説明

溶剤を含有するポリクロロプレン系組成物

本発明は、溶剤を含有するポリクロロプレン系組成物、溶剤を含有する保存安定性を有する酸化亜鉛分散体、その製造方法、溶剤を含有するポリクロロプレン配合物におけるその使用、ならびに無機または有機基材用コンタクト型接着剤の添加剤としてのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤を含有するポリクロロプレン系組成物、溶剤を含有する保存安定性を有する酸化亜鉛分散体、その製造方法、溶剤を含有するポリクロロプレン配合物におけるその使用、ならびに無機または有機基材用コンタクト型接着剤の添加剤としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ポリクロロプレンは、ゴム系接着剤の原料として非常に重要である。その理由は、これを用いてコンタクト型接着剤が製造できるという点にある。
【0003】
このようなコンタクト型接着剤は、例えば、刷毛、ナイフ、ローラーなどの簡単な道具を使って塗布することができ、多くの材料に対しその粗面にしっかりと固定して強力に付着する。しかしながら、コンタクト型接着剤の使用が広く普及していることのさらに大きな理由は、これらが形成する接着層が短い乾燥時間を経た後に指触では一見乾いたようになり、これらを「コンタクト接着時間(contact adhesion period)」すなわち「開放時間」内に軽く圧着することで、即座に認識できる強さの結合を形成するという性能にある。ポリクロロプレンは直ちに結晶化を開始するため、結合の強度を急速に増大させながら速やかに「硬化」の最終点に到達することができる。
【0004】
このような溶剤を含有するコンタクト型接着剤の主な欠点は、配合物の相分離によって現れる保存性の不十分さにある。その原因となる因子は以下の通りである。
1.接着剤配合物中に分散形態で存在する二酸化マグネシウムや酸化亜鉛などの分散された安定剤が、接着剤の保管中に沈殿物を形成する傾向にある。
2.さらには、相分離またはいわゆる「相形成(phasing)」が起こる可能性がある。すなわち、配合物の保管中に、樹脂/金属酸化物混合物のフロキュレーションが起こる可能性がある。
【0005】
ポリクロロプレン系接着剤に酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛を添加することは公知の従来技術である。このような金属酸化物が存在すると、接着剤の保存性および接着結合の安定性に有利な効果が得られる。この効果は、保管中のポリクロロプレンから脱離する傾向にある少量の塩化水素に対し、前記金属酸化物がその受容体の役割を果たすという事実に基づいている。
【0006】
酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛は、ゴム含有量を基準としてそれぞれ約4%づつ添加すると有利であることが判っている。
【0007】
この酸化物に替えて、これらの金属の炭酸塩が用いられる場合もある。接着剤中の炭酸亜鉛は、酸化亜鉛よりも見た目が透明である。
【0008】
以前は、例えば接着剤を製造する前にポリクロロプレンが素練りされ、ローラーまたはインターナルミキサーを用いて酸化物が練り込まれていた。素練りされたポリクロロプレンと一緒に素練りされていないポリクロロプレンを使用する場合は、素練りされた成分に酸化物を添加していた。金属酸化物含有量の高いポリクロロプレン/金属酸化物混合物(マスターバッチ)を製造し、このマスターバッチを接着剤混合物に必要量添加することも可能であった。しかし、コストの問題から、この方法は現在ではほとんど使用されていない。
【0009】
現在は、素練りされていないポリクロロプレンのみが使用され、酸化物および炭酸塩は、通常、塗料産業で慣用されている機械を用いて前もってペースト化されている。
【0010】
上述の方法では、沈降および相形成が起こりにくい保存可能なポリクロロプレン接着剤、特に、低粘度の接着剤配合物を製造することができない。粘度を高くすることによって耐沈降性を改善することは基本的には可能である。しかし、このようにすると、組成物の適用が一層難しくなるという欠点がある。
【0011】
従来技術におけるポリクロロプレン接着剤のHCl脱離に対する耐性についてもまだ改善の余地がある。
【0012】
ポリクロロプレン接着剤に樹脂を添加することも知られている。熱反応性フェノールまたはアルキルフェノール樹脂をポリクロロプレン接着剤の製造に使用すると、これらの樹脂と酸化マグネシウムとが有機溶剤に容易に溶解する高融点錯体化合物を形成するため、接着結合の耐熱性を向上させることが可能となる。
【0013】
金属酸化物とアルキルフェノール樹脂との錯体形成は、溶剤としてのトルエン中でMgOを用いた場合に特に速やかに起こり、この反応は少量の水(樹脂を基準として約1%)を用いることによって大幅に促進される。この方法を用いると、有機溶剤に可溶な錯体が形成され、その表面に変性されたMgOが形成されるため、もはやMgOは沈殿を形成することができなくなる。この錯体形成についての説明を(非特許文献1)に見ることができる。
【0014】
しかし、このMgO/樹脂反応は、ZnOには若干適用できる程度でしかない。ZnOは、アルキルフェノール樹脂との錯体形成反応には本質的に不活性であることが知られている((非特許文献2)参照)。
【非特許文献1】アール・ギャレット(R.Garrett)、アール・ディー・ローレンス(R.D.Lawrence)、Adhesion Jg.、第12巻、296頁、1966年
【非特許文献2】アール・ヨルダン(R.Jordan)、アール・ヒンターヴァルトナー(R.Hinterwaldner)、「Klebharze(接着性樹脂)」、124頁、1994年、ヒンターヴァルトナー出版、ミュンヘン(Munich)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって本発明は、改善された安定性、特に、改善された耐沈降性、改善された耐相形成性、および改善された耐脱HCl性を有するポリクロロプレン接着剤組成物を提供するという課題に基づくものであった。さらに本発明は、ZnOを用いて耐熱性の高い接着剤配合物を得ることができるように、いわゆる老化防止剤として用いられるZnOがフェノールまたはアルキルフェノール樹脂とも錯体を形成できるようにするという課題に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くべきことに、本特許出願の発明者らは、特に微細化された酸化亜鉛の無極性溶剤分散体を用いることによって上述の課題を解決することに成功した。本発明による酸化亜鉛のナノ分散体を用いることによって保存安定性を有する接着剤配合物を得ることが可能となる。反応性フェノールまたはアルキルフェノール樹脂の存在下においては錯体が形成される。
