説明

湿式排煙脱硫装置と方法

【課題】湿式排煙脱硫装置の吸収塔のスプレ部における水平断面方向での落下液量分布を均一化することにより、塔内壁部でのガス吹抜けを抑制し、高い脱硫性能で運転コストが安価な湿式排煙脱硫装置と方法を提供すること。
【解決手段】吸収塔において、排ガスの流れ方向に複数段設置したスプレ段の、最上段を除く少なくとも1段以上のスプレ段を対象に、塔内中央部に比べて塔内壁部近傍における単位断面積当りの吸収液の噴霧液量を多くすることにより、吸収液の落下液量分布を均一化して、塔内壁部近傍でのガス吹抜けを抑制する。噴霧液量を多くする手段として、スプレ段の吸収塔内壁部近傍に噴霧量の大きな大容量ノズルを設置し、中央部には小容量ノズルを設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ等の燃焼装置から排出される排ガス中の有害成分である硫黄酸化物を除去する湿式排煙脱硫装置と方法に係わり、特に、吸収塔のスプレ部における落下液量分布の不均一性に起因して発生する吸収塔内壁部近傍でのガス吹抜けを抑制することによって、脱硫性能の向上を図るとともに、吸収液循環ポンプや脱硫ファンに必要な動力を低減する湿式排煙脱硫装置と方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ボイラ等の排ガス中に含まれる硫黄酸化物(SOx)を除去するには、排ガス中に吸収液をスプレして、排ガスと吸収液との気液接触により排ガス中の硫黄酸化物(SOx)を捕集して除去する吸収塔を備えた湿式排煙脱硫装置が使用されている。
図5に従来技術の湿式排煙脱硫装置における吸収塔を示す。
この湿式排煙脱硫装置は、主に、吸収塔1、入口ダクト2、出口ダクト3、吸収液循環ポンプ4、循環タンク6、攪拌機7、空気吹込み管8、ミストエリミネータ9、吸収液抜出し管10、循環配管11、スプレヘッダー12、スプレノズル13等から構成される。攪拌機7および空気吹込み管8は、吸収液5が滞留する循環タンク6に設置される。
【0003】
ここで図5に図示していないボイラから排出される排ガスは、同じく図示していない脱硫ファンによって、入口ダクト2から吸収塔1内に、ほぼ水平方向に導入され、塔頂部に設けられた出口ダクト3から排出される。この間、吸収液循環ポンプ4から送られる炭酸カルシウムを含んだ吸収液5がスプレノズル13から噴射され、吸収液5と排ガスとの気液接触により、吸収液5は排ガス中のSOxを選択的に吸収する。
【0004】
SOxを吸収した吸収液5は、一旦、循環タンク6に溜まり、酸化用攪拌機7によって攪拌されながら、空気吹込み管8から供給される空気中の酸素により酸化され、硫酸カルシウム(石膏)を生成する。したがって、循環タンク6内の吸収液5には、炭酸カルシウムと石膏が共存している。
【0005】
循環タンク6内の吸収液5の一部は、吸収液循環ポンプ4によって再びスプレノズル13に送られ、また他の一部は、吸収液抜き出し管10を通し、図示していない廃液処理・石膏回収系へと送られる。吸収液5はスプレノズル13からの噴射によって微粒化されるが、その中でも液滴径の小さいものは排ガスに同伴され、出口ダクト3に設けられたミストエリミネータ9によって捕集される。
【0006】
このような従来技術の湿式排煙脱硫装置において、その脱硫性能に大きな影響を及ぼすのがガス偏流である。ここでガス偏流について簡単に説明すると、上記の湿式排煙脱硫装置における吸収塔1のスプレノズル13には、ホロコーンスプレノズル(円環噴霧型スプレノズル)が採用される場合が多く、中空状のホロコーンスプレノズルを複数並べて、吸収液をスプレすると、並んだスプレノズル13同士のスプレ液滴が重なり合うので、吸収塔1内の中央部では落下液量が多くなり、反対に塔内壁部近傍では中央部に比べて落下液量が少なくなる現象が起こる。これは、中央部ではスプレ部のあらゆる方向から吸収液5のスプレ液滴が集まるのに対して、内壁部近傍においては塔内方向からしかスプレ液滴は飛散してこないからである。
【0007】
