説明

溶接構造物の変形監視装置及び方法

【課題】溶接施工中または熱処理施工中の溶接構造物の変形や応力をこれらの施工中に段階的にモニタリングして、溶接施工や熱処理施工を管理できること。
【解決手段】溶接構造物1の表面の変位を計測する変位計11と、この変位計からのデータなどから溶接構造物の変形量を計算する変形量計算装置12と、溶接構造物の表面温度を計測する温度計13と、この温度計からのデータなどから溶接構造物の温度分布を計測する温度分布計算装置14と、溶接構造物の溶接変形に関する判定を溶接施行中に行なう判定装置15とを備え、この判定装置は、溶接構造物の温度分布から、この溶接構造物の線膨張による熱変形量を推定する第1演算部18と、溶接構造物の変形量から熱変形量の推定値を差し引いて真の溶接変形量を演算する第2演算部と、真の溶接変形量と溶接変形量の許容値と比較して溶接の合否を判定する判定部20とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接構造物の溶接時における溶接変形や、熱処理時の応力、変形を監視する溶接構造物の変形監視装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常行われている溶接構造物の溶接変形管理では、図8に示すように、溶接構造物100の変形を管理するために必要な代表点について、変位計101が変位を計測する。本図では非接触の変位計を想定しているが、接触式の変位計も多用されている。溶接構造物100における複数の点の変位を変位計101が計測することにより、この計測値から相対変位計算装置102が相対変位を計算する。判定装置103は、データベース104に予め格納された相対変位の許容値と、相対変位計算装置102が変位計測値から計算した相対変位とを比較して、溶接変形に関する合否、溶接変形の修正方法(例えば溶接順序の変更、溶接後に入熱して変形を修正)などを判定する。通常、データベース104に格納される許容値データは図面データであり、判定装置103は、図面に指示された寸法と相対変位との比較により、溶接変形の合否を判定する。
【0003】
また、溶接構造物の溶接変形や残留応力を予測する方法として様々な解析手法が提案されている。そのなかでも、溶接変形を引き起こす力を固有歪みとして溶接部に分布させて、溶接変形や残留応力を求める計算方法(固有歪み法)は、複雑な構造物の溶接変形や残留応力を簡便に予測できる方法であり、これまでにも、固有歪みの推定方法(特許文献1参照)や、固有歪み法を汎用の構造解析プログラムを用いて実行する方法(特許文献2参照)等が提案されている。
【0004】
この固有歪みの考え方を用いると、溶接構造物の最適設計や変形制御を施工計画段階で実行することができる。例えば、特許文献3及び4では溶接変形の予測を、固有歪み法を用いて溶接施工前に行うことで、溶接線の配置、溶接順序、変形拘束方法などの溶接設計や、溶接変形を修正するためなどの局所加熱方法等を最適化できる。
【特許文献1】特開2005−201677号公報
【特許文献2】特開2003−121273号公報
【特許文献3】特開2004−122222号公報
【特許文献4】特開2004−114064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、溶接構造物の一般的な製造手順としては、(a)仮組立、(b)点付け溶接、(c)初層から数層の溶接、(d)全パス溶接、(e)変形計測、(f)変形修正と熱処理、(g)変形計測と変形修正、(h)機械加工、(i)最終検査といった工程を経る。
【0006】
溶接変形は溶接初期に生じやすいこともあり、(a)と(b)の工程は、変形が一部の溶接部に集中しないように特に注意して行われる。ある程度溶接が進むと変形は小さくなるため、(a)と(b)、(b)と(c)の工程の間に拘束具の除去の作業が入ることがある。
【0007】
また、溶接変形の修正に関しては、溶接開先を確保するために、(a)、(b)の段階で局部的な変形計測と変形修正が行われる場合がある。しかし、溶接構造物全体としての変形計測と変形修正は、全パスの溶接が終了してから行われることが多い。薄板を組み合せた溶接構造物の場合には、溶接終了後に溶接部を局所加熱することで比較的簡単に溶接変形を修正できる。
【0008】
一方、より厚肉で剛構造の溶接構造物の場合には、溶接が完了してから局所入熱によって目的の変形を生じさせることは困難である。より初期の(a)、(b)の段階では、変形の修正が容易であるが、溶接変形の予測が難しいといった問題があり、実用が困難である。即ち、特に厚肉で剛構造の溶接構造物においては、溶接施工中の溶接変形をモニタリングして施工管理するための方法を確立することが課題であった。
【0009】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、溶接施工中または熱処理施工中の溶接構造物の変形や応力をこれらの施工中に段階的にモニタリングして、溶接施工や熱処理施工を管理できる溶接構造物の変形監視装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る溶接構造物の変形監視装置は、溶接構造物の溶接変形を監視する溶接構造物の変形監視装置であって、前記溶接構造物の表面の変位を計測する変位計と、この変位計からのデータと変位計測点に関する位置情報から前記溶接構造物の変形量を計算する変形量計算装置と、前記溶接構造物の表面温度を計測する温度計と、この温度計からのデータと温度計測点に関する位置情報から前記溶接構造物の温度分布を推定する温度分布計算装置と、前記溶接構造物の溶接変形に関する判定を溶接施工中に行う判定装置とを備え、前記判定装置は、前記温度分布計算装置にて求めた前記溶接構造物の温度分布から、この溶接構造物の線膨張による熱変形量を推定する第1演算部と、前記変形量計算装置により求められた前記溶接構造物の変形量から、前記第1演算部にて得られた熱変形量の推定値を差