説明

溶融金属めっき鋼板の製造装置

【課題】従来よりも容易に制御パラメータを調整できる溶融金属めっき鋼板の製造装置を提供する。
【解決手段】溶融金属めっきが付着した鋼板11の表面に気体を吹き付ける表側ノズル16と、鋼板11の裏面に気体を吹き付ける裏側ノズル17と、鋼板11と表側ノズル16との間の表側ギャップ及び鋼板11と裏側ノズル17との間の裏側ギャップをそれぞれ操作量とし、制御モデルに基づいて鋼板11のめっき付着量をフィードフォワード制御又はフィードバック制御するための制御装置20とを備えた溶融金属めっき鋼板の製造装置10であって、制御モデルは、次式で表される。
CW = α×D
ここで、CWはめっき付着量、Dはノズルギャップ、αはラインスピード(LS)と表側ノズル16又は裏側ノズル17が吹き付ける気体の圧力(P)とによって決まる係数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御モデルを用いて鋼板のめっき付着量を制御する溶融金属めっき鋼板の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1において、溶融金属めっき鋼板のめっき付着量を制御するめっき付着量制御システムが開示されている。このめっき付着量制御システムでは、次式で表される制御モデルに基づいてめっき付着量(CW)が制御されている。
ln(CW) = a0+a1・ln(P)+a2・ln(V)+a3・ln(D)
式(1)
ここで、CWはめっき付着量、Pはノズルのガス圧、Vはラインスピード、Dはノズルギャップ、a0〜a3は定数である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−31509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、式(1)のように制御モデルのパラメータが多いとそのパラメータ調整に時間を要する。
本発明は、従来よりも短時間で制御パラメータを調整することができる溶融金属めっき鋼板の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う本発明に係る溶融金属めっき鋼板の製造装置は、溶融金属めっきが付着した鋼板の表面に気体を吹き付ける表側ノズルと、前記鋼板の裏面に気体を吹き付ける裏側ノズルと、前記鋼板と前記表側ノズルとの間の表側ギャップ及び前記鋼板と前記裏側ノズルとの間の裏側ギャップをそれぞれ操作量とし、制御モデルに基づいて前記鋼板のめっき付着量をフィードフォワード制御又はフィードバック制御するための制御装置とを備えた溶融金属めっき鋼板の製造装置であって、
前記制御モデルは、次式で表される。
CW = α×D
ここで、CWはめっき付着量、Dは前記表側ギャップ(Df)及び前記裏側ギャップ(Db)が合算されたノズルギャップ、αはラインスピード(LS)と前記表側ノズル又は前記裏側ノズルが吹き付ける気体の圧力(P)とによって決まる係数である。
【0006】
本発明に係る溶融金属めっき鋼板の製造装置において、前記係数(α)は、前記気体の圧力(P)と前記ラインスピード(LS)と前記ノズルギャップ(D)と前記めっき付着量(CW)とから、前記制御モデルに基づいて予め参照テーブルとして規定され、
前記制御装置は、前記参照テーブルを記憶する記憶部と、
前記ラインスピード(LS)及び前記気体の圧力(P)に基づいて前記参照テーブルを参照して得られた前記係数(α)と、前記めっき付着量(CW)の設定値及び計測値の偏差(ΔCW)と、を求め、前記制御モデルを前記ノズルギャップ(D)について偏微分することにより求められたノズルギャップ変更量(ΔD)、前記係数(α)及び前記めっき付着量(CW)の前記偏差(ΔCW)の関係式に基づいて、前記ノズルギャップ変更量(ΔD)を演算するノズルギャップ演算部と、
前記ノズルギャップ演算部が演算した前記ノズルギャップ変更量(ΔD)に基づいて、前記表側ギャップ(Df)及び前記裏側ギャップ(Db)を設定するノズルギャップ設定部と、
前記ノズルギャップ設定部が設定した前記表側ギャップ(Df)及び前記裏側ギャップ(Db)に基づいて前記表側ノズル及び前記裏側ノズルを駆動し、前記ノズルギャップ(D)を調整するためのノズルギャップ調整部とを備えることができる。
【0007】
