説明

溶接部の亀裂検査装置及び亀裂検査方法

【課題】熱を発する溶接構造物を対象として、遠隔操作によって溶接部における横割れの欠陥と縦割れの欠陥とを容易に判別して探傷可能とする。
【解決手段】磁性材料から構成され熱を発している被検査面S上を移動しながら、溶接構造物の溶接部を超音波によって非破壊探傷する亀裂検査装置1である。上記被検査面Sを車輪10が転動することで当該被検査面Sに沿って遠隔操作で移動可能な走行体と、走行体に支持される2対の斜角探触子108,109と、を備える。上記車輪10は、ネオジム磁石によって上記被検査面Sに磁着する。一対の斜角探触子108,109の配置を上記移動方向に対し直角となるように配置すると共に、他の対の斜角探触子108,109の配置を上記移動方向に対し斜めとなるように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱風炉の外壁などのように、熱を発している溶接構造物における溶接部の亀裂を検査する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉熱風炉の外壁を構成する鉄皮は、最大で例えば250℃の高温となる。このため、保守をしない場合には、経時的に応力腐食割れが進展および拡大して、熱風噴破が発生する事態となる恐れがある。
このため、溶接部について亀裂の有無の検査を行っている。一般に、この溶接部の検査は、溶接線付近に足場を組み、作業員が溶接線に沿って、手作業で、超音波探傷等の非破壊検査を実施している。
また、超音波を使用して溶接部の割れを検査する装置としては、例えば、特許文献1に記載の装置がある。この装置は、一対の縦波斜角探触子を溶接線に対し45度の交叉角となるように45度配置として、当該溶接線と平行な走査方向に移動させることで、横割れの欠陥を探傷する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−21542
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記手作業の検査では、高炉熱風炉の外壁の外周つまり高所に足場を組む必要があり、その分、費用と時間が掛かる。また、熱を発している部分に作業員が接近して検査する必要もある。
また、特許文献1に記載の技術では、横割れを検出しているが、縦割れについても同様な検出エコーとして検出されてしまう。すなわち、横割れの欠陥だけを判別して検出することは困難である。ここで、横割れと縦割れとは、同じ亀裂状態の欠陥であっても、その欠陥の状況に対する保守の処置は大分異なる。
本発明は、熱を発する溶接構造物を対象として、遠隔操作によって横割れの欠陥と縦割れの欠陥とを判別して探傷可能な溶接部の亀裂検査の技術を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、磁性材料から構成され且つ熱を発している溶接構造物の溶接部を被検査面とし、その被検査面の溶接線に沿って移動しながら、上記溶接部を超音波によって非破壊探傷する溶接部の亀裂検査装置であって、
上記溶接構造物の被検査面を車輪が転動することで当該被検査面に沿って遠隔操作で移動可能な走行体と、上記走行体に支持される2対の斜角探触子と、を備え、
上記車輪は、ネオジム磁石の磁力によって上記溶接構造物の被検査面に吸着すると共に、上記走行体に搭載した駆動源によって駆動可能となっており、
上記2対の斜角探触子の配置は、被検査面と平行な平面視において、一対の斜角探触子を上記走行体の移動方向に対し直角となるように配置すると共に、他の対の斜角探触子を上記走行体の移動方向に対し直角位置から傾いた斜めとなるように配置したことを特徴とするものである。
【0006】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、上記移動体は、当該移動体が移動する面に対し上記斜角探触子を昇降可能な昇降装置を備えることを特徴とするものである。
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1又は請求項2に記載した構成に対し、上記斜角探触子は、上記被検査面と対向する面に接触媒質溜まり用の凹部を有し、その凹部の深さを0.15〜0.25mmとすることを特徴とするものである。
【0007】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した構成に対し、上記車輪を冷却する冷却手段を備えることを特徴とするものである。
次に、請求項5に記載した発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した構成に対し、上記走行体に溶接部を撮像可能なカメラを設けることを特徴とするものである。
次に、請求項6に記載した発明は、磁性材料から構成され且つ熱を発している溶接構造物の溶接部を被検査面とし、その被検査面に対しネオジム磁石の磁力によって吸着する車輪を転動させることで、当該被検査面の溶接線に沿って移動体を遠隔操作で移動させつつ、走行体に搭載した2対の斜角探触子で、それぞれ上記溶接構造物の溶接部を超音波によって非破壊探傷し、
【0008】
上記2対の斜角探触子のうち、上記被検査面と平行な平面視において、上記走行体の移動方向に対し直角となるように配置された一対の斜角探触子による探傷結果と、上記走行体の移動方向に対し直角方向から傾いた斜めとなるように配置された他の対の斜角探触子による探傷結果とを比較することで、検出した溶接部の割れが、縦割れか横割れかを判別することを特徴とする溶接部の亀裂検査方法を提供するものである。
