説明

溶射システム

【課題】ワークに対しプレー管先端位置を適切に補正する溶射システムを提供する。
【解決手段】スプレー管13aを取り付けたロボットアーム11d先端に一対の変位センサー25a,25bを設ける。ロボット駆動制御装置12によりロボット11を駆動しロボットアーム11d先端をワーク表面に沿って走査して一対の変位センサー25a,25bから出力データを受け、出力データに基いてワーク表面形状とワーク表面に対するスプレー管13a先端の位置関係とからスプレー管先端の最適軌跡データを算出する。最適軌跡データに基いてロボット駆動制御装置12によりスプレー管13aを逐次走査し、一対の変位センサー25a,25bからのデータに基いてワーク表面に対するスプレー管13aの角度を求めかつロボットアーム11dの姿勢や位置を補正する補正データを算出しロボット駆動制御装置12によりロボット11を駆動し溶射制御装置14を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料を加熱溶解してワーク表面に噴射する溶射システムに係り、とくに、スプレー管先端位置をワークに対して適切に補正する溶射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン部材などのワークに溶射する溶射システムが、例えば、特許文献1に開示されている。このシステムでは、CPUが、ガスタービン部材の形状を示す3次元CADデータを受け、3次元CADデータが示すガスタービン部材表面上に所定間隔で溶射スポットを設定し、溶射ガンの溶射軸が溶射ポイントに垂直になるよう位置決めする位置データを求め、ガスタービン部材を構成する部位毎に溶射条件と位置データとを対応させて溶射データとし、その後、駆動制御装置が、各溶射ポイントを結ぶ経路に沿って溶射データに基いて溶射ガン及びロボットアームを駆動制御する。
【0003】
【特許文献1】特開2004−115846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このシステムでは、第1に、加工面の位置データをワークの3次元CADデータから求めている。第2に、加工面と溶射ガンとの垂直関係についてもワークの3次元CADデータから判断している。第3に、ワークとは別に基準板を設け、レーザ変位センサーと基準板との距離を溶射前後で比較して被膜の厚さとしている。
【0005】
これらのように、CPUが溶射スポットや位置データなどの各種データを算出する際、ワークに関する3次元CADデータを基準データとして用いているため、実際の加工時におけるワークの位置や形状及びワークと溶射ガンとの位置関係は考慮されていない。例えば、加工前のワークと3次元CADデータとには誤差があるばかりか、実際の加工前のワークに対する溶射ガンの垂直度には計算上の誤差が含まれる。また、ワークの加工面が簡単な形状であればこれらの誤差は無視できるかもしれないが、加工面が複雑な形状を有する場合や溝などの起伏が激しい場合には、基準板がワークや溶射ガンに追従せず誤差が生じやすい。
【0006】
そこで、本発明は、実際のワークに対してスプレー管先端の位置を適切に補正して溶射可能な溶射システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、ロボット駆動制御装置がロボットアームを制御しながら、溶射制御装置によりロボットアーム先端に設けたスプレー管から被溶射物を噴射する溶射システムにおいて、ロボットアームの先端に取り付けられる一対の変位センサーと、ロボット駆動制御装置によりロボットアーム先端をワーク表面に沿って走査して一対の変位センサーから出力データを受け、この出力データに基いてワーク表面形状とワーク表面に対するスプレー管先端の位置関係とからロボットアームの最適軌跡データを算出する最適軌跡データ算出手段と、最適軌跡データ算出手段で求めた最適軌跡データに基いてロボット駆動制御装置によりロボットを逐次駆動制御してワーク表面でスプレー管を走査し、一対の変位センサーからの出力データからワーク表面に対するスプレー管の角度を求めかつスプレー管の角度調整用にロボットアームの姿勢や位置を補正する補正データを算出しこの補正データに基いてロボット駆動制御装置によりロボットを駆動制御して溶射制御装置を制御しスプレー管から被溶射物を噴射することを繰り返すスプレー加工制御手段と、を備えることを特徴としている。
【0008】
