説明

測距装置

【課題】送信波を反射した物標から到来する反射波を、より高精度に検出することが可能な測距装置を提供する。
【解決手段】測距装置では、測定周期Tcyclを表す周期信号を発生させ、この周期信号に同期してN個のパルス信号からなる送信タイミング信号STを発生させることで、レーザ光を送信する。なお、各パルス信号は、当該装置の最大検知距離をレーザ光が往復するのに要する時間より充分に長い時間間隔Twで出力される。そして、AD変換器32が、N個のパルス信号のそれぞれについて所定のサンプリング間隔で信号をサンプリングし、加算部33aが、時間間隔Twのうち複数の計測期間Tsおよび送信前期間Tbの間、各送信波の送信タイミングを基準として同一時間にサンプリングされたサンプリング値同士を加算する。そして、測距部33が、複数の送信前期間Tbのサンプリング値の全てを参照してレーザ光の反射波の検出に必要な検出閾値を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス状の送信波を送信し、その反射波を受信することで、送信波を反射した物標との距離を測定する測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パルス状の送信波を送信し、その反射波を受信し、送信波の送信タイミングから反射波の受信タイミングまでの時間差(即ち、送信波の往復時間)を計測することで、送信波を反射した物標との距離を求める測距装置が知られている。
【0003】
この種の測距装置において、送信波の往復時間を計測する手法の一つとして、受信信号が所定の閾値より大きくなるタイミングを前タイミング、その後、所定の閾値より小さくなるタイミングを後タイミングとして、送信タイミングから前タイミングまでの時間差、および送信タイミングから後タイミングまでの時間差をタイマ等で個別に計測し、これら両時間差の計測結果から、送信波の往復時間を推定するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、このような一発測距方式では、物標からの反射強度が弱く、所定閾値より低い受信信号(ノイズレベルと同程度の受信信号)しか得られない場合には、測定結果を得ることができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−236661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに対し、本願出願人は、送信波を送信する毎に、所定期間の間、受信信号を所定間隔でサンプリングし、複数の送信波について同様のサンプリングを行った結果に基づき、送信波の送信タイミングを基準とした同一期間にサンプリングされたサンプリング値同士を加算(積分)することで、複数の受信信号を積分した積分信号のサンプリング値に相当する積分受信波形を求め、その積分受信波形から受信タイミングを求めるものを提案している。
【0007】
このような積分測距方式によれば、受信信号が、その加算の効果により、加算前の単発の送受信波形に比べて、物標からの反射波に応じたパルスレベルはN倍に加算される一方でノイズレベルはルートN倍(以下「√N倍」と記述する)となり、SN比が改善される。したがって反射強度の小さい物標の検出を容易にすることができる。
【0008】
しかし、このような積分測距方式の測距装置では、N個の送信波のうち1番目の送信波を送信する前の受信信号(即ちノイズのみの波形)をサンプリングし、そのサンプリング値の平均電圧、すなわち受信信号のオフセット電圧値にノイズ波形のノイズレベルをマージンとして加えた値を閾値に設定するため、N個の送信波の送信中に受信信号のオフセット電圧、あるいはノイズレベルが変動すると、遠くの物標から到来する微小な反射波に応じたパルスレベルが、積分後であっても、閾値以下となって検知できない(すなわち不検出の)可能性や、反射信号が無いにもかかわらずノイズが閾値を超えることによる偽の検出物の発生(すなわち誤検出)の可能性があった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するために、測定周期毎に、送信波を反射した物標から到来する反射波を、より高精度に検出することが可能な測距装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の測距装置は、請求項1に記載のように、パルス状の送信波を送信し、その送信波が往復するのに要する往復時間に基づいて、その送信波を反射した物標である反射物標との距離を測定する装置である。
【0011】