ここで、上記「被検査面と平行な平面視」とは、上記走行体を貫く位置で被検査面に設定した法線上から見た平面視である。例えば、走行体を挟んで被検査面から離れた位置からみた平面視である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、1対の斜角探触子を直角配置とすることで、その直角配置の探触子によって、割れ長さに基づき主として縦割れが検出される(但し、縦割れの長さが短い場合には、横割れと差は難しい)。また、他の対の斜角探触子を斜め配置とすることで、その斜め配置によって横割れと縦割れとが検出される。従って、2対の斜角探触子の検出結果によって、検出した欠陥が、横割れと縦割れかを容易に判別することが可能となる。
また、走行体は、車輪が、ネオジム磁石の磁力によって上記被検査面に吸着且つ転動することで移動可能となっている。ネオジム磁石によって走行体を吸着させることで、高温下でも磁石の残留磁束密度の低下を抑える事が出来て、確実に、熱を発する被検査面に沿って移動体を移動可能となる。
【0010】
また、遠隔操作とすることで、検査のために足場を組む必要もない。
このとき、請求項2に係る発明では、斜角探触子の摩耗や突っかかる事を低減可能となる。ここで、斜角探触子は、使用時には探傷面(被検査面)に近接若しくは接触して使用する。このため、移動体が移動する面と摺接し易い。これに対し、探傷する面に移動するまでは、斜角探触子を移動する面から離しておくことで、斜角探触子が移動する面と摺接することを回避可能となる。このことは、摺動する部分が減ることで、探傷する面に移動するまでの移動を短縮することにも繋がる。
【0011】
また、請求項3に係る発明では、後述の通り接触媒質の膜厚さを安定且つ適正化することが出来る。この結果、探傷精度が安定かつ向上する。
また、請求項4に係る発明によれば、車輪を冷却することで、磁着するためのネオジム磁石の磁力低下を抑えることが出来る。冷却は例えば空冷により実施する。
また、請求項5に係る発明によれば、カメラで溶接部を撮像することで、遠隔操作であっても溶接線に沿って走行体を移動し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る亀裂検査装置を説明する斜め上方から見た図である。
【図2】図1に示す斜視図での一部を透視した図で示す説明図である。
【図3】図1に示す亀裂検査装置を説明する図であり、同図(a)は、その正面図、(b)は平面図、(c)は背面から見た図、また、(d)は左側面から見た図である。
【図4】図2での符号A方向から見た走行手段の手前側の車輪部分を拡大して示した図である。
【図5】車輪の冷却の一例を示す模式図である。
【図6】図1に示す亀裂検査装置の概略構成を説明する図であり、同図(a)は、台車全体の概略構成をブロック図で示しており、同図(b)は、コントローラの操作面部分を示している。
【図7】支持枠に対する超音波探傷センサの支持構造を説明する平面図である。
【図8】超音波探傷センサを昇降する昇降装置の構造を説明する正面図である。
【図9】斜角探触子の構成を説明する図である。
【図10】凹部の深さについて説明する図である。
【図11】溶接線に対する2対の斜角探触子の配置を示す平面図である。
【図12】探傷結果の例を説明する図である。
【図13】対をなす斜角探触子による、TOFD法による超音波探傷について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態の亀裂検査装置を示す斜視図である。図2は、一部を透視した状態で示した斜視図である。
本実施形態の亀裂検査装置1は、熱風炉の外壁(鉄皮)などのように、磁性材料からなって強磁性を有し且つ熱を発している溶接構造物の外壁面上を、磁石の磁力による吸着力によって車輪10が接触した状態を保持しつつ転動することで、亀裂検査装置1がその外壁面に沿って移動可能な構造となっている。なお、移動する面は筒状の曲面であっても良い。本実施形態では、温度が最大250℃となる外壁面を検査の対象(被検査面)とする場合とする。
【0014】
(構成)
亀裂検査装置1は、台車部4と、その台車部4の左右両側に配置されて当該台車部4に連結する左右の車体部6L、6Rとを備える。台車部4には検査機器を搭載する。また、車体部6L、6Rには、車輪10と、その車輪10を駆動するモータ15とが設けられる。
上記台車部4と左右の車体部6L、6Rとを、図2に示すように、左右の連結手段21によって連結している。
【0015】
「連結構造」
先に、台車部4と左右の車体部6L、6Rとの連結構造について説明する。次に説明する連結構造を採用することで、移動する面が筒状の曲面であっても、その面に沿って自在に移動することが可能となる。なお、連結構造はこれに限定するものではない。走行面が平面に近いものであれば、台車部4と、左右の車体部6L、6Rとが一体の構成となっていても良い。
左右の各連結手段21は、揺動桿22および揺動リンク24をそれぞれ備えており、台車部4に対し各車体部6L、6Rを、台車部4の前後方向を向く軸まわりおよび左右方向を向く軸まわりにそれぞれ回動可能に繋いでいる。
【0016】
詳しくは、揺動桿22は、斜視図である図2に示すように、前後方向に延びる板状の部材であり、各車体部6L、6Rの台車部4側に配置されている。この揺動桿22は、図3(d)に示すように、台車部4の前後方向での中央部となる位置に、その板厚方向に貫通する貫通穴22bが形成されている。この貫通穴22bには、図3(b)に示すように、揺動桿支軸85が挿通されている。そして、この揺動桿支軸85は、同図(b)に示すように、その両端が、上記の内フレーム82と揺動桿フレーム84とによって、左右方向を向く軸まわりに回動可能なように、それぞれ玉軸受26を介して支持されている。これにより、揺動桿22は、進行方向とは直角の面内で、この揺動桿支軸85の軸まわりに揺動可能になっている。
【0017】
