説明

溶融塩電池

【課題】安全弁を有する構造であっても、宇宙用途に使用可能な電池を提供することを目的とする。
【解決手段】溶融塩を電解液とする溶融塩電池本体と、この溶融塩電池本体を収容し、内部の気圧が減圧された状態で封止されている電池容器11と、電池容器11に設けられ、電池容器11の内外気圧差が所定値を超える場合に放圧動作を行う安全弁12とを備えた溶融塩電池Bであり、このように構成された溶融塩電池では、地球上での製造時は内部の気圧を減圧する過程で水分が飛ばされ、電池容器内部の水分は極めて低いレベルになる。一方、溶融塩は不揮発性であるため、減圧されることの影響は特に無い。宇宙に運ばれて周囲が真空状態になれば、内部の気圧の方が高くなり、内外気圧差が所定値を超える場合には安全弁12が開いて放圧動作が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩を電解液とする溶融塩電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器類の電源として、エネルギー密度の高い二次電池であるリチウムイオン電池が多く使用されている(例えば、特許文献1参照。)。このリチウムイオン電池は、電解液として有機溶媒を用いている。有機溶媒は揮発しやすいので、電解液を収容するケースは密封して使用される。但し、過充電や短絡等により内部圧力が高くなった場合の放圧用に、安全弁が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−93799号公報(段落[0002])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、リチウムイオン電池が、宇宙用、すなわち、宇宙ステーションの無人空間や人工衛星内で使用される場合には、真空若しくはそれに非常に近い環境で使用されることになる。このような環境で、安全弁付きのリチウムイオン電池が使用された場合、電池のケース内の気圧は、周囲よりも相対的に高い状態になるので、内部のガスが安全弁を介して外へ抜ける。ガスが抜けることによりケース内は気圧が下がり、有機溶媒は揮発し易くなる。こうして、揮発したガスが外へ抜け続けることにより、電解液が失われると、電池は使用不能になる。
【0005】
そのような事態を招かないためには、周囲が真空の状態で相対的に高い内部圧力にも耐え得るよう電池のケースを頑丈に製造して完全密閉構造にしなければならない。しかし、これは現実には容易ではなく、また、電池全体が大型化してしまう難点がある。
かかる従来の問題点に鑑み、本発明は、安全弁を有する構造であっても、宇宙用途等の減圧もしくは真空環境下で使用可能な電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の溶融塩電池は、溶融塩を電解液とする溶融塩電池本体と、前記溶融塩電池本体を収容し、内部の気圧が減圧された状態で封止されている電池容器と、前記電池容器に設けられ、前記電池容器の内外気圧差が所定値を超える場合に放圧動作を行う安全弁とを備えたものである。
【0007】
上記のように構成された溶融塩電池では、地球上での製造時は内部の気圧を減圧する過程で水分が飛ばされ、電池容器内部の水分は極めて低いレベルになる。このことは、宇宙等で電池を長寿命に維持する上で好適である。一方、溶融塩は不揮発性であるため、減圧されることの影響は実質的に無いと言える。地球上では、電池容器の内部より外部の方が高い気圧であり、安全弁は閉じたままである。一方、宇宙等に運ばれて周囲が真空状態になれば、逆に、内部の気圧の方が高くなり、内外気圧差が所定値を超える場合には安全弁が開いて放圧動作が行われる。
【0008】
(2)また、上記溶融塩電池においては、減圧された状態とは、製造時に、0.5気圧より大きく、1気圧より小さい気圧の状態とすることであってもよい。
この場合、電池容器内は真空ではないので、若干のガス(主として乾燥空気もしくは乾燥不活性ガス(Ar,N等))が残っている。このガスは、固体の塩を加熱により溶融させる際の、電池容器内の均熱性確保に寄与する。
【0009】
(3)また、上記(1)又は(2)の溶融塩電池において、電池容器内における安全弁に、撥水性の多孔質シートが取り付けられていてもよい。
このような多孔質シートが例えば電池容器内における安全弁の口近傍に設けられた場合、安全弁から外部へ放出されるガスは多孔質シートを通過できるが、電解液は、多孔質シートにはじかれ、外へ出ない。従って、ガス放出と共に電解液が外部に漏れることを防止できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の溶融塩電池によれば、安全弁を設けることにより完全密閉構造ではない構造であっても、溶融塩の電解液は何ら影響を受けず、宇宙等の減圧もしくは真空環境下での長期使用に好適な電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】溶融塩電池における発電要素の基本構造を原理的に示す略図である。
【図2】溶融塩電池本体(電池としての本体部分)の積層構造を簡略に示す斜視図である。
【図3】図2と同様の構造についての横断面図である。
【図4】電池容器に収められた状態の溶融塩電池の外観の概略を示す斜視図である。
【図5】安全弁の詳細な構造の一例を示す断面図である。
