説明

測角装置

【課題】モノパルス測角に加えて、ビーム内に到来する複数の目標信号を分離・測角する能力を有するとともに、高い測角性能と低コスト化を実現可能な測角装置を得る。
【解決手段】到来する目標信号をアンテナ1で受信した受信信号からΣおよびΔビームを形成する第1のΣ&Δビーム形成手段4と、受信信号およびΣビームからΣビームをガイディングセンサとするΣΣキュムラント行列を推定する第1のΣΣキュムラント行列推定手段5と、受信信号、ΣおよびΔビームからΣおよびΔビームをガイディングセンサとするΣΔキュムラント行列を推定する第1のΣΔキュムラント行列推定手段6と、ΣΣキュムラント行列およびΣΔキュムラント行列から目標信号の到来角に応じたモノパルス比を推定する第1のモノパルス比推定手段7と、モノパルス比をモノパルスディスクリパターン9に参照し、目標信号の到来角を測角するモノパルス測角手段8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の素子アンテナ(または受波器等)のメインビーム内に到来する目標信号の到来方向を測角する測角装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なレーダシステムにおいて、複数の素子アンテナのメインビーム内に到来する目標信号の到来方向を測角する測角装置として、モノパルス測角方式を用いるものが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
モノパルス測角では、Σ(和)ビームおよびΔ(差)ビームの出力に基づいてモノパルス比を推定し、モノパルスディスクリパターンを参照することによって測角値を求める。しかしながら、モノパルス測角は、ビーム内に到来する目標信号が単数である場合を前提としているので、例えば編隊飛行する目標のように、ビーム内に複数の目標信号が到来する場合には、それぞれの目標信号の到来方向を測角することが困難になるという問題があった。
【0003】
そこで、ビーム内に到来する複数の目標信号を分離・測角する測角装置として、アレーアンテナを擁するレーダシステムにおいて、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)、MUSIC(Multiple Signal Classification)、最尤推定等による超分解能測角方式を用いるものが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
ESPRITは、2つの同型サブアレー間の回転不変量を用いて複数の目標信号を分離・測角するもので、一般的にMUSICや最尤推定と比べて低演算量である。しかしながら、アレーアンテナでは、サイドローブを低減するために、振幅・密度テーパを施す場合があり、ESPRITに必要な2つの同型サブアレーを実装することが困難であるという問題があった。
一方、MUSICは、任意のアンテナ配置に適用することができるものの、アレーマニフォルドデータを計測する必要があり、保守コストが高くなるという問題があった。また、最尤推定は、MUSICと同様の問題の他に、多次元サーチを行う必要があり、演算コストが高くなるという問題があった。
【0005】
これに対して、上記以外の超分解能測角方式として、高次統計量である4次キュムラントを用いるVESPA(Virtual ESPRIT Algorithm)による測角方式が知られている(例えば、非特許文献3、特許文献1参照)。
VESPAは、アレーアンテナから2つのガイディングセンサを構成し、目標信号の到来角に応じたガイディングセンサの応答比を算出して測角するもので、任意配列のアレーアンテナに適用でき、かつESPRIT、MUSICおよび最尤推定と比べて演算量が低いという特徴を有する。
【0006】
以下、上記非特許文献3や特許文献1に示されたVESPAによる測角方式について説明する。なお、簡単のために等間隔リニアアレーを想定して説明するが、上述したように、VESPAによる測角方式は、任意配列のアレーアンテナに適用することができる。
【0007】
M個の素子アンテナからなる等間隔リニアアレーに、K波の目標信号s(n),・・・,s(n)がそれぞれθ,・・・,θの角度から到来する場合、第mアンテナの複素ベースバンド信号x(n)を要素とする受信信号ベクトルx(n)=[x(n),x(n),・・・,x(n)]は、次式(1)で表される。
【0008】
【数1】

【0009】
また、式(1)中のA、s(n)、n(n)は、次式(2)〜(5)で表される。
【0010】
【数2】

【0011】
【数3】

【0012】
【数4】

【0013】
【数5】

【0014】
式(2)〜(5)において、a(θ)はアレーノーマルを基準とした到来角θに対応するステアリングベクトル、Aはa(θ)を列ベクトルとするM×Kのステアリング行列、s(n)は目標信号ベクトル、n(n)は受信機雑音ベクトルを示している。また、g(θ)は第mアンテナの振幅・位相パターンおよび受信機透過位相から決定される複素ゲイン、dはアンテナ間隔、λは波長、n(n)は第mアンテナの受信機雑音を示している。
【0015】
ここで、目標信号s(n),・・・,s(n)が非ガウス分布であり、互いに無相関であるとすると、アンテナの受信信号x,x,x,xの4次キュムラントは、次式(6)のように定義される。なお、式(6)において、*は複素共役を示している。
【0016】
【数6】