一方、上記揺動リンク24は、図2に斜視図にて示すように、左右方向で斜めに配置される略平行四辺形状の板金部材であり、各車体部6L、6Rと台車部4との間の位置に配置されている。
詳しくは、揺動リンク24は、図3(a)に示すように、前後方向での前側の左右二箇所、および図3(c)に示すように、前後方向での後側の左右二箇所それぞれの計4箇所に配置されている。そして、各揺動リンク24は、その台車部4側の下端部が、支持枠5に、前後方向を向く軸を有する支持ピン24bによって、その軸まわりに回動可能にそれぞれ連結されている。また、各揺動リンク24は、その台車部4に連結されている側とは反対側の端部が、揺動桿22の前後方向での両端部に、その上下の位置を二本の止めねじ24cによってそれぞれ締結されている。
【0018】
これにより、左右の連結手段21は、台車部4に対し各車体部6L、6Rを、台車部4の支持枠5に対し、前後方向を向く支持ピン24bの軸まわりに回動可能に連結するとともに、左右方向を向く揺動桿支軸85の軸まわりに回動可能にそれぞれ連結している。これにより、被検査面Sが筒外径面などの曲面であっても、その車輪10の踏み面を被検査面Sに接触させた状態のまま、亀裂検査装置1を移動させることが可能となる。
さらに、この亀裂検査装置1は、図2に示すように、左右の連結手段21を介して、各車体部6L、6Rを台車部4に対して対称に揺動させる同調手段30をさらに有している。
【0019】
詳しくは、台車部4には、図3(a)および(b)に示すように、支持枠5側面の前部且つ左右方向の中央の位置に、ブロック状の案内用ベース31が付設されている。この案内用ベース31は、その左右両側が止めねじで支持枠5に締結されており、その中央部に、上下方向(ほぼ垂直方向)を向く貫通穴31bが形成されている。そして、この案内用ベース31の貫通穴31bに案内軸32が内嵌されており、この案内軸32の下端が、前後方向手前側から止めねじ31cで案内用ベース31に固定されている。これにより、案内軸32は、上下方向に向けて延設した状態に固定される。
【0020】
さらに、この案内軸32には、その軸方向に沿って摺動可能なスライドコマ34が外嵌している。このスライドコマ34は、その左右両側にタップ穴を有している。そして、このスライドコマ34の左右のタップ穴に、前後方向を向く軸を有する支持ピン36bが固定されており、この支持ピン36bの軸まわりに回動可能に、細幅の板金部材である連結リンク36の一端が連結されている。さらに、この連結リンク36の他端が、上記揺動リンク24の台車部4側の上端部に、前後方向を向く軸を有する支持ピン36cによって、支持ピン36cの軸まわりに回動可能に連結されている。これにより、左右の各車体部6L、6Rは、台車部4に対する傾きの度合いが案内軸32に対して左右対称に移動するようになっている。
【0021】
また、台車部4の後ろ側には、図3(c)に示すように、揺動リンク24の斜めの辺の略中央部と支持枠5の左右方向での両側とをそれぞれ繋ぐように、引っ張りばねである付勢ばね38を二箇所に設けている。この付勢ばね36によって、左右の各車体部6L、6Rを台車部4側に引き上げる方向に所要の張力を与えているので、走行面の状況の変化によって、右の車体部6L、6R6R、支持枠5、左の車体部6L、6R6Lが、それぞれ傾いた状態から一直線に並んだ状態に戻ろうとする場合に、その復元運動を円滑にすることができるようになっている。
【0022】
さらに、支持枠5には、図3(a)および(b)に示すように、左右の車体部6L、6Rがほぼ台車部4に対して一直線に並んだ状態となる位置において、各揺動リンク24の台車部4側の端面とそれぞれ当接する位置に、ストッパ29を計4箇所設けている。このストッパ29によって揺動リンク36の台車部4側への移動量が、一直線に並んだ状態よりも台車部4側に移動しないように制限されている。すなわち、全体が一直線に並んだ状態から過度に台車部4側に向けて傾いた姿勢にならないように規制可能になっている。
【0023】
「車体部6L、6R」
次に、左右の車体部6L、6Rについて説明する。左右の車体部6L、6Rは、走行体を構成する。
各車体部6L、6Rは、図3(a)に示すように、その高さ方向での中央よりもやや下側に、ベースフレーム81を有している。このベースフレーム81は、略L字形の板金部材であり、その台車部4側の一辺が折り返し部81bになっている。折り返し部81bは、適宜の長さで下方に向けて直角に折り返されて形成されている。このベースフレーム81は、図3(b)に示すように、折り返し部81bとは反対の側は、その平面視が矩形状であり、その矩形状の面を、図3(a)に示すように、ほぼ水平にして配置されている。そして、折り返し部81bには、上下方向に延びる内フレーム82がねじ締結によって台車部4側から固定されている。
【0024】
この内フレーム82は、図3(d)に示すように、装着された状態での側面視が矩形状の板金部材であり、略直方体状をなす車体部6L、6R6Lの台車部4側のカバーを兼ねている。この内フレーム82は、上下方向での下部側が、ベースフレーム81に装着されている部分よりも下方に向けて張り出した張り出し部82cになっている。一方、上下方向での上部側が、台車部4とは反対側に向けて適宜の長さで直角に折り返された折り返し部82bになっている。そして、この折り返し部82bに、コネクタ(車体間コネクタ52ないし操舵用コネクタ56)が装着されている。また、この折り返し部82bに、車体部6L、6Rカバー7Lが取り付けられている。
【0025】
また、上記ベースフレーム81には、内フレーム82が装着されている側とは反対側に、且つ、内フレーム82の張り出し部82cと対向する位置に外フレーム83が設けられている。この外フレーム83は、図3(c)に示すように、前後方向に延びる略L字形の板金部材であり、その略L字形をなす同図での上側が、折り返し部83bになっており、この折り返し部83bがベースフレーム81の下面側に対して装着されている。また、その略L字形の反対の側が、前記張り出し部82cと対向して平行に設けられる張り出し部83cとして形成されている。
