説明

溶接トーチ及びプラズマ溶接方法

【課題】本発明は、プラズマ溶接に要するコストを低減可能であると共に、容易にプラズマ溶接を行うことの可能な溶接トーチ及びプラズマ溶接方法を提供することを課題とする。
【解決手段】パイロットガスが供給される先端部24Aを含む電極24、及び電極24の先端部24Aを露出するように、電極24の軸方向Aに対する電極24の位置を規制するコレット22を有するインナー部材11と、電極24の先端部24Aのうち、少なくとも一部を収容するセンターノズル27、センターノズル27の外側に配置されたアウターノズル31、及びセンターノズル27の先端面27aに向かうようにシールドガスを案内するシールドガス流路33を有し、かつインナー部材11の外周部の一部を囲むように配置されたアウター部材12と、電極24の軸方向Aに対してインナー部材11及びアウター部材12を相対的に移動させる駆動部14と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイロットアーク発生装置を使用することなく、被溶接物をプラズマ溶接することの可能な溶接トーチ及びプラズマ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属及び非鉄金属等を母材として用いた構造物(被溶接物)の溶接では、プラズマ溶接法やTIG溶接法(Tungsten Inert Gas welding)等の非消耗式電極を用いた溶接方法が用いられている。
【0003】
図9は、従来のプラズマ溶接法を説明するための図であり、図10は、従来のTIG溶接法を説明するための図である。
図9を参照するに、プラズマ溶接法では、電極101とセンターノズル102の間にパイロットアークを発生させ、その後、電流の流れを被溶接物104に切り替えることで溶接を行う。
【0004】
ここで、図9を参照して、プラズマ溶接法の原理について説明する。
始めに、高周波発生器(パイロットアーク発生装置105に組み込まれている機器)を用いて、電極101(タングステン電極)と水冷されたセンターノズル102との間に低電流のアーク(「パイロットアーク」という)を発生させる。
【0005】
センターノズル102内にある不活性ガス、或いは不活性ガスに水素を添加したパイロットガスは、このアーク熱によってイオン化し、アーク電流の良導体となり、電流の流れを被溶接物104側に切り替えることで、電極101と被溶接物104間で本溶接用アークを発生させる。
【0006】
このイオン化したガスはプラズマと呼ばれ、センターノズル102に設けられたオリフィス(径が数ミリの穴)を通過する際に、プラズマジェットとなって噴出する。このプラズマジェットに導かれたアークは、緊縮して高密度になっている。このため、通常のTIG溶接法よりも高温であるため、より被溶接物104を溶融させることができる。
【0007】
ところで、図10に示すTIG溶接に使用する溶接トーチ110では、電極111の先端111Aがセンターノズル113の先端から突出している。これにより、電極111の先端111Aと被溶接物115との距離が近いため、パイロットアークを発生させるためのパイロットアーク発生装置は必要ない。
【0008】
一方、図9に示すように、プラズマ溶接に使用する溶接トーチ100では、電極101の先端101Aがセンターノズル102内に収容されている。これにより、電極101の先端101Aと被溶接物104との距離が離れてしまうため、被溶接物104までアークを到達させることができない。
【0009】
そこで、プラズマ溶接を行う場合、パイロットアーク電源107、及び電源の切り替え装置108を含む高価なパイロットアーク発生装置105が必要となるため、プラズマ溶接に要するコストが増加してしまうという問題があった。
【0010】
また、特許文献1には、中心に軸方向のガス通路を有し、さらにその外周に2次ガス通路を備えた2重シールド構造のプラズマアークトーチ本体を有し、プラズマアークトーチ本体に着脱自在に取り付けられた取替部品を取り替えることにより、プラズマアークトーチとTIG溶接トーチとを兼ねるように構成したプラズマアークTIG溶接兼用トーチが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実開昭56−126981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、特許文献1記載の溶接トーチでは、取替部品を取り替えることで、プラズマ溶接とTIG溶接とを行う構成とされている。
したがって、特許文献1記載の溶接トーチを用いてプラズマ溶接を行う場合、図9に示す高価なパイロットアーク発生装置105が必要となるので、プラズマ溶接に要するコストが増加してしまうという問題があった。