【0017】
また、式(6)で示された4次キュムラントは、式(1)の表記を用いて次式(7)のように表すことができる。
【0018】
【数7】

【0019】
式(7)において、
【数8】

は目標信号の4次キュムラントであり、次式(8)で表される。
【0020】
【数9】

【0021】
次に、M個の素子アンテナから2個のアンテナを選び、これをガイディングセンサと呼ぶことにする。ガイディングセンサに対応するアンテナの番号を♯u、♯vとし、第(m,n)要素がcum[x,x,x,x]である4次キュムラント行列Ru,uを考えると、Ru,uは、式(1)〜(4)および式(7)を用いて次式(9)、(10)で表される。
【0022】
【数10】

【0023】
【数11】

【0024】
式(9)、(10)において、Hは行列のエルミート転置、diag{ }は対角行列を示している。
また、第(m,n)要素がcum[x,x,x,x]である4次キュムラント行列Ru,vは、同様にして次式(11)で表される。
【0025】
【数12】

【0026】
また、式(11)中のΦu,vは、次式(12)、(13)で表される。
【0027】
【数13】

【0028】
式(12)、(13)において、行列Φu,vは対角行列であり、ここでは応答比行列と呼ぶことにする。応答比行列Φu,vの対角要素φは、到来角に対応する2つのガイディングセンサの応答比の複素共役で表される。
また、第(m,n)要素がcum[x,x,x,x]である4次キュムラント行列Rv,vは、同様にして次式(14)で表される。
【0029】
【数14】

【0030】
ここで、式(9)、(11)、(14)の関係に着目すると、次式(15)のように定義される4次キュムラント行列Ru,v(バー)を考えたときに、回転不変の関係が成立しているので、ESPRITによって応答比行列Φu,vを推定することができる。
【0031】
【数15】

【0032】
また、応答比行列Φu,vの第k対角要素φについて、式(2)、(12)の関係から、次式(16)〜(18)が導出される。
【0033】
【数16】

【0034】
従来のVESPAによる測角方式では、ガイディングセンサに適当な条件を与え、式(18)を用いて目標信号の到来方向を測角する。
そこで、非特許文献3および特許文献1のそれぞれに示された測角法を以下に簡単に説明する。
【0035】
まず、非特許文献3に示された測角法では、ガイディングセンサが以下の2つの条件を満たす必要がある。
第1の条件は、ガイディングセンサであるアンテナ♯uおよび♯vの位相パターンが互いに等しくなるか、または位相パターンの差が角度によらず既知の一定値cu,vとなることである。
【0036】
位相パターンが互いに等しくなる場合には、次式(19)が成立する必要がある。なお、式(19)において、arg[*]は複素数の位相値を示している。
【0037】
【数17】

【0038】
また、位相パターンの差が角度によらず既知の一定値cu,vとなる場合には、次式(20)が成立する必要がある。
【0039】
【数18】

【0040】
ここで、上記第1の条件は、アンテナ♯uおよび♯vが無指向性であれば満足することができる。
第2の条件は、アンテナ♯uおよび♯vの位置(u−1)d,(v−1)dが既知であり、アンテナ間の距離|u−v|dがλ/2以下となることである。
以上の第1および第2の条件が満たされる場合、上記式(18)は、次式(21)のように変形することができ、この式(21)を用いて目標信号の到来方向を測角する。
【0041】
【数19】

【0042】
続いて、特許文献1に示された測角法は、非特許文献3に示された測角法で挙げた上記2つの条件のうち、第1の条件が満たされない場合であっても、目標信号の到来方向の測角を可能にする方法である。この測角法では、アンテナ♯uおよび♯vの位相パターンの差が角度に応じて変化することとなり、位相パターンの差は、次式(22)で表される。
【0043】
【数20】