【0026】
さらに、ベースフレーム81の上面の略中央部には、板金部材からなる揺動桿フレーム84が装着されている。この揺動桿フレーム84は、下部に折り返し部84dを有しており、この折り返し部84dの両端部が、ねじによって固定されることで、これと反対の側がベースフレーム81の上面に立設している。この揺動桿フレーム84は、同図(d)に示すように、その立設している部分の側面から見た形状が、略台形形状をなしている。そして、その台形形状をなす面84bが、内フレーム82の上下方向に延びる壁面とほぼ平行となる位置で固定されている。そして、この内フレーム82と揺動桿フレーム84とには、相対向する位置に、後述する玉軸受26の外輪が内嵌可能な貫通穴が同軸にそれぞれ形成されている。さらに、ベースフレーム81には、その前後方向での前端部および後端部に、上記略直方体状の外装を構成可能に形成された前カバー86および後カバー87がそれぞれ装着されている。そして、上述の内フレーム82、前カバー86および後カバー87によっては覆われていない上面と外側面とを覆うように、略L字状の車体部6L、6Rカバー7Lが装着されることで、上記略直方体状の車体部6L、6R6Lが構成されている。
【0027】
なお、図1に示すように、左右一対の車体部6L、6Rは、それぞれの車体部6L、6Rカバー7L、7Rの外側面の略中央部に、円形の持ち手用の穴7bが貫通形成されている。なお、同図では、背面となる車体部6L、6R6R側の持ち手用の穴7bは不図示である。また、一対の車体部6L、6Rそれぞれには、台車部4側となる内側面の中央の上部側に、貫通穴を上端部側に有する板部材であるワイヤーフック48がその下端部を止めねじで取り付けられている。このワイヤーフック48は、亀裂検査装置1の使用時に、万一の場合に生じ得る落下防止を回避するために、対象とする被検査面Sより上方にある構造物と当該亀裂検査装置1とを、所要の強度および長さを有するロープで互いに連結する際に用いられる連結部になっている。
【0028】
そして、上記一対の車体部6L、6Rには、図2および図3に示すように、それぞれに走行手段9が装備されている。
詳しくは、図2に示すように、この走行手段9は、駆動源であるモータ15、および車輪10を有して構成されている。車輪10は、各車体部6L、6Rそれぞれに2個ずつ設けられており、左右で計4個が備えられている。そして、各車輪10は、ベースフレーム81の下面側、且つ相対向する張り出し部82cと張り出し部83cとによって画成された領域に配置されている。また、各車輪10は、図3(b)に示すように、その転動する向きを、亀裂検査装置1の前後方向に向けて各車体部6L、6Rそれぞれで直線上に並んでいる。さらに、モータ15は、各車体部6L、6Rに、各車輪10毎にそれぞれ搭載されており、各車輪10は、それぞれに対応するモータ15によって、ウォーム減速機構を介して個別に駆動されるようになっている。
【0029】
図4は、図2での符号A方向から見た走行手段9の手前側の車輪10部分を拡大して示した図である。なお、各車体部6L、6Rの走行手段9は、ともに同一の構成を有し、これを左右対称に備えており、さらに、各車体部6L、6Rにおける、走行手段9それぞれの2個の車輪10は、モータ15およびウォーム減速機構を含めて同一の構成なので、以下の説明では、車体部6L、6R6R側の走行手段9の手前側の車輪10部分について説明し、他の車輪10部分についてはその説明を省略する。
【0030】
同図に示すように、相対向する張り出し部82cと張り出し部83cとには、左右方向で対向する同軸線上の位置に、貫通穴82dおよび83dがそれぞれ形成されている。各貫通穴82d、83dには、例えば多孔質含油軸受等の、長期に渡って無給脂で使用可能な軸受18(以下、「無給脂軸受」という)が内嵌されている。この無給脂軸受18は、一端側に鍔部を有しており、その鍔部を上記画成された領域の側に向けてそれぞれに内嵌されている。さらに、この無給脂軸受18の貫通穴に車軸13が挿通されており、この車軸13が、無給脂軸受18を介して左右の張り出し部82c、83cに対して回動自在に支持されている。そして、この車軸13には、その上記画成された領域に位置する部分に、スリーブ14が車軸13と同心に外嵌している。このスリーブ14は、その軸方向の略中央部に大径部14dを有しており、その両側が大径部14dより小さい径の小径部14s、14pとしてそれぞれ形成されている。
【0031】
スリーブ14の大径部14dには、その周方向に適宜の間隔をあけてタップ14bが径方向に二箇所、貫通形成されており、各タップ14bに止めねじ14cがそれぞれ装着されることで車軸13に固定されている。
小径部14pは台車部4側に形成されており、この小径部14pには、上記車輪10が外嵌している。この車輪10は、強力な磁力を有する円環状のネオジム磁石11と、そのネオジム磁石11を両側から挟む二枚の円環状の車輪板12と、を備えて構成されている。これら円環状の車輪板12は、強磁性を有する金属材料から形成されている。そして、ネオジム磁石11および車輪板12は、それらの中心に同径の貫通穴を、車軸13と同心に有しており、この貫通穴に略円筒状のスリーブ14が挿通されるように形成されている。そして、各車輪板12には、その周方向に適宜の間隔をあけてタップ12bが径方向に二箇所形成されており、各タップ12bに止めねじ12cが装着されて、ねじ締結されることで、スリーブ14の台車部4側の小径部14pに固定されている。これにより、各車輪10は鋼管等の外壁被検査面Sを被検査面Sとしてこれに磁着しつつその被検査面Sに沿って転動可能になっている。なお、ネオジム磁石11の外径よりも二枚の車輪板12の外径は一回り大きい。
