説明

湾曲した基板上に多層構造体を適用する方法

【課題】先行技術の方法の欠点を示さない構造体の予備成形により、湾曲した基板上に多層構造体を適用する新しい方法を提供すること。
【解決手段】湾曲した多層構造体(10)は、最初は平坦である個々のフィルム(1、2)から形成される。フィルムは、それぞれの対向面に沿って互いに強固に接合されている。熱処理が、2枚のフィルムに対して標準使用温度で異なるそれぞれの収縮または伸長を生じるように、上記構造体のフィルム(1、2)のうちの1枚または両方に施される。前記収縮または前記伸長の間の差異により、多層構造体の湾曲が生じる。このように、上記構造体は、圧縮成形器具の間で接触させることなく永久的な湾曲形状と、必要である多層構造体の有用な部分とを有する。次いで、この多層構造体は、いかなる裂け目やリップルも生じることなく湾曲した基板上に適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湾曲した基板上に多層構造体を適用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの製造方法において、湾曲した基板上に最初は平坦であるフィルムを適用することが必要である。この種の操作では、延伸、リップル、または裂け目などのフィルムの欠陥を生じることがある。フィルムを適用する基板の受容面が展開可能でなくまたは擬球状である場合、この種の欠陥は、さらにより高い頻度で生じ、またはより重大である。擬球状面によって、前記表面のある複数の点で、同時にこれらの点のそれぞれを通過する2つの直角方向に、非ゼロの曲率を有する表面の意味を含んでいる。したがって、球面とは、擬球状面の特殊な例である。さらに、擬球状面は複雑である場合があり、すなわちこの曲率は、この種の表面の異なる点の間で相違することができる。
【0003】
この種の欠陥の発生を減らすために、基板の湾曲面上にフィルムを適用する前にこのフィルムを予備成形することが知られている。この種の予備成形は、フィルム上に湾曲形状を与え、それにより、フィルムを基板上に適用する際にフィルムが後に受ける変形を低減する。ホットエンボス、フィルムの両側で異なる流体圧またはガス圧を加えることによる変形、あるいは2枚の変形可能な膜の間でのフィルムの圧縮などのいくつかの予備成形技術が使用されている。
【0004】
予備成形工具がフィルムと接触することが要求されるこれらの技術は、フィルム上の掻き傷、摩擦マーク、フィルム上に存在するかもしれない被覆の割れや剥離を生じる。この種の欠陥により、製造物の品質が低下し、ある一定の用途、特に高品質の要求がある光学分野および眼科分野での使用からこのフィルムが除外される場合がある。
【0005】
さらに、フィルムの2つの面に適用される異なる圧力を用いる予備成形方法は、フィルムに形成される湾曲形状を十分には制御することができない。換言すれば、予備成形後に、フィルムは、依然として基板の受容面の形状には程遠い形状を有することがある。その場合は、基板上にこれを適用すると、さらにフィルムの欠陥を生じる。
【0006】
最終的に、知られている予備成形方法の大部分は、フィルム内に応力を生じる。この種の応力は、その初期の平坦な形状と予備成形直後のその形状との間の中間形状にフィルムを戻す傾向がある。この付加的な理由から、フィルムの最終形状についてほとんど制御することはできない。さらに、これは、非常に長期にわたって展開することができ、このことは、フィルムを組み込んでいる製造物の使用中もずっと継続し得る。次いで、予備成形段階中にフィルムに導かれる応力により、続いて起こる基板からのフィルムの引き離し、長さが変化し得る潜伏期間の後に現われるフィルムの縮み、クリープ、および裂け目さえ生じることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、先行技術の方法の欠点を示さない構造体の予備成形により、湾曲した基板上に多層構造体を適用する新しい方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これを目的として、本発明は、湾曲した多層構造体が最初は平坦である少なくとも2枚の個々のフィルムから得られる方法を提案する。
この方法は、
/1/構造体の温度が破壊温度よりも低い限りは、フィルムがそれぞれの対向面に沿って互いに強固に接合されたままであるように多層構造体を形成するステップと、
/2/2枚のフィルムが使用温度まで構造体を冷却した後に、異なるそれぞれの収縮または伸長を有するように、破壊温度よりも低い熱処理の最大温度で構造体の少なくとも一部に熱処理を施すステップと
を含む。
【0009】
