説明

測定装置および測定方法

【課題】簡便に物体の内部の構造を検知することを目的とする。
【解決手段】この測定装置は、被測定物TO1,TO2に磁場を印加することができる励磁部13n,13sと、被測定物TO1,TO2を通る磁束の変化率を測定するための検出部31,32と、励磁部13n,13sを制御し、測定位置が異なる一対の測定における、磁場の印加を停止した後の磁束の変化率の過渡変化の相違に基づいて、被測定物の内部構造に関する特性値を計算する制御部3と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、物体に磁場を印加して、物体の内部の構造を検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、部材の溶接部分を特定するための技術が存在する。たとえば、ある従来技術においては、検査対象物を水没させ、検査対象物に超音波ビームを照射して、そのエコーを測定することにより、超音波ビームを照射した部分が溶接が行われた部分であるか、溶接が行われていない部分であるかを判定する。そして、複数箇所について超音波ビームを照射し、上記の判定を行って、溶接が行われた範囲を特定する。
【0003】
【特許文献1】特開2005−37195号公報
【0004】
また、他の従来技術としては、部材にX線を照射し、そのX線で写真乾板に部材の画像を焼き付けて、部材の溶接部分を特定するという技術も存在する。
【0005】
しかし、超音波ビームを使用する技術は、検査対象物の複数箇所にそれぞれ超音波ビームを照射して同時に測定を行うことができない。このため、超音波ビームを照射するための探傷子を走査させて部材の各位置について順に測定を行う必要がある。よって、検査に長時間を要する。また、部材を水に浸すため、検査後、部材を乾燥させる必要がある。また、錆を生じる検査対象物については防錆処理を施す必要がある。そして、X線画像を使用する技術においても、写真乾板上に画像を形成してこれを目視で観察する必要があるため、やはり検査に長時間を要する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡便に物体の内部の構造を検知することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、被測定物の内部構造を測定するための測定装置において以下のような構成を採用する。
この測定装置は、
被測定物に磁場を印加することができる励磁部と、
被測定物内を通る磁束の変化率を測定するための検出部と、
励磁部を制御し、被測定物への磁場の印加のパターンと測定位置との少なくとも一方が異なる一対の測定における、磁場の印加を停止した後の磁束の変化率の過渡変化の相違に基づいて、被測定物の内部構造に関する特性値を計算する制御部と、を備える。
【0008】
このような態様とすれば、被測定物に磁場の印加と停止を行って、磁束の変化率の過渡変化を測定することで、被測定物の内部構造に関する特性値を計算することができる。すなわち、短時間で物体の内部の構造を検知することができる。また、一対の測定を行って、測定結果の相違に基づいて特性値を計算するため、一対の測定に存在する共通の外乱を排除して特性値を得ることができる。
【0009】
なお、一対の測定は、たとえば、測定位置や磁束の印加の方法を変えて行うことができる。また、一対の測定は、互いに異なる一対の位置について同時に行う測定とすることもできる。また、特性値は、たとえば、ある位置が、被測定物内に存在すべき内部構造に該当するか、そうではないかを表す特性値とすることができる。また、特性値は、被測定物内に存在すべき内部構造の寸法や、内部構造の範囲を表す値とすることもできる。
【0010】
また、制御部は、一対の測定として、第1のパターンで励磁部に磁場を発生させた後の磁束の変化率の測定と、第2のパターンで励磁部に磁場を発生させた後の磁束の変化率の測定と、を行うことが好ましい。
そして、制御部は、第2のパターンで励磁部に磁場を発生させる際には、磁場の印加を開始してから終了するまでの第1の時間区間のうち、第1の時間区間の1/100以下の第2の時間区間において、第1のパターンで励磁部に磁場を発生させる際よりも強い磁場を印加し、第1の時間区間のうちの第2の時間区間以外の時間区間において、第1のパターンで励磁部に磁場を発生させる際とほぼ同一の強さの磁場を印加することが好ましい。
【0011】
なお、「強度(強さ)Aが強度(強さ)Bとほぼ同一である」とは、強度Aが強度Bの90%〜110%であることを意味する。なお、上記の第2の時間区間以外の時間区間において、第2のパターンの磁場の強度は、第1のパターンの対応する時刻の磁場の強度の95%〜105%であることがより好ましく、第1のパターンの対応する時刻の磁場の強度の97%〜103%であることがさらに好ましい。
【0012】
また、励磁部が、磁場を発生させるためのコイルを備える場合には、以下のような態様とすることが好ましい。
すなわち、制御部は、第2のパターンで励磁部に磁場を発生させる際には、コイルへの駆動電圧の印加を開始してから終了するまでの第1の時間区間のうち、第1の時間区間の1/100以下の第2の時間区間において、第1のパターンで励磁部に磁場を発生させる際よりも高い駆動電圧をコイルに印加し、第1の時間区間のうちの第2の時間区間以外の時間区間において、第1のパターンで励磁部に磁場を発生させる際とほぼ同一の駆動電圧をコイルに印加する。
【0013】
なお、「電圧Aが電圧Bとほぼ同一である」とは、電圧Aが電圧Bの90%〜110%であることを意味する。なお、上記の他の時間区間において、第2のパターンで励磁部に磁場を発生させる際の駆動電圧は、第1のパターンで励磁部に磁場を発生させる際の対応する時刻の駆動電圧の95%〜105%であることがより好ましく、97%〜103%であることがさらに好ましい。
【0014】
複数の検出部を使用して上記の一対の測定における検出部からの信号を得た場合には、それらの信号に基づいて得られる磁束の変化率の過渡変化の相違に、各検出部の製造誤差が反映されてしまう可能性がある。しかし、上記のような態様とすれば、同一の検出部を使用して一対の測定における検出部からの信号を得ることができる。このため、一対の測定における磁束の変化率の過渡変化の相違には、検出部の製造誤差が影響しない。そして、一対の測定における各測定の測定条件の相違はわずかである。よって、製造誤差を除いて被測定物の内部構造に関する特性値を計算することができる。
【0015】
なお、第2のパターンで励磁部に磁場を発生させる際の第2の時間区間における駆動電圧の最大値は、第1のパターンで励磁部に磁場を発生させる際の第2の時間区間における駆動電圧の最大値の3倍以上30倍以下の所定の値であることが好ましい。
【0016】
このような態様とすれば、被測定物に印加する磁場の強度を全体として大きく変えることなく、被測定物内の不純物が多い部分に関して、一対の測定における検出部の信号に有意な違いを出すことができる。
【0017】
また、検出部は、
被測定物内の第1種の位置を通る磁束の変化率を測定するための第1種の検出要素と、
被測定物内の第2種の位置であって、被測定物の測定装置が配される側の表面から測った深さが第1種の位置とは異なる第2種の位置を通る磁束の変化率を測定するための第2種の検出要素と、を備えることが好ましい。
そして、制御部は、一対の測定として、励磁部に磁場を発生させ停止させた後の第1種の検出要素による磁束の変化率の測定と、磁場の発生および停止後の第2種の検出要素による磁束の変化率の測定と、を行うことが好ましい。
【0018】
このような態様とすれば、励磁部による被測定物への一度の磁場の印加によって、一対の磁束の変化率の過渡変化として、被測定物内の異なる位置を通る磁束についての磁束の変化率の過渡変化を得ることができる。このため、より短時間で物体の内部の構造を検知することができる。
【0019】
なお、測定装置は、被測定物の複数の測定位置について磁束の変化率を測定するための複数の検出部を備えることが好ましい。
そして、制御部は、
複数の測定位置の磁束の変化率の過渡変化の相違に基づいて、それぞれ被測定物内の位置に対応づけられた複数の基礎パラメータを計算し、
対応づけられた基礎パラメータが所定の条件を満たす被測定物内の位置の分布の幅を、特性値として計算することが好ましい。
【0020】
このような態様とすれば、検出部を走査することなく、短時間の測定で、被測定物の内部構造に関する特性値を得ることができる。
【0021】
なお、複数の測定位置は、所定の方向に沿って並ぶ位置であることが好ましい。そして、測定位置の並びの方向は、第1種の検出要素と第2種の検出要素とを結ぶ方向とは異なることが好ましい。そのような態様とすれば、各測定位置について、互いの測定結果に干渉されることなく、所定の条件を満たすか否かを決定することができる。
【0022】
また、励磁部は、それぞれN極およびS極として機能し、被測定物に向かって配されることができる一対の脚部を有することが好ましい。そして、検出部は、被測定物の内部を通って、一対の脚部の一方の先端から他方の先端に向かう磁束の変化率を測定することができることが好ましい。
【0023】