本発明の測距装置では、送受信手段が、予め設定された測定周期毎に、上記送信波を複数回送信し、送信波の反射波を含む信号を受信し、その受信信号を下記サンプリング手段へ出力する。サンプリング手段が、これら複数回の送信波のそれぞれについて、予め設定されたサンプリング間隔で上記受信信号をサンプリングする。
【0012】
すると、加算手段が、その複数の送信波の送信タイミングから、予め設定された最大検知距離を送信波が往復するのに要する最大往復時間以上に設定された計測期間の間、各送信波の送信タイミングを基準として同一時間に上記サンプリング手段にてサンプリングされたサンプリング値同士を加算する。一方、閾値設定手段が、各送信波の送信前毎に予め設定されてなる複数の送信前期間での送受信手段による出力信号のサンプリング値を参照して、反射波の検出に必要な検出閾値を設定する。
【0013】
最後に、往復時間算出手段が、上記計測期間の間に加算手段にて加算されたサンプリング値である積分受信波形のうち、上記閾値設定手段にて設定された検出閾値を越える一連の積分受信波形(即ち検出閾値を越える積分パルス波形)から反射波の受信タイミングを特定することにより、送信タイミングから受信タイミングまでの時間を往復時間として算出する。
【0014】
このように構成された本発明の測距装置では、複数の送信波のうち全ての送信波を送信する前の受信信号(即ちノイズのみの波形)をサンプリングし、その値から検出閾値を設定するため、複数の送信波の送信中にオフセット電圧やノイズレベルが変動した場合であっても、検出閾値がその変動を反映した値となる。
【0015】
従って、本発明の測距装置によれば、複数の送信波の送信中におけるオフセット電圧やノイズレベルの変動に追従することができ、これにより遠くの物標から到来する微小な反射波であっても検知することが可能となり、ひいては送信波を反射した物標から到来する反射波をより高精度に検出することができる。
【0016】
具体的には、請求項2に記載のように、上記加算手段が、複数の送信前期間の間、各送信波の送信タイミングを基準として同一時間に上記サンプリング手段にてサンプリングされたノイズ波形同士を加算し積分ノイズ波形を得て、上記閾値設定手段が、上記加算手段にて得られた積分ノイズ波形の平均値(すなわち積分ノイズ波形のオフセット電圧)に、例えば積分ノイズ波形のノイズレベル(すなわち積分ノイズ波形の交流成分の大きさ)をマージンとして加算した値を検出閾値として設定してもよい。
【0017】
この構成によれば、積分受信波形におけるオフセット電圧、並びにノイズ成分の大きさとほぼ等しい値を得ることができ、これに基づいて検出閾値を設定するため、N個の送信波の送信中に受信信号のオフセット電圧、あるいはノイズレベルが変動したときでも適正な閾値となり、オフセット電圧やノイズレベル変動に起因する不検出や誤検出を防ぐことが可能となる。
【0018】
さらに、請求項3に記載のように、上記閾値設定手段が、上記加算手段により加算されて得た積分ノイズ波形の交流成分の標準偏差(あるいは実効値)を一定数倍(例えば3倍)した値をマージンとして検出閾値を設定してもよい。
【0019】
この構成によれば、検出閾値におけるオフセット電圧に加算するマージンとして、ノイズレベルの統計的な大きさに基づいた値を設定できるため、積分パルス波形の不検出や誤検出を好適に抑制することができる。
【0020】
あるいは、請求項4に記載のように、上記閾値設定手段が、上記加算手段により加算されて得た積分ノイズ波形での(最大値−最小値)を一定数倍(例えば0.5倍)した値をマージンとして検出閾値を設定してもよい。
【0021】
また、請求項5に記載のように、上記閾値設定手段が、上記加算手段により加算されて得た積分ノイズ波形での最大値から加算後のノイズ波形での平均値、すなわちオフセット電圧を減じた値の一定数倍(例えば1.2倍)した値をマージンとして検出閾値を設定してもよい。
【0022】
これらの構成によれば、検出閾値におけるオフセット電圧に加算するマージンとして、積分受信波形におけるノイズ成分での、最もオフセット電圧から離れた値を模擬して設定するため、積分パルス波形の不検出や誤検出を好適に抑制することができる。
【0023】
あるいは、請求項6に記載のように、上記送受信手段による測定周期毎の送信波の送信回数をNとして、上記閾値設定手段は、上記加算手段による加算前のノイズ波形における最大値と最小値との差分を表すノイズ差分値を算出し、そのノイズ差分値を√N倍した値の一定数倍(例えば0.5倍)をマージンとして検出閾値を設定してもよい。
【0024】
