説明

測距装置、及び測距方法

【課題】 測距精度を向上することができる測距装置及び測距方法を提供する。
【解決手段】 所定の周期でパルスを有する無線信号を送信する送信部2と、送信部2から送信された直接波8及び対象物により反射された反射波9を受信する受信部3と、受信部3で直接波8が受信されてから反射波9が受信されるまでの時間である到達時間差を計時する時間差取得部46と、時間差取得部46により計時された到達時間差に基づいて、測距装置1から測距対象物10までの距離を算出する距離算出部47とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウルトラワイドバンド(UWB)無線信号を用いた測距装置に関する。そして、このような測距装置に利用される測距方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速無線伝送方式の一つとして、所定の周期タイミングに同期したパルス信号からなるパルス信号列を用いて超広帯域な通信を行うウルトラワイドバンド(UWB:Ultra Wide Band)通信方式が注目されている。UWB通信の一態様として、搬送波を用いず、例えばパルス幅が1nsec以下等の極めて細かいパルス信号からなるパルス信号列を用いて通信を行うものが知られている。そして、このようなUWB通信のパルス信号列をレーダーパルスとして用いることにより、対象物までの距離を測定する測距装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このような測距装置は、UWBの無線信号パルスを送信装置から測距対象となる対象物へ送信し、対象物から反射してきたUWBパルスを受信し、その送信から受信までに掛かった時間を計時することにより、無線信号が測距装置と対象物との間を往復する時間を測定し、この往復時間に基づいて測距装置から対象物までの距離を算出するようになっている。
【特許文献1】特表平8−511341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような測距装置では、UWBパルスを送信してから時間の計時を開始しても、送信されるUWBパルス信号は、アンプやフィルタ等の送信回路を経由してアンテナへ出力され、アンテナから対象物へ放射されるため、測定される無線信号の往復時間にはこのような送信回路の遅延時間が含まれることとなり、無線信号の往復時間の測定精度が低下する結果、測距精度が低下するという不都合があった。特に、建物の壁裏に存在する配管や鉄筋を検知するために用いられる壁裏センサとして測距装置を用いる場合には、測距精度として例えば1mm〜10cm程度の分解能が必要となるため、測距装置における測距精度向上のニーズは大きい。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みて為された発明であり、測距精度を向上することができる測距装置を提供することを目的とする。そして、このような測距装置に利用される測距方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、本発明の第1の手段に係る測距装置は、所定の対象物との間の距離を測定する測距装置であって、所定の周期でパルスを有する無線信号を送信する送信部と、前記送信部から送信された無線信号及び前記無線信号が前記対象物により反射された反射信号を受信する受信部と、前記受信部で前記無線信号が受信されてから前記反射信号が受信されるまでの時間である到達時間差を計時する計時部と、前記計時部により計時された到達時間差に基づいて、前記距離を算出する距離算出部とを備えることを特徴としている。
【0007】
また、上述の測距装置において、前記計時部は、前記パルスの時間幅より短い時間で前記受信部により受信された信号をサンプリングするサンプリング部と、前記サンプリング部によりサンプリングされたサンプリング値における、前記無線信号を示すタイミングと前記反射信号を示すタイミングとの差を、前記到達時間差として取得する時間差取得部とを備えることを特徴としている。
【0008】
また、上述の測距装置において、前記計時部は、前記パルスの時間幅より短い時間である差分時間だけ前記パルスの周期と異なるサンプリング周期で前記受信部により受信された信号をサンプリングするサンプリング部と、前記サンプリング部によりサンプリングされたサンプリング値における前記無線信号を示すタイミングと前記反射信号を示すタイミングとの差に基づいて、前記到達時間差を算出する時間差取得部とを備えることを特徴としている。
【0009】
また、上述の測距装置において、前記差分時間の設定を受け付ける差分時間設定部をさらに備えることを特徴としている。
【0010】
