溶射装置、溶射方法及び溶射材料
【課題】原料粉体と吐出導管との摩擦による発火の発生を防止できるようにする。
【解決手段】原料粉体10を貯蔵し当該原料粉体を払い出す払出口21を有する貯蔵手段20と、加圧されたキャリアガスの流れにより払出口21から原料粉体10を吸入し、キャリアガスと原料粉体とを混合し混合物とするエジェクター30と、エジェクター30により生成された前記混合物を噴射する噴射手段40とを備え、前記混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射装置において、エジェクター30の吐出導管33の流路を形成する内面の少なくとも一部を樹脂又はゴムで構成した。
【解決手段】原料粉体10を貯蔵し当該原料粉体を払い出す払出口21を有する貯蔵手段20と、加圧されたキャリアガスの流れにより払出口21から原料粉体10を吸入し、キャリアガスと原料粉体とを混合し混合物とするエジェクター30と、エジェクター30により生成された前記混合物を噴射する噴射手段40とを備え、前記混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射装置において、エジェクター30の吐出導管33の流路を形成する内面の少なくとも一部を樹脂又はゴムで構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火組成物を形成するための溶射装置及び溶射方法、並びにその溶射に使用する溶射材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐火組成物を形成するための溶射技術として、可燃性粉体(例えば、金属粉末)と耐火性粉体(耐火性骨材)とを含む原料粉体を、支燃性のキャリアガス(酸素ガス)によって搬送し噴射して着火溶融することで耐火組成物を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
かかる溶射技術においては、原料粉体とキャリアガスとを混合した混合物を吐出導管の流路に沿って下流側に導くが、従来、吐出導管は耐摩耗性等を考慮して金属(ステンレス鋼)で形成するのが一般的であり、原料粉体と吐出導管との摩擦により発火が生じやすいという問題がある。
【0004】
上記特許文献1においては、吐出導管に、一端から下流に行くにつれて流路の断面積が単調減少する絞り部と、上流から他端に行くにつれて流路の断面積が単調増加する拡張部とを形成することにより、吐出導管の摩耗を防ぐ技術が記載されている。しかし、特許文献1には、吐出導管の材質は特に記載されていない。吐出導管が従来一般的な金属製であれば、依然として原料粉体と吐出導管との摩擦により発火が生じやすいという問題が残る。
【0005】
また、発火が生じた場合、原料粉体の搬送方向と逆方向へ発火が進む現象(逆火)が生じる。逆火を防ぐためには、逆火によって燃焼が進む速度(燃焼速度)よりも原料粉体を搬送する搬送速度が上回る必要がある。上記特許文献2には、逆火が生じた場合に、原料粉体がホッパーへ吹き上げないように、ホッパーからの原料粉体移送路に外気連通部を設ける技術は記載されているが、逆火そのものを防ぐ技術については記載されてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−275816号公報
【特許文献2】特開2007−238977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、原料粉体と吐出導管との摩擦による発火の発生を防止できるようにすることにある。
【0008】
他の課題は、仮に発火が発生したとしても逆火の発生を防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の溶射装置は、耐火性粉体及び可燃性粉体とを含む原料粉体と、支燃性のキャリアガスとを混合した混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射装置であって、前記原料粉体を貯蔵し当該原料粉体を払い出す払出口を有する貯蔵手段と、加圧されたキャリアガスの流れにより前記払出口から前記原料粉体を吸入し、前記キャリアガスと前記原料粉体とを混合し前記混合物とするエジェクターと前記エジェクターにより生成された前記混合物を噴射する噴射手段とを備え、前記エジェクターは、前記払出口に連通する内部空間を有する容器部と、加圧された前記キャリアガスを先端から前記内部空間に噴出する噴出ノズルと、前記内部空間に一端が連通し前記混合物を流路に沿って前記一端から他端へ導く吐出導管とを備え、前記吐出導管の流路を形成する内面の少なくとも一部が、樹脂又はゴムで構成されてなることを特徴とする。
【0010】
本発明の溶射方法は、耐火性粉体及び可燃性粉体とを含む原料粉体と、支燃性のキャリアガスとを混合した混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射方法であって、前記原料粉体を貯蔵する貯蔵手段の払出口から前記原料粉体を払い出す払出工程と、前記貯蔵手段の払出口に連通する内部空間を有する容器部へ前記払出口から払い出された前記原料粉体を導く導入工程と、前記導入工程により導かれた前記原料粉体をキャリアガスの流れにより吸入する吸入工程と、前記吸入された原料粉体と前記キャリアガスとを混合する混合工程と、前記混合工程により混合された混合物を、内面の少なくとも一部が樹脂又はゴムで構成された吐出導管の流路に沿って搬送する搬送工程と、前記搬送工程により搬送された混合物を噴射する噴射工程と、前記噴射工程により噴射された混合物を燃焼させて耐火組成物を形成する形成工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明において、吐出導管の流路を形成する内面の少なくとも一部を構成する樹脂又はゴムとしては、静電気による発火を防止する点から導電性を有するものを使用することが好ましい。
【0012】