し引いて真の溶接変形量を演算する第2演算部と、溶接プロセス毎の溶接変形量の許容値を予め格納するデータベースと、前記第2演算部にて求めた真の溶接変形量と前記溶接変形量の許容値とを比較して、溶接変形の合否を判定する判定部と、を有することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明に係る溶接構造物の変形監視装置は、溶接構造物の熱処理時の応力緩和、変形を監視する溶接構造物の変形監視装置であって、前記溶接構造物の表面の変位を計測する変位計と、この変位計からのデータと変位計測点に関する位置情報から前記溶接構造物の変形量を計算する変形量計算装置と、前記溶接構造物の表面温度を計測する温度計と、この温度計からのデータと温度計測点に関する位置情報から前記溶接構造物の温度分布を推定する温度分布計算装置と、熱処理時の応力緩和、変形に関する判定を熱処理施工中に行う判定装置とを備え、前記判定装置は、前記溶接構造物の温度分布から溶接構造物の線膨張による熱変形量を推定する第1演算部と、前記変形量計算装置により求められた前記溶接構造物の変形量から、前記第1演算部にて得られた熱変形量の推定値を差し引いて真の熱処理変形量を演算する第2演算部と、熱処理プロセスにおける熱処理変形量の許容値を予め格納するデータベースと、前記第2演算部にて求めた真の熱処理変形量と前記熱処理変形量の許容値とを比較して、熱処理変形の合否を判定する判定部と、を有することを特徴とするものである。
【0012】
更に、本発明に係る溶接構造物の変形監視方法は、溶接構造物の溶接変形を監視する溶接構造物の変形監視方法であって、前記溶接構造物の表面の変位を変位計が計測し、この変位計からのデータと変位計測点に関する位置情報から前記溶接構造物の変形量を計算し、前記溶接構造物の表面温度を温度計が計測し、この温度計からのデータと温度計測点に関する位置情報から前記溶接構造物の温度分布を推定し、前記溶接構造物の温度分布からこの溶接構造物の線膨張による熱変形量を推定し、前記溶接構造物の変形量から前記熱変形量の推定値を差し引いて真の溶接変形量を演算し、この真の溶接変形量と予め用意された溶接変形量の許容値とを比較して溶接変形の合否を判定し、この溶接構造物の溶接変形に関する判定を溶接施工中に行うことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明に係る溶接構造物の変形監視方法は、溶接構造物の熱処理時の応力緩和、変形を監視する溶接構造物の変形監視方法であって、前記溶接構造物の表面の変位を変位計が計測し、この変位計からのデータと変位計測点に関する位置情報から前記溶接構造物の変形量を計算し、前記溶接構造物の表面温度を温度計が計測し、この温度計からのデータと温度計測点に関する位置情報から前記溶接構造物の温度分布を推定し、前記溶接構造物の温度分布から溶接構造物の線膨張による熱変形量を推定し、前記溶接構造物の変形量から前記熱変形量の推定値を差し引いて真の熱処理変形量を演算し、この真の熱処理変形量と予め用意された熱処理変形量の許容値とを比較して熱処理変形の合否を判定し、この熱処理時の応力緩和、変形に関する判定を熱処理施工中に行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る溶接構造物の変形監視装置及び方法によれば、溶接施工中または熱処理施工中の溶接構造物の変形をこれらの施工中に段階的にモニタリングすることで、溶接変形または熱処理変形の合否をこれらの施工中の最適な段階で判定するなど、溶接施工や熱処理施工を好適に管理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。但し、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
【0016】
[A]第1の実施の形態(図1)
図1は、本発明に係る溶接構造物の変形監視装置における第1の実施の形態が適用された溶接構造物の溶接変形監視装置を示す構成斜視図である。
【0017】
本実施の形態における、溶接構造物の変形監視装置としての溶接構造物の溶接変形監視装置10は、溶接構造物1の溶接変形を、溶接施工中及び溶接施工後(特に溶接施工中)に監視するものであり、変位計11、変形量計算装置12、温度計13、温度分布計算装置14及び判定装置15を有して構成される。
【0018】
ここで、溶接構造物1は、例えば板材2に板材3を溶接機16を用いて溶接し、この板材3に板材4を、同様にして溶接機16により溶接して構成されるものである。符号5は溶接金属を示す。溶接機16は、溶接制御装置17により溶接プロセス毎に制御される。
【0019】
変位計11は複数存在し、それぞれが、溶接構造物1の表面の変位を溶接施工中及び溶接施工後に計測する。変形量計算装置12は、複数の変位計11からの変位データと変位計測点に関する位置情報から、溶接構造物1の変形量を、溶接施工中及び溶接施行後に計算する。
【0020】
温度計13は複数存在し、それぞれが、溶接構造物1の表面温度を溶接施工中及び溶接施行後に計測する。温度分布計算装置14は、複数の温度計13からの温度データと温度計測点に関する位置情報から、溶接施工中及び溶接施行後に溶接構造物1の温度分布を推定する。
【0021】
判定装置15は、溶接構造物1の溶接変形に関する判定を溶接施行中及び溶接施行後に実行し、第1演算部18、第2演算部19、判定部20、演算装置21、表示装置22及びデータベース23を有する。
【0022】
第1演算部18は、温度分布計算装置14にて求められた溶接構造物1の温度分布データから、この溶接構造物1の線膨張による熱変形量を、溶接施行中及び溶接施行後に推定する。第2演算部19は、変形量計算装置12にて求められた溶接構造物1の変形量データから、第1演算部18にて求められた熱変形量の推定値を差し引いて、溶接施行中及び溶接施行後に真の溶接変形量を演算する。
【0023】
