説明

測距システム

【課題】 パルス列を構成する各パルス信号の到達時間から距離を算出する測距システムにおいて、より誤差を軽減させた高精度の距離測定を実現する。
【解決手段】
受信したパルス列を構成するパルス信号数をカウントすることにより、パルス信号を生成する発振器につき、発信装置2と返信装置3との間で相対的な時間差を求め、さらに発信装置2から返信装置3までの距離を算出するとともに、算出された相対的な時間差に基づいて上記算出した距離を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
互いに異なる2地点の距離をパルス信号の到着時間差に基づいて測定する測距システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、互いに異なる2地点の距離を測定するいわゆる測距方法として、電波を利用した測距システムが提案されている。
【0003】
この測距システムでは、例えば図8に示すように、F地点からG地点に至るまでの距離lにつき測定を望む場合には、無線局としての送信装置61、受信装置62をそれぞれF地点、G地点に設置する。そして、この送信装置61からパルス信号により構成される電波を発信し、受信装置62によりこの電波を受信する。このとき、送信装置61から発信されたパルス信号が受信装置62により受信されるまでの到達時間Tdを測定する。この測定した到達時間Tdに電波の伝搬速度Vcを乗算することにより距離lを算出することができる。電波の伝搬速度Vcが一定であるため、この到達時間Tdのみを測定することにより、距離lを正確に測定することが可能となる。
【0004】
この伝播時間Tdを測定する方法としては、上記パルス信号の0クロスする時刻を計測する方法や、パルス信号の位相差を識別することにより到達時間Tdを測定する方法に加え、送受信における拡散符号の位相タイミングにより無線機間の距離を測定するスペクトル拡散技術を利用する方法も提案されている。
【0005】
図9は、このスペクトル拡散技術を利用した従来のシステム構成を示している。本システムは、異なる2地点に設置された無線機71から無線機72に至るまでの距離dを測定するものであって、無線機71には、パルス列等で構成される信号を送信する送信部82と、送信部82に接続されるアンテナ83とが実装され、さらに無線機72からの電波を受信するためのアンテナ84と、このアンテナ84に接続される受信部85と、受信部85に接続される相関演算部86と、相関演算部86に接続される相関位置判定部87とがさらに実装され、さらに最終的に距離dを測定する距離測定部88がそれぞれ上記送信部82と相関位置判定部87に接続されて構成されている。また、この送信部82並びに受信部85には、局部発振器81から局部発信信号が供給される。
【0006】
また、無線機72には、無線機71におけるアンテナ83から送信されてきた電波を受信するためのアンテナ91と、このアンテナ91に接続される受信部92と、データを送信する送信部94と、この送信部94に接続されるとともに電波を発信するためのアンテナ95とが実装されている。また、この送信部92並びに受信部94には、局部発振器93から局部発信信号が供給される。
【0007】
この無線機71における信号生成部81において、例えばベースバンドの拡散符号と拡散符号の位相タイミングとで表される信号を生成し、生成した信号は、送信部82で中心周波数flの高周波信号に変換され、アンテナ83を介して無線機72へ送信されることになる。
【0008】
また、無線機72では、アンテナ91を介して受信した高周波の拡散符号を受信部92で増幅し、図示しない周波数変換部で中心周波数f2に変換した後、無線機71へ送信すべき信号を作り出し、これを送信部94を介して無線機71へ返信する。この無線機71では、アンテナ84および受信部85を介して再送信された拡散符号を受信し、高周波の拡散符号を直交検波によりベースバンドに変換する。更に、相関演算部86において、拡散符号の自己相関演算を行い、相関位置判定部87にて、自己相関ピーク位置をもとに、受信した拡散符号の位相タイミングを検出する。距離測定部88では、送信した拡散符号の位相タイミングと受信した拡散符号の位相タイミングの差T1を検出し、無線機71、72間の距離dを算出する。即ち、この図9に示すシステム構成は、無線機71、無線機72との間で信号を往復させ、得られた時間差を2で割ることにより距離dを算出する、いわゆるTWR(Two Way Ranging)方式の測距を行うことになる。
【0009】
ところで、送受信すべき信号を送り出す送信部82、94は、時を正確に刻むための発振器により構成された局部発振器81、93より局部発振信号が作り出され、これを加算することによりパルス列を作り出している。このため、理想的には局部発振器81と局部発振器93が刻む時間が同一であることが望ましいが、実際には、ppm単位(100万分の1単位)でズレが生じていることが多い。