こうして、フィルムのそれぞれの収縮または伸長の間の差異により、多層構造体の湾曲が生じる。特に、多層構造体は、ステップ/2/の熱処理後に擬球状であり得る。
【0010】
用語収縮(contraction)は、代数的に反対符号の収縮と考えられる伸長(elongation)も包含すると理解されるので、以下では、用語収縮のみを使用する。
【0011】
ステップ/2/の後に実施される本発明による方法のステップ/3/は、基板の湾曲面に多層構造体を適用することから成る。
【0012】
このように、本発明による方法では、ステップ/2/の後の構造体の湾曲は、熱処理によって生じるフィルムのそれぞれの収縮に起因する。したがって、構造体に応力を加えることになる予備成形工具は全く必要でない。このように、予備成形中に生じることになる摩擦や破砕によるフィルムの欠陥の形成が回避される。したがって、フィルムの品質が保護される。熱処理により、構造体の少なくとも一部の温度についての任意の意図的な変化の意味を含んでいる。特に、熱処理は、構造体の少なくとも一部の加熱や単なる冷却を含むことができる。
【0013】
他の利点は、構造体の湾曲を生じるように本発明により熱処理を使用することに由来する。熱処理は、フィルムに存在するかもしれない内部応力を低減することができ、その結果、フィルムは、熱処理の終わりに機械的平衡に関して優れた状態にある。その場合は、フィルムは、改善された寸法安定性を有し、したがって、フィルムに形成される湾曲形状はより永久的なものである。換言すれば、本発明による方法によってフィルムに形成される形状は、非常に限定された範囲へと後に変更することができる。
【0014】
さらに、本発明による方法は、特に、実施することが簡単であり、プレスなどのいかなる複雑、かつ高価な予備成形工具も必要としない。オーブンや炉などの加熱治具で十分である。
【0015】
ステップ/2/の熱処理中に、多層構造体の温度は、破壊温度よりも低いままであり、したがって、多層構造体の結合には影響を及ぼさない。このように、フィルムは、ステップ/1/の時点で、互いに永久的に接合される。2枚のフィルムのそれぞれの収縮の間の差異と共にこの接合により、構造体の湾曲が生じる。
【0016】
本発明の第1の実施形態では、構造体のフィルムのうちの少なくとも1枚の収縮は、フィルムの熱弾性挙動に少なくとも部分的に起因し得る。この場合、多層構造体は、使用温度よりも高い初期温度でステップ/1/中に形成される。さらに、ステップ/2/の熱処理は、初期温度未満まで構造体を冷却することを含む。次に、フィルムの収縮は、主として構造体の冷却中に生じ、フィルムを構成する(複数の)材料の(複数の)熱膨張係数に対応する。
【0017】
本発明の第2の実施形態では、構造体のフィルムのうちの少なくとも1枚の収縮や伸長は、フィルムに最初に存在する応力緩和から少なくとも部分的に生じることがある。したがって、ステップ/2/の熱処理は、これらの応力の緩和を生じることができる。
【0018】
随意に、本発明のこの第2の実施形態は、また、フィルムのうちの少なくとも1枚の前熱処理も含むことができ、これはステップ/1/の前に実施される。この種の前熱処理は、ステップ/2/の熱処理によってその後に生じるフィルムの弛緩を低減することが意図され得る。このように、ステップ/2/の直前に多層構造体のフィルムに存在する各応力の振幅の間の差異を増大しまたは調整して、多層構造体の所望の湾曲を生じるステップ/2/の後のフィルムのそれぞれの収縮を得ることができる。
【0019】
本発明の第2の実施形態の第1の改良によれば、多層構造体のフィルムは、ステップ/2/の熱処理の少なくとも一部の間中、異なるそれぞれの温度を有することができる。フィルムの間のこの種の温度差により、フィルムの弛緩が生じ、したがって、1枚のフィルムから他のフィルムまで異なる収縮が生じる。
【0020】
第2の改良によれば、多層構造体の2枚のフィルムのうちの少なくとも1枚の別々のゾーンが、ステップ/2/の熱処理の少なくとも一部の間中、異なるそれぞれの温度を有することができる。その場合は、ステップ/2/で生じるこのフィルムの弛緩は、1つのゾーンと他のゾーンの間で相違することができる。このように、フィルムは、1つのゾーンと他のゾーンの間で相違する局部的な収縮および/または伸長を受けることができ、その結果、複雑な形状を構造体に形成することができる。
【0021】
本発明の第3の改良によれば、この方法は、ステップ/2/の後にフィルムに最後に存在する応力を永久的に緩和するように、ステップ/2/の前に実施されるフィルムのうちの少なくとも1枚を延伸することも含むことができる。
【0022】