また、上述の測距装置において、前記計時部は、前記サンプリング部によりサンプリングされたサンプリング値を、時系列順に連続する予め設定された個数毎に評価して評価値を生成する評価部をさらに備え、前記時間差取得部は、前記サンプリング値の代わりに前記評価部により生成された評価値を用いることを特徴としている。
【0011】
また、上述の測距装置において、前記評価部は、前記サンプリング値を、時系列順に連続する前記個数毎に平均することにより評価値を生成することを特徴としている。
【0012】
また、上述の測距装置において、前記評価部は、前記サンプリング値を、時系列順に連続する前記個数毎に積算することにより評価値を生成することを特徴としている。
【0013】
また、上述の測距装置において、前記評価部は、前記サンプリング値を時系列順に連続する前記個数毎に積分する積分器を備え、前記積分器の積分値を前記評価値として用いることを特徴としている。
【0014】
また、上述の測距装置において、前記評価部は、前記サンプリング値をデジタル値に変換するAD変換回路と、前記AD変換回路により生成されたデジタル値を積算する積算回路とを備え、前記積算回路の積算値を前記評価値として用いることを特徴としている。
【0015】
また、上述の測距装置において、前記個数の設定を受け付ける個数設定部をさらに備えることを特徴としている。
【0016】
そして、本発明の第2の手段に係る測距方法は、所定の対象物との間の距離を測定する測距方法であって、所定の周期でパルスを有する無線信号を送信する工程と、前記送信された無線信号及び前記無線信号が前記対象物により反射された反射信号を受信する工程と、前記無線信号が受信されてから前記反射信号が受信されるまでの時間である到達時間差を計時する工程と、前記計時された到達時間差に基づいて、前記距離を算出する工程とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
このような構成の測距装置及び測距方法は、所定の周期でパルスを有する無線信号が送信され、送信された無線信号及び対象物により反射された反射信号が受信され、その無線信号が受信されてから反射信号が受信されるまでの時間である到達時間差が計時され、計時された到達時間差に基づいて所定の対象物との間の距離が算出されるので、到達時間差には、無線信号を送信する送信回路における遅延時間が含まれない結果、測距精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る測距装置の構成の一例を示すブロック図である。図1に示す測距装置1は、送信部2、受信部3、信号処理部4、送信アンテナ5、受信アンテナ6、及び表示部7を備えている。送信部2は、所定の周期でパルスを有する信号を送信アンテナ5へ供給し、送信アンテナ5からUWB無線信号を放射させる回路部で、発振回路21、タイミング制御回路22、パルス制御回路23、パルス駆動回路24、短パルス生成回路25、及びバンドパスフィルタ(帯域通過フィルタ)26を備える。
【0020】
受信部3は、送信アンテナ5から放射されたUWB無線信号の直接波8及び無線信号が測距対象物10により反射された反射波9(反射信号)を受信する回路部で、発振回路31、タイミング制御回路32、パルス制御回路33、パルス駆動回路34、短パルス生成回路35、フィルタ36、高周波増幅回路37、及びミキサ38を備える。
【0021】
信号処理部4は、受信部3で直接波8が受信されてから反射波9が受信されるまでの時間である到達時間差を計時し、その到達時間差に基づいて、測距装置1から測距対象物10までの距離を算出する回路部で、フィルタ41、平均処理部42(評価部)、個数設定部43、積分回路44、AD変換回路45、時間差取得部46、及び距離算出部47を備える。この場合、平均処理部42、積分回路44、AD変換回路45、及び時間差取得部46が計時部の一例に相当している。
【0022】
表示部7は、例えば液晶表示装置を用いて構成されており、信号処理部4によって得られた測距対象物10までの距離を表示する。
【0023】
発振回路21は、送信パルスのパルス周期Tcycで送信用クロック信号CLKをタイミング制御回路22へ出力する。タイミング制御回路22は、発振回路21からの送信用クロック信号CLKに基づいて、パルスの発生タイミングを制御するタイミング信号をパルス制御回路23へ出力する。パルス制御回路23は、パルス駆動回路24及び短パルス生成回路25にパルスを生成させるための制御信号を出力し、例えば予め設定された数のパルスをパルス駆動回路24及び短パルス生成回路25に生成させる。パルス駆動回路24は、パルス制御回路23からの制御信号を電流増幅して短パルス生成回路25へ出力する。
【0024】