【0010】
図10は、この局部発振器81のオフセットA(ppm)と、局部発振器93のオフセットB(ppm)に対する測距誤差の関係を示している。
【0011】
この図10に示すように、局部発振器81と局部発振器93との間における相対的な時間差が10ppm程度存在する場合には、実際の距離に対して、測定距離は、3mもの誤差が生じてしまう。
【0012】
このような測距誤差を解消するための技術も従来において提案されている(例えば、非特許文献1〜3参照。)。
【非特許文献1】V. Brethour, “Two Way Ranging using tracking information to manage crystal offset,” IEEE 802.15 WPAN documents, 15-05-0336-r00
【非特許文献2】R. Hach, “Symmetric double side- Two Way Ranging,” IEEE 802.15 WPAN documents, 15-05-0334-r00
【非特許文献3】R. Roberts, “Ranging subcommittee final report,” IEEE 802.15 WPAN documents, 15-04-0581-r07
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、これら非特許文献1において開示される従来技術は、図9でいう無線機72のように受信信号を返信するデバイスが、局部発振器を持たない、いわゆる非コヒーレントなデバイスである場合には、これに適用することができず、汎用性が低いという問題点があった。一般に非コヒーレントなデバイスは、コヒーレントなものよりも安価であるため、システム全体のコストを削減するためには、極力、非コヒーレントなデバイスをも適用可能なシステムとする必要があった。
【0014】
また、非特許文献2において開示される従来技術は、少なくとも3回のパケット変換処理が必要となることからシステム構成が煩雑化し、その分多くの帯域や電力が必要になるという問題点がある。
【0015】
さらに、非特許文献3において開示されている従来技術では、少なくとも4回のパケット変換処理が必要となることから、非特許文献3の開示技術よりもさらに多くの帯域や電力が必要となるという問題点があった。
【0016】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、いわゆるTWR方式の測距システムにおいて、できるだけ少ない帯域、電力で測距誤差を1万分の1オーダまで小さくすることが可能な測距システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る測距システムは、上述した課題を解決するために、互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を電波として発信する発信手段と、返信されてきた上記パルス列を受信する受信手段とを有する発信装置と、上記発信装置から発信された電波としてのパルス列を受信し、上記発信装置に対してこれを返信する返信手段と、上記パルス列を受信してから上記パルス列を返信するまでの返信遅れ時間を演算する演算手段と、上記演算手段により演算された返信遅れ時間を上記発信装置へ通知する通知手段とを有する返信装置とを備え、上記受信手段を介して受信した上記パルス列を構成するパルス信号数をカウントすることにより、上記パルス信号を生成する発振器につき、当該発信装置と上記返信装置との間で相対的な時間差を求める相対時間差算出手段と、上記パルス列を構成する一のパルス信号が上記発信手段により発信されてから上記受信手段により受信されるまでの到達時間を求め、上記通知手段から通知されてきた返信遅れ時間と上記求めた到達時間とに基づいて上記返信装置からの距離を算出するとともに、上記相対時間差算出手段により算出された相対的な時間差に基づいて上記算出した距離を補正する距離算出手段とをさらに有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る測距システムは、いわゆるTWR方式の測距システムにおいて、できるだけ少ない帯域、電力で測距誤差を1万分の1オーダまで小さくすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、2地点間の距離をいわゆるTWR(Two Way Ranging)方式に基づいて測定する測距システムにつき、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明を適用した測距システム1のシステム構成につき示している。この測距システム1は、A地点からB地点に至るまでの距離Lを測定するシステムであって、A地点に設置された発信装置2と、B地点に設置された返信装置3とを備えている。
【0021】