被測定物の内部において、一定以上の範囲にわたって検出すべき構造が存在する場合に、磁束がその一部しか通らないと、十分正確に被測定物の内部構造を検知できない可能性がある。しかし、上記の態様によれば、一対の脚部を互いに所定の距離を開けて被測定物に対して配することで、一本の脚部のみを有する態様に比べてより長い距離にわたって被測定物内部を磁束が通るように、被測定物に磁場を印加することができる。このため、上記の態様によれば、被測定物の内部において、一定以上の範囲にわたって検出すべき構造が存在する場合に、被測定物の内部構造の相違をより正確に検出することができる。
【0024】
なお、一対の脚部は、互いに平行に配される態様とすることができる。また、一対の脚部は、互いに0度より大きく180度より小さい所定の角度をなすように配されることもできる。
【0025】
また、被測定物が、ほぼ円弧の断面を有する凹状の曲面を有する物体である場合には、測定装置は、以下のような態様とすることが好ましい。
すなわち、この測定装置は、被測定物に対して曲面に向かい合うように配されて、被測定物の内部構造を測定する測定装置である。
測定装置の励磁部の一対の脚部は互いに平行に設けられている。
一対の脚部のうちの一方の脚部は、他方の脚部よりも長く設けられている。
一対の脚部のうちの他方の脚部は、一方の脚部よりも短く設けられ、一方の脚部よりも被測定物の曲面の円弧の中心から遠い位置において、被測定物の曲面に対して配されるための脚部である。
【0026】
磁力線は、磁性体に対して垂直に侵入しようとする性質がある。よって、励磁部の脚部を上記のような非対称の形状とすることで、励磁部の脚部が対称な形状を有する態様に比べて、磁力線が被測定物内のより長い距離に渡って延びるように、磁場を印加させることができる。なお、「円弧の中心」とは、その円弧が含まれる円の中心を意味する。
【0027】
なお、本発明は、被測定物の内部構造を測定する方法の態様で実現することもできる。
その方法は、
(a)被測定物に磁場を印加し、印加を停止し、その後、被測定物内を通る磁束の変化率を測定する工程と、
(b)工程(a)とは、被測定物への磁場の印加のパターンと磁束の変化率を測定する測定位置との少なくとも一方が異なる態様で、被測定物への磁場の印加および停止、ならびに磁束の変化率の測定を行う工程と、
(c)工程(a)および(b)による一対の測定における、磁場の印加を停止した後の磁束の変化率の過渡変化の相違に基づいて、被測定物の内部構造に関する特性値を計算する工程と、を備える。
【0028】
なお、工程(a)と工程(b)における被測定物への磁場の印加のパターンが共通である場合には、工程(a)における磁場の印加と工程(b)における磁場の印加とを、一度の磁場の印加で実現してもよい。
【0029】
また、工程(a)は、第1のパターンで磁場を発生させて、被測定物に磁場を印加する工程を含むことができる。
そして、工程(b)は、第2のパターンで磁場を発生させて、被測定物に磁場を印加する工程を含むことができる。
そのような態様において、第2のパターンで磁場を発生させる際には、磁場の印加を開始してから終了するまでの第1の時間区間のうち、第1の時間区間の1/100以下の第2の時間区間において、第1のパターンで磁場を発生させる際よりも強い磁場を印加し、第1の時間区間のうちの第2の時間区間以外の時間区間において、第1のパターンで磁場を発生させる際とほぼ同一の強さの磁場を印加する工程であることが好ましい。
【0030】
なお、第2のパターンで磁場を発生させる際には、磁場を発生させるためのコイルへの駆動電圧の印加を開始してから終了するまでの第1の時間区間のうち、第1の時間区間の1/100以下の第2の時間区間において、第1のパターンで磁場を発生させる際の駆動電圧よりも高い駆動電圧をコイルに印加し、第1の時間区間のうちの第2の時間区間以外の時間区間において、第1のパターンで磁場を発生させる際とほぼ同一の駆動電圧をコイルに印加することも好ましい。
【0031】
工程(a)は、被測定物内の第1種の位置を通る磁束の変化率を測定する工程を含むこととが好ましい。
そして、工程(b)は、被測定物内の第2種の位置であって、被測定物の測定を行う側の表面から測った深さが第1種の位置とは異なる第2種の位置を通る磁束の変化率を測定する工程を含むことが好ましい。
【0032】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、被測定物の内部構造の測定方法および測定装置、測定装置の制御方法および制御装置、それらの方法または装置の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体、そのコンピュータプログラムを含み搬送波内に具現化されたデータ信号、等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
A.第1実施例:
図1は、本発明の実施例であるセンサシステムを示す図である。図1においては、センサシステムの一部であるセンサ装置の側面図および被測定物TOとしての部材TO1とTO2の断面図が示される。図2は、センサ装置および部材TO1とTO2のの平面図である。
【0034】
センサ装置SSは、中央に穴を有するリング状の部材TO1とTO2の溶接の状態を検査するための装置である。部材TO1とTO2は磁性体である。部材TO2は、部材TO1の中央の穴の内部にはめ込まれて、外周部を部材TO1と溶接される。部材TO1とTO2が溶接されている部分を図1、図2において溶接部WLとして示す。センサ装置SSは、部材TO2の中央の穴H02内に配されて、溶接部WLの深さWdを測定する(図1参照)。
【0035】
図1および図2に示すように、センサ装置SSは、内部にセンサユニット1を備える。また、センサ装置SSは、外部に、一対の脚部22と、脚部22とは逆の側に設けられる脚部23と、を有する。さらに、センサ装置SSは、センサユニット1を制御するための制御回路3を備える。
【0036】
脚部22,23は、それぞれ先端に車輪を備える。脚部23の車輪の車軸は、ばねで支持されている。このため脚部23の車輪は、外力を受けて矢印As方向に移動することができる。
【0037】
センサ装置SSは、3個の脚部22,22,23により、部材TO2の中央の円断面を有する穴H02内において位置を定められる。そして、センサユニット1は、円弧状の断面を有し、部材TO2の中央の穴H02の外形の一部を構成する曲面RSと向かい合うように配される。センサ装置SSが穴H02の中心線CA(図1参照)を中心に回転されることで、センサユニット1は、図2の紙面内の各方向について、溶接部WLの深さWdを測定することができる。
【0038】
図3は、センサユニット1の斜視図である。センサユニット1は、一対の脚部12n,12sを有する二又状(U字状)のフェライトコア11を有する。フェライトコア11は、フェライト(MOFe23。なお、Mは金属イオン)により構成される磁心である。脚部12sと脚部12nの先端の形状は、部材TO2の穴H02の円弧状の凹曲面RSと等距離で向かい合うように、円弧状に設けられている。
【0039】
脚部12n,12sには、それぞれコイル13n,13sが巻かれている。コイル13n,13sに、それぞれ矢印Ain,Aisで示す方向に電流が流されると、センサユニット1のコイル13n,13sは、磁界を発生させる。磁束の向きは、脚部12nの先端から脚部12sの先端に向かう方向(図3の矢印MR1,MR2参照)である。フェライトコア11およびコイル13n,13sは、図2に示す平面CPについて対称に設けられている。
【0040】
なお、フェライトコア11およびコイル13n,13sが、「課題を解決するための手段」における「励磁部」に相当する。コイル13n,13sに供給される電力は、制御回路3を介して交流100V電源から得ることができる。
【0041】
図1ないし図3に示すように、フェライトコア11の脚部12n,12sの先端には、それぞれセンサ列31,32が設けられている。センサ列31,32は、フェライトコア11の対称の中心面CPから異なる位置に設けられている。すなわち、センサ列31からフェライトコア11の対称の中心面CPまでの距離L1は、センサ列32からフェライトコア11の対称の中心面CPまでの距離L2より大きい。その結果、センサ列31の各センサが測定する磁束MR1と、センサ列32の各センサが測定する磁束MR2とは、部材TO1とTO2の内部の互いに異なる位置を通る磁束である。
【0042】
センサ列31,32の各センサは、具体的にはリング状に設けられ、両端を抵抗(図示せず)に接続された導線(コイル)である。リング内を通る磁束が変化すると、抵抗の両端の電位差が変化する。その電位差の変化を測定することによって、磁束の変化率が測定される。
【0043】
なお、以下では、センサ列31に含まれる各センサを、たとえば符号311,314,316など、符号31に対してさらに末尾に一桁の数字を付した符号で付す。また、センサ列32に含まれる各センサを、たとえば符号321,324,326など、符号32に対してさらに末尾に一桁の数字を付した符号で付す。末尾の数字が互いに等しいセンサ(たとえば、センサ314とセンサ324)は、互いに対応する一対のセンサである。それら末尾の数字が互いに等しいセンサは、溶接部WLの深さWdの方向、すなわち、穴H02の深さ方向について、互いに等しい位置に設けられている。言い換えれば、末尾の数字が互いに等しいセンサは、センサ列31,32の各センサの並びの方向Dsについて、互いに等しい位置に設けられている。
