説明

溶接装置、溶接方法

【課題】厚板であっても、溶接効率を高め、溶接を確実に行うことのできる溶接装置、溶接方法を提供することを目的とする。
【解決手段】溶接ワイヤ22の先端部を振動させるために電磁石23に印加する周期的な駆動電流に同期させて、溶接ワイヤ22でアークを生じさせるために溶接ワイヤ22に印加する電流を制御する。このとき制御部30では、溶接ワイヤ22の振幅が最大となり、溶接ワイヤ22の先端部が厚板100の端面100aに近接する部分に位置したときに、溶接ワイヤ22に印加する電流値を高めるように制御する。さらに、溶接ワイヤ22の先端部が、開先中央部近傍に位置したときには、溶接ワイヤ22に印加する電流値の絶対値を反転させるようにするのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉厚の大きな部材どうしを溶接するのに好適な溶接装置、溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厚さ50mmを超えるような厚板の突合せ溶接を行うには、従来より狭開先MAG(Metal Active Gas arc welding)溶接が用いられていた。
これは、図4に示すように、電磁石1を用いて溶接トーチ2のワイヤ3の先端のみを振動させることで、狭い開先部分であっても、溶接を行えるものである(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特許第3117288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、長さ数mに渡って上記のような突合せ溶接を行う場合、生産効率の面から、溶接に要する時間の短縮化が求められる。
また、狭開先の場合、溶接トーチ2のワイヤ3の先端と開先部分の底部4よりも、ワイヤ3の先端とその側方に位置する厚板5の端面5aとの距離の方が近いため、ワイヤ3の先端からのアークが側方の厚板5の端面5aに短絡してしまい、いわゆるアーク這い上がり現象が生じ、思うような溶接が行えずに溶接不良となることもある。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、厚板であっても、溶接効率を高め、溶接を確実に行うことのできる溶接装置、溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもとになされた本発明の溶接装置は、溶接トーチ本体内に挿通され、先端部が溶接トーチから突出するように保持された溶接ワイヤと、溶接トーチ本体側に設けられた電磁石、および溶接ワイヤ側に設けられた永久磁石の磁界相互作用によって溶接ワイヤの先端部を溶接トーチに対して振動させるワイヤ振動部と、電磁石に印加する電流、および溶接のために溶接ワイヤに印加する電流を制御する制御部と、を備え、制御部は、電磁石に電流を印加することで振動する溶接ワイヤの振幅が最大となるのに同期させて、溶接ワイヤに印加する電流の絶対値を増大させることを特徴とする。溶接ワイヤの振幅が最大となる状態では、溶接ワイヤが、溶接対象の開先の幅方向両端部に位置した状態となる。この状態で、溶接ワイヤに印加する電流の絶対値を増大すると、開先の幅方向両端部における溶接対象の溶け込み量を多くして、ビード幅を広げることができ、溶融不良等の溶接欠陥をなくすことができる。
このとき、制御部は、矩形状または台形状の波形を有したパルス電流を電磁石に印加するのが好ましい。このように、サイン波状ではなく、矩形状、台形状のパルス電流を印加すると、溶接ワイヤは、溶接対象の開先の幅方向両端部に長く留まることになり、この部分に対する入熱量を高めることができる。
また、制御部は、溶接ワイヤの振幅が最大となる位置で、溶接ワイヤに負極性の電流を印加するのも有効である。これにより、狭開先の場合であっても、溶接トーチのワイヤ先端からのアークが側方の厚板の端面に短絡してしまい、いわゆるアーク這い上がり現象が生じるのを防ぐことができる。
さらに、制御部は、溶接ワイヤの振幅が最小となる位置で、溶接ワイヤに正極性の電流を印加するのが好ましい。正極性の電流を印加すると、溶接ワイヤの溶融速度が大きくなるため、結果的に広がったアーク状態となり、溶接を効率よく行うことができる。
すなわち、制御部では、溶接ワイヤの振幅が最大となる位置で、溶接ワイヤに負極性の電流を印加し、溶接ワイヤの振幅が最大となる位置では、溶接ワイヤに負極性の電流を印加するのが好ましい。つまり、溶接ワイヤに印加する電力の極性を、溶接ワイヤの振動に同期させて反転させるのである。
【0006】