また、請求項7に記載のように、上記送受信手段による測定周期毎の送信波の送信回数をNとして、上記閾値設定手段は、上記加算手段による加算前のノイズ波形における最大値から加算前のノイズ波形の平均値(すなわち加算前のオフセット電圧の平均値)を減じた値を√N倍した値の一定数倍(例えば、1.2倍)をマージンとして検出閾値を設定してもよい。
【0025】
これらの構成によれば、検出閾値におけるオフセット電圧に加算するマージンとして、受信波形におけるノイズ成分での、最もオフセット電圧から離れた値を模擬して設定するため、積分パルス波形の不検出や誤検出を好適に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】測距装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】受光部の動作を理解するための説明図である。
【図3】送信タイミング信号や装置各部の動作タイミングを示すタイミング図である。
【図4】距離算出処理の内容を示すフローチャートである。
【図5】検出閾値の設定に関する詳細を理解するための説明図である。
【図6】検出閾値の設定に関するバリエーションを理解するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
[全体構成]
図1は、本発明が適用された測距装置1の全体構成を示すブロック図である。
【0028】
測距装置1は、車両に搭載され、車両の前方に存在する各種物標を検出し、その検出した物標に関する情報としての距離情報を生成する装置である。
図1に示すように、測距装置1は、送信タイミング信号STに従ってパルス状のレーザ光(送信波)を、車両前方の照射領域に向けて照射する発光部10と、レーザ光を反射した物標からの反射光(反射波)等を受光して受光強度に応じた受信波形信号LSに変換する受光部20と、発光部10に供給する送信タイミング信号STを生成すると共に、受光部20から供給される受信波形信号LSに基づいて、レーザ光を反射した物標(反射物標)との距離を測定する測距部30とを備えている。なお、測距装置1には、測距部30での測定結果に基づいて各種車両制御を行う車両制御部40が接続されている。
【0029】
[発光部および受光部]
発光部10は、送信タイミング信号STに従って、レーザ光を発生させるレーザダイオード等からなる発光素子11、レーザ光が上記照射領域に照射されるように発光素子11から照射されたレーザ光の照射範囲を調整するコリメートレンズ12等で構成されている。
【0030】
受光部20は、照射領域から到来する反射光を集光する集光レンズ21、集光レンズ21を介して受光した反射光の強度に応じた電流値を有する電気信号を発生させる受光素子22、受光素子22の受光電流信号から電圧に変換した信号を増幅するために設けられた増幅回路23等で構成されている。
【0031】
なお、受光素子22は、例えば複数のフォトダイオードが車幅方向(水平方向)に沿って一列に配置され、それぞれのフォトダイオードが照射範囲における水平面内で異なった方向から到来する反射光を受光するように配置されている。また、増幅回路23は、受光素子22を構成する各フォトダイオードの受光信号を個別に増幅するために、複数設けられている。つまり、受光部20は、照射範囲をカバーするための複数の受光チャンネルを有している。
【0032】
また、受光部20では、図2(a)、図2(b)に示すように、電源に接続されたフォトダイオード(受光素子22)がグランドに接続された抵抗Rと直列に接続され、受光素子22と抵抗Rとを接続する端子の電位を検出可能な構成とされている。この構成では、受光素子22から電流値が出力されるが、この電流値を抵抗Rによって電圧値に変換している。
【0033】
ここで、受光部20では、常時、外光(背景光)Lbの光量に応じて、受光素子22からの電流Idcによる電圧Vdcを出力しており、レーザ光の反射光Lpを受けると、図2(a)に示すように、外光Lbに応じた電圧Vdcに、反射光Lpの光量に応じて、受光素子22からの電流Ipによる電圧Vpが加算される。さらには、外光Lbの光量に比例して電流Idcが増加することにより、ショット雑音に相当する電圧Vsが加算される。
【0034】
なお、電圧Vdcがオフセット電圧に相当し、電圧Vsの半分の値がノイズレベルの振幅に相当する。また、電圧Vpが反射光信号レベルの振幅に相当する。ここで、電圧Vdcを取り除くため、電圧信号の交流成分のみを通過させるフィルタ(コンデンサ等)を設けてもよい。但し、外光(背景光)Lbが変動し、これに伴い電圧Vdcが変動する際は、すなわち電圧Vdcそのものが交流成分を持つことになり、上記フィルタでは完全には取り除くことができず、上記オフセット電圧の一部は受信波形信号LSに含まれたまま、測距部30へと伝達される。