このため、排ガスは塔内壁部近傍に多く流れやすくなり、吸収塔内でガス偏流が発生して、スプレ液滴と気液接触が十分行われずに吸収塔内を吹き抜けてしまう、いわゆるガス吹抜け現象によって脱硫性能を低下させる原因となっていた。この脱硫性能の低下をカバーするためには、より多くの吸収液5をスプレする必要があり、その結果、吸収液循環ポンプ4の動力が増大し、また、スプレ部の圧力損失増加によって、図示していない脱硫ファンの動力も増大するという問題点があった。
【0008】
このような吸収塔内壁部近傍でのガス吹抜けを抑制する方法として、これまで種々の方法が考案されてきてはいるが、未だ根本的な解決には至っていない。
例えば、本発明に関連する先行技術文献として、下記特許文献1〜特許文献5が挙げられる。
【0009】
特許文献1には、本来の吸収塔内に配置されるスプレノズルの他に吸収塔内壁近傍だけに設置されるスプレノズルを備えた特殊な構造が開示され、前記吸収塔断面の単位断面積当たりの液ガス比を均一にした構成が開示されている。
【0010】
また、特許文献2には、吸収塔内壁近傍のホロコーンスプレノズルの噴霧角度を吸収塔中心部のホロコーンスプレノズルの噴霧角度より小さくすることにより、吸収液とのガス流れに直交する方向の断面において液滴密度の低くなる吸収塔の塔壁周辺部に設置するスプレノズルの下向きの吸収液噴霧角度を吸収塔の塔内中央部より小さくして吸収塔断面積当たりの液密度が低くなるのを防ぐという構成が開示されている。
【0011】
また、特許文献3には、吸収塔内の少なくとも一段以上のスプレ段のガス流れ方向に垂直な吸収塔断面の中心点に対して排ガスの入り口ダクト側より、その点対称部分に設置するスプレノズルの設置個数を密にすることによって、入り口ダクトから遠いところの特に流速の速い吸収塔内壁近傍でのガス吹抜けを防止することが開示されている。
さらに、特許文献4には、吸収塔をコンパクトにして吸収塔内のガス流速を上げた場合に、吸収塔内を流れる排ガスの偏流を防止するために、スプレ吸収部の塔内壁近傍のみに対して、排ガス流れに直交する面に開孔状の壁流下液分散板を設置する構成が開示され、あるいは別の実施形態として、吸収塔内壁近傍に設置するスプレノズルの形式を中実タイプの噴霧パターンを持つスプレノズル(フルコーンスプレノズル)とし、その他のスプレノズルは中空タイプの噴霧パターンを持つホロコーンスプレノズルとすることによって吸収塔内のガス流れに直交する水平断面のガス偏流を低減する構成が開示されている。
さらに特許文献5には、吸収塔の側壁面の内周方向全体にわたり側壁の一部を用いてリング状の第1スプレヘッダーを形成し、前記側壁面の近傍全周にわたり前記第1スプレヘッダーに吸収液を噴霧する複数の第1スプレノズルを設け、前記第1スプレヘッダーから複数の第2スプレヘッダーを延設し、該第2スプレヘッダーに複数の第2スプレノズルを設けることにより、吸収塔の内壁を伝って流下する液層を塔内に再飛散させて吸収塔の壁付近の液密度が低くなることを防いだ構成が開示されている。
また、同特許文献5の図8(a)の説明(段落[0008])には、碁盤目状配置のスプレノズルの周りに吸収塔の内壁に沿った円状配置のスプレノズルを追設し、吸収塔の内壁付近の液滴密度を高くすることにより、排ガスの偏流による影響を防止する従来技術も示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−320828号公報
【特許文献2】特開2007−275715号公報
【特許文献3】特開平9−206550号公報
【特許文献4】特開2004−24945号公報
【特許文献5】特開2008−80248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記した特許文献1〜5に記載の従来技術においては、スプレノズルの特性に起因する吸収塔内壁部近傍におけるガス吹抜け現象を防止するために排ガス流れと直交する吸収塔スプレ部の水平断面のどの部分においても吸収液の液滴密度の偏差を少なくなるようにした構成を採用している。
【0014】