【0013】
つまり、図9に示す構成を用いた従来のプラズマ溶接、及び特許文献1記載の溶接トーチを用いたプラズマ溶接を行う場合、プラズマ溶接に要するコストが増加してしまうという問題があった。
【0014】
また、プラズマ溶接機の値段は、TIG溶接機の値段の6〜7倍程度と非常に高価であり、あまり普及していない。つまり、プラズマ溶接法を用いて、手軽に被溶接物を溶接することは困難である。
【0015】
そこで、本発明は、プラズマ溶接に要するコストを低減可能であると共に、容易にプラズマ溶接を行うことの可能な溶接トーチ及びプラズマ溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明によれば、パイロットガスが供給される先端部を含む電極、及び該電極の先端部を露出するように前記電極の外周に配置され、かつ前記電極の軸方向に対する前記電極の位置を規制するコレットを有するインナー部材と、前記電極の先端部のうち、少なくとも一部を収容するセンターノズル、該センターノズルから離間するように前記センターノズルの外側に配置されたアウターノズル、及び前記センターノズルと前記アウターノズルとの間に形成され、前記センターノズルの先端に向かうようにシールドガスを案内するシールドガス流路を有すると共に、前記インナー部材の外周部の一部を囲むように配置されたアウター部材と、前記電極の軸方向に対して、前記インナー部材及び前記アウター部材を相対的に移動させる駆動部と、を含むことを特徴とする溶接トーチが提供される。
【0017】
また、請求項2に係る発明によれば、前記電極の先端は、前記インナー部材及び前記アウター部材が前記電極の軸方向に対して相対的に移動することで、前記センターノズルの先端面から突出、或いは前記センターノズル内に収容されることを特徴とする請求項1記載の溶接トーチが提供される。
【0018】
また、請求項3に係る発明によれば、前記駆動部は、前記インナー部材の外周部のうち、前記アウター部材から露出された部分に設けられ、かつ前記電極の軸方向に延在するラックと、前記ラックと係合し、回転することで前記インナー部材を前記電極の軸方向に移動させるピニオンと、を有することを特徴とする請求項1または2記載の溶接トーチが提供される。
【0019】
また、請求項4に係る発明によれば、前記アウター部材は、溶接トーチ支持部材に固定されていることを特徴とする請求項3記載の溶接トーチが提供される。
【0020】
また、請求項5に係る発明によれば、前記電極は、非消耗型電極であることを特徴とする請求項1なしい4のうち、いずれ1項記載の溶接トーチが提供される。
【0021】
また、請求項6に係る発明によれば、請求項1ないし5のうち、いずれか1項記載の溶接トーチを用いたプラズマ溶接方法であって、前記センターノズルの先端面から前記電極の先端を突出させ、前記パイロットガスを流すことで、該電極の先端と被溶接物との間にアークを発生させる工程と、前記アークを発生させた後、前記電極の先端を前記センターノズル内に収容し、シールドガスを流すことで、前記被溶接物を溶接する工程と、を含むことを特徴とするプラズマ溶接方法が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、パイロットガスが供給される先端部を含む電極、及び電極の先端部を露出するように電極の外周に配置され、かつ電極の軸方向に対する電極の位置を規制するコレットを有するインナー部材と、電極の先端部のうち、少なくとも一部を収容するセンターノズル、センターノズルから離間するようにセンターノズルの外側に配置されたアウターノズル、及びセンターノズルとアウターノズルとの間に形成され、センターノズルの先端に向かうようにシールドガスを案内するシールドガス流路を有すると共に、インナー部材の外周部の一部を囲むように配置されたアウター部材と、電極の軸方向に対してインナー部材及びアウター部材を相対的に移動させる駆動部と、を含むことにより、センターノズルの先端面から電極の先端を突出させてパイロットガスを流すことで、電極の先端と被溶接物との間にアーク(パイロットアーク)を発生させることが可能になると共に、アークを発生させた後、電極の先端をセンターノズル内に収容し、シールドガスを流すことで、被溶接物をプラズマ溶接することが可能となる。
【0023】
これにより、従来のプラズマ溶接用トーチを用いて、被溶接物をプラズマ溶接する際に必要であった高価なパイロットアーク発生装置(パイロットアークを発生させるための装置)が不要となるので、プラズマ溶接を行う際のコストを低減できる。
【0024】