【0044】
図4は、センサユニット1で部材TO1とTO2の溶接部WLの深さWdを測定する際の磁場の様子を示す断面図である。センサユニット1は、フェライトコア11の対称の中心面CPが部材TO2の穴H02の半径方向Drと一致するように配される。図4において、センサ列31の中の一つのセンサであって、図4の紙面に対応する断面上にあるセンサをセンサ314として示す。また、センサ列32の中の一つのセンサであって、図4の断面上にあるセンサをセンサ324として示す。また、理解を容易にするために、センサ装置SSの各構成のうちフェライトコア11以外の構成は、図示を省略する。
【0045】
センサ列31とセンサ列32とは、フェライトコア11の対称の中心面CPからの距離が異なっている。よって、センサ314のリング内を通る磁束と、センサ324のリング内を通る磁束と、は異なる磁束である。センサ314のリング内を通る磁束をMR1で示し、センサ324のリング内を通る磁束をMR2で示す。なお、図4において、磁束MR1,MR2は、所定の幅を有する環状の範囲で示される。磁束の向きは、図4において、時計回りである。
【0046】
磁束MR1は、図のPaにおいて溶接部WLに沿って伸びている。これに対して磁束MR2は、磁束MR1よりも部材TO1とTO2の浅い部分を通過しており、溶接部WLを通過しない。このため、センサ314のリング内を通る磁束と、センサ324のリング内を通る磁束とは、コイル13n,13sの電流を遮断した後の磁束の変化率の変動のし方が異なる。
【0047】
なお、センサユニット1が発生させる磁束の分布は、あらかじめセンサ装置SSおよび部材TO1,TO2の仕様を決定した上で、シミュレーションによって計算することができる。センサ列31の各センサは、そのシミュレーションの結果にしたがって、溶接部WLの想定位置Paに沿って伸びる磁束を測定できる位置に設けられている。そして、センサ列32の各センサは、そのシミュレーションの結果にしたがって、溶接部WLの想定位置を通過しない磁束を測定できる位置に設けられている。
【0048】
センサ装置SSは、情報処理手段としてのコンピュータPCに接続されている(図1参照)。センサ装置SSのセンサ列31,32の各センサから得られるアナログ信号は、A/D変換器を介してデジタル信号としてコンピュータに送られる。コンピュータPCは、溶接部WLの深さWdの方向に沿った各位置のセンサの組(本実施例において、センサ311とセンサ321の組、センサ312とセンサ322の組、センサ313とセンサ323の組など)からの信号に基づいて、各位置に溶接部が達しているか否かを判断する。
【0049】
より具体的には、センサ装置SSの制御回路3は、コイル13n,13sに、図3の矢印Ain,Aisに示す方向に電流を流し、磁界を発生させる。そして、部材TO1とTO2に静磁場を印加する。その後、制御回路3は、静磁場の印加を停止する。そして、部材TO1とTO2(溶接部WL)の深さ方向Ddに沿った各位置の検出要素としてのセンサ311〜316,321〜326で、各位置における磁束の変化率を測定する。
【0050】
そして、コンピュータPCは、センサ311〜316,321〜326の磁束の変化率の時間軸に沿った変化に基づいて、各位置における所定のパラメータの値Vpを計算する。各センサの信号から計算される所定のパラメータVpは、たとえば、各位置における透磁率の推定値や、電気抵抗に相当するパラメータとすることができる。なお、コンピュータPCと制御回路3が、「課題を解決するための手段」における「制御部」に相当する。
【0051】
なお、溶接部分と溶接されていない部分とでは、金属の構造が異なっている。たとえば、溶接部は、溶接されていない部分に比べて格子欠陥が多い。溶接部分は、溶接の際に部材がいったん融解され、短時間でふたたび固まっているためである。このため、溶接部分と溶接されていない部分とでは、同じ磁界を印加された後でも、磁束の変化率の時間軸に沿った変化のしかたが異なる。上記のパラメータは、そのような磁束の変化率の時間軸に沿った変化のしかたの違いが反映されるものであれば、どのようなものであってもよい。
【0052】
図5は、溶接部WLの深さ方向Ddに沿った各位置のセンサ311〜316,321〜326(図1および図3参照)の信号から計算される所定のパラメータの値Vpを示すグラフである。図5において、横軸はセンサの位置Psi(i=1〜6)を示す。
【0053】
なお、実際に得られる値は、図5において黒点m311〜m316,m321〜m326で示す離散値である。しかし、図5では、以下で説明する処理の理解を容易にするために、各点を結ぶ破線を示している。また、図5の各測定値の横軸における位置、および図1および図3に示す各センサの間隔および位置は、実際の構成の寸法を正確に反映したものではない。
【0054】
図6は、各位置における対応するセンサの信号から計算されたパラメータの値Vpの差ΔVpを示すグラフである。ここでは、ΔVpは、センサ列31のセンサの測定値から得られたパラメータVp(図5のm311〜m316参照)から、センサ列32の対応するセンサの測定値から得られたパラメータVp(図5のm321〜m326参照)を引いた値である。実際に得られる値は、図6において黒点d11〜d16で示す離散値である。しかし、図6においても、処理の理解を容易にするために、各点を結ぶ線CDを示している。
【0055】
コンピュータPCは、黒点d11〜d16で表される測定値に対して回帰分析などの数値処理を行うことで、図6の各点d11〜d16を通る、または各点d11〜d16の近傍を通る曲線CDを表す式を得ることができる。コンピュータPCは、曲線CD上の値ΔVpが所定のしきい値Th以上である領域を溶接が行われた領域と判定する。すなわち、部材TO1,TO2の深さ方向の各位置は、溶接が行われた領域と、溶接が行われていない領域に分類される。コンピュータPCは、曲線CD上の各点の値ΔVpが所定のしきい値Th以上である領域の幅Wdeを、溶接部WLの深さWd(図1参照)として計算する。図6において、OSeで表す位置が、部材TO1とTO2の表面OSの推定位置である。
【0056】
コンピュータPCは、溶接部WLの深さWd(Wde)が所定値以下である場合には、その部材TO1とTO2の溶接が不良である旨の警告をディスプレイ上に表示し、同時に警告音を発して、ユーザに告知する。
【0057】
なお、以上の各処理は、コンピュータPCのCPU上でコンピュータプログラムが実行されて、そのコンピュータプログラムがコンピュータPCおよびセンサ装置SSを制御することによって実現される。
【0058】
本実施例においては、部材TO1とTO2の深さ方向の互いに異なる複数の測定位置(図1参照)について磁束の変化率を測定し、その測定結果に基づいて、溶接深さの推定値を計算する(図5および図6参照)。このため、短時間で溶接部の大きさを推定することができる。よって、たとえば、溶接部を有する製品の製造ラインにおいて、製品の生産リードタイムを長くすることなく、製品について溶接不良の全数検査を行うことができる。
【0059】
また、本実施例においては、部材TO1とTO2の深さ方向の互いに異なる各測定位置について、互いに部材内の近接する異なる位置を通る磁束を測定する一対のセンサで、磁束の変化率を測定する(図4参照)。そして、それら一対のセンサの信号の相違に基づいて溶接深さの推定値を計算する。このため、部材の形状による影響を排除して、溶接部の大きさを推定するための処理を行うことができる。よって、深さ方向の各測定位置について、同一のパターンで磁場を印加して一個のセンサで磁束の変化率を測定する態様に比べて、正確に溶接部の大きさを推定することができる。
【0060】
B.第2実施例:
第2実施例のセンサシステムのセンサ装置SSbは、センサ列32(図3および図4参照)を備えていない。センサ列32は、部材内において溶接部WLを通過しない磁束MR2の変化率を測定するためのセンサの列である。第2実施例のセンサ装置SSbの制御回路3bは、異なるパターンの駆動電圧で静磁場を印加する。そして、センサ列31でそれぞれの静磁場の遮断後の磁束の変化率を測定する。第2実施例のコンピュータPCbは、それらの変化率の過渡変化の相違に基づいて、溶接部WLの深さWdを計算する。第2実施例のセンサシステムの他の点は、第1実施例のセンサシステムと同じである。
【0061】
図7は、第2実施例のセンサ装置SSbの制御回路3bがコイル13n,13sに印加する駆動電圧の時間軸に沿った変化を示すグラフである。図7の横軸は時刻tである。なお、図7のグラフは、駆動電圧の時間軸に沿った変化の概略パターンを示すものであり、正確な値を示すものではない。
【0062】
