説明

溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物及びそれを用いたフィルム

【課題】環状オレフィン系樹脂をブレンドすることにより、メルトテンションを向上させ、成形の際に発生するドローレゾナンスを抑えることができる技術を提供する。
【解決手段】溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物が、環状オレフィン系樹脂(A)と環状オレフィン系樹脂(A)よりガラス転移点の高い環状オレフィン系樹脂(B)とを含み、環状オレフィン系樹脂(A)の含有量を40質量%から95質量%、環状オレフィン系樹脂(B)の含有量を5質量%から60質量%にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス転移点の異なる2種類の環状オレフィン系樹脂を含む溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物及び当該溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物を成形してなるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系樹脂組成物は、高耐熱性、高透明性、及び、低複屈折性を発揮できる点から、種々の成形方法により成形され、レンズ、導光板、回折格子等の光学デバイス、建築ならびに照明分野等の産業材における透明な成形加工品の用途に用いられている。
【0003】
Tダイ成形でキャストフィルムを成形する場合や溶融紡糸の際に、特に高速でフィルムや繊維を引き取ろうとすると、「ドローレゾナンス」と呼ばれるフィルムの引取り方向に発生する規則的な厚み変動が生じることが知られている。ドローレゾナンスが発生するとフィルムに厚薄ムラが発生したり、繊維の太さが不安定になったりする不具合が生じてしまう。ドローレゾナンスの発生を抑制するためには、樹脂のメルトテンションが高いことが求められる。
【0004】
成形品の材料として好適な環状オレフィン系樹脂のメルトテンションが低い場合に、これを改善する必要がある。
【0005】
環状オレフィン系樹脂を含む樹脂組成物を成形してなる成形品においては、その成形品の性能向上のため、二種以上の環状オレフィン系樹脂をブレンドすることが行われている(特許文献1、2参照)。
【0006】
しかし、環状オレフィン系樹脂のブレンドについて記載した上記特許文献等には、メルトテンションを高める技術は開示されていない。また、環状オレフィン系成分として単環の環状オレフィンに由来する繰り返し単位を含む環状オレフィン系樹脂では、メルトテンションが低くなる傾向があり、改善する技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−279554号公報
【特許文献2】国際公開WO 2007/132641号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、環状オレフィン系樹脂をブレンドすることにより、メルトテンションを向上させ、成形の際に発生するドローレゾナンスを抑えることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物が、環状オレフィン系樹脂(A)と環状オレフィン系樹脂(A)よりガラス転移点の高い環状オレフィン系樹脂(B)とを含み、環状オレフィン系樹脂(A)の含有量が40質量%から95質量%であり、環状オレフィン系樹脂(B)の含有量が5質量%から60質量%であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下の物を提供する。
【0010】
(1) 環状オレフィン系樹脂(A)と、環状オレフィン系樹脂(A)よりガラス転移点の高い環状オレフィン系樹脂(B)と、を含む溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物であって、前記環状オレフィン系樹脂(A)の含有量が40質量%から95質量%であり、前記環状オレフィン系樹脂(B)の含有量が5質量%から60質量%である溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物。
【0011】
(2) 190℃、巻取速度を15m/分にして測定したメルトテンションが、35mN以上であり、190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートが、0.1g/10分から1.5g/10分である(1)に記載の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物。
【0012】
(3) 前記環状オレフィン系樹脂(A)のガラス転移点が、80℃以下である(1)又は(2)に記載の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物。
【0013】
(4) 単一のガラス転移点を有する(1)から(3)のいずれかに記載の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物。
【0014】
(5) 前記環状オレフィン系樹脂(A)及び/又は前記環状オレフィン系樹脂(B)は、ノルボルネンとエチレンとからなる共重合体である(1)から(4)のいずれかに記載の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物。
【0015】
(6) (1)から(5)のいずれかに記載の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物を成形してなるフィルム。
【0016】
(7) 引取り速度6m/分から60m/分で引き取る(6)に記載のフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物が、ガラス転移点の異なる環状オレフィン系樹脂を二以上含み、ガラス転移点の高い環状オレフィン系樹脂と、ガラス転移点の低い環状オレフィン系樹脂との含有割合を特定の範囲にすることで、溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物のメルトテンションを向上させることができる。その結果、フィルム等の成形時に発生するドローレゾナンスを抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