【0044】
したがって、上記式(18)は、次式(23)のように変形することができる。
【0045】
【数21】

【0046】
すなわち、2つのガイディングセンサの複素ゲインパターンを事前に計測または解析しておき、g(θ),g(θ)からcu,v(θ)を既知の値とすることにより、式(23)を用いて目標信号の到来方向を測角する。なお、式(23)では、一般に対角要素φから入射角θを陽に算出することができないので、右辺はテーブル化を行っておき、テーブル参照方式によって入射角θを推定する。
【0047】
ここで、目標信号が到来し得る角度範囲において、式(23)の右辺が単調増加または単調減少でなくなる場合には、対角要素φから入射角θを算出する際に、角度アンビギュイティが生じることに注意する必要がある。そのため、特許文献1に示された測角法は、非特許文献3に示された測角法と比べて、角度アンビギュイティのない範囲で適用されることが望ましい。
【0048】
非特許文献3に示された測角法は、ガイディングセンサとして無指向性アンテナを用いればよいが、指向性アンテナと比べてアンテナゲインが小さいので、キュムラント行列の推定精度が十分でない場合に、測角性能が劣化するという問題がある。
これに対して、特許文献1に示された測角法では、例えば目標信号の到来方向がある程度の角度範囲で予想できるといった場合を想定し、無指向性アンテナを用いるよりも、予想した角度範囲において大きなアンテナゲインを有する指向性アンテナをガイディングセンサとして用いている。
【0049】
しかしながら、これらの測角法における位相パターンの計測は、上述したMUSICや最尤推定におけるアレーマニフォルドデータの計測に比べればコスト的には有利であるものの、その計測自体を無くすことは困難である。
したがって、例えばレーダシステムにおいて、従来のモノパルス測角に加えてVESPAによる超分解能測角を実装するためには、VESPAソフトウェアの組み込み、ガイディングセンサの設計および試験、並びにVESPAリファレンスパターン取得のための位相パターン計測が必要となり、モノパルス測角単体のみを有する場合に比べてコストが高くなるという問題がある。特に、位相パターンを計測する必要があることは、すでに運用されているレーダシステムへのVESPAの実装を困難にするという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0050】
【特許文献1】特許第4016803号公報
【非特許文献】
【0051】
【非特許文献1】S.Sherman,“Monopulse Principles and Techniques”,Norwood,MA,Artech House,1984
【非特許文献2】H.L.Van Trees,“Optimum Array Processing (Part IV of Detection,Estimation,and Modulation Theory)”,New York,NY,John Wiley & Sons,2002
【非特許文献3】M.Dogan,J.Mendel,“Application of cumulants to array processing−Part I:Aperture extension and array calibration,”,IEEE Trans.Signal Processing,vol.43,no.5,pp.1200−1216,May 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0052】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
ビーム内に到来する複数の目標信号を分離・測角するために、従来のモノパルス測角に加えてVESPAによる超分解能測角を実装する場合には、VESPAソフトウェアの組み込み、ガイディングセンサの設計および試験、並びにVESPAリファレンスパターン取得のための位相パターン計測が必要となるので、コストが高くなるという問題がある。特に、すでに運用されているレーダシステム等にVESPAを実装する場合、通常は位相パターン計測のための器材や施設等を有していることはなく、新たに器材や施設を設けるか、位相パターン計測を無くす必要があるという問題もある。また、キュムラント行列の推定精度が十分でない場合に、測角性能が劣化するという問題もある。
【0053】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、モノパルス測角に加えて、ビーム内に到来する複数の目標信号を分離・測角する能力を有するとともに、高い測角性能と低コスト化を実現することができる測角装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0054】
この発明に係る測角装置は、複数の素子アンテナから構成されるアンテナで到来する目標信号を受信し、この受信信号に基づいて目標信号の到来角を測角する測角装置であって、受信信号に基づいてΣビームおよびΔビームを形成するΣ&Δビーム形成手段と、受信信号およびΣビームに基づいて、ΣビームをガイディングセンサとするΣΣキュムラント行列を推定するΣΣキュムラント行列推定手段と、受信信号、ΣビームおよびΔビームに基づいて、ΣビームおよびΔビームをガイディングセンサとするΣΔキュムラント行列を推定するΣΔキュムラント行列推定手段と、ΣΣキュムラント行列およびΣΔキュムラント行列に基づいて、目標信号の到来角に応じたモノパルス比を推定するモノパルス比推定手段と、モノパルス比をモノパルスディスクリパターンに参照することにより、目標信号の到来角を測角するモノパルス測角手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0055】