図7において、破線で示すグラフV1(t)が第1の駆動電圧パターンを示し、実線で示すグラフV2(t)が第2の駆動電圧パターンを示す。なお、ここでは、1周期分の駆動電圧パターンのみを示す。溶接部WLの深さWdを測定するために部材TO1とTO2に静磁場を印加する際には、グラフV1(t)で表される駆動電圧が繰り返しコイルに印加されるか、グラフV2(t)で表される駆動電圧が繰り返しコイルに印加されて、部材TO1とTO2に静磁場が印加される。そして、駆動電圧が遮断されるたびに(時刻t4)、t4以降の磁束の変化率が測定される。なお、コイル13n,13sには同じパターン(V1(t)またはV2(t)のいずれか)で駆動電圧が印加される。
【0063】
なお、コイルに流れる電流は、コイルの駆動電圧に比例し、コイルの抵抗に反比例する。そして、コイル13n,13sの抵抗は一定である。このため、コイル13n,13sを流れる駆動電流の時間軸に沿った変化も、駆動電圧のグラフV1(t),V2(t)とほぼ同じ形状となる。
【0064】
また、磁場の強さは、コイルを流れる電流とコイルの巻き線数に比例する。このため、コイル13n,13sが発生させる磁場の強さの時間軸に沿った変化も、駆動電圧のグラフV1(t),V2(t)とほぼ同じ形状となる。
【0065】
第1の駆動電圧パターンにおいては、駆動電圧V1(t)は、時刻t0で0であり、時刻t1まで直線的に上昇してV01となる(図7における区間p1−p2参照)。そして、時刻t4まで一定値V01を保ち(区間p2−p3参照)、時刻t4で遮断されて0となる(区間p3−p4参照)。なお、駆動電圧が一定である時間区間t1〜t4が長いほど、いいかえれば、直流成分が大きいほど、発生される静磁場は被測定物の深い位置まで浸透する。
【0066】
第2の駆動電圧パターンにおいては、駆動電圧V2(t)は、時刻t0で0であり、時刻t1まで直線的に上昇してV01となる(区間p1−p2参照)。そして、時刻t1から時刻t2にかけて直線的に急上昇し、V02となる(区間p2−p5参照)。また、時刻t2から時刻t3にかけて直線的に急下降し、V01に戻る(区間p5−p6参照)。そして、時刻t4まで一定値V01を保ち(区間p6−p3参照)、時刻t4で遮断されて0となる(区間p3−p4参照)。
【0067】
時間区間t0〜t1、t3〜t4において、駆動電圧V1(t)とV2(t)とは同じ値をとる。その結果、時刻t4直前の時点で被測定物内を通る磁束は、第1と第2の駆動電圧パターンにおいて、ほぼ同じ分布となる。なお、図7においては、理解を容易にするために、駆動電圧V1(t)とV2(t)とをずらして表示している。
【0068】
時間区間t1〜t3におけるV2(t)の最大値V02は、たとえば、時間区間t1〜t3におけるV1(t)の値(最大値)V01の3倍の値とすることができる。また、時間区間t1〜t2は、駆動電圧の印加の開始から終了までの時間区間、言い換えれば、0より大きい駆動電圧を有する時間区間t0〜t4の1/1000とすることができる。その結果、時間区間t0〜t4における駆動電流および駆動電圧によるエネルギーはほぼ同じである。言い換えれば、被測定物に加えられる静磁場のエネルギーはほぼ同じである。
【0069】
図8は、第2実施例における測定処理の内容を示すフローチャートである。ステップS10では、まず、第2実施例のセンサ装置SSbを被測定物TOに対して配する(図1参照)。ステップS22では、第2実施例のセンサ装置SSbの制御回路3bは、上記の第1の駆動電圧パターンで部材TO1とTO2に静磁場を印加する(図7において時刻t0〜t4)。そして、ステップS24で、静磁場が遮断される(同、時刻t4)。その後(同、時刻t4後)、ステップS26で、センサ列31の各センサ311〜316で磁束の変化率が測定され、第2実施例のコンピュータPCbのメモリに記憶される。
【0070】
ステップS22〜S26の処理は所定回数、繰り返される(ステップS30)。ステップS22〜S26の処理をまとめて「第1の測定処理」と呼び、符号S20で表す。第1の測定処理(ステップS20)が所定回数繰り返されると(ステップS30においてYes)、処理はステップS42に進む。
【0071】
ステップS42では、第2実施例のセンサ装置SSbの制御回路3bは、上記の第2の駆動電圧パターンで部材TO1とTO2に静磁場を印加する(図7において時刻t0〜t4)。そして、ステップS44で、静磁場が遮断される(同、時刻t4)。その後(同、時刻t4後)、ステップS46で、センサ列31の各センサ311〜316で磁束の変化率が測定され、コンピュータPCbのメモリに記憶される。
【0072】
ステップS42〜S46の処理は所定回数、繰り返される(ステップS50)。ステップS42〜S46の処理をまとめて「第2の測定処理」と呼び、符号S40で表す。第2の測定処理(ステップS40)が所定回数繰り返されると(ステップS50においてYes)、処理はステップS60に進む。
【0073】
ステップS60では、コンピュータPCbは、それら第1の測定処理(ステップS20)、第2の測定処理(ステップS40)で得られた変化率の過渡変化の相違に基づいて、溶接部WLの深さWdを計算する。
【0074】
なお、計測条件の違い(駆動電圧のパターンとしてV1(t)が使用されるか、V2(t)が使用されるか)を検出する機構と連動する態様においては、駆動電圧パターンV1(t)による第1の測定処理(ステップS20)と、駆動電圧パターンV2(t)による第2の測定処理(ステップS40)は、任意の順番で行うことができる。たとえば、上述のように、(i)第1の測定処理と第2の測定処理のうち一方の印加が連続して行われた後、他方が連続して行われてもよいし(図8参照)、(ii)第1の測定処理と第2の測定処理が所定回づつ交互に行われてもよい。
【0075】
図7の第1の駆動電圧パターンでコイルに駆動電圧が印加される場合と、第2の駆動電圧パターンでコイルに駆動電圧が印加される場合とは、駆動電圧の遮断直前(時刻t4直前)における駆動電圧は、いずれもV01であり、等しい。そして、静磁場を発生させるために消費されるエネルギーもほぼ等しい。しかし、第1の駆動電圧パターンで駆動電圧が印加された場合の時刻t4の後の磁束の変化率の過渡変化と、第2の駆動電圧パターンで駆動電圧が印加された場合の時刻t4の後の磁束の変化率の過渡変化とは、消費されるエネルギーの比以上に大きく異なる。このような相違が生じる原因は不明であるが、以下のような理由によるものと推測される。
【0076】
図9は、被測定物(部材TO1とTO2)の磁化曲線を示す図である。図9の横軸は被測定物に印加される磁場の強さH(A/m)であり、縦軸は被測定物の磁束密度B(T)である。被測定物に静磁場が印加されると、被測定物は磁化される。図中、破線で示す曲線Ci0は、被測定物内に不純物がまったくない場合の理想的な場合の磁化曲線である。一点鎖線で示す線Ci1は、被測定物内に格子欠陥などの不純物がある場合の磁化曲線である。実線で示す線Ci2は、被測定物内に線Ci1の場合よりも多くの不純物がある場合の磁化曲線である。なお、線Ci2は、線Ci1よりも大きなギザギザを有する。線Ci2の一部は、線Ci1と重なり、他の一部は線Ci1よりも下側に位置する。
【0077】
内部に格子欠陥などの不純物を含む磁性体に磁場が印加された場合、磁場がわずかに増加しても、磁化は理想的な磁化曲線Ci0に沿っては増加しない。磁壁が磁性体内の不純物に拘束され、移動しにくいためである。そして、さらに磁場が増加すると、磁壁が不純物の拘束を逃れるため、磁化が急激に増加する。内部に格子欠陥などの不純物を含む磁性体に磁場が印加された場合の磁化曲線は、この繰り返しにより、線Ci1,Ci2のようなギザギザを描く。これをバルクハウゼン効果という。
【0078】
溶接部WLにおいては、溶接の際に部材がいったん融解され、短時間でふたたび固まっている。このため、溶接部WLは、部材TO1とTO2の溶接されていない部分(以下「非溶接部」と呼ぶ)に比べて格子欠陥が多い。その結果、溶接部WLにおいては、非溶接部に比べて、磁壁がより強く拘束される。よって、非溶接部は、たとえば、図9中の線Ci1のような磁化の増加を示すのに対して、溶接部は、たとえば、図9中の線Ci2のようなよりギザギザの大きい磁化の増加を示す。
【0079】
第1の駆動電圧パターンにおいて駆動電圧がV01である時刻t4の直前の時刻において(図7参照)、部材TO1とTO2に印加される磁場の強さが図9中のH0であるとする。このとき、非溶接部の磁化の磁束密度はB1である(図9中の点Pm1参照)。一方、格子欠陥が多い溶接部の磁束密度は、B1より小さいB2である(図9中の点Pm2参照)。
【0080】
その後、時刻t4において静磁場が遮断されると(図7のV1(t)参照)、非溶接部の磁束密度は、線Cd1に沿って減少する。また、溶接部の磁束密度は、線Cd2に沿って減少する。すなわち、磁束密度の減少のし方は、溶接部と非溶接部とで異なる。このため、センサ列31の各センサで測定される磁束の変化率の過渡変化も、溶接部と非溶接部とで異なる。なお、図9において、線Cd1,Cd2は、理解を容易にするために、その形状の概略を示している。
【0081】
一方、第2の駆動電圧パターンにおいては、ごく短い時間区間t1〜t3において、最大で第1の駆動電圧パターンの5倍の電圧がコイルに印加される(図7参照)。その結果、部材TO1とTO2に印加される磁場の強さが、ごく短い時間区間t1〜t3において図9中の(H0+ΔH)となるものと考えられる。なお、部材TO1とTO2に印加される磁場の強さが、V02とV01の比ほどに大きくならないのは、コイルのインダクタンスによるものと考えられる。