本発明は、多層構造体のフィルムのうちの少なくとも1枚が、少なくとも1つの有機材料、特にポリマーを含む場合、より特に適している。そのときに、本発明による方法により、重要であり得る湾曲を構造体に形成することができる。この場合、および多層構造体の使用温度が0℃と30℃との間に含まれると、熱処理の最大温度は、50℃以上、好ましくは60℃超であることができる。しかし、この最大温度は、やはり、多層構造体の材料のうちのいずれのものの分解温度よりも低くなければならない。
【0023】
有利なことに、多層構造体は、この構造体を有用な部分に縮小するように所与の輪郭に沿ってステップ/2/の前に切断することができる。このような切断は、多層構造体の不必要な部分が1つの部分から他の部分まで延在する応力によって有用な部分の変形を妨げることを防ぎ、この不必要な部分は、有用な部分から分離し次に処分することが意図されるものである。このように、構造体の有用な部分に必要とされる最終の湾曲を、ステップ/2/の終わりに直接得ることができる。
【0024】
ステップ/1/およびステップ/2/の本発明により実施される予備成形の結果として、次いで、ステップ/3/は、欠陥をもたらす十分な強度をフィルムに引き起こすことはなく、実施することができる。
【0025】
基板の湾曲面は、凸面または凹面であることができる。基板の受容面が凹面の場合には、本発明を用いて湾曲されている多層構造体は、受容面の中央に実質的に配置される第1の接触点から基板上に適用されるのに十分な曲率を有することができる。多層構造体の中央および基板の受容面において開始し、周縁部に向かって半径方向に続くこのような適用は、規則的かつ連続的であることができる。このように、構造体と基板との間で気泡は全く捕捉されず、多層構造体の過度の延伸は全くない。したがって、得られる組立体は、品質が優れている。
【0026】
最終的に、本発明は、光学用途や眼科用途で使用できることが有利である。後者の場合、基板は、眼用レンズを含むことができる。
【0027】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の図面を参照して、実施形態の非限定的な例についての次に述べる説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1a】本発明を適用することができる第1の多層構造体の断面図である。
【図1b】本発明を適用することができる第1の多層構造体の平面図である。
【図2】本発明による方法の第1のステップを実施した後の、図1aおよび図1bの第1の多層構造体の断面図である。
【図3】本発明による方法の最後のステップを示すように、図2のあとに続く図である。
【図4】第2の多層構造体について図1aに対応する図である。
【図5】第2の多層構造体について図2に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図を分かりやすくするために、示された構成部品の寸法は、実際の寸法または寸法比に対応するものではない。さらに、異なる図に与えられる同一の参照符号は、同一の構成部品、または同一の機能を有する構成部品を表している。
【0030】
ここでは眼科用途に関連して本発明を詳細に説明するが、この用途は、例示の目的のみに使用されることが理解される。以下の説明を読むと、当業者は、以下に述べる数値を随意に適合させることによって、任意の用途についての本発明の実施手法を知るであろう。
【0031】
ここで考慮される多層構造体は、眼用レンズの面上に適用することが意図される。知られている様式では、この種の眼用レンズは、その1つの面だけが最終形状を有する半完成の眼鏡であることができる。あるいは、この眼用レンズは、眼鏡に対して適切に他の面を機械加工して眼鏡の将来の装用者に適合する眼用補正を生成することによって、この種の半完成の眼鏡から得られる完成した眼鏡であることができる。眼用レンズが完成した眼鏡である場合、やはりこれは半完成の眼鏡の周縁部、例えば直径が60mm(ミリメートル)の円形縁部を有することができる。また、これは、組み立てることが意図される眼鏡フレームのシートの寸法に既にトリミングされていることもできる。
【0032】
この種の眼用レンズは、図3に断面図で示してあり、20の番号を付けている。レンズ20の前面および後面は、それぞれSおよびSとして識別される。これらは、擬球状であり、面Sは凸面であり、面Sは凹面である。随意に、2つの面Sおよび面Sのうちの少なくとも1つは、複雑な形態を有してもよい。
【0033】