しかし、以上の特許文献の中で特許文献1、3〜5記載の発明ではそれぞれ特殊な構成を設けて吸収塔内壁部近傍でのガス吹抜けを抑制し、排ガスの偏流を防ぐ構造が開示されている。このような特殊な構造を採用するためにはコストがかさみ、メンテナンスのために大きな負担がかかっていた。
【0015】
そこで本発明の課題は、特殊なスプレノズルを使用しないで吸収塔のスプレ部の水平断面方向での吸収液の落下液量分布を、吸収塔内中央部から吸収塔内壁部にわたって均一化できる設備費や動力を大幅に増大させることなく高性能で運転コストが安価な湿式排煙脱硫装置と方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記本発明の課題は、数値解析と各種実験によって得られたスプレ流量のゾーン分割(領域分割)という考え方に基づき、湿式排煙脱硫装置の吸収塔において、排ガスの流れ方向に複数段設置したスプレ段の、最上段を除く少なくとも1段以上のスプレ段を対象に、塔内中央部に比べて塔内壁部近傍における水平方向の単位断面積当りの噴霧液量が多くなるよう、スプレノズルの噴霧液量を調整することによって解決される。
【0017】
すなわち、請求項1記載の発明は、ボイラを含む燃焼装置から排出される排ガスを導入する入口部を有し、該導入した排ガスの鉛直方向上方に向かう流れに直交する水平方向の断面に多数のスプレノズルを有するスプレヘッダーを、前記排ガスの流れ方向に複数段設置した吸収塔と、該吸収塔の下部に設けられた炭酸カルシウムを含む吸収液を貯留した循環タンクと、該循環タンクからスプレノズルに吸収液を循環供給する吸収液循環系とを備え、前記スプレノズルから噴霧される吸収液と前記排ガスとを気液接触させることにより、前記排ガス中の硫黄酸化物等の有害物質を捕集し除去する湿式排煙脱硫装置において、最上段スプレヘッダーを除く少なくとも1段以上のスプレ段の多数のスプレノズルの中で、前記吸収塔内壁部近傍における水平方向の単位断面積当りの前記吸収液の噴霧液量が、前記吸収塔内中央部における水平方向の単位断面積当りの前記吸収液の噴霧液量より多くなる大容量スプレノズルを用いることを特徴とする湿式排煙脱硫装置である。
【0018】
請求項2記載の発明は、前記スプレ段に設置された前記スプレノズル同士の間隔が一定であり、前記スプレ段1段当りの吸収塔内壁部近傍の前記大容量スプレノズルの個数割合が、前記スプレ段1段当りのスプレノズルの全数の70%以下に設定されていることを特徴とする請求項1記載の湿式排煙脱硫装置である。
【0019】
請求項3記載の発明は、前記スプレ段の吸収塔内壁部近傍に設置された前記大容量ノズルの噴霧液量が、前記吸収塔の全スプレノズル平均噴霧液量の1.7倍以下に設定されていることを特徴とする請求項1または2記載の湿式排煙脱硫装置である。
【0020】
請求項4記載の発明は、ボイラを含む燃焼装置から排出される排ガスを吸収塔内に導入し、該吸収塔内において排ガスを鉛直方向上方に向けて流しながら、前記排ガスの流れ方向に複数段設置するスプレヘッダーに設けた多数のスプレノズルから吸収液を噴霧して、該排ガスと気液接触させることにより、前記排ガス中の硫黄酸化物等の有害物質を捕集し除去する湿式排煙脱硫方法において、最上段スプレヘッダーを除く少なくとも1段以上のスプレ段の多数のスプレノズルから噴霧される吸収液の単位断面積当りの水平噴霧液量が吸収塔内中央部より吸収塔内壁部近傍における多くすることを特徴とする湿式排煙脱硫方法である。
【0021】
請求項5記載の発明は、前記スプレ段1段当りの吸収塔内壁部近傍の前記スプレノズルからの吸収液噴霧量を、前記スプレ段1段当りのスプレノズルの全数の70%以下に設定することを特徴とする請求項4記載の湿式排煙脱硫方法である。
【0022】
請求項6記載の発明は、前記スプレ段の吸収塔内壁部近傍の前記スプレノズルからの吸収液噴霧量を、前記吸収塔の全スプレノズル平均噴霧液量の1.7倍以下に設定することを特徴とする請求項4または5記載の湿式排煙脱硫方法である。
【0023】
