説明

溶接缶胴の製造方法、溶接缶胴、および溶接缶胴の製造装置

【課題】シーム溶接端部の補修溶接性に優れた溶接缶胴の製造方法、溶接缶胴、および溶接缶胴の製造装置を提供する。
【解決手段】金属ブランクの対抗する端縁部10a、10bを重ね合わせて、重ね合わせ部10cを有する缶胴成形体10を形成し、重ね合わせ部10cの両面にそれぞれ線電極3、4を接触させて、電気抵抗マッシュシーム溶接して溶接缶胴12を製造する方法において、シーム溶接部Bの外側端部C1に沿ってレーザ光Lを照射し、外側端部C1を溶融させる事で外側端部C1を整形加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料用に用いられる溶接缶胴の製造方法、溶接缶胴、および溶接缶胴の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー飲料缶等に用いられる溶接缶胴は、通常、錫めっき鋼板等の金属ブランクの対向する端縁部を重ね合せて、重ね合わせ部を電気抵抗マッシュシーム溶接することによって製造される。ところが、このマッシュシーム溶接部の側方には、比較的急激な勾配のかつ断面不規則の段差部や、えぐれ部が生ずる(図4のC1、C2部分)。この溶接部は、発錆や内容物による腐食を防止するため、通常、塗料を塗布し、乾燥させて、塗膜を形成することによって補修されるが、段差やえぐれ部のため、塗膜の欠落部、あるいは塗膜がごく薄い部分を生じ易く、そのため、満足な補修効果を得ることが困難であるという問題があった。
【0003】
上記課題に対し、特許文献1あるいは特許文献2には、電気マッシュシーム溶接に用いる線電極の形状を工夫する事で、該段差を低減する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、溶接にレーザを用いる事で、溶接部の段差を少なくする溶接缶胴の製造方法が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1あるいは特許文献2の発明では、電極との接触状態の僅かな変化によって溶接状態が変動する事で、段差やえぐれ部の解消に対して必ずしも十分な効果を得られないという問題があった。また、特許文献3に記されているレーザによる溶接方法では、通常の飲料缶に用いられる板厚0.1〜0.2mm程度の非常に薄い金属ブランクを溶接するにあたり、溶接部の金属ブランク端の重ね具合の僅かな変化により、溶接不良が発生し易いと言う問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開昭62−275582号公報
【特許文献2】特開昭63−149087号公報
【特許文献3】特開昭61−202789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、溶接缶胴は、溶接部に段差やえぐれが生じ、その段差部には防錆、防食用の塗料が塗布されて補修されるが、段差の角部では塗装厚みが薄くなったり、えぐれ部には塗料が届かず空洞ができるなどの塗装不良が生じやすく、溶接部に腐食や錆が発生する原因となる問題があった。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決し、塗料による溶接部の補修性を向上させた溶接缶胴ならびに溶接缶胴の製造方法および製造装置を提供する事を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を行った結果、電気抵抗マッシュシーム溶接のシーム溶接端部にレーザ光を照射し、シーム溶接端部を溶融させ、溶融時の表面張力を利用して端部の形状を整形する事で、溶接シーム端部の段差やえぐれ部が発生する問題を解消できる事を発見した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に示すものである。
【0011】