また、本発明においては、原料粉体の搬送速度を上げて逆火の発生を防止する点から、吐出導管における内径一定のストレート部の内径は8mm以上12mm以下とし、噴出ノズルの先端のノズル孔径は2mm以上4mm以下とすることが好ましい。
【0013】
更に本発明においては、吐出導管の摩耗を抑制する点から、原料粉体としては、0.1mm以下の粒子が10質量%以上である原料粉体を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吐出導管の流路を形成する内面の少なくとも一部を、樹脂又はゴムで構成したことにより、原料粉体と吐出導管との摩擦による発火(火花)の発生を防止することができる。
【0015】
また、吐出導管のストレート部の内径及び噴出ノズルのノズル孔径を上記のように限定することで、原料粉体の搬送速度を上げることができ、逆火の発生を防止することができるとともに、原料粉体の吐出量も所望量以上を確保することができる。
【0016】
更に、原料粉体としては、0.1mm以下の粒子が10質量%以上である原料粉体を使用することで、吐出導管の摩耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の溶射装置の一実施形態を示す要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の溶射装置の一実施形態を示す要部の断面図である。
【0019】
図1に示す溶射装置は、原料粉体10を貯蔵する貯蔵手段としてのホッパー20と、エジェクター30と、噴射手段40とを備える。
【0020】
原料粉体10は、可燃性粉体(例えば、金属粉末)と耐火性粉体(耐火性骨材)とを含んでなる。好ましくは、0.1mm以下の粒子が10質量%以上となる粒度構成とする。その理由は後述する。
【0021】
ホッパー20は、その底部に原料粉体10を払い出す払出口21を有する。エジェクター30は、加圧されたキャリアガス(酸素ガス)の流れにより払出口21から原料粉体10を吸入し、キャリアガスと原料粉体10とを混合し混合物とする。噴射手段40は、エジェクター30の出側と水平移送管50及びゴムホース60を介して接続されており、エジェクター30により生成された前記混合物を噴射する。なお、水平移送管50は省略することができ、エジェクター30の出側にゴムホース60を直接接続してもよい。
【0022】
次に、エジェクター30の構成を詳細に説明する。エジェクター30は、ホッパー20底部の払出口21に連通する内部空間を有する容器部31と、加圧されたキャリアガスを先端から容器部31の内部空間に噴出する先細りの噴出ノズル32と、容器部31の内部空間に一端が連通し前記混合物を流路に沿って前記一端から他端へ導く吐出導管33とを備える。すなわち、容器部31の内部空間において、キャリアガスは、先細りの噴出ノズル32先端のノズル孔から吐出導管33の一端(基端)に向けて高速で噴出し、それによって容器部31の内部空間を負圧(ここでは大気圧よりも低い圧力)にする。一方、容器部31の内部空間には垂直移送管70を介してホッパー20の払出口21が連通している。このためエジェクター30は、加圧されたキャリアガスの流れにより払出口21から原料粉体10を容器部31の内部空間に吸入し、噴出ノズル32先端のノズル孔から噴出するキャリアガスと原料粉体10とが容器部31の内部空間にて混合され混合物となる。
【0023】
本発明においては、エジェクター30において、特に吐出導管33と原料粉体10との摩擦による発火の発生を防止するため、吐出導管33の流路を形成する内面の少なくとも一部を樹脂又はゴムで構成する。図1の実施形態では、吐出導管33の内面全体及び容器部31の内面全体、すなわち、エジェクター30の内面全体を樹脂又はゴムで構成している。具体的には、吐出導管33及び容器部31の全体を樹脂又はゴムで構成している。このうち、吐出導管33は外管33aに内管33bを嵌め込んだ二重管構造としており、内管33bが消耗したら、その内管のみを交換できるようにしている。なお、吐出導管33は、二重管構造としたがこれに限定されるものではなく、一重管構造としてもよい。
【0024】
また、本実施形態においては、水平移送管50の流路を形成する内面も、その全体を樹脂又はゴムで構成している。具体的には、水平移送管50の内面に樹脂又はゴムをライニングしてライニング層50aを形成している。更に本実施形態においては、水平移送管50のライニング層50aとゴムホース60とを突き合わせて接合している。すなわち、本実施形態では、エジェクター30及びその下流側の流路の内面は全て樹脂又はゴムで形成し、金属が露出しないようにしている。これにより、原料粉体とその流路の内面との摩擦による発火(火花)の発生を確実に防止できる。
【0025】
ただし、原料粉体とその流路の内面との摩擦による発火が最も発生しやすいのは、吐出導管33部分であるので、本発明では、吐出導管33の内面の少なくとも一部を樹脂又はゴムで構成することを要件とする。吐出導管33の内面の全てを樹脂又はゴムで構成することが好ましいが、内面の一部であっても従来に比べ有意性をもって発火の発生を抑制できる。吐出導管33の内面に一部を樹脂又はゴムで構成する場合、吐出導管33のうちでも容器部31側に近い部分において摩擦による発火が発生しやすいので、吐出導管33の基端(容器部31側の一端)から少なくとも150mm程度の範囲は樹脂又はゴムで構成することが好ましい。
【0026】
本発明において、流路の内面を構成する樹脂又はゴムの種類は特に限定されないが、樹脂としては塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート、メチルペンテン樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等、ゴムとしては天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。
【0027】