この発明に係る測角装置によれば、ΣΣキュムラント行列推定手段は、アンテナで受信した受信信号およびΣ&Δビーム形成手段で形成されたΣビームに基づいて、ΣビームをガイディングセンサとするΣΣキュムラント行列を推定する。また、ΣΔキュムラント行列推定手段は、アンテナで受信した受信信号並びにΣ&Δビーム形成手段で形成されたΣビームおよびΔビームに基づいて、ΣビームおよびΔビームをガイディングセンサとするΣΔキュムラント行列を推定する。また、モノパルス比推定手段は、ΣΣキュムラント行列およびΣΔキュムラント行列に基づいて、目標信号の到来角に応じたモノパルス比を推定し、モノパルス測角手段は、モノパルス比をモノパルスディスクリパターンに参照することにより、目標信号の到来角を測角する。
これにより、ビーム内に到来する複数の目標信号を分離・測角するために、従来のモノパルス測角に加えてVESPAによる超分解能測角を実装する場合に、ガイディングセンサの設計および試験、並びにVESPAリファレンスパターン取得のための位相パターン計測が不要となる。また、ガイディングセンサとしてメインビーム方向に指向するΣビームおよびΔビームを用いており、ガイディングセンサにおける受信SNR(Signal to Noise Ratio)の改善により、キュムラント行列の推定精度も高まるので、測角性能を向上させることができる。
そのため、モノパルス測角に加えて、ビーム内に到来する複数の目標信号を分離・測角する能力を有するとともに、高い測角性能と低コスト化を実現することができる測角装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】この発明の実施の形態1に係る測角装置を示すブロック構成図である。
【図2】この発明の実施の形態2に係る測角装置を示すブロック構成図である。
【図3】この発明の実施の形態3に係る測角装置を示すブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、この発明の測角装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明するが、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。
【0058】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る測角装置を示すブロック構成図である。
図1において、この測角装置は、アンテナ1、受信機2、AD変換器3、第1のΣ&Δビーム形成手段4、第1のΣΣキュムラント行列推定手段5、第1のΣΔキュムラント行列推定手段6、第1のモノパルス比推定手段7、モノパルス測角手段8およびモノパルスディスクリパターン9を備えている。
【0059】
ここで、アンテナ1は、複数の素子アンテナにより構成されている。また、受信機2およびAD変換器3は、それぞれ素子アンテナの数に対応して複数設けられているが、まとめて1つのものとして扱うこととする。
【0060】
以下、この発明の実施の形態1に係る測角装置の機能について説明する。
アンテナ1は、上述したように複数の素子アンテナにより構成され、到来するRF帯の目標信号を受信し、受信信号として受信機2に出力する。
受信機2は、アンテナ1からの受信信号をダウンコンバートしてベースバンド帯の受信信号に周波数変換し、AD変換器3に出力する。
【0061】
AD変換器3は、受信機2からの受信信号をAD(Analog to Digital)変換によりデジタル信号に変換し、第1のΣ&Δビーム形成手段4、第1のΣΣキュムラント行列推定手段5および第1のΣΔキュムラント行列推定手段6に出力する。デジタル化した複数チャネルの受信信号をまとめて受信信号ベクトルと呼ぶことにする。
【0062】
第1のΣ&Δビーム形成手段4は、AD変換器3からの受信信号ベクトルに基づいて、ΣビームおよびΔビームを形成して、Σビームを第1のΣΣキュムラント行列推定手段5および第1のΣΔキュムラント行列推定手段6に出力し、Δビームを第1のΣΔキュムラント行列推定手段6に出力する。
【0063】
第1のΣΣキュムラント行列推定手段5は、AD変換器3からの受信信号ベクトルおよび第1のΣ&Δビーム形成手段4からのΣビームに基づいて、第1のΣΣキュムラント行列を推定し、第1のモノパルス比推定手段7に出力する。
第1のΣΔキュムラント行列推定手段6は、AD変換器3からの受信信号ベクトル並びに第1のΣ&Δビーム形成手段4からのΣビームおよびΔビームに基づいて、第1のΣΔキュムラント行列を推定し、第1のモノパルス比推定手段7に出力する。
【0064】
ここで、第1のΣ&Δビーム形成手段4で形成されたΣビームおよびΔビームは、ガイディングセンサを構成する。そのため、第1のΣΣキュムラント行列推定手段5および第1のΣΔキュムラント行列推定手段6で推定される4次キュムラント行列RΣ,ΣおよびRΣ,Δは、次式(24)〜(26)のように導出される。
【0065】
【数22】