本発明の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物は、環状オレフィン系樹脂(A)と環状オレフィン系樹脂(A)よりガラス転移点の高い環状オレフィン系樹脂(B)とを含む。そこで、本発明の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物について、環状オレフィン系樹脂(A)、環状オレフィン系樹脂(B)の順で説明する。
【0020】
<環状オレフィン系樹脂(A)>
本発明に用いられる環状オレフィン系樹脂(A)は、環状オレフィン成分を共重合成分として含むものであり、環状オレフィン成分を主鎖に含むポリオレフィン系樹脂であれば、特に限定されるものではない。例えば、環状オレフィンの付加重合体又はその水素添加物、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物等を挙げることができる。
【0021】
また、本発明に用いられる環状オレフィン成分を共重合成分として含む環状オレフィン系樹脂(A)としては、上記重合体に、さらに極性基を有する不飽和化合物をグラフト及び/又は共重合したもの、を含む。
【0022】
極性基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基等を挙げることができ、極性基を有する不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、マレイン酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0023】
本発明においては、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物を好ましく用いることができる。
【0024】
また、本発明に用いられる環状オレフィン成分を共重合成分として含む環状オレフィン系樹脂(A)としては、市販の樹脂を用いることも可能である。市販されている環状オレフィン系樹脂(A)としては、例えば、TOPAS(登録商標)(Topas Advanced Polymers社製)、アペル(登録商標)(三井化学社製)、ゼオネックス(登録商標)(日本ゼオン社製)、ゼオノア(登録商標)(日本ゼオン社製)、アートン(登録商標)(JSR社製)等を挙げることができる。
【0025】
本発明の組成物に好ましく用いられる環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体としては、特に限定されるものではない。特に好ましい例としては、〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、〔2〕下記一般式(I)で示される環状オレフィン成分と、を含む共重合体を挙げることができる。
【化1】

(式中、R1〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
R9とR10、R11とR12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、
R9又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、
nが2以上の場合には、R5〜R8は、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0026】
〔〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分〕
本発明に好ましく用いられる環状オレフィン成分とエチレン等の他の共重合成分との付加重合体の共重合成分となる炭素数2〜20のα−オレフィンは、特に限定されるものではない。例えば、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。また、これらのα−オレフィン成分は、1種単独でも2種以上を同時に使用してもよい。これらの中では、エチレンの単独使用が最も好ましい。粘度特性が向上するからである。
【0027】
〔〔2〕一般式(I)で示される環状オレフィン成分〕
本発明に好ましく用いられる環状オレフィン成分とエチレン等の他の共重合成分との付加重合体において、共重合成分となる一般式(I)で示される環状オレフィン成分について説明する。
【0028】
一般式(I)におけるR1〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものである。
【0029】
R1〜R8の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0030】
また、R9〜R12の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、ステアリル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ナフチル基、アントリル基等の置換又は無置換の芳香族炭化水素基;ベンジル基、フェネチル基、その他アルキル基にアリール基が置換したアラルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0031】
R9とR10、又はR11とR12とが一体化して2価の炭化水素基を形成する場合の具体例としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基等のアルキリデン基等を挙げることができる。
【0032】
R9又はR10と、R11又はR12とが、互いに環を形成する場合には、形成される環は単環でも多環であってもよく、架橋を有する多環であってもよく、二重結合を有する環であってもよく、またこれらの環の組み合わせからなる環であってもよい。また、これらの環はメチル基等の置換基を有していてもよい。
【0033】