【0035】
[測距部]
測距部30は、送信タイミング信号STを発生させる制御回路31と、受光チャンネル毎に受信波形信号LSをサンプリングするAD変換器32と、制御回路31により発生した送信タイミング信号STとAD変換器32にてサンプリングされた受信波形信号LSとに基づいて、積分測距方式で求めた測距値を生成する測距回路33とを備えている。
【0036】
ここで、図3は、送信タイミング信号STや装置各部の動作タイミングを示すタイミング図である。
制御回路31は、図3に示すように、測定周期Tcyclを表す周期信号を発生させ、この周期信号に同期して送信タイミング信号STを発生させる。送信タイミング信号STは、具体的には、測定周期Tcycl毎に出力されるN個のパルス信号からなる。また、パルス信号は、当該装置1の最大検知距離をレーザ光が往復するのに要する時間より充分に長い時間間隔Twで出力される。なお、Tcycl,N,Twは、最低限、Tcycl>N×Twを満たすように設定されていればよい。
【0037】
AD変換器32は、N個のパルス信号のそれぞれについて、送信タイミング前の期間(送信前期間)Tbの間、及び、送信タイミングから最大検知距離をレーザ光が往復するのに要する時間が経過するまでの期間(計測期間)Tsの間、所定のサンプリング間隔Tsmplで、受信波形信号LSをサンプリングする。なお、Tb,Tsは、最低限、Tw≧Tb+Tsを満たし、互いの期間が重複しないように設定されていればよい。
【0038】
[測距回路]
図1に戻り、測距回路33は、例えばCPU,ROM,RAMを中心に構成された周知のマイクロコンピュータからなる。機能的には、測距回路33は、AD変換器32にてサンプリングされたサンプリング値を、送信タイミングを基準として同一時間にサンプリングされたもの同士を加算する加算部33aと、加算部33aによる加算されたサンプリング値に基づいて、測距値を求める測距部33bとを備えている。
【0039】
そして、測距回路33は、測距部33bとしての機能を実現するための処理として、受光チャンネル毎のサンプリング値に基づいて、物標からの反射波を検出し、その物標との距離(測距値)を算出する距離算出処理を実行する。
【0040】
ここで、測距回路33が実行する距離算出処理の詳細を、図4に示すフローチャートに沿って説明する。
本処理は、制御回路31にて周期信号が発生される毎、即ち、測定周期Tcycl毎に起動する。
【0041】
本処理が起動すると、まず、N個のパルス信号のそれぞれについて、送信タイミング前の期間(送信前期間)Tbの間に加算部33aによって加算されたサンプリング値を積分ノイズ波形として、その積分ノイズ波形の平均値を算出し(S110)、そのノイズ波形の平均値に基づく値を検出閾値として設定する閾値設定処理を行う(S120)。
【0042】
本実施形態の閾値設定処理では、S110における全ての積分ノイズ波形を表す波形から、交流成分の標準偏差を算出して3倍し、S110にて算出した積分ノイズ波形の平均値を加えた値を検出閾値として設定する。
【0043】
これと並行して、N個のパルス信号のそれぞれについて、送信タイミングから最大検知距離をレーザ光が往復するのに要する時間が経過するまでの期間(計測期間)Tsの間に加算部33aによって加算されたサンプリング値を積分受信波形として、その積分受信波形を加算部33aから取得する(S130)。
【0044】
そして、S130にて取得した積分受信波形において、S110にて算出した積分ノイズ波形の平均値(すなわちオフセット電圧)と積分パルス波形の最大値電圧との中間電圧を越えたタイミングを前タイミング、その後、上記中間電圧を下回ったタイミングを後タイミングとして検出し、その前タイミング,後タイミングに対応するサンプリング値が送信タイミングから何番目(前タイミングをMf番目,後タイミングをMb番目とする)のサンプリング値かを特定し、送信タイミングから前タイミングまでの経過時間Tf、送信タイミングから後タイミングまでの経過時間Teを、(1)(2)式を使って算出する(S140)。
【0045】
Tf=Mf×Tsmpl (1)
Te=Mb×Tsmpl (2)
そして、両経過時間Tf,Teの平均値を、送信タイミングから受信タイミングまでの経過時間Tr(={Tf+Te}/2)として算出し(S150)、その経過時間Trを距離に換算したものを測距値として車両制御部40に出力する(S160)。
【0046】