請求項1、4記載の発明によれば、吸収塔内壁部近傍における水平方向の単位断面積当りの噴霧液量が、前記吸収塔内中央部における水平方向の単位断面積当りの前記吸収液の噴霧液量より多くなるようにスプレノズルの噴霧液量が各々調整されているので、各スプレ段の水平断面方向における落下液量分布が均一化され、従来技術で問題となっていた吸収塔内壁部近傍におけるガス吹抜けが効果的に抑制され、設備費を大幅に増大させることなく、脱硫性能が低下することがなくなる。また、脱硫性能の低下をカバーするために、スプレ部での液ガス比を高めようとして吸収液循環ポンプや脱硫ファンの動力を増大させる必要もなくなる。
【0024】
ここで、最上段のスプレ段の水平断面での複数のスプレノズルからの噴霧液量に大きな偏差があると最下段のスプレ段でのガス変動率(スプレ段の水平断面におけるガス流速分布の標準偏差を平均ガス流速で除した値)が比較的小さくなり、それぞれのスプレ段での気液接触が均一化され、結果的に脱硫性能の低下が抑制されることが分かった。
このように最下段のスプレ段でのガス変動率が比較的小さくなり、各スプレ段での気液接触に大きな影響を与えないことで、全体として脱硫性能に変動が無くなる。
【0025】
請求項2、5記載の発明によれば、スプレ段1段当りのスプレノズルの全数に対する大容量ノズルの個数割合が70%以下に設定されているので、最下段のスプレ段でのガス変動率が比較的小さくなり、最下段のスプレ段での気液接触が均一化され、吸収塔内壁部近傍における脱硫性能も塔内中央部と同等となる。
【0026】
請求項3、6記載の発明によれば、大容量ノズルの噴霧液量を吸収塔の全スプレノズル平均噴霧液量の1.7倍以下にすると、最下段のスプレ段でのガス変動率が比較的小さくなり、最下段の?スプレ段での気液接触が均一化され、吸収塔内壁部近傍における脱硫性能も塔内中央部と同等となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態を示したものである。最上段以外のスプレヘッダーの吸収塔内壁部近傍に大容量ノズルを設置し、中央部には小容量ノズルを設置した吸収塔の側面図である。
【図2】4段スプレの吸収塔において、吸収塔内壁部近傍に大容量ノズル14を適用したスプレ段数とスプレ部でのガス変動率との関係を示したものである。
【図3】スプレ段でのスプレノズル間隔を一定とした場合の、一つのスプレ段でのノズル全数に対する吸収塔内壁部近傍の大容量ノズルの個数割合(吸収塔内壁部近傍大容量ノズル割合)とスプレ最下段でのガス変動率との関係を示したものである。
【図4】全スプレノズルの平均スプレ流量に対する、吸収塔内壁部近傍の大容量ノズルのスプレ流量の比(吸収塔内壁部近傍/平均 スプレ流量比)とスプレ最下段でのガス変動率との関係を示したものである。
【図5】従来技術の吸収塔の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
図1は本発明の実施形態に係る吸収塔の側面を示したものである。図5に示した従来技術と同様、主に、吸収塔1、入口ダクト2、出口ダクト3、吸収液循環ポンプ4、循環タンク6、攪拌機7、空気吹込み管8、ミストエリミネータ9、吸収液抜出し管10、循環配管11、スプレヘッダー12、スプレノズル13等から構成される。従来技術と同じ部分の説明は既に記載した通りなので省略する。
【0029】
入口ダクト2から導入された排ガスは、図1の下から上へ、すなわち鉛直方向上方に向かって流れる。スプレヘッダー12からなる各スプレ段は、この排ガスの流れ方向に複数段設置されており、図1では3段のスプレ段が示されているが、2段あるいは4段以上の段数であってもよい。ここで、最上段以外のスプレヘッダー12の吸収塔内壁部近傍には大容量ノズル14が設置され、中央部には小容量ノズル15が設置されている。
【0030】
このように、最上段を除くスプレ段において、吸収塔内壁部近傍に噴霧量の大きな大容量ノズル14が設置され、中央部に小容量ノズル15が設置されている点に本発明の特徴がある。このような構成によって、塔内中央部の小容量ノズル15に比べて塔内壁部近傍の大容量ノズル14における水平方向の単位断面積当りの噴霧液量を多くしている。
【0031】