【0032】
一方、小径部14sは台車部4とは反対側の小径部であり、この小径部14sには、ウォームホイル17が車軸13と同心に外嵌している。このウォームホイル17についても、その周方向に適宜の間隔をあけてタップ17bが径方向に二箇所形成されており、各タップ17bに止めねじ17cが装着されてねじ締結されることで、車軸13に固定されている。そして、このウォームホイル17には、これに直角をなす軸方向を向いて連結するウォーム16が噛合ってウォーム減速機構を構成している(図1(b)参照)。ここで、上記モータ15は、このウォーム16の上部に位置するように、ベースフレーム81の上面の側に配置されている。そして、ウォーム16は、その一端側が、これに対応するモータ15の出力軸に、ベースフレーム81の下面の側で同軸に連結されている(連結部分の図示略)。
【0033】
ここで、各モータ15は、減速機構を内蔵する直流モータであり、各モータ15は、上記制御部50内の、それぞれに対応するモータドライバ(不図示)に個別に駆動可能に接続されている。各モータドライバには、Hブリッジ回路がそれぞれ内蔵されており、そのHブリッジ回路を構成する4つのトランジスタを適宜ON・OFF制御することによって、所望の回転、停止を各モータ15にさせられるようになっている。なお、回転方向を切換える際は、僅かな時間だけトランジスタを全てOFFにするように制御している。
【0034】
さらに、各モータ15の出力軸とウォーム16の一端側とを繋ぐ部分には、薄肉の円盤である回転板19が同軸にそれぞれ装着されている。この回転板19の周方向には適宜の間隔でスリットが形成されており、このスリットを検出可能な位置に、フォトインタラプタ20が、その検出部を対向させて設けられている。このフォトインタラプタ20は、回転板19が回転することによるスリットの有無を検出して、これをパルス信号として制御部50に出力可能に接続されており、これにより、各車体部6L、6R毎の車輪10の回転状態を検出可能になっている。なお、上記回転状態検出手段には、この回転板19およびフォトインタラプタ20が対応する。
【0035】
また、上記各車体部6L、6Rには、それぞれ車輪10を冷却するための冷却装置を備える。すなわち、図5に示すように、2つの車輪の間にエアノズル100が配置される。そのエアノズル100から、2つの車輪10に向けて空気を吹き付け可能となっている。エアノズル100はエアコンプレッサ101に接続しており、エアコンプレッサ101から供給される大気温のエアを車輪10に吹き付けることで、2つの車輪10の冷却を行う。エアコンプレッサ101は、車体部6L、6Rに搭載させておいても良い。また、エアコンプレッサ101を亀裂検査装置1に搭載しない場合には、エアコンプレッサ101は、フレキシブルな配管を通じて各エアノズル100に接続されていても良い。
ここで、250℃の検査面において、噴出流量と車輪10及び車輪10を構成するネオジム磁石の温度を測定してみた。その結果を、表1に示す。なお、吹き付ける空気の温度は20℃であった。
【0036】
【表1】

【0037】
この表1から分かるように、常温の空気によるエア冷却によって車輪10及び磁石を70℃以下に保持出来ることを確認している。なお、吹き付ける空気の温度を低くするほど、より車輪10を冷却することが可能となる。
ここで、二枚の円環状の車輪板12に対し円環状のネオジム磁石11が小径となっている。このため、車輪10は、図4に示すように、円周方向に沿ってネオジム磁石11の外径面部分によって円環状の溝が形成されている。このため、吹き付けたエアは、その溝に沿って流れやすくなって、車輪10をより有効に冷却させることが出来る。
【0038】
また、図1に示すように、各車体部6L、6Rの上面には、車体間コネクタ52がそれぞれに付設されている。これら車体間コネクタ52同士は、車体間ケーブル54で相互に必要な信号の送受信および電力の供給を可能に電気的に接続される。さらに、左側の車体部6L、6R6Lには、操舵用ケーブル58が接続される操舵用コネクタ56が付設されており、各走行手段9は、この操舵用コネクタ56に接続される操舵用ケーブル58を介して制御部50に電気的に接続されるようになっている。さらに、制御部50は、制御部50およびコントローラ60間を繋ぐコントローラケーブル57を介してコントローラ60に接続する。
【0039】
「台車部4」
台車部4は、図2に示すように、その底部側に、平面視が矩形状の板金製の支持枠5を有している。支持枠5は上方に立ち上がる壁部を形成する。この支持枠5に対し、図7に示すように、検査機器としての超音波探傷センサ2を支持させる。超音波探傷センサ2は、図6(a)に示すように、メインケーブル59を介して制御部50に接続される。これにより、超音波探傷センサ2で測定された情報はメインケーブル59を介して制御部50に送られるように構成されている。
なお、符号40は、上記超音波探傷センサ2を覆うカバーである。このカバー40は無くても良い。また、図3(b)では、具体的な上記超音波探傷センサ2及びその支持構造を省略しているが、下記説明のような構造となっている。
【0040】
次に、上記超音波探傷センサ2の支持構造について説明する。
図7に示すように、上記支持枠5の内側に、平面視が矩形状の板金製の内枠105が入れ子状に配置される。
その内枠105に対して、2本の棒状のセンサ支持フレーム106,107が架設されている。2本のセンサ支持フレーム106,107のうちの、一方のセンサ支持フレーム106は、平面視において、亀裂検査装置1の移動方向に対する交叉角が90度つまり直角配置となるように当該移動方向に直交する方向に延在している。また、他方のセンサ支持フレーム107は、平面視において、亀裂検査装置1の移動方向に対する交叉角が40度以上60度以下つまり斜め配置となるように当該移動方向に直交する方向から傾いた方向に延在している。
