4のいずれかに記載の測定装置において、前記処理部は、前記ラジアル方向毎の前記インピーダンスのばらつき度合いに基づいて前記偏心状態を測定する。
【0013】
また、請求項6記載の測定装置は、請求項1から5のいずれかに記載の測定装置において、前記複数のラジアル方向は、前記軸線を中心として等角度間隔で規定されている。
【0014】
また、上記目的を達成すべく請求項7記載の測定方法は、直線状の筒体、および当該筒体内に当該筒体の筒長方向に沿って配設されたコイル状の導電体を備えた測定対象体における前記導電体の当該筒体の軸線に対する偏心状態を測定する測定方法であって、前記測定対象体に対して前記軸線を中心とした複数のラジアル方向から一定の磁界を印加しつつ、当該ラジアル方向毎の前記導電体のインピーダンスを測定し、当該測定したラジアル方向毎のインピーダンスに基づいて前記偏心状態を測定する。
【0015】
また、請求項8記載の測定方法は、請求項7記載の測定方法において、前記軸線を中心とした仮想円上に配設されて前記磁界を発生する1つの磁界発生部を当該仮想円上で移動させる。
【0016】
また、請求項9記載の測定方法は、請求項7記載の測定方法において、前記軸線を中心とした仮想円上における前記各ラジアル方向に対応する位置に配置した複数の磁界発生部を順次作動させて前記磁界を発生させる。
【0017】
また、請求項10記載の測定方法は、請求項7記載の測定方法において、前記軸線を中心とした仮想円上に前記磁界を発生する1つの磁界発生部を配置した状態において、前記軸線を中心に前記測定対象体を回転させる。
【0018】
また、請求項11記載の測定方法は、請求項7から10のいずれかに記載の測定方法において、前記ラジアル方向毎の前記インピーダンスのばらつき度合いに基づいて前記偏心状態を測定する。
【0019】
また、請求項12記載の測定方法は、請求項7から11のいずれかに記載の測定方法において、前記軸線を中心として等角度間隔で規定された前記複数のラジアル方向から当該磁界を印加する。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載の測定装置および請求項7記載の測定方法では、直線状の筒体内に筒長方向に沿って配設されたコイル状の導電体を備えた測定対象体に対して筒体の軸線を中心とした複数のラジアル方向から一定の磁界を印加しつつ、ラジアル方向毎の導電体のインピーダンスを測定し、測定したラジアル方向毎のインピーダンスに基づいて導電体の偏心状態を測定する。したがって、この測定装置によれば、導電体の発熱状態における抵抗値を測定する構成と比較して、筒体内での導電体の偏心状態を正確に測定することができる。また、X線スキャナを使用しないため、低コストで導電体の偏心状態を測定することができる。
【0021】
請求項2記載の測定装置および請求項8記載の測定方法によれば、軸線を中心とした仮想円上に配設されて磁界を発生する1つの磁界発生部をこの仮想円上で移動させるようにしたことにより、磁界発生部の数を最小限に抑制しつつ、複数のラジアル方向から一定の磁界を測定対象体に印加することができる。
【0022】
請求項3記載の測定装置および請求項9記載の測定方法によれば、軸線を中心とした仮想円上における各ラジアル方向に対応する位置に配置した複数の磁界発生部を順次作動させて磁界を発生させることにより、磁界発生部の数は増加するものの、可動する機械的構成を省くことができるため、装置全体の耐久性を向上させることができる。
【0023】
請求項4記載の測定装置および請求項10記載の測定方法によれば、軸線を中心とした仮想円上に磁界を発生する1つの磁界発生部を配置した状態において、軸線を中心に測定対象体を回転させることにより、磁界発生部を仮想円上で移動させる必要がなくなるため、検査装置の占有スペースを小さくすることができる。
【0024】
請求項5記載の測定装置および請求項11記載の測定方法によれば、ラジアル方向毎のインピーダンスのばらつき度合いに基づいて偏心状態を測定することにより、仕様(ターン数や抵抗値)の異なる導電体を備えた測定対象体における導電体の偏心状態を共通の閾値に基づいて正確に測定することができる。