また、プラズマ溶接機よりも普及率の高いTIG溶接機に、インナー部材、アウター部材、及び駆動部を含む溶接トーチを装着して、プラズマ溶接を行うことで、容易にプラズマ溶接を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る溶接トーチの概略構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す状態の溶接トーチのピニオンを左回転させた際の溶接トーチの状態を模式的に示す断面図である。
【図3】図2に示す状態の溶接トーチのピニオンを右回転させた際の溶接トーチの状態を模式的に示す断面図である。
【図4】本実施の形態の溶接トーチの他の適用例を説明するための図(その1)である。
【図5】本実施の形態の溶接トーチの他の適用例を説明するための図(その2)である。
【図6】実施例1の溶接を行う際のセンターノズルの先端面と電極の先端との位置関係を説明するための図である。
【図7】実施例2の溶接を行う際のセンターノズルの先端面と電極の先端との位置関係を説明するための図である。
【図8】実施例1及び比較例の溶接後の断面写真及び溶け込み深さを示す図である。
【図9】従来のプラズマ溶接法を説明するための図である。
【図10】従来のTIG溶接法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る溶接トーチの概略構成を示す断面図である。
図1を参照するに、本実施の形態の溶接トーチ10は、インナー部材11と、アウター部材12と、固定部13と、駆動部14と、を有する。
インナー部材11は、耐熱絶縁部材15と、コレットボディ16と、トーチヘッド18と、トーチキャップ21と、コレット22と、電極24と、を有する。
【0027】
耐熱絶縁部材15は、筒状とされた部材であり、下端側に位置する内壁にはコレットボディ16と係合する第1の係合部15Aを有する。
コレットボディ16は、筒状とされた部材であり、耐熱絶縁部材15内に挿入されている。コレットボディ16は、先端部16Aと、第2の係合部16Bと、第3の係合部16Cと、パイロットガス通過用孔16aと、を有する。
【0028】
先端部16Aは、コレットボディ16の下端部(言い換えれば、電極24の先端部24A側に位置する部分)に設けられており、電極24の先端24aに向かうにつれて、内径が狭くなるような形状とされている。
【0029】
第2の係合部16Bは、先端部16Aの上方に位置するコレットボディ16の外壁に設けられており、耐熱絶縁部材15の第1の係合部15Aと係合している。第3の係合部16Cは、コレットボディ16の上端部の外壁に設けられている。
【0030】
パイロットガス通過用孔16aは、コレットボディ16のうち、先端部16Aと第2の係合部16Bとの間に位置する部分を貫通するように、複数形成されている。インナー部材11に供給されたパイロットガスは、パイロットガス通過用孔16aを介して、電極24とセンターノズル27との間に形成された空間に供給される。
上記構成とされたコレットボディ16は、耐熱絶縁部材15内において、その位置が規制されている。
【0031】
トーチヘッド18は、筒状の部材とされており、その下部が耐熱絶縁部材15内に挿入されている。トーチヘッド18は、第4の係合部18Aと、パイロットガス導入口18Bと、第5の係合部18Cと、を有する。
第4の係合部18Aは、トーチヘッド18の下端内壁に設けられており、コレットボディ16の第3の係合部16Cと係合している。
【0032】
トーチヘッド18は、耐熱絶縁体15の上端面と接触している。これにより、トーチヘッド18の上部は、耐熱絶縁体15から露出されている。
パイロットガス導入口18Bは、トーチヘッド18の上部側壁を貫通するように設けられている。パイロットガス導入口18Bは、図示していないパイロットガス供給装置と接続されている。パイロットガス導入口18Bには、該パイロットガス供給装置からパイロットガスが供給される。また、パイロットガス導入口18Bから導入されたパイロットガスは、トーチヘッド18内に供給される。第5の係合部18Cは、トーチヘッド18の上端内壁に設けられている。
【0033】
トーチキャップ21は、筒状部材35と、キャップ本体36とを有する。筒状部材35は、トーチヘッド18内に挿入されており、その下端がコレット22の上端と接触している。筒状部材35は、コレットボディ16内にコレット22を押し込むことで、コレットボディ16内におけるコレット22の軸方向Aに対する位置を調整するための部材である。
【0034】
筒状部材35は、第6の係合部35Aと、パイロットガス通過用孔35Bと、を有する。第6の係合部35Aは、筒状部材35の上端外壁に設けられている。第6の係合部35Aは、トーチヘッド18の第5の係合部18Cと係合している。これにより、電極24の軸方向Aに対するトーチキャップ21の位置が規制されている。
【0035】
