説明

溶媒組成物

【課題】潤滑油やエタノール含有バイオ燃料などの溶媒組成物において、酸素ラジカルによる酸化的機能変質・劣化を抑制し、機能を長期に安定して維持する。
【解決手段】酸素ラジカルによる酸化的変質を受けうる物質と、酸素ラジカル除去能を有するスーパーオキシドディスムターゼ様活性を有する化合物とを含んでいる。本発明にかかる溶媒組成物においては、酸素ラジカル除去能を有するスーパーオキシドディスムターゼ様活性を有する化合物によって酸素ラジカルを除去することができ、酸化的変質を受けうる物質が酸化することを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関等に使用される潤滑剤や、燃料電池等に使用される冷媒として使用できる溶媒組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界規模的な多量の二酸化炭素排出は地球温暖化を招き、将来における地球環境の悪化や人類の生活が危惧されている。自動車燃料の燃焼による二酸化炭素排出量も無視できない。京都議定書に基づき、国際的に二酸化炭素の排出量の減少を義務化されている現在、いかに生活水準を低下させずに、二酸化炭素の排出量を抑えるかに焦点が当てられている。その第一歩として、トウモロコシやサトウキビ、古紙、廃棄物に至るまでの植物由来の材料から発酵技術によってエタノールを生産させた、いわゆるバイオエタノールを自動車燃料(ガソリン)に混合したり、あるいは100%バイオエタノールによる自動車燃料を使用し、新たな二酸化炭素の排出をなくすることで地球サイクルとしての二酸化炭素排出量を軽減することが実施され始めた。今後、自動車生産産業においては、バイオエタノール燃料の使用は避けて通ることのできない重要な課題の一つである。
【0003】
さて、自動車等の内燃機関や、自動変速機、緩衝器、パワーステアリング等の駆動系機器や、ギア等にはその作動を円滑にするために様々な潤滑油や溶媒組成物が用いられている。これら潤滑剤やフルード類に代表される溶媒組成物の劣化を防止するために、従来、酸化防止のフェノール系やアミン系等の添加剤を添加することが知られている(特許文献1参照)。すなわち、これら添加剤は、溶媒組成物中に生じる劣化物と反応することでその酸化を防止している。しかしながら、より具体的に、溶媒組成物中に生じる酸素ラジカルによって潤滑油基油等が酸化されることで不溶解性のスラッジが生成し、特許文献1に開示された技術であっても、酸化防止剤は反応と共に減少し、いずれは酸化防止効果が喪失してしまう。また、スラッジの発生を完全に抑えることはできないのでスラッジ発生に伴う機能低下は避けられない。従って、従来の技術においては、潤滑油等の溶媒組成物の機能劣化を長期間にわたって抑制する有効な手段は知られていなかった。
【0004】
この問題を解決するために、本質的に酸化劣化をもたらす原因物質である酸素ラジカルそのものを酵素的に分解できる、熱に非常に安定なスーパーオキシドディスムターゼ酵素の利用方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかし、特許文献2に開示された溶媒組成物であっても、100℃以上の温度での使用は困難であった。また、酵素は本来水溶性物質であるので、100%エタノールや潤滑油中への可溶性は低く、その用途には制限があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−179275号公報
【特許文献2】特開2008−0005797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、潤滑油やエタノール含有バイオ燃料などの溶媒組成物において、酸素ラジカルによる酸化的機能変質・劣化を抑制し、機能を長期に安定して維持することができる溶媒組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成した本発明は以下を包含する。
すなわち、本発明にかかる溶媒組成物は、酸素ラジカルによる酸化的変質を受けうる物質と、酸素ラジカル除去能を有するスーパーオキシドディスムターゼ様活性を有する化合物とを含んでいる。本発明にかかる溶媒組成物においては、酸素ラジカル除去能を有するスーパーオキシドディスムターゼ様活性を有する化合物によって酸素ラジカルを除去することができ、酸化的変質を受けうる物質が酸化することを防止することができる。
【0009】