図1によれば、多層構造体10は、2枚の平行なフィルム1およびフィルム2を備えている。2枚のフィルム1およびフィルム2は、互いに一体に形成され、それらのそれぞれの対向面Σおよび対向面Σに沿って永久的に結合される。2枚のフィルム1とフィルム2との間の接合は、異なるタイプであることができる。第1のタイプによれば、2枚のフィルムのうちの一方は、他方の上に形成されていてもよく、したがって、接合は、形成されるすぐ前のフィルムと他方のフィルムとの間の初期の接着力から生じることができ、これは、その形成の支持体として役立つ。接合の他のタイプによれば、フィルム1およびフィルム2は、それらの面Σおよび面Σによって互いに溶接され、または半田付けされ、あるいは接着剤材料の中間層で膠付けにされ得る。いかなる場合にも、フィルム1およびフィルム2の間の接合は、構造体が破壊温度よりも低い温度を有する限りは、固定され、永久的なものである。換言すれば、破壊温度よりも低いと、接合は、面Σおよび面Σを通して一方のフィルムから他のフィルムまで応力を伝達することができる。2枚のフィルム1とフィルム2との間の接合の破壊温度は、これらの間の接合のタイプに依存する。例えば、破壊温度は、接合を生成する接着剤の融解温度であることができ、したがって、破壊温度よりも高いと、フィルム1およびフィルム2は、それらの面Σおよび面Σに平行に、互いに対して摺動することができる。半田付けや溶接などのいくつかのタイプの接合について、フィルム1とフィルム2との間の接合の破壊温度は、構造体10の組立て温度に分類され得る。
【0034】
図1の特定の多層構造体10の場合、フィルム1とフィルム2との間の接合には、面Σに直角に延在する壁3のネットワークが含まれる。これらの壁は、面Σに平行に並置される一組のセル4を形成する。セル4は、他の場所で選択された物質でそれぞれ充填することができる。壁3は、ベースフィルムとして働くフィルム1の面Σ上に第一に作られていてもよく、したがって、これらは、これらの構成手段によってフィルム1で支持されかつ一体に形成される。次いで、セル4は、ここでは議論しない個別的または集約的に、選択された物質で充填される。次に、多層構造体10は、セルを閉鎖するようにベースフィルムに対向する壁3の頂部上にフィルム2を適用することによって形成される。この閉鎖フィルム2は、壁3の頂部に半田付け、膠付けまたは溶接することができる。
【0035】
構造体10は、特に対象の眼科用途の場合には透明であることが好ましい。フィルム1およびフィルム2は、少なくとも1つの有機材料、特にポリマーをそれぞれ含むことができる。例えば、フィルム1およびフィルム2は共に、ポリエチレンテレフタレート(PTE)を基礎とし、それぞれ75μm(マイクロメートル)および125μmの厚さであることができる。知られている様式では、この種のフィルムは、通常、二軸延伸によって製造され、したがって、これらには、加熱されると個別に機械的緩和が働く。本発明者らは、PTEフィルムという特定の場合にはこの種の緩和がフィルムの正の収縮、すなわちフィルムの縮みまたは縮小を生じることに留意している。標準的には、この縮小は、特に数時間100℃を越えて加熱したPTEフィルムの場合、0.2%と1%との間にあることができる。
【0036】
本発明の他の実施形態では、多層構造体10のフィルム1およびフィルム2は、異なる材料から構成され得る。例えば、フィルムのうちの1枚は、PTE基礎であることができ、他のフィルムは、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド、セルローストリアセテート(CTA)、シクロオレフィンコポリマー(COC)等を基礎とすることができる。問題のフィルムの寸法の緩和の効果、すなわち収縮や伸長、ならびにこのような収縮や伸長の振幅は、フィルムの材料、その製造方法、その厚さ、既に受けている任意の延伸、およびその製造以来フィルムが受けている熱バランスに応じて変化する。
【0037】
さらに、連続的な熱処理は、異なる緩和、したがって異なる収縮や伸長を生じることが知られている。通常、同じフィルムに適用される連続的な熱処理は、一定の符号を有するフィルムの寸法の変化を生じ、絶対値が減少する。このように、フィルム、特に有機材料から作られるフィルムの、一定の熱処理によって生じやすい寸法変化は、フィルムを前熱処理を施すことによって低減することができる。換言すれば、前熱処理は、その後の熱処理と相対してフィルムを安定化させる。
【0038】
したがって、熱処理を施したフィルムについて今説明したばかりの緩和は、不可逆的である。これは、加熱されるとフィルムが受ける可逆伸長と別個のものであり、このことは、フィルムを形成する材料の熱膨張係数に対応する。後者の場合、フィルムは、その温度が上昇すると膨張し、その温度が低下すると逆に縮み、したがって、加熱され、次いでその初期温度に復帰したフィルムの最終寸法は、緩和が全く生じない場合にはその初期寸法と同一である。