発信装置2並びに返信装置3は、UWB(Ultra Wide Band)通信技術を利用して互いに電波を送受信することが可能な無線通信機である。このUWB通信では、1ナノ秒という非常に短い時間幅のパルス信号を利用し、そのパルス信号の時間軸上の位置や位相を変化させることで搬送波を用いることなく情報を伝送する。1ナノ秒以下という非常に短い時間幅のパルス信号を用いることから、UWB通信用の信号が占有する信号帯域は数GHzと非常に広くなるが、搬送波を用いた変調処理そのものが不要となり、スペクトル電力密度を低減させることができる。このため、これをノイズの信号レベル以下まで抑えることができることから、他の通信システムや各種機器による影響を受けることもなくなり、高いデータ伝送特性が実現されることになる。
【0022】
また、このUWB通信では、また、電波を送出する搬送波を用いた通信方式とは異なり、きわめて短いパルスを送出するだけで通信を実現することが可能となることから、消費電力を非常に小さくすることができ、パルス信号の送出間隔を短くすることで非常に高速な通信を実現することも可能となる。
【0023】
実際にこの測距システム1において、距離Lを測定する場合には、発信装置2は、先ず図2に示すようなパケットP11を送信する。この送信されたパケットP11は、時間Δ後に返信装置3により受信される。返信装置3は、このパケット11を受信してから返信遅れ時間Trd後に返信用のパケットP12を発信装置2へ返信する。パケットP12は、時間Δ後に発信装置2により受信される。発信装置2は、この受信したパケットP12に基づいて距離Lを算出していくことになる。
【0024】
ここでパケットP11における一のパルス信号の発信装置2からの発信時をT1とし、パケットP11における上記一のパルス信号の返信装置3による受信時をT2とし、上記一のパルス信号に対応するパケットP12における一のパルス信号の上記返信装置3からの発信時をT3とし、パケットP12における上記一のパルス信号の発信装置2による受信時をT4とする。ちなみに、これら発信時、受信時は、それぞれプリアンブルの末端のパルス信号についてである。
【0025】
ここでΔは以下の式(1)で表される。
Δ={(T2−T1)+(T4−T3)}/2
={(T4−T1)−(T3−T2)}/2・・・・・・・・・・・(1)
【0026】
即ち、この(1)式でいうT4−T1は、発信装置2が上記一のパルス信号を送信してから受信するまでの時間Ttaであり、発信装置2側において計測することができる時間である。また、T3−T2は、返信遅れ時間Trdに相当する。即ち、このΔは、(Tta−Trd)/2で表されることになる。
【0027】
しかしながら、この(1)式は、発信装置2、返信装置3に対してそれぞれ実装されている発振器間で発振時間の相対的なズレが無い場合において成立する式である。この発振器における発信時間は、温度や負荷抵抗等により揺らぐ場合がある。即ち、発信装置2と返信装置3との間における各発振器の相対的な時間差を無くすため、本発明を適用した測距システム1における発信装置2では以下に説明するような構成を新たに設けている。
【0028】
図3は、この発信装置2の詳細なブロック構成を示している。
【0029】
発信装置2は、UWB通信に基づくパルス信号を生成するパルス生成部21と、このパルス生成部21に接続されてなるとともに、パルス生成部21により生成されたパルス信号が送られてくるパルスシェーピング部22と、パルスシェーピング部22から出力されるパルス信号につき後述する基準信号に基づいて周波数変換を施すためのミキサ回路24と、生成した基準信号を上記ミキサ回路24に対して供給するための局部発信器23と、ミキサ回路24において周波数変換された信号につき通過帯域を制限するためのフィルタ25と、このフィルタ25に接続されたアンプ26と、少なくともアンプ26に接続された切替回路51と、この切替回路51に接続されたアンテナ27とを備えている。
【0030】
また、この発信装置2は、UWB通信に基づくパルス信号を受信装置2から受信した信号が、アンテナ27、切替回路51を介して送られてくるフィルタ32と、フィルタ32から出力されたパルス列につき、高周波信号処理を施す低雑音増幅器(LNA)33と、このLNA33に接続されてなるミキサ回路52と、コヒーレント信号を処理する復調回路41と、非コヒーレントを処理するための自乗回路42と、これら復調回路41、自乗回路42に接続されるローパスフィルタ(LPF)43と、アナログ−デジタル変換器(ADC)44と、逆拡散回路45とを備え、さらにこの逆拡散回路は、距離算出部212に接続されている。
【0031】
パルス生成部21は、UWB方式に基づき、数GHzにもわたる広帯域にわたって短い時間幅のパルス信号を生成する。実際にこのパルス信号を生成する場合において、パルス生成部21は、互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成していくことになる。このパルス生成部21により生成されたパルス列は、そのままパルスシェーピング部22へと送信されることになる。