つまり、経過時間Trが、当該装置1と反射物標との間で送信波が往復するのに要する往復時間に相当することになり、この往復時間の半分の時間に光速cを乗じることで、当該装置1と反射物標との距離D(=Tr×c/2)が算出されるのである。
【0047】
[作用]
このように構成された測距装置1では、発光部10が、測定周期Tcycl毎にN個の送信波を送信し、受光部20が、各送信波の反射波を含む信号に対応する受信波形信号LSを生成する。そして、AD変換器32が、サンプリング間隔Tsmpl毎に受信波形信号LSをサンプリングし、加算部33aが、計測期間Tsおよび送信前期間Tbの間、各送信波の送信タイミングを基準として同一時間にサンプリングされたN回分のサンプリング値同士を加算する。
【0048】
これにより、図5に示すように、計測期間Tsの間にサンプリングされたN回分のサンプリング値同士が加算されてなる積分受信波形は、加算前の受信パルス(E部)のレベルに比べて受信パルス(F部)のレベルがN倍になり、ノイズの交流成分の大きさが√N倍になる。つまり、B部のばらつきの大きさがA部のばらつきの大きさの約√N倍になる。また、送信前期間Tbの間にサンプリングされたN回分のサンプリング値同士が加算されてなる積分ノイズ波形の交流波成分の大きさも√N倍になる。つまり、D部のばらつきの大きさがC部のばらつきの大きさの約√N倍になる。
【0049】
そして、測距装置1では、測距部33bが、積分ノイズ波形の平均値と、この積分ノイズ波形の交流成分の標準偏差の値の3倍の値を加算した値を検出閾値として設定し、積分ノイズ波形の平均値(すなわちオフセット電圧)と積分パルス波形の最大値電圧との中間電圧を越えたタイミングを前タイミングと、その後上記中間電圧を下回る後タイミングとから、送信タイミングから前タイミングまでの経過時間Mf、および送信タイミングから後タイミングまでの経過時間Mbを算出し、これら経過時間Mf,Mbに基づいて反射物標との距離を算出する。
【0050】
[効果]
以上説明したように、本実施形態の測距装置1によれば、積分受信波形とほぼ同じ時間条件で加算された積分ノイズ波形を利用して、積分受信波形におけるオフセット電圧、並びにノイズ成分の大きさとほぼ等しい値を得て、これに基づいて検出閾値を設定するため、N個の送信波の送信中に受信信号のオフセット電圧、あるいはノイズレベルが変動したときでも適正な閾値となり、オフセット電圧やノイズレベル変動に起因する不検出や誤検出を防ぐことが可能となる。
【0051】
また、同様の理由により、距離算出の際、前タイミングおよび後タイミングの算出に利用する、中間電圧の設定に必要な、加算後のノイズ波形での平均値(すなわちオフセット電圧)は、N個の送信波の送信中に受信信号のオフセット電圧が変動したときでも、積分受信波形におけるオフセット電圧とほぼ一致させることができるので、精度の高い前タイミング値および後タイミング値を得ることができ、ひいては精度の高い距離算出が可能となるのである。
【0052】
[発明との対応]
なお、本実施形態において、発光部10および受光部20が送受信手段、AD変換器32がサンプリング手段、加算部33aが加算手段、S110〜S120を実行する測距回路33が閾値設定手段、S130〜S150を実行する測距回路33が往復時間算出手段の一例にそれぞれ相当する。
【0053】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0054】
上記実施形態の閾値設定処理では、積分ノイズ波形の平均値と、この積分ノイズ波形の交流成分の標準偏差の値の一定数倍(例えば3倍)の値とを加算した値を検出閾値として設定しているが、これに限定されるものではない。
【0055】
例えば、積分ノイズ波形の平均値に加算する値(マージン)として、積分ノイズ波形の交流成分の標準偏差の値の一定数倍の値ではなく、これに代えて、積分ノイズ波形における最大値と最小値との差分値の一定数倍(例えば0.5倍)の値を採用してもよいし、積分ノイズ波形における最大値と平均値との一定数倍(例えば1.2倍)の値を採用してもよい。
【0056】
これらの構成によれば、検出閾値におけるオフセット電圧に加算するマージンとして、積分受信波形におけるノイズ成分での、最もオフセット電圧から離れた値を模擬して設定するため、積分パルス波形の不検出や誤検出を好適に抑制することができる。
【0057】
あるいは、上記マージンとして、図6(a)に示すように、送信前期間Tbの間にサンプリングされたサンプリング値(すなわち加算前のノイズ波形)における最大値と最小値との差分を表すノイズ差分値を算出し、このノイズ差分値を√N倍した値の一定数倍(例えば0.5倍)の値を採用してもよいし、図6(b)に示すように、加算前のノイズ波形における最大値と平均値との差分値を√N倍した値の一定数倍(例えば1.2倍)の値を採用してもよい。