さて、溶接効率を高めるには、溶接ワイヤをなるべく太くするのが好ましい。例えば、溶接ワイヤを、直径1.6mm以上4.8mm以下とするのが好ましい。溶接ワイヤが過度に太くなると、溶接ワイヤの剛性が高くなりすぎ、溶接ワイヤの先端部を振動させるのが困難となる。
【0007】
本発明の溶接方法は、溶接トーチ本体内に挿通された溶接ワイヤの先端部を、振動させながら開先部分の溶接を行うに際し、溶接ワイヤの振幅が最大となるのに同期させて、溶接ワイヤの先端部からアークを生じさせるために溶接ワイヤに印加する電流の絶対値を増大させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、狭開先の場合であっても、溶接対象どうしの溶接を、確実、かつ効率良く行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における溶接方法を説明するための図である。
この図1に示すように、溶接装置10は、溶接トーチ20と、その制御部30とを備える。
溶接トーチ20は、筒状のハウジング21内に、図示しないワイヤ供給源から連続的に供給される溶接ワイヤ22が配置された構成となっている。ワイヤ振動部として、ハウジング21には、リング状の電磁石23が装着され、ハウジング21内の溶接ワイヤ22には、電磁石23と対向した位置に、リング状の永久磁石24が装着されている。なお、この溶接トーチ20自体については、例えば、特許第3117288号公報、特開平6−15449号に示した構成を適用することができる。
【0010】
溶接トーチ20は、ハウジング21内に、図示しないガス供給源からシールドガスが供給され、溶接トーチ20の先端部からシールドガスを噴出できるようになっている。
【0011】
制御部30は、電磁石23に印加する電流をコントロールするもので、電流を印加することで電磁石23で発生する磁界と、永久磁石24の磁界との相互作用により、溶接ワイヤ22の先端部を動かすことができるようになっている。すなわち、電磁石23に一定周波数の電流を印加することで、溶接ワイヤ22の先端部を振動させながら、溶接を行うことができるようになっている。
また、制御部30では、アークを生じさせるために溶接ワイヤ22に印加する電流もコントロールする。
【0012】
このような溶接トーチ20は、ハウジング21の先端部を、互いに突合わせた厚板100、100の間に挿入した状態で、制御部30で電磁石23に一定周波数のパルス電流を印加することで溶接ワイヤ22を厚板100、100を結ぶ方向に振動させる。この状態で、溶接トーチ20を厚板100、100の突合せ部分に沿って移動させることで、より広いビード幅で突合せ部分の溶接を行っていくようになっている。
【0013】
このような溶接トーチ20において、溶接ワイヤ22は、直径1.6mm以上のものを用いるのが好ましい。溶接ワイヤ22の線径が大きいほど、単位時間あたりの溶接金属量を増大させることができ、溶接効率を高めることができる。また、溶接ワイヤ22が過度に太いと溶接ワイヤ22の振動(ウィービング)等が困難となるため、その直径は4.8mm以下とするのが好ましい。
【0014】
また、シールドガスについては、Arを主成分とし、O、CO、He等を適宜添加することができる。例えばAr+2%Oとすれば、溶接アークの形態はスプレー状に移行し、アークが安定しやすい。また、Ar+20%COとすれば、溶接アークの形態はグロビュラに移行する。特に有効なのは、Heの添加で、例えばAr+2%O+5%He等とすると、開先の側方への溶け込み量hが大きくなる。
【0015】
制御部30においては、以下のような制御を行うのが好ましい。
すなわち、溶接ワイヤ22の先端部を振動させるために電磁石23に印加する周期的な電流(ワイヤ駆動電流)に同期させて、溶接ワイヤ22でアークを生じさせるために溶接ワイヤ22に印加する電流(アーク発生電流)を制御するのである。このとき制御部30では、溶接ワイヤ22の振幅が最大となり、溶接ワイヤ22の先端部が、厚板100、100の突合せ部分の開先内で、厚板100の端面100aに近接する部分に位置したときに、溶接ワイヤ22に印加する電流値を高めるように制御する。図2は、制御部30における制御波形の例である。
これにより、厚板100の端面100aに近接する部分における溶け込み量を多くして、ビード幅を広げることができ、溶融不良等の溶接欠陥をなくすことができる。特に、狭開先溶接の場合、ビード断面形状がなし形になると、溶接金属の中央部に高温割れが生じやすい(いわゆる、なし形割れ)が、ビード幅を広げることで、このような溶接欠陥を有効に防止できる。このとき、図2に示す波形のように、溶接ワイヤ22の先端部が、厚板100の端面100aに近接する部分に位置した状態で、高い電流値を、瞬間的ではなく一定時間継続するよう、台形状あるいは矩形状の波形にすることで、上記効果をより確実なものとすることができる。