また、本発明で使用する樹脂又はゴムは導電性を有することが好ましい。これは、原料粉末との摩擦により静電気が溜まり、発火の原因となることを防止するためである。導電性の程度としては、その体積固有抵抗が108Ω・m未満であることが好ましい。このような導電性樹脂は、樹脂に導電性粒子を分散させることで得ることができ、例えば導電性ポリエチレンが挙げられる。また、導電性ゴムは、絶縁性の弾性高分子(ゴム)に導電性粒子を分散させることで得ることができ、例えばニトリルゴムが挙げられる。
【0028】
なお、本実施形態においては、エジェクター30の吐出導管33及び容器部31の全体を樹脂又はゴムで形成することで、その流路の内面を樹脂又はゴムで構成するようにしたが、上述の水平移送管50と同様に流路の内面に樹脂又はゴムをライニングしてもよい。
【0029】
以上のとおり、本発明では、吐出導管33の流路を形成する内面の少なくとも一部を樹脂又はゴムで構成する。樹脂又はゴムで構成された流路の内面は、従来の金属製の流路の内面に比べ物理的には摩耗しやすい。この摩耗を抑制するため、本発明では原料粉末として、0.1mm以下の粒子が10質量%以上である粒度構成のものを使用することが好ましい。このように0.1mm超の粗粒の割合を制限することで、流路の内面が樹脂又はゴムで構成されていたとしてもその摩耗を抑制することができる。
【0030】
本発明では、吐出導管33の流路を形成する内面の少なくとも一部を樹脂又はゴムで構成することで、摩擦による発火の発生を防止しようとしているが、発火は摩擦以外に外部の火種等によっても生じうるし、摩擦による発火の可能性もゼロではない。そこで、本発明の好ましい実施形態では、仮に発火が発生したとしても逆火(原料粉体の搬送方向と逆方向へ発火が進む現象)の発生を防止する手段を講じる。逆火を防ぐためには、上述のとおり。逆火によって燃焼が進む速度(燃焼速度)よりも原料粉体を搬送する搬送速度が上回る必要がある。この点から本発明では、吐出導管33における内径一定のストレート部の内径を8mm以上12mm以下とし、噴出ノズル32先端のノズル孔径を2mm以上4mm以下とすることが好ましい。吐出導管33のストレート部の内径が12mm超あるいはノズル孔径が4mm超では原料粉末の搬送速度が遅くなるので、逆火を防ぐことは困難であり、原料粉体の搬送不良の要因にもなる。吐出導管33のストレート部の内径及びノズル孔径が大きくても、キャリアガスの流量を増やせば原料粉末の搬送速度を上げることは可能であるが、キャリアガスの流量を増やしすぎると原料粉末を噴射施工したときのリバウンドロスが大きくなるので、キャリアガスの流量は制限される。したがって、吐出導管33のストレート部の内径は12mm以下、ノズル孔径は4mm以下とすることが好ましい。
【0031】
一方、吐出導管33のストレート部の内径が8mm未満では原料粉体の詰まりが生じやすくなり搬送性が悪化するとともに、原料粉体の搬送量(吐出量)も低下する。また、噴出ノズル32先端のノズル孔径が2mm未満では、十分なキャリアガスの流量が確保できず、搬送性が悪化するとともに、キャリアガス(酸素ガス)不足で着火不良の要因にもなる。
【0032】
なお、本実施形態において吐出導管33はストレート部のみからなるが、ストレート部の入側及び出側に上記特許文献1のような絞り部や拡張部を設けてもよい。
【0033】
以上の溶射装置を使用して溶射する際には、まず、ホッパー20の払出口21から原料粉体10を払い出す(払出工程)。次いで、ホッパー20の払出口21に垂直移送管70を介して連通する内部空間を有するエジェクター30の容器部31に原料粉体10を導き(導入工程)、この導入工程により導かれた原料粉体10をエジェクター30におけるキャリアガスの流れにより吸入して(吸入工程)、原料粉体10とキャリアガスとを混合する(混合工程)。そして、混合工程により混合された混合物を、内面の少なくとも一部が樹脂又はゴムで構成された吐出導管33の流路に沿って搬送し(搬送工程)、その搬送された混合物を噴射手段40により噴射し(噴射工程)、噴射された混合物を燃焼させて耐火組成物を形成する(形成工程)。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
図1の溶射装置にて試験を行い、発火の有無を確認した。試験では、耐火性粉体としてシリカ(SiO2):85質量%と可燃性粉体として金属Si:15質量%とからなる原料粉体(0.1mm以下の粒子:20質量%)を用い、0.5MPaのキャリアガス(酸素ガス)を流すことで原料粉体を噴射した。エジェクター30としては、導電性ポリエチレンで構成したものとニトリルゴムで構成したものを使用した。ゴムホース60の長さは10mとした。ゴムホース60としては、静電気による発火要因を消すため導電性のものを使用した。
【0035】
原料粉体を10kg単位で搬送し、これを5回実施して、発火の有無を目視で確認した。発火しやすい箇所は吐出導管33の出口付近であり、発火が発生すれば、火花はゴムホース60内を進み、噴射手段40付近で確認される。
【0036】
試験の結果、エジェクター30を導電性ポリエチレンで構成したもの、ニトリルゴムで構成したもののいずれにおいても、5回とも発火の発生は確認されなかった。
【0037】
比較例として、図1の溶射装置において、エジェクター30をステンレス鋼で構成したものとSS鋼で構成したものについて、上記と同様の試験を行った。その結果、いずれの比較例も発火の発生が確認された。
【0038】
(実施例2)
図1の溶射装置において、吐出導管33のストレート部の内径、及び噴出ノズル32先端のノズル孔径を変化させて試験を行い、逆火の防止性能を確認した。原料粉体は実施例1と同じであり、キャリアガス(酸素ガス)の圧力条件も実施例1と同じである。ゴムホース60の長さ及び材質は実施例1と同じである。試験は、エジェクター30を導電性ポリエチレンで構成し、ゴムホース60を強制的に燃焼させて、逆火の有無を目視で確認した。
【0039】
試験結果を表1に示す。
【表1】
【0040】
表1に示すとおり、吐出導管33のストレート部の内径が8mm以上12mm以下であって、噴出ノズル32先端のノズル孔径が2mm以上4mm以下である実施例A〜Hは、いずれも逆火は確認されず、原料粉体の搬送性も良好であり、吐出導管33からの原料粉体の吐出量にも問題はなかった。