本発明に係る溶融金属めっき鋼板の製造装置において、前記フィードフォワード制御は、1)第1コイルから該第1コイルの次にめっき処理される第2コイルへとコイルが切り替わる場合であり、更に前記第1コイルの鋼板と前記第2コイルの鋼板の端部同士を結合する溶接箇所が前記表側ノズル又は前記裏側ノズルから予め決められた距離だけ搬送方向上流側に来た場合、2)前記ラインスピード(LS)が変更された場合、又は3)前記めっき付着量(CW)の設定値が変更された場合に開始され、
前記フィードバック制御は、前記フィードフォワード制御が開始された時から、前記鋼板が予め決められた距離送られた場合に開始されるようにすることができる。
【0008】
本発明に係る溶融金属めっき鋼板の製造装置において、前記参照テーブルは、学習制御により更新してもよい。
【発明の効果】
【0009】
請求項1〜4記載の溶融金属めっき鋼板の製造装置においては、制御パラメータが従来よりも少ない制御モデルを用いて制御するので、短時間で制御パラメータを調整することが可能である。
【0010】
特に、請求項2記載の溶融金属めっき鋼板の製造装置においては、係数(α)を気体の圧力(P)とラインスピード(LS)とノズルギャップ(D)とめっき付着量(CW)とから、制御モデルに基づいて予め参照テーブルとして規定しているため、係数(α)を容易に求めることができ、従来よりも短時間で装置を調整することが可能である。
【0011】
請求項3記載の溶融金属めっき鋼板の製造装置においては、フィードフォワード制御とフィードバック制御とを連動させるため、めっき付着量を許容範囲内に維持することが可能である。
【0012】
請求項4記載の溶融金属めっき鋼板の製造装置においては、参照テーブルが学習制御により更新されるため、本発明の構成をとらない場合よりもモデル誤差を小さくすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る溶融金属めっき鋼板の製造装置の構成図である。
【図2】制御装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
【0015】
図1及び図2に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る溶融金属めっき鋼板の製造装置10(以下、単に「製造装置10」ともいう)は、連続的に搬送される鋼板11に例えば亜鉛等の金属めっきを施すものである。この製造装置10は、溶融金属めっき槽15、一対のノズル16、17、めっき付着量計18、19、及び制御装置20を備えている。
【0016】
溶融金属めっき槽15は、溶融金属が貯留される部分である。この溶融金属めっき槽15には、送られた鋼板11の搬送方向を鉛直方向上向きに転換するシンクロール25と、このシンクロール25の下流側に配置され、鋼板11の反りを修正する一対のサポートロール26とが設けられている。
【0017】
ノズル16、17は、溶融金属めっき槽15を通過した鋼板11(即ち、溶融金属めっき鋼板)に空気(気体の一例)を吹き付けることにより、鋼板11に付着した溶融金属の量、即ち、めっき付着量を調整するものである。なお、ノズル16、17から吹き付ける気体は空気に限らず、窒素であっても良い。ノズル16、17は、溶融金属めっき槽15の上方に配置され、鋼板11の表面側と裏面側にそれぞれ対向して一対設けられている。なお、鋼板11の表面側に設けられたノズル16は表側ノズル、鋼板11の裏面側に設けられたノズル17は裏側ノズルである。また、これらノズル16、17はそれぞれサーボモータ31、32を駆動することによって鋼板11の厚み方向に移動可能に設けられている。なお、サーボモータ31、32で駆動せずに、インバータ制御によるモータで駆動する場合もある。この場合は、モータ回転位置を検出するエンコーダが別途設けられている。
ノズル16、17が吹き付ける空気の圧力(ノズル圧力)は、それぞれ圧力制御装置34、35によって調整される。この圧力制御装置34、35には、ノズル圧力を計測する図示しない圧力計がそれぞれ設けられている。ノズル16、17のノズル圧力は、圧力計の出力がフィードバックされることにより、設定された値になるように制御されている。本実施の形態においては、各ノズル圧力は、共通した同じ設定値となっている。
【0018】
めっき付着量計18、19は、鋼板11に付着しためっき付着量を計測するための計測器である。めっき付着量計18、19は、鋼板11の表側と裏側に付着しためっき付着量をそれぞれ計測することができる。めっき付着量計18、19は、ノズル16、17から例えば百数十メートル下流側に配置されている。
【0019】