パイロットガス通過用孔35Bは、パイロットガス導入口18Bの近傍に位置する筒状部材35の側壁を貫通するように複数設けられている。これにより、パイロットガス通過用孔35Bを介して、筒状部材35内の空間にパイロットガスが導入されると共に、パイロットガスが筒状部材35の下方に移動する。
キャップ本体36は、筒状部材35の一方の開放端である上端を塞ぐように設けられている。
【0036】
コレット22は、筒状とされており、トーチキャップ21によりコレットボディ16内に収容されている。コレット22は、突出部22Aと、パイロットガス通過用孔22aと、を有する。
【0037】
突出部22Aは、先端部16A側に位置するコレット22の端部の内壁に設けられている。突出部22Aは、電極24の中心軸に向かう方向に突出しており、電極24と接触している。
突出部22Aは、トーチキャップ21の筒状部材35によりコレット22が押圧され、先端部16Aによりコレット22の下端が変形した際、コレット22内に配置された電極24と接触することで、軸方向Aにおける電極24の位置を規制する。
【0038】
パイロットガス通過用孔22aは、パイロットガス通過用孔16aと対向する位置に設けられている。パイロットガス通過用孔16a,22aを通過したパイロットガスは、電極24の先端部24Aとセンターノズル27との間の空間に案内される。
上記構成とされたコレット22は、電極24の先端部24Aを露出するように、電極24の外周に配置され、軸方向Aに対する電極24の位置を規制している。
【0039】
電極24は、軸方向Aに延在した非消耗式電極である。電極24は、コレット22から露出され、かつ少なくともその一部がセンターノズル27に収容される先端部24Aを有する。先端部24Aは、パイロットガスを流した状態で被溶接物と近接することで、アークを発生させる先端24aを有する。
【0040】
アウター部材12は、トーチボディ26と、センターノズル27と、センターノズル押さえ29と、アウターノズル31と、メッシュ32と、シールドガス流路33と、を有する。
トーチボディ26は、インナー部材11(具体的には、耐熱絶縁部材15)を収容する筒状空間26Aと、冷却水用管路26Bと、シールドガス導入孔26aと、を有する。
【0041】
冷却水用管路26Bは、トーチボディ26のうち、筒状空間26Aよりも外側に位置する部分に形成されている。冷却水用管路26Bの下端部は、センターノズル27により気密されている。冷却水用管路26Bは、センターノズル27を冷却する冷却水を流すためのものである。
【0042】
シールドガス導入孔26aは、トーチボディ26のうち、冷却水用管路26Bとアウターノズル31との間に位置する部分を貫通するように設けられている。これにより、シールドガス導入孔26aは、その下方に配置されたシールドガス流路33にシールドガスを供給可能な構成とされている。
シールドガス導入孔26aは、図示していないシールドガス供給装置と接続されている。シールドガス導入孔26aには、該シールドガス供給装置からシールドガスが供給される。
【0043】
センターノズル27は、電極24の先端部24A側に位置するトーチボディ26の下端を塞ぐように、トーチボディ26に設けられている。センターノズル27は、電極24の先端部24Aの一部を収容する筒状部27Aと、被溶接物と対向する平坦な先端面27aと、を有する。
筒状部27Aの両端(上端及び下端)は、開放端とされている。先端面27a側に位置する筒状部27Aの下端は、電極24の先端24aを先端面27aから下方に突出させる際に電極24の先端部24Aが通過する部分である。
【0044】
センターノズル押さえ29は、トーチボディ26のうち、シールドガス導入孔26aの下方に位置する部分の側壁に設けられている。センターノズル押さえ29は、トーチボディ26の下端に対してセンターノズル27を押さえ付けることで、トーチボディ26にセンターノズル27を取り付ける。
【0045】
アウターノズル31は、トーチボディ26のうち、シールドガス導入孔26aよりも外側に位置する部分の側壁に設けられている。アウターノズル31は、センターノズル27及びセンターノズル押さえ29を囲むような形状とされている。アウターノズル31の先端面31aは、センターノズル27の先端面27aに対して略面一とされている。
【0046】
メッシュ32は、シールドガス導入孔26aの下方に位置するセンターノズル押さえ29とアウターノズル31との間に配置されている。
シールドガス流路33は、センターノズル27及びセンターノズル押さえ29とアウターノズル31との間に形成されている。シールドガス流路33には、シールドガス導入孔26a及びメッシュ32を通過したシールドガスが供給される。シールドガス流路33は、電極24の先端24aに供給されるパイロットガスを囲むように、シールドガスを案内する。