本発明の溶接缶胴の製造方法は、金属ブランクの対抗する端縁部を重ね合わせて、重ね合わせ部を有する缶胴成形体を形成し、該重ね合わせ部の両面にそれぞれ線電極を接触させて、電気抵抗マッシュシーム溶接して溶接缶胴を製造する溶接缶胴の製造方法において、マッシュシーム溶接した前記溶接缶胴のシーム溶接部の外側端部に沿ってレーザ光を照射し、前記外側端部を溶融することにより、前記外側端部を整形加工する事を特徴とする。
【0012】
本発明の溶接缶胴の製造方法は、前記レーザ光が、マッシュシーム溶接工程と、前記シーム溶接部に腐食防止の塗装を施す工程との間の搬送移動中に照射される事を特徴とする。
【0013】
本発明の溶接缶胴は、金属ブランクの対抗する端縁部を重ね合わせて、重ね合わせ部を有する缶胴成形体を形成し、該重ね合わせ部の両面にそれぞれ線電極を接触させて、電気抵抗マッシュシーム溶接して製造される溶接缶胴において、シーム溶接工程の後に、シーム溶接部の外側端部に沿ってレーザ光が照射され、前記外側端部が溶融されることにより、前記外側端部が整形加工された事を特徴とする。
【0014】
本発明の溶接缶胴は、前記レーザ光照射により溶融された前記外側端部の寸法が、前記外側端部の段差の50%以上の溶融深さ、且つ、前記外側端部の段差の50%以上の溶融幅である事を特徴とする。
【0015】
本発明の溶接缶胴の製造装置は、金属ブランクの対抗する端縁部を重ね合わせて、重ね合わせ部を有する缶胴成形体を形成し、該重ね合わせ部の両面にそれぞれ線電極を接触させて、電気抵抗マッシュシーム溶接して溶接缶胴を製造する溶接缶胴の製造装置において、マッシュシーム溶接機構と、シーム溶接部に腐食防止の塗装を施す塗装機構との間に、シーム溶接端部にレーザ光を照射するレーザ光照射機構として、レーザ発振器およびレーザ集光光学機構を有する事を特徴とする。
【0016】
本発明の溶接缶胴の製造装置は、前記レーザ光照射機構が、前記溶接缶胴の通過位置を検出するセンサーを備え、該センサーの検出信号にもとづいて、前記レーザ発振器の発振の開始および停止を制御する機構を備えた事を特徴とする。
【0017】
本発明の溶接缶胴の製造装置は、前記レーザ光照射機構が、マッシュシーム溶接のシーム溶接線位置を検出するセンサーと、該センサーによるシーム位置検出信号によりレーザ光照射位置を制御する制御機構とを備えた事を特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、溶接缶胴のマッシュシーム溶接端部の形状を改善し、端部の段差あるいはえぐれ部が発生する問題が解消される。本発明によって、端縁部の重ね合わせ部が、溶接部にて滑らかに繋がる曲線状の断面を持ち、溶接部の塗料による補修性を向上させた、溶接缶胴を得る事ができる。すなわち、耐食塗装性に優れた溶接缶胴を提供する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
図1は本発明の概要を示す図である。溶接缶胴12は、錫めっき鋼板、テインフリースチール、極薄ニッケルめっき鋼板、極薄ニッケル・錫複合めっき鋼板等の金属ブランクを筒状に成型した缶胴プリフォームの対向する端縁部を重ね合わせ、該重ね合わせ部を電気抵抗マッシュシーム溶接して形成したものである。本発明は、溶接缶胴12のシーム溶接部Bの外側のシーム溶接線13に沿って、レーザ光Lを照射し、シーム溶接部Bの外側端部を溶融させ、溶融時に発生する表面張力の作用を利用して、シーム溶接部Bの外側端部の形状を整形するものである。図1において、Dはレーザ照射完了部を示す。
【0021】
図2に、本発明を実施する製造装置の構成の概要を示す。図2において、1は内部電極ロール、2は外部電極ロール、3,4は各々溶接時に内部電極ロール1および外部電極ロール2により支持される第1の線電極および第2の線電極である。5はマンドレルである。
【0022】
金属ブランクは筒状の缶胴プリフォーム10に成型され、図2の矢印Z方向に移動しながら、図3に示すように、缶胴プリフォーム10の対向する外側の端縁部10aと内側の端縁部10bとの重ね合わせ部10cが、一対の線電極3、4により押圧通電される事によって溶接形成(マッシュシーム溶接)され、溶接缶胴12が製造される。
【0023】