ここで、真の溶接変形量について説明する。溶接中の溶接構造物1においては温度分布が発生し、特に大型構造物では温度の不均一による熱変形が大きい。溶接施工後、常温近くまで溶接構造物1の温度が低下してから行う通常の変形計測では、均一温度になっているので、線膨張による熱変形は問題にならない。しかしながら、溶接プロセスの途中の変形をモニタリングする場合には、計測により直接観察できる変形量から、温度分布に起因する線膨張による熱変形量を差し引き、溶接部の弾塑性変形によって生じる真の溶接変形量を求める必要がある。この真の溶接変形量は、全体温度が均一となっても残る変形量のことである。
【0024】
更に、真の溶接変形量は、溶接の進捗状況や拘束治具の除去など、溶接プロセスの進行に伴い変化する値であるため、後述の如く、溶接変形の合否の判定や、溶接プロセスの溶接条件の変更、修正の判断においては、最終的な図面との比較ではなく、溶接プロセスの途中での変形量の許容値や予測値と比較することになる。
【0025】
一方、データベース23には、溶接プロセス毎の溶接変形量の許容値及び予測値が予め格納されている。これらの許容値及び予測値は、演算装置21により、固有歪み法を用いた演算によって、溶接プロセス毎に予め算出される。この固有歪み法は、溶接変形や熱処理変形を引き起こす歪みを代表した固有歪みを、溶接構造物1の全体モデルに分布して付与し、有限要素法(FEM:Finite Element Method)を用いた弾性解析を行うことで、溶接構造物1の溶接変形や熱処理変形を推定するものである。
【0026】
判定部20は、溶接施行中及び溶接施行後に、第2演算部19にて求められた溶接構造物1における真の溶接変形量と、データベース23に格納され、且つ溶接制御装置17から提供される溶接プロセスに該当する溶接プロセスの溶接変形量許容値及び溶接変形量予測値とをそれぞれ比較する。判定部20は、溶接構造物1における真の溶接変形量と溶接変形量許容値とを比較することにより、該当する溶接プロセスにおける溶接変形の合否を判定する。
【0027】
更に、判定部20は、溶接構造物1における真の溶接変形量と溶接変形量予測値とを比較することにより、後続の溶接プロセスの溶接条件を変更し修正するための機能を実行する。この後続の溶接プロセスの溶接条件の変更、修正のための機能は、後続の溶接プロセスにおいて、溶接変形の修正が必要であるか否かの判断と、修正が必要であると判断した場合における、修正を目的とした溶接条件の変更内容の決定とである。この溶接条件の変更内容は、後続の溶接プロセスにおいて、例えば溶接順序の見直し、入熱による溶接変形の修正、溶接入熱量や溶接速度の変更などである。
【0028】
判定部20が実行する後続の溶接プロセスの溶接条件の変更、修正のための機能は、固有歪み法による計算機能を用いる。つまり、真の溶接変形量を溶接変形量予測値に一致させるために必要な変形量に対応する固有歪みを求め、この固有歪みを生じさせるための溶接プロセスの溶接条件(例えば入熱量など)を求めるものである。
【0029】
尚、前述の溶接変形の合否内容及び後続の溶接プロセスの溶接条件の変更修正内容は、表示装置22により表示される。そして、溶接プロセスの溶接条件の変更、修正内容に応じて、溶接制御装置17が溶接機16を制御する。
【0030】
従って、本実施の形態によれば、次の効果(1)を奏する。
【0031】
(1)判定装置15の第1演算部18は、特に溶接施行中の温度分布から溶接構造物1の線膨張による熱変形量を推定し、判定装置15の第2演算部19は、特に溶接施行中の溶接構造物1の変形量から前記熱変形量の推定値を差し引いて、溶接プロセスにおける真の溶接変形量を算出する。そして、判定装置15の判定部20は、溶接プロセスの真の溶接変形量と、該当する溶接プロセスにおける予め用意された溶接変形量の許容値とを比較して、その溶接プロセスにおける溶接変形の合否を判定する。更に判定部20は、溶接プロセスの真の溶接変形量と、該当する溶接プロセスにおける予め用意された溶接変形量の予測値とを比較して、後続の溶接プロセスの溶接条件を変更し修正するための機能を実行する。
【0032】
このように、溶接施行中の溶接構造物1の溶接変形を、この溶接施行中に段階的にモニタリングすることで、溶接プロセス毎に溶接変形の合否の判定や、後続の溶接プロセスの溶接条件の変更、修正のための機能の実行を、溶接施行中の最適な段階で実施でき、従って、溶接施行を好適に管理することができる。
【0033】
[B]第2の実施の形態(図2)
図2は、本発明に係る溶接構造物の変形監視装置における第2の実施の形態が適用された溶接構造物の溶接変形監視装置を示す構成斜視図である。この第2の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0034】
本実施の形態における、溶接構造物の変形監視装置としての溶接構造物の溶接変形監視装置25が前記第1の実施の形態と異なる点は、溶接構造物1の変位拘束部位26の範囲に関する位置データと、変位拘束部位26の変位拘束条件に関するデータとを加味して、溶接構造物1の変形量及び真の溶接変形量を算出し、これにより、溶接プロセスにおける溶接変形の合否を判定し、後述の溶接プロセスの溶接条件の変更、修正のための機能を実行する点である。
【0035】
つまり、実際の溶接構造物1の溶接においては、全体の変位を拘束しているとみなせる箇所がある場合がある。このような場合には、変位拘束部位26を計測点の一つにすること、及び変位拘束部位26の拘束条件に関する情報(例えば変位拘束部位26の表面温度、変位を基準点とすること、溶接構造物1がいずれの方向に移動可能かなど)を変形量計算装置27、及び判定装置15の第1演算部28に与える。
【0036】
具体的には、変形量計算装置27は、溶接構造物1の変位拘束部位26の範囲に関する位置データと、変位拘束部位26の変位拘束条件に関するデータ(変位拘束部位26の位置を基準点としたこと、溶接構造物1がいずれの方向に移動可能かなど)と、変位拘束部位26における変位を含めた変位計11からのデータと、変位計側位置に関する位置情報とから、溶接構造物1の変位量を計算する。