【0032】
パルスシェーピング部22は、パルス生成部21から送信されてきた拡散系列のパルス列を構成する各パルス信号につき所定のシェーピング処理を施す。
【0033】
局部発振器23は、変調用の基準信号を生成する。この局部発振器23によって生成される基準信号の局部発振周波数は、この局部発信器23内において可変となるように構成されていてもよい。また、この局部発信器23は、発生すべき局部発振周波数につき、図示しないPLL回路等に基づいて増強され、減衰されるように制御可能とされていてもよい。
【0034】
また、この局部発振器23は、ベースバンドの基準信号としての同相信号(I信号)及び直交信号(Q信号)を生成する。この局部発振器23は、生成したI信号をミキサ回路52へ出力する。
【0035】
ミキサ回路24は、パルスシェーピング部22においてシェーピング処理が施されたパルス列を構成する各パルス信号を、局部発信器23により送出されてきた基準信号に基づいて周波数変換する。このミキサ回路24は、この周波数変換されたパルス信号からなるパルス列につき、フィルタ25へ出力する。
【0036】
フィルタ25は、ミキサ回路24から出力されてきたUWB方式に基づくパルス列につき、所望の帯域のみ通過させるととともに、不要な帯域をカットする。このときフィルタ25は、ミキサ回路24における周波数変換時において発生した不要な周波数成分を除去することができるように通過帯域が設定されていてもよい。このフィルタ25を通過した帯域成分からなるパルス列は、そのままアンプ26へと出力されることになる。
【0037】
アンプ26は、このフィルタ25から出力されてきたパルス列を増幅し、さらに帯域内で周波数特性がフラットになるように補正する。
【0038】
切替回路51は、返信装置3に対して送信すべき信号のアンテナ27への出力と、返信装置3から送られてきた信号のフィルタ32への出力を切り替える。
【0039】
アンテナ27は、アンプ26により増幅された電気信号としてのパルス信号より構成されるパルス列につき、電磁的な電波としてのパルス列に変換し、これを空中に放射する。アンテナ27は、返信装置2から返信されてきた電波としてのパルス列を受信し、これを電気的なパルス信号からなるパルス列に変換する。なお、この発信装置2において、このアンテナ27から電波としてのパルス列を放射する際の時刻をカウントする機能、並びにアンテナ27によりパルス列を受信する際の時刻をカウントする機能は予め実装されているものとする。
【0040】
フィルタ32は、アンテナ27により受信したパルス列につきUWB帯域外の信号を除去する。即ち、発信装置2から返信装置3へ電波が送られる過程において、UWB帯域外の信号が重畳される場合もあることから、かかる信号をこのフィルタ32において精度よく除去する。
【0041】
LNA33は、アンテナ27により受信され、フィルタ32を介して送られてきたパルス列につき、低雑音増幅する。UWB方式に基づくパルス信号は、ノイズの信号レベル以下の微弱なものであるため、これを通常のアンプで増幅してもノイズとUWB信号とを見分けることができなくなる。このため、LNA33を実装することにより、UWB方式に基づく所望のパルス信号のみを選択的に増幅させることで、ノイズの影響を除去したパルス列を得ることが可能となる。LNA33により低雑音増幅されたパルス列は、接続されたミキサ回路52に供給されることになる。
【0042】
ミキサ回路52は、LNA33から送信されてきたパルス列を構成する各パルス信号と、局部発振器23より出力されてきたI信号、Q信号とをミキシングして、これを復調部41へと出力する。ちなみに、非コヒーレント信号としてのパルス列が供給されてきた場合に、かかるパルス列は、自乗回路42へ送られて自乗処理が施されることになる。
【0043】
復調部41は、コヒーレント信号としてのパルス列をI信号、Q信号に基づいて復調する。
【0044】
LPF43は、コヒーレント信号、又は非コヒーレント信号としてのUWB方式のパルス列につき、高周波成分を除去するとともに、低周波成分のみを通過させる。
【0045】
ADC44は、LPF43から送出されてきたアナログベースバンドのパルス信号をサンプリングしてデジタル信号化し、このデジタル化されたパルス列を逆拡散回路45へと送信する。
【0046】
逆拡散回路45は、入力されてきたパルス信号につき、所定のコードの波形をテンプレートとして、逆拡散処理を施す。この逆拡散処理が施された信号は、距離算出部212へと送られる。
【0047】
図4は、この距離算出部212におけるアルゴリズムの手順を示すブロック構成を示している。
【0048】