短パルス生成回路25は、例えばステップリカバリダイオード(SRD)等を用いて構成され、パルス駆動回路24から出力された制御信号に応じてUWB無線信号用のパルス幅が1nsec以下の短パルス、例えばパルス幅が10psec〜900psecの短パルス信号を生成する。バンドパスフィルタ26は、短パルス生成回路25から出力された信号を波形整形してパルス信号Aとして送信アンテナ5へ出力する。送信アンテナ5は、バンドパスフィルタ26から出力されたパルス信号Aに応じてUWB無線信号を外部に放射する。
【0025】
発振回路31、タイミング制御回路32、パルス制御回路33、パルス駆動回路34、短パルス生成回路35、及びフィルタ36は、発振回路21、タイミング制御回路22、パルス制御回路23、パルス駆動回路24、短パルス生成回路25、及びバンドパスフィルタ26とそれぞれ略同様に構成されており、フィルタ36からパルス信号Aと略同等にされたパルス信号Bがミキサ38の一方の入力端子へ出力される。
【0026】
また、発振回路31は、受信信号をサンプリングするサンプリング周期Tsの周期を示すサンプリング用クロック信号CLKSをタイミング制御回路32へ出力する。さらに、タイミング制御回路32は、発振回路31から出力されたサンプリング用クロック信号CLKSに応じて、受信信号をサンプリングするタイミングを示すサンプリング信号SSを平均処理部42へ出力すると共に積分回路44、及び変換回路45の動作タイミングを示す制御信号を出力する。
【0027】
受信アンテナ6は、直接波8及び反射波9を受信して、その受信信号Cを高周波増幅回路37へ出力する。高周波増幅回路37は、受信信号Cを増幅してミキサ38の他方の入力端子へ出力する。ミキサ38の出力信号は受信信号Dとして、フィルタ41を介して平均処理部42へ出力される。
【0028】
個数設定部43は、平均処理部42に平均処理を行わせるサンプリング値の個数の設定を受け付ける設定スイッチで、例えば1又は複数のディップスイッチや多接点スイッチの一例であるロータリスイッチ等が用いられる。
【0029】
平均処理部42(サンプリング部)は、タイミング制御回路32から出力されるサンプリング信号SSに応じてフィルタ41の出力信号をサンプリングし、時系列順に連続するサンプリング値を個数設定部43により設定された個数毎に平均し、その平均値を示す電圧を積分回路44へ出力する。
【0030】
この場合、パルス幅が10psec〜900psecのUWB短パルス信号を高分解能で受信するため、タイミング制御回路32によって、平均処理部42での平均値の算出周期である平均算出周期Taが例えば1psec〜90psecとなるように、サンプリング信号SSの周期、すなわちサンプリング周期Tsが設定されている。例えば、平均処理部42による平均処理の個数がM個であれば、Ts=Ta/Mとなる。そして、平均算出周期Taを1psecとすれば、空気中での距離分解能は、時間と光速とを積算し、1(psec)×3×10(m/sec)/2=150(μm)となる。同様に、平均算出周期Taが10psecであれば、空気中での距離分解能は、3mmとなる。
【0031】
積分回路44は、平均処理部42から出力されたサンプリング値の平均値を示す電圧を、平均算出周期Taと同期して一時的に保持し、AD変換回路45へ出力する。AD変換回路45は、積分回路44により保持されたサンプリング値の平均値を示す電圧を、平均算出周期Taと同期してデジタル値に変換し、平均値データEとして時間差取得部46へ出力する。
【0032】
時間差取得部46及び距離算出部47は、例えば所定の演算処理を実行するCPU(Central Processing Unit)と、所定の制御プログラムが記憶されたROM(Read Only Memory)と、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)と、その周辺回路等とを備えて構成され、ROMに記憶された制御プログラムを実行することにより、時間差取得部46及び距離算出部47として機能する。
【0033】
時間差取得部46は、AD変換回路45から出力されたサンプリング値の平均値(評価値)に基づいて、直接波8を示すタイミングと反射波9を示すタイミングとの差を到達時間差として取得する。距離算出部47は、時間差取得部46により取得された到達時間差に基づいて、測距装置1から測距対象物10までの距離Lを算出し、その距離Lを表示部7に表示させる。
【0034】
次に、上述のように構成された測距装置1の動作について説明する。図2は、測距装置1の動作を説明するための信号波形図である。まず、送信部2によって、短パルス信号P1が予め設定された所定の周期、例えば50nsec周期で生成され、パルス信号Aとして送信アンテナ5へ出力される。そして、送信アンテナ5によって、パルス信号AがUWB無線信号として放射される。
【0035】
そうすると、送信アンテナ5から放射されたUWB無線信号の一部は、直接受信アンテナ6に到達し、受信アンテナ6によって直接波8として受信される。また、送信アンテナ5から放射されたUWB無線信号の他の一部は、測距対象物10に到達して反射され、受信アンテナ6によって反射波9として受信される。