【0041】
一方、吐出導管33のストレート部の内径が8mm以上12mm以下、あるいは噴出ノズル32先端のノズル孔径が2mm以上4mm以下という本発明の好ましい条件を外れる実施例I〜Mでは強制発火させると逆火が確認された。ただし、この試験では強制発火させた場合の逆火の有無を確認したものであり、本発明の第一の課題である発火を防止するという観点からは、実施例I〜Mもその課題を解決できるものである。
【0042】
なお、実施例I〜Mにおいては原料粉体の搬送性においても若干の問題が見られた。すなわち、実施例Iでは、ノズル孔径が小さいためキャリアガスの流量が不足し、ゴムホース60で搬送不良の傾向が見られた。実施例Jでは、ノズル孔径が大きいためキャリアガスの流速が小さくなり、エジェクター30の吐出導管33内で原料粉末が滞留傾向となった。実施例Kでは、吐出導管33の内径が小さいため、吐出導管33内で原料粉末が滞留傾向となった。実施例L及びMでは、吐出導管33の内径が大きいため吐出導管33内の流速が小さくなり、吐出導管33内で原料粉末が滞留傾向となった。ただし、これらの搬送性の問題は、実際の施工では許容し得る範囲である。
【0043】
(実施例3)
図1の溶射装置において、原料粉末の粒度構成を変化させて試験を行い、吐出導管33の摩耗量を調査した。エジェクター30としては導電性ポリエチレンで構成したものを用いた。キャリアガス(酸素ガス)の圧力条件、並びにゴムホース60の長さ及び材質は実施例1と同じである。
【0044】
試験結果を表2に示す。
【表2】
【0045】
表2に示すとおり、原料粉体に占める0.1mm以下の粒子の割合を10質量%以上とすることで、吐出導管33の摩耗量を低減できる。これは、0.1mm超の粗粒による吐出導管33の摩耗が低減されるからである。また、吐出導管33に摩耗が生じたとしても、0.1mm以下の粒子が吐出導管33の摩耗部分に入り込むことにより、0.1mm以下の粒子が吐出導管33をコーティングする役割を担い、吐出導管33の摩耗が低減されるためである。
【0046】
なお、吐出導管33の摩耗の結果より、0.1mm以下の粒子の割合は20質量%以上であれば好ましく、30質量%以上であればより好ましい。
【0047】
なお、耐火性粉体は、シリカ質粉のみを使用するものとしたがこれに限定されるものではない。例えば、耐火性粉体は、シリカ質粉、カルシア質粉、アルミナ−シリカ質粉、アルミナ質粉、カルシア−シリカ質粉、コーデェライト粉、マグネシア質粉から選ばれる1種又は2種以上を使用することとしてもよい。
【0048】
また、可燃性粉体は、金属Siを使用することとしたが、これに限定されるものではない。例えば、可燃性粉体は、Al、Al−Mg合金を使用することとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の溶射技術は、コークス炉、転炉、溶解炉、AOD炉、取鍋、タンデッシュ、真空脱ガス炉、混銑車、電気炉、焼却炉、誘導炉、加熱炉、ガラス炉などの可燃性金属粉体含有溶射が使用される工業窯炉等に利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 原料粉体
20 ホッパー(貯蔵手段)
21 払出口
30 エジェクター
31 容器部
32 噴出ノズル
33 吐出導管
33a 外管
33b 内管
40 噴射手段
50 水平移送管
50a ライニング層
60 ゴムホース
70 垂直移送管
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火組成物を形成するための溶射装置及び溶射方法、並びにその溶射に使用する溶射材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐火組成物を形成するための溶射技術として、可燃性粉体(例えば、金属粉末)と耐火性粉体(耐火性骨材)とを含む原料粉体を、支燃性のキャリアガス(酸素ガス)によって搬送し噴射して着火溶融することで耐火組成物を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
かかる溶射技術においては、原料粉体とキャリアガスとを混合した混合物を吐出導管の流路に沿って下流側に導くが、従来、吐出導管は耐摩耗性等を考慮して金属(ステンレス鋼)で形成するのが一般的であり、原料粉体と吐出導管との摩擦により発火が生じやすいという問題がある。
【0004】
上記特許文献1においては、吐出導管に、一端から下流に行くにつれて流路の断面積が単調減少する絞り部と、上流から他端に行くにつれて流路の断面積が単調増加する拡張部とを形成することにより、吐出導管の摩耗を防ぐ技術が記載されている。しかし、特許文献1には、吐出導管の材質は特に記載されていない。吐出導管が従来一般的な金属製であれば、依然として原料粉体と吐出導管との摩擦により発火が生じやすいという問題が残る。
【0005】
また、発火が生じた場合、原料粉体の搬送方向と逆方向へ発火が進む現象(逆火)が生じる。逆火を防ぐためには、逆火によって燃焼が進む速度(燃焼速度)よりも原料粉体を搬送する搬送速度が上回る必要がある。上記特許文献2には、逆火が生じた場合に、原料粉体がホッパーへ吹き上げないように、ホッパーからの原料粉体移送路に外気連通部を設ける技術は記載されているが、逆火そのものを防ぐ技術については記載されてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−275816号公報
【特許文献2】特開2007−238977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、原料粉体と吐出導管との摩擦による発火の発生を防止できるようにすることにある。
【0008】