【0017】
溶剤を含有するポリクロロプレン接着剤配合物と本発明によるZnOナノ分散体とを組み合わせることによって、沈降が起こらず、かつ、反応性フェノールまたはアルキルフェノール樹脂を組み合わせることによって接着後に高い耐熱性が得られる接着剤を形成する接着剤を製造できることが見出された。
【0018】
したがって、本発明は、
a)ポリクロロプレンと、
b)1種またはそれ以上の有機溶剤と、
c)平均粒度が150nm未満の酸化亜鉛粒子と、
を含む組成物に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明によれば、ポリクロロプレン(PCP)には、(ポリ(2−クロロ−1,3−ブタジエン))以外にも、エチレン性不飽和コモノマーを用いて製造される、クロロプレンを含むコポリマーも含まれるものと理解されたい。ポリクロロプレンの製造はかなり以前から知られており、通常は、アルカリ性水性媒体中におけるエマルジョン重合によって実施される。「ウルマン工業化学百科事典(Ulmanns Encyclopaedie der technischen Chemie)」、第9巻、366頁、1957年、「ウーバン・ウント・シュヴァルツェンベルク(Urban und Schwarzenberg)」出版、ミュンヘン/ベルリン(Munich/Berlin);ポリマー科学技術百科事典(Encyclopedia of Polymer Science and Technology)」、第3巻、705〜730頁、1965年、ジョン・ウイレー(John Wiley)、ニューヨーク(New York);「有機化学の方法(Methoden der Organischen Chemie)」、(ハウベン−ヴァイル(Houben−Weil))、第XIV巻、第1部、738頁以下参照、1961年、ゲオルグ・ティエメ(Georg Thieme)出版、シュトットガルト(Stuttgart)を参照されたい。
【0020】
PCPを製造するための乳化剤としては、エマルジョンを十分に安定化させるあらゆる化合物およびその混合物が基本的に好適であって、例えば水溶性塩、特に長鎖脂肪酸のナトリウム、カリウム、およびアンモニウム塩、ロジンおよびロジン誘導体、比較的高分子量のアルコール硫酸エステル、アリールスルホン酸、アリールスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、ポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシド系の非イオン性乳化剤、ポリビニルアルコール等の乳化用ポリマー等が挙げられる(DE−A 2307811、DE−A 2426012、DE−A 2514666、DE−A 2527320、DE−A 2755074、DE−A 3246748、DE−A 1271405、DE−A 1301502、米国特許第2,234,215号明細書、および特開昭60−31510号参照)。
【0021】
ポリクロロプレンは、適切な配合および加硫を経て市販のゴム物品の製造に使用されるか、またはコンタクト型接着剤の原料として使用されるかのいずれかである(接着剤便覧(Handbook of Adhesives)、第21章、第2版、1977年、ヴァン・ノストランド・ラインホルド(Van Nostrand Reinhold)、ニューヨーク)。
【0022】
接着剤の製造に使用されるポリクロロプレンは、主に、低温(15℃未満)下でエマルジョン重合を行うことによって得ることができる結晶性の高い種類のものである。これを用いて製造された接着剤は、初期強度が高く、かつ速やかに硬化する接着結合を生じさせる。このような特性は、接着結合に高い物質的な応力(material stress)が加わるあらゆる場合、例えば、製靴業において湾曲の大きな靴底を接着したり、家具製造業において曲面を接着したり、特に、接着後すぐに物品を次の加工に移さなければならない場合(例えばベルトコンベア上など)などにおいて特に重要である。
【0023】
本発明により使用される好ましいポリクロロプレンは、23℃における溶液粘度(トルエン中、10重量%)が50〜7000mPasとなるタイプのものである。
【0024】
本発明による組成物はさらに、1種またはそれ以上の有機溶剤を含む。有機溶剤とは、炭素を含む溶剤である。ポリクロロプレン系の接着剤は、多くの有機溶剤および混合溶剤に可溶である。したがって、本発明の組成物中においてポリクロロプレンは溶解された形態で存在する。接着剤の製造に使用される溶剤または混合溶剤は、商業的および技術的要素に基づき選択される。特に考慮すべきなのは、溶剤が、
− 接着剤の粘度、
− 接着剤と添加される架橋剤との相容性、
− 低温保管時の接着剤の性状、
− 樹脂を含有する接着剤を保管した際の相分離の発生、
− 被着面に対する濡れ、
− 接着剤皮膜の乾燥、
− 接着剤皮膜のコンタクト接着時間、
− 接着結合の硬化速度、
に大きく影響することである。
【0025】
上述した接着剤の技術的特性への影響以外にも、溶剤の生理学的影響および可燃性も考慮する必要がある。
【0026】
好適な溶剤としては、極性および無極性溶剤が挙げられる。本発明によれば極性溶剤は、20℃における水中への溶解度が、水の量を基準として0.1重量%を超えるものである。このような溶剤としては、例えば、ハロゲン化脂肪族炭化水素、脂肪族エステル(酢酸エチル等)、脂肪族ケトン(アセトン、メチルエチルケトン等)、およびアルコール(n−ブタノール等)が挙げられる。好ましくは、極性溶剤は、脂肪族または芳香族炭化水素と室温下で相分離することなく、好ましくは任意の所望の混合比で混和するものである。
【0027】