【図6】(a)は、製造時の溶融塩電池における内外気圧の関係を示す略図であり、(b)は宇宙での内外気圧の関係を示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る溶融塩電池について、図面を参照して説明する。
図1は、溶融塩電池における発電要素の基本構造を原理的に示す略図である。図において、発電要素は、正極1、負極2及びそれらの間に介在するセパレータ3を備えている。正極1は、正極集電体1aと、正極材1bとによって構成されている。負極2は、負極集電体2aと、負極材2bとによって構成されている。
【0013】
正極集電体1aの素材は、例えば、アルミニウム不織布(線径100μm、気孔率80%)である。正極材1bは、正極活物質としての例えばNaCrOと、アセチレンブラックと、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)と、N−メチル−2−ピロリドンとを、質量比85:10:5:50の割合で混練したものである。そして、このように混練したものを、アルミニウム不織布の正極集電体1aに充填し、乾燥後に、100MPaにてプレスし、正極1の厚みが約1mmとなるように形成される。
一方、負極2においては、アルミニウム製の負極集電体2a上に、負極活物質としての例えば錫を含むSn−Na合金が、メッキにより形成される。
【0014】
正極1及び負極2の間に介在するセパレータ3は、ガラスの不織布(厚さ200μm)に電解質としての溶融塩を含浸させたものである。この溶融塩は、例えば、NaFSA(ナトリウム ビスフルオロスルフォニルアミド)56mol%と、KFSA(カリウム ビスフルオロスルフォニルアミド)44mol%との混合物であり、融点は57℃である。融点以上の温度では、溶融塩は溶融し、高濃度のイオンが溶解した電解液となって、正極1及び負極2に触れている。また、この溶融塩は不燃性である。
【0015】
なお、上述した各部の材質・成分や数値は好適な一例であるが、これらに限定されるものではない。
例えば、溶融塩としては、上記の他、LiFSA−KFSA−CsFSAの混合物も好適である。また、他の塩を混合する場合もあり(有機カチオン等)、一般には、溶融塩は、(a)NaFSA、又は、LiFSAを含む混合物、(b)NaTFSA、又は、LiTFSAを含む混合物、が適する。これらの場合、各混合物の溶融塩は、比較的低融点となるので、少ない加熱で溶融塩電池を作動させることができる。
【0016】
また、電解質を固体状とする固体電解質電池においても、本発明の構成をとることで、同様の効果は得ることはできる。なお、溶融塩電池では電池動作時に電解質の溶融塩は液体状となるので、振動等の外部からの影響に対して、固体電解質電池と比較して、電解質と活物質との接触をより良好に保ち易くすることができ、より好ましい。
【0017】
次に、より具体的な溶融塩電池の発電要素の構成について説明する。図2は、溶融塩電池本体(電池としての本体部分)10の積層構造を簡略に示す斜視図、図3は同様の構造についての横断面図である。
図2及び図3において、複数(図示しているのは6個)の矩形平板状の負極2と、袋状のセパレータ3に各々収容された複数(図示しているのは5個)の矩形平板状の正極1とが、互いに対向して図3における上下方向すなわち積層方向に重ね合わせられ、積層構造を成している。
【0018】
セパレータ3は、隣り合う正極1と負極2との間に介在しており、言い換えれば、セパレータ3を介して、正極1及び負極2が交互に積層されていることになる。実際に積層する数は、例えば、正極1が20個、負極2が21個、セパレータ3は「袋」としては20袋であるが、正極1・負極2間に介在する個数としては40個である。なお、セパレータ3は、袋状に限定されず、分離した40個であってもよい。
【0019】
なお、図3では、セパレータ3と負極2とが互いに離れているように描いているが、溶融塩電池の完成時には互いに密着する。正極1も、当然に、セパレータ3に密着している。また、正極1の縦方向及び横方向それぞれの寸法は、デンドライトの発生を防止するために、負極2の縦方向及び横方向の寸法より小さくしてあり、正極1の外縁が、セパレータ3を介して負極2の周縁部に対向するようになっている。
【0020】
上記のように構成された溶融塩電池本体10は、例えばアルミニウム合金製で直方体状の電池容器に収容され、素電池すなわち、電池としての物理的な一個体を成す。
図4は、このような電池容器11に収められた状態の溶融塩電池Bの外観の概略を示す斜視図である。なお、図2,図3における正極1及び負極2のそれぞれからは、端子(正極1の端子1tのみ図示している。)が電池容器11の外部へ引き出される。図4において、電池容器11の上部には、内部の気圧が過度に上昇したときに放圧するための安全弁12が設けられている。なお、電池容器11の内面には絶縁処理が施されている。電池容器11は、正面・背面に密着させるヒータ13によって暖められ、その結果、電解質の塩は、溶融塩の電解液となる。
【0021】