他の課題は、仮に発火が発生したとしても逆火の発生を防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の溶射装置は、耐火性粉体及び可燃性粉体とを含む原料粉体と、支燃性のキャリアガスとを混合した混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射装置であって、前記原料粉体を貯蔵し当該原料粉体を払い出す払出口を有する貯蔵手段と、加圧されたキャリアガスの流れにより前記払出口から前記原料粉体を吸入し、前記キャリアガスと前記原料粉体とを混合し前記混合物とするエジェクターと前記エジェクターにより生成された前記混合物を噴射する噴射手段とを備え、前記エジェクターは、前記払出口に連通する内部空間を有する容器部と、加圧された前記キャリアガスを先端から前記内部空間に噴出する噴出ノズルと、前記内部空間に一端が連通し前記混合物を流路に沿って前記一端から他端へ導く吐出導管とを備え、前記吐出導管の流路を形成する内面の少なくとも一部が、樹脂又はゴムで構成されてなることを特徴とする。
【0010】
本発明の溶射方法は、耐火性粉体及び可燃性粉体とを含む原料粉体と、支燃性のキャリアガスとを混合した混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射方法であって、前記原料粉体を貯蔵する貯蔵手段の払出口から前記原料粉体を払い出す払出工程と、前記貯蔵手段の払出口に連通する内部空間を有する容器部へ前記払出口から払い出された前記原料粉体を導く導入工程と、前記導入工程により導かれた前記原料粉体をキャリアガスの流れにより吸入する吸入工程と、前記吸入された原料粉体と前記キャリアガスとを混合する混合工程と、前記混合工程により混合された混合物を、内面の少なくとも一部が樹脂又はゴムで構成された吐出導管の流路に沿って搬送する搬送工程と、前記搬送工程により搬送された混合物を噴射する噴射工程と、前記噴射工程により噴射された混合物を燃焼させて耐火組成物を形成する形成工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明において、吐出導管の流路を形成する内面の少なくとも一部を構成する樹脂又はゴムとしては、静電気による発火を防止する点から導電性を有するものを使用することが好ましい。
【0012】
また、本発明においては、原料粉体の搬送速度を上げて逆火の発生を防止する点から、吐出導管における内径一定のストレート部の内径は8mm以上12mm以下とし、噴出ノズルの先端のノズル孔径は2mm以上4mm以下とすることが好ましい。
【0013】
更に本発明においては、吐出導管の摩耗を抑制する点から、原料粉体としては、0.1mm以下の粒子が10質量%以上である原料粉体を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吐出導管の流路を形成する内面の少なくとも一部を、樹脂又はゴムで構成したことにより、原料粉体と吐出導管との摩擦による発火(火花)の発生を防止することができる。
【0015】
また、吐出導管のストレート部の内径及び噴出ノズルのノズル孔径を上記のように限定することで、原料粉体の搬送速度を上げることができ、逆火の発生を防止することができるとともに、原料粉体の吐出量も所望量以上を確保することができる。
【0016】
更に、原料粉体としては、0.1mm以下の粒子が10質量%以上である原料粉体を使用することで、吐出導管の摩耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の溶射装置の一実施形態を示す要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の溶射装置の一実施形態を示す要部の断面図である。
【0019】
図1に示す溶射装置は、原料粉体10を貯蔵する貯蔵手段としてのホッパー20と、エジェクター30と、噴射手段40とを備える。
【0020】
原料粉体10は、可燃性粉体(例えば、金属粉末)と耐火性粉体(耐火性骨材)とを含んでなる。好ましくは、0.1mm以下の粒子が10質量%以上となる粒度構成とする。その理由は後述する。
【0021】
ホッパー20は、その底部に原料粉体10を払い出す払出口21を有する。エジェクター30は、加圧されたキャリアガス(酸素ガス)の流れにより払出口21から原料粉体10を吸入し、キャリアガスと原料粉体10とを混合し混合物とする。噴射手段40は、エジェクター30の出側と水平移送管50及びゴムホース60を介して接続されており、エジェクター30により生成された前記混合物を噴射する。なお、水平移送管50は省略することができ、エジェクター30の出側にゴムホース60を直接接続してもよい。
【0022】
次に、エジェクター30の構成を詳細に説明する。エジェクター30は、ホッパー20底部の払出口21に連通する内部空間を有する容器部31と、加圧されたキャリアガスを先端から容器部31の内部空間に噴出する先細りの噴出ノズル32と、容器部31の内部空間に一端が連通し前記混合物を流路に沿って前記一端から他端へ導く吐出導管33とを備える。すなわち、容器部31の内部空間において、キャリアガスは、先細りの噴出ノズル32先端のノズル孔から吐出導管33の一端(基端)に向けて高速で噴出し、それによって容器部31の内部空間を負圧(ここでは大気圧よりも低い圧力)にする。一方、容器部31の内部空間には垂直移送管70を介してホッパー20の払出口21が連通している。このためエジェクター30は、加圧されたキャリアガスの流れにより払出口21から原料粉体10を容器部31の内部空間に吸入し、噴出ノズル32先端のノズル孔から噴出するキャリアガスと原料粉体10とが容器部31の内部空間にて混合され混合物となる。
【0023】
本発明においては、エジェクター30において、特に吐出導管33と原料粉体10との摩擦による発火の発生を防止するため、吐出導管33の流路を形成する内面の少なくとも一部を樹脂又はゴムで構成する。図1の実施形態では、吐出導管33の内面全体及び容器部31の内面全体、すなわち、エジェクター30の内面全体を樹脂又はゴムで構成している。具体的には、吐出導管33及び容器部31の全体を樹脂又はゴムで構成している。このうち、吐出導管33は外管33aに内管33bを嵌め込んだ二重管構造としており、内管33bが消耗したら、その内管のみを交換できるようにしている。なお、吐出導管33は、二重管構造としたがこれに限定されるものではなく、一重管構造としてもよい。