一般式(I)で示される環状オレフィン成分の具体例としては、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。
【0034】
これらの環状オレフィン成分は、1種単独でも、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中では、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)を単独使用することが好ましい。
【0035】
環状オレフィン系樹脂(A)のガラス転移点は120℃以下であることが好ましく、より好ましくは30℃から80℃である。なお、ガラス転移点(Tg)は、DSC法(JIS K7121記載の方法)によって昇温速度10℃/分の条件で測定した値を採用する。120℃以下であれば、環状オレフィンに由来する繰り返し単位の含有量が少なくなるため、粘度特性が向上しやすい。なお、本発明では、後述する環状オレフィン系樹脂(B)を配合することで、環状オレフィンに由来する繰り返し単位の含有量の多い樹脂を用いても、メルトテンションを高めることができ、成形品の厚み等を安定させることができる。メルトテンション改善の観点からは、環状オレフィン系樹脂(A)のガラス転移点が120℃以上であっても高いメルトテンション向上の効果を得ることができる。
【0036】
本発明の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物中の環状オレフィン系樹脂(A)の含有量は、40質量%から95質量%である。より好ましくは、75質量%から95質量%である。ただし、上記範囲は、用いる環状オレフィン系樹脂の種類によって多少変動する。本発明は、メルトテンションの低い環状オレフィン系樹脂(A)に対して、後述する環状オレフィン系樹脂(B)を配合することにより、メルトテンションを改善した環状オレフィン系樹脂(A)を主成分とする溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物を提供するものである。したがって、メルトテンションが改善され、成形時のドローレゾナンスを抑えることができれば、環状オレフィン系樹脂(A)の含有量は多いほど好ましい。
【0037】
適当な可塑化エネルギーで均一な可塑化を実現し、未可塑化部分を発生させない観点からは、JIS K7210に準拠する方法で測定した190℃、2.16kg荷重における環状オレフィン系樹脂(A)の好ましいメルトフローレートは、1.0g/10分から30.0g/10分である。また、後述する方法で測定した環状オレフィン系樹脂(A)のメルトテンションが10mNから35mNのような低い範囲であっても、後述する環状オレフィン系樹脂(B)とブレンドすることにより、成形の際に厚みが不安定になることを防ぐことができ、高品質な成形品を得ることができる。
【0038】
〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と〔2〕一般式(I)で表される環状オレフィン成分との重合方法及び得られた重合体の水素添加方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法に従って行うことができる。ランダム共重合であっても、ブロック共重合であってもよいが、ランダム共重合であることが好ましい。
【0039】
また、用いられる重合触媒についても特に限定されるものではなく、チーグラー・ナッタ系、メタセシス系、メタロセン系触媒等の従来周知の触媒を用いて周知の方法により得ることができる。本発明に好ましく用いられる環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物は、メタロセン系触媒を用いて製造されることが好ましい。メタロセン触媒のポリマーは、一般に分子量分布が狭くなる傾向が強い。このため、メルトテンションが高くなりにくく、相対的に本発明の効果が大きい。
【0040】
メタセシス触媒としては、シクロオレフィンの開環重合用触媒として公知のモリブデン又はタングステン系メタセシス触媒(例えば、特開昭58−127728号公報、同58−129013号公報等に記載)が挙げられる。また、メタセシス触媒で得られる重合体は無機担体担持遷移金属触媒等を用い、主鎖の二重結合を90%以上、側鎖の芳香環中の炭素−炭素二重結合の98%以上を水素添加することが好ましい。
【0041】
〔その他共重合成分〕
環状オレフィン系樹脂(A)は、上記の〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、〔2〕一般式(I)で示される環状オレフィン成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて他の共重合可能な不飽和単量体成分を含有していてもよい。
【0042】
任意に共重合されていてもよい不飽和単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体等を挙げることができる。炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体の具体例としては、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。
【0043】
<環状オレフィン系樹脂(B)>
環状オレフィン系樹脂(B)は、環状オレフィン系樹脂(A)よりガラス転移点が高いものであれば特に限定されない。環状オレフィン系樹脂(B)は、(A)成分と同様に環状オレフィン系モノマーを共重合成分として含むものであり、環状オレフィン系モノマーを主鎖に含むポリオレフィン系樹脂である。例えば、環状オレフィンの付加重合体又はその水素添加物、環状オレフィンと非環式オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物等を挙げることができる。環状オレフィン成分、α−オレフィン成分等については全て環状オレフィン系樹脂(A)で説明したものと同じものを使用することができる。
【0044】
環状オレフィン系樹脂(A)と環状オレフィン系樹脂(B)とのガラス転移点の差は特に限定されないが、10℃から120℃であることが好ましく、30℃から80℃であることがさらに好ましい。上記範囲内にあれば、後述する通り、環状オレフィン系樹脂組成物が単一のガラス転移点を持ち、本発明の効果がより高まるからである。