距離算出ブロック212は、エッジ検出ブロック46と、パルス検出ブロック49につながる。エッジ検出ブロック46に連結されるカウンタ48とこのカウンタ48に接続される開始制御ブロック47とにより、距離Lを算出するための測距カウンタが構成され、またパルス検出部49とこれにつながるカウンタ50とにより誤差検出カウンタが構成されている。ちなみに各カウンタ48、50は距離算出ブロック53と時計51とに繋がることになる。
【0049】
開始制御ブロック47並びにエッジ検出ブロック46は、パルス列におけるいわゆるプリアンブルを構成する部分についてパルス信号を検出する。図4は、この開始制御ブロック47並びにエッジ検出ブロック46により検出されるパルス列のフレーム構成を示している。開始制御ブロック47により、このフレームの先頭に位置するパルス信号から検出が開始される。そして、エッジ検出ブロック46による制御の下、このパルス信号の検出を終了する。ちなみに、この開始制御ブロック47は、同期が取られた後の最初のパルス信号から検出を開始することとし、実際には、スタートコマンドによってカウントが可能となる。また、エッジ検出ブロック46は、返信装置2においてパルス信号に付加されたエッジ部分を識別したときに、このパルス信号の検出を終了する。即ち、このエッジ検出ブロック46は、図5に示すCr0の領域を構成するパルス信号を検出していくことになる。カウンタ48は、検出されたパルス信号をカウントすることにより、図2におけるT4を求める。このカウンタ48は、高レートのGHzまでの精度を持つ時計51により制御されることとなる。このカウンタ48によるパルス信号の到達時間の検出結果は、距離算出ブロック53へと通知される。
【0050】
パルス検出ブロック49は、パルス列におけるいわゆるプリアンブルを構成する部分について、図5に示す領域Cr1を構成するパルス信号を検出する。このパルス検出ブロック49は、同期が取られた後の最初のパルス信号から検出を開始し、プリアンブルの後に続く実データ領域に至るまでパルス信号の検出を継続する。カウンタ50は、このパルス検出ブロック49により検出されたパルス信号の数を検出する。このプリアンブルを構成するパルス列は、実データ部とは異なり、パルス信号を規則的に並べた領域である。このため、このプリアンブルを構成するパルス列のパルス数をカウントすることにより、実際にパルス列を作り出す局部発振器23につき、発信装置2と返信装置3との間で相対的な時間差を求めることができる。以下、パルス信号を生成する局部発信器23につき、発信装置2と返信装置3との間の相対的な時間差を相対時間差という。
【0051】
距離算出ブロック53は、上記(1)式に基づいてΔを算出し、これから実際の距離Lを算出する。このとき、距離算出ブロック53は、カウンタ50から送られてくる相対時間差に基づいてこの距離Lを補正する。
【0052】
なお、上述した例においては、あくまで発信装置2を例に挙げて説明をしたが、返信装置3についても、この図3、4の構成を適用するようにしてもよい。
【0053】
図6は、本発明を適用した測距システム1の動作フローを示している。
【0054】
先ず、ステップS11において、発信装置2からパルス列を送信する。ステップS12において返信装置3はこのパルス列を受け、更にステップS13において、今度は、返信装置3から発信装置2へとパルス列を返信する。このとき、返信装置3は、返信遅れ時間TrdをステップS14において求める。
【0055】
発信装置2は、返信装置3から返信されてきたパルス列をステップS15において受け、測距カウンタにより時間Tta(=T4−T1)を測定する。また、ステップS16において返信装置3から送信されてきた返信遅れ時間Trdを取得する。そしてステップS17において(1)式に基づいてΔを算出する。また発信装置2は、ステップS18において、誤差検出カウンタを介して、パルス信号を生成する局部発信器23の相対時間差を求める。そして、距離算出ブロック53において、求めた相対時間差を縮小する方向で、上記算出したΔに補正をかける(ステップS19)。ちなみに、ステップS20において、発信装置2は、返信装置3からの要求に基づいて、この補正したΔを返信装置3へ送信するようにしてもよい。
【0056】
ここで、発信装置2における局部発振器23のオフセット量をδrとし、返信装置3における局部発振器23のオフセット量をδtとする。
【0057】
返信装置3側のオフセット量δtが存在する場合に、パルス信号を構成するパケットの測定時間T´は、オフセット量δtが存在しない場合の測定時間Tに対して以下の(2)式のように表すことができる。


【0058】
更に、発信装置2においてオフセット量がδtであるとき、発振装置2は、以下の(3)式により、測定時間Tを表すことができる。


【0059】
ここで、δr,δt<<1であるとき、(3)式をテイラー展開することにより、以下の(4)式を得ることができる。

【0060】
高次数の項を無視したとき、発信装置2と返信装置3における相対的なオフセット量は、以下の(5)式に近似させることができる。