本発明のZnO分散体は好ましくは本発明の組成物の製造に使用されるため、本発明によるポリクロロプレン接着剤組成物は、以下に説明するZnO分散体の製造に使用される種類の少なくとも1種の無極性溶剤を含むことが好ましい。本発明によれば「無極性溶剤」とは、水と本質的に混和しない、すなわち、20℃における水中への溶解度が、水の量を基準として0.1重量%未満のものと理解される。逆に言えば、例えば、20℃において水はこの種の溶剤に0.1重量%未満溶解する。好ましい溶剤/媒体はさらに、誘電率(DC)が5未満、特にDCが3未満のものである。例えば、以下に示すものを用いることができる:様々な鎖長、分岐度、および分子量を有する脂肪族炭化水素および/または芳香族炭化水素、パラフィン系、ナフテン系、および芳香族系の油およびワックス、ならびに長鎖のエステル、アルコール、ケトン、エーテル、ハロゲン化脂肪族および/または芳香族炭化水素、ならびにこれらの組合せ/混合物。ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の、脂肪族、分岐、直鎖、環式、または芳香族の炭化水素およびソルベントナフサ等の混合物が好ましい。
【0028】
本発明によれば、上述した極性および無極性溶剤の混合物が特に好ましい。好ましい混合溶剤は、脂肪族エステルまたはアルコールと、脂肪族および芳香族炭化水素とから構成されるものである。
【0029】
本発明による組成物は溶剤系の組成物である。したがって、これらは基本的には水を含まない。しかしこれらは、最高で約1重量%、好ましくは最高で約0.5重量%の量の水を含んでいてもよい。
【0030】
本発明による組成物はさらに、平均粒度が150nm未満、好ましくは100nm未満、より好ましくは50nm未満の酸化亜鉛粒子を含む。酸化亜鉛粒子は球形ではないので、平均粒度は平均粒径とは異なるものを指す。
【0031】
酸化亜鉛粒子は、本発明の組成物中にいわゆる一次粒子の形態および凝集体の形態の両方で存在してもよい。本発明によれば「ZnO粒子の平均粒度」という用語は、超遠心分離によって測定される平均粒度を指し、一次粒子および存在し得る任意の凝集体の大きさが含まれる(エイチ・ジー・ミュラー(H.G.Mueller)、Prog.Colloid Polym.Sci.、第107巻、180〜188頁、1997年参照)。この値は重量平均値を示す。
【0032】
超遠心分離によって測定された、ZnO粒子の重量平均による平均粒度は、最大で150nm、好ましくは最大で100nm、特に好ましくは最大で50nmであり、好ましくは、粒子全体の少なくとも90重量%は200nm未満、好ましくは150nm未満、特に好ましくは100nm未満である。
【0033】
平均粒度が150nmを超えると、沈降の恐れが生じるだけでなく、ZnOの活性が低くなって実質的にフェノール樹脂と反応しなくなるため、不利である。
【0034】
国際公開第00/50503号パンフレットに従いTEM写真(透過型電子顕微鏡写真)を用いてZnO一次粒子の計数および統計分析を行うことによって数平均粒度を測定することも可能である。既に上述したが、「一次粒子」という用語は、DIN53206;1992−08に準じ、好適な物理的操作によって個別の粒子と認識できる粒子を指す。一次粒子の平均粒度は、最大で100nm、好ましくは最大で50nm、より好ましくは最大で30nm、よりさらに好ましくは最大で15nmである。
【0035】
好ましくは、酸化亜鉛粒子は、平均粒度が150nm未満の酸化亜鉛粒子が少なくとも1種の無極性有機溶剤中に分散されたZnO分散体の形態で本発明の組成物に添加される。その理由は以下の通りである。ポリクロロプレンを溶解するためには、実際のところ、無極性有機溶剤が不可欠である。従来技術において記載されている、ZnOを極性有機溶剤中に分散させた分散体を、ポリクロロプレンの無極性溶剤溶液中に添加すると、通常は、分離または相分離が起こってしまう。
【0036】
酸化亜鉛のナノ分散体を様々な用途に使用することは公知の従来技術である(例えば国際公開第02/083797号パンフレットを参照されたい)。
【0037】
平均粒度が100nm未満の酸化亜鉛の水性分散体の製造は様々な刊行物に記載されている。
I)例えば国際公開第95/24359号パンフレットには、平均粒径が100nm未満、好ましくは20〜60nmの酸化亜鉛凝集体を含む水性分散体が記載されている。このような分散体は、例えば国際公開第95/24359号パンフレットに記載されている方法によって、例えばポリアクリル酸等の分散剤の存在下で粉砕することによって製造することができる。
II)例えば国際公開第00/50503号パンフレットには、一次粒径が15nm以下の酸化亜鉛のゲルを再分散させることによって製造される酸化亜鉛ゾルが記載されている。好適な溶剤は、水または水/エチレングリコール混合物であり、場合により表面改質用化合物が添加される。
III)例えば国際公開第02/083797号パンフレットには、平均一次粒径が30nm未満であり、平均凝集体径が200nm未満である酸化亜鉛ゾルが記載されている。
IV)例えばDE−A 10 163 256には、オリゴ−またはポリエチレングリコール酸で表面改質を行うことによって得ることができる酸化亜鉛分散体が記載されている。
【0038】
また、平均粒度が100nm未満の酸化亜鉛の極性有機溶剤分散体の製造が文献に記載されている。
I)なかでも国際公開第00/50503号パンフレットには、酸化亜鉛ナノ粒子のゲルを、好ましくは双極性/非プロトン性溶媒、例えばジクロロメタンおよび/またはクロロホルム中に再分散させることによる、酸化亜鉛ゾルの製造が記載されている。
II)DE 10 163 256には、アルコールやアセトン等の極性溶剤中においてオリゴ−またはポリエチレングリコール酸を用いて表面改質を行うことによって得ることができる酸化亜鉛の分散体が記載されている。
【0039】
本発明により使用される酸化亜鉛の無極性有機溶剤分散体の製造については、過去に記載されたことがなかった。
【0040】
上述した方法は、長期間安定な酸化亜鉛ナノ粒子の無極性有機溶剤または他の無極性媒体(例えば炭化水素樹脂等)分散体を製造するのには適していない。酸化亜鉛粒子表面の性質が極性であるため、不可逆な凝集を防止して分散性を得るためには、粒子を極性媒体中で生成させて、この媒体中で粒子を安定化させることが必要である。