マッシュシーム溶接により、各端縁部10a、10bは重ね合わせ部10cの厚み差を少なくするため圧下されるが(通常、重ね溶接部の厚みは金属ブランク厚の1.1〜1.8倍程度の厚みに押圧される)、図4の溶接部断面写真に示されるように、シーム溶接部の缶内側端部C2および外側端部C1には、段差あるいは微小なえぐれ部を有する形状が残される。
【0024】
溶接完了後、図4に示す段差hoを有する外側端部C1は、防錆、防食の塗料を塗布する補修塗装装置6(図2)で塗装補修される。しかし、外側端部C1の角部では、塗装厚みが薄くなったり、えぐれ部に塗料が届かず空洞ができるなどの塗装不良が生じやすく、シーム溶接部Bに腐食や錆が発生する原因となる問題があった。
【0025】
本発明の溶接缶胴の製造装置は、図2に示すレーザ光照射機構20を有している。図の都合上、レーザ光照射機構20は、レーザ発振器21から矢印Zに平行に出射されたレーザ光Lが、折り返し反射ミラー22にて溶接缶胴12の方向(下方)に曲げられ照射されている様に図示しているが、後述する様に、シーム溶接線位置の変動に合わせてレーザ光照射位置を制御するために、実際のレーザ光照射機構20は、紙面と垂直方向に回転した向きに設置されている。
【0026】
シーム溶接部Bに補修塗装装置6で補修塗装を施す前に、シーム溶接部Bの外側端部C1を狙い、レーザ光Lの照射を行う。図5に、レーザ光照射により端部の形状が整形された重ね合わせ部10cの断面写真を示す。レーザ光を照射して図4の外側端部C1を溶融させ、再凝固時の表面張力の作用を利用する事で、シーム溶接端部の外側に出来た段差やえぐれ部を図5に示す外側端部C11のように整形し、外側の端縁部10aがなだらかに内側の端縁部10bの面に繋がる断面形状を得る事ができる。図5の外側端部C11は滑らかであるため、防錆、防食塗料が均一に塗布され、十分な耐錆、耐食性を確保する事ができる。
【0027】
本発明は、マッシュシーム溶接工程とシーム溶接部Bに腐食防止の塗装を施す工程との間の搬送移動中において、溶接缶胴12のシーム溶接部B外側の端部にレーザ光を照射することにより、また、レーザ光照射に必要な機構をレーザ装置およびレーザ光照射に拘わる光学的な機構のみとすることにより、余分な溶接缶胴12の移動機構やシーム溶接部B全長に亘るレーザ光走査のための複雑な機構などが不要であり、安価で簡便な溶接缶胴の製造装置を実現できる。
【0028】
本発明では、溶接缶胴の通過位置を検出するセンサーとして図2に示す溶接缶胴検出器31を設け、溶接缶胴12のZ方向の位置を検出し、レーザ光照射位置L0の下に溶接缶胴12が移動してくるタイミングに合わせてレーザ発振を開始し、溶接缶胴12がレーザ光照射位置L0を通過完了するタイミングに合わせてレーザ光照射を停止する。溶接缶胴12が存在しない時にはレーザ発振を停止させる事で、装置本体にレーザ光が照射されるのを防止し、装置の破損を防ぐ事ができる。
【0029】
通常の製缶装置では、マッシュシーム溶接に際し重ね部を精度良く成型するために、図6に示すZ型のガイドレール41を用いる。このため、マッシュシーム溶接前の段階では、筒状に成型された缶胴プリフォーム10は回転の自由度を制限されており、外側の端縁部10aと内側の端縁部10bとの重ね合わせ部の位置が円周方向にずれる事はない。しかし、マッシュシーム溶接完了後は、筒状の溶接缶胴12になるため、ガイドロール41で拘束されてはいるものの、次工程への移動中に、円周方向の回転によるシーム溶接線13位置のずれが発生する。また、溶接缶胴12の両端部においては、溶接時の発熱量が大きくなる事から溶接時の加圧によるシーム重ね部分の変形が大きく、シーム溶接線13の位置が円周方向外側に曲がることがある。
【0030】
本発明者らの検討によると、上記の回転および曲がりによるシーム溶接線13の変動幅は、通常0〜0.5mm程度である。従って、この様なシーム溶接線位置の変動に対しても、シーム溶接部Bにレーザ光が照射されるビーム径として、シーム溶接線13の直交方向のビーム径を1mmとすれば、溶接缶胴12の搬送移動中にシーム溶接線位置が変動しても、確実にシーム溶接外側端部C1にレーザ光を照射する事ができる。