【0082】
磁場の強さが(H0+ΔH)となった結果、非溶接部の磁化の磁束密度はΔB1だけ上昇して、B1rとなる。また、溶接部の磁束密度はΔB2(ΔB2>ΔB1)だけ上昇して、B2rとなる。図9の例では、磁場の強さが(H0+ΔH)であるとき、非溶接部の磁化曲線Ci1と溶接部の磁化曲線Ci2とがほぼ重なっているため、磁束密度B1rとB2rはほぼ同じ値である。
【0083】
その後、時間区間t3〜t4においては、第1、第2のいずれの駆動電圧パターンにおいても、一定の駆動電圧V01がコイルに印加される(図7参照)。しかし、時間区間t1〜t3においていったん磁束密度B1r、B2rまで磁化された被測定物は、その後、時間区間t3〜t4においてもその磁束密度を維持するものと考えられる。
【0084】
その後、時刻t4において静磁場が遮断されると(図7のV2(t)参照)、非溶接部の磁束密度および溶接部の磁束密度は、線Cd3に沿って減少する。
【0085】
図9に示されるように、第1の駆動電圧パターンにおける磁束密度の減少のし方と、第2の駆動電圧パターンにおける磁束密度の減少のし方と、の相違は、非溶接部(Cd3とCd1参照)よりも溶接部(Cd3とCd2参照)の方が大きい。このため、センサ列31の各センサで測定される磁束の変化率の過渡変化の相違も、溶接部の方が非溶接部よりも大きくなる。
【0086】
第2実施例のコンピュータPCbは、第1と第2の駆動電圧パターンにおけるセンサ列31のセンサ311〜316の磁束の変化率の差の時間軸に沿った変化に基づいて、第1と第2の駆動電圧パターンにおける各位置のパラメータの値Vpbを計算する。パラメータVpbは、たとえば、各位置における透磁率に相当するパラメータや、電気抵抗に相当するパラメータとすることができる。
【0087】
なお、上述のように、第1の駆動電圧パターンにおける磁束密度の減少のし方と、第2の駆動電圧パターンにおける磁束密度の減少のし方と、の相違は、溶接部と非溶接部とで異なる。上記のパラメータは、そのような溶接部の「第1と第2の駆動電圧パターンにおける磁束密度の減少のし方の相違」と、被溶接部の「第1と第2の駆動電圧パターンにおける磁束密度の減少のし方の相違」と、の相違が反映されるものであれば、どのようなものであってもよい。
【0088】
上述のように、第1の駆動電圧パターンと第2の駆動電圧パターンとにおける、磁束の変化率の過渡変化の相違は、溶接部の方が非溶接部よりも大きくなる(図9のCd3とCd1の相違、およびCd3とCd2の相違参照)。このため、横軸として各センサの位置Psi(i=1〜6)を有するグラフに、第1と第2の駆動電圧パターンにおける計測信号の差を表すパラメータの値Vpbを記録すると、図5の黒点m311〜m316,m321〜m326と類似のグラフが得られる。この場合、駆動電圧の急激な上昇部分(図7の区間p2−p5−p6参照)を有する第2の駆動電圧パターンについてのパラメータの値Vpbが、上側に位置する(すなわち相違が大きいことを表す)黒点m311〜m316に相当し、第1の駆動電圧パターンについてのパラメータの値Vpbが、下側に位置する黒点m321〜m326に相当する。
【0089】
第2実施例のコンピュータPCbは、各位置におけるパラメータの値Vpbの差ΔVpbと、それらが対応づけられている各位置Ps1〜Ps6と、のデータに対して回帰分析などの数値処理を行うことで、図6の曲線CD相当の式を得る。そして、コンピュータPCbは、第1実施例と同様に、その数式が表す曲線上の各点の値ΔVpbが所定のしきい値Thb以上である領域の幅Wdeを、溶接部WLの深さWdとして計算する(図6参照)。以下の処理は、第1実施例のコンピュータPCの処理と同様である。
【0090】
第2実施例においては、部材TO1とTO2の深さ方向Ddの互いに異なる複数の測定位置について磁束の変化率を測定し、その測定結果に基づいて、溶接深さの推定値を計算する。このため、第2実施例のセンサシステムによれば、第1実施例のセンサシステムと同様、短時間で溶接部の大きさを推定することができる。よって、たとえば、溶接部を有する製品の製造ラインにおいて、製品の生産リードタイムを長くすることなく、製品について溶接不良の全数検査を行うことができる。
【0091】
また、第2実施例においては、第1実施例の態様に比べて少ないセンサで被測定物内の測定を行うことができる。このため、センサ装置の構成を簡単にすることができる。
【0092】
また、第1実施例においては、同じ深さ位置に設けられている一対のセンサ(たとえば、図3のセンサ311センサ321)の製造誤差に起因する測定誤差を、測定結果に含む可能性がある。しかし、第2実施例の態様においては、深さ方向の各位置について同一のセンサを使用して測定を行うため、そのような測定誤差を含まずに、被測定物内の測定を行うことができる。
【0093】
さらに、第1実施例では、被測定物内において異なる位置を通過する磁束(図4のMR1とMR2参照)の変化率の相違を利用する。これに対して、第2実施例においては、異なる駆動電圧で静磁場を印加された際の磁束の変化率であって、被測定物内のほぼ同一の場所を通過する磁束の変化率を測定して、溶接深さを計算する。このため、第1実施例に比べて、より正確に被測定物内の構造を推定することができる。
【0094】
C.第3実施例:
第3実施例のセンサシステムにおいては、センサユニット1cのフェライトコア11cの形状が第1実施例とは異なる。第3実施例のセンサシステムの他の点は、第1実施例のセンサシステムと同じである。
【0095】
図10は、第3実施例のセンサユニット1cで部材TO1とTO2の溶接部WLの深さWdを測定する際の磁場の様子を示す断面図である。センサユニット1cにおいては、N極として機能する脚部12ncの長さLnが、S極として機能する脚部12scの長さLsよりも大きい。そして、測定時に、脚部12ncが部材TO2の穴H02の半径方向Drに沿って配されるように、センサ装置SSc内においてセンサユニット1cが設置される。S極として機能する脚部12scは、測定時に、脚部12ncよりも凹曲面RSの円弧の中心Cから遠い位置において、部材TO2の穴H02の半径方向Drに並行に配される。なお、本実施例では脚部12ncがN極として機能し、脚部12scがS極として機能するが、N極およびS極の方向性は測定には関係ないため、いずれであってもよい。
【0096】
脚部12scと脚部12ncの先端の形状は、部材TO2の穴H02の凹曲面RSと等距離で向かい合うように、円弧状に設けられている。図10に示すように、フェライトコア11cの脚部12nc,12scの先端には、それぞれセンサ列31c,32cが設けられている。センサ列31c,32cは、第1実施例のセンサ列31,32と同様に、図10の紙面に垂直な方向に並ぶ複数のセンサをそれぞれ含む。
【0097】
センサ列31cの各センサが測定する磁束と、センサ列32cの各センサが測定する磁束とは、部材TO1とTO2の内部の互いに異なる位置を通る磁束である。図10において、センサ列31cのセンサのリング内を通る磁束をMR1cで示し、センサ列32cのセンサのリング内を通る磁束をMR2cで示す。なお、図10において、磁束MR1c,MR2cは、所定の幅を有する環状の範囲で示される。
【0098】
磁束MR1cは、図10中のPacにおいて溶接部WLに沿って伸びている。これに対して磁束MR2cは、磁束MR1cよりも部材TO1とTO2の浅い部分を通過しており、溶接部WLを通過しない。このため、センサ列31のセンサのリング内を通る磁束と、センサ列32cのセンサのリング内を通る磁束とは、コイルの電流を遮断した後の磁束の変化率が異なる。なお、第3実施例のセンサ列31c,32cの配置も、シミュレーションの結果に従って決定することができる。
【0099】
第3実施例においては、フェライトコアの形状を非対称とし、一方を半径方向に沿って配し、他方を半径方向の面からより遠い距離に並行に配して、磁束の変化率を測定する。磁束は、磁性体の表面に対して垂直に侵入する性質がある。このため、第3実施例のような態様とすれば、第1実施例に比べてより長い距離にわたって溶接部に沿って磁束が位置するように(図10のPac参照)、静磁場を発生させることができる。その結果、センサ列31cのセンサの測定信号に、溶接部の性質をより強く反映されることができる。よって、第3実施例のセンサシステムによれば、第1実施例のセンサシステムに比べてより正確に溶接部の深さ(図10において紙面に垂直な方向の深さ)を測定することができる。
【0100】
D.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0101】
D1.変形例1:
上記第1実施例では、センサ列31,32が含むセンサの数は6個である(図1および図3参照)。しかし、各センサ列のセンサの数は、5個以下や7個以上など、他の数とすることができる。なお、それらのセンサは、部材の深さ方向Ddに沿って、想定される溶接深さWdを超える範囲に配されることが好ましい。
【0102】
