説明

溶接装置

【課題】
エアナイフの吹出し方向に障害物があった場合にも、シールドガスの流れを乱さず、シールド性能の低下を抑止し、溶接品質の向上、信頼性の向上を図る。
【解決手段】
レーザ光線7を溶接点に照射するレーザ照射ヘッド1と、シールドガスを噴出する溶接用トーチ2と、前記レーザ光線を横切る様にエアを噴出するエア噴出手段11と、該エア噴出手段と対向して設けられた溶融池保護具13とを具備し、該溶融池保護具は前記エアの流れを前記シールドガスから分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接とアーク溶接を組合わせて溶接を行うハイブリッド溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接とアーク溶接、例えばMIG溶接とを組合わせて溶接を行うハイブリッド溶接装置があり、MIG溶接では溶融池に不活性ガスであるシールドガスを吹付け、溶融金属の酸化防止を行っている。
【0003】
一方、レーザ溶接では保護ガラスを通してレーザ光線を照射しており、スパッタが保護ガラスに付着することを防止する為にエアナイフが用いられている。エアナイフはレーザ光線の光軸に直交する方向にエアを噴射し、溶融池から飛散るスパッタを吹飛ばしている。
【0004】
図4に於いて、従来のハイブリッド溶接方法について説明する。
【0005】
図4中、1はレーザ照射ヘッド、2はMIGトーチ、3,4は被溶接部材、5は溶接線、6はシールドトレーラを示し、該シールドトレーラ6は図示しない溶接台車に支持され、前記溶接線5を所要長さに亘って覆い、該溶接線5上方を移動する様になっている。前記レーザ照射ヘッド1、前記MIGトーチ2は図示しない溶接台車に支持され、前記溶接線5に沿って前記シールドトレーラ6と一体に移動可能となっている。
【0006】
前記レーザ照射ヘッド1内には、集光レンズ(図示せず)が収納され、前記レーザ照射ヘッド1の先端部には保護ガラス(図示せず)が設けられ、レーザ光線7は集光レンズにより集光され、前記保護ガラスを通して前記溶接線5に照射される様になっている。
【0007】
前記MIGトーチ2は、中心からフィラーメタル8を供給し、該フィラーメタル8の先端と溶融池9との間にアークを発生させている。又、前記フィラーメタル8の周囲からはアルゴン等の不活性ガス(シールドガス)が前記溶融池9に噴出され、更に前記シールドトレーラ6内を充満し、前記溶融池9をシールドガスによりシールドすると共に溶接部を所定長さに亘って覆っている。
【0008】
又、図中、11は前記シールドトレーラ6に取付けられたエアナイフ用ガスノズルであり、該エアナイフ用ガスノズル11から前記レーザ光線7を横切ってエア(エアナイフ)を噴出し、該エアナイフにより前記溶融池9から飛散るスパッタを吹飛ばし、スパッタが前記保護ガラスに付着しない様にしている。尚、前記エアナイフは、前記MIGトーチ2の下端より上方を通過し、前記シールドガスの流れに干渉しない様になっている。
【0009】
次に、図5に示される様に、前記溶接線5が壁面12に平行となっている場合等、前記エアナイフ用ガスノズル11に対向して遮蔽物がある場合、エアナイフは前記レーザ光線7を横切った後、前記壁面12に衝突する。衝突したエアは、前記壁面12で跳返り、或は四方に広がり分散する。
【0010】
従って、エアの一部は、前記溶融池9に向って逆流し、シールドガスの流れと干渉する。この為、シールドガスの流れが乱れ、前記溶融池9のシールド性が低下し、溶接品質の低下、或は溶接不良を招くことになる。或は、エアナイフ自体の流れが乱れて、スパッタを吹飛ばす機能が低下する。
【0011】