【0025】
請求項6記載の測定装置および請求項12記載の測定方法によれば、軸線を中心として等角度間隔で規定された複数のラジアル方向から磁界を印加することにより、導電体がいずれの方向に偏心したとしてもその偏心状態を正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る測定装置および測定方法の最良の形態について、一例として本願発明における測定対象体の一例であるグロープラグの検査装置に適用した例について説明する。
【0027】
最初に、グロープラグ1について図7を参照して説明する。グロープラグ1は、先端(同図中における右端)が閉鎖された金属チューブ(本発明における直線状の筒体)2と、金属チューブ2内にその筒体の筒長方向に沿って配設された発熱コイル(本発明におけるコイル状の導電体)3と、金属チューブ2の開口された端部(同図中の左端)にシール4を介して装着された中心電極5と、金属チューブ2内に充填された絶縁粉末6とを備えて構成されている。
【0028】
次に、検査装置11について、図面を参照して説明する。
【0029】
検査装置11は、図1に示すように、磁界印加部12、インピーダンス測定部13、処理部14および出力部15を備えている。この検査装置11では、磁界印加部12、インピーダンス測定部13および処理部14が、本発明に係る測定装置Mを構成して、グロープラグ1における金属チューブ2の軸線Lに対する発熱コイル3の偏心状態を測定し、さらに処理部14が、測定された偏心状態に基づいてグロープラグ1の良否を検査する。
【0030】
磁界印加部12は、1つの磁界発生部21および移動部22を備えている。本例では一例として、磁界発生部21は一定の磁界(変化しない磁界)Fを発生する磁石(永久磁石または電磁石)を用いて構成されて、図2に示すように、グロープラグ1の軸線Lを中心とした仮想円A上に配設されている。一例として、磁界発生部21は、図1,2に示すように、厚み方向に分極した直方体状の永久磁石で構成されると共に、金属チューブ2の軸線Lに対して平行に配設されて、グロープラグ1全体に亘ってその近傍における磁束の向きが、図1,2に示すように、グロープラグ1に対して(金属チューブ2の軸線Lに対して)直交する状態となる磁界Fを発生する。移動部22は、一例として、一端が磁界発生部21に連結されたアーム22aと、出力軸(不図示)の軸線が軸線L上に位置するように配設されると共にこの出力軸がアーム22aの他端に連結されて、アーム22aを介して磁界発生部21を仮想円A上で移動させるモータ22bとを備えている。この構成により、磁界印加部12は、移動部22によって仮想円A上を移動させられる磁界発生部21から、グロープラグ1に対して、軸線Lを中心とした複数のラジアル方向(軸線Lに直交する方向)から一定の磁界Fを印加可能となっている。
【0031】
インピーダンス測定部13は、一例として一つのプローブ13a,13aを備え、これらのプローブ13a,13aを介してグロープラグ1の金属チューブ2と中心電極5とに接続されて、2端子法で金属チューブ2と中心電極5との間に接続されている発熱コイル3のインピーダンスZを測定して出力する。処理部14は、例えばCPUおよびメモリ(いずれも図示せず)を備えて構成されて、グロープラグ1に対する検査処理を実行する。具体的には、処理部14は、上記したように、磁界印加部12およびインピーダンス測定部13と共に本発明に係る測定装置Mを構成してグロープラグ1における発熱コイル3の金属チューブ2の軸線Lに対する偏心状態を測定する測定処理を検査処理の一部として実行する。また、処理部14は、測定処理での測定結果とメモリに予め記憶されている閾値とに基づいて、グロープラグ1の良否を判別する判別処理を検査処理の一部として実行する。また、本例では、測定処理で実行される後述の方法によって良品であると判別された複数のグロープラグ1についてのばらつき度合い(本例では標準偏差)を予め算出し、算出したすべての標準偏差の最大値が閾値として予め記憶されている。出力部15は、一例として表示装置で構成されて、処理部14が実行した検査処理の結果を出力(表示)する。
【0032】