【0047】
固定部13は、絶縁体41を介して、トーチボディ26の上部側壁に設けられている。固定部13は、ボルト43により溶接トーチ支持部材(図示せず)に固定されている。これにより、溶接トーチ支持部材(図示せず)に対するアウター部材12の位置が固定される。固定部13は、駆動部14を構成する後述するピニオン47が設けられるピニオン支持部44を有する。
【0048】
駆動部14は、ラック46と、ピニオン47と、を有する。ラック46は、絶縁体49を介して、トーチヘッド18の上部外壁に固定されている。ラック46は、電極24の軸方向Aに延在するように配置されている。
ピニオン47は、ラック46と係合すると共に、回転可能な状態で、ピニオン支持部44に設けられている。
【0049】
図2は、図1に示す状態の溶接トーチのピニオンを左回転させた際の溶接トーチの状態を模式的に示す断面図である。図3は、図2に示す状態の溶接トーチのピニオンを右回転させた際の溶接トーチの状態を模式的に示す断面図である。図2及び図3において、図1に示す溶接トーチ10と同一構成部分には同一符号を付す。
【0050】
図2に示すように、図1に示す状態からピニオン47を左回転させると、図1に示す状態からピニオン47に対してラック46が下方に移動するため、ラック46が固定されたインナー部材11も下方に移動する。これにより、図1に示す状態から電極24も下方に移動するため、図2に示すように、電極24の先端24aがセンターノズル27の先端面27aの下方に突出する。
【0051】
また、図3に示す状態からピニオン47を右回転させると、図2に示す状態からピニオン47に対してラック46が上方に移動するため、ラック46が固定されたインナー部材11も上方に移動する。これにより、図2に示す状態から電極24も上方に移動するため、図3に示すように、電極24の先端24aがセンターノズル27内に収容される。
なお、ピニオン47は、手動で回転させてもよいし、自動で回転させてもよい。
【0052】
上記構成とされた溶接トーチ10を用いて、被溶接物51をプラズマ溶接する場合、図2に示すように、センターノズル27の先端面27aから電極24の先端24aを突出させ、パイロットガスを流すことで、電極24の先端24aと被溶接物51との間にアークを発生させ、その後、図3に示すように、電極24の先端24aをセンターノズル27内に収容し、シールドガスを流すことで被溶接物51を溶接する。
【0053】
本実施の形態の溶接トーチによれば、パイロットガスが供給される先端部24A(先端24aを含む)を含む電極24、及び電極24の先端部24Aを露出するように電極24の外周に配置され、かつ電極24の軸方向Aに対する電極24の位置を規制するコレット22を有するインナー部材11と、電極24の先端部24Aのうち、少なくとも一部を収容するセンターノズル27、センターノズル27から離間するようにセンターノズル27の外側に配置されたアウターノズル31、及びセンターノズル27とアウターノズル31との間に形成され、センターノズル27の先端面27aに向かうようにシールドガスが流れるシールドガス流路33を有すると共に、インナー部材11の外周部の一部を囲むように配置されたアウター部材12と、電極24の軸方向Aに対して、インナー部材11及びアウター部材12を相対的に移動させる駆動部14と、を含むことにより、センターノズル27の先端面27aから電極24の先端24aを突出させ、パイロットガスを流すことで、電極24の先端24aと被溶接物51との間にアーク(パイロットアーク)を発生させることが可能になると共に、アークを発生させた後、電極24の先端24aをセンターノズル27内に収容し、シールドガスを流すことで被溶接物51をプラズマ溶接することが可能となる。
【0054】
これにより、従来のプラズマ溶接用トーチを用いて、被溶接物をプラズマ溶接する際に必要であった高価なパイロットアーク発生装置(パイロットアークを発生させるための装置)が不要となるので、プラズマ溶接を行う際のコストを低減できる。
【0055】
また、プラズマ溶接機よりも普及率の高いTIG溶接機に、インナー部材11、アウター部材12、及び駆動部14を含む溶接トーチ10を装着して、プラズマ溶接を行うことで、容易にプラズマ溶接を行うことができる。
【0056】
また、上記構成とされた溶接トーチ10を用いて、被溶接物51をプラズマ溶接することで、本実施の形態の溶接トーチ10と同様な効果を得ることができる。
さらに、従来のTIG溶接では、深い溶け込みを得るためにシールドガスとしてヘリウム(その他電位傾度の高いガス)を用いることが行われていたが、本発明では、シールドガスとしてアルゴン単体を用いた場合でも、シールドガスとしてヘリウムを用いた従来のTIG溶接と比較して、同等以上の深い溶け込みを得ることができる。