【0066】
【数23】

【0067】
【数24】

【0068】
第1のモノパルス比推定手段7は、第1のΣΣキュムラント行列推定手段5からの第1のΣΣキュムラント行列、および第1のΣΔキュムラント行列推定手段6からの第1のΣΔキュムラント行列に基づいて、各目標信号の到来角に応じたモノパルス比を推定する。具体的には、第1のモノパルス比推定手段7は、式(24)、(25)の右辺の間にある回転不変の関係から、ESPRITを用いて次式(27)で表される第1の応答比行列ΦΣ,Δを推定する。
【0069】
【数25】

【0070】
このとき、式(27)で示された第1の応答比行列ΦΣ,Δの第k対角要素aΔ(θ)/aΣ(θ)の複素共役が到来角θに対応するモノパルス比になるので、第1のモノパルス比推定手段7は、このモノパルス比をモノパルス測角手段8に出力する。
【0071】
モノパルス測角手段8は、第1のモノパルス比推定手段7からのモノパルス比を、モノパルスディスクリパターン9に参照することによって、目標信号の到来方向の到来角θを測角する。
なお、モノパルスディスクリパターン9は、従来のモノパルス測角を行うために必須の特性データであり、モノパルス測角を有するレーダシステム等には具備されているものである。
【0072】
以上のように、実施の形態1によれば、ΣΣキュムラント行列推定手段は、アンテナで受信した受信信号およびΣ&Δビーム形成手段で形成されたΣビームに基づいて、ΣビームをガイディングセンサとするΣΣキュムラント行列を推定する。また、ΣΔキュムラント行列推定手段は、アンテナで受信した受信信号並びにΣ&Δビーム形成手段で形成されたΣビームおよびΔビームに基づいて、ΣビームおよびΔビームをガイディングセンサとするΣΔキュムラント行列を推定する。また、モノパルス比推定手段は、ΣΣキュムラント行列およびΣΔキュムラント行列に基づいて、目標信号の到来角に応じたモノパルス比を推定し、モノパルス測角手段は、モノパルス比をモノパルスディスクリパターンに参照することにより、目標信号の到来角を測角する。
すなわち、実施の形態1に係る測角装置は、ΣビームおよびΔビームをガイディングセンサとするVESPAを用いて各目標のモノパルス比を推定し、このモノパルス比を用いて各目標のモノパルス測角値を求めることにより、ビーム内に到来する複数の目標信号を分離・測角する。
これにより、ビーム内に到来する複数の目標信号を分離・測角するために、すでに運用中または新たに製造するレーダシステム等に、従来のモノパルス測角に加えてVESPAによる超分解能測角を実装する場合、ガイディングセンサがΣビームおよびΔビームなので、ガイディングセンサの設計および試験、並びにVESPAリファレンスパターン取得のための位相パターン計測が不要となる。そのため、ビーム内に到来する複数の目標信号を分離・測角する能力の付与を、VESPAソフトウェアの組み込みに要するコストのみで実現することができる。
また、ガイディングセンサとしてメインビーム方向に指向するΣビームおよびΔビームを用いており、ガイディングセンサにおける受信SNRの改善により、キュムラント行列の推定精度も高まるので、測角性能を向上させることができる。
したがって、モノパルス測角に加えて、ビーム内に到来する複数の目標信号を分離・測角する能力を有するとともに、高い測角性能と低コスト化を実現することができる測角装置を得ることができる。
【0073】
実施の形態2.
図2は、この発明の実施の形態2に係る測角装置を示すブロック構成図である。
図2において、この測角装置は、図1に示した測角装置に加えて、ビーム空間処理手段10を備えている。また、この測角装置は、図1に示した第1のΣΣキュムラント行列推定手段5、第1のΣΔキュムラント行列推定手段6、第1のモノパルス比推定手段7に代えて、第2のΣΣキュムラント行列推定手段11、第2のΣΔキュムラント行列推定手段12および第2のモノパルス比推定手段13を備えている。なお、その他の構成については、実施の形態1と同様であり、その説明は省略する。
【0074】
以下、この発明の実施の形態2に係る測角装置の機能について説明する。なお、実施の形態1と同様の機能については、説明を省略する。
ビーム空間処理手段10は、AD変換器3からの受信信号ベクトルに対してビーム空間処理を実行し、次元数を低減した受信信号ベクトルを生成して、第2のΣΣキュムラント行列推定手段11および第2のΣΔキュムラント行列推定手段12に出力する。
【0075】
第2のΣΣキュムラント行列推定手段11は、ビーム空間処理手段10からの次元数を低減した受信信号ベクトルおよび第1のΣ&Δビーム形成手段4からのΣビームに基づいて、第2のΣΣキュムラント行列を推定し、第2のモノパルス比推定手段13に出力する。
第2のΣΔキュムラント行列推定手段12は、ビーム空間処理手段10からの次元数を低減した受信信号ベクトル並びに第1のΣ&Δビーム形成手段4からのΣビームおよびΔビームに基づいて、第2のΣΔキュムラント行列を推定し、第2のモノパルス比推定手段13に出力する。
【0076】
ここで、第1のΣ&Δビーム形成手段4で形成されたΣビームおよびΔビームは、ガイディングセンサを構成する。そのため、第2のΣΣキュムラント行列推定手段11および第2のΣΔキュムラント行列推定手段12で推定される4次キュムラント行列BΣ,ΣBおよびBΣ,ΔBは、次式(28)、(29)のように導出される。
【0077】
【数26】