続いて、検査装置11によるグロープラグ1の検査動作について、図3を参照して説明する。なお、グロープラグ1は、図1に示すようにその軸線Lがモータ22bの出力軸の軸線と一致する検査位置に予め配設されているものとする。
【0033】
検査装置11の作動状態において、インピーダンス測定部13は、発熱コイル3のインピーダンスZを繰り返し測定して出力している。また、磁界発生部21は一定の磁界Fを発生している。処理部14は、この状態において、グロープラグ1に対する検査処理を開始する。この検査処理では、処理部14は、まず、本発明に係る測定方法に基づく測定処理、すなわちグロープラグ1に対してその軸線Lと直交する複数の印加方向から一定の磁界Fを印加しつつ、その印加方向毎の発熱コイル3のインピーダンスZを測定する測定処理を実行する。この測定処理では、処理部14は、まず、移動部22のモータ22bを作動させて、磁界発生部21を図2に示す0°の位置(初期位置)に移動させる(ステップ51)。これにより、磁界発生部21からグロープラグ1に対して、軸線Lを中心とした一のラジアル方向(0°方向)から一定の磁界Fが印加される。
【0034】
次いで、処理部14は、この状態においてインピーダンス測定部13から出力されるインピーダンスZを入力(測定)して、現在のラジアル方向(0°)を示す情報(印加方向情報)と共にメモリに記憶させる(ステップ52)。続いて、処理部14は、モータ22bを作動させて、磁界発生部21を所定角度(本例では一例として45°)だけ軸線Lを中心として回転させる。これにより、磁界発生部21は、仮想円A上を移動させられて、次の位置(図2に示す45°の位置)に移動する(ステップ53)。次いで、処理部14は、移動後の磁界発生部21の位置が初期位置であるか否かを判別し(ステップ54)、初期位置でないときには、ステップ52に移行する。処理部14は、ステップ54において初期位置であると判別するまで、上記の各ステップ52〜54を繰り返し実行する。これにより、この測定処理において、図2に示す複数のラジアル方向(本例では、等角度間隔に規定された0°,45°,90°,135°,180°,225°,270°,315°の8つのラジアル方向)から一定の磁界Fをグロープラグ1に印加したときのラジアル方向毎のインピーダンスZが測定されて、処理部14のメモリに記憶される。
【0035】
この場合、インピーダンス測定部13で測定される発熱コイル3のインピーダンスZは、発熱コイル3に印加される磁界の強さに応じて変化する。このため、例えば、金属チューブ2内において発熱コイル3が軸線L上から図2に示す90°の方向へずれていたときには、磁界発生部21が90°の位置に移動したときに発熱コイル3と磁界発生部21との間の距離が最短となる。すなわち、発熱コイル3(の一部の部位(偏心した部位))が、磁界発生部21から印加される磁界F中を、軸線Lの位置と比較して強度のより強い位置へ相対的に移動したことになる。このため、発熱コイル3全体に印加される磁界の強度が上昇する結果、発熱コイル3のインダクタンスが減少してインピーダンスZが減少する。一方、磁界発生部21が軸線Lを挟んで90°の位置と反対の位置(270°の位置)に移動したときには、発熱コイル3の偏心した部位が軸線Lの位置と比較して強度のより弱い位置へ相対的に移動したことになる。このため、発熱コイル3全体に印加される磁界の強度が低下する結果、発熱コイル3のインダクタンスが増加してインピーダンスZも増加する。このように、処理部14のメモリには、発熱コイル3の金属チューブ2内での偏心状態に対応して、ラジアル方向毎に異なった値のインピーダンスZが記憶される。
【0036】
また、処理部14は、ステップ54において初期位置であると判別したときには、メモリに記憶されているラジアル方向毎のインピーダンスZのばらつき度合い(標準偏差)を算出する(ステップ55)。具体的には、処理部14は、まず、メモリに記憶されているラジアル方向毎のインピーダンスZに基づき、各インピーダンスZの平均値を算出し、次いで、算出した平均値と各インピーダンスZとから標準偏差を算出し、算出した標準偏差を発熱コイル3の偏心状態を示すパラメータとしてメモリに記憶する。これにより、測定処理が完了する。