【0031】
さらに、本発明は、シーム溶接線位置を検出するセンサーとして、照射するレーザ光と同軸にシーム溶接線13位置を検出するカメラ撮像素子による溶接線検出器30(図2)を設けている。集光レンズ23の手前に設置したレーザ光反射ミラー22は、例えばガルバノミラーであり、溶接線検出器30の検出信号に基づいて、反射ミラー22の設定角度を制御する事でシーム溶接線13の端部にレーザ光が照射される様に、ビーム位置を修正できる。このように、シーム溶接線13の変動に合わせてレーザ光照射位置を制御する機構を備える事で、必ずしもレーザスポット径を1mmとする必要はなく、一般的に用いられる10μm〜0.5mmφ程度の微小な集光スポット径のレーザ光でも処理が可能である。
【0032】
シーム溶接線位置の検出については、必ずしも撮像素子による画像検出方式に限るものではなく、例えばシーム溶接の不良検出に一般的に用いられている溶接シーム部の温度センサーの温度分布測定結果を用いて、シーム溶接位置を検出する方式なども利用できる。あるいは、線状スポットにレーザビームを集光してシーム溶接部に照射し、該線状レーザスポットの形状変化から、シーム溶接端部を検出する方法なども利用できる。
【0033】
また、レーザ光照射位置の駆動手段としては、ガルバノミラー以外に、音響光学素子によるビーム駆動方法なども利用できる。また、集光レンズにfθレンズを使用する事で、ビーム駆動時に生じる収差などの影響を排した安定的なレーザ集光を得る事ができる。
【0034】
さらに、レーザ光照射位置を図2のA部(電気抵抗シーム溶接の直後で、未溶接部が図6のZ型ガイドレール41に拘束されている間)の範囲とすれば、図6のZ型のガイドレール41による拘束で、シーム溶接位置の変動が抑制されているため、より安定的にシーム溶接外側端部C1にレーザ光照射を行う事ができる。
【0035】
図7(a)〜(c)は、シーム溶接部B付近のレーザ光照射の様子を示す拡大断面図である。B0は、電気抵抗シーム溶接によって溶接されたラップ部の溶接線である。図7(a)〜(c)に示すように、本発明では、レーザ光Lは、シーム溶接外側端部C1を含むように照射される。また、図8に示すように、シーム溶接外側端部C1の外側の斜め上方からレーザ光Lを照射しても良い。溶接缶胴に用いられる金属ブランクの厚みは通常0.1〜0.3mm程度と非常に薄く、さらに溶接部はシーム溶接時に加圧による押圧変形を受けるため、シーム溶接外側端部C1の段差は通常0.01〜0.2mm程度と比較的小さい。このため、図7(a)のように、シーム溶接外側端部C1にほぼ垂直上方からレーザ光Lを照射した場合と、図8のように、シーム溶接外側端部C1を狙って斜め上方からレーザ光Lを照射した場合とにおいて、シーム溶接外側端部C1の溶融整形性に大きな違いは無く、レーザ光Lの照射方向は、溶接機の装置構成上、レーザ光Lを照射し易い方向から照射すれば良い。
【0036】
また、本発明では、レーザ光照射前のシーム溶接外側端部C1の段差ho(図4)の50%以上の溶融深さhと溶融幅wを得るレーザ光照射条件とした。
【0037】
なお、本発明のレーザ光の集光スポット形状dは、必ずしも図7および図8に示すような円形に限るものではなく、本発明の主旨であるシーム溶接の外側端部にレーザ光を照射する目的に合致し、前記の溶融状態を満足するものであれば、線状や楕円形などの集光スポット形状のレーザ光を用いる事ができる。
【0038】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例1】
【0039】
本発明者らは、レーザ光照射位置、レーザ出力、レーザ光照射速度、レーザ光集光形状などのレーザ処理条件と、シーム溶接外側端部C1の溶融後の整形形状との関係を調査検討した。つまり、様々なレーザ出力、レーザ光照射速度、レーザ光集光形状の組み合わせによって得られるレーザ光照射条件のもと、図9に示す金属ブランク地金42へレーザ光を照射し、その結果得られた溶融深さh、表面溶融幅w、をもとに、シーム溶接外側端部C1の溶融整形形状を比較検討した。