制御装置20は、鋼板11のめっき付着量を制御するためのものである。図2に示すように、制御装置20には、めっき付着量計18、19、圧力計、サーボモータ31、32に内蔵されたエンコーダ、鋼板11の製造プロセス全体を管理する上位制御装置36、及びライン制御コントローラ37が接続される。制御装置20は、サーボモータ31、32を駆動し、鋼板11の表面及び表側ノズル16のギャップ(表側ギャップ(D))と鋼板11の裏面及び裏側ノズル17のギャップ(裏側ギャップ(D))とを調整する。この表側ギャップ(D)及び裏側ギャップ(D)がめっき付着量制御における主操作量となる。また、制御装置20は、圧力制御装置34、35を操作してノズル圧力を調整する。
【0020】
制御装置20は次式で示す制御モデルに基づいて、鋼板11のめっき付着量(CW)を制御する。
CW = α×D 式(2)
但し、α = f(LS、P) 式(3)
ここで、式(3)において、LSはラインスピード(m/min)、Pはノズル圧力(kPa)、αはラインスピード(LS)とノズル圧力(P)によって決まる係数である。また、式(2)において、CWはめっき付着量(鋼板11の表側のめっき付着量と裏側のめっき付着量の合計値)、Dはノズルギャップ(表側ギャップDと裏側ギャップDとの合計値)である。
【0021】
このモデルは、ラインスピード(LS)及びノズル圧力(P)が変更されなければ、ノズルギャップ(D)に比例してめっき付着量(CW)が増加するというものである。
【0022】
ここで、この制御装置20の詳細な機能について説明する。
図2に示すように、制御装置20は、Pテーブル記憶部41と、αテーブル記憶部42とを備えている。また、制御装置20は、ノズル圧力設定部45と、ノズル圧力調整部46と、ノズルギャップ演算部47と、ノズルギャップ設定部48と、ノズルギャップ調整部49とを備えている。
【0023】
Pテーブル記憶部41は、Pテーブル(参照テーブル)を記憶する部分である。表1はPテーブルの一例を示している。表1に示すように、このPテーブルは、めっき付着量(CW)の設定値に応じたノズル圧力(P)を求めるためのテーブルである。
なお、このテーブルは、めっき付着量(CW)とラインスピード(LS)によってノズル圧力(P)を求める形態でもよい。
【0024】
【表1】

【0025】
このPテーブルでは、ノズル圧力(P)がめっき付着量(CW)の設定値の予め決められた範囲毎に規定されている。例えば、表1においては、合計10のノズル圧力(P)がめっき付着量(CW)の設定値の範囲に応じて規定されている。
なお、めっき付着量(CW)の設定値によっては、ノズルギャップ(D)の調整範囲(ノズル16、17の可動範囲)内ではめっき付着量を制御できないことが考えられる。そこで、Pテーブルを作成することにより、予め決められたノズルギャップ(D)の調整範囲内でめっき付着量を制御できるように、予めノズル圧力(P)を設定することができる。
【0026】
αテーブル記憶部(記憶部の一例)42は、ラインスピード(LS)及びノズル圧力(P)によって決まる係数(α=f(LS、P))を規定するαテーブル(参照テーブル)を記憶する部分である。
表2はαテーブルの一例を示している。表2に示すαテーブルは、Pテーブルに規定されたノズル圧力毎に、ラインスピード(LS)、ノズルギャップ(D)、及びめっき付着量(CW)をそれぞれ実測したデータから式(2)に基づいて実験的に求められる。但し、ラインスピード(LS)とαとの関係は、例えば一次直線等で近似できるため、各ノズル圧力について全てのラインスピード(LS)のデータを取る必要は無く、容易にテーブルを作成することができる。
【0027】
【表2】

【0028】
ノズル圧力設定部45は、表1に示すPテーブルを参照して上位制御装置36で管理されるめっき付着量の設定値に対応するノズル圧力(P)を求める。そして、ノズル圧力調整部46は、ノズル圧力設定部45で求めたノズル圧力(P)に基づいて圧力制御装置34、35を操作し、ノズル圧力(P)を調整する。
【0029】
ノズルギャップ演算部47は、ノズルギャップの変更量(ΔD)を演算する。ノズルギャップ演算部47には、圧力計が出力するノズル圧力(P)、めっき付着量計が出力するめっき付着量(CW)、上位制御装置36が管理するめっき付着量(CW)の設定値、及びライン制御コントローラ37が管理するラインスピード(LS)の現在値が入力される。
また、ノズルギャップ演算部47は、Pテーブル記憶部41及びαテーブル記憶部42が接続され、Pテーブル及びαテーブルを参照することができる。
【0030】