【0037】
次いで、処理部14は判別処理を実行する(ステップ56)。この判別処理では、処理部14は、メモリに記憶されている閾値と、算出した標準偏差とを比較する。本例では、閾値は良品のグロープラグ1について算出される最大値に規定されているため、処理部14は、算出した標準偏差が閾値以下のときにはグロープラグ1は良品であると判別し、閾値を超えるときには不良品であると判別する。最後に処理部14は、検査処理の結果(例えば、測定処理で測定されたラジアル方向毎のインピーダンスZ、および判別処理で算出した平均値、標準偏差、および判別結果)を出力部15に出力(表示)させる(ステップ57)。これにより、検査装置11による検査処理が完了する。
【0038】
このように、この測定装置M、測定装置Mを備えた検査装置11、および検査装置11による測定方法では、処理部14が、グロープラグ1に対して軸線Lと直交する複数のラジアル方向から一定の磁界Fを印加しつつ、ラジアル方向毎の発熱コイル3のインピーダンスZを測定し、各インピーダンスZに基づいて発熱コイル3の偏心状態を示すインピーダンスZのばらつき度合いを測定する。したがって、この検査装置11によれば、発熱コイル3の発熱状態における抵抗値を測定する構成と比較して、金属チューブ2内での発熱コイル3の偏心状態を正確に測定することができる。また、X線スキャナを使用しないため、低コストで発熱コイル3の偏心状態を測定することができる。
【0039】
また、この検査装置11、および検査装置11による測定方法によれば、金属チューブ2の軸線Lを中心として等角度間隔で規定された複数(本例では8つ)のラジアル方向から磁界Fを印加して、ラジアル方向毎のインピーダンスZを測定することにより、発熱コイル3がいずれの方向に偏心したとしてもその偏心状態を正確に測定することができる。
【0040】
また、この検査装置11、および検査装置11による測定方法によれば、ラジアル方向毎のインピーダンスZのばらつき度合い(標準偏差)に基づいて偏心状態を測定することにより、仕様(ターン数や抵抗値)の異なる発熱コイル3を備えたグロープラグ1における発熱コイル3の偏心状態を共通の閾値に基づいて正確に測定することができる。
【0041】
次に、この検査装置11を用いた偏心状態の測定についての検証実験を以下で説明する。
【0042】
この実験では、不良品のグロープラグ1のサンプル1と、良品のグロープラグ1のサンプル2と、エナメル線を直線的なコイル体(一例として11ターン)に形成して金属チューブ2と同じ材質の金属筒内に装着することで作製したグロープラグの擬似サンプル(偏心のないサンプル)とを使用し、各サンプルについて、上記の8つのラジアル方向毎のインピーダンスZ(一例として5MHzでのインピーダンス)、その平均およびその標準偏差を検査装置11で測定した。この実験結果を図4に示す。この実験結果によれば、インピーダンスZおよびその平均では、各サンプル1,2に関しては、発熱コイル3の長さやターン数などの微妙なばらつきに起因し、また各サンプル1,2と擬似サンプルについては、そもそも基本構成が相違することに起因して、値に相違が発生している。このため、直接的な相互間の比較はできないものの、標準偏差に関しては、良品のサンプル2の標準偏差は擬似サンプルの標準偏差に近い値となっている一方で、不良品であるサンプル1の標準偏差は擬似サンプルの標準偏差と大きく相違している。このため、測定された標準偏差に基づいて、サンプル1は不良品であり、サンプル2は良品であると判別することが可能であることが理解される。また、上記の検査装置11で採用したように、良品としての複数のグロープラグ1についての標準偏差を予め測定し、この測定された複数の標準偏差に基づいて閾値を設定する構成によっても、測定対象体のグロープラグ1が良品であるか不良品であるかを判別できることも理解される。
【0043】