【0024】
また、本実施形態においては、水平移送管50の流路を形成する内面も、その全体を樹脂又はゴムで構成している。具体的には、水平移送管50の内面に樹脂又はゴムをライニングしてライニング層50aを形成している。更に本実施形態においては、水平移送管50のライニング層50aとゴムホース60とを突き合わせて接合している。すなわち、本実施形態では、エジェクター30及びその下流側の流路の内面は全て樹脂又はゴムで形成し、金属が露出しないようにしている。これにより、原料粉体とその流路の内面との摩擦による発火(火花)の発生を確実に防止できる。
【0025】
ただし、原料粉体とその流路の内面との摩擦による発火が最も発生しやすいのは、吐出導管33部分であるので、本発明では、吐出導管33の内面の少なくとも一部を樹脂又はゴムで構成することを要件とする。吐出導管33の内面の全てを樹脂又はゴムで構成することが好ましいが、内面の一部であっても従来に比べ有意性をもって発火の発生を抑制できる。吐出導管33の内面に一部を樹脂又はゴムで構成する場合、吐出導管33のうちでも容器部31側に近い部分において摩擦による発火が発生しやすいので、吐出導管33の基端(容器部31側の一端)から少なくとも150mm程度の範囲は樹脂又はゴムで構成することが好ましい。
【0026】
本発明において、流路の内面を構成する樹脂又はゴムの種類は特に限定されないが、樹脂としては塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート、メチルペンテン樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等、ゴムとしては天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。
【0027】
また、本発明で使用する樹脂又はゴムは導電性を有することが好ましい。これは、原料粉末との摩擦により静電気が溜まり、発火の原因となることを防止するためである。導電性の程度としては、その体積固有抵抗が108Ω・m未満であることが好ましい。このような導電性樹脂は、樹脂に導電性粒子を分散させることで得ることができ、例えば導電性ポリエチレンが挙げられる。また、導電性ゴムは、絶縁性の弾性高分子(ゴム)に導電性粒子を分散させることで得ることができ、例えばニトリルゴムが挙げられる。
【0028】
なお、本実施形態においては、エジェクター30の吐出導管33及び容器部31の全体を樹脂又はゴムで形成することで、その流路の内面を樹脂又はゴムで構成するようにしたが、上述の水平移送管50と同様に流路の内面に樹脂又はゴムをライニングしてもよい。
【0029】
以上のとおり、本発明では、吐出導管33の流路を形成する内面の少なくとも一部を樹脂又はゴムで構成する。樹脂又はゴムで構成された流路の内面は、従来の金属製の流路の内面に比べ物理的には摩耗しやすい。この摩耗を抑制するため、本発明では原料粉末として、0.1mm以下の粒子が10質量%以上である粒度構成のものを使用することが好ましい。このように0.1mm超の粗粒の割合を制限することで、流路の内面が樹脂又はゴムで構成されていたとしてもその摩耗を抑制することができる。
【0030】
本発明では、吐出導管33の流路を形成する内面の少なくとも一部を樹脂又はゴムで構成することで、摩擦による発火の発生を防止しようとしているが、発火は摩擦以外に外部の火種等によっても生じうるし、摩擦による発火の可能性もゼロではない。そこで、本発明の好ましい実施形態では、仮に発火が発生したとしても逆火(原料粉体の搬送方向と逆方向へ発火が進む現象)の発生を防止する手段を講じる。逆火を防ぐためには、上述のとおり。逆火によって燃焼が進む速度(燃焼速度)よりも原料粉体を搬送する搬送速度が上回る必要がある。この点から本発明では、吐出導管33における内径一定のストレート部の内径を8mm以上12mm以下とし、噴出ノズル32先端のノズル孔径を2mm以上4mm以下とすることが好ましい。吐出導管33のストレート部の内径が12mm超あるいはノズル孔径が4mm超では原料粉末の搬送速度が遅くなるので、逆火を防ぐことは困難であり、原料粉体の搬送不良の要因にもなる。吐出導管33のストレート部の内径及びノズル孔径が大きくても、キャリアガスの流量を増やせば原料粉末の搬送速度を上げることは可能であるが、キャリアガスの流量を増やしすぎると原料粉末を噴射施工したときのリバウンドロスが大きくなるので、キャリアガスの流量は制限される。したがって、吐出導管33のストレート部の内径は12mm以下、ノズル孔径は4mm以下とすることが好ましい。
【0031】
一方、吐出導管33のストレート部の内径が8mm未満では原料粉体の詰まりが生じやすくなり搬送性が悪化するとともに、原料粉体の搬送量(吐出量)も低下する。また、噴出ノズル32先端のノズル孔径が2mm未満では、十分なキャリアガスの流量が確保できず、搬送性が悪化するとともに、キャリアガス(酸素ガス)不足で着火不良の要因にもなる。
【0032】
なお、本実施形態において吐出導管33はストレート部のみからなるが、ストレート部の入側及び出側に上記特許文献1のような絞り部や拡張部を設けてもよい。
【0033】
以上の溶射装置を使用して溶射する際には、まず、ホッパー20の払出口21から原料粉体10を払い出す(払出工程)。次いで、ホッパー20の払出口21に垂直移送管70を介して連通する内部空間を有するエジェクター30の容器部31に原料粉体10を導き(導入工程)、この導入工程により導かれた原料粉体10をエジェクター30におけるキャリアガスの流れにより吸入して(吸入工程)、原料粉体10とキャリアガスとを混合する(混合工程)。そして、混合工程により混合された混合物を、内面の少なくとも一部が樹脂又はゴムで構成された吐出導管33の流路に沿って搬送し(搬送工程)、その搬送された混合物を噴射手段40により噴射し(噴射工程)、噴射された混合物を燃焼させて耐火組成物を形成する(形成工程)。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