【0045】
また、JIS K7210に準拠する方法で測定した260℃、2.16kg荷重における環状オレフィン系樹脂(B)の好ましいメルトフローレートは、1.0g/10分から30.0g/10分である。
【0046】
本発明の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物中の環状オレフィン系樹脂(B)の含有量は、5質量%から60質量%である。より好ましくは、5質量%から25質量%である。環状オレフィン系樹脂(B)を添加することで、後述する通り本発明の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物のメルトテンションが向上し成形後のフィルムの厚薄ムラ等を抑えることができる。上記環状オレフィン系樹脂(B)は、溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物のメルトテンションを高めるためのものであり、所望の効果が得られれば、より少ない含有量であることが好ましい。
【0047】
<溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物の物性>
後述する方法で測定した溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物のメルトテンションは、35mN以上であることが好ましく、より好ましくは35mNから80mNである。メルトテンションが35mN以上であれば、フィルムの厚み安定、繊維の太さ安定等の効果が高く、極めて高い品質の成形品を得ることができる。
【0048】
JIS K7210に準拠する方法で測定した190℃、2.16kg荷重における本発明の樹脂組成物のメルトフローレートは、0.1g/10分から1.5g/10分であることが好ましい。より好ましくは0.5g/10分から1.3g/10分である。0.1g/10分以上であれば、流動性が高く成形しやすいので好ましく、1.5g/10分を超えるとフィルム、シートの成形が困難になり好ましくない。
【0049】
本発明の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物は、複数のガラス転移点を有するものであってもよいが、単一のガラス転移点を持つものが好ましい。環状オレフィン系樹脂(A)と環状オレフィン系樹脂(B)との相溶性が高まることで、効果的にドローレゾナンスを抑えることができ、その結果、成形品の厚みや太さが安定する効果が高まり、高品質な成形品を得ることができる。
【0050】
ここで、単一のガラス転移点とは、DSC法(JIS K7121記載の方法)によって昇温速度10℃/分の条件で測定した場合にガラス転移点に相当するピークが一つしかないことをいう。
【0051】
<フィルム>
本発明のフィルムは、本発明の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物を成形してなるフィルムである。
【0052】
本発明のフィルムを製造する方法としては特に限定されず、例えば、溶融押出製膜法、カレンダー製膜法、溶液キャスト(流延)製膜法等の従来公知の製膜法を用いることができる。なかでも、生産性に優れ、環境共生的でもあることから、溶融押出製膜法が好適である。
【0053】
環状オレフィン系樹脂(A)と環状オレフィン系樹脂(B)との混合方法としては、特に限定されず、あらかじめ押出機等を用いてプレコンパウンドしても、原料をドライブレンドして直接フィルム製造のための押出機等に投入してもよい。
【0054】
また、環状オレフィン系樹脂(A)と環状オレフィン系樹脂(B)を混合する場合、シクロヘキサンやデカリンを溶媒として溶液混合した後に溶媒を留去することも可能である。さらに環状オレフィン系樹脂(A)の溶液重合の際に、あらかじめ製造しておいた環状オレフィン系樹脂(B)を製造設備に投入しておく方法も可能である。
【0055】
本発明のフィルム製造のための好ましい押出温度範囲は170℃から280℃であり、より好ましくは180℃から240℃である。
【0056】
本発明の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物を用いれば、引取り速度6m/分から60m/分の条件でも厚みの安定したフィルムを得ることができる。この際の他の成形条件は、特に限定されないが、エアギャップを小さくした方が好ましい。
【0057】
本発明のフィルムは、実施例に記載の方法で測定するネックインが、60mm以下であることが好ましい。ネックインとは、例えばTダイ成形においてキャストフィルムを成形する場合にフィルムの端部が中央方向へと縮んでしまう現象をいう。このネックインが発生すると、フィルム幅が小さくなるとともにフィルムの端部の厚みがフィルム中央部に比べ厚くなってしまうため、製品の歩留まりが悪化する。本発明では、平均して60mm以下のネックインを実現することができるため、製品の歩留まりを向上することができる。
【0058】
ドローレゾナンス頻度は、引取り速度が速いほど多くなる。しかし、引取り速度が速いほうが、フィルムの生産性を向上させることができるので好ましい。具体的には引取り速度は6m/分から60m/分であることが好ましい。本発明の溶融押出用フィルムでは、引取り速12m/分におけるドローレゾナンス頻度(実施例の評価方法による)が、2以下である。結果として、本発明によれば上記のような早い引取り速度であっても厚みの安定したフィルムを得ることができる。
【0059】
引取り速度8m/分、実施例に記載の条件でのフィルムの膜厚変動(最大値−最小値)は、10μm以下であることが好ましい。本発明の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物を用いると上記のような膜厚の安定したフィルムを得ることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
<材料>
環状オレフィン系樹脂(A)として、
「9506F−04」(Topas Advanced Polymers社製)