図5は、安全弁12の詳細な構造の一例を示す断面図である。安全弁12は、袋ナット121、ボルト122、栓部123、ばね124、Oリング125、及び、多孔質シート126によって構成されている。袋ナット121の内周面に形成された雌ねじ部121aは、ボルト122の外周面に形成された雄ねじ部122aと螺合する。袋ナット121の中央及び、ボルト122の中央には、それぞれ通気孔121b及び122bが形成されている。ボルト122は鍔部122cを抜け止めとして、電池容器11に固定されている。この安全弁12は、図5に示す状態から袋ナット121をさらに締め込んでOリング125を押しつぶした状態で使用される。多孔質シート126は、ボルト122の鍔部122cの下面に取り付けられている。
【0022】
上記多孔質シート126は、例えばPTFE(四フッ化エチレン樹脂)のような撥水性の材料からなる薄膜フィルタで、通気性がある。具体的には、ポアフロン(登録商標)メンブレンが好適である。厚さは、例えば30〜100μm程度である。電池容器11内のガスは多孔質シート126を通過して、安全弁12から外部へ放出され得るが、電解液は、多孔質シート126にはじかれ、外へ出ない。従って、ガス放出と共に電解液が外部に漏れることを確実に防止できる。
【0023】
上記2つの通気孔121b及び122bが互いに連通すれば、電池容器11の内部のガスが外部へ放出され得る状態となるが、通常は、ばね124の付勢を受けた栓部123が通気孔122bの上端に圧接しているので、電池容器11の内部は、外部から見て封止された状態となっている。内部の気圧が高まって、気圧が栓部123を押し上げようとする力が、ばね124の付勢力以上になると、栓部123が押し上げられてボルト122の通気孔122bと袋ナット121の通気孔121bとが互いに連通する。これにより、内部のガスが放出され、放圧される。内部の圧力が下がれば、栓部123は、再び、通気孔122bの上端を塞ぐ。
【0024】
次に、上記のような構成の溶融塩電池Bにおける電池容器11内の気圧について説明する。図6の(a)は、製造時の溶融塩電池Bの、内外気圧の関係を示す略図である。地球上で製造するときは、安全弁12を介して外部から真空引きし、電池容器11内を減圧する。減圧の程度は、例えば、0.5気圧以上で1気圧未満までの範囲内とする。内部の気圧を減圧する過程で水分が飛ばされ(排出され)、電池容器11内部の水分は極めて低いレベルになる。仮に水分が多く残っていると、加熱時にNOxやSOxが発生し、また、微量ではあるがHFが発生することもある。これらのガスは電池の劣化を招き、電池寿命を短くする一因となる。従って、水分を残さないことは、宇宙で電池を長寿命に維持する上で好適である。
【0025】
一方、溶融塩(電解液)は不揮発性である。そのため、減圧されることの影響は実質的に無いと言える。また、上述のように、電池容器11内は真空ではなく、若干のガス(主として空気)が残っている。このガスは、固体の塩を加熱により溶融させる際に、対流によって電池容器11内の均熱性確保に寄与する。
上記のように構成された溶融塩電池Bでは、地球上では、電池容器11の内部より外部の大気圧の方が高い気圧であり、安全弁12は閉じたままである。すなわち、このときの安全弁12は、電池容器11の内部の減圧状態を維持する逆止弁のような役割をしている。
【0026】
一方、図6の(b)に示すように、溶融塩電池Bが宇宙に運ばれて周囲が真空状態になれば、逆に、内部の気圧の方が高くなり、内外気圧差が所定値を超える場合には安全弁12が開いて放圧動作が行われる。
このようにして、安全弁12を設けることにより完全密閉構造ではない構造であっても、揮発しない電解液は何ら影響を受けず、宇宙での長期使用に好適な電池を、溶融塩電池によって実現することができる。
【0027】
実際には、所望の電圧出力・電流出力を得るため、複数個の溶融塩電池が直列又は直並列に接続された組電池として使用される。溶融塩電池は完全不燃性であり、使用温度範囲も広い(57℃〜190℃)。そのため、組電池として高密度に集積することができ、全体としてコンパクトに組電池を構成することができる。従って、宇宙への運搬にも好適である。なお、宇宙における溶融塩電池の充電は、例えば太陽光発電パネルの出力により行うことができる。
【0028】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0029】
10:溶融塩電池本体
11:電池容器
12:安全弁
126:多孔質シート
B:溶融塩電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩を電解液とする溶融塩電池本体と、
前記溶融塩電池本体を収容し、内部の気圧が減圧された状態で封止されている電池容器と、
前記電池容器に設けられ、前記電池容器の内外気圧差が所定値を超える場合に放圧動作を行う安全弁と
を備えていることを特徴とする溶融塩電池。
【請求項2】
前記減圧された状態とは、製造時に、0.5気圧より大きく、1気圧より小さい気圧の状態とすることである請求項1記載の溶融塩電池。
【請求項3】
前記電池容器内における前記安全弁に、撥水性の多孔質シートが取り付けられている請求項1又は2に記載の溶融塩電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−89562(P2013−89562A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231897(P2011−231897)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】