【0078】
【数27】

【0079】
式(28)、(29)において、Bはビーム空間行列を示し、M本のビームに対応するビームウェイトを列ベクトルにもつM×M行列である。ただし、M>Mである。
第2のモノパルス比推定手段13は、第2のΣΣキュムラント行列推定手段11からの第2のΣΣキュムラント行列、および第2のΣΔキュムラント行列推定手段12からの第2のΣΔキュムラント行列に基づいて、各目標信号の到来角に応じたモノパルス比を推定する。具体的には、第2のモノパルス比推定手段13は、式(28)、(29)の右辺の間にある回転不変の関係から、ESPRITを用いて次式(30)で表される第2の応答比行列ΦΣ,Δを推定する。
【0080】
【数28】

【0081】
このとき、式(30)で示された第2の応答比行列ΦΣ,Δの第k対角要素aΔ(θ)/aΣ(θ)の複素共役が到来角θに対応するモノパルス比になるので、第2のモノパルス比推定手段13は、このモノパルス比をモノパルス測角手段8に出力する。
モノパルス測角手段8は、第2のモノパルス比推定手段13からのモノパルス比を、モノパルスディスクリパターン9に参照することによって、目標信号の到来方向の到来角θを測角する。
【0082】
以上のように、実施の形態2によれば、上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
また、ビーム空間処理手段は、AD変換器からの受信信号ベクトルに対してビーム空間処理を実行し、次元数を低減した受信信号ベクトルを生成する。また、ΣΣキュムラント行列推定手段は、ビーム空間処理手段からの次元数を低減した受信信号ベクトルおよびΣ&Δビーム形成手段で形成されたΣビームに基づいて、ΣビームをガイディングセンサとするΣΣキュムラント行列を推定する。また、ΣΔキュムラント行列推定手段は、ビーム空間処理手段からの次元数を低減した受信信号ベクトル並びにΣ&Δビーム形成手段で形成されたΣビームおよびΔビームに基づいて、ΣビームおよびΔビームをガイディングセンサとするΣΔキュムラント行列を推定する。
そのため、実施の形態1に係る測角装置と比べて、ビーム空間処理手段を追加するコストは発生するものの、ビーム空間処理後の受信信号ベクトルの次元数が低減されることにより、ΣΣキュムラント行列推定手段、ΣΔキュムラント行列推定手段およびモノパルス比推定手段での演算量を低減することができる。
さらに、ビーム空間処理後の受信信号ベクトルの受信SNRが改善されるので、測角性能をより向上させることができる。
【0083】
実施の形態3.
図3は、この発明の実施の形態3に係る測角装置を示すブロック構成図である。
図3において、この測角装置は、アンテナ1、第2のΣ&Δビーム形成手段14、Σチャネル受信機15、Δチャネル受信機16、AD変換器3、第3のΣΣキュムラント行列推定手段17、第3のΣΔキュムラント行列推定手段18、第3のモノパルス比推定手段19、モノパルス測角手段8およびモノパルスディスクリパターン9を備えている。
【0084】
ここで、アンテナ1は、複数の素子アンテナにより構成されている。また、AD変換器3は、Σチャネル受信機15およびΔチャネル受信機16に対応して複数設けられているが、まとめて1つのものとして扱うこととする。
【0085】
以下、この発明の実施の形態3に係る測角装置の機能について説明する。
アンテナ1は、上述したように複数の素子アンテナにより構成され、到来するRF帯の目標信号を受信し、受信信号として第2のΣ&Δビーム形成手段14に出力する。
第2のΣ&Δビーム形成手段14は、アンテナ1からの受信信号に基づいて、ΣビームおよびΔビームを形成し、それぞれRF帯のΣチャネル受信信号およびΔチャネル受信信号に合成して、Σチャネル受信機15およびΔチャネル受信機16に出力する。
【0086】
Σチャネル受信機15は、第2のΣ&Δビーム形成手段14からのΣチャネル受信信号をダウンコンバートしてベースバンド帯のΣチャネル受信信号に周波数変換し、AD変換器3に出力する。
Δチャネル受信機16は、第2のΣ&Δビーム形成手段14からのΔチャネル受信信号をダウンコンバートしてベースバンド帯のΔチャネル受信信号に周波数変換し、AD変換器3に出力する。
【0087】
AD変換器3は、Σチャネル受信機15からのΣチャネル受信信号およびΔチャネル受信機16からのΔチャネル受信信号をAD変換によりデジタル信号に変換し、それぞれ第3のΣΣキュムラント行列推定手段17および第3のΣΔキュムラント行列推定手段18に出力する。
【0088】
第3のΣΣキュムラント行列推定手段17は、AD変換器3からのΣチャネル受信信号およびΔチャネル受信信号に基づいて、第3のΣΣキュムラント行列を推定し、第3のモノパルス比推定手段19に出力する。
第3のΣΔキュムラント行列推定手段18は、AD変換器3からのΣチャネル受信信号およびΔチャネル受信信号に基づいて、第3のΣΔキュムラント行列を推定し、第3のモノパルス比推定手段19に出力する。
【0089】
ここで、第2のΣ&Δビーム形成手段14で形成されたΣビームおよびΔビームは、ガイディングセンサを構成する。そのため、第3のΣΣキュムラント行列推定手段17および第3のΣΔキュムラント行列推定手段18で推定される4次キュムラント行列RΣ,ΣおよびRΣ,Δは、次式(31)〜(33)のように導出される。
【0090】
【数29】