ノズルギャップ設定部48は、ノズルギャップ演算部47によって演算されたノズルギャップ変更量(ΔD)を表側ギャップ(D)及び裏側ギャップ(D)にそれぞれ割り振る。即ち、表側ギャップ(D)及び裏側ギャップ(D)が設定される。ノズルギャップ設定部48は、この表側ギャップ(D)及び裏側ギャップ(D)をサーボモータ31、32の位置指令に変換して出力する。
なお、ノズルギャップ設定部48には、サーボモータ31、32のエンコーダ値が入力される。このエンコーダ値に基づいてノズル16、17の現在位置、即ち、表側及び裏側ギャップ(D、D)を取得することができる。
ノズルギャップ演算部47及びノズルギャップ設定部48の具体的な演算内容については、後述する。
【0031】
ノズルギャップ調整部49は、ノズルギャップ設定部48が出力した位置指令に基づいて、サーボモータ31、32をそれぞれ駆動する。ノズルギャップ調整部49は、例えばサーボモータドライバで構成される。
【0032】
次に、溶融金属めっき鋼板11の製造装置10の動作について説明する。
まず、コイルから鋼板11が引き出され、熱処理等のめっき前処理が施される。めっき前処理が施された鋼板11は、溶融金属めっき槽15へと送られる。溶融金属めっき槽15を通過した鋼板11は、表側ノズル16と裏側ノズル17との間を通過し、空気が吹き付けられることによって両面のめっき付着量(CW)が制御される。鋼板11は下流に搬送され、水槽51に浸漬される。水槽51を出た鋼板11はローラによって搬送方向を変えて更に下流に搬送される。そして、鋼板11はめっき付着量計18、19によってめっき付着量(CW)が計測され、最終的にコイルとして巻き取られる。
【0033】
ここで、めっき付着量の制御方法について説明する。
この制御は、フィードフォワード制御であり、1)第1コイルからこの第1コイルの次にめっき処理される第2コイルへとコイルが切り替わる場合であり、更に前記第1コイルの鋼板と前記第2コイルの鋼板の端部同士を結合する溶接箇所が表側ノズル16又は裏側ノズル17から予め決められた距離だけ搬送方向上流側に来たとき(条件1)、2)ラインスピード(LS)が変更された場合(条件2)、又は3)めっき付着量(CW)の設定値が変更された場合(条件3)に開始される。
【0034】
まず、ノズル圧力設定部45では、Pテーブルを参照して、めっき付着量(CW)の設定値に対応したノズル圧力(P)を求める。そして、ノズル圧力調整部46は、求めたノズル圧力(P)に基づいて圧力制御装置34、35を調整する。
【0035】
一方、ノズルギャップ演算部47では、以下の(1)〜(5)の演算が行われる。
(1)次式に基づいてめっき付着量の偏差(ΔCW)を求める。
(1―1)条件1又は条件3の場合
ΔCW = CWsv(k+1)−CWpv(k) 式(4.1)
ここで、CWsv(k+1)は次にめっき処理される第2コイルのめっき付着量(g/m)の設定値(表側及び裏側の設定値の合計値)、CWpv(k)はめっき付着量(g/m)の現在値(表側及び裏側の合計値)である。
(1―2)条件2の場合
めっき付着量の設定値に変更はないことから、
ΔCW = 0 式(4.2)
とする。
【0036】
(2)次に、ラインスピードの現在値(LSpv(k))とノズル圧力(kPa)の現在値(Ppv(k))から、αテーブルを参照してα(k)を求める。
【0037】
(3)次に、αテーブルを参照してα(k+1)を求める。
(3―1)条件1又は条件3の場合
求めためっき付着量の設定値CWsv(k+1)からPテーブルを用いて、次に処理される第2コイルについてノズル圧力の設定値(Psv(k+1))を求める。更に、このノズル圧力の設定値(Psv(k+1))とラインスピードの現在値(LSpv(k))とから、αテーブルを参照してα(k+1)を求める。
(3―2)条件2の場合
ノズル圧力の現在値(Ppv(k))とラインスピードの現在値(LSpv(k))とから、αテーブルを参照してα(k+1)を求める。
【0038】
(4)次に、次式に基づいてαの差分(Δα)を求める。
Δα = α(k+1)−α(k) 式(5)
【0039】
(5)次に、式(2)をノズルギャップ(D)について偏微分し、フィードフォワードゲイン(調整ゲイン)を考慮した次式に基づいてノズルギャップ変更量(ΔD)を求める。
ΔD = 1/α(k)×ΔCW×FFG1
+(−1/CWpv(k))(−1)×(1/α(k))×Δα×FFG2 式(6)
ここで、FFG1、FFG2はフィードフォワードゲインである。
【0040】
次に、ノズルギャップ設定部48では、演算されたノズルギャップ変更量(ΔD)を、表側ギャップ及び裏側ギャップにそれぞれ割り振る。具体的には、ノズルギャップ変更量(ΔD)は、次式に基づいて表側及び裏側のめっき付着量の設定値に応じて割り振られる。