【0037】
また、判定装置15の第1演算部28は、溶接構造物1の変位拘束部位26の範囲に関する位置データと、変位拘束部位26の変位拘束条件に関するデータと、温度分布計算装置14にて求められた、変位拘束部位26の温度を加味した溶接構造物1の温度分布データとから、この溶接構造物1の線膨張による熱変形量を推定する。更に、判定装置15の第2演算部19は、変形量計算装置27により求められた溶接構造物1の変形量から、第1演算部28にて得られた熱変形量の推定値を差し引いて真の溶接変形量を演算する。
【0038】
判定装置15の判定部20は、前記実施の形態と同様にして、第2演算部19にて得られた真の溶接変形量を、溶接変形量の許容値、予測値とそれぞれ比較し、溶接プロセス毎の溶接変形の合否を判定し、後続の溶接プロセスの溶接条件を変更し修正するための機能を実行する。
【0039】
従って、本実施の形態によれば、次の効果(2)を奏する。
【0040】
(2)実際の溶接構造物1に全体の変位を拘束している変位拘束部位26がある場合に、その変位拘束部位26の変位、温度を取り込むことで、変形量計算装置27が算出する溶接構造物1の変形量、判定装置15の第1演算部28が推定する熱変形量が正確になり、判定装置15の第2演算部19が求める溶接構造物1の真の溶接変形量を高精度に演算できる。この結果、溶接プロセス毎の溶接変形の合否の判定や、後続の溶接プロセスの溶接条件の変更、修正の精度を向上させることができる。
【0041】
[C]第3の実施の形態(図3)
図3は、本発明に係る溶接構造物の変形監視装置における第3の実施の形態が適用された溶接構造物の溶接変形監視装置を示す構成斜視図である。この第3の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0042】
本実施の形態における、溶接構造物の変形監視装置としての溶接構造物の溶接変形監視装置30が前記第1の実施の形態と異なる点は、次の通りである。つまり、変位と歪みは同一の計測系ではあるが、部分的な変位計測データから局所的な歪みを求めることは実際には困難である。本実施の形態では、歪み計31及び歪み量計算装置32を、第1の実施の形態の溶接変形監視装置10に追加したものである。
【0043】
歪み計31は複数存在し、それぞれが溶接構造物1の表面の歪みを、溶接施工中及び溶接施工後に計測する。歪み量計算装置32は、複数の歪み計31からの歪みデータと歪み計測点に関する位置情報から、溶接施工中及び溶接施工後に、溶接構造物1の歪み量を計算する。
【0044】
判定装置15の第1演算部33は、溶接施工中及び溶接施工後に、温度分布計算装置14にて求められた溶接構造物1の温度分布データから、この溶接構造物1の線膨張による熱変形量を推定すると共に、この熱変形量に基づいて歪み量を推定する。
【0045】
判定装置15の第2演算部34は、第2演算部19と同様にして、溶接施工中及び溶接施工後に真の溶接変形量を演算すると共に、歪み量計算装置32により求められた歪み量から、第1演算部33にて得られた歪み量の推定値を差し引いて、溶接施工中及び溶接施工後に真の溶接歪み量を演算する。
【0046】
判定装置15のデータベース36には、溶接プロセス毎の溶接変形量の許容値及び予測値と共に、溶接プロセス毎の溶接歪み量の許容値が予め格納されている。この溶接歪み量の許容値も、溶接変形量の許容値及び予測値と同様に、演算装置37により、固有歪み法を用いた演算によって溶接プロセス毎に予め算出される。
【0047】
判定装置15の判定部35は、溶接施工中及び溶接施工後に、判定部20と同様にして、溶接プロセス毎の溶接変形の合否を判定し、更に、後続の溶接プロセスの溶接条件の変更、修正のための機能を実行すると共に、データベース36に格納された溶接プロセス毎の溶接歪み量の許容値と前記真の溶接歪み量とを比較して、溶接歪みの適否を判定する。そして、判定部35は、この溶接歪みの適否から溶接構造物1の残留応力を評価する。
【0048】
従って、本実施の形態によれば、前記第1の実施の形態の効果(1)と同様な効果を奏する他、次の効果(3)を奏する。
【0049】
(3)歪み計31により溶接構造物1の表面の歪みが計測され、歪み量計算装置32により溶接構造物1の歪み量が計算され、判定装置15の第1演算部33、第2演算部34及び判定部35により、溶接プロセス毎の溶接歪みの適否が判定される。このため、溶接プロセス毎の溶接変形の合否や、後続の溶接プロセスの溶接条件の変更、修正ばかりでなく、溶接歪みの適否を求めることで、溶接構造物1の残留応力を評価することができる。
【0050】
[D]第4の実施の形態(図4)
図4は、本発明に係る溶接構造物の溶接変形監視装置における第4の実施の形態が適用された溶接構造物の熱処理時応力・変形監視装置を示す構成斜視図である。この第4の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0051】
本実施の形態における、溶接構造物の変形監視装置としての溶接構造物の熱処理時応力・変形監視装置40が、前記第1実施の形態と異なる点は、溶接後の溶接構造物1を熱処理炉41内で均一温度に加熱し熱処理するときに生ずる応力緩和(残留応力の緩和を含む)、変形を監視する点であり、従って第1の実施形態の溶接機16、溶接制御装置17が、それぞれ熱処理炉41、熱処理制御装置42に変更されている。
【0052】
通常、熱処理工程においては温度分布が均一であるため、線膨張による熱変形量を考慮する必要は無い。しかしながら、異なる材質の材料を溶接等により接合してなる構造物においては、それぞれの材料の線膨張率やヤング率などの物理量や、高温下における応力緩和特性などが異なっている。そこで、本実施の形態の熱処理時応力・変形監視装置40では、線膨張による熱変形量を考慮すべく、熱処理中の温度と変形を同時にモニタリングしている。