【0041】
したがって、本発明の基礎となった課題は、極性媒体(溶剤および/または水)中で生成させた酸化亜鉛粒子を無極性媒体(溶剤または他の無極性マトリクス)中に移動させて、不可逆凝集を起こすことも分散体を不安定化させることもなくこれらを上記媒体中に分散させることにあった。
【0042】
問題は特に、本発明による無極性媒体と上述の極性媒体とが混ざり合わずに2つの相を形成することにある。したがって、粒子を極性相から無極性相に移動させるためには相の転換を行うことが必要である。これは例えば、液/液相間移動または固/液相間移動によって可能となる。
【0043】
したがって、本発明による方法において、酸化亜鉛粒子が、安定化している極性相から離脱しても不可逆的な凝集を起こすことなく、無極性相内に入り込む際に再分散されることは驚くべきことである。
【0044】
上で既に説明したが、本発明による無極性溶剤または無極性媒体とは、水と混和しないもの、すなわち20℃における水中への溶解度が0.1%未満であり、20℃において水が0.1%未満溶解するものである。この種の溶剤/媒体は、好ましくは、誘電率が5未満、特にDCが3未満のものである。例えば以下に示すもの;様々な鎖長、分岐度、および分子量を有する脂肪族炭化水素および/または芳香族炭化水素、パラフィン系、ナフテン系、および芳香族系の油およびワックス、ならびに長鎖のエステル、アルコール、ケトン、ハロゲン化脂肪族および/または芳香族炭化水素、ならびにこれらの組合せ/混合物を用いることができる。
【0045】
本発明によれば、酸化亜鉛の無極性溶剤/媒体分散体は、例えば国際公開第00/50503号パンフレットに記載されているようにして製造された酸化亜鉛ゲルを、場合により分散剤および/または安定剤を用いて再分散させて、貯蔵可能な非沈降性のZnO無極性有機溶剤分散体を形成させることによって製造される。
【0046】
国際公開第00/50503号パンフレットには、効果的に分散する酸化亜鉛ゲルを得るためには、特に、高密度充填化(compaction)を行うことが必須要件であると述べられている。これは、周囲のマトリクス成分を可能な限り完全に分離することであると説明される。ところが、このようなゲルの酸化亜鉛の重量含有率はわずか80%未満であると記載されている。酸化亜鉛の密度は5.6g/cmであり、メタノールの密度は0.8g/cmであるから、体積充填率としては36%未満に相当する。したがって、この粒子は、基本的にはマトリクス中において互いに別々に分離されているか、あるいは少なくともマトリクスの殻に囲まれていると推測できる。
【0047】
本発明の実施例において用いられるゲルは、国際公開第00/50503号パンフレットに記載されている酸化亜鉛ゲルとは大きく異なり、固形分がゲルの重量を基準として80%超、好ましくは90%超〜95%超である。極性(メタノール性)マトリクスが無極性マトリクスと混和しないことから、無極性溶剤への相間移動にはこのような高い固形分量が必要となる。これは、ここで説明するゲルに関しては、体積充填率が36%超、好ましくは56%超〜73%超であることに相当する。このような高い充填度においては、もはや粒子はマトリクスによって完全に互いに分離されることはなく、粒子同士の直接接触が少なくともある程度形成されていることが推測されるであろう。このことは、このようなゲルがもはや相当な力を作用させなければ再分散できないことを意味するであろう。したがって、本発明により、このようなゲルを無極性有機溶剤中に問題なく完全に再分散させることができることは驚くべきことである。
【0048】
酸化亜鉛ゲルの水性分散体の使用に加えて、さらに本発明は、例えば国際公開第00/50503号パンフレットに従って製造可能な固形分80%未満の酸化亜鉛ナノ粒子のゲルを、固形分が80%超、好ましくは90超〜95%超となるようにさらに高密度充填化することに関する。こうすることによって、無極性媒体中への簡単で自発的な再分散性を得ることが可能となり、それと同時に、国際公開第 00/50503に記載されているような低充填密度における極性溶剤および水への簡単で自発的な再分散性が確保される。
【0049】
本発明による酸化亜鉛ナノ粒子の分散体は、例えば国際公開第00/50503号パンフレットに従い製造される、極性有機溶剤中の固形分が80%未満である対応するゲルを、本発明に従い、不可逆的な粒子同士の接触が形成されないようにしながら、遠心、フロキュレーション、抽出、もしくは蒸留、または粒子周囲のマトリクスを除去するその他の任意の所望の方法によってさらに高密度充填化することによって製造される。これは、以下に示すステップによって適切に実施される。
1.高密度充填化を行う前に、マトリクス中に溶解している、不安定化を招く反応性を有する共存物質および特に塩を事前に適切に実質的に分離しておく(この分離は、上述した望ましくない成分を含む相を分離することによって行うこともできる)。
2.ZnO粒子の生成および処理(working−up)を行う際の温度を、適切には100℃未満、好ましくは80℃未満、特に好ましくは60℃未満に制限することによって粒子の反応性を低下させる。
【0050】
本発明により得られるZnO分散体には、分散剤を添加してもよい。好適な分散剤は、無極性媒体中に少なくとも一部、例えばZnOの1g当たり0.01〜1mmolの量が可溶な長鎖(C5〜C20)カルボン酸およびスルホン酸である。好ましい分散剤は、例えばオレイン酸等の長鎖(C5〜C20)カルボン酸である。さらに、例えば1価もしくは多価アルコールまたはポリエーテル等の安定剤も、本発明により使用されるZnO分散体に添加することができる。
【0051】
本発明によるZnO分散体の特に好ましい変形形態は、少なくとも1種のフェノール樹脂と反応させることによって得られるものである。フェノール樹脂は、フェノールをアルデヒド、特にホルムアルデヒドと縮合させるか、結果として得られる縮合物を誘導体化するか、またはフェノールを天然樹脂等の不飽和化合物に付加させることによって得られる合成樹脂である。本発明によれば、好ましくは、フェノールとアルデヒドとの縮合物が使用される。フェノール成分としては、フェノール以外にも、好ましくはアルキルフェノール(クレゾール、キシレノール、ノニル−およびオクチルフェノール)およびアリール誘導体および水酸基を2個有するフェノールが用いられる。アルキルフェノール樹脂が特に好ましい。好ましい変形形態においては、これらは本発明によるZnO分散体に添加され、室温または高温下で反応に付される。驚くべきことに、本発明によるZnO分散体においては、MgOの場合と全く同じように可溶なZnO錯体が形成され、しかも驚くべきことに、ZnOナノ粒子の沈降を防ぐ表面改質が起こる。