【0039】
一般に、フィルムの2つの前に挙げた挙動、すなわち、その弛緩およびその可逆膨張は、変化し得る相対的な程度で熱処理中に同時に生じる。
【0040】
本発明の第1の実施形態によれば、一方で壁3および充填されたセル4を有するフィルム1、および他方でフィルム2は、例えば60℃の同じ組立て温度まで別個に加熱される。これらは、構造体10を形成するようにこの温度で組み立てられ、次いで、0℃と30℃との間、例えば、ほぼ20℃に等しい周囲温度まで冷却される。この第1の実施形態の場合、この冷却は、本発明によって導かれる熱処理を構成する。
【0041】
それによってフィルム1とフィルム2との間の接合が形成される組立体は、異なるタイプであることができる。これは、フィルム2と壁3の頂部を半田付けし、またはフィルム2に前記頂部を膠付けする形態をとることができる。後者の場合には、フィルム2は、接着剤材料、例えば感圧接着剤やPSAの層で初めに被覆することができる。フィルム1とフィルム2との間で構成される接合は、永久的である。これが形成された時点で、フィルム1およびフィルム2のそれぞれは、組立て温度においてそのフィルムの平衡状態に対応する寸法を有する。
【0042】
冷却の終わりに、2枚のフィルム1およびフィルム2のそれぞれは、収縮を受け、構造体10に剪断応力場が作り出され、これは、2枚のフィルムのそれぞれの収縮の間の差異から生じる。この応力場は、構造体10の変形を生じ、その結果、後者が湾曲形状になる。図2に示される構造体10の形状構成では、フィルム1は、フィルム2よりも大きな収縮を受けている。次いで、これは、その厚さの少なくとも一部について延在され、構造体10の凹面を形成する。逆に、フィルム2は、それ自身の厚さの少なくとも一部について圧縮され、凸面を形成する。2枚のフィルム1およびフィルム2の収縮は、二軸であることができ、したがって、構造体10は、擬球状の形状を有することができる。各フィルムの収縮がこのフィルムに等方平行である場合、構造体10は、球形になる。
【0043】
構造体10の湾曲は、フィルムの寸法変化から生じ、この寸法変化は、フィルム内の応力の発生と結びつけられることが理解される。当業者は、実施される同じ現象について2つの態様があり、応力が、その最終状態の構造体内でフィルムの寸法変化によって釣り合わされることを理解するであろう。
【0044】
本発明のこの第1の実施形態では、フィルム1およびフィルム2の収縮は、大部分が可逆的であることができる。このことは、構造体が再加熱されると構造体10の湾曲がほとんど完全になくなる場合に該当する。次に、構造体10の湾曲は、組立て後の構造体10の冷却中に、フィルム1およびフィルム2のそれぞれの材料の熱弾性挙動から主として生じる。
【0045】
下の表1は、2枚のフィルム1およびフィルム2が同一の厚さを有するが、それらのそれぞれのヤング率E、および熱膨張係数αの値によって識別される場合の構造体10の湾曲値の半径を示している。適用される熱処理は、本質的に、組立て温度が60℃から20℃までの構造体の冷却である。
【0046】
【表1】

【0047】
本発明の第2の実施形態によれば、構造体10は、0℃と30℃との間に含まれる例えば20℃の周囲温度で組み立てることができ、したがって、構造体10は、この温度で最初は平坦な形状を有する。次に、構造体10は、本発明によって導入される熱処理が施される。この熱処理は、例えば60℃と120℃との間に含まれ得る温度まで加熱し、随意に、次いで15分と2時間との間に含まれ得る期間の間、この温度で維持し、次に周囲温度まで元に冷却することが含まれる。この処理中、フィルム1とフィルム2のそれぞれは、異なる弛緩を受け、構造体10は、最後に湾曲形状を有する。その湾曲は、熱処理中に生じた2枚のフィルムの有するそれぞれの代数的収縮の間の差異に依存する。
【0048】
フィルム1およびフィルム2のそれぞれの厚さに応じて、およびこれらがPETから作られる場合、70mmと230mmとの間に含まれる曲率の半径が、本発明のこの第2の実施形態を用いた構造体10に対して得られている。
【0049】
随意に、2枚のフィルムのうちの1枚は、他のフィルムと組み立てる前に前熱処理を施すことができる。次に、このフィルムは、組立て前に既に部分的に安定化され、したがって、その寸法は、組立て後に実施されるその後の熱処理中にあまり変化しない。次いで、2枚のフィルムは、それらのそれぞれの代数的収縮の間のより大きな差異を有し、この差異は、構造体10の組立て後に生じる。したがって、より大きな湾曲を、構造体10に形成することができる。
【0050】