【0036】
そして、受信アンテナ6によって受信された直接波8及び反射波9は受信信号Cとして受信部3へ出力され、受信部3で増幅、混合された後に受信信号Dとして信号処理部4へ出力され、さらに受信信号Dは、フィルタ41を介して平均処理部42へ出力される。
【0037】
そして、受信信号Dは、平均処理部42によって、タイミング制御回路32からのサンプリング信号SSに応じてサンプリングされる。図2において、受信信号Dにおける白丸は、平均処理部42によるサンプリング点を示しており、サンプリング点における受信信号Dの信号レベルが平均処理部42によってサンプリング値として取得される。さらに、平均処理部42によって、個数設定部43により設定された個数M毎に、時系列順に連続するサンプリング値が平均され、その平均値を示す電圧が積分回路44へ出力される。
【0038】
図2は、個数設定部43に「5」が設定されている場合の例を示しており、平均処理部42によって、時系列順に連続する5つのサンプリング値が平均され、その平均値を示す電圧が積分回路44へ出力される。
【0039】
そして、平均処理部42で得られたサンプリング値の平均値を示す電圧が、積分回路44によって平均算出周期Taと同期して一時的に保持されると共にAD変換回路45へ出力され、AD変換回路45によって平均算出周期Taと同期してデジタル値に変換され、平均値データEとして時間差取得部46へ出力される。
【0040】
ここで、図2に示すように、受信信号Dは、信号成分に雑音が重なり、雑音等の影響を受けて信号レベルが上下している。一方、平均値データEは、平均処理部42によってM個(5個)のサンプリング値が平均されることにより滑らかな波形となり、雑音成分を低減し、S/N比(信号対ノイズ比)を向上することができる。この場合、例えば、信号成分に重なっている雑音成分がランダム雑音であれば、およそMの平方根だけS/N比が改善されることが知られている。
【0041】
これにより、受信信号DにおけるS/N比を向上し、受信部3によるUWB無線信号の受信の安定性を高め、測距動作の安定性の向上、及び測距精度の向上を図ることができる。
【0042】
次に、時間差取得部46によって、平均値データEにおける、直接波8を示すタイミングと反射波9を示すタイミングとの差が、到達時間差Txとして取得される。具体的には、図2に示すように、平均値データEには、直接波8における短パルス信号P1と、反射波9において、測距装置1と測距対象物10との間を短パルス信号P1が往復することにより遅延した反射波9における短パルス信号P2が含まれている。そして、時間差取得部46によって、平均値データEにおける短パルス信号P1のピークのタイミングが直接波8を示すタイミングT1として取得され、平均値データEにおける短パルス信号P2のピークのタイミングが反射波9を示すタイミングT2として取得され、タイミングT1とタイミングT2との差が到達時間差Txとして算出される。
【0043】
次に、距離算出部47によって、時間差取得部46により算出された到達時間差Txに基づいて、測距装置1と測距対象物10との間の距離Lが算出される。図3は、距離Lの算出方法を説明するための説明図である。図3に示すように、送信アンテナ5の中心と受信アンテナ6の中心との間の距離が2L、送信アンテナ5の中心と測距対象物10との間の距離がL、測距対象物10と受信アンテナ6の中心との間の距離がL、電波の速度がVであれば、測距装置1と測距対象物10との間の距離L、すなわち送信アンテナ5と受信アンテナ6との中央点から測距対象物10までの距離Lは、下記の式(1)によって示される。
【0044】
【数1】

【0045】
そして、距離算出部47によって、式(1)に基づき算出された距離Lが、表示部7によって表示される。
【0046】
これにより、受信アンテナ6によって受信された直接波8及び反射波9におけるタイミングT1とタイミングT2との差が到達時間差Txとして算出され、到達時間差Txに基づいて距離Lが算出されるので、到達時間差Txには、上述の背景技術に係る測距装置のようにアンプやフィルタ等の送信回路の遅延時間が含まれることがなく、従って、到達時間差Txに基づく距離Lの測定精度を向上させることができる。
【0047】
なお、時間差取得部46は、平均処理部42によって、複数のサンプリング値を平均して得られた平均値データEに基づいて到達時間差Txを取得する例を示したが、平均処理部42によるサンプリング値の平均処理を行わず、受信信号Dのサンプリング値をそのまま用いて到達時間差Txを取得するようにしてもよい。
【0048】
また、平均処理部42において、受信信号Dのサンプリングと平均処理とを行う例を示したが、例えば平均処理部42の位置ではサンプリングのみを行い、平均処理は、積分回路44の後段、あるいはAD変換回路45の後段で行うようにしてもよい。