【0052】
本発明によるポリクロロプレン組成物は、接着剤に慣用されているd)助剤および/または添加剤をさらに含んでもよい。この種の助剤および/または添加剤としては、例えば以下に示すものが挙げられる。
【0053】
充填剤
最も広い種類の充填剤を任意の所望の量でポリクロロプレン接着剤に添加してもよい。高充填された混合物は、主に隙間を埋める種類の合着セメント(luting clay)となる。好適な充填剤としては、例えば、カオリン、チョーク、バライト、石英粉、アスベスト粉、カーボンブラック、およびシリカが挙げられる。
【0054】
通常、添加剤は、ポリマー含有量を基準として約50〜100%使用される。例えばこのような接着剤にはカオリンまたはチョークが添加される。これらは床仕上げ材の接着に使用されるものである。
【0055】
カーボンブラックおよびシリカ充填剤は接着膜の凝集力を増大させるが、カーボンブラックはその色のために稀なケースにしか使用できない。シリカ充填剤の量を多くし過ぎると圧着性が損われてしまい、接着が全体にわたって生じなくなる。
【0056】
しかしながら、充填剤を可能な限り微細に分布させることが必要であれば、ローラー、あるいはより優れたインターナルミキサーを用いてこれらを混合する必要がある。塗料に慣用されている機械を用いてペースト化を行うことも可能である。
【0057】
接着剤を任意の特定の色調に着色する必要がある場合は、有彩色顔料を充填剤と同様の方法で混合することができる。
【0058】
樹脂
金属酸化物をほとんど含まない、結晶性の高い種類のポリクロロプレンの溶液を使用した場合は、たとえさらなる添加剤を用いなくても高強度の配合物が得られる。このような接着剤は速硬性を示す。しかし、コンタクト接着時間が短くなることは有利なことではない。
【0059】
樹脂を添加することによって、コンタクト接着時間を広範囲に調節することが可能となり、かつ硬化時間を速めることができる。ポリクロロプレンの最終的な結晶化状態は、実質的に樹脂によって損なわれることはなく、したがって凝集力の高い接着膜が得られる。樹脂には、液状、可塑性、硬質、および脆質のものが存在する。接着膜が被着材に適合するように弾性を増加または低下させる目的でこれらを使用してもよい。この樹脂は、粘度を著しく増加させることなく溶解させることが可能である。したがって、これらを接着剤中に比較的多量に含有させることができる。
【0060】
多くの天然および合成樹脂、例えば、未変性、水添、および二量化されたロジンのエチレン、グリセロール、およびペンタエリスリトールエステル等がポリクロロプレン溶液との相容性という基本的な要件を満たしている。低分子量フェノール/ホルムアルデヒド縮合物とロジンとのエステル化によって得られる種類の、フェノール樹脂で変性されたロジンエステルや、テルペンフェノールおよびクマロン樹脂にも同様のことが当てはまる。特に重要なのは、既に上述したようにアルキルフェノール(例えばブチルまたはオクチルフェノール等)とホルムアルデヒドとからアルカリ性媒体中において得られる熱反応性アルキルフェノール樹脂とこれらが相容性を有することである。
【0061】
本発明の好ましい変形形態において、組成物は、好ましくは、少なくとも1種の追加のポリマーまたは樹脂を含む。この樹脂は、好ましくはアルキルフェノール/ホルムアルデヒド樹脂、例えばアルレーゼン(Alresen)(登録商標)PA565、SP134(シェネクタディ(Schenectady))等の市販されている種類のものである。
【0062】
この樹脂は、通常、ポリクロロプレンを基準として約10〜50%の量で添加されるが、より多くの量を使用してもよい。
【0063】
コンタクト接着時間を長くすることを目的として、とりわけ、テルペンフェノール樹脂、低融点ロジンエステル、およびクマロン樹脂を使用してもよい。高融点ロジンエステルまたは熱反応性アルキルフェノール樹脂を用いると、接着の速硬化、すなわち可能な最短時間での最終強度、が得られるが、それによりコンタクト接着時間が短くなってしまう。
【0064】
塩化ゴム
ポリクロロプレン接着剤製造用の粘着付与剤として、テルペンフェノール樹脂、低融点ロジンエステル、および/またはクマロン樹脂を使用した場合、塩化ゴムを5〜10部添加することによって結合の初期強度を大幅に増大させることが可能である。塩化ゴムは一般に使用されているものである。
【0065】
老化防止剤
ポリクロロプレン自体は、接着剤製造に使用される多くの樹脂と比較すると耐老化性が非常に高い。ロジンエステル、クマロン樹脂、およびテルペンフェノール樹脂は不飽和化合物であるため、時間の経過とともに酸化される。このことはまず、接合部の辺縁部の接着剤層が脆化または軟化することによって現れ、最終的には接着結合が完全に破壊される可能性がある。好適な酸化防止剤を添加することによって、ポリクロロプレン接着結合の老化を防止することができる。
【0066】
バルカノックス(Vulkanox)(登録商標)KB、バルカノックス(登録商標)DS、バルカノックス(登録商標)BKF等の立体障害フェノール(ヒンダードフェノール)は、樹脂を含有するポリクロロプレン接着剤に最適である。これらの酸化防止剤の量がポリマーを基準として2%であれば有効な保護が得られる。またこれらは、光および接触の影響によって変色する傾向が低い。バルカノックス(登録商標)BKFは、例えば家具分野における接着結合に必要とされるように、特に長期にわたって老化を防止する。
【0067】
また、本発明に従い添加されるZnOは老化防止剤として作用し、特に、ZnClを形成することによってHCl吸収剤として作用する。ZnClはポリクロロプレンの望ましくない架橋を触媒するため、好ましくは、オキシクロライドを形成することによってZnClを不活性化するMgOを添加する。
【0068】
ポリイソシアネート系架橋剤