本発明に係る溶媒組成物において、上記化合物は、芳香族化合物又はポルフィリン化合物と金属原子との複合体とすることができる。ここで上記金属原子としてはマンガン原子を挙げることができる。本発明に係る溶媒組成物において、上記化合物としては、特に限定されないが、7-ヒドロキシフラボンのマンガン複合体、マンガン(III)テトラキス(4-安息香酸)ポルフィリンクロライド、マンガン(III)テトラキス(1-メチル-2-ピリジル)ポルフィリン及びマンガン(III)メソ-テトラキス(N-メチル-2-ピリジル)ポルフィリンペンタクロライドからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を挙げることができる。
【0010】
本発明において、上記酸化的変質を受けうる物質としては潤滑剤成分や冷媒成分を挙げることができる。換言すると、本発明にかかる溶媒組成物は潤滑剤や冷媒として使用することができる。
【0011】
特に、本発明は、バイオ燃料系や潤滑油等をはじめ、バイオエタノール燃料の使用時における自動車機能の維持に必須であるすべてのフルード類と油剤類に適用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、酸化的変質を受けうる物質を含有する溶媒組成物において、当該物質の酸化的変質を、例えば高温条件下であっても長期間防止することが可能となる。これにより、本発明にかかる溶媒組成物は、その機能を低減することなく、例えば高温条件下で長期間にわたって使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例で使用したSODミメティックス化合物の化学構造及び分子量を示す図である。
【図2】Mn-cpx3、Mn-TBAP、Mn-TMPyP、Mn-TM-2-PyPの4種類のSODミメティックス化合物の水中と無水エタノール中における相対活性を測定した結果を示す特性図である。
【図3】Mn-cpx3、Mn-TBAP、Mn-TMPyP、Mn-TM-2-PyPの4種類のSODミメティックス化合物の水中における50℃と60℃での熱安定性の経時変化を示す特性図である。
【図4】Mn-cpx3、Mn-TBAP、Mn-TMPyP、Mn-TM-2-PyPの4種類のSODミメティックス化合物の無水エタノール中における50℃と60℃での熱安定性の経時変化を示す特性図である。
【図5】Mn-TMPyPとMn-cpx3について植物性食用油中での熱安定性を示す特性図である。
【図6】Mn-cpx3についてエチレングリコール中とエンジンオイル中での熱安定性を示す特性図である。
【図7】図5及び6に示した結果を纏めて示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明は、酸素ラジカルによる酸化的変質を受けうる物質を含み、特定の用途に使用される溶媒組成物に広く適用される。ここで、酸素ラジカルによる酸化的変質を受けうる物質としては、例えば、エタノールを含有する燃料成分、特に、バイオエタノールを含有するバイオ燃料成分、鉱油等の潤滑油基油成分、マイクロエマルジョン等の水系潤滑剤成分、エチレングリコール等の冷媒成分、等を挙げることができる。また、これら物質以外にも、リン酸エステル、シリコーン油、水-グリコール混合物といった物質を挙げることができる。これら各物質は、酸素ラジカルによる酸化的変質を受けることによって、潤滑油基油としての機能、水系潤滑剤としての機能、冷媒成分としての機能が毀損されることとなる。
【0015】
また、本発明にかかる溶媒組成物の用途は、上述した物質が有する機能に依存することとなる。すなわち、上記物質として鉱油等の潤滑油基油成分を使用する場合には潤滑油として使用され、上記物質としてエチレングリコール等の冷媒成分を使用する場合には冷媒として使用され、上記物質としてマイクロエマルジョン等の水系潤滑剤を使用する場合には水系潤滑剤として使用される。特に、本発明に係る溶媒組成物としては、エタノールを含有するバイオ燃料としての用途が好ましい。
【0016】
本発明に本発明にかかる溶媒組成物は、酸素ラジカル除去能を有するスーパーオキシドディスムターゼ様活性を有する化合物(以下、SODミメティックス化合物)を含み、当該SODミメティックス化合物によって酸素ラジカルの蓄積が防止されている。SODミメティックス化合物とは、スーパーオキシドディスムターゼと同様に、酸素ラジカルを過酸化水素に変化させる反応を触媒する化合物を意味する。
【0017】