【0053】
従って、本実施の形態の熱処理時応力・変形監視装置40が取り扱う溶接構造物1は、異なる材質の材料が溶接された溶接構造物である。また、本実施の形態においても、変位計11、変形量計算装置12、温度計13、温度分布計算装置14及び判定装置15を有してなり、更に判定装置15は、第1演算部18、第2演算部19、判定部20、演算装置21、表示装置22及びデータベース23を有して構成される。
【0054】
変位計11は複数存在し、それぞれが、溶接構造物1の表面の変位を熱処理施工中及び熱処理施工後に計測する。変形量計算装置12は、複数の変位計11からの変位データと変位計測点に関する位置情報から、溶接構造物1の変形量を、熱処理施工中及び熱処理施行後に計算する。
【0055】
温度計13は複数存在し、それぞれが、溶接構造物1の表面温度を熱処理施工中及び熱処理施行後に計測する。温度分布計算装置14は、複数の温度計13からの温度データと温度計測点に関する位置情報から、熱処理施工中及び熱処理施行後に溶接構造物1の温度分布を推定する。
【0056】
判定装置15は、溶接構造物1について熱処理時の応力緩和(残留応力の緩和を含む)、変形に関する判定を熱処理施行中及び熱処理施行後に実行する。
【0057】
第1演算部18は、温度分布計算装置14にて求められた溶接構造物1の温度分布データから、この溶接構造物1の線膨張による熱変形量を、熱処理施行中及び熱処理施行後に推定する。第2演算部19は、変形量計算装置12にて求められた溶接構造物1の変形量データから、第1演算部18にて求められた熱変形量の推定値を差し引いて、熱処理施行中及び熱処理施行後に真の熱処理変形量を演算する。
【0058】
一方、データベース23には、熱処理プロセスにおける熱処理変形量の許容値が予め格納されている。この許容値は、演算装置21により、固有歪み法を用いた演算によって、熱処理プロセスについて予め算出される。この熱処理変形量の許容値は、熱処理施行によって溶接構造物1に所望の応力緩和(残留応力の緩和を含む)、変形がなされたか否かを判定する際の指標となる。
【0059】
判定部20は、熱処理施行中及び熱処理施行後に、第2演算部19にて求められた溶接構造物1における真の熱処理変形量と、データベース23に格納された熱処理プロセスの熱処理変形量許容値とを比較して、熱処理変形の合否を判定する。即ち、真の熱処理変形量が熱処理変形量許容値の範囲内にあれば、この熱処理プロセスの熱処理条件によって予想した応力緩和(残留応力の緩和を含む)、変形が溶接構造物1になされたと判定できる。
【0060】
更に判定部20は、真の熱処理変形量と熱処理変形量許容値との差に基づいて、熱処理プロセスにおける熱処理条件を変更し修正するための判断を実行する。即ち、真の熱処理変形量が熱処理変形量許容値の範囲内にないときには、この熱処理プロセスにおける熱処理条件、例えば熱処理時間や熱処理温度を変更するための判断を行う。
【0061】
尚、熱処理変形の合否の内容や熱処理条件の変更、修正内容は、表示装置22に表示される。そして、熱処理条件の変更、修正内容に応じて、熱処理制御装置42が熱処理炉41を制御する。
【0062】
従って、本実施の形態によれば、次の効果(4)を奏する。
【0063】
(4)判定装置15の第1演算部18は、特に熱処理施行中の温度分布から溶接構造物1の線膨張による熱変形量を推定し、判定装置15の第2演算部19は、特に熱処理施行中の溶接構造物1の変形量から前記熱変形量の推定値を差し引いて、熱処理プロセスにおける真の熱処理変形量を算出する。そして、判定装置15の判定部20は、熱処理プロセスの真の熱処理変形量と、熱処理プロセスにおける予め用意された熱処理変形量の許容値とを比較して、熱処理変形の合否を判定し、更に熱処理プロセスの熱処理条件を変更し修正するための判断を実行する。
【0064】
このように、異なる材質からなる溶接構造物1について、熱処理施行中の熱処理変形を段階的にモニタリングして、熱処理プロセスの熱処理条件によって、溶接構造物1に予想した応力緩和(残留応力の緩和を含む)、変形がなされたか否かを、熱処理施行中の最適な段階で実施でき、場合によって熱処理条件を変更するなど、熱処理施行を好適に管理できる。
【0065】
尚、温度分布が一様な熱処理炉41内で行われる熱処理においては、温度計13及び温度分布計算装置14を省略し、熱処理制御装置42によって得られた温度の値を温度分布データとしてもよい。
【0066】
[E]第5の実施の形態(図5)
図5は、本発明に係る溶接構造物の変形監視装置における第5の実施の形態が適用された水車ランナの溶接変形監視装置を示す構成斜視図である。この第5の実施の形態において、前記第1及び第4の実施の形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0067】
本実施の形態における溶接構造物の変形監視装置は、溶接構造物1が、ランナクラウン52とランナバンド53との間に複数枚のランナブレード54を備えた水車ランナ51の場合であり、この水車ランナ51について、溶接時の変形監視を第1の実施形態を用いて実施し、熱処理時の応力、変形の監視を第4の実施形態を用いて実施するものであるが、特に溶接時の変形監視について以下に述べる。
【0068】
本実施の形態における、溶接構造物の変形監視装置としての水車ランナ51の溶接変形監視装置55では、変位計は、ランナブレード変位計56A、ランナバンド変位計56B及びランナクラウン変位計56Cを有する。ランナブレード変位計56Aは、1枚のランナブレード54について少なくとも3個設けられ、それぞれがランナブレード54の表面のそれぞれの位置の変位を計測する。ランナバンド変位計56Bは、ランナバンド53の表面の変位を計測する。ランナクラウン変位計56Cは、ランナクラウン52の表面の変位を計測する。これらのランナブレード変位計56A、ランナバンド変位計56B、ランナクラウン変位計56Cからの変位データと変位計点に関する位置情報から、変形量計算装置12が水車ランナ51の変形量を計算する。