【特許文献1】特開2006−68773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は斯かる実情に鑑み、エアナイフの吹出し方向に障害物があった場合にも、シールドガスの流れを乱さず、シールド性能の低下を抑止し、溶接品質の向上、信頼性の向上を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、レーザ光線を溶接点に照射するレーザ照射ヘッドと、シールドガスを噴出する溶接用トーチと、前記レーザ光線を横切る様にエアを噴出するエア噴出手段と、該エア噴出手段と対向して設けられた溶融池保護具とを具備し、該溶融池保護具は前記エアの流れを前記シールドガスから分離する溶接装置に係るものである。
【0014】
又本発明は、前記溶融池保護具は、底面と奥面と側面を持つバケット形状であり、前記底面と前記奥面とは湾曲面を介して連続している溶接装置に係り、又前記湾曲面は所定の剛性を有する遮蔽板であり、前記奥面、前記側面は前記遮蔽板を囲む薄板であり、該薄板の上端は芯材によって補強されている溶接装置に係り、更に又前記溶融池保護具は、底面と奥面を持つ断面がL字形状の部材であり、又前記溶融池保護具は溶融池を覆う様水平方向に延びている溶接装置に係るものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、レーザ光線を溶接点に照射するレーザ照射ヘッドと、シールドガスを噴出する溶接用トーチと、前記レーザ光線を横切る様にエアを噴出するエア噴出手段と、該エア噴出手段と対向して設けられた溶融池保護具とを具備し、該溶融池保護具は前記エアの流れを前記シールドガスから分離するので、前記エアがシールドガスに干渉し、溶接の品質を低下させることがない。
【0016】
又本発明によれば、前記溶融池保護具は、底面と奥面と側面を持つバケット形状であり、前記底面と前記奥面とは湾曲面を介して連続しているので、容易にエアを誘導でき、又側面を持つことで誘導方向を限定できる。
【0017】
又本発明によれば、前記湾曲面は所定の剛性を有する遮蔽板であり、前記奥面、前記側面は前記遮蔽板を囲む薄板であり、該薄板の上端は芯材によって補強されているので、前記遮蔽板は容易に形状を整えられ、簡単な修正で効果的にエアを誘導する形状とすることができる。
【0018】
更に又本発明によれば、前記溶融池保護具は、底面と奥面を持つ断面がL字形状の部材であり、又前記溶融池保護具は溶融池を覆う様水平方向に延びているので、拡散したエアが前記溶融池保護具の下から回り込んで溶融池に干渉することがないという優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施する為の最良の形態を説明する。
【0020】
図1に於いて、本発明の第1の実施の形態について説明する。尚、図1中、図5中で示したものと同等のものには同符号を付し、その説明を省略する。
【0021】
本発明に係る溶接装置は、レーザ照射ヘッド1と、MIGトーチ2と、図示しない溶接台車に支持され、移動可能に設けられたシールドトレーラ6と、該シールドトレーラ6に取付けられ、該シールドトレーラ6と一体となって移動可能なエアナイフ用ガスノズル11を具備している。
【0022】
又、該エアナイフ用ガスノズル11の前方には壁面12が存在し、前記エアナイフ用ガスノズル11と前記壁面12の間には溶融池保護具13が配設されている。該溶融池保護具13は、前記シールドトレーラ6の上面と当接した状態で設けられており、前記溶融池保護具13の底面は前記エアナイフ用ガスノズル11、及び該エアナイフ用ガスノズル11から噴出されるエアナイフの流れよりも下方に位置している。又、前記溶融池保護具13は、前記エアナイフ用ガスノズル11から噴出されるエアナイフと対向する向きで設けられている。
【0023】
次に、図2に於いて、前記溶融池保護具13の詳細について説明する。
【0024】
該溶融池保護具13の形状は、前面及び上面が開放された、断面がコの字状、或は略コの字状であり、奥面が上に向かうに従って前記壁面12側に傾斜している。
【0025】