上記構成において、スプレー加工制御手段は、スプレー管から被溶射物を噴射する前後において、一対の変位センサーのうちスプレー管より走査前側に配置されている一方の変位センサーからの出力データとスプレー管より走査後側に配置されている他方の変位センサーからの出力データとに基いて、ワーク表面の付着膜の厚みを算出するとよい。
【0009】
上記構成において、ロボットアームの先端にはリング状のセンサー取付部が回転可能に取り付けられ、センサー取付部にはスプレー管が挿通され、一対の変位センサーがそれぞれセンサー取付部にスプレー管を挟んで対峙する位置に取り付けられるとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶射処理前に、ロボット駆動制御装置がロボットアームを駆動制御してロボットアーム先端をワーク表面に沿って走査し、最適軌跡算出手段が一対の変位センサーからの出力データに基いてワークの表面形状とワーク表面に対するスプレー管先端の位置関係とからスプレー管先端の最適軌跡データを算出しておき、その後、ロボット駆動制御装置がその最適軌跡データに基いてロボットアームを駆動制御する度に、ワーク表面でスプレー管を走査して各溶射ポイントにおいて、スプレー加工制御手段が一対の変位センサーからの出力データに基いてワーク表面に対するスプレー管の角度を求めかつスプレー管の角度位置調整用の補正データを算出し、この補正データに基いてロボットアームの姿勢や位置を補正した後に、スプレー管から被溶射物を噴射する。即ち、噴射する前に事前にワーク表面形状を計測してスプレー管の最適軌跡データを求め、この最適軌跡データに基いてスプレー管先端を走査して、しかも実際に噴射する直前にワークに対するスプレー管の角度や位置を調整する。よって、実際のワークの形状やワークの配置状況に応じて逐一スプレー管の位置を調整するため、ワークへの被膜処理精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明するが、本発明の範囲を本質的に変更しない範囲で適宜変更して実施を行うことができることは言うまでもない。また、ワークの形状などは図示した例に限らず任意の形状であってもよい。
【0012】
(システム構成)
図1は、本発明の実施形態に係る溶射システムの構成図である。
溶射システム10は、ロボット11と、ロボット11を駆動制御するロボット駆動制御装置12と、溶射装置13と、溶射装置13を制御する溶射制御装置14と、システム全体を制御するCPU(Central Processing Unit)15と、を備える。
【0013】
ロボット11の構成について説明すると、例えば図1に模式的に示すように、第1のアーム11aがロボット本体11bに第1の関節部11cでもって接続され、第2のアーム11dが第1のアーム11aに第2の関節部11eでもって接続されている。ロボット11はロボット駆動制御装置12により駆動制御される。
【0014】
溶射装置13は、先端にノズルを有するスプレー管13aと、噴射物を貯える貯蔵部と、貯蔵部から噴射物をスプレー管13aに送る噴射部と、この噴射部を制御する噴射制御部と、を有する。なお、図1では、スプレー管13a以外は溶射装置13の各要素は示していない。スプレー管13aは、ロボット11の先端のアーム、図1に示す例では第2のアーム(以下、単に「ロボットアーム」と呼ぶ)11dの先端に取り付けられる。
【0015】
図2は、ロボットアーム11dの先端の様子を示す断面図である。
取付ブラケット21がロボットアーム11dの先端に取り付けられている。取付ブラケット21は、第1の平板21aと第2の平板21bという大小2枚の平板がロッド状の複数の接続部材21cで間隔を開けて接続されて構成されている。第2の平板21bはその中心部から離れて貫通穴を有する。第1の平板21aはその中心部に貫通穴を有する。各貫通穴が同軸上になるように第1の平板21aの中心からずれた位置に第2の平板21bが複数の接続部材21cでもって接続されている。取付ブラケット21のうち大きい第1の平板21aが直接ロボットアーム11dの先端に、螺子などにより固定されている。
【0016】