ポリクロロプレンが結晶性の高い種類のものである場合、これが結晶化することによって接着結合の凝集力が著しく増大する。しかし、この結晶化は温度に依存する。接着膜は熱の作用下において非晶質化し、したがって強度が低下する。接着剤に熱反応性フェノール樹脂を添加すると、熱の影響に対する接着結合の耐性が改善される。これにより、耐熱性は約100〜110℃に上昇する。
【0069】
より高い耐熱性が求められる場合は、適用前の接着剤溶液に、例えばデスモジュール(Desmodur)等のポリイソシアネートを添加することが必要である。ポリイソシアネートを添加すると、架橋が即座に開始されることから直後の接着結合強度が増大し、硬化がより速くなる。さらに、ポリイソシアネートを添加することによって、接着が困難な多くの基材への接着力が向上する。
【0070】
ポリイソシアネートを添加した接着剤は、ゲル形成が起こる程度まで反応が進行する前に、数時間以内に適用する必要がある。
【0071】
本発明による好ましい組成物は、
a)ポリクロロプレンを4.95〜59.95重量%、好ましくは15〜45重量%と、
b)1種またはそれ以上の有機溶剤を40〜95重量%、好ましくは50〜80重量%と、
c)平均粒度が150nm未満の酸化亜鉛粒子を0.05〜10重量%、好ましくは1〜5重量%と、
d)1種またはそれ以上の従来の接着助剤および/または添加剤を0〜55重量%、好ましくは0〜30重量%と、
を含む。
【0072】
本発明による特に好ましい組成物は、
a)23℃における10%トルエン溶液粘度が50〜7000mPasであるポリクロロプレンを5〜50重量%と、
c)表面改質化合物をさらに含んでいてもよい無極性有機溶剤分散液の形態であり、且つ、凝集していないZnO一次粒子、またはZnO凝集体、またはZnO一次粒子およびZnO凝集体が分散した混合物のいずれかから粒子が構成されていることができる150nm未満の平均粒度を有するZnOを、ポリクロロプレンの量を基準として0.1〜10重量%と、
d)さらなる接着助剤および添加剤と、
を含む。
【0073】
さらに本発明は、本発明による組成物を製造するための方法であって、以下のステップ、
i)少なくとも1種の無極性有機溶剤を用いて本発明によるZnO分散体を調製するステップと、
ii)1種またはそれ以上の有機溶剤中に溶解されたポリクロロプレンを含む組成物を調製するステップと、
iii)ステップi)およびii)において調製された組成物を混合するステップと、
iv)場合により、従来の接着助剤および/または添加剤を添加するステップと、
v)場合により、追加の有機溶剤を添加するステップと、
を含む、方法に関する。
【0074】
ステップi)は、製造後のZnO分散体をフェノール樹脂またはアルキルフェノール樹脂と反応させることをさらに含んでもよい。
【0075】
本発明の組成物の製造には、最も多様なタイプの機械が用いられる。原則として、使用される機械は、接着剤成分を粉末化して溶解させる撹拌または混練装置である。
【0076】
本発明の好ましい変形形態においては、本発明の組成物を製造する際に、まず溶剤の規定量全体のうちの一部(約80%または90%)のみを溶解機に導入し、製造工程終了後に残りの溶剤を添加することによって必要な粘度に調節できる。
【0077】
最初に導入した溶剤に、ポリクロロプレンおよび金属酸化物、特にZnO分散体、充填剤、樹脂、ならびに老化防止剤を撹拌しながら順次添加する。
【0078】
さらに本発明は、本発明による組成物を接着剤またはシーラントとして使用することに関する。
【0079】
さらに本発明は、接着された基材(bonded substrates)を製造するための方法であって、少なくとも1種の本発明による組成物を少なくとも1種の基材の少なくとも1つの面に適用することと、次いでこのコーティングされた基材を、場合によりコーティングされた少なくとも1種のさらなる基材に接着することと、を含む方法と、この方法により得られる接着された基材とに関する。
【0080】
接着剤配合物の適用は、公知の方法、例えば、ブラッシング、流し込み、ナイフコーティング、スプレー、ロール、またはディップコーティングによって実施してもよい。接着剤フィルムの乾燥は、室温または高温下で実施することができる。
【0081】
〔産業上の利用可能性〕
本発明による配合物は、例えば同一または異なる種類の任意の所望の基材同士、例えば、木材、紙、プラスチック、織物、皮革、ゴム、または無機素材(セラミック、陶磁器、ガラス繊維、セメント等)を貼り合わせるための接着剤として使用することができる。
【0082】
ポリクロロプレン系コンタクト型接着剤は主に溶剤を含有する接着剤であり、接着させる両方の部分に適用してから乾燥させる。次いで、この両方の部分を押圧しながら接合させることによって、室温下で、そして、対応する高融点樹脂を添加した場合は高温下(耐熱性)においても高強度を有する結合が得られる。
【0083】
このように単純かつ速やかに接着作業を実施することを可能にする接着剤が商業的に極めて重要であることが理解されるであろう。そのため、ポリクロロプレン接着剤は、例えば製靴業または家具製造業などの、個々の要求に応じた様々な形状や大きさの物品を少量で製造したり大量に製造する必要があるあらゆる分野において使用される。同じく主要な使用分野の一つは、例えば、複雑な機械を使用せずにその場で接着作業を実施する、すなわち内装の取付けや床仕上げ材の敷設といった組み立て作業の形態をとる必要がある、建設業や造船所である。
[実施例]
【0084】
1.出発物質
【0085】
【表1】

【0086】
2.酸化亜鉛ナノ分散体の作製
本発明による実施例A
平坦なフランジを有する4L容の容器に、まず室温でメタノール1820gおよび水130gを導入した後、200rpmで撹拌しながらZnOを238g(2.925mol)を加える。次いで、この反応混合物を50℃に加熱し、滴下漏斗を介して氷酢酸355g(5.915mol)を15分間かけて加える(滴下は45℃で開始する)。これにより温度は55℃に上昇する。氷酢酸の添加から1時間後、溶液は透明になり、内部温度は50℃になる。次いで、NaOH水溶液435g(NaOH含有量47.82%)を秤量し、これを30分間かけて加える(200rpm)。その間、温度は50℃から57℃に上昇する。添加完了後、温度を60℃に調節し、この混合物を1時間撹拌する。次いで、この懸濁液を室温に冷却し、撹拌機を停止する。8時間沈降させた後、透明な上清(2172g)をサイフォンで除去し、残った懸濁液に新たなメタノール1950gを加えて10分間撹拌する。さらに8時間沈降させた後、上清(1845g)を再びサイフォンで除去し、残った懸濁液に再びメタノール1950gを加えて10分間撹拌し、再び沈降させる。上清(1851g)を再びサイフォンで除去した後、沈降物として残留した懸濁液を底部の弁から排出して容器に満たす。重量:800g。