【0057】
なお、本実施の形態では、一例としてアウター部材12を固定し、アウター部材12に対してインナー部材11を電極24の軸方向Aに移動させる場合を例に挙げて説明したが、インナー部材11を固定し、インナー部材11に対してアウター部材12を移動可能な構成とすることで、電極24を軸方向Aに移動させてもよい。
【0058】
さらに、本実施の形態では、駆動部14の一例としてラック46及びピニオン47よりなるラック・アンド・ピニオンを用いて、電極24を移動させる場合を例に挙げて説明したが、駆動部14はこれに限定されない。例えば、機械式、電磁式、空圧式、油圧式、スプリング式等の機構を設け、該機構により電極24を移動させてもよい。
【0059】
図4及び図5は、本実施の形態の溶接トーチの他の適用例を説明するための図である。図4及び図5において、図2に示す構造体と同一構成部分には、同一符号を付す。
【0060】
ここで、図4及び図5を参照して、本実施の形態の溶接トーチ10の他の適用例について説明する。
図4に示すように、センターノズル27の先端面27aから電極24の先端24aを突出させ、GMA溶接(ガスメタルアーク溶接)と組み合わせることで、TIG・MIG溶接を行うことができる。
また、図5に示すように、センターノズル27内に電極24の先端24aを収容させ、GMA溶接と組み合わせることで、プラズマMIG溶接を行うことができる。
【0061】
さらに図2に示すように、電極24をセンターノズル27の先端面27aから突出させ、パイロットガスの流路とシールドガスの流路とに同種のガスあるいは異なるガスをシールドガスとして流し、二重シールド用を用いたTIG溶接のトーチとして使用することも可能である。
【0062】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0063】
(実験例1)
図6は、実施例1の溶接を行う際のセンターノズルの先端面と電極の先端との位置関係を説明するための図である。図6では、図1に示す溶接トーチ10の構成要素のうち、電極24及びセンターノズル27のみを図示する。
【0064】
図1に示す溶接トーチ10を用いて、センターノズル27の先端面27aから電極24の先端24aを3mm突出させると共に、電極24の先端24aと被溶接物51である厚さの薄い板(例えば5mm以下)との距離を2mmとして、高周波スタート方式により電極24の先端24aと被溶接物51との間でアークを発生させ、その後、電極24を上方に6mm移動させて、電極24の先端24aをセンターノズル27の先端面27aから3mm奥の位置で固定させて、本溶接を行った。また、センターノズル27の先端面27aと被溶接物51の上面51aとの距離を5mmとした。
【0065】
このとき、TIG溶接機を用いると共に、電流を200A、溶接速度を30cm/min、パイロットガスとして100%アルゴン(流量が3L/min)、シールドガスとして100%アルゴン(流量が15L/min)、センターノズル27の内径を5mm、電極24の外径を4mmとして、板厚が5mmとされたSUS304板(被溶接物51)の溶接を行った。実施例1の溶接後の被溶接物51の断面写真、及び溶け込み深さを図8に示す。
【0066】
(実験例2)
図7は、実施例2の溶接を行う際のセンターノズルの先端面と電極の先端との位置関係を説明するための図である。図7では、図1に示す溶接トーチ10の構成要素のうち、電極24及びセンターノズル27のみを図示する。
【0067】
図1に示す溶接トーチ10を用いて、センターノズル27の先端面27aから電極24の先端24aを10mm突出させると共に、電極24の先端24aと被溶接物51(具体的には、厚さが厚く(例えば、5mmよりも厚い厚さ)、かつ開先を有した板材)との距離を3mmとして、高周波スタート方式により電極24の先端24aと被溶接物51との間でアークを発生させ、その後、電極24を上方に13mm移動させて、電極24の先端24aをセンターノズル27の先端面27aから3mm奥の位置で固定させて、本溶接を行った。また、センターノズル27の先端面27aと被溶接物51の上面51aとの距離を5mmとした。
【0068】
このとき、TIG溶接機を用いると共に、電流を200A、溶接速度を30cm/min、パイロットガスとして100%アルゴン(流量が3L/min)、シールドガスとして100%アルゴン(流量が15L/min)、センターノズル27の内径を5mm、電極24の外径を4mmとして、板厚が12mmとされたSUS304板(被溶接物51)の溶接を行った。
【0069】
(比較例)
従来のTIG溶接用トーチを用いて、被溶接物(具体的には、厚さの薄い板材)の本溶接を行った。このとき、TIG溶接機を用いると共に、電流を200A、溶接速度を30cm/min、100%アルゴン(流量が10L/min)として、板厚が5mmとされたSUS304板(被溶接物51)の溶接を行った。