【0069】
また、温度計は、ランナブレード54の表面温度を計測するランナブレード温度計57Aと、ランナバンド53の表面温度を計測するランナバンド温度計57Bと、ランナクラウン52の表面温度を計測するランナクラウン温度計57Cとを有して構成される。これらのランナブレード温度計57A、ランナバンド温度計57B、ランナクラウン温度計57Cからの温度データと温度計測点に関する位置情報から、温度分布計算装置14が水車ランナ51の温度分布を計測する。
【0070】
ここで、水車ランナ51は複数枚のランナブレード54を備えるため、ランナブレード変位計56A及びランナブレード温度計57Aは、ランナブレード54毎に準備することが望ましい。しかしながら、これらのランナブレード変位計56A及びランナブレード温度計57Aは、実用上、例えば90度ピッチなど、変位計側管理に必要なランナブレード54の枚数に合わせて設置すればよい。
【0071】
判定装置15の第1演算部18は、溶接施行中及び溶接施行後、特に溶接施行中の温度分布から水車ランナ51の線膨張による熱変形量を推定する。判定装置15の第2演算部19は、特に溶接施行中の水車ランナ51の、変形量計算装置12が算出した変形量から前記熱変形量の推定値を差し引いて、この溶接プロセスにおける真の溶接変形量を算出する。
【0072】
判定装置15の判定部20は、溶接プロセスの真の溶接変形量と、該当する溶接プロセスにおける予め用意された溶接変形量の許容値とを比較して、その溶接プロセスにおける溶接変形の合否を判定する。更に判定部20は、溶接プロセスの真の溶接変形量と、該当する溶接プロセスにおける予め用意された溶接変形量の予測値とを比較して、後続の溶接プロセスの溶接条件を変更し修正するための機能を実行する。この後続の溶接プロセスの変更修正に応じて、溶接制御装置17が溶接機16を制御する。
【0073】
従って、本実施の形態によれば、溶接施行中の水車ランナ51の溶接変形を溶接施行中に段階的にモニタリングして、溶接プロセス毎に溶接変形の合否の判定や、後続の溶接プロセスの溶接条件の変更、修正のための機能の実行を、溶接施行中の最適な段階で実施でき、この結果、溶接施行を好適に管理できる。
【0074】
[F]第6の実施の形態(図6、図7)
図6は、本発明に係る溶接構造物の変形監視装置における第6の実施の形態が適用されたタービンロータの熱処理時応力・変形監視装置を示す構成斜視図である。この第6の実施の形態において、前記第1及び第4の実施の形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0075】
本実施の形態における、溶接構造物の変形監視装置は、溶接構造物1が、異なる材質からなる複数のロータ構成部材62、63及び64を溶接して構成されたタービンロータ61の場合であり、このタービンロータ61について、溶接時の変形監視を第1の実施形態を用いて実施し、熱処理時の応力、変形の監視を第4の実施形態を用いて実施するものであるが、特に、熱処理炉41を用いた熱処理時の変形監視について以下に述べる。
【0076】
本実施の形態における、溶接構造物の変形監視装置としてのタービンロータ61の熱処理時応力・変形監視装置65では、変位計は、ロータ構成部材62に対応して少なくとも一つ設けられ、このロータ構成部材62の表面変位を計測する変位計66Aと、ロータ構成部材63に対応して少なくとも一つ設けられ、このロータ構成部材63の表面変位を計測する変位計66Bと、ロータ構成部材64に対応して少なくとも一つ設けられ、このロータ構成部材64の表面変位を計測する変位計66Cとを有して構成される。これらの変位計66A、66B、66Cからの変位データと変位計測点に関する位置情報から、変形量計算装置12がタービンロータ61の変形量を計算する。
【0077】
また、温度計は、タービンロータ61の両端にそれぞれ設けられ、これらのロータ両端部の表面温度をそれぞれ計測する温度計67A、67Bを有して構成される。これらの温度計67A及び67Bからの温度データと温度計測点に関する位置情報から、温度分布計算装置14がタービンロータ61の温度分布を推定する。
【0078】
判定装置15の第1演算部18は、熱処理施行中及び熱処理施行後、特に熱処理施行中の温度分布からタービンロータ61の線膨張による熱変形量を推定する。判定装置15の第2演算部19は、特に熱処理施行中のタービンロータ61の、変形量計算装置12が算出した変形量から前記熱変形量の推定値を差し引いて、この熱処理接プロセスにおける真の熱処理変形量を算出する。
【0079】
判定装置15の判定部20は、熱処理プロセスの真の熱処理変形量と、熱処理プロセスにおける予め用意された熱処理変形量の許容値とを比較して、その熱処理プロセスにおける熱処理変形の合否を判定し、熱処理プロセスの熱処理条件を変更し修正するための判断を実行する。この熱処理条件の変更、修正に応じて、熱処理制御装置42が熱処理炉41を制御する。
【0080】
従って、本実施の形態によれば、異なる材質のロータ構成部材62、63及び64からなるタービンロータ61について、熱処理施行中の熱処理変形を段階的にモニタリングし、熱処理プロセスの熱処理条件によってタービンロータ61に予想した応力緩和(残留応力緩和を含む)、変形がなされたか否かを、熱処理施行中の最適な段階で判断でき、場合によっては、熱処理条件を変更するなど、熱処理施行を好適に管理できる。
【0081】
尚、本実施の形態において、タービンロータ61を収容して均一温度に加熱処理する熱処理炉41を用いず、図7に示すように、タービンロータ61の溶接部68を局所的に加熱するバンドヒータやバーナーなどの、単一または複数の局所加熱手段69を用いてもよい。このとき、局所加熱手段69が複数の場合には、例えば判定装置15の判定部20が判断した熱処理条件の変更、修正の内容に応じて、熱処理制御装置42が複数の局所加熱手段69を個別に制御する。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明に係る溶接構造物の変形監視装置における第1の実施の形態が適用された溶接構造物の溶接変形監視装置を示す構成斜視図。