一般に、構造体10の最終的な湾曲の再現性を改善するために、2枚のフィルムを互いに組み立てる前に、たとえ両方でなくても、2枚のフィルム1およびフィルム2のうちの少なくとも1枚に熱処理を施すことが有利であり得る。当業者は、各フィルムに要求される初期弛緩度、および構造体10に最終的に形成される湾曲の再現性のレベルに応じて、このような熱処理の仕様の決定手法を知るであろう。
【0051】
また、構造体の最終的な湾曲をもつ少なくとも1つの構成部品を機械的に作り出すために、各フィルムを一緒に組み立てて多層構造体を形成する前に、構造体のフィルムのうちの一方または他方に応力を故意に導くことも可能である。フィルムを圧延によって接触させる場合には、例えば固定ジョーを用いて、長手方向および/または横方向の引っ張りによって圧延方向にフィルムのうちの少なくとも1枚を延伸することができる。
【0052】
フィルム1およびフィルム2は、最終的な製品の多層構造体の寸法よりも大きな寸法で最初は形成することができる。したがって、フィルムは、それぞれ最終物品の単体に対応する別個の部分に切断される。工業的実施という経済的理由から、いくつかの処理を、各フィルムを切断する前にこの各フィルムに適用することができる。例えば、フィルム1上の壁3のネットワークの形成、セル4の充填、またはフィルム2上の機能性被覆の蒸着は、フィルム1およびフィルム2を切断する前に行うことができる。同様に、2枚のフィルム1およびフィルム2は、切断前に組み立てることができ、したがって、多層構造体は、生産することになるいくつかの最終物品に対応する初期寸法で形成される。
【0053】
この場合、多層構造体10は、その湾曲形態を構造体10に形成する熱処理の前に切断できることが好ましい。次いで、多層構造体10は、完成した物品の単体に対応する所与の輪郭に沿って切断される。フィルム1およびフィルム2の寸法に応じて、いくつかの輪郭を、完成した物品の異なる単体に対応してフィルム1およびフィルム2のシートに刻むことができる。随意に、輪郭は、1つの物品の単体と他の物品の単体の間で相違することができる。図1bは、いくつかの切断輪郭が決定されている組み立てた多層構造体10を示す。C、C、C等で標示したこれらの輪郭のそれぞれは、眼鏡のフレームの眼科眼鏡のシートに実質的に対応する。これらは、構造体10の有用な部分をそれぞれ分離している。完成した物品の単体に対応する輪郭によって、この物品の単体に最後に含まれる構造体10の部分の最終的なエッジに対応する輪郭が理解される。しかし、それぞれの有用な部分の輪郭C、輪郭C、輪郭C等は、最終的な製品の部分の最終的なエッジに対して縁部を有することができる。このような縁部は、特に、トリミングを実施する前に上記部分が完成した眼鏡に膠付けされる場合、眼鏡のトリミング中に有用であり得る。
【0054】
切断のための熱処理中の構造体10の最大温度は、破壊温度よりも低い。また、フィルム1およびフィルム2自体のいかなる分解温度よりも低いことも明らかである。結果として、構造体10の結合が維持される。この熱処理は、普通に利用できる加熱手段を用いて実施することができる。これらは、オーブン、炉、赤外線ランプ等であることができる。
【0055】
第1の改良によれば、2枚のフィルム1およびフィルム2は、構造体10の湾曲を作り出す熱処理中、異なるそれぞれの温度を有することができる。例えば、構造体10は、ホットプレート上に水平に配置することができ、このホットプレートは、その時は底部にある2枚のフィルム1またはフィルム2のうちの1枚に載っている。次いで、ガスフラックスを頂部に配置されるフィルムと接触して送って、熱処理中に2枚のフィルムのそれぞれの温度の間の差異を生じることができる。こうしてより低い温度にされる上部フィルムは、熱処理中により小さい弛緩を受ける。したがって、その寸法は、より小さな範囲で変化する。このように、熱処理中に2枚のフィルムの温度の間で生じる差異は、構造体10の湾曲の増大に寄与する。
【0056】
第2の改良によれば、構造体10は、異なるゾーンの間で相違する温度に加熱することができる。これらのゾーンは、構造体10に平行に隣接しており、これらに集中される加熱力や冷却力の変化に対応する。したがって、このように近隣ゾーンよりも高い温度に加熱される構造体10のゾーンは、近隣ゾーンよりも大きな弛緩を受ける。このように、熱処理によって構造体10に形成される湾曲は、ゾーンの間で相違し、構造体10は、最後に複雑な形態を有する。例えば、基板20が、その前面Sが屈折力の進行を画定する累進レンズであり、構造体10をこの面Sに適用することが意図される場合には、レンズの近方視ゾーンに効力が及ぶ構造体の部分において、より大きな湾曲を構造体10に形成することが有利であり得る。レンズの面S上に基板20を適用することが、さらに改善されることになる。