【0041】
そして、各センサ支持フレーム106,107に対し、それぞれ対を成す斜角探触子108,109が固定されている。
対をなす斜角探触子108,109は、センサ支持フレーム106,107の延在方向に対して対称に配置され、平面視で、超音波の発信及び受信方向が搭載する当該センサ支持フレーム106,107の延在方向に設定されている。
【0042】
上記斜角探触子108,109は、側面視で、図9に示すような形状となっている。すなわち、斜角探触子108,109は、ウエッジ110と、そのウエッジ110に支持される探触子本体111とからなる。探触子本体111は、斜め下方に向けて超音波の送受信の軸を設定してある。上記ウエッジ110のうち、検査面に対向する底板部110aは、超音波を透過可能な材料であって耐高温性の材料、例えばポリイミド樹脂やフッ素樹脂などで構成されている。
そのウエッジ110の底板部110aにおける被検査面Sと対向する面には、接触媒質溜まり用の凹部112が形成されている。この凹部112は、検出面の被検査面S上に接触媒質の膜を形成するためのものである。
【0043】
上記凹部112は、図9(a)のように、底面の外周部を除いて所定深さで掘り込み加工によって形成したものである。上記深さは、0.15〜0.25mmの間、例えば、0.2mmに設定してある。
この深さは、図10のような関係から決定したものである。すなわち、凹部112の深さが浅くなるほど、媒質膜の形成が悪くなり、0.15mmよりも浅いと、接触媒質が凹部112内全体に均一に廻りきれずに、一部で膜が切れる恐れがある。一方、媒質膜が厚くなるほど、膜内での超音波の反射等が増加してノイズが多くなる。このことから、凹部112の深さを0.15〜0.25mmとした。そして、0.2mmが一番最適である。このため、加工誤差も考え、0.2mmとなるように、本実施形態では、掘り込み加工を行っている。
【0044】
また、ウエッジ110には、上記凹部112に接触媒質を供給する供給路110bが形成されている。その供給路110bを介して上記凹部112に接触媒質が供給される。
ここで、上記接触媒質は、検査面が高温であるので、高温用接触媒質を使用することが好ましい。高温用接触媒質としては、シリコンオイルなどが例示できる。
また、図8に示すように、上記のように斜角探触子108,109が固定された内枠105は、昇降装置によって昇降可能となっている。昇降装置は、ボールネジ115とそのボールネジ115を駆動するモータ116とから構成する。
【0045】
すなわち、上記内枠105から板状の立上り部113が上方に突出している。その立上り部113の上方に横架材114が配置されている。その横架材114は、上記支持枠5の壁部上部に固定されている。その横架材114と上記立上り部113の上部が、2つのボールネジ115によって連結する。
各ボールネジ115は、横架材114から下方に向けてねじ部115aが配置される。そのねじ部115aの下部にナット115bが配置され、ねじ部115aの回転に応じてナット115bが相対的に上下に移動する。そのナット115bは、上記立上り部113に固定されている。また、上記ねじ部115aを回転変位させるモータ116を備える。モータ116は、上記支持枠5の壁部上部に固定されている。モータ116の出力軸は、傘歯車を介して上記ねじ部115aに接続している。各モータ116は、有線若しくは無線によって駆動制御される。
【0046】
また、内枠105と上記支持枠5との間には、支持枠5が形成する壁面に対し、内枠105を上下に案内する案内装置120が配置されている。本実施形態では、支持枠5に対して上下に延びるレール120aが設けられ、内枠105には、そのレール120aを左右から跨架可能な断面コ字状のコ字部材120bを設けることで構成される。
また、上記台車部4のケースの上部(又は支持枠5の上部)には幅方向中央部に、CCDなどからなるカメラ121が搭載されている。カメラ121は、台車部4の前方且つ下方を撮像、つまり溶接線を撮像可能に配置されている。カメラ121が撮像する画像は、有線若しくは無線で表示部123に送られる。符号122は、カメラ121を支持するブラケットである。
【0047】
なお、表示部123には、中央に基準となる直線124が引かれており、その直線124とカメラ121が撮像した溶接線とが重なるように走行を調整すれば良い。
また、コントローラ60が、図6(b)に示すように、コントローラケーブル57を介して制御部50と相互に必要な信号を授受可能に接続されている。そのコントローラ60の操作盤面上に、検査開始スイッチ64、速度バランス調整用のボリューム70、右側トグルスイッチ66R、左側トグルスイッチ66L、昇降用スイッチ67,左表示灯62L、および右表示灯62Rを備えている。
【0048】
検査開始スイッチ64がONのときに、制御部50は、2対の斜角探触子108,109を作動させて、TOFD法で超音波探傷を行う。すなわち検査開始スイッチ64をオンにすると、2対の斜角探触子108,109による探触結果が取得されて、表示部123に表示されると共に、記憶部125に記録される。
昇降用スイッチ67が上昇側に操作されることで、制御部50は、昇降用装置のモータ116に探触子を上昇させる側に回転変位する信号を出力する。また、昇降用スイッチ67が下降側に操作されることで、制御部50は、昇降用装置のモータ116に探触子を下降側に回転変位する信号を出力する。
【0049】
速度バランス調整用のボリューム70にはポテンショメータを用いており、左右の車体部6L、6Rそれぞれのモータドライバへの電源は、このボリューム70を介することで、各モータドライバに通電されるべき電流を振り分け可能に配線されており、電流を振り分ける度合いを操作者の操作によって調整可能になっている。