なお、本発明は、上記の構成に限定されない。例えば、上記した検査装置11では、等角度間隔で規定された複数のラジアル方向から磁界Fを印加する構成を採用したが、発熱コイル3の曲がる(偏心する)おおよその方向が予め特定できる構成のグロープラグ1が測定対象体であるときには、等角度間隔に規定するのではなく、例えば、このグロープラグ1の発熱コイル3が偏心する方向に近い側や、逆に偏心する方向に遠い側において、細かい角度間隔で規定された数多くのラジアル方向から磁界Fを印加する構成を採用することもできる。
【0044】
また、グロープラグ1の周囲に規定された仮想円A上で1つの磁界印加部12を移動させることで、磁界発生部21の数を最小限に抑制しつつ、グロープラグ1に対して軸線Lを中心とした複数のラジアル方向から磁界Fを印加する構成について上記したが、仮想円A上に1つの磁界印加部12を固定的に配設し、この仮想円Aの中心に配設したグロープラグ1をその軸線Lを中心に回転させることで、グロープラグ1に対して軸線Lを中心とした複数のラジアル方向から磁界Fを順次印加する構成を採用することもできる。この構成では、上記した検査装置11における移動部22に代えて、軸線Lを中心としてグロープラグ1を回転させる回転部を設ける。この回転部31は、例えば図1に示すように、アーム22aの形状を直線状の柱状体として軸線L上に配置し、アーム22aの一端をグロープラグ1の金属チューブ2に連結し、かつ他端をモータ22bの出力軸に連結することで実現される。この構成によれば、磁界発生部21を仮想円A上で移動させる必要がなくなるため、検査装置11の占有スペースを小さくすることができる。
【0045】
また、移動部22や回転部31を使用する構成について上記したが、図5,6に示す検査装置11Aのように、仮想円A上に等角度間隔で配置された複数(一例として検査装置11と同様に8つ)の磁界発生部21を備えた磁界印加部12Aを用いることで、移動部22や回転部31を使用することなく、グロープラグ1に対して軸線Lを中心とした複数のラジアル方向から磁界Fを順次印加する構成とすることもできる。この場合、各磁界発生部21は、永久磁石に代えて、電磁石などの磁界Fの発生のオン・オフ制御の可能なもので構成され、処理部14の制御下で、1つずつ作動して磁界Fを順次発生する。この構成によれば、磁界発生部21の数は増加するものの、可動する機械的構成を省くことができるため、装置全体の耐久性を向上させることができる。
【0046】
また、測定対象体としてグロープラグ1を例に挙げて説明したが、コイル状の導電体が筒体内に収容されている構成を備えた測定対象体である限り、検査装置11,11Aを使用して、導電体の偏心状態を測定して検査することができる。具体的には、シーズヒータもこのような構造を有しているため、測定対象体として検査装置11,11Aで検査することができる。なお、グロープラグ1やシーズヒータでは、測定対象体における筒体の材質は導電性材料であるが、これに限定されず、樹脂などの非導電性材料で筒体が構成されていてもよいのは勿論である。また、本発明に係る測定装置Mをグロープラグ1の良否を検査する検査装置11に適用した例について説明したが、他の装置に組み込んで使用してもよいし、測定装置M単独で使用することもできる。また、発熱コイル3についての複数のラジアル方向毎のインピーダンスZのばらつき度合いを示すパラメータとして標準偏差を使用したが、ばらつき度合いを示す他のパラメータを使用することもできる。一例として、インピーダンスZの最大値と最小値の平均値からの各インピーダンスZのずれの割合を標準偏差に代えて使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】検査装置11の構成図である。
【図2】検査装置11におけるグロープラグ1および磁界発生部21の側面図(図1において左側から見た図)である。
【図3】検査装置11の検査処理を説明するためのフローチャートである。
【図4】サンプル1,2および擬似サンプルについてのインピーダンスZ、その平均および標準偏差の実験データである。
【図5】検査装置11Aの構成図である。
【図6】検査装置11Aにおけるグロープラグ1および磁界発生部21の側面図(図5において左側から見た図)である。
【図7】正常なグロープラグ1の断面図である。
【図8】発熱した状態のグロープラグ1の断面図である。