取付ブラケット21のうち小さい第2の平板21bには、ドーナツ状の第1のベアリング保持部22aが取り付けられ、第1のベアリング保持部22aとこれに対向する第2のベアリング保持部22bとでベアリング22cが保持される。第2のベアリング保持部22bの外側にはドーナツ状の第1の歯車23が取り付けられている。第1の歯車23においてベアリング22c側と逆側の面には、例えばL字状のブロック24,24が一対取り付けられ、各ブロック24上に2次元変位センサー25a,25bがそれぞれ取り付けられている。図示の場合には、センサー取付部がブロック24,24と第2のベアリング保持部22bとで構成されているが、これ以外の構成であっても構わない。ここで、2次元変位センサー25a,25bは非接触式のセンサーであって、それぞれ例えば発光部と受光部とをペアで有し、発光部がワークw表面に対してレーザ光を照射し、受光部がワークwからの反射光を受光することで、ワーク表面の形状を計測する。ブロック24は、スプレー管13aから噴射される被溶射物が2次元変位センサー25a,25bに付着しないようにするために設けられている。
【0017】
スプレー管13aが第1の平板21a及び第2の平板21b並びに第1の歯車23の各貫通穴に挿通され、スプレー管13aの先端は、ブロック24よりも突出している。取付ブラケット21のうち第2の平板21b側にはモータ保持部26aでもってモータ26が固定されている。モータ26における回転軸部には第2の歯車27が取り付けられ、第2の歯車27と第1の歯車23とはそれぞれの歯が噛み合っている。
【0018】
このように、ロボットアーム11dの先端にはリング状のセンサー取付部として第2のベアリング保持部22bが回転可能に取り付けられ、ベアリング保持部22bにはスプレー管13aが挿通され、一対の2次元変位センサー25a,25bのそれぞれが第2のベアリング保持部22bにスプレー管13aを挟んで対峙する位置に取り付けられる。よって、ロボットアーム11dがワークw上を図2に矢印で示す向きに走査する際、一方の2次元変位センサー25aは、スプレー管13aから被溶射物がワークwに噴射する前のワーク表面状態を計測し、他方の2次元変位センサー25bは、ワークw上に被膜した状態での表面を計測することができる。モータ26により第1の歯車23をスプレー管13dの軸回りに半回転することで、図2に矢印で示す向きと逆側に走査する場合でも、必ず、一方の2次元変位センサー25aが、スプレー管13aから被溶射物がワークwに噴射する前のワーク表面状態を計測し、他方の2次元変位センサー25bが、ワークw上に被膜した状態での表面を計測することができる。なお、モータ26は図1に示すCPU15で制御される。
【0019】
CPU15には制御プログラムが格納されている。制御プログラム及びそれによる制御内容の詳細については後述する。
CPU15には、キーボードなどの入力部16とモニターなどの出力部17とが接続され、操作者と各種情報や指令のやり取りが行える。
CPU15にはデータベース18に接続され、このデータベース18は、溶射前の計測結果や溶射後の計測結果をロボットアーム11dの位置データと共に格納する各種の計測データベースと、溶射加工処理に関する最適条件を示すデータを格納する加工最適条件データベースとで構成されている。
【0020】
(システムの流れ)
次に、図1に示す溶射システム10のフローについて説明する。CPU15に格納されている制御プログラムの実行により、どのようにロボット11及び溶射装置13を制御しながら、どのようにワークwに被溶射物が溶射されるかについても併せて説明する。
【0021】
溶射システム10のフローは、3D形状取得フローとスプレー加工フローとに大別される。図3は溶射システム10のフローを示し、(A)はワークwの3D形状取得に関するフロー図であり、(B)はスプレー加工に関するフロー図である。図4は、ワークwの3D形状取得に関する説明図であり、(A)はワークwの3D形状取得の様子を模式的に示す説明図で、(B)は出力部17に示される、表面形状の断面を模式的に示す図である。図5は図3(B)におけるSTEP2−2のステップの様子を模式的に示す図である。図6は図3(B)におけるSTEP2−4のステップを段階的に示す図である。
【0022】
先ず、3D形状取得フローについて説明する。このフローは、CPU15が制御プログラムを実行することで達成され、CPU15が最適軌跡データ算出手段15aとして機能することによる。この最適軌跡データ算出手段15aは、先ず、ロボット駆動制御装置12を駆動してロボットアーム11d先端をワークw表面に沿って例えば図4(A)に示すように走査しながら、一対の変位センサー25a,25bから出力データを受ける。この出力データに基いてワークwの表面形状とワークw表面に対するスプレー管13aの先端の位置関係とからロボットアーム11dの最適軌跡データを算出する。