【0040】
表1は、検討した溶接条件の例と、図9の金属ブランク地金42への照射で得られた溶融深さh、溶融幅w、レーザ光照射前のシーム溶接外側端部C1の段差ho(図4)と、同一のレーザ光照射条件によってレーザ光照射した後の、シーム溶接外側端部C11(図5)の形状評価の結果を示している。○印は、レーザ光照射後に、シーム溶接部Bにて外側の端縁部10aと内側の端縁部10bの段差およびえぐれが解消していたものを示す。×印は、レーザ光照射後にも、シーム溶接部Bにて外側の端縁部10aと内側の端縁部10bの段差あるいはえぐれが解消せずに残存していたものを示す。なお、レーザ光照射は、いずれもNパージ雰囲気の中で行った。表1において、アンダーラインを付した数値が、本発明の条件を満足しない部分である。
【0041】
【表1】

【0042】
様々なレーザ光照射条件での処理において、溶融深さh、溶融幅wが、ともに初期の段差部分の高さ(段差ho)の50%以上である条件において、シーム溶接外側端部C1の段差およびえぐれが解消した。レーザ光照射条件を、初期の段差hoの全体を溶融させる条件とする必要が無い理由は、レーザ光を照射するシーム溶接外側端部C1の段差は金属ブランクの端部であり、レーザ光照射により与えられる熱が逃げる方向が金属ブランク母材の存在する片側に限定される事から、左右方向に熱が拡散可能な金属ブランク地金よりも効率的に溶融が得られる結果、より少ない投入熱量で段差全体が溶融し、段差hoが消滅するに十分な溶融を得る事が出来るからである。
【0043】
以上より、シーム溶接外側端部C1を、溶接後の補修塗装に有効ななだらかな形状に整形するためには、レーザ光照射前のシーム溶接外側端部C1の段差hoの50%以上の溶融深hさと溶融幅wを得るレーザ光照射条件を用いる事が必要であることがわかった。
【実施例2】
【0044】
以下に、溶接缶胴を製造した実施例を示す。実施例ではテインフリースチールの金属ブランクを用いたが、金属ブランクの材質は錫めっき鋼板、テインフリースチール、極薄ニッケルめっき鋼板、極薄ニッケル・錫複合めっき鋼板等の金属ブランクであれば、どの材料を使用しても良い。
【0045】
また、本実施例では、マッシュシーム溶接機の成缶機構、溶接機構、補修塗装機構が連続する付近の非常に入り組んだ機械構造の間を通して、シーム溶接部にレーザ光を照射するために、レーザ光の出射口が小型で設置自由度に優れ、かつ集光性に優れ長焦点のレンズでも1.0mmφ以下の微小な集光径を得る事が可能な点を考慮し、ファイバーレーザを使用したが、炭酸ガスレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザなど一般的に広く金属加工に用いられるレーザであれば、いずれも適用可能である。
【0046】
また、マッシュシーム溶接と補修塗装機構との間に十分に広い空間を設けるか、あるいは、シーム溶接後の溶接缶胴を、別の製造ラインに移設する事で、半導体レーザの様なレーザ光照射にスペースを必要とするレーザの利用も可能である。
【0047】
厚さ0.15mm,金属クロム量120mg/mの金属クロム層、およびクロム酸化物量18mg/m(金属クロム換算)の水和クロム酸化物層よりなる表面処理層を有するテインフリースチールのブランクより、重ね合せ部近傍より表面処理層を除去することなく、内径52mm、重ね合せ部の幅0.4mm、高さ136mmの缶胴プリフォーム10を形成した。この缶胴プリフォーム10の重ね合せ部10c(図3参照)を、図2に示す製造装置の溶接機構を用いて窒素ガス雰囲気中でマッシュシーム溶接した。マッシュシーム溶接の電流は3000A、溶接時の加圧力は40kg、溶接時の缶胴プリフォームの移動速度(マッシュシーム溶接速度)は60m/分とした。溶接後にシーム溶接部を調べたところ、上記溶接条件での溶接においては、段差ho=60μmの段差が存在する事が確認された(比較例)。
【0048】