特にSODミメティックス化合物としては、高温条件下で上記反応を触媒する機能を有していることが好ましい。ここで高温条件下とは、例えば60℃、好ましくは80℃、より好ましくは100℃、最も好ましくは140℃を意味する。すなわち、SODミメティックス化合物は、例えば60℃、好ましくは80℃、より好ましくは100℃、最も好ましくは140℃の条件下で上記反応を触媒する化合物である。
【0018】
SODミメティックス化合物としては、上記反応を触媒する機能を有するものであれば特に限定されず、如何なる化合物を使用しても良い。SODミメティックス化合物としては、市販品でも、新たに合成した物質でもよい。SODミメティックス化合物としては、例えば、芳香族化合物又はポルフィリン化合物と金属原子との複合体を使用することができる。ここで、記金属原子としてはマンガン原子、鉄原子及び亜鉛原子を挙げることができる。
【0019】
より具体的に、SODミメティックス化合物としては、7-ヒドロキシフラボンのマンガン複合体[Manganese complex of 7-hydroxylflavone (Mn-cpx3と称する)]、マンガン(III)テトラキス(4-安息香酸)ポルフィリンクロライド[Mn(III)tetrakis(4-benzoic acid)porphyrin chloride (Mn-TBAP)と称する]、マンガン(III)テトラキス(1-メチル-2-ピリジル)ポルフィリン[Mn(III) tetrakis (1-methyl-4-pyridyl) porphyrin (Mn-TMPyPと称する)]及びマンガン(III)メソ-テトラキス(N-メチル-2-ピリジル)ポルフィリンペンタクロライド[Mn(III) meso-tetrakis (N-methyl-2-pyridyl) porphyrinpentachloride (Mn-TM-2-PyPと称する)]を挙げることができる。これらのSODミメティックス化合物は、単独で使用しても良いし、複数種類を混合して使用してもよい。
【0020】
例えば、SODミメティックス化合物としてMn-cpx3は、水系エタノール中で非常に安定であり、エチレングリコールや植物性油中にも可溶であり、50℃、120分の熱処理ではほぼ100%、100℃、120分の熱処理でも活性を70%以上維持することができる。このように、Mn-cpx3の熱安定性は大変優れているため、SODミメティックス化合物としてMn-cpx3を含有する溶媒組成物は、高温条件下で長期に亘って品質を維持することができる。また、Mn-cpx3は低分子化合物であり、ごく微量の含有量で十分効果を発揮することができる。
【0021】
本発明にかかる溶媒組成物において、SODミメティックス化合物の量は、特に限定されないが、例えば1〜100μg/mLとすることができ、1〜50μg/mLとすることが好ましく、1〜10μg/mLとすることがより好ましい。SODミメティックス化合物量が上記範囲を下回ると、酸素ラジカルによる酸化反応を防止することが困難となる虞がある。一方、SODミメティックス化合物量が上記範囲を上回る場合には燃焼排気ガス等における含有金属(マンガン等)が多く含まれるといった不都合が生じる虞がある。
【0022】
また、SODミメティックス化合物の使用形態は、溶液中に限らず、樹脂、金属、プラスチック素材への固定化して使用しても良い。SODミメティックス化合物の固定化方法は例えば、M. Wilchek、 T. Miron、 J. Biochem. Biophys. Methods 55、 67-70、 2003; S. Piletsky、 E. Piletska、 A. Bossi、 N. Turner、 A. Turner、 Biotechnolgy and Bioengineering、 82、 86-92、 2003; 及びT. Haruyama、 T. Sakai、 K. Matsuno、 Biomaterials、 26、 4944-4947、 2005に開示された方法を適宜採用することができる。
【0023】
以上のように構成された本発明に係る溶媒組成物は、酸素雰囲気下における物質の劣化の一因となる酸素ラジカル(スーパーオキシド)の除去にSODミメティックス化合物を用いている。従来において、酸素ラジカルの除去のためにスカベンジャーを添加する方法があったが、スカベンジャーの共存により機能性物質の汚染や劣化が問題であった。これに対して、本発明にかかる溶媒組成物では、SODミメティックス化合物による機能性物質の汚染や機能の低下などの問題がなく高品質を維持することができる。