本実施形態によると、塔内壁部近傍の大容量ノズル14からの吸収液の落下液量が、塔内中央部の小容量ノズル15からの吸収液の落下液量に比べて多くなるため、スプレ段の水平断面方向での落下液量の均一化が図られることになる。これにより、入口ダクト2から導入された排ガスが塔内壁部近傍に多く流れることによって発生する従来技術の欠点であったガス吹抜けが効果的に抑制される。その結果、排ガスは吸収塔内で十分に吸収液と気液接触し、良好な脱硫性能が得られる。従来技術のように、ガス吹抜けに起因する脱硫性能の低下をカバーするために、スプレ部での液ガス比を高めようとして吸収液循環ポンプや脱硫ファンの動力を増大させる必要もなくなる。
また、大幅な設備費を必要としないので低コストで実施でき、高性能の割に運転コストも安価な湿式排煙脱硫装置が得られる。
【0032】
図2は、スプレ段を4段にした吸収塔において、吸収塔内壁部近傍に大容量ノズル14を適用したスプレ段数とスプレ部(スプレ段)でのガス変動率との関係の実験結果を示したものである。ここでガス変動率とは、スプレ部の水平断面におけるガス流速分布の標準偏差を平均ガス流速で除した値であり、特に図2では、各スプレ段入口でのガス変動率の平均値を用いており、適用スプレ段数0段、すなわち従来技術のガス変動率を1とした場合の相対的な比で表わしている。
なお、図2では、後述する「吸収塔内壁部近傍/平均のスプレ流量比」を1.5とし、同じく後述する「吸収塔内壁部近傍大容量ノズル割合」を50%とした条件下の場合におけるデータである。
【0033】
図2によれば、吸収塔内壁部近傍に大容量ノズル14を配置し、塔内中央部に吸収塔内壁部近傍に小容量ノズル15を適用したスプレ段数を1段目のみ(下1段)、1〜2段目(下2段)、1〜3段目(下3段)とすることで、上記ガス吹抜けの抑制作用が現れ、従来技術に比べてガス変動率を低減できることが分かる。しかし、最上段も含めて全てのスプレ段に適用すると(全4段)、逆にガス変動率は従来技術よりも高くなる。これは、最上段にまで吸収塔内壁部近傍に大容量ノズル14と塔内中央部に小容量ノズル15の組み合わせを適用すると最上段でのスプレ流量分布が不均一となって、吸収塔内壁部近傍に比べて塔内中央部のスプレ流量が少なくなるので、逆に塔内中央部へのガス吹抜けが生じることになるためである。したがって、最上段を除く少なくとも1段以上のスプレ段に適用することで、本発明の効果を得ることが可能となる。
【0034】
図3は、スプレ段でのスプレノズル間隔を一定とした場合の、一つのスプレ段でのノズル全数に対する吸収塔内壁部近傍の大容量ノズルの個数割合(これを「吸収塔内壁部近傍大容量ノズル割合」という。)と最下段のスプレ段でのガス変動率との関係の実験結果を示したものである。
図3における縦軸は図2の定義とは若干異なり、スプレ部での気液接触に大きく影響するスプレ最下段でのガス変動率であり、吸収塔内壁部近傍大容量ノズル割合が0、すなわち従来技術を1とした場合の相対比で表わしている。
なお、図3は、後述する「吸収塔内壁部近傍/平均 スプレ流量比」を1.5とした条件下の場合である。
【0035】
この図3から、本発明の効果を得るための一つのスプレ段での吸収塔内壁部近傍大容量ノズル割合は、ガス変動率比<1となる70%以下の範囲が適正範囲であることが分かる。50%以上では、吸収塔内壁部近傍大容量ノズル割合を増やすにもかかわらず発明の効果が薄れつつあるため、本発明による最大限の効果を得るには50%以下の範囲とするのが望ましい。
【0036】
また、図4は、吸収塔の全スプレノズルの平均スプレ流量に対する吸収塔内壁部近傍の大容量ノズルのスプレ流量の比(これを「吸収塔内壁部近傍/平均 スプレ流量比」という。)と最下段のスプレ段でのガス変動率との関係の実験結果を示したものである。
図4の縦軸は、図3と同様にスプレ最下段でのガス変動率であり、「吸収塔内壁部近傍/平均 スプレ流量比」が1、すなわち従来技術を1とした場合の相対比で表わしている。なお、図4は、吸収塔内壁部近傍大容量ノズルの全スプレノズルに対する割合を50%とした条件下の場合である。