【0023】
以下詳細に説明すると、STEP1−1として、CPU15がロボット駆動制御装置12にティーチングを行う。その際、ワークwの加工面に対して出来るだけ最適なティーチングを行う。例えば、ロボットアーム11dとワークwの大まかな位置関係を想定して予めティーチングデータが制御プログラム内に組み込まれている。このチィーチングデータに基いてロボット駆動制御装置12がロボットアーム11dを駆動制御する。すると、ロボットアーム11dがワークwの表面に沿って所定の経路をたどって走査する。
【0024】
STEP1−2として、3D形状の計測を行う。STEP1−1でティーチングした軌跡をスプレーしないで動作させる。その際の動作スピードは低速で行うと良い。3D形状の計測が精度良く行われるからである。詳細には、CPU15が3D形状の計測開始をロボット駆動制御装置12に指示する。すると、ロボット駆動制御装置12がティーチングデータに基いてロボット11逐次移動する。逐次移動する度に、一対の2次元変位センサー25a,25bから出力されるデータをCPU15が受け取り、例えばロボット駆動制御装置12からロボットアーム11dの位置データを受け取る。
【0025】
STEP1−3として3D形状データの作成を行う。CPU15は一対の2次元変位センサー25a,25bから出力されたデータとロボットアーム11d先端、例えばスプレー管先端の位置データとを対応させてデータベース18に蓄積する。CPU15は、データベース18に蓄積されているデータに基いて3D形状データを作成する。CPU15はこの3D形状データを出力部17に出力する。すると、例えば図4(B)に示すようにワークwの二次元的な形状を描く。
【0026】
STEP1−4として最適軌跡データの作成を行う。CPU15は、STEP1−3で作成した3D形状データからスプレー管13a先端とワークwとの距離、スプレー管13aのワークに対する角度を求め、データベース18内の加工最適条件に関するデータに基いて、ロボットアーム11dの先端の最適軌跡データを作成する。その際、ワークwにおけるスプレー管13aとの関係が不明な部位については、軌跡作成不可点としてブランクとしておく。
【0027】
STEP1−5として、最適軌跡データの補完を行う。CPU15は、STEP1−4で作成した最適軌跡データのうちブランクの部分を軌跡作成不可点として抽出し、その抽出した部分を含めてその前後のデータを出力部17に出力して操作者にブランクを補うように促し、操作者から入力部16に入力されたデータをブランクに上書きして最適軌跡データを完成させ、データベース18に格納する。
【0028】
STEP1−6として、CPU15は、完成した最適軌跡データをロボット駆動制御装置12に転送する。
以上で、スプレー加工前の処理が終了する。
【0029】
スプレー加工フローについて説明する。このフローは、CPU15が制御プログラムを実行することで達成され、CPU15がスプレー加工制御手段15bとして機能することによる。スプレー加工制御手段15bは、最適軌跡データ算出手段15aで求めた最適軌跡データに基いてロボット駆動制御装置12によりロボット11を逐次駆動制御しワークw表面でスプレー管13aを走査し、一対の2次元変位センサー25a,25bからの出力データからワークw表面に対するスプレー管13aの角度を求めかつスプレー管13aの角度調整用にロボットアーム11dの姿勢や位置を補正する補正データを算出しこの補正データに基いてロボット駆動制御装置12によりロボットを駆動して溶射制御装置14を制御してスプレー管13aから被溶射物を噴射することを繰り返す。
【0030】
先ず、STEP2−1として、チィーチングデータの読み出しを行う。即ち、CPU15がロボット駆動制御装置12に対して読み出し指令を行い、その指令を受けたロボット駆動制御装置12が、STEP1−6で転送されて格納している最適軌跡データを読み出す。
【0031】