svf(k+1) = Dpvf(k)+ΔD×CWsvf/CWsvboth 式(7)
svb(k+1) = Dpvb(k)+ΔD×CWsvb/CWsvboth 式(8)
ここで、Dsvf(k+1)は次に処理される第2コイルの鋼板11の表側ギャップ(mm)の設定値、Dpvf(k)は現在処理されている第1コイルの鋼板11の表側ギャップ(mm)の現在値、CWsvfは鋼板11の表側のめっき付着量(g/m)の第2コイルの設定値、Dsvb(k+1)は次に処理される第2コイルの鋼板11の裏側ギャップ(mm)の設定値、Dpvb(k)は現在処理されている第1コイルの鋼板11の裏側ギャップ(mm)の現在値、CWsvbは鋼板11の裏側のめっき付着量(g/m)の第2コイルの設定値、CWsvbothは鋼板11の表側及び裏側のめっき付着量(g/m)の第2コイルの設定値の合計値である。
ノズルギャップ設定部48は、更に、表側ギャップ(D)、裏側ギャップ(D)、及び上位制御装置36が管理する鋼板11の板厚からノズル位置を求め、このノズル位置をサーボモータ31、32の位置指令に変換して出力する。
【0041】
次に、ノズルギャップ調整部49は、ノズルギャップ設定部48が出力した位置指令に従ってサーボモータ31、32を駆動し、表側ギャップ(D)及び裏側ギャップ(D)をそれぞれ調整する。
【0042】
なお、ノズル圧力設定部45によるノズル圧力設定と、ノズルギャップ調整部49によるノズルギャップ調整は、めっき付着量の計測値が許容範囲内に収まるように、実質的に同時に行われる。
また、求めたノズルギャップ調整量がノズルギャップの調整範囲(ノズルの可動範囲)を超えた場合、ノズル圧力設定部45は、Pテーブルから求めたノズル圧力を変更すると共に、ノズルギャップ演算部47はノズルギャップの変更量(ΔD)を再計算する。ノズルギャップ設定部48は、再計算されたノズルギャップの変更量(ΔD)に基づいて、次に処理される第2コイルの鋼板11の表側ギャップの設定値(Dsvf(k+1))及び次に処理される第2コイルの鋼板11の裏側ギャップの設定値(Dsvb(k+1))を再計算する。この際のノズル圧力は、次のように変更される。例えば、Pテーブルから求めたノズル圧力が40.0であり、ノズルギャップをそれ以上小さくすることができない場合には、ノズル圧力が大きくなるように、40.0の左隣の値50.0を採用する(表1参照)。反対にノズルギャップをそれ以上大きくすることができない場合には、ノズル圧力が小さくなるように、40.0の右隣の値35.0を採用する。
【0043】
続いて、本発明の第2の実施の形態に係る溶融金属めっき鋼板の製造装置について説明する。本実施の形態に係る溶融金属めっき鋼板の製造装置は、第1の実施の形態に係る溶融金属めっき鋼板の製造装置10と制御装置(制御方法)が異なるだけであるので、本実施の形態に係る溶融金属めっき鋼板の製造装置の構成要素については、製造装置10と同じ符号を付して詳しい説明を省略する。
【0044】
以下、めっき付着量の制御方法について説明する。
この制御は、フィードバック制御であり、前述のフィードフォワード制御が開始された時から、鋼板11が予め決められた距離だけ送られた場合に開始される。ここで、この予め決められた距離は、ノズル16、17からめっき付着量計18、19までの距離(L1)である。なお、この予め決められた距離は、距離(L1)にさらに補正値を加えた値としてもよい。このように、フィードフォワード制御とフィードバック制御が連動することで、ノズル16、17とめっき付着量計18、19との距離が離れているにもかかわらず、めっき付着量が許容範囲内に維持される。
フィードバック制御が開始された後は、予め決められた制御周期毎に制御演算が行われる。
【0045】
ノズル圧力設定部45は、フィードバック制御が行われる場合においてはめっき付着量の設定値が変更されないので、原則として動作しない。
【0046】
ノズルギャップ演算部47では、以下の(1)〜(5)の演算が行われる。
(1)次式に基づいてめっき付着量の偏差(ΔCW)を求める。
ΔCW = CWsv(k)−CWpv(k) 式(9)
ここで、CWsv(k)は現在めっき処理しているコイルのめっき付着量(g/m)の設定値(表側及び裏側のめっき付着量の設定値の合計値)、CWpv(k)はめっき付着量(g/m)の現在値(表側及び裏側のめっき付着量の合計値)である。
【0047】
(2)次に、ラインスピードの現在値(LSpv(k))とノズル圧力の現在値(Ppv(k))とから、