また、上記実施例では、各センサはリング状に配されたコイルである(図3参照)。しかし、各センサは他の構成とすることもできる。すなわち、センサは、磁束の変化率を測定できるものであれば、任意の構成、動作原理のセンサを採用することができる。
【0103】
D2.変形例2:
第1実施例では、各センサ列の対応するセンサ(たとえば、センサ311とセンサ321)は、センサの並びの方向Dsについて同じ位置に設けられている。しかし、各センサ列の対応するセンサは、センサの並びの方向Dsについて異なる位置に設けられていてもよい。たとえば、各センサ列の対応するセンサが互い違いに、いわゆる千鳥状に配されていてもよい。ただし、各センサ列の対応するセンサが並ぶ方向と、各センサ列の方向とは、交わる関係にあることが好ましい。そして、各センサ列の対応するセンサが並ぶ方向と、各センサ列の方向とは、直角をなすことがさらに好ましい。
【0104】
D3.変形例3:
上記実施例においては、信号の相違を比較される各センサ列内の対応するセンサは、溶接部WLに沿って延びる磁束の変化率を測定するセンサと、その磁束よりも被測定物内の浅い位置を通過する磁束の変化率を測定するセンサと、である。しかし、各センサ列内の対応するセンサは、溶接部WLに沿って延びる磁束の変化率を測定するセンサと、その磁束よりも被測定物内の深い位置を通過する磁束の変化率を測定するセンサ(図10のセンサ列32d参照)とすることもできる。
【0105】
ただし、溶接部WLに沿って延びる磁束よりも被測定物内の浅い位置を通過する磁束は、溶接部と交わらない。これに対して、溶接部WLに沿って延びる磁束よりも被測定物内の深い位置を通過する磁束は、溶接部の一部と交わる。よって、溶接部WLに沿って延びる磁束よりも被測定物内の深い位置を通過する磁束は、溶接部の影響を受ける。さらに、磁束密度は磁路が短い磁束の方が、言い換えれば内側の磁束の方が大きい。
【0106】
このため、(a)溶接部WLに沿って延びる磁束の変化率を測定するセンサと、その磁束よりも被測定物内の浅い位置を通過する磁束の変化率を測定するセンサと、の信号を比較する態様の方が、(b)溶接部WLに沿って延びる磁束の変化率を測定するセンサと、その磁束よりも被測定物内の深い位置を通過する磁束の変化率を測定するセンサとの信号を比較する態様よりも、正確に被測定物内の構造を検出することができる。
【0107】
なお、磁束が通過する位置の「深さ」は、被測定物に対してセンサ装置SSが配される側の表面から、センサ装置SSから遠ざかる方向に沿って測定されるものとする。
【0108】
D4.変形例4:
第1および第3実施例では、各センサは、2列の形態で配されている(図3、図4、および図10参照)。そして、第2実施例では、各センサは、1列の形態で配されている。しかし、磁束の変化率を測定するためのセンサは、2次元状に行×列の形態で配されることもできる。そのような態様においても、各センサは、互いに異なる位置を通る磁束の変化率を測定できるものであることが好ましい。
【0109】
D5.変形例5:
図11は、センサ装置のフェライトコアの変形例を示す図である。上記各実施例では、フェライトコア11の脚部12nと脚部12s、ならびにフェライトコア11cの脚部12ncと脚部12scは平行に配されている(図2〜図4、および図10参照)。しかし、センサ装置のフェライトコアの脚部は、図11に示すように、互いに所定の角度θをなすように配されることもできる。なお、一対の脚部がなす所定の角度θは、0度より大きく180度より小さいことが好ましく、30度以上、90度以下であることがさらに好ましい。
【0110】
D6.変形例6:
上記実施例では、一対の測定における透磁率や電気抵抗などの物理的な意味を有するパラメータの差が所定のしきい値よりも大きい位置の範囲Wdeが、溶接が行われた範囲であるものと推定して、溶接が行われた範囲の幅を計算している(図6参照)。しかし、特性値の計算は、たとえば、物理的な意味を有さないパラメータを使用するなどの、他の方法で行うこともできる。たとえば、一対の測定について、磁場の遮断後のある時刻の磁束の変化率の傾き(変化量/経過時間)を測定する。そして、一対の測定におけるその傾きの差が所定の条件を満たす位置が、溶接が行われた位置であると推定して、溶接深さを計算することもできる。
【0111】
すなわち、溶接が行われた部分(格子欠陥が多い部分)と溶接が行われていない部分(格子欠陥が少ない部分)とでは、磁束の変化率の時間変化が異なる。そのような相違を検知できるような様々な処理方法を使用して、本発明は実現することができる。
【0112】
また、本発明は、溶接部分の検知以外にも、磁性体内部の構造であって、磁束の変化率の時間変化が異なるような磁性体内の様々な構造を検知するために使用することができる。
【0113】
D7.変形例7:
上記実施例では、時刻t1から時刻t3にかけて、第2の駆動電圧パターンV2(t)は三角形を描く(図7参照)。しかし、第2の駆動電圧パターンV2(t)の第1の駆動電圧パターンV1(t)との相違部分は三角波に限られず、たとえば、所定時間だけ駆動電圧が一定となる矩形波など、他の形状であってもよい。たとえば、第2の駆動電圧パターンV2(t)の第1の駆動電圧パターンV1(t)との相違部分を矩形波、または矩形波を組み合わせて生成できる階段状の形状とすれば、デジタル回路による駆動電圧の制御が容易となる。
【0114】
上記第2実施例では、第1の駆動電圧パターンV1(t)が一定値を保つ時間区間t1〜t4の先頭部分において、第2の駆動電圧パターンV2(t)は、第1の駆動電圧パターンV1(t)との相違部分を有している(図7のp2−p5−p6参照)。しかし、第2の駆動電圧パターンV2(t)における第1の駆動電圧パターンV1(t)との相違部分は、第1の駆動電圧パターンV1(t)が0より大きい時間区間(時刻t0〜t4)のうちの他の任意の時間区間に設けられることができる。
【0115】
図12は、変形例のセンサ装置の制御回路がコイル13n,13sに印加する駆動電圧の時間軸に沿った変化を示すグラフである。図12の例では、破線で示す第1の駆動電圧パターンV1(t)が一定値を保つ時間区間t1a〜t4の途中の時間区間t1b〜t3bにおいて、第2の駆動電圧パターンV2b(t)は、第1の駆動電圧パターンV1(t)との相違部分を有している(図12のp2b−p5b−p6b参照)。
【0116】
このような態様においては、第2の駆動電圧パターンV2(t)において駆動電圧が一定である時間区間(t1a〜t1b)を経た後に、第2の駆動電圧パターンV2(t)における第1の駆動電圧パターンV1(t)との相違部分(図7のp2−p5−p6参照)が存在する。このため、第2の駆動電圧パターンV2(t)における第1の駆動電圧パターンV1(t)との相違部分は、駆動電圧の増加による渦流が消滅し磁界が安定した後に生じる。このような態様とすることがより好ましい。
【0117】
なお、駆動電圧の相違部分に先立つ、駆動電圧が一定である時間区間(図12において時刻t1a〜t1b)の長さは、駆動電圧の相違部分の時間区間(t1b〜t3b)の長さよりも長いことが好ましい。また、駆動電圧の相違部分に先立つ、駆動電圧が一定である時間区間は、駆動電圧パターンにおいて駆動電圧が0より大きい時間区間の1/50以上の長さであることがより好ましく、1/10以上の長さであることがさらに好ましい。
【0118】
上記第2実施例では、第2の駆動電圧パターンの電圧V2(t)が第1の駆動電圧パターンの電圧V1(t)よりも大きい時間区間t1〜t2は、駆動電圧が0より大きい時間区間t0〜t4の1/1000である。しかし、第2の駆動電圧パターンの電圧V2(t)が第1の駆動電圧パターンの電圧V1(t)よりも大きい時間区間は、駆動電圧が0より大きい時間区間t0〜t4の1/2000や1/5000など、他の大きさとすることができる。
【0119】
すなわち、第2の駆動電圧パターンの電圧が第1の駆動電圧パターンの電圧よりも大きい第2の時間区間は、第1および第2の駆動電圧パターンにおいて1周期内で駆動電圧の印加を開始してから終了するまでの第1の時間区間の1/1000000以上1/100以下とすることができる。ただし、第2の時間区間は、第1の時間区間の1/100000以上1/500以下とすることが好ましく、1/10000以上1/1000以下とすることがさらに好ましい。
【0120】
上記第2実施例においては、第2の時間区間における第2の駆動電圧パターンの電圧V2(t)の最大値V02は、第2の時間区間における第1の駆動電圧パターンの電圧V01の5倍である。しかし、第2の時間区間における第2の駆動電圧パターンの電圧の最大値は、第2の時間区間における第1の駆動電圧パターンの電圧の3倍や8倍など、他の値とすることができる。ただし、第2の時間区間における第2の駆動電圧パターンの電圧の最大値は、第2の時間区間における第1の駆動電圧パターンの電圧の3倍以上30倍以下であることが好ましく、5倍以上15倍以下であることがさらに好ましい。
【0121】
上記第2実施例においては、第2の時間区間(t1〜t3)における第2の駆動電圧パターンの電圧V2(t)は、直線的に増加し、直線的に減少している。しかし、第2の時間区間内における第2の駆動電圧パターンの電圧は、第2の時間区間に含まれる1以上の時間区間において一定値をとったり、減少したりするなど、他のパターンを有していてもよい。すなわち、第2の駆動電圧パターンの電圧は、第2の時間区間において、第1の駆動電圧パターンの電圧よりも高い値であればよい。