又、前記溶融池保護具13は、前記エアナイフ用ガスノズル11から噴出されたエアナイフが衝突するL字状、或は略L字状に湾曲した遮蔽板14と、該遮蔽板14の背後及び側面を覆う様設けられた誘導カバー15と、該誘導カバー15の上端に設けられた芯材16によって構成されている。
【0026】
該芯材16は前記誘導カバー15を補強し、又該誘導カバー15の上端縁をコの字状に屈曲させて形状を安定させる。
【0027】
前記遮蔽板14は、底面14aと奥面14bが湾曲面を介して連続しており、形状を保つことができる剛性と、スパッタが付着してもいい様に不燃性で、所定の耐熱性を持つ部材、例えばアルミニウム板等の金属板で作られている。
【0028】
前記誘導カバー15は、例えば加工が容易であり、形状維持可能な強度を持つ工業用のアルミテープ等で作られている。該誘導カバー15は上方向に向かうに従い、奥に向かって傾斜している奥面15aと、該奥面15aから屈曲してコの字状、或は略コの字状の断面形状を形成する側面15bによって構成され、前記奥面15aと前記奥面14bは密着している。又、前記誘導カバー15を補強し、該誘導カバー15をコの字状に保つ芯材16は、針金や溶接ワイヤ等、容易に屈曲可能な部材で作られている。
【0029】
尚、前記溶融池保護具13は、形状を保つことができる剛性、及びスパッタの付着に対する耐熱性と不燃性を持つ部材をプレス加工によって一体形成してもよい。
【0030】
以下、被溶接部材3,4の溶接を行う場合について説明する。
【0031】
先ず、前記レーザ照射ヘッド1と、該レーザ照射ヘッド1と一体となって溶接を行うMIGトーチ2を作動させ、溶接点に対して前記レーザ照射ヘッド1からは図示しない集光レンズで集束させたレーザ光線7が照射され、前記MIGトーチ2からはフィラーメタル8とシールドガスがそれぞれ供給され、前記フィラーメタル8の先端にアークが発生されることで前記溶融池9が形成される。
【0032】
又、前記レーザ照射ヘッド1と前記MIGトーチ2による溶接と同時に、前記エアナイフ用ガスノズル11を作動させ、前記レーザ光線7の光軸と直交する様にエアナイフを噴出させる。
【0033】
前記溶融池9から飛散ったスパッタは、前記エアナイフ用ガスノズル11から噴出したエアナイフによって吹飛ばされ、スパッタを吹飛ばしたエアナイフは、湾曲した前記遮蔽板14と衝突して該遮蔽板14の湾曲に沿って上方に向きが変えられ、前記誘導カバー15に沿って上方に流れ、該誘導カバー15の上端から放出される。
【0034】
又、前記遮蔽板14が前記シールドトレーラ6の上面に密着し、前記遮蔽板14の底面14aが前記エアナイフ用ガスノズル11より噴出したエアナイフよりも下方に位置する為、エアナイフが前記底面14aの上方を通り、シールドガスとは分離されるので、エアナイフが前記壁面12と衝突して逆流し、前記溶融池9をシールドするシールドガスと干渉することがない。
【0035】
上記の様に、前記エアナイフ用ガスノズル11と対向する位置に前記溶融池保護具13を設けるという簡単且つ安価な手段で、噴出されたエアナイフの逆流を防ぎ、ガスシールド性能を安定させ、溶接の品質を向上させることができる。
【0036】
尚、前記遮蔽板14は、スパッタが付着しても問題がない材質であればよく、又前記誘導カバー15に充分な強度と耐熱性があれば、前記芯材16により前記誘導カバー15の外周全てを補強し、前記遮蔽板14を省略することも可能である。
【0037】
次に、図3に於いて、本発明の第2の実施の形態について説明する。尚、図3中、図5中で示したものと同等のものには同符号を付し、その説明を省略する。
【0038】
第1の実施の形態と同様、レーザ照射ヘッド1と、MIGトーチ2と、エアナイフ用ガスノズル11と、該エアナイフ用ガスノズル11が固定されて一体となって移動可能なシールドトレーラ6によって溶接装置が構成されている。
【0039】
又、溶融池保護具13′が前記シールドトレーラ6上に設けられている。
【0040】