【0057】
一般に、本発明による予備成形を用いて多層構造体10に形成されている湾曲は、構造体10を適用することが意図される基板20の湾曲面の湾曲に類似することが有利である。基板20の面と構造体10が基板の面のあらゆる点で接触しているように、この面上に構造体10を適用すると、その場合は構造体に過度の応力を生じない。したがって、構造体10にいかなる裂け目やしわも形成されない。例えば、構造体10は、基板20の凹面Sの上に適用される(図3)。随意に、この適用は、基板20に構造体10を膠付けすることからなる場合もある。
【0058】
図4および図5は、本発明の他の適用を示している。フィルム1は、例えばPETなどの少なくとも1つのポリマーを含むベースフィルムを組み込むことができ、フィルム2は、フィルム1に蒸着されるワニスを含むことができる。熱処理中に、フィルム1は、フィルム2よりも小さい弛緩を受け、したがって、フィルム1は、構造体10の凹面になり、ワニスのフィルム2は、凸面になる。
【0059】
本発明のさらに他の適用によれば、フィルム1はまた、例えばPETなどの少なくとも1つの有機材料を含むベースフィルムを組み込むこともでき、フィルム2は、少なくとも1つの無機材料を含むことができる。例えば、フィルム2それ自体が、フィルム1に形成されているいくつかの層の堆積である。フィルム1、およびその後眼用レンズ20に、耐衝撃性、反射防止機能、難ゴミ付着機能、耐擦傷性、疎水性機能等のような付加的特性を提供することが意図される。知られている様式では、レンズによって反射される光の強度を低減させることからなる反射防止機能は、低い光屈折率値と高い光屈折率値を交互に有する一連の薄層を配置することによって実現される。高い光屈折率値を有する薄層は、一般に、例えば酸化チタン(TiO)などの無機材料から作られる。フィルム2にこの種の無機材料が存在することにより、このフィルムは、熱処理中に、フィルム1の寸法変化よりもずっと小さい寸法変化を有する。本発明の実施の後、フィルム1は、構造体10の凹面をもう一度構成する。
【0060】
詳細に説明した本発明の実施形態は、言及している利点のうちの少なくともいくつかを保持しながら補正できることが理解される。特に、フィルム1およびフィルム2の性質、ならびに構造体10内に互いにこれらを結合する接合のタイプは、変更することができる。それぞれの場合に、当業者は、構造体10の所望の湾曲を発生させる熱処理のパラメータを適合させることができる。随意に、これを目的として、熱処理のパラメータを徐々に調整するために、一連の相次ぐ試験を実施することもできる。
【符号の説明】
【0061】
1 フィルム、ベースフィルム
2 フィルム
3 壁
4 セル
10 多層構造体
20 基板、眼用レンズ
輪郭
輪郭
輪郭
Σ対向面
Σ対向面
前面
後面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2枚の最初は平坦な個々のフィルム(1、2)から得られる多層構造体(10)を基板上に適用する方法であって、
[1]前記構造体の温度が破壊温度よりも低い間に、前記フィルムがそれぞれの対向面(Σ、Σ)に沿って互いに強固に接合されたままであるように前記多層構造体を形成するステップと、
[2]前記2枚のフィルムが、使用温度まで前記構造体を冷却した後に異なるそれぞれの収縮または伸長を有し、前記フィルムのそれぞれの収縮または伸長の間の差異が、前記多層構造体の湾曲を発生させるように、前記破壊温度よりも低い熱処理の最大温度で前記多層構造体の少なくとも一部に前記熱処理を施すステップと、
[3]前記基板(20)の湾曲面(S)上に前記多層構造体(10)を適用するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記多層構造体(10)が、ステップ[2]の前記熱処理後に擬球状である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フィルム(1、2)のうちの少なくとも1枚が、少なくとも1つの有機材料、特にポリマーを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記多層構造体(10)の前記使用温度が、0℃と30℃との間に含まれ、前記熱処理の前記最大温度が50℃以上、好ましくは60℃超である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記多層構造体(10)が、前記使用温度よりも高い初期温度においてステップ[1]の間に形成され、