「8007F−04」(Topas Advanced Polymers社製)
【0062】
JIS K7210に従い、190℃、260℃の温度で2.16Kgfの荷重をかけて測定した上記環状オレフィン系樹脂(A)のメルトフローレート、及び後述する方法で測定した上記環状オレフィン系樹脂(A)の溶融張力を表1に示した。
【0063】
環状オレフィン系樹脂(B)として、
「6013F−04」(Topas Advanced Polymers社製)
「6017F−04」(Topas Advanced Polymers社製)
「8007F−04」(Topas Advanced Polymers社製)
【0064】
JIS K7210に従い、260℃の温度で2.16Kgfの荷重をかけて測定した上記環状オレフィン系樹脂(B)のメルトフローレートを表1に示した。
【0065】
<溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物の製造>
表1に示す材料と割合で、二軸押出機(日本製鋼所社製 TEX30)を用いてシリンダ温度250℃にて溶融混練し、実施例及び比較例の溶融押出用環状オレフィン樹脂組成物ペレットを得た。
【0066】
<ガラス転移点の評価>
示差走査熱量分析装置(TAインスツルメント社製 DSC−1000)にて昇温速度10℃/分の条件で測定した。測定結果を表1に示した。
【0067】
<MFRの評価>
MFRはJIS K7210に従い、190℃の温度で2.16Kgfの荷重をかけて測定した。測定結果を表1に示した。
【0068】
<メルトテンション(溶融張力)>
溶融張力は東洋精機社製キャピログラフ1B(ピストン径10mm)により、内径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いて、190℃ 10mm/分の押出速度の条件でオリフィスから排出した溶融ポリマーを、引き取り速度 15m/分で繊維状に引き取った際の繊維にかかる張力(mN)を測定した。測定結果を表1に示した。
【0069】
<フィルム形成>
得られた実施例及び比較例の溶融押出用環状オレフィン樹脂組成物を、40mmφ押出機と420mm幅のT−ダイを有するシート形成機によって、100μm厚シートを製膜した。
[成形条件]
押出機シリンダ温度 200℃
ダイ温度 180℃
エアギャップ 100mm
チルロール温度 60℃
引き取り速度と膜厚 4m/分−150μm, 8m/分−75μm, 12m/分−50μm
【0070】
<フィルムの評価>
[ネックイン]
引き取り速度4m/分でのTダイの幅をLo、各引き取り速度で成形されたシートの幅(平均値)LとしたときのネックインをLo−Lで表わした。結果を表1に示した。
【0071】
[ドローレゾナンス]
各引き取り速度でのシート成形時にダイからチルロールまでの溶融シートを観察し、1分あたりに発生するドローレゾナンス現象の回数を計数した。結果を表1に示した。
【0072】
[膜厚変動]
シート成形方向の膜厚変動は引き取り速度8m/分での成形において中心線から5cmずらしたライン上で20箇所の厚さを測定し、最大値と最小値及びその差で表した。結果を表1に示した。
【0073】
【表1】

【0074】
表1から分かるように、本発明の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物を成形してなるフィルムは、ネックインの値が小さく、ドローレゾナンス頻度が少なく、膜厚の最大値と最小値との差が小さくなり、厚みのバラツキが少ないことが確認された。
【0075】
実施例1から5と実施例6から明らかなように、単一のガラス転移点を持つ環状オレフィン系樹脂組成物を成形してなるフィルムは、ドローレゾナンス頻度が減少することに加え、膜厚変動、ネックイン等の値も小さくなり、極めて高い厚み安定の効果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系樹脂(A)と、環状オレフィン系樹脂(A)よりガラス転移点の高い環状オレフィン系樹脂(B)と、を含む溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物であって、
前記環状オレフィン系樹脂(A)の含有量が40質量%から95質量%であり、
前記環状オレフィン系樹脂(B)の含有量が5質量%から60質量%である溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項2】
190℃、巻取速度を15m/分にして測定したメルトテンションが、35mN以上であり、
190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートが、0.1g/10分から1.5g/10分である請求項1に記載の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記環状オレフィン系樹脂(A)のガラス転移点が、80℃以下である請求項1又は2に記載の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】
単一のガラス転移点を有する請求項1から3のいずれかに記載の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記環状オレフィン系樹脂(A)及び/又は前記環状オレフィン系樹脂(B)は、ノルボルネンとエチレンとからなる共重合体である請求項1から4のいずれかに記載の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の溶融押出用環状オレフィン系樹脂組成物を成形してなるフィルム。
【請求項7】
引取り速度6m/分から60m/分で引き取る請求項6に記載のフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−31253(P2010−31253A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147613(P2009−147613)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】