【0049】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る測距方法を用いた測距装置について説明する。図4は、本発明の第2の実施形態に係る測距装置1aの構成の一例を示すブロック図である。図4に示す測距装置1aと図1に示す測距装置1とでは、下記の点で異なる。すなわち、図4に示す測距装置1aは、発振回路21が受信部3aに配置されており、受信部3aは、さらに差分時間設定部39を備えている。また、信号処理部4aは、距離算出部47の代わりに距離算出部47aを備えている。
【0050】
差分時間設定部39は、送信パルスのパルス周期Tcycとサンプリング周期Tsとの差である差分時間Tdの設定を受け付けるもので、例えば1又は複数のディップスイッチや多接点スイッチの一例であるロータリスイッチ等を用いて構成されており、発振回路21から出力される送信用クロック信号CLKの周期を送信パルスのパルス周期Tcycに設定すると共に、発振回路31から出力されるサンプリング用クロック信号CLKSの周期をパルス周期Tcycと差分時間Tdだけ異なる周期、例えばTcyc+Tdに設定することにより、信号処理部4におけるサンプリング周期Tsを送信パルスのパルス周期Tcycと差分時間Tdだけ異ならせる。
【0051】
例えば、差分時間設定部39は、パルス周期Tcycが50nsecであれば発振回路21の発振周波数を20MHzに設定し、差分時間Tdが1.25psecに設定されていれば、発振回路31から出力されるサンプリング用クロック信号CLKSの周期をパルス周期Tcycと1.25psecだけ異なる周期にするべく19.9995MHzに設定する。なお、差分時間設定部39は、サンプリング用クロック信号CLKSの周期を例えばTcyc−Tdに設定するようにしてもよい。
【0052】
距離算出部47aは、距離算出部47とは、式(1)の代わりに後述の式(2)に基づいて距離Lを算出する点で異なる。その他の構成及び動作は図1に示す測距装置1と同様であるのでその説明を省略し、以下本実施形態の特徴的な動作について説明する。
【0053】
図5は、図4に示す測距装置1aの動作を説明するためのタイミングチャートである。図5に示すように、発振回路21から出力される送信用クロック信号CLKの周期に応じて送信部2aによって、短パルス信号P1が予め設定された所定の周期、例えば50nsec周期で生成され、パルス信号Aとして送信アンテナ5へ出力される。そして、送信アンテナ5によって、パルス信号AがUWB無線信号として放射される。
【0054】
そうすると、送信アンテナ5から放射されたUWB無線信号の一部は、直接受信アンテナ6に到達し、受信アンテナ6によって直接波8として受信される。また、送信アンテナ5から放射されたUWB無線信号の他の一部は、測距対象物10に到達して反射され、受信アンテナ6によって反射波9として受信される。
【0055】
そして、受信アンテナ6によって受信された直接波8及び反射波9は受信信号Cとして受信部3へ出力され、受信部3で増幅、混合された後に受信信号Dとして信号処理部4aへ出力され、さらに受信信号Dは、フィルタ41を介して平均処理部42へ出力される。
【0056】
一方、発振回路31から出力されるサンプリング用クロック信号CLKSに応じて、タイミング制御回路32によりサンプリングのタイミングを示すサンプリング信号SSが平均処理部42へ出力され、平均処理部42によって受信信号Dがサンプリングされる。
【0057】
図5において、受信信号Dにおける白丸は、平均処理部42によるサンプリング点を示しており、サンプリング点における受信信号Dの信号レベルが平均処理部42によってサンプリング値として取得される。この場合、サンプリング周期Tsは、差分時間設定部39によって、パルス周期Tcycとは差分時間Tdだけ異なる周期にされており、例えば差分時間Tdが1.25psecに設定されていれば、Ts=50nsec+1.25psec=50.00125nsecにされている。
【0058】
そうすると、平均処理部42によって、パルス周期Tcyc毎に、差分時間Tdづつずれたタイミングでサンプリングが行われ、例えば、パルス幅が100psecのパルスをサンプリングする場合、一つのパルスに付き複数周期に渡って100ps/1.25psec=80点、サンプリングが行われる。これにより、50.00125nsecのサンプリング周期でサンプリングを行いつつ、1.25psecの分解能でパルス波形のサンプリングを行うことができる。
【0059】