同図から、本発明の効果を得るための「吸収塔内壁部近傍/平均 スプレ流量比」は1.7以下の範囲が適正範囲であることが分かる。1.5以上では、「吸収塔内壁部近傍/平均 スプレ流量比」を大きくするにもかかわらず、発明の効果が薄れつつあるため、本発明による最大限の効果を得るには1.5以下の範囲とするのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る吸収塔のガス吹抜け抑制方法及びその方法を用いた湿式排煙脱硫装置によれば、吸収塔内壁部近傍におけるガス吹抜けを効果的に抑制でき、高性能で運転コストが安価な湿式排煙脱硫装置が得られるので、硫黄酸化物などの有害成分を含む排ガス処理分野での利用性はきわめて高い。
【符号の説明】
【0038】
1 吸収塔 2 入口ダクト
3 出口ダクト 4 吸収液循環ポンプ
5 吸収液 6 循環タンク
7 攪拌機 8 空気吹込み管
9 ミストエリミネータ 10 吸収液抜出し管
11 循環配管 12 スプレヘッダー
13 スプレノズル 14 大容量ノズル
15 小容量ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラを含む燃焼装置から排出される排ガスを導入する入口部を有し、該導入した排ガスの鉛直方向上方に向かう流れに直交する水平方向の断面に多数のスプレノズルを有するスプレヘッダーを、前記排ガスの流れ方向に複数段設置した吸収塔と、該吸収塔の下部に設けられた炭酸カルシウムを含む吸収液を貯留した循環タンクと、該循環タンクからスプレノズルに吸収液を循環供給する吸収液循環系とを備え、前記スプレノズルから噴霧される吸収液と前記排ガスとを気液接触させることにより、前記排ガス中の硫黄酸化物等の有害物質を捕集し除去する湿式排煙脱硫装置において、
最上段スプレヘッダーを除く少なくとも1段以上のスプレ段の多数のスプレノズルの中で、前記吸収塔内壁部近傍における水平方向の単位断面積当りの前記吸収液の噴霧液量が、前記吸収塔内中央部における水平方向の単位断面積当りの前記吸収液の噴霧液量より多くなる大容量スプレノズルを用いることを特徴とする湿式排煙脱硫装置。
【請求項2】
前記スプレ段に設置された前記スプレノズル同士の間隔が一定であり、前記スプレ段1段当りの吸収塔内壁部近傍の前記大容量スプレノズルの個数割合が、前記スプレ段1段当りのスプレノズルの全数の70%以下に設定されていることを特徴とする請求項1記載の湿式排煙脱硫装置。
【請求項3】
前記スプレ段の吸収塔内壁部近傍に設置された前記大容量ノズルの噴霧液量が、前記吸収塔の全スプレノズル平均噴霧液量の1.7倍以下に設定されていることを特徴とする請求項1または2記載の湿式排煙脱硫装置。
【請求項4】
ボイラを含む燃焼装置から排出される排ガスを吸収塔内に導入し、該吸収塔内において排ガスを鉛直方向上方に向けて流しながら、前記排ガスの流れ方向に複数段設置するスプレヘッダーに設けた多数のスプレノズルから吸収液を噴霧して、該排ガスとを気液接触させることにより、前記排ガス中の硫黄酸化物等の有害物質を捕集し除去する湿式排煙脱硫方法において、
最上段スプレヘッダーを除く少なくとも1段以上のスプレ段の多数のスプレノズルから噴霧される吸収液の単位断面積当りの水平噴霧液量が吸収塔内中央部より吸収塔内壁部近傍における多くすることを特徴とする湿式排煙脱硫方法。
【請求項5】
前記スプレ段1段当りの吸収塔内壁部近傍の前記スプレノズルからの吸収液噴霧量を、前記スプレ段1段当りのスプレノズルの全数の70%以下に設定することを特徴とする請求項4記載の湿式排煙脱硫方法。
【請求項6】
前記スプレ段の吸収塔内壁部近傍の前記スプレノズルからの吸収液噴霧量を、前記吸収塔の全スプレノズル平均噴霧液量の1.7倍以下に設定することを特徴とする請求項5または6記載の湿式排煙脱硫方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−631(P2013−631A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132004(P2011−132004)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】