右側トグルスイッチ66R、および左側トグルスイッチ66Lは、前進・後退・中立の3つの位置にそれぞれ切換え可能なものであり、右側トグルスイッチ66Rが右車体部6Rの走行手段9に対応し、左側トグルスイッチ66Lが左車体部6Lの走行手段9に対応してそれぞれ配線されている。各トグルスイッチ66R、66Lは、その前進・後退・中立の位置にそれぞれ対応する信号を制御部50に出力可能になっている。そして、左表示灯62L、および右表示灯62Rは、制御部50からの信号に応じて、消灯、点滅ないし点灯するようになっている。
【0050】
制御部50には、以下不図示の、各部に必要な電源を供給するための電源部、上述のモータドライバおよびマイクロコンピュータが搭載されている。なお、制御部50は、電源部から延びる電源コードを有し、その電源コードをAC100Vの3Pコンセントに差し込むことで各部に必要な電源を供給可能に配線されている。また、制御部50には、電源の供給確認用の表示灯が設けられており、電源が供給されるとその表示灯が点灯するようになっている。
【0051】
(使用例及び動作・作用)
熱風炉鉄皮の外壁面を、亀裂検査装置1が移動する面とする。また、その面のうち、溶接部及びその近傍の面が被検査面Sとなる。
上記外壁面に亀裂検査装置1の車輪10を磁着させて取り付ける。このとき、昇降用スイッチ67を上昇側に設定しておく。これによって、斜角探触子108,109を支持する内枠105を上方に移動させて、探触子108,109の各ウエッジ110が鉄皮の面と摺接することを回避する。
なお、万一の場合に生じ得る落下防止のために、上方に位置する構造物と亀裂検査装置1のワイヤーフック48とをロープによって互いを連結して、亀裂検査装置1が落下して、人体、地上もしくは他の設備機器に激突して損傷を与えることがないように十分な配慮をする。
【0052】
次いで、コントローラ60の左右のトグルスイッチ66L、66Rを操作して、必要に応じて前進または後退させて、検査を行う溶接部の1端部に亀裂検査装置1を位置させる。このとき、カメラ121からの画像に基づき、表示部123の基準線124と撮像した溶接線とが一致するように亀裂検査装置1の向きを調整する。
次に、昇降用スイッチ67を操作して、探触子108,109を支持する内枠105を下方に移動させて各斜角ウエッジ110の底板部110aの外周部を被検査面Sに接触させる。次に接触媒質を各ウエッジ110の凹部112に連続して供給して媒質の膜を安定的に形成される状態とする。
【0053】
次に、表示部123の画像を見ながら、表示部123の基準線124と撮像した溶接線とが一致するように調整しながら、左右のトグルスイッチ66L、66Rを操作して、亀裂検査装置1を溶接線に沿って移動させる。同期を取って、2対の斜角探触子108,109によってそれぞれ超音波探傷を行い、探傷結果を記憶部125に記録する。
検査している溶接部の他端まで移動したら、亀裂検査装置1の移動を停止して、接触媒質の供給、及び超音波探傷を停止する。更に、昇降スイッチを操作して内枠105を上昇させた後に、次の検査を行う溶接部まで亀裂検査装置1を移動させて溶接部の検査を繰り返す。
ここで、2対の斜角探触子108,109は、平面視において、溶接線に対して図11に示す関係にある。すなわち、直角配置の探触子の組は、縦割れに対しては、その縦割れに沿った長さ分だけ探傷するため、溶接線方向に対し所要の長さの亀裂検出として検出できるが、横割れに対しては、溶接線方向に対し常に短い亀裂として検出される。
【0054】
一方、斜め配置の探触子109の組では、縦割れであっても横割れであっても、その亀裂相当の長さの割れとして検出する。
従って、図12のように、同じ割れに対して、2対の探触子108,109が検出した割れ長さがほぼ等しければ、縦割れと判別することが出来る。また、斜め配置の探触子109による割れ長さと比較して、明らかに直角配置の探触子108による割れ長さが短ければ、横割れと判定することが可能となる。
【0055】
この判別は、記録した2つの探傷検出の情報を目視によって比較して判定しても良い。または、自動的に2つの探傷検出結果を比較して上記縦割れ及び横割れの判定を実施しても良い。
ここで、本実施形態の超音波探傷は、上述のようにTOFD法を採用する。TOFD法は、図13に示すように、表面を伝搬した縦波a、底面反射波dに対する、亀裂の上端反射波b及び下端回折波cの時間関係から、鋼板の板厚に対する亀裂深さを判定することが出来る。
【0056】
そして、縦割れと判定した場合には、例えば、縦割れの高さが鉄皮の板厚の半分以上であれば、補修が必要と判定して、そのような縦割れが発生している箇所を補修する。なお、縦割れは、裏面から被検査面Sに向けて割れが進行する。
また、横割れと判定した場合には、例えば横割れが被検査面S近くに来ていることを検出したときに補修が必要と判定して、そのような横割れが発生している箇所を補修する。
【0057】
(本実施形態の効果)
以上のように、本実施形態によれば、1対の斜角探触子108を直角配置とすることで、その直角配置の探触子108によって、主として縦割れが検出できる。また、他の対の斜角探触子109を斜め配置とすることで、その斜め配置によって横割れと縦割れが検出できる。従って、2対の斜角探触子108,109の検出結果によって、検出した欠陥が、横割れと縦割れかを判別することが容易となる。
この結果、割れの種類に応じた適切な補修作業を適切な時期に行うことが出来るようになる。
【0058】
車体部6L、6Rは、車輪10が、ネオジム磁石によって上記被検査面Sに磁着且つ転動することで移動可能となっている。ネオジム磁石の磁力によって亀裂検査装置1を磁着させることで、高温下でも磁力低下を抑える事が出来て、確実に、熱を発する被検査面Sに沿って移動体を移動可能となる。