【0122】
また、上記第2実施例においては、第2の駆動電圧パターンの電圧が第1の駆動電圧パターンの電圧V1よりも大きい第2の時間区間(t1〜t3)は、第1の駆動電圧パターンにおいて駆動電圧V1(t)が一定値V01をとる時間区間の先頭に位置する(図7参照)。しかし、第2の時間区間は、第1および第2の駆動電圧パターンにおいて1周期内で駆動電圧の印加を開始してから終了するまでの第1の時間区間の中の任意の時間(位置)に設定することができる。
【0123】
ただし、磁界の遮断の直前(図7においてt4)の所定の時間区間における駆動電圧は、第1の駆動電圧パターンと第2の駆動電圧パターンとに置いて等しいことが好ましい。その所定の時間区間は、第1の時間区間の1/100以上であることが好ましく、1/10以上であることがより好ましい。そして、その所定の時間区間は、第1の時間区間の1/5以上であることがさらに好ましい。そのような態様とすれば、磁界の遮断の直前において被測定物に印加される磁界の分布を、第1の駆動電圧パターンと第2の駆動電圧パターンとにおいて、ほとんど同じにすることができる。よって、磁束密度の変化率の差に基づいて、内部構造を正確に計算することができる。
【0124】
さらに、上記第2実施例においては、第2の駆動電圧パターンの電圧が第1の駆動電圧パターンの電圧よりも高い値を有する第2の時間区間は、一つの時間区間である。しかし、第2の時間区間は、第1の時間区間内において1以上存在してもよい。ただし、それら複数の第2の時間区間の合計の時間が、第1の時間区間の1/1000000以上1/100以下であることが好ましく、1/100000以上1/500以下であることがより好ましい。そして、1/10000以上1/1000以下であることがさらに好ましい。
【0125】
また、上記第2実施例においては、第1の時間区間のうち、第2の時間区間以外の時間区間においては、第1の駆動電圧パターンの電圧と第2の駆動電圧パターンの電圧とは同じである(図7参照)。しかし、第1の時間区間のうち、第2の時間区間以外の時間区間において、第1の駆動電圧パターンの電圧と第2の駆動電圧パターンの電圧とは異なっていてもよい。ただし、第2の駆動電圧パターンの電圧は、第1の駆動電圧パターンの電圧の90%〜110%であることが好ましい。そして、第2の駆動電圧パターンの電圧は、第1の駆動電圧パターンの電圧の95%〜105%であることがより好ましく、97%〜103%であることがさらに好ましい。
【0126】
なお、以上では、磁場を印加する際の第1のパターンと第2のパターンについて、駆動電圧を使って説明した。しかし、コイルの抵抗および巻き線数、ならびに被測定物とセンサ装置の関係が一定であるという条件の下で、上記の駆動電圧を使用した説明は、「駆動電圧」を「駆動電流」に置き換えても、成立する。また、同様に、上記の駆動電圧を使用した説明は、「駆動電圧」を「磁界の強さ」に置き換えても、成立する。
【0127】
D8.変形例8:
上記第3実施例では、脚部12ncは、半径方向Drに沿って配される。しかし、脚部12nc,12scは、ともに円弧の中心を通る直線Drを含むようには配されないなど、他の態様で配置されてもよい。すなわち、短い方の脚部が、長い方の脚部よりも、被測定物の表面の円弧の中心から遠い位置において、被測定物の曲面に対して配されるものであればよい。なお、脚部の「長さ」は、脚部が分岐している位置から、各脚部の先端に向かって測定されるものとする(図10のLsおよびLn参照)。
【0128】
また、被測定物は円筒形状の内面を有する必要はなく、多角形断面を有する形状や、その他の断面形状を有していてもよい。すなわち、被測定物は、例示部によって磁場を印加されることができ、検出部によって磁束の変化率を測定されることができる形状であれば、任意の形状とすることができる。
【0129】
D9.変形例9:
なお、本発明は、以上で説明した各実施例および変形例を適宜組み合わせて実現することができる。たとえば、センサ列31,32を有する態様において、第1と第2の駆動電圧パターンで磁束の変化率を測定することとしてもよい。
【0130】
D10.変形例10:
上記実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。例えば、制御回路3の機能の一部をホストコンピュータPCが実行するようにすることもできる。
【0131】
このような機能を実現するコンピュータプログラムは、フロッピディスクやCD−ROM等の、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録された形態で提供される。ホストコンピュータは、その記録媒体からコンピュータプログラムを読み取って内部記憶装置または外部記憶装置に転送する。あるいは、通信経路を介してプログラム供給装置からホストコンピュータにコンピュータプログラムを供給するようにしてもよい。コンピュータプログラムの機能を実現する時には、内部記憶装置に格納されたコンピュータプログラムがホストコンピュータのマイクロプロセッサによって実行される。また、記録媒体に記録されたコンピュータプログラムをホストコンピュータが直接実行するようにしてもよい。
【0132】
この明細書において、ホストコンピュータとは、ハードウェア装置とオペレーションシステムとを含む概念であり、オペレーションシステムの制御の下で動作するハードウェア装置を意味している。コンピュータプログラムは、このようなホストコンピュータに、上述の各部の機能を実現させる。なお、上述の機能の一部は、アプリケーションプログラムでなく、オペレーションシステムによって実現されていても良い。
【0133】
なお、この発明において、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD−ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピュータに固定されている外部記憶装置も含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明の実施例であるセンサシステムを示す図。
【図2】センサ装置および部材TO1とTO2のの平面図。
【図3】センサユニット1の斜視図。
【図4】センサユニット1で部材TO1とTO2の溶接部WLの深さWdを測定する際の磁場の様子を示す断面図。
【図5】溶接部WLの深さ方向に沿った各位置のセンサ311〜316,321〜326の信号から計算される所定のパラメータの値Vpを示すグラフ。
【図6】各位置における対応するセンサの信号から計算されたパラメータの値Vpの差ΔVpを示すグラフ。
【図7】制御回路3bがコイル13n,13sに印加する駆動電圧の時間軸に沿った変化の概略パターンを示すグラフ。
【図8】第2実施例における測定処理の内容を示すフローチャート。
【図9】被測定物(部材TO1とTO2)の磁化曲線を示す図。
【図10】第3実施例のセンサユニット1cで部材TO1とTO2の溶接部WLの深さWdを測定する際の磁場の様子を示す断面図。
【図11】センサ装置のフェライトコアの変形例を示す図。
【図12】変形例における駆動電圧の時間軸に沿った変化の概略パターンを示すグラフ。
【符号の説明】
【0135】
1,1c…センサユニット
3…制御回路
11,11c,11d…フェライトコア
12n,12s,12nc,12sc,12nd,12sd…フェライトコアの脚部
13n,13s…コイル
22,23…脚部
31,32,31c,32c,31d,32d…センサ列
311〜316…センサ列31のセンサ
321〜326…センサ列32のセンサ
Ain,Ais…電流の向きを示す矢印
As…脚部の車輪の動きを示す矢印
CL…部材TO2の中央の穴H02の中心線
CP,CPc…フェライトコアの中心面
CD…曲線
Cd1…磁界遮断後の非溶接部の磁束密度を示す線(第1の駆動電圧パターン)
Cd2…磁界遮断後の溶接部の磁束密度を示す線(第1の駆動電圧パターン)
Cd3…磁界遮断後の磁束密度を示す線(第2の駆動電圧パターン)
Ci0…理想的な磁化曲線
Ci1…非溶接部の磁化曲線
Ci2…溶接部の磁化曲線
Dr…部材TO2の中央の穴H02の半径方向
H02…部材TO2の穴
L1…中心面からセンサ列31までの距離
L1c…中心面からセンサ列31cまでの距離
L2…中心面からセンサ列32までの距離
L2c…中心面からセンサ列32cまでの距離
MR1…センサ列31のセンサをとおる磁束
MR1c…センサ列31cのセンサをとおる磁束
MR2…センサ列32のセンサをとおる磁束
MR2c…センサ列32cのセンサをとおる磁束
OS…部材TO1,TO2の表面
PC,PCb…コンピュータ
Ps1〜Ps6…センサ列の各センサの位置
SS,SSb,SSc…センサ装置
TO1…部材
TO2…部材
V1(t)…第1の駆動電圧パターンの駆動電圧を表すグラフ
V2(t)…第2の駆動電圧パターンの駆動電圧を表すグラフ
Vp,Vpb…磁界の変化率の過渡変化から得られるパラメータ
WL…溶接部
Wd…溶接部の寸法(深さ)
ΔVp,ΔVpb…一対の測定から得られるパラメータVpの差