【図2】本発明に係る溶接構造物の変形監視装置における第2の実施の形態が適用された溶接構造物の溶接変形監視装置を示す構成斜視図。
【図3】本発明に係る溶接構造物の変形監視装置における第3の実施の形態が適用された溶接構造物の溶接変形監視装置を示す構成斜視図。
【図4】本発明に係る溶接構造物の溶接変形監視装置における第4の実施の形態が適用された溶接構造物の熱処理時応力・変形監視装置を示す構成斜視図。
【図5】本発明に係る溶接構造物の変形監視装置における第5の実施の形態が適用された水車ランナの溶接変形監視装置を示す構成斜視図。
【図6】本発明に係る溶接構造物の変形監視装置における第6の実施の形態が適用されたタービンロータの熱処理時応力・変形監視装置を示す構成斜視図。
【図7】図6におけるタービンロータの熱処理時応力・変形監視装置の変形形態を示す構成斜視図。
【図8】従来の溶接構造物の変形監視装置を示す構成斜視図。
【符号の説明】
【0083】
1 溶接構造物
10 溶接変形監視装置(変形監視装置)
11 変位計
12 変形量計算装置
13 温度計
14 温度分布計算装置
15 判定装置
16 溶接機
17 溶接制御装置
18 第1演算部
19 第2演算部
20 判定部
21 演算装置
23 データベース
25 溶接変形監視装置(変形監視装置)
26 変位拘束部位
27 変形量計算装置
28 第1演算部
30 溶接変形監視装置(変形監視装置)
31 歪み計
32 歪み量計算装置
33 第1演算部
34 第2演算部
35 判定部
36 データベース
40 熱処理時応力・変形監視装置(変形監視装置)
41 熱処理炉
42 熱処理制御装置
51 水車ランナ(溶接構造物)
52 ランナクラウン
53 ランナバンド
54 ランナブレード
55 溶接変形監視装置(変形監視装置)
56A ランナブレード変位計
56B ランナバンド変位計
56C ランナクラウン変位計
57A ランナブレード温度計
57B ランナバンド温度計
57C ランナクラウン温度計
61 タービンロータ(溶接構造物)
62、63、64 ロータ構成部材
65 熱処理時応力・変形監視装置(変形監視装置)
66A、66B、66C 変位計
67A、67B 温度計
68 溶接部
69 局所加熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接構造物の溶接変形を監視する溶接構造物の変形監視装置であって、
前記溶接構造物の表面の変位を計測する変位計と、
この変位計からのデータと変位計測点に関する位置情報から前記溶接構造物の変形量を計算する変形量計算装置と、
前記溶接構造物の表面温度を計測する温度計と、
この温度計からのデータと温度計測点に関する位置情報から前記溶接構造物の温度分布を推定する温度分布計算装置と、
前記溶接構造物の溶接変形に関する判定を溶接施工中に行う判定装置とを備え、
前記判定装置は、前記温度分布計算装置にて求めた前記溶接構造物の温度分布から、この溶接構造物の線膨張による熱変形量を推定する第1演算部と、
前記変形量計算装置により求められた前記溶接構造物の変形量から、前記第1演算部にて得られた熱変形量の推定値を差し引いて真の溶接変形量を演算する第2演算部と、
溶接プロセス毎の溶接変形量の許容値を予め格納するデータベースと、
前記第2演算部にて求めた真の溶接変形量と前記溶接変形量の許容値とを比較して、溶接変形の合否を判定する判定部と、を有することを特徴とする溶接構造物の変形監視装置。
【請求項2】
前記データベースには、溶接プロセス毎の溶接変形量の予測値が予め格納され、
前記判定装置の判定部は、前記溶接変形量の予測値と真の溶接変形量との差に基づいて、後続の溶接プロセスを変更し修正するための機能を有することを特徴とする請求項1に記載の溶接構造物の変形監視装置。
【請求項3】
前記判定装置は、データベースに格納される溶接変形量の許容値及び予測値を、固有ひずみ法を用いた演算によって溶接プロセス毎に算出する演算装置を有することを特徴とする請求項1または2に記載の溶接構造物の変形監視装置。
【請求項4】
前記判定装置の判定部が実施する後続の溶接プロセスの変更修正のための機能は、固有ひずみ法による計算機能を用いることを特徴とする請求項2に記載の溶接構造物の変形監視装置。
【請求項5】
前記変形量計算装置は、溶接構造物の変位拘束部位の範囲に関する位置データと、前記変位拘束部位の変位拘束条件に関するデータと、変位計からのデータと、変位計測点に関する位置情報とから、前記溶接構造物の変形量を計算することを特徴とする請求項1に記載の溶接構造物の変形監視装置。
【請求項6】
前記判定装置は、第1演算部が、溶接構造物の変位拘束部位の範囲に関する位置データと、前記変位拘束部位の変位拘束条件に関するデータと、温度分布計算装置にて求めた前記溶接構造物の温度分布から、この溶接構造物の線膨張による熱変形量を推定し、
第2演算部が、請求項5に記載の変形量計算装置により求めた前記溶接構造物の変形量から、前記第1演算部にて得られた熱変形量の推定値を差し引いて真の溶接変形量を演算するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の溶接構造物の変形監視装置。
【請求項7】
前記溶接構造物の表面の歪みを計測する歪み計と、
この歪み計からのデータと歪み計測点に関する位置情報から前記溶接構造物の歪み量を計算する歪み量計算装置とを更に備え、
判定装置の第1演算部が、温度分布計算装置にて求めた前記溶接構造物の温度分布からこの溶接構造物の線膨張による熱変形量を推定すると共に、この熱変形量に基づいて歪み量を推定し、
前記判定装置の第2演算部が、前記歪み量計算装置により求められた歪み量から、前記第1演算部にて得られた歪み量の推定値を差し引いて真の溶接歪み量を演算し、