【0058】
これらの構成によれば、検出閾値におけるオフセット電圧に加算するマージンとして、受信波形におけるノイズ成分での、最もオフセット電圧から離れた値を模擬して設定するため、積分パルス波形の不検出や誤検出を好適に抑制することができる。
【符号の説明】
【0059】
1…測距装置、10…発光部、11…発光素子、20…受光部、21…集光レンズ、22…受光素子、23…増幅回路、30…測距部、31…制御回路、32…AD変換器、33…測距回路、33a…加算部、33b…測距部、40…車両制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状の送信波を送信し、該送信波が往復するのに要する往復時間に基づいて、該送信波を反射した物標である反射物標との距離を測定する測距装置であって、
予め設定された測定周期毎に、前記送信波を複数回送信し、該送信波の反射波を含む信号を受信して受信信号を生成する送受信手段と、
前記複数の送信波のそれぞれについて、予め設定されたサンプリング間隔で前記受信信号をサンプリングするサンプリング手段と、
該複数の送信波の送信タイミングから、予め設定された最大検知距離を前記送信波が往復するのに要する最大往復時間以上に設定された計測期間の間、各送信波の送信タイミングを基準として同一時間に前記サンプリング手段にてサンプリングされたサンプリング値同士を加算する加算手段と、
前記各送信波の送信前毎に予め設定されてなる複数の送信前期間の間に、前記サンプリング手段にてサンプリングされたサンプリング値をノイズ波形として、該ノイズ波形の全てを参照して前記反射波の検出に必要な検出閾値を設定する閾値設定手段と、
前記計測期間の間に前記加算手段にて加算されたサンプリング値である積分受信波形のうち、前記閾値設定手段にて設定された検出閾値を越えるパルス波形の情報から、前記反射波の受信タイミングを特定することにより、前記送信タイミングから前記受信タイミングまでの時間を前記往復時間として算出する往復時間算出手段と、
を備えることを特徴とする測距装置。
【請求項2】
前記加算手段は、前記複数の送信前期間の間、前記各送信波の送信タイミングを基準として同一時間に前記サンプリング手段にてサンプリングされた前記ノイズ波形同士を加算し、
前記閾値設定手段は、前記加算手段にて加算された前記ノイズ波形である積分ノイズ波形の平均値に予め設定されたマージンを加えた値を前記検出閾値として設定することを特徴とする請求項1に記載の測距装置。
【請求項3】
前記閾値設定手段は、前記加算手段により加算されて得た前記積分ノイズ波形の交流成分の標準偏差または実効値に予め設定された係数を乗じた値を前記マージンとして前記検出閾値を設定することを特徴とする請求項2に記載の測距装置。
【請求項4】
前記閾値設定手段は、前記加算手段により加算されて得た前記積分ノイズ波形における最大値と最小値との差分値に予め設定された係数を乗じた値を前記マージンとして前記検出閾値を設定することを特徴とする請求項2に記載の測距装置。
【請求項5】
前記閾値設定手段が、前記加算手段により加算されて得た前記積分ノイズ波形における最大値と平均値との差分値に予め設定された係数を乗じた値を前記マージンとして前記検出閾値を設定することを特徴とする請求項2に記載の測距装置。
【請求項6】
前記送受信手段による前記測定周期毎の前記送信波の送信回数をNとして、
前記閾値設定手段は、前記加算手段による加算前の前記ノイズ波形における最大値と最小値との差分を表すノイズ差分値を算出し、該ノイズ差分値をルートN倍した値に予め設定された係数を乗じた値を前記マージンとして前記検出閾値を設定することを特徴とする請求項2に記載の測距装置。
【請求項7】
前記送受信手段による前記測定周期毎の前記送信波の送信回数をNとして、
前記閾値設定手段は、前記加算手段による加算前の前記ノイズ波形における最大値と平均値との差分値をルートN倍した値に予め設定された係数を乗じた値を前記マージンとして前記検出閾値を設定することを特徴とする請求項2に記載の測距装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−96905(P2013−96905A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241379(P2011−241379)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】