θ…脚部12nd,12sdがなす角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定装置であって、
被測定物に磁場を印加することができる励磁部と、
前記被測定物内を通る磁束の変化率を測定するための検出部と、
前記励磁部を制御し、前記被測定物への前記磁場の印加のパターンと前記磁束の変化率を測定する測定位置との少なくとも一方が異なる一対の測定における、前記磁場の印加を停止した後の前記磁束の変化率の過渡変化の相違に基づいて、前記被測定物の内部構造に関する特性値を計算する制御部と、を備える測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の測定装置であって、
前記制御部は、
前記一対の測定として、第1のパターンで前記励磁部に磁場を発生させた後の前記磁束の変化率の測定と、第2のパターンで前記励磁部に磁場を発生させた後の前記磁束の変化率の測定と、を行い、
前記第2のパターンで前記励磁部に磁場を発生させる際には、前記磁場の印加を開始してから終了するまでの第1の時間区間のうち、前記第1の時間区間の1/100以下の第2の時間区間において、前記第1のパターンで前記励磁部に磁場を発生させる際よりも強い磁場を印加し、前記第1の時間区間のうちの前記第2の時間区間以外の時間区間において、前記第1のパターンで前記励磁部に磁場を発生させる際とほぼ同一の強さの磁場を印加する、測定装置。
【請求項3】
請求項1記載の測定装置であって、
前記励磁部は、前記磁場を発生させるためのコイルを備え、
前記制御部は、
前記一対の測定として、第1のパターンで前記励磁部に磁場を発生させた後の前記磁束の変化率の測定と、第2のパターンで前記励磁部に磁場を発生させた後の前記磁束の変化率の測定と、を行い、
前記第2のパターンで前記励磁部に磁場を発生させる際には、前記コイルへの駆動電圧の印加を開始してから終了するまでの第1の時間区間のうち、前記第1の時間区間の1/100以下の第2の時間区間において、前記第1のパターンで前記励磁部に磁場を発生させる際よりも高い駆動電圧を前記コイルに印加し、前記第1の時間区間のうちの前記第2の時間区間以外の時間区間において、前記第1のパターンで前記励磁部に磁場を発生させる際とほぼ同一の駆動電圧を前記コイルに印加する、測定装置。
【請求項4】
請求項3記載の測定装置であって、
前記第2のパターンで前記励磁部に磁場を発生させる際の前記第2の時間区間における駆動電圧の最大値は、前記第1のパターンで前記励磁部に磁場を発生させる際の前記第2の時間区間における駆動電圧の最大値の3倍以上30倍以下の所定の値である、測定装置。
【請求項5】
請求項1記載の測定装置であって、
前記検出部は、
前記被測定物内の第1種の位置を通る磁束の変化率を測定するための第1種の検出要素と、
前記被測定物内の第2種の位置であって、前記被測定物の前記測定装置が配される側の表面から測った深さが前記第1種の位置とは異なる第2種の位置を通る磁束の変化率を測定するための第2種の検出要素と、を備え、
前記制御部は、前記一対の測定として、前記励磁部に磁場を発生させ停止させた後の前記第1種の検出要素による前記磁束の変化率の測定と、前記磁場の発生および停止後の前記第2種の検出要素による前記磁束の変化率の測定と、を行う、測定装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の測定装置であって、
複数の測定位置について前記磁束の変化率を測定するための複数の前記検出部を備え、
前記制御部は、
前記複数の測定位置の前記磁束の変化率の過渡変化の相違に基づいて、それぞれ前記被測定物内の位置に対応づけられた複数の基礎パラメータを計算し、
対応づけられた前記基礎パラメータが所定の条件を満たす前記被測定物内の位置の分布の幅を、前記特性値として計算する、測定装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の測定装置であって、
前記励磁部は、それぞれN極およびS極として機能し、前記被測定物に向かって配されることができる一対の脚部を有し、
前記検出部は、前記被測定物の内部を通って、前記一対の脚部の一方の先端から他方の先端に向かう磁束の変化率を測定することができる、測定装置。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載の測定装置であって、
前記被測定物は、ほぼ円弧の断面を有する凹状の曲面を有する物体であり、
前記測定装置は、前記被測定物に対して前記曲面に向かい合うように配されて、前記被測定物の内部構造を測定する測定装置であり、
前記一対の脚部は互いに平行に設けられており、
前記一対の脚部のうちの一方の脚部は、他方の脚部よりも長く設けられており、
前記一対の脚部のうちの前記他方の脚部は、前記一方の脚部よりも短く設けられ、前記一方の脚部よりも前記円弧の中心から遠い位置において、前記被測定物の前記曲面に対して配されるための脚部である、測定装置。
【請求項9】
被測定物の内部構造を測定する方法であって、
(a)被測定物に磁場を印加し、前記印加を停止し、その後、前記被測定物内を通る磁束の変化率を測定する工程と、
(b)前記工程(a)とは、前記被測定物への前記磁場の印加のパターンと前記磁束の変化率を測定する測定位置との少なくとも一方が異なる態様で、前記被測定物への磁場の印加および停止、ならびに前記磁束の変化率の測定を行う工程と、
(c)前記工程(a)および(b)による一対の測定における、前記磁場の印加を停止した後の前記磁束の変化率の過渡変化の相違に基づいて、前記被測定物の内部構造に関する特性値を計算する工程と、を備える方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法であって、
前記工程(a)は、
第1のパターンで磁場を発生させて、前記被測定物に磁場を印加する工程を含み、
前記工程(b)は、
第2のパターンで磁場を発生させて、前記被測定物に磁場を印加する工程を含み、
前記第2のパターンで磁場を発生させる際には、前記磁場の印加を開始してから終了するまでの第1の時間区間のうち、前記第1の時間区間の1/100以下の第2の時間区間において、前記第1のパターンで磁場を発生させる際よりも強い磁場を印加し、前記第1の時間区間のうちの前記第2の時間区間以外の時間区間において、前記第1のパターンで磁場を発生させる際とほぼ同一の強さの磁場を印加する工程である、方法。
【請求項11】
請求項9記載の方法であって、
前記工程(a)は、
第1のパターンで磁場を発生させて、前記被測定物に磁場を印加する工程を含み、
前記工程(b)は、
第2のパターンで磁場を発生させて、前記被測定物に磁場を印加する工程を含み、
前記第2のパターンで磁場を発生させる際には、磁場を発生させるためのコイルへの駆動電圧の印加を開始してから終了するまでの第1の時間区間のうち、前記第1の時間区間の1/100以下の第2の時間区間において、前記第1のパターンで磁場を発生させる際よりも高い駆動電圧を前記コイルに印加し、前記第1の時間区間のうちの前記第2の時間区間以外の時間区間において、前記第1のパターンで磁場を発生させる際とほぼ同一の駆動電圧を前記コイルに印加する工程である、方法。
【請求項12】
請求項9記載の方法であって、
前記工程(a)は、
前記被測定物内の第1種の位置を通る磁束の変化率を測定する工程を含み、
前記工程(b)は、
前記被測定物内の第2種の位置であって、前記被測定物の前記測定を行う側の表面から測った深さが前記第1種の位置とは異なる第2種の位置を通る磁束の変化率を測定する工程を含む、方法。
【請求項13】
被測定物の内部構造を測定する測定装置を制御するためのコンピュータプログラムであって、
前記測定装置は、
被測定物に磁場を印加することができる励磁部と、
前記被測定物内を通る磁束の変化率を測定するための検出部と、を備え、
前記コンピュータプログラムは、前記測定装置が接続されたコンピュータ上で実行されることによって、
前記被測定物に磁場を印加し、前記印加を停止し、その後、前記被測定物内を通る磁束の変化率を測定する第1の機能と、
前記第1の機能による測定とは、前記被測定物への前記磁場の印加のパターンと前記磁束の変化率を測定する測定位置との少なくとも一方が異なる態様で、前記被測定物への磁場の印加および停止、ならびに前記磁束の変化率の測定を行う第2の機能と、
前記第1および第2の機能による一対の測定における、前記磁場の印加を停止した後の前記磁束の変化率の過渡変化の相違に基づいて、前記被測定物の内部構造に関する特性値を計算する第3の機能と、を前記測定装置を使用して実現するコンピュータプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−192509(P2009−192509A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36542(P2008−36542)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(599009019)株式会社マグネグラフ (8)
【出願人】(390009896)愛知機械工業株式会社 (190)
【Fターム(参考)】