そして、図6に示すように、上述の信号処理部4における平均処理と同様に、複数の周期に渡って得られたサンプリング値が、平均処理部42によって、個数設定部43により設定された個数M毎に時系列順に連続するサンプリング値が平均され、その平均値を示す電圧が積分回路44へ出力される。そして、平均処理部42で得られたサンプリング値の平均値を示す電圧が、積分回路44によって平均算出周期Taと同期して一時的に保持されると共にAD変換回路45へ出力され、AD変換回路45によって平均算出周期Taと同期してデジタル値に変換され、平均値データEとして時間差取得部46へ出力される。
【0060】
ここで、図6に示すように、受信信号Dは、信号成分に雑音が重なり、雑音等の影響を受けて信号レベルが上下している。一方、平均値データEは、平均処理部42によってM個(5個)のサンプリング値が平均されることにより滑らかな波形となり、雑音成分を低減し、S/N比(信号対ノイズ比)を向上することができる。これにより、受信信号DにおけるS/N比を向上し、受信部3によるUWB無線信号の受信の安定性を高め、測距動作の安定性の向上、及び測距精度の向上を図ることができる。
【0061】
次に、時間差取得部46によって、平均値データEにおける短パルス信号P1のピークのタイミングが直接波8を示すタイミングT1として取得され、平均値データEにおける短パルス信号P2のピークのタイミングが反射波9を示すタイミングT2として取得され、タイミングT1とタイミングT2との差が到達時間差Txaとして算出される。
【0062】
次に、距離算出部47aによって、時間差取得部46により算出された到達時間差Txaに基づいて、以下の式(2)に基づいて、測距装置1と測距対象物10との間の距離Lが算出される。
【0063】
【数2】

【0064】
そして、距離算出部47aによって、式(2)に基づき算出された距離Lが、表示部7によって表示される。
【0065】
一般に、サンプリングにより信号波形を取得し、その信号波形に基づいて時間を計測する場合、時間計測の分解能はサンプリング周期に等しい。従って、サンプリングにより、1.25psecの時間分解能を得るためにはサンプリング周期が1.25psec、すなわち800GHzのサンプリング周波数でサンプリングを行い、信号処理を行う必要がある。しかし、800GHzのサンプリング周波数で受信信号のサンプリングを行い、信号処理を行うためには、サンプリング等の信号処理を行う信号処理回路を800GHz以上の動作周波数で動作させる必要があり、このような高速動作可能な信号処理回路を実現することは容易ではない。
【0066】
一方、測距装置1aでは、パルス周期Tcycと、要求される時間分解能に等しい差分時間Tdだけ、パルス周期Tcycと周期が異なるサンプリング周期でサンプリングを行うことにより必要な時間分解能が得られるので、例えばパルス周期Tcycが50nsec(20MHz)の受信信号をサンプリング周期50.00125nsec(19.9995MHz)でサンプリングすることにより1.25psecの時間分解能が得られる。すなわち、時間分解能よりも長いサンプリング周期でサンプリングを行うことができるので、信号処理部4aの動作周波数の上昇を抑制しつつ到達時間差Txaの測定における時間分解能を向上させ、到達時間差Txaの計測精度を向上させることができる結果、距離Lの測距精度を向上することが容易となる。
【0067】
また、ユーザは、差分時間設定部39を用いて差分時間Tdを設定することができるので、用途別に測距分解能を設定することができ、測距装置1aの適用範囲を拡げることができる。例えば測距装置1aを壁裏センサとして用いた場合のように、測距装置1aの近くのものを検知する場合で距離分解能が必要な場合は差分時間Tdを小さくして距離分解能を高く設定し、遠方の人や物体を検知するために測距装置1aを用いる場合には、差分時間Tdを大きくして距離分解能を下げるなどといった使い分けが可能となる。
【0068】
なお、差分時間設定部39は、パルス周期Tcyc(送信用クロック信号CLKの周期又は周波数)及びサンプリング周期Ts(サンプリング用クロック信号CLKSの周期又は周波数)のいずれか一方、又は両方を個別に設定可能にされており、ユーザは、パルス周期Tcycと差分時間Tdだけ異なるサンプリング周期Tsを、差分時間設定部39を用いて設定することにより、差分時間Tdを設定するようにしてもよい。
【0069】
また、時間差取得部46は、平均処理部42によって、複数のサンプリング値を平均して得られた平均値データEに基づいて到達時間差Txaを取得する例を示したが、平均処理部42によるサンプリング値の平均処理を行わず、受信信号Dのサンプリング値をそのまま用いて到達時間差Txaを取得するようにしてもよい。
【0070】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る測距方法を用いた測距装置について説明する。図7は、本発明の第3の実施形態に係る測距装置1bの構成の一例を示すブロック図である。図7に示す測距装置1bと図4に示す測距装置1aとでは、下記の点で異なる。すなわち、図7に示す測距装置1bは、平均処理部42、積分回路44、及び個数設定部43の代わりに積分回路48(サンプリング部、評価部)及び積分動作制御部49を備えている。