本発明にかかる実施例として、その後、図2のレーザ光照射機構20によって、シーム溶接端部にレーザ光を集光照射した。レーザは定格出力500Wのシングルモードファイバーレーザを用い、焦点距離300mmのレンズにてシーム溶接端部にレーザ光を集光照射した。この時照射したレーザ光の集光スポット径は、出力分布のピーク値の1/eとなる径で0.2mmφであった。レーザ出力は500Wとし、シーム溶接済みの溶接缶胴の矢印Z方向への移動速度は、マッシュシーム溶接と同じ60m/分であった。レーザ光は、集光スポット径の中心が、マッシュシーム溶接端部のコーナーとレーザビームの中心位置を一致させる様に照射した。レーザ光照射部近傍は窒素ガス雰囲気に保持した。
【0049】
レーザ光照射後に、シーム溶接部に補修塗装装置6によって耐食補修塗装を施し溶接缶胴を製造した。一連の製造工程は、図2に示す製造装置にて連続的に行った。製造後の溶接缶胴について、シーム溶接部を調べたところ、レーザ光照射を行わない比較例において存在したシーム溶接部の段差は消滅し、なだらかな溶接部が得られ、耐食塗料が均一に該溶接シーム部に塗装されている事が確認された。
【実施例3】
【0050】
実施例2と同じ条件で、缶胴プリフォーム10を形成し、マッシュシーム溶接を行った。さらに、図2のレーザ光照射機構20によって、シーム溶接端部にレーザ光を集光照射した。レーザは定格出力500Wのシングルモードファイバーレーザを用い、焦点距離300mmのレンズにてシーム溶接端部にレーザ光を集光照射した。この時照射したレーザ光の集光径は出力分布のピーク値の1/eとなる径で0.2mmφであった。レーザ出力は500Wとし、シーム溶接済みの溶接缶胴の矢印Z方向への移動速度はマッシュシーム溶接と同じ60m/分であった。レーザ光は、集光径の中心がマッシュシーム溶接端部のコーナー部からレーザ光の中心位置が0.08mm離れた部位に照射した(図7(b)に示す状態)。レーザ光照射部近傍は窒素ガス雰囲気に保持した。
【0051】
レーザ光照射後に、シーム溶接部に補修塗装装置6によって耐食補修塗装を施し溶接缶胴を製造した。一連の製造工程は、図2に示す製造装置にて連続的に行った。製造後の溶接缶胴について、該シーム溶接部を調べたところ、レーザ光照射を行わない比較例において存在したシーム溶接部の段差は消滅し、なだらかな溶接部が得られ、耐食塗料が均一に該溶接シーム部に塗装されている事が確認された。
【実施例4】
【0052】
実施例2と同じ条件で、缶胴プリフォーム10を形成し、マッシュシーム溶接を行った。さらに、図2の20のレーザ光照射機構によって、シーム溶接端部にレーザ光を集光照射した。レーザは定格出力500Wのシングルモードファイバーレーザを用い、焦点距離300mmのレンズにてシーム溶接端部にレーザ光を集光照射した。この時照射したレーザ光の集光スポット径は出力分布のピーク値の1/eとなる径で0.2mmφであった。レーザ出力は500Wとし、シーム溶接済みの溶接缶胴の矢印Z方向への移動速度はマッシュシーム溶接と同じ60m/分であった。レーザ光は、集光スポット径の中心が、マッシュシーム溶接端部のコーナー部からレーザビームの中心位置が実施例2とは反対方向に0.08mm離れた部位になる様に照射した(図7(c)に示す状態)。レーザ光照射部近傍は窒素ガス雰囲気に保持した。
【0053】
レーザ光照射後に、シーム溶接部に補修塗装装置6によって耐食補修塗装を施し溶接缶胴を製造した。一連の製造工程は、図2に示す製造装置にて連続的に行った。製造後の溶接缶胴について、該シーム溶接部を調べたところ、レーザ光照射を行わない比較例において存在したシーム溶接部の段差は消滅し、なだらかな溶接部が得られ、耐食塗料が均一に該溶接シーム部に塗装されている事が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、電気抵抗マッシュシーム溶接機にて製造される溶接缶胴において、外側のシーム溶接端部の段差あるいはえぐれ部の形状をなだらかにする技術として利用される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の概要を示す斜視図である。
【図2】本発明の製造装置の概要を示す図である。
【図3】溶接直前の金属ブランクの重ね合わせ状態を示す拡大断面図である。