図1の溶射装置にて試験を行い、発火の有無を確認した。試験では、耐火性粉体としてシリカ(SiO2):85質量%と可燃性粉体として金属Si:15質量%とからなる原料粉体(0.1mm以下の粒子:20質量%)を用い、0.5MPaのキャリアガス(酸素ガス)を流すことで原料粉体を噴射した。エジェクター30としては、導電性ポリエチレンで構成したものとニトリルゴムで構成したものを使用した。ゴムホース60の長さは10mとした。ゴムホース60としては、静電気による発火要因を消すため導電性のものを使用した。
【0035】
原料粉体を10kg単位で搬送し、これを5回実施して、発火の有無を目視で確認した。発火しやすい箇所は吐出導管33の出口付近であり、発火が発生すれば、火花はゴムホース60内を進み、噴射手段40付近で確認される。
【0036】
試験の結果、エジェクター30を導電性ポリエチレンで構成したもの、ニトリルゴムで構成したもののいずれにおいても、5回とも発火の発生は確認されなかった。
【0037】
比較例として、図1の溶射装置において、エジェクター30をステンレス鋼で構成したものとSS鋼で構成したものについて、上記と同様の試験を行った。その結果、いずれの比較例も発火の発生が確認された。
【0038】
(実施例2)
図1の溶射装置において、吐出導管33のストレート部の内径、及び噴出ノズル32先端のノズル孔径を変化させて試験を行い、逆火の防止性能を確認した。原料粉体は実施例1と同じであり、キャリアガス(酸素ガス)の圧力条件も実施例1と同じである。ゴムホース60の長さ及び材質は実施例1と同じである。試験は、エジェクター30を導電性ポリエチレンで構成し、ゴムホース60を強制的に燃焼させて、逆火の有無を目視で確認した。
【0039】
試験結果を表1に示す。
【表1】
【0040】
表1に示すとおり、吐出導管33のストレート部の内径が8mm以上12mm以下であって、噴出ノズル32先端のノズル孔径が2mm以上4mm以下である実施例A〜Hは、いずれも逆火は確認されず、原料粉体の搬送性も良好であり、吐出導管33からの原料粉体の吐出量にも問題はなかった。
【0041】
一方、吐出導管33のストレート部の内径が8mm以上12mm以下、あるいは噴出ノズル32先端のノズル孔径が2mm以上4mm以下という本発明の好ましい条件を外れる実施例I〜Mでは強制発火させると逆火が確認された。ただし、この試験では強制発火させた場合の逆火の有無を確認したものであり、本発明の第一の課題である発火を防止するという観点からは、実施例I〜Mもその課題を解決できるものである。
【0042】
なお、実施例I〜Mにおいては原料粉体の搬送性においても若干の問題が見られた。すなわち、実施例Iでは、ノズル孔径が小さいためキャリアガスの流量が不足し、ゴムホース60で搬送不良の傾向が見られた。実施例Jでは、ノズル孔径が大きいためキャリアガスの流速が小さくなり、エジェクター30の吐出導管33内で原料粉末が滞留傾向となった。実施例Kでは、吐出導管33の内径が小さいため、吐出導管33内で原料粉末が滞留傾向となった。実施例L及びMでは、吐出導管33の内径が大きいため吐出導管33内の流速が小さくなり、吐出導管33内で原料粉末が滞留傾向となった。ただし、これらの搬送性の問題は、実際の施工では許容し得る範囲である。
【0043】
(実施例3)
図1の溶射装置において、原料粉末の粒度構成を変化させて試験を行い、吐出導管33の摩耗量を調査した。エジェクター30としては導電性ポリエチレンで構成したものを用いた。キャリアガス(酸素ガス)の圧力条件、並びにゴムホース60の長さ及び材質は実施例1と同じである。
【0044】
試験結果を表2に示す。
【表2】
【0045】
表2に示すとおり、原料粉体に占める0.1mm以下の粒子の割合を10質量%以上とすることで、吐出導管33の摩耗量を低減できる。これは、0.1mm超の粗粒による吐出導管33の摩耗が低減されるからである。また、吐出導管33に摩耗が生じたとしても、0.1mm以下の粒子が吐出導管33の摩耗部分に入り込むことにより、0.1mm以下の粒子が吐出導管33をコーティングする役割を担い、吐出導管33の摩耗が低減されるためである。
【0046】
なお、吐出導管33の摩耗の結果より、0.1mm以下の粒子の割合は20質量%以上であれば好ましく、30質量%以上であればより好ましい。
【0047】
なお、耐火性粉体は、シリカ質粉のみを使用するものとしたがこれに限定されるものではない。例えば、耐火性粉体は、シリカ質粉、カルシア質粉、アルミナ−シリカ質粉、アルミナ質粉、カルシア−シリカ質粉、コーデェライト粉、マグネシア質粉から選ばれる1種又は2種以上を使用することとしてもよい。
【0048】
また、可燃性粉体は、金属Siを使用することとしたが、これに限定されるものではない。例えば、可燃性粉体は、Al、Al−Mg合金を使用することとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の溶射技術は、コークス炉、転炉、溶解炉、AOD炉、取鍋、タンデッシュ、真空脱ガス炉、混銑車、電気炉、焼却炉、誘導炉、加熱炉、ガラス炉などの可燃性金属粉体含有溶射が使用される工業窯炉等に利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 原料粉体
20 ホッパー(貯蔵手段)
21 払出口
30 エジェクター
31 容器部
32 噴出ノズル
33 吐出導管
33a 外管
33b 内管
40 噴射手段
50 水平移送管
50a ライニング層
60 ゴムホース
70 垂直移送管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性粉体及び可燃性粉体を含む原料粉体と、支燃性のキャリアガスとを混合した混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射装置であって、
前記原料粉体を貯蔵し当該原料粉体を払い出す払出口を有する貯蔵手段と、
加圧されたキャリアガスの流れにより前記払出口から前記原料粉体を吸入し、前記キャリアガスと前記原料粉体とを混合し前記混合物とするエジェクターと、