【0087】
得られた懸濁液770gに、撹拌しながらn−ヘキサン1.5kgを加える。撹拌機を停止すると即座に沈降する粘着性のあるゲルが得られる。透明な上清を分離して除去する。上清にメタノールが含まれなくなるまでこの工程をさらに2回繰り返す。固形分81%のZnOゲル260gが得られる。次いでこのゲルに、オレイン酸35.8g(ZnO 1g当たり0.6mmol)を含むn−ヘキサン616gを加え、この混合物を10分間撹拌する。次いでこの混合物を分液漏斗に入れる。水相(酢酸ナトリウム溶液)約5gを分離し、有機相を孔径1μmのフィルターで濾過する。収量:778g。
【0088】
分析測定から、酸化亜鉛含有量が27.13%であることが判る。超遠心分離により測定された平均粒度は約65nmである。
【0089】
本発明による実施例B
実施例Aにより得られた懸濁液(MeOH560g中にZnOを240g含む)を、室温にて真空下でメタノールを除去することによって高密度充填化させることにより、酸化亜鉛固形分が90%のゲルを形成させる。次いで、トルエン526gに溶解させたオレイン酸34g(ZnO 1g当たりオレイン酸0.5mmol)をこのゲルに加えて、残りのMeOHをロータリーエバポレーターで留去する。得られた安定な乳白色の分散体を1μmのフィルターを通して加圧濾過する。
収量:546g
ZnO含有率:34.05%
室温下で4週間貯蔵した後も沈降は認められない。
【0090】
3.ポリクロロプレン接着剤溶液の製造
3.1 ワンポットプロセス
ポリマー溶液を作製するため、300ml容の瓶に以下に示す量を秤量する。
バイプレン(Baypren)(登録商標)を23.00重量部
マグライト(Magelite)(登録商標)DEを2.00重量部
酸化亜鉛分散体を1.0重量部(量は亜鉛を基準とする)
アルレーゼン(登録商標)PA565を10.00重量部
【0091】
混合溶剤である酢酸エチル/ソルベントナフサ/トルエン=2:2:1(ENT)を、ポリクロロプレンの溶液粘度に応じて、計算式、
【0092】
【数1】

を用いて計算して、加える。
【0093】
広口瓶をポリエチレンシールの付いたプラスチック製の蓋で封止する。次いで、溶解処理を行う前に、ポリマーがガラス瓶のガラス壁面や底部に張り付くのを防ぐためにこのガラス瓶を手で激しく振る。
【0094】
ゲハート・カンパニー(Gehardt company)の振とう機R020を用いて最大振とう速度で溶解処理を実施する。ポリマーが完全に溶解(目視による検査)した時点で溶解処理を終了する。振とう時間は最短で16時間である。
【0095】
検査に供する試料を、サーモスタット制御された水浴中で23.0℃±0.1℃に加温する。封止された試料容器を水浴に浸ける際は、試料の液面の深さが水浴よりも確実に低くなるように注意しなければならない。少なくとも60分後には検査のために試料を水浴から取り出す。
【0096】
次いで、接着剤混合物の粘度を1000mPas±100mPasに調節する。粘度測定は、上記瓶の中で、ブルックフィールド(Brookfield)DV II粘度計、2番のスピンドル、を用いて23℃で実施する。ENT221を加えて粘度を調整する。
【0097】
溶剤が蒸発するかまたは必要に応じて添加された場合は、ポリマー溶液を短時間手で激しく振った後、振とう機を最大回転速度にして少なくとも15分間混合する必要がある。
【0098】
粘度が900〜1100mPas(23℃)の粘度範囲に調整されるまでこの工程を繰り返す。
【0099】
粘度を調整した後、この瓶をPEシールおよびプラスチック製の蓋で封止し、室温で保管する。
【0100】
3.2 トルエン相中で樹脂とZnOとを予め反応させた後の接着剤溶液の作製
第1接着剤溶液:以下に示す成分を混合し、室温で4時間振とうする。
シェネクタディ(登録商標)SP134を34.36重量部
ZnO(酸化亜鉛分散体形態)を3.44重量部(量はZnOを基準とする)
蒸留水を0.34重量部
トルエンを61.86重量部
【0101】
第2接着剤溶液:バイプレン23部を、3.1に記載したように残りの混合溶剤に溶解する。MgOは添加しない。次いで、溶液1および2を混合する。
【0102】
3.3 熱安定性(耐HCl性)検査用接着剤溶液の作製
バイプレン(登録商標)233を10gおよび酸化亜鉛分散体0.2g(量は固体ZnOを基準とする)をトルエン90mlに溶解する。すぐに試料を抜き取り、室温で一夜乾燥させる。次いで、乾燥した試料の耐HCl性を測定する。14日間室温で保管した後、新たに試料を採取し、乾燥して耐HCl性を測定する。
【0103】
4.試験方法
4.1 沈降および相形成性試験
酸化マグネシウムを添加しないこと以外は、3項に記載したものと同じ手順を接着剤配合物の作製に用いる。
【0104】
評価
接着剤混合物のフロキュレーションおよび相分離を毎日検査し、以下の判定基準に従い評価を行う。
0=変化なし
1=著しい沈殿形成
2=初期の相分離
3=わずかな凝集(フロキュレーション)
4=著しい凝集(フロキュレーション)
5=相分離
【0105】
4.2 熱安定性(耐HCl性)測定
DIN53381の方法Bに記載されているようにして、乾燥した接着剤試料について試験を行う。
【0106】
試験の実施
試験装置:スイス国ヘリザウ(Herisau,Switzerland)9101のメトローム(Metrohm)社の763PVCサーモマット(thermomat)
【0107】
乾燥した接着剤試料(厚さ0.1〜1mm)を、端部の幅が約2〜3mmになるように裁断し、0.5gを試験管に秤量して、空気をキャリアガスとして用いて120℃で試験を実施する。形成されたHClガスが再び溶解した水の電気抵抗を測定する。電気抵抗が150μS/cmの値に到達した時点までの時間を耐HCl性とする。この値が高いほど、試験に供した試料のHCl脱離に対する耐性が高い。