【図4】シーム溶接部の重ね合わせ部の断面写真である。
【図5】レーザ光照射により整形された重ね合わせ部の断面写真である。
【図6】金属ブランクの端部を重ね合わせるZ型のガイドレールを示す断面図である。
【図7】シーム溶接端部とレーザ光照射位置との関係を示す概要図である。
【図8】シーム溶接端部とレーザ光照射角度の関係を示す概要図である。
【図9】金属ブランク地金へのレーザ光照射によって得られた溶融部の断面写真である。
【符号の説明】
【0056】
1 内部電極ロール
2 外部電極ロール
3、4 線電極
5 マンドレル
6 補修塗装装置
10 缶胴プリフォーム
10a 外側の端縁部
10b 内側の端縁部
10c 重ね合わせ部
12 溶接缶胴
13 シーム溶接線
20 レーザ光照射機構
21 レーザ発振器
22 反射ミラー
23 集光レンズ
30 シーム溶接線検出器
31 溶接缶胴検出器
B シーム溶接部
B0 溶接線
Be シーム溶接端部
L レーザ光
C1 シーム溶接外側端部
C2 シーム溶接内側端部
C11 シーム溶接外側端部(シーム溶接直後)
D レーザ照射完了部
ho 段差
h 溶融深さ
w 溶融幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ブランクの対抗する端縁部を重ね合わせて、重ね合わせ部を有する缶胴成形体を形成し、該重ね合わせ部の両面にそれぞれ線電極を接触させて、電気抵抗マッシュシーム溶接して溶接缶胴を製造する溶接缶胴の製造方法において、
マッシュシーム溶接後の前記溶接缶胴のシーム溶接部の外側端部に沿ってレーザ光を照射し、前記外側端部を溶融することにより、前記外側端部を整形加工する事を特徴とする溶接缶胴の製造方法。
【請求項2】
前記レーザ光が、マッシュシーム溶接工程と、前記シーム溶接部に腐食防止の塗装を施す工程との間の搬送移動中に照射される事を特徴とする請求項1に記載の溶接缶胴の製造方法。
【請求項3】
金属ブランクの対抗する端縁部を重ね合わせて、重ね合わせ部を有する缶胴成形体を形成し、該重ね合わせ部の両面にそれぞれ線電極を接触させて、電気抵抗マッシュシーム溶接して製造される溶接缶胴において、
シーム溶接工程の後に、シーム溶接部の外側端部に沿ってレーザ光が照射され、前記外側端部が溶融されることにより、前記外側端部が整形加工された事を特徴とする溶接缶胴。
【請求項4】
前記レーザ光照射により溶融された前記外側端部の寸法が、前記外側端部の段差の50%以上の溶融深さ、且つ、前記外側端部の段差の50%以上の溶融幅である事を特徴とする請求項3に記載の溶接缶胴。
【請求項5】
金属ブランクの対抗する端縁部を重ね合わせて、重ね合わせ部を有する缶胴成形体を形成し、該重ね合わせ部の両面にそれぞれ線電極を接触させて、電気抵抗マッシュシーム溶接して溶接缶胴を製造する溶接缶胴の製造装置において、
マッシュシーム溶接機構と、シーム溶接部に腐食防止の塗装を施す塗装機構との間に、シーム溶接端部にレーザ光を照射するレーザ光照射機構として、レーザ発振器およびレーザ集光光学機構を有する事を特徴とする溶接缶胴の製造装置。
【請求項6】
前記レーザ光照射機構が、前記溶接缶胴の通過位置を検出するセンサーを備え、該センサーの検出信号にもとづいて、前記レーザ発振器の発振の開始および停止を制御する機構を備えた事を特徴とする請求項5に記載の溶接缶胴の製造装置。
【請求項7】
前記レーザ光照射機構が、マッシュシーム溶接のシーム溶接線位置を検出するセンサーと、該センサーによるシーム位置検出信号によりレーザ光照射位置を制御する制御機構とを備えた事を特徴とする請求項5に記載の溶接缶胴の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−105018(P2010−105018A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279764(P2008−279764)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】