【0071】
積分動作制御部49は、タイミング制御回路32から出力されたサンプリング信号SSに応じて、積分回路48に積分を開始させる積分開始タイミング信号SS1と、積分回路48に積分を終了させる積分終了タイミング信号SS2と、積分回路48の積分値を初期化させる積分リセットタイミング信号SS3とを積分回路48へ出力し、予め設定された個数Mのサンプリング値を積分回路48によって積分させる。なお、個数Mは、ディップスイッチ等の設定スイッチによって設定可能としてもよい。
【0072】
積分回路48は、図4に示す平均処理部42と同様にタイミング制御回路32から出力されるサンプリング信号SSに応じてフィルタ41の出力信号をサンプリングする。そして、積分回路48は、その時系列順に連続するサンプリング値を積分動作制御部49からの積分開始タイミング信号SS1、積分終了タイミング信号SS2、及び積分リセットタイミング信号SS3に基づいて積分し、その積分値を示す電圧をAD変換回路45へ出力する。
【0073】
測距装置1bは、測距装置1aにおける平均処理部42での平均処理の代わりに積分回路48による積分電圧を用いる点が異なる。その他の構成及び動作は図4に示す測距装置1aと同様であるのでその説明を省略し、以下本実施形態の特徴的な動作について説明する。図8は、測距装置1bにおける積分回路48の動作を説明するためのタイミングチャートである。図8に示すタイミングチャートは、積分動作制御部49に設定された個数Mが4の場合の例を示している。
【0074】
まず、受信部3aから、受信信号Dがフィルタ41を介して積分回路48へ出力される。そして、積分回路48によって、積分開始タイミング信号SS1の立ち上がりに同期して受信信号Dの積分が開始され、積分開始タイミング信号SS2の立ち下がりに同期して積分が停止されると共にその積分値が保持される。さらに積分回路48によって、次の積分開始タイミング信号SS1の立ち上がりに同期して再び受信信号Dの積分が開始され、積分開始タイミング信号SS2の立ち下がりに同期して積分が停止されると共にその積分値が保持される。
【0075】
このように、積分の開始と停止とが、積分動作制御部49に設定されたM回(図8では4回)繰り返された後、積分回路48の積分値がAD変換回路45で取り込まれ、AD変換されて積分値データFとして時間差取得部46へ出力され、時間差取得部46では、平均値データEの代わりに積分値データFに基づき到達時間差Txaが取得される。その後、積分リセットタイミング信号SS3に基づいて積分回路48の積分値が初期化される。
【0076】
すなわち、時間差取得部46では、積分値データFにおけるピークを検出できればよいので、平均値データEの代わりに積分値データFを用いることができる。これにより、サンプリング値の平均処理を行う平均処理部42の代わりに積分回路48を用いることができるので、回路を簡素化することができる。
【0077】
なお、図9に示すように、積分動作制御部49を備えず、代わりにデジタル加算器等を用いて構成された積算回路50(評価部)を備え、積分回路48により得られた各サンプリング点におけるサンプリング値を、AD変換回路45によりデジタル値に変換後、積算回路50を用いて個数設定部43に設定されたM個のサンプリング値を積算し、その積算値を積分値データFとして時間差取得部46へ出力する構成としてもよい。また、積算回路50での積算値をさらにMで除して、平均値データEとして時間差取得部46へ出力するようにしてもよい。
【0078】
この場合、サンプリング値の積算や平均処理をデジタル演算により処理することができるので演算処理が容易であり、また、個数設定部43に設定された個数Mに応じて積算回数を設定することが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る測距装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図2】図1に示す測距装置の動作を説明するための信号波形図である。
【図3】対象物との間の距離の算出方法を説明するための説明図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る測距装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図5】図4に示す測距装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図6】図4に示す測距装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る測距装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図8】図7に示す積分回路の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図9】図7に示す積分回路の変形例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0080】