STEP2−2として、加工前計測を行う。CPU15はロボット駆動制御装置12に加工前処理の開始指示を行うと、ロボット駆動制御装置12はSTEP2−1で読み出したティーチングデータに基いて順次ロボットアーム11dを走査する。CPU15は、一対の2次元変位センサー25a,25bから順次出力されるセンサーデータを受け、一方の2次元変位センサー25a、すなわち走査前側の2次元変位センサー25aから入力されたセンサーデータに基いてスプレー加工前のワークwの表面形状を求め、一対の2次元変位センサー25a,25bから出力されるデータに基いてワークwの加工面とスプレー管13aとの垂直度を求める。例えば図5に示されているように、走査方向がx軸方向であるとすると、x−y平面においてa点とb点、c点とd点との変位差により、x軸回りのワークwの傾きを算出し、a点とc点、b点とd点との変位差によりy軸回りのワークwの傾きを算出する。また、a点とd点、b点とd点との変位差によりスプレー管13a先端とワークwとの距離(z軸方向の距離)を算出する。
【0032】
STEP2−3として、ロボット位置データに関する補正データを作成する。CPU15は、STEP2−2で求めた、スプレー加工前の表面形状、垂直度から、ロボット11の位置データを補正する補正データを作成する。補正データは位置データそのものを書き直す形式や、位置データとの差分を求めてこれを補正データとする形式などがある。
【0033】
STEP2−4として、ロボット補正動作指令を行う。CPU15は、STEP2−3で求めた補正データをロボット駆動制御装置12に転送する。すると、ロボット駆動制御装置12は、ロボット11のスプレー管13aの先端が最適な位置に移動する。これにより、例えば、図6(a)に示すようにスプレー管13aがワークwに対して直交していない場合には、先ず図6(b)に示すようにスプレー管13aの軸をワークwに対し直交させ、次に、図6(c)に示すようにスプレー管13aの位置をワークw側へ近づける。
【0034】
STEP2−5として、スプレー加工指令を行う。CPU15は溶射制御装置14に対して被溶射物をスプレー管13aに送るよう指示する。これにより、ワークwに対して被溶射物が噴射される。
【0035】
STEP2−6として、加工後の計測を行う。他方の2次元変位センサーにより加工後の表面形状を計測し、ロボットの走査速度を加味してSTEP2−2で行った加工前計測による表面形状とスプレー加工後の表面形状とを比べて、スプレー加工によりワーク表面に形成された被膜の厚みを求める。
【0036】
STEP2−7として、加工後の計測結果のデータベース化を行う。ロボットの位置データ、膜厚データ、加工前後で計測した形状に関するデータとを纏めて、データベース18に格納する。
ワークwのコールドスプレー照射領域のエンドに至るまでSTEP2−1へ戻ってSTEP1,2を繰り返す。
【0037】
ここで、図3(B)における各STEPを順に行ってどのようにワークwに被膜が形成されるかについて説明する。図7は、図3(B)の各STEPでワークwに被膜が形成され、スプレー管13aがどのように走査されるかを模式的に示す図である。
【0038】
図7(A)に示すように一方の2次元変位センサー25aがワークwの表面形状を観察し、スプレー管13aが矢印の方向に走査しながらスプレー管13aから被溶射物を噴射すると、ワークw上に被膜31が形成される。その後、スプレー管13aが図示の矢印の方向に移動して図7(B)に示す状態になると、他方の2次元変位センサー25bがワークwの表面形状を観察する。その後、CPU15は、図7(A)の状態で一方の2次元変位センサー25aから出力されたデータと、図7(B)の状態で他方の2次元変位センサー25bから出力されたデータと、を比較して差分演算することで、被膜31の厚みd1を計算する。
【0039】
さらに、図7(C)に示すように一方の2次元変位センサー25aがワークwの表面形状を観察し、スプレー管13aが矢印の方向に走査しながらスプレー管13aから被溶射物が噴射されると、ワークw上に二層目の被膜32が形成される。その後、スプレー管13aが図示の矢印の方向に移動して図7(D)に示す状態になると、他方の2次元変位センサー25bがワークwの表面形状を観察する。すると、CPU15は、図7(A)の状態で一方の2次元変位センサー25aから出力されたデータと、図7(D)の状態で他方の2次元変位センサー25bから出力されたデータと、を比較して差分演算することで、一層目と二層目の被膜31、32全体の厚みd2を計算する。
【0040】