【図9】発熱して発熱コイル3が金属チューブ2に接触した状態のグロープラグ1の断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 グロープラグ
2 金属チューブ
3 発熱コイル
11,11A 検査装置
12 磁界印加部
13 インピーダンス測定部
14 処理部
21 磁界発生部
22 移動部
31 回転部
M 測定装置
Z インピーダンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状の筒体、および当該筒体内に当該筒体の筒長方向に沿って配設されたコイル状の導電体を備えた測定対象体における前記導電体の当該筒体の軸線に対する偏心状態を測定する測定装置であって、
前記測定対象体に対して前記軸線を中心とした複数のラジアル方向から一定の磁界を印加する磁界印加部と、
前記導電体のインピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、
前記磁界印加部による前記測定対象体に対する前記磁界の印加状態において前記インピーダンス測定部によって測定された前記ラジアル方向毎の前記インピーダンスに基づいて前記偏心状態を測定する処理部とを備えている測定装置。
【請求項2】
前記磁界印加部は、前記軸線を中心とした仮想円上に配設されて前記磁界を発生する1つの磁界発生部、および当該磁界発生部を当該仮想円上で移動させる移動部を備えている請求項1記載の測定装置。
【請求項3】
前記磁界印加部は、前記軸線を中心とした仮想円上における前記各ラジアル方向に対応する位置に配設された複数の磁界発生部を備え、当該複数の磁界発生部は、前記磁界を順次発生する請求項1記載の測定装置。
【請求項4】
前記磁界印加部は、前記軸線を中心とした仮想円上に配設されて前記磁界を発生する1つの磁界発生部、および前記軸線を中心に前記測定対象体を回転させる回転部を備えている請求項1記載の測定装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記ラジアル方向毎の前記インピーダンスのばらつき度合いに基づいて前記偏心状態を測定する請求項1から4のいずれかに記載の測定装置。
【請求項6】
前記複数のラジアル方向は、前記軸線を中心として等角度間隔で規定されている請求項1から5のいずれかに記載の測定装置。
【請求項7】
直線状の筒体、および当該筒体内に当該筒体の筒長方向に沿って配設されたコイル状の導電体を備えた測定対象体における前記導電体の当該筒体の軸線に対する偏心状態を測定する測定方法であって、
前記測定対象体に対して前記軸線を中心とした複数のラジアル方向から一定の磁界を印加しつつ、当該ラジアル方向毎の前記導電体のインピーダンスを測定し、
当該測定したラジアル方向毎のインピーダンスに基づいて前記偏心状態を測定する測定方法。
【請求項8】
前記軸線を中心とした仮想円上に配設されて前記磁界を発生する1つの磁界発生部を当該仮想円上で移動させる請求項7記載の測定方法。
【請求項9】
前記軸線を中心とした仮想円上における前記各ラジアル方向に対応する位置に配置した複数の磁界発生部を順次作動させて前記磁界を発生させる請求項7記載の測定方法。
【請求項10】
前記軸線を中心とした仮想円上に前記磁界を発生する1つの磁界発生部を配置した状態において、前記軸線を中心に前記測定対象体を回転させる請求項7記載の測定方法。
【請求項11】
前記ラジアル方向毎の前記インピーダンスのばらつき度合いに基づいて前記偏心状態を測定する請求項7から10のいずれかに記載の測定方法。
【請求項12】
前記軸線を中心として等角度間隔で規定された前記複数のラジアル方向から当該磁界を印加する請求項7から11のいずれかに記載の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−115682(P2009−115682A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−290585(P2007−290585)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】