【0024】
また、本発明にかかる溶媒組成物では、SODミメティックス化合物を含有するため、比較的に高温条件下においても酸素ラジカルを除去する活性を維持することができる。したがって、高温条件下で使用される溶媒組成物、例えば、内燃機関等に使用されるエタノール混在油あるいは様々な性質の潤滑油に本発明を適用することが好ましい。
【0025】
さらに、本発明によれば、高温下で酸化的に物質を劣化させる可能性がある酸素ラジカルをエタノール含有燃料系環境下、あるいは様々な性質の異なる潤滑油中で、クリーンに排除できる。これまで酸素ラジカルを除去するために、SOD酵素(特開2008−5797号公報参照)が用いられてきたが、当該SOD酵素は油剤中には溶解しないので、その用途は限定的であった。これに対して、SODミメティックス化合物は、水中はもちろんのこと、有機溶媒や油剤中に解け、熱に安定であるため、本発明に係る溶媒組成物はより広範囲に適用することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
1.SDOミメティックス化合物とその使用条件
本実施例では、SODミメティックス化合物としてMn-cpx3、Mn-TBAP、Mn-TMPyP、Mn-TM-2-PyPをAldrich社から購入して使用した。これら化合物の構造式及び分子量を図1に示した。これらの化合物は基本的に水溶性であるが、エタノール、潤滑油にも可溶である。植物性ステロールやグリセリンエステルを主成分とする食用油とエチレングリコールに溶かす場合、まずSODミメティックス化合物をエタノールに溶かして添加した。エンジンオイル(商品名:ENEOSモーターオイル)に溶かす場合ではジメチルスルフォキシド(DMSO)にまず溶かし、その後にエンジンオイルに添加した。熱安定性のための濃度条件は、水系では1〜10μg/ml、油剤系では10〜50μg/ml SODミメティックス化合物存在下で、エタノールまたはDMSOを10%とし、温度を50〜140℃の範囲で調べた。
【0027】
2.耐熱性SOD酵素の精製方法
本実験で比較のため使用したAeropyrum pernix株由来の耐熱性SOD酵素(A.per SOD)とThermus thermophillus HB8株由来の耐熱性SOD酵素(HB8 SOD)は、特開2008−5797号公報に記載と同様の方法で大量培養と酵素精製を行った。また、有機溶媒に可溶化させるためにA、per SODをポリエチレングリコールで修飾したものも用いた。
【0028】
3.活性測定
SODミメティックス化合物のSOD活性は、キサンチン-キサンチンオキシダーゼから発生させた酸素ラジカルによる水溶性テトラゾリウム塩(WST)の酸化を指標として測定した。すなわち、酸素ラジカルによる酸化基質にWSTを用い、SODミメティックス化合物の有無でどれだけ水溶性テトラゾリウムフォルマザンの生成が抑えられるかを指標にして測定した(以下の文献を参照:H. Ueda、 D. Kawana、 S. Maeda、 M. Sawamura、 Biosci. Biotechnol. Biochem.、 63、 485-488、1999)。WSTが酸化されて水溶性テトラゾリウムフォルマザンになると、450 nmに紫外吸収が生じるので、これを測定することで酸素ラジカルによる酸化反応を簡便に測定できる。活性測定緩衝液には0.17 mM キサンチンと0.11 mM EDTAを含む35 mM 炭酸ナトリウム(pH 10.2)を使用した。酸化基質としては0.24 mMのWSTを用いた。SODミメティックス化合物は、エタノールまたはDMSOに溶解し、活性測定時の濃度は0.1〜0.8μg/ml であった。
【0029】
この活性測定系では、酸化基質であるWSTが酸素ラジカルで酸化されうる物質、すなわち機能性物質としてのモデル化合物と見なすことができる。この基質WSTの酸化を耐熱性SODが防ぐ働きをする。
【0030】
4.水中と無水エタノール中におけるSODミメティックス化合物の活性比較と熱安定性