1,1a,1b,1c 測距装置
2,2a 送信部
3,3a 受信部
4,4a 信号処理部
5 送信アンテナ
6 受信アンテナ
7 表示部
8 直接波
9 反射波
21 発振回路
22 タイミング制御回路
31 発振回路
32 タイミング制御回路
39 差分時間設定部
42,42a 平均処理部
43 個数設定部
44 積分回路
45 AD変換回路
46 時間差取得部
47,47a 距離算出部
48 積分回路
49 積分動作制御部
50 積算回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の対象物との間の距離を測定する測距装置であって、
所定の周期でパルスを有する無線信号を送信する送信部と、
前記送信部から送信された無線信号及び前記無線信号が前記対象物により反射された反射信号を受信する受信部と、
前記受信部で前記無線信号が受信されてから前記反射信号が受信されるまでの時間である到達時間差を計時する計時部と、
前記計時部により計時された到達時間差に基づいて、前記距離を算出する距離算出部と
を備えることを特徴とする測距装置。
【請求項2】
前記計時部は、
前記パルスの時間幅より短い時間で前記受信部により受信された信号をサンプリングするサンプリング部と、
前記サンプリング部によりサンプリングされたサンプリング値における、前記無線信号を示すタイミングと前記反射信号を示すタイミングとの差を、前記到達時間差として取得する時間差取得部と
を備えることを特徴とする請求項1記載の測距装置。
【請求項3】
前記計時部は、
前記パルスの時間幅より短い時間である差分時間だけ前記パルスの周期と異なるサンプリング周期で前記受信部により受信された信号をサンプリングするサンプリング部と、
前記サンプリング部によりサンプリングされたサンプリング値における前記無線信号を示すタイミングと前記反射信号を示すタイミングとの差に基づいて、前記到達時間差を算出する時間差取得部と
を備えることを特徴とする請求項1記載の測距装置。
【請求項4】
前記差分時間の設定を受け付ける差分時間設定部をさらに備えること
を特徴とする請求項3記載の測距装置。
【請求項5】
前記計時部は、前記サンプリング部によりサンプリングされたサンプリング値を、時系列順に連続する予め設定された個数毎に評価して評価値を生成する評価部をさらに備え、
前記時間差取得部は、前記サンプリング値の代わりに前記評価部により生成された評価値を用いること
を特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の測距装置。
【請求項6】
前記評価部は、前記サンプリング値を、時系列順に連続する前記個数毎に平均することにより評価値を生成すること
を特徴とする請求項5に記載の測距装置。
【請求項7】
前記評価部は、前記サンプリング値を、時系列順に連続する前記個数毎に積算することにより評価値を生成すること
を特徴とする請求項5に記載の測距装置。
【請求項8】
前記評価部は、前記サンプリング値を時系列順に連続する前記個数毎に積分する積分器を備え、前記積分器の積分値を前記評価値として用いること
を特徴とする請求項7に記載の測距装置。
【請求項9】
前記評価部は、前記サンプリング値をデジタル値に変換するAD変換回路と、前記AD変換回路により生成されたデジタル値を積算する積算回路とを備え、前記積算回路の積算値を前記評価値として用いること
を特徴とする請求項7に記載の測距装置。
【請求項10】
前記個数の設定を受け付ける個数設定部をさらに備えること
を特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の測距装置。
【請求項11】
所定の対象物との間の距離を測定する測距方法であって、
所定の周期でパルスを有する無線信号を送信する工程と、
前記送信された無線信号及び前記無線信号が前記対象物により反射された反射信号を受信する工程と、
前記無線信号が受信されてから前記反射信号が受信されるまでの時間である到達時間差を計時する工程と、
前記計時された到達時間差に基づいて、前記距離を算出する工程と
を備えることを特徴とする測距方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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