ステップ[2]の前記熱処理が、前記初期温度未満まで前記多層構造体を冷却することを含み、前記フィルム(1、2)のうちの少なくとも1枚が、前記熱処理の後に前記フィルムの熱弾性挙動によって少なくとも部分的に生じる収縮を有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ[2]の前記熱処理が、前記フィルム(1、2)のうちの少なくとも1枚の中に最初に存在する応力緩和をもたらすことができ、前記フィルムの前記収縮または前記伸長が、この種の緩和によって少なくとも部分的に生じる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ[1]の前に実施される次のステップ、すなわち
ステップ[2]の前記熱処理によって生じる前記フィルムの前記弛緩を低減するために前記フィルム(1、2)のうちの少なくとも1枚に前熱処理を施すステップ
を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記多層構造体の前記フィルム(1、2)が、ステップ[2]の前記熱処理の少なくとも一部の間中、異なるそれぞれの温度を有する、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記多層構造体の前記フィルム(1、2)のうちの少なくとも1枚の離れたゾーンが、ステップ[2]の前記熱処理の少なくとも一部の間中、異なるそれぞれの温度を有し、したがって、前記熱処理によって生じる前記フィルムの前記弛緩が、1つのゾーンと他のゾーンの間で相違する、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記多層構造体(10)が、前記構造体を有用な部分に縮小するように所与の輪郭(C、C、C等)に沿ってステップ[2]の前に切断される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記2枚のフィルムのうちの第1のフィルム(1)が、少なくとも第1の有機材料、特に第1のポリマーを含むベースフィルムを組み込み、前記ベースフィルムの面に直角に延在しかつ前記面に平行に並置される一組のセル(4)を形成する壁(3)のネットワークを前記ベースフィルムの面上に保持し、前記第2のフィルム(2)が、少なくとも第2の有機材料、特に第2のポリマーを含み、ステップ[1]が、前記セルを閉鎖するように前記ベースフィルムに対向する前記壁の頂部上に前記第2のフィルムを適用することを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記フィルム(1)のうちの1枚が、少なくとも1つのポリマーを含むベースフィルムを組み込み、前記他のフィルム(2)が、ワニスを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記フィルム(1)のうちの1枚が、少なくとも1つの有機材料を含むベースフィルムを組み込み、前記他のフィルム(2)が、少なくとも1つの無機材料を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記基板の前記面(S)が、凹面である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記基板(20)が、眼用レンズを含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記所与の輪郭(C、C、C等)が、眼鏡のフレーム内の眼科眼鏡のシートに実質的に対応する、請求項10と共に請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップ[2]の後に前記フィルムに最後に存在する前記応力を永久的に緩和するように、ステップ[2]の前に実施される前記フィルム(1、2)のうちの少なくとも1枚を延伸するステップを含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。

【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−137573(P2010−137573A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−280888(P2009−280888)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(505425373)エシロール アンテルナシオナル (コンパニー ジェネラレ ドプテイク) (74)
【Fターム(参考)】