【0061】
また、時間Ttaは、以下の(6)式で与えられる。

【0062】
算出したΔtを補正したΔは、以下の(7)式で表すことができる。


【0063】
この(7)式は、発振器間の絶対的なオフセット量の値と、Trdと、相対的なオフセット量の差に支配されることが分かる。
【0064】
この(7)式で表されるΔに基づいて、距離Lを算出することにより、発信装置2側の発振器と、返信装置3側の発振器との時間的なズレ(オフセット量の差)を解消することが可能となる。
【0065】
このように本発明を適用した測距システム1は、受信したパルス列を構成するパルス信号数をカウントすることにより、パルス信号を生成する発振器につき、発信装置2と返信装置3との間で相対的な時間差を求め、この相対的な時間差に基づいて算出した距離を補正する。これにより、発信装置2側の発振器と、返信装置3側の発振器との時間的なズレ(オフセット量の差)を解消することが可能となり、できるだけ少ない帯域、電力で測距誤差を1万分の1オーダまで小さくすることが可能となる。
【0066】
図7は、発信装置2と返信装置3における相対的な時間差(オフセットC)を横軸に、測距誤差を縦軸に示している。従来技術と比較して測距誤差を1万分の1オーダまで小さくすることができることがこのシミュレーションの結果から裏付けられることがわかる。
【0067】
なお、上述した例においては、あくまでUWB方式に基づいて通信する場合を例にとり説明をしたが、かかる構成に限定されるものではなく、他の通信方式に基づいて測距を行う場合においても適用可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明を適用した測距システムの構成図である。
【図2】本発明を適用した測距システムの測距原理について説明するための図である。
【図3】本発明を適用した測距システムを構成する発信装置のブロック構成図である。
【図4】距離算出部におけるアルゴリズムの手順を示すブロック構成を示す図である。
【図5】送受信するパルス列の例を示す図である。
【図6】本発明を適用した測距システムにおける測距方法について説明するためのフローチャートである。
【図7】本発明の効果について説明するための図である。
【図8】従来例につき説明するための図である。
【図9】従来における測距システムにつき示すブロック構成図である。
【図10】従来における測距方法の問題点について説明するための図である。
【符号の説明】
【0069】
1 測距システム
2 発信装置
3 返信装置
21 パルス生成部
22 パルスシェーピング部
23 局部発信器
24 ミキサ回路
25 フィルタ
26 アンプ
51 切替回路
27 アンテナ
32 フィルタ
33 低雑音増幅器(LNA)
52 ミキサ回路
41 復調回路
42 自乗回路
43 ローパスフィルタ(LPF)43
44 アナログ−デジタル変換器(ADC)44
45 逆拡散回路
46 エッジ検出ブロック
47 開始制御ブロック
48 カウンタ
49 パルス検出ブロック
50 カウンタ
51 時計
53 距離算出ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を電波として発信する発信手段と、返信されてきた上記パルス列を受信する受信手段とを有する発信装置と、
上記発信装置から発信された電波としてのパルス列を受信し、上記発信装置に対してこれを返信する返信手段と、上記パルス列を受信してから上記パルス列を返信するまでの返信遅れ時間を演算する演算手段と、上記演算手段により演算された返信遅れ時間を上記発信装置へ通知する通知手段とを有する返信装置とを備え、
上記受信手段を介して受信した上記パルス列を構成するパルス信号数をカウントすることにより、上記パルス信号を生成する発振器につき、当該発信装置と上記返信装置との間で相対的な時間差を求める相対時間差算出手段と、
上記パルス列を構成する一のパルス信号が上記発信手段により発信されてから上記受信手段により受信されるまでの到達時間を求め、上記通知手段から通知されてきた返信遅れ時間と上記求めた到達時間とに基づいて上記返信装置からの距離を算出するとともに、上記相対時間差算出手段により算出された相対的な時間差に基づいて上記算出した距離を補正する距離算出手段とをさらに有すること
を特徴とする測距システム。
【請求項2】
上記発信手段は、UWB(Ultra Wide Band)通信方式に基づくパルス列を発信すること
を特徴とする請求項1記載の測距システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−212420(P2007−212420A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35724(P2006−35724)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】