【0091】
【数30】

【0092】
【数31】

【0093】
式(31)、(32)において、xΣΔはΣチャネル受信信号およびΔチャネル受信信号からなるΣΔ受信信号ベクトルを示している。また、AΣΔはΣチャネルおよびΔチャネルからなるK個のステアリングを列ベクトルとする2×Kのステアリング行列を示している。
【0094】
第3のモノパルス比推定手段19は、第3のΣΣキュムラント行列推定手段17からの第3のΣΣキュムラント行列、および第3のΣΔキュムラント行列推定手段18からの第3のΣΔキュムラント行列に基づいて、各目標信号の到来角に応じたモノパルス比を推定する。具体的には、第3のモノパルス比推定手段19は、式(31)、(32)の右辺の間にある回転不変の関係から、ESPRITを用いて次式(34)で表される第3の応答比行列
【数32】

を推定する。
【0095】
【数33】

【0096】
このとき、式(34)で示された第3の応答比行列
【数34】

の第k対角要素aΔ(θ)/aΣ(θ)の複素共役が到来角θに対応するモノパルス比になるので、第3のモノパルス比推定手段19は、このモノパルス比をモノパルス測角手段8に出力する。
モノパルス測角手段8は、第3のモノパルス比推定手段19からのモノパルス比を、モノパルスディスクリパターン9に参照することによって、目標信号の到来方向の到来角θを測角する。
なお、モノパルスディスクリパターン9は、従来のモノパルス測角を行うために必須の特性データであり、モノパルス測角を有するレーダシステム等には具備されているものである。
【0097】
以上のように、実施の形態3によれば、上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
また、Σチャネル受信機は、Σ&Δビーム形成手段からのΣチャネル受信信号をダウンコンバートしてベースバンド帯のΣチャネル受信信号に周波数変換する。また、Δチャネル受信機は、Σ&Δビーム形成手段からのΔチャネル受信信号をダウンコンバートしてベースバンド帯のΔチャネル受信信号に周波数変換する。また、ΣΣキュムラント行列推定手段は、AD変換器でデジタル信号に変換されたΣチャネル受信信号およびΔチャネル受信信号に基づいて、ΣビームおよびΔビームをガイディングセンサとするΣΣキュムラント行列を推定する。また、ΣΔキュムラント行列推定手段は、AD変換器でデジタル信号に変換されたΣチャネル受信信号およびΔチャネル受信信号に基づいて、ΣビームおよびΔビームをガイディングセンサとするΣΔキュムラント行列を推定する。
そのため、実施の形態1および2に係る測角装置と比べて、受信チャネル系統数が2チャネルになること、および受信信号ベクトルの次元数が2となることにより、VESPAソフトウェアの規模を小さくすることができ、コストをより低減させることができる。
【符号の説明】
【0098】
1 アンテナ、2 受信機、3 AD変換器、4 第1のΣ&Δビーム形成手段、5 第1のΣΣキュムラント行列推定手段、6 第1のΣΔキュムラント行列推定手段、7 第1のモノパルス比推定手段、8 モノパルス測角手段、9 モノパルスディスクリパターン、10 ビーム空間処理手段、11 第2のΣΣキュムラント行列推定手段、12 第2のΣΔキュムラント行列推定手段、13 第2のモノパルス比推定手段、14 第2のΣ&Δビーム形成手段、15 Σチャネル受信機、16 Δチャネル受信機、17 第3のΣΣキュムラント行列推定手段、18 第3のΣΔキュムラント行列推定手段、19 第3のモノパルス比推定手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素子アンテナから構成されるアンテナで到来する目標信号を受信し、この受信信号に基づいて前記目標信号の到来角を測角する測角装置であって、
前記受信信号に基づいてΣビームおよびΔビームを形成するΣ&Δビーム形成手段と、