【0016】
さらに、制御部30では、図3に示すように、溶接ワイヤ22の先端部が、厚板100、100の突合せ部分の開先内で、厚板100の端面100aに近接する部分に位置したときに、溶接ワイヤ22に印加する電流値を高めるように制御するだけでなく、溶接ワイヤ22の先端部が、開先中央部近傍に位置したときには、溶接ワイヤ22に印加する電流の絶対値を反転させるようにするのが好ましい。このとき、溶接ワイヤ22の先端部が、厚板100の端面100aに近接する部分に位置したときには、電流が負極性となり、開先中央部近傍に位置したときには正極性となるようにするのが好ましい。
このようにすると、溶接ワイヤ22の先端部が、厚板100の端面100aに近接する部分に位置したときには、負極性の電流を印加することで、溶接アークが側方の厚板100の端面100aとの間で短絡してしまうのを防ぐことができる。また、溶接ワイヤ22の先端部が、開先中央部近傍に位置したときには、正極性の電流を印加することで、溶接ワイヤ22の溶融速度が大きくなるため、結果的に広がったアーク状態となり、溶接を効率よく行うことができる。
【0017】
このようにして、溶接装置10を用いることで、厚板100の突合せ溶接を、確実、かつ効率良く行うことができるのである。
【0018】
なお、上記実施の形態では、溶接装置10について説明したが、その構成については、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施の形態における溶接装置の構成を示す図である。
【図2】溶接装置の制御波形の例を示す図である。
【図3】溶接装置の制御波形の他の例を示す図である。
【図4】従来の溶接装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
10…溶接装置、20…溶接トーチ、21…ハウジング、22…溶接ワイヤ、23…電磁石、24…永久磁石、30…制御部、100…厚板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチ本体内に挿通され、先端部が前記溶接トーチから突出するように保持された溶接ワイヤと、
前記溶接トーチ本体側に設けられた電磁石、および前記溶接ワイヤ側に設けられた永久磁石の磁界相互作用によって前記溶接ワイヤの先端部を前記溶接トーチに対して振動させるワイヤ振動部と、
前記ワイヤ振動部の前記電磁石に印加する電流、および溶接のために前記溶接ワイヤに印加する電流を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記電磁石に電流を印加することで振動する前記溶接ワイヤの振幅が最大となるのに同期させて、前記溶接ワイヤに印加する電流の絶対値を増大させることを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
前記制御部は、矩形状または台形状の波形を有したパルス電流を前記電磁石に印加することを特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記溶接ワイヤの振幅が最大となる位置で、前記溶接ワイヤに負極性の電流を印加することを特徴とする請求項1または2に記載の溶接装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記溶接ワイヤの振幅が最小となる位置で、前記溶接ワイヤに正極性の電流を印加することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の溶接装置。
【請求項5】
前記溶接ワイヤは、直径1.6mm以上4.8mm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の溶接装置。
【請求項6】
溶接トーチ本体内に挿通された溶接ワイヤの先端部を振動させながら開先部分の溶接を行うに際し、
前記溶接ワイヤの振幅が最大となるのに同期させて、前記溶接ワイヤの先端部からアークを生じさせるために前記溶接ワイヤに印加する電流の絶対値を増大させることを特徴とする溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−210019(P2007−210019A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33882(P2006−33882)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】