前記溶融池保護具13′の形状は、断面がL字形状であり、溶接線5と平行に延びる水平方向に長いL字形状の部材であり、溶融池9の上方を覆っている。前記溶融池保護具13′の底面は前記シールドトレーラ6の上面と密着しており、前記溶融池保護具13′の底面は前記エアナイフ用ガスノズル11よりも下方に位置している。
【0041】
次に、被溶接部材3,4の溶接を行う場合について説明する。
【0042】
第2の実施の形態に於いても、第1の実施の形態と同様に、前記レーザ照射ヘッド1と、該レーザ照射ヘッド1と一体となって作動するMIGトーチ2による溶接を行い、溶接と同時に前記エアナイフ用ガスノズル11を作動させる。
【0043】
溶接によって発生した前記溶融池9からはスパッタが飛散し、飛散ったスパッタは前記エアナイフ用ガスノズル11より噴出されたエアナイフによって吹飛ばされ、前記溶融池保護具13′に付着する。
【0044】
スパッタを吹飛ばしたエアナイフは、前記溶融池保護具13′に衝突し、エアは上方向、或は水平方向へと拡散する。又、水平方向に変換されたエアの流れは前記溶融池9を越えて水平方向に流出し、シールドガスと干渉することがない。
【0045】
第2の実施の形態に於いても、前記溶融池保護具13′の底面が前記シールドトレーラ6の上面と当接し、前記溶融池保護具13′の底面が前記エアナイフ用ガスノズル11より噴出したエアナイフよりも下方に位置する為、エアナイフが前記溶融池保護具13′の底面の上方を流通し、前記MIGトーチ2から供給されるシールドガスは前記溶融池保護具13′の底面の下方を流通する為、該溶融池保護具13′に衝突したエアが逆流してシールドガスに干渉することがない。
【0046】
第2の実施の形態に関しても、簡単且つ安価な手段によって、前記エアナイフ用ガスノズル11から噴出したエアナイフの逆流を防ぎ、溶接の品質を向上させることができる。
【0047】
尚、溶融池保護具13はエアナイフの流れをシールドガスから分離し、エアナイフとシールドガスの干渉を避けるものであればよく、例えば第2の実施の形態に於ける溶融池保護具13′の垂直部分を省略した水平な平板であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態を示す要部拡大斜視図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態を示す斜視図である。
【図4】従来の実施例を示す斜視図である。
【図5】従来の実施例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0049】
1 レーザ照射ヘッド
2 MIGトーチ
6 シールドトレーラ
9 溶融池
11 エアナイフ用ガスノズル
12 壁面
13 溶融池保護具
14 遮蔽板
15 誘導カバー
16 芯材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光線を溶接点に照射するレーザ照射ヘッドと、シールドガスを噴出する溶接用トーチと、前記レーザ光線を横切る様にエアを噴出するエア噴出手段と、該エア噴出手段と対向して設けられた溶融池保護具とを具備し、該溶融池保護具は前記エアの流れを前記シールドガスから分離することを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
前記溶融池保護具は、底面と奥面と側面を持つバケット形状であり、前記底面と前記奥面とは湾曲面を介して連続している請求項1の溶接装置。
【請求項3】
前記湾曲面は所定の剛性を有する遮蔽板であり、前記奥面、前記側面は前記遮蔽板を囲む薄板であり、該薄板の上端は芯材によって補強されている請求項2の溶接装置。
【請求項4】
前記溶融池保護具は、底面と奥面を持つ断面がL字形状の部材であり、又前記溶融池保護具は溶融池を覆う様水平方向に延びている請求項1の溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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