前記判定装置の判定部が、データベースに格納された溶接プロセス毎の溶接歪み量の許容値と前記真の溶接歪み量とを比較して溶接歪みの適否を判定すると共に、この歪みの適否から残留応力を評価することを特徴とする請求項1に記載の溶接構造物の変形監視装置。
【請求項8】
溶接構造物の熱処理時の応力緩和、変形を監視する溶接構造物の変形監視装置であって、
前記溶接構造物の表面の変位を計測する変位計と、
この変位計からのデータと変位計測点に関する位置情報から前記溶接構造物の変形量を計算する変形量計算装置と、
前記溶接構造物の表面温度を計測する温度計と、
この温度計からのデータと温度計測点に関する位置情報から前記溶接構造物の温度分布を推定する温度分布計算装置と、
熱処理時の応力緩和、変形に関する判定を熱処理施工中に行う判定装置とを備え、
前記判定装置は、前記溶接構造物の温度分布から溶接構造物の線膨張による熱変形量を推定する第1演算部と、
前記変形量計算装置により求められた前記溶接構造物の変形量から、前記第1演算部にて得られた熱変形量の推定値を差し引いて真の熱処理変形量を演算する第2演算部と、
熱処理プロセスにおける熱処理変形量の許容値を予め格納するデータベースと、
前記第2演算部にて求めた真の熱処理変形量と前記熱処理変形量の許容値とを比較して、熱処理変形の合否を判定する判定部と、を有することを特徴とする溶接構造物の変形監視装置。
【請求項9】
前記判定装置の判定部は、真の熱処理変形量と熱処理変形量の許容値との差に基づいて、熱処理プロセスにおける熱処理条件を変更し修正するための判断を実行することを特徴とする請求項8に記載の溶接構造物の変形監視装置。
【請求項10】
前記判定装置は、熱処理プロセスにおける熱処理変形量の許容値を、固有ひずみ法を用いた演算によって算出する演算装置を有することを特徴とする請求項8に記載の溶接構造物の変形監視装置。
【請求項11】
前記溶接構造物が、ランナクラウンとランナバンドとの間に複数枚のランナブレードを備えた水車ランナであり、
変位計は、1枚の前記ランナブレードについて少なくとも3箇所の表面変位を計測するランナブレード変形計と、前記ランナバンドの表面の変位を計測するランナバンド変形計と、前記ランナクラウンの表面の変位を計測するランナクラウン変形計とを有し、
温度計は、前記ランナブレードの表面温度を計測するランナブレード温度計と、前記ランナバンドの表面温度を計測するランナバンド温度計と、前記ランナクラウンの表面温度を計測するランナクラウン温度計とを有し、
変形量計算装置は、前記各変位計からのデータと変位計測点に関する位置情報から前記水車ランナの変形量を計算し、
温度分布計算装置は、前記各温度計からのデータと温度計測点に関する位置情報から前記水車ランナの温度分布を推定するよう構成されたことを請求項1または請求項8に記載の溶接構造物の変形監視装置。
【請求項12】
前記溶接構造物が、異なる材質からなる複数のロータ構成部材を溶接して構成されたタービンロータであり、
変位計は、前記ロータ構成部材毎に少なくとも1つ設けられて、前記各ロータ構成部材の表面の変位を計測し、
温度計は、前記タービンロータの両端にそれぞれ設けられて、このロータ端部の表面温度を計測し、
変形量計算装置は、前記各変位計からのデータと変位計測点に関する位置情報から前記タービンロータの変形量を計算し、
温度分布計算装置は、前記各温度計からのデータと温度計測点に関する位置情報から前記タービンロータの温度分布を推定するよう構成されたことを請求項1または請求項8に記載の溶接構造物の変形監視装置。
【請求項13】
前記熱処理は、溶接構造物を収容して均一温度に加熱する熱処理炉、または前記溶接構造物の溶接部を局所的に加熱する単一または複数の局所加熱手段によって施工され、
前記複数の局所加熱手段は、熱処理温度が個別に制御可能に構成されたことを特徴とする請求項8に記載の溶接構造物の変形監視装置。
【請求項14】
溶接構造物の溶接変形を監視する溶接構造物の変形監視方法であって、
前記溶接構造物の表面の変位を変位計が計測し、この変位計からのデータと変位計測点に関する位置情報から前記溶接構造物の変形量を計算し、
前記溶接構造物の表面温度を温度計が計測し、この温度計からのデータと温度計測点に関する位置情報から前記溶接構造物の温度分布を推定し、
前記溶接構造物の温度分布からこの溶接構造物の線膨張による熱変形量を推定し、前記溶接構造物の変形量から前記熱変形量の推定値を差し引いて真の溶接変形量を演算し、この真の溶接変形量と予め用意された溶接変形量の許容値とを比較して溶接変形の合否を判定し、この溶接構造物の溶接変形に関する判定を溶接施工中に行うことを特徴とする溶接構造物の変形監視方法。
【請求項15】
溶接構造物の熱処理時の応力緩和、変形を監視する溶接構造物の変形監視方法であって、
前記溶接構造物の表面の変位を変位計が計測し、この変位計からのデータと変位計測点に関する位置情報から前記溶接構造物の変形量を計算し、
前記溶接構造物の表面温度を温度計が計測し、この温度計からのデータと温度計測点に関する位置情報から前記溶接構造物の温度分布を推定し、
前記溶接構造物の温度分布から溶接構造物の線膨張による熱変形量を推定し、前記溶接構造物の変形量から前記熱変形量の推定値を差し引いて真の熱処理変形量を演算し、この真の熱処理変形量と予め用意された熱処理変形量の許容値とを比較して熱処理変形の合否を判定し、この熱処理時の応力緩和、変形に関する判定を熱処理施工中に行うことを特徴とする溶接構造物の変形監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−131629(P2010−131629A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309496(P2008−309496)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】