前記エジェクターにより生成された前記混合物を噴射する噴射手段とを備え、
前記エジェクターは、
前記払出口に連通する内部空間を有する容器部と、
加圧された前記キャリアガスを先端から前記内部空間に噴出する噴出ノズルと、
前記内部空間に一端が連通し前記混合物を流路に沿って前記一端から他端へ導く吐出導管とを備え、
前記吐出導管の流路を形成する内面の少なくとも一部が、樹脂又はゴムで構成されてなる溶射装置。
【請求項2】
前記樹脂又はゴムは、導電性を有する請求項1に記載の溶射装置。
【請求項3】
前記吐出導管は前記流路の断面積が一定のストレート部を有し、前記ストレート部の内径が8mm以上12mm以下であり、
かつ、前記噴出ノズルの先端のノズル孔径が2mm以上4mm以下である請求項1又は2に記載の溶射装置。
【請求項4】
耐火性粉体及び可燃性粉体を含む原料粉体と、支燃性のキャリアガスとを混合した混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射方法であって、
前記原料粉体を貯蔵する貯蔵手段の払出口から前記原料粉体を払い出す払出工程と、
前記貯蔵手段の払出口に連通する内部空間を有する容器部へ前記払出口から払い出された前記原料粉体を導く導入工程と、
前記導入工程により導かれた前記原料粉体をキャリアガスの流れにより吸入する吸入工程と、
前記吸入された原料粉体と前記キャリアガスとを混合する混合工程と、
前記混合工程により混合された混合物を、内面の少なくとも一部が樹脂又はゴムで構成された吐出導管の流路に沿って搬送する搬送工程と、
前記搬送工程により搬送された混合物を噴射する噴射工程と、
前記噴射工程により噴射された混合物を燃焼させて耐火組成物を形成する形成工程とを含む溶射方法。
【請求項5】
前記樹脂又はゴムとして、導電性を有するものを使用する請求項4に記載の溶射方法。
【請求項6】
前記吸入工程では、先端のノズル孔径が2mm以上4mm以下である噴出ノズルにより噴出されたキャリアガスの流れにより前記原料粉体を吸入し、
前記搬送工程では、前記吐出導管に設けられた、内径一定のストレート部の内径が8mm以上12mm以下の条件下で搬送する請求項4又は5に記載の溶射方法。
【請求項7】
前記原料粉体として、0.1mm以下の粒子が10質量%以上である原料粉体を使用する請求項4〜6のいずれかに記載の溶射方法。
【請求項8】
請求項4〜6のいずれかに記載の溶射方法で使用される原料粉体であって、0.1mm以下の粒子が10質量%以上である原料粉体からなる溶射材料。
【請求項1】
耐火性粉体及び可燃性粉体を含む原料粉体と、支燃性のキャリアガスとを混合した混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射装置であって、
前記原料粉体を貯蔵し当該原料粉体を払い出す払出口を有する貯蔵手段と、
加圧されたキャリアガスの流れにより前記払出口から前記原料粉体を吸入し、前記キャリアガスと前記原料粉体とを混合し前記混合物とするエジェクターと、
前記エジェクターにより生成された前記混合物を噴射する噴射手段とを備え、
前記エジェクターは、
前記払出口に連通する内部空間を有する容器部と、
加圧された前記キャリアガスを先端から前記内部空間に噴出する噴出ノズルと、
前記内部空間に一端が連通し前記混合物を流路に沿って前記一端から他端へ導く吐出導管とを備え、
前記吐出導管の流路を形成する内面の少なくとも一部が、樹脂又はゴムで構成されてなる溶射装置。
【請求項2】
前記樹脂又はゴムは、導電性を有する請求項1に記載の溶射装置。
【請求項3】
前記吐出導管は前記流路の断面積が一定のストレート部を有し、前記ストレート部の内径が8mm以上12mm以下であり、
かつ、前記噴出ノズルの先端のノズル孔径が2mm以上4mm以下である請求項1又は2に記載の溶射装置。
【請求項4】
耐火性粉体及び可燃性粉体を含む原料粉体と、支燃性のキャリアガスとを混合した混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射方法であって、
前記原料粉体を貯蔵する貯蔵手段の払出口から前記原料粉体を払い出す払出工程と、
前記貯蔵手段の払出口に連通する内部空間を有する容器部へ前記払出口から払い出された前記原料粉体を導く導入工程と、
前記導入工程により導かれた前記原料粉体をキャリアガスの流れにより吸入する吸入工程と、
前記吸入された原料粉体と前記キャリアガスとを混合する混合工程と、
前記混合工程により混合された混合物を、内面の少なくとも一部が樹脂又はゴムで構成された吐出導管の流路に沿って搬送する搬送工程と、
前記搬送工程により搬送された混合物を噴射する噴射工程と、
前記噴射工程により噴射された混合物を燃焼させて耐火組成物を形成する形成工程とを含む溶射方法。
【請求項5】
前記樹脂又はゴムとして、導電性を有するものを使用する請求項4に記載の溶射方法。
【請求項6】
前記吸入工程では、先端のノズル孔径が2mm以上4mm以下である噴出ノズルにより噴出されたキャリアガスの流れにより前記原料粉体を吸入し、
前記搬送工程では、前記吐出導管に設けられた、内径一定のストレート部の内径が8mm以上12mm以下の条件下で搬送する請求項4又は5に記載の溶射方法。
【請求項7】
前記原料粉体として、0.1mm以下の粒子が10質量%以上である原料粉体を使用する請求項4〜6のいずれかに記載の溶射方法。
【請求項8】
請求項4〜6のいずれかに記載の溶射方法で使用される原料粉体であって、0.1mm以下の粒子が10質量%以上である原料粉体からなる溶射材料。
【図1】
【公開番号】特開2013−43141(P2013−43141A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183752(P2011−183752)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】
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