なお、使用する磁石として、アルニコやサマコバの適用も考えられるが、アルニコは衝撃による減磁が大きく、また、サマコバは靭性が低い。この点、ネオジム磁石は、衝撃による減磁が低く且つ靭性も高い。さらにネオジム磁石はまた高温に対する磁束密度も所要以上確保することが出来る。
【0059】
また、遠隔操作とすることで、検査のために足場を組む必要もない。
また、検査に必要がない場合には、斜角探触子108,109を上方に移動させて検査面との接触を防止する。すなわち、探傷する面に移動するまでは、斜角探触子108,109を移動面から離しておくことで、斜角探触子108,109が面と接触することを回避可能となる。このことは、探傷する面に移動するまでの移動を速く出来ることに繋がる。
【0060】
また、接触媒質の膜の形成するための凹部112の深さを適正化することで、安定した接触媒質の膜が形成される。この結果、探傷精度が安定かつ向上する。
また、車輪10を冷却することで、熱を発している面に沿って転動しても、磁着するためのネオジム磁石11の磁力低下を抑えることが出来る。すなわち、確実に車輪10を吸着した状態とすることが出来る。対象とする鉄板が250℃となっていても、例えば30L/minのエア冷却によって、車輪10の温度を70℃以下に抑えることができることを確認している。また、車輪の冷却は、水冷を採用しても良い。
【0061】
また、本実施形態では、磁石位置を小径として円環状の溝が形成されていることで、溝に沿って噴射した冷却エアが誘導して流れる易くなる。この結果、車輪10をより有効に冷却することが出来る。
また、カメラ121で溶接部を撮像することで、遠隔操作であっても溶接線に沿って走行体を移動し易くなる。
また、上記実施形態では、車輪10自体に磁石を設けたが、車輪10とは別に磁石を設け、その磁力による吸引で車輪を被検査面Sに吸着させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0062】
1 亀裂検査装置
2 超音波探傷センサ
4 台車部
5 支持枠
6L、6R 車体部(走行体)
10 車輪
11 ネオジム磁石
12 車輪板
15 モータ(駆動源)
100 エアノズル
101 エアコンプレッサ
105 内枠
106,107 センサ支持フレーム
108,109 斜角探触子
110 ウエッジ
110a 底板部
110b 供給路
111 探触子本体
112 凹部
115 ボールネジ(昇降装置)
115a ねじ部
115b ナット
116 (昇降用の)モータ(昇降装置)
120 案内装置
123 表示部
124 基準線
125 記憶部
S 被検査面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料から構成され且つ熱を発している溶接構造物の溶接部を被検査面とし、その被検査面の溶接線に沿って移動しながら、上記溶接部を超音波によって非破壊探傷する溶接部の亀裂検査装置であって、
上記溶接構造物の被検査面を車輪が転動することで当該被検査面に沿って遠隔操作で移動可能な走行体と、上記走行体に支持される2対の斜角探触子と、を備え、
上記車輪は、ネオジム磁石の磁力によって上記溶接構造物の被検査面に吸着すると共に、上記走行体に搭載した駆動源によって駆動可能となっており、
上記2対の斜角探触子の配置は、被検査面と平行な平面視において、一対の斜角探触子を上記走行体の移動方向に対し直角となるように配置すると共に、他の対の斜角探触子を上記走行体の移動方向に対し直角位置から傾いた斜めとなるように配置したことを特徴とする溶接部の亀裂検査装置。
【請求項2】
上記移動体は、当該移動体が移動する面に対し上記斜角探触子を昇降可能とする昇降装置を備えることを特徴とする請求項1に記載した溶接部の亀裂検査装置。
【請求項3】
上記斜角探触子は、上記被検査面と対向する面に接触媒質溜まり用の凹部を有し、その凹部の深さを0.15〜0.25mmとすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した溶接部の亀裂検査装置。
【請求項4】
上記車輪を冷却する冷却手段を備えることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した溶接部の亀裂検査装置。
【請求項5】
上記走行体に溶接部を撮像可能なカメラを設けることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した溶接部の亀裂検査装置。
【請求項6】
磁性材料から構成され且つ熱を発している溶接構造物の溶接部を被検査面とし、その被検査面に対しネオジム磁石の磁力によって吸着する車輪を転動させることで、当該被検査面の溶接線に沿って移動体を遠隔操作で移動させつつ、走行体に搭載した2対の斜角探触子で、それぞれ上記溶接構造物の溶接部を超音波によって非破壊探傷し、
上記2対の斜角探触子のうち、上記被検査面と平行な平面視において、上記走行体の移動方向に対し直角となるように配置された一対の斜角探触子による探傷結果と、上記走行体の移動方向に対し直角方向から傾いた斜めとなるように配置された他の対の斜角探触子による探傷結果とを比較することで、検出した溶接部の割れが、縦割れか横割れかを判別することを特徴とする溶接部の亀裂検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−2320(P2011−2320A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145031(P2009−145031)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(500216466)住重試験検査株式会社 (11)
【Fターム(参考)】