【0108】
結果
沈降の判定
3.1項に記載したようにして作製を行い、標準的なZnOと本発明によるナノZnO(本発明による分散体の形態)とを比較する。短期間で保存安定性の差を判定するために、厳しい条件下で沈降および相形成試験を行う。
【0109】
【表2】

【0110】
【表3】

【0111】
配合1のZnOを配合2の本発明によるナノZnOに置き換えることで耐沈降性を有する配合物が得られる。
【0112】
【表4】

【0113】
【表5】

【0114】
【表6】

【0115】
【表7】

【0116】
熱安定性(耐HCl性)の測定
3.3項に記載したようにして試料を作製し、4.2項の方法に従い検査を行う。
【0117】
【表8】

【0118】
本発明による実施例10からわかるように、耐脱HCl性は維持されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ポリクロロプレンと、
b)1種またはそれ以上の有機溶剤と、
c)平均粒度が150nm未満の酸化亜鉛粒子と、
を含む組成物。
【請求項2】
前記有機溶剤が、少なくとも1種の無極性有機溶剤を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
d)1種またはそれ以上の、従来の接着助剤および/または添加剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
成分d)として、少なくとも1種の反応性フェノール樹脂が添加されていることを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
成分d)として、酸化マグネシウムを含むことを特徴とする、請求項3または4に記載の組成物。
【請求項6】
a)ポリクロロプレンを4.95〜59.95重量%と、
b)1種またはそれ以上の有機溶剤を40〜95重量%と、
c)平均粒度が150nm未満の酸化亜鉛粒子を0.05〜10重量%と、
d)1種またはそれ以上の従来の接着助剤および/または添加剤を0〜55重量%と、
を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
b)1種またはそれ以上の無極性有機溶剤と、
b)平均粒度が150nm未満の酸化亜鉛粒子と、
を含む組成物。
【請求項8】
前記有機溶剤b)が、脂肪族および芳香族炭化水素から選択されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
b)1種またはそれ以上の無極性有機溶剤を60〜99重量%と、
c)平均粒度が150nm未満の酸化亜鉛粒子を1〜40重量%と、
(いずれの場合もb)およびc)の総量を基準とする)を含むことを特徴とする、請求項7または8に記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも1種の分散剤を含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
少なくとも1種のフェノール樹脂を含むことを特徴とする、請求項7〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
そこに含まれる前記溶剤の95%超が有機溶剤から構成される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
請求項7〜12のいずれか一項に記載の組成物を製造するための方法であって、以下のステップ、
少なくとも1種の極性有機溶剤の存在下で、平均粒度が150nm未満の酸化亜鉛粒子を生成させるステップと、
上記ステップで得られた前記酸化亜鉛粒子の分散体を高充填密度化することによって、固形分を少なくとも80重量%にするステップと、
上記ステップで得られた前記酸化亜鉛分散体を、1種またはそれ以上の分散剤を場合により添加して、1種またはそれ以上の無極性有機溶剤で再分散させるステップと、
を含む方法。
【請求項14】
請求項7〜12のいずれか一項に記載の組成物の、溶剤を含有する接着剤組成物を製造するための使用。
【請求項15】
請求項14に記載の組成物の、溶剤を含有する接着剤組成物における老化防止剤または安定剤としての使用。
【請求項16】
溶剤を含有するポリクロロプレン系接着剤組成物を製造するための、請求項14または15に記載の使用。
【請求項17】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物を製造するための方法であって、以下のステップ、
請求項7〜12のいずれか一項に記載の組成物を調製するステップと、
1種またはそれ以上の有機溶剤に溶解されたポリクロロプレンを含有する組成物を調製するステップと、
ステップi)およびii)において調製された組成物を混合するステップと、
場合により、従来の接着助剤および/または添加剤を添加するステップと、
場合により、さらなる溶剤を添加するステップと、
を含む方法。
【請求項18】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物の、接着剤またはシーラントとしての使用。
【請求項19】
接着された基材を製造するための方法であって、請求項1〜6のいずれか一項に記載の少なくとも1種の組成物を少なくとも1種の基材の少なくとも1つの面に適用することと、次いで、前記コーティングされた基材を、場合によりコーティングされた少なくとも1種のさらなる基材に接着することと、を含む方法。
【請求項20】
請求項19により得られる接着された基材。

【公表番号】特表2007−505196(P2007−505196A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529947(P2006−529947)
【出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【国際出願番号】PCT/EP2004/005798
【国際公開番号】WO2004/106423
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】