Mn-cpx3、Mn-TBAP、Mn-TMPyP、Mn-TM-2-PyPの4種類のSODミメティックス化合物の水中と無水エタノール中における相対活性を調べた。結果を図2に示した。水中では耐熱性酵素であるPEG修飾A.per SODとHB8 SODも比較のため示した。無水エタノール中ではPEG修飾A.per SODのみを用い、いずれの場合も、PEG修飾A.per SODの酵素活性を基準にして、単位重量あたりの相対活性で示した。高分子化合物である酵素と比較すると低分子化合物であるSODミメティックス化合物は、どれも比較的かなり高い活性を示すことが分かった。特にMn-cpx3は水中ではPEG修飾A.per SODの活性の460倍、エタノール中に50℃で10分処理した後でも850倍の高い活性を示した。
【0031】
重量比で高いSOD活性を示すSODミメティックス化合物の水中における熱安定性を詳細に調べた。図3にそれぞれ4種類のSODミメティックス化合物の水中における50℃と60℃での熱安定性の経時変化を示した。いずれの化合物も高い安定性を示した。さらに、無水エタノール中での熱安定性の結果を図4に示した。特に、Mn-cpx3とMn-TBAPは70℃、60分の熱処理でも無水エタノール中でさえもほとんど活性の低下は見られないことが明らかになった。
【0032】
5.植物性食用油中におけるSODミメティックス化合物の熱安定性
無水エタノール中で最も安定性の高かったMn-TMPyPとMn-cpx3について、次に植物性食用油中での熱安定性を調べた。本例で植物性食用油としては、ジアシルグリセロールを使用した。図5にその結果を示した。Mn-TMPyPでは70℃、120分で50%の活性を、100℃、120分でも40%の活性を維持した。一方、Mn-cpx3では、100℃、120分で60%、140℃、120分の処理でも50%の活性を維持することが分かった。Mn-cpx3はSOD様活性も食用油中での熱安定性も特に優れていることが明らかになった。
【0033】
6.Mn-cpx3の様々な油剤中での熱安定性
活性と熱安定性に最も優れていると考えられるMn-cpx3について、さらに他の油剤中での安定性を調べた。図6にはエチレングリコール中とエンジンオイル中での実験結果を示した。エチレングリコール中でもMn-cpx3は140℃、120分の熱処理でも70%の活性の安定性を示した。しかしながら、エンジンオイル中では急激に安定性は低下し、10〜20%程度に低下した。
【0034】
以上、Mn-cpx3のエチレングリコール中、植物性食用油中、エンジンオイル中での50℃、100℃、140℃での熱安定性のまとめを図7に示した。このように、SOD様活性を示す化合物Mn-cpx3は油剤にも可溶化し、その熱安定性もかなり高いことが明らかになり、これらを使用して酸素ラジカルによる機能性物質の毀損を防ぎ、長寿命性を与えうる溶媒添加剤としての新しい知見を示すことを初めて明らかにできた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素ラジカルによる酸化的変質を受けうる物質と、酸素ラジカル除去能を有するスーパーオキシドディスムターゼ様活性を有する化合物とを含む溶媒組成物。
【請求項2】
上記化合物は、芳香族化合物又はポルフィリン化合物と金属原子との複合体であることを特徴とする請求項1記載の溶媒組成物。
【請求項3】
上記金属原子はマンガン原子であることを特徴とする請求項2記載の溶媒組成物。
【請求項4】
上記化合物は、7-ヒドロキシフラボンのマンガン複合体、マンガン(III)テトラキス(4-安息香酸)ポルフィリンクロライド、マンガン(III)テトラキス(1-メチル-2-ピリジル)ポルフィリン及びマンガン(III)メソ-テトラキス(N-メチル-2-ピリジル)ポルフィリンペンタクロライドからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1記載の溶媒組成物。
【請求項5】
水系溶媒を含むことを特徴とする請求項1記載の溶媒組成物。
【請求項6】
上記水系溶媒は、エチレングリコールを含有することを特徴とする請求項5記載の溶媒組成物。
【請求項7】
上記物質は潤滑剤成分又は冷媒成分であることを特徴とする請求項1記載の溶媒組成物。
【請求項8】
潤滑剤として使用されることを特徴とする請求項1記載の溶媒組成物。
【請求項9】
冷媒として使用されることを特徴とする請求項1記載の溶媒組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−270222(P2010−270222A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123324(P2009−123324)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】