前記受信信号および前記Σビームに基づいて、前記ΣビームをガイディングセンサとするΣΣキュムラント行列を推定するΣΣキュムラント行列推定手段と、
前記受信信号、前記Σビームおよび前記Δビームに基づいて、前記Σビームおよび前記ΔビームをガイディングセンサとするΣΔキュムラント行列を推定するΣΔキュムラント行列推定手段と、
前記ΣΣキュムラント行列および前記ΣΔキュムラント行列に基づいて、前記目標信号の到来角に応じたモノパルス比を推定するモノパルス比推定手段と、
前記モノパルス比をモノパルスディスクリパターンに参照することにより、前記目標信号の到来角を測角するモノパルス測角手段と、
を備えたことを特徴とする測角装置。
【請求項2】
前記複数の素子アンテナに対応して設けられ、前記アンテナで受信した受信信号をダウンコンバートしてベースバンド帯の受信信号に周波数変換する複数の受信機と、
前記複数の受信機に対応して設けられ、前記複数の受信機からの受信信号をAD変換によりデジタル信号に変換して受信信号ベクトルを生成する複数のAD変換器と、を備え、
前記Σ&Δビーム形成手段は、前記受信信号ベクトルに基づいて前記Σビームおよび前記Δビームを形成し、
前記ΣΣキュムラント行列推定手段は、前記受信信号ベクトルおよび前記Σビームに基づいて、前記ΣΣキュムラント行列を推定し、
前記ΣΔキュムラント行列推定手段は、前記受信信号ベクトル、前記Σビームおよび前記Δビームに基づいて、前記ΣΔキュムラント行列を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の測角装置。
【請求項3】
前記受信信号ベクトルに対してビーム空間処理を実行し、次元数を低減した受信信号ベクトルを生成するビーム空間処理手段をさらに備え、
前記ΣΣキュムラント行列推定手段は、前記ビーム空間処理手段からの受信信号ベクトルおよび前記Σビームに基づいて、前記ΣΣキュムラント行列を推定し、
前記ΣΔキュムラント行列推定手段は、前記ビーム空間処理手段からの受信信号ベクトル、前記Σビームおよび前記Δビームに基づいて、前記ΣΔキュムラント行列を推定する
ことを特徴とする請求項2に記載の測角装置。
【請求項4】
前記Σ&Δビーム形成手段からのΣチャネル受信信号をダウンコンバートしてベースバンド帯のΣチャネル受信信号に周波数変換するΣチャネル受信機と、
前記Σ&Δビーム形成手段からのΔチャネル受信信号をダウンコンバートしてベースバンド帯のΔチャネル受信信号に周波数変換するΔチャネル受信機と、
前記Σチャネル受信機および前記Δチャネル受信機に対応して設けられ、前記ベースバンド帯のΣチャネル受信信号および前記ベースバンド帯のΔチャネル受信信号をAD変換によりデジタル信号に変換する複数のAD変換器と、を備え、
前記Σ&Δビーム形成手段は、前記アンテナで受信した受信信号に基づいて前記Σビームおよび前記Δビームを形成し、それぞれ前記Σチャネル受信信号および前記Δチャネル受信信号として出力し、
前記ΣΣキュムラント行列推定手段は、前記AD変換器からのΣチャネル受信信号およびΔチャネル受信信号に基づいて、前記ΣΣキュムラント行列を推定し、
前記ΣΔキュムラント行列推定手段は、前記AD変換器からのΣチャネル受信信号およびΔチャネル受信信号に基づいて、前記ΣΔキュムラント行列を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の測角装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−22079(P2011−22079A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169112(P2009−169112)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】