比較例の溶接後の被溶接物の断面写真、及び溶け込み深さを図8に示す。
【0070】
(実施例1及び比較例の溶け込み深さについて)
図8を参照するに、溶接ガスとして100%アルゴンガスを用い、かつ同一の電流で溶接を行った場合、実施例1の方が、比較例よりも1.4mm程度溶け込み深さが深いことが確認できた。
【0071】
つまり、TIG溶接機を用いると共に、シールドガスとして100%アルゴンを用いた場合でも、従来のTIG溶接よりも溶け込み深さを深くできること(入熱を増加できること)が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、プラズマ溶接に要するコストを低減可能であると共に、容易にプラズマ溶接を行うことの可能な溶接トーチ及びプラズマ溶接方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0073】
10…溶接トーチ、11…インナー部材、12…アウター部材、13…固定部、14…駆動部、15…耐熱絶縁部材、15A…第1の係合部、16…コレットボディ、16A,24A…先端部、16a,22a,35B…パイロットガス通過用孔、16B…第2の係合部、16C…第3の係合部、18…トーチヘッド、18A…第4の係合部、18B…パイロットガス導入口、18C…第5の係合部、21…トーチキャップ、22…コレット、22A…突出部、24…電極、24a…先端、26…トーチボディ、26A…筒状空間、26B…冷却水用管路、26a…シールドガス導入孔、27…センターノズル、27A…筒状部、27a,31a…先端面、29…センターノズル押さえ、31…アウターノズル、32…メッシュ、33…シールドガス流路、35…筒状部材、35A…第6の係合部、36…キャップ本体、41,49…絶縁体、43…ボルト、44…ピニオン支持部、46…ラック、47…ピニオン、51…被溶接物、51a…上面、A…軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイロットガスが供給される先端部を含む電極、及び該電極の先端部を露出するように前記電極の外周に配置され、かつ前記電極の軸方向に対する前記電極の位置を規制するコレットを有するインナー部材と、
前記電極の先端部のうち、少なくとも一部を収容するセンターノズル、該センターノズルから離間するように前記センターノズルの外側に配置されたアウターノズル、及び前記センターノズルと前記アウターノズルとの間に形成され、前記センターノズルの先端に向かうようにシールドガスを案内するシールドガス流路を有すると共に、前記インナー部材の外周部の一部を囲むように配置されたアウター部材と、
前記電極の軸方向に対して、前記インナー部材及び前記アウター部材を相対的に移動させる駆動部と、
を含むことを特徴とする溶接トーチ。
【請求項2】
前記電極の先端は、前記インナー部材及び前記アウター部材が前記電極の軸方向に対して相対的に移動することで、前記センターノズルの先端面から突出、或いは前記センターノズル内に収容されることを特徴とする請求項1記載の溶接トーチ。
【請求項3】
前記駆動部は、前記インナー部材の外周部のうち、前記アウター部材から露出された部分に設けられ、かつ前記電極の軸方向に延在するラックと、
前記ラックと係合し、回転することで前記インナー部材を前記電極の軸方向に移動させるピニオンと、
を有することを特徴とする請求項1または2記載の溶接トーチ。
【請求項4】
前記アウター部材は、溶接トーチ支持部材に固定されていることを特徴とする請求項3記載の溶接トーチ。
【請求項5】
前記電極は、非消耗型電極であることを特徴とする請求項1なしい4のうち、いずれ1項記載の溶接トーチ。
【請求項6】
請求項1ないし5のうち、いずれか1項記載の溶接トーチを用いたプラズマ溶接方法であって、
前記センターノズルの先端面から前記電極の先端を突出させ、前記パイロットガスを流すことで、該電極の先端と被溶接物との間にアークを発生させる工程と、
前記アークを発生させた後、前記電極の先端を前記センターノズル内に収容し、シールドガスを流すことで、前記被溶接物を溶接する工程と、
を含むことを特徴とするプラズマ溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−43181(P2013−43181A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180310(P2011−180310)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】