以上の各工程により被膜31、32の各状態の厚みが求まるので、各厚みをロボットアーム11dとの位置データとを対応させてデータベース18に保存しておき、この保存されたデータと加工最適条件に関するデータと組み合わせることで、溶射制御装置14やロボット駆動制御装置12へのティーチングデータや溶射制御データなどの各制御データをCPU15が書き直すことで、最適な溶射工程を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態に係る溶射システムの構成図である。
【図2】図1に示すロボットアームの先端の様子を示す断面図である。
【図3】図1に示す溶射システムのフローを示し、(A)はワークの3D形状取得に関するフロー図であり、(B)はスプレー加工に関するフロー図である。
【図4】ワークの3D形状取得に関する説明図であり、(A)はワークwの3D形状取得の様子を模式的に示す説明図で、(B)は出力部に示される、表面形状断面を模式的に示す図である。
【図5】図3(B)におけるSTEP2−2のステップの様子を模式的に示す図である。
【図6】図3(B)におけるSTEP2−4のステップを段階的に示す図である。
【図7】図3(B)の各STEPでワークに被膜が形成され、スプレー管がどのように走査されるかを模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0042】
10:溶射システム
11:ロボット
11a:第1のアーム
11b:ロボット本体
11c:第1の関節部
11d:第2のアーム(ロボットアーム)
11e:第2の関節部
12:ロボット駆動制御装置
13:溶射装置
13a:スプレー管
13b:送出部
14:溶射制御装置
15:CPU
16:入力部
17:出力部
18:データベース
20:被膜
21:取付ブラケット
21a:第1の平板
21b:第2の平板
21c:接続部材
22a:第1のベアリング保持部
22b:第2のベアリング保持部(センサー取付部)
22c:ベアリング
23:第1の歯車
24:ブロック
25a,25b:2次元変位センサー(変位センサー)
26:モータ
26a:モータ保持部
27:第2の歯車
31,32:被膜(付着膜)
w:ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボット駆動制御装置がロボットアームを制御しながら、溶射制御装置により該ロボットアーム先端に設けられたスプレー管から被溶射物を噴射する溶射システムにおいて、
上記ロボットアームの先端に取り付けられる一対の変位センサーと、
上記ロボット駆動制御装置により上記ロボットアーム先端をワーク表面に沿って走査して上記一対の変位センサーから出力データを受け、この出力データに基いてワーク表面形状とワーク表面に対する上記スプレー管先端の位置関係とからロボットアームの最適軌跡データを算出する最適軌跡データ算出手段と、
上記最適軌跡データ算出手段で求めた最適軌跡データに基いて上記ロボット駆動制御装置によりロボットを逐次駆動制御してワーク表面で上記スプレー管を走査し、上記一対の変位センサーからの出力データからワーク表面に対する上記スプレー管の角度を求めかつ上記スプレー管の角度調整用に上記ロボットアームの姿勢や位置を補正する補正データを算出しこの補正データに基いて上記ロボット駆動制御装置によりロボットを駆動制御して上記溶射制御装置を制御し上記スプレー管から被溶射物を噴射することを繰り返すスプレー加工制御手段と、
を備えることを特徴とする、溶射システム。
【請求項2】
前記スプレー加工制御手段は、前記スプレー管から被溶射物を噴射する前後において、前記一対の変位センサーのうちスプレー管より走査前側に配置されている一方の変位センサーからの出力データとスプレー管より走査後側に配置されている他方の変位センサーからの出力データとに基いて、ワーク表面の付着膜の厚みを算出することを特徴とする、請求項1に記載の溶射システム。
【請求項3】
前記ロボットアームの先端にはリング状のセンサー取付部が回転可能に取り付けられ、
上記センサー取付部には前記スプレー管が挿通され、
前記一対の変位センサーがそれぞれ上記センサー取付部にスプレー管を挟んで対峙する位置に取り付けられる、請求項1に記載の溶射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−111932(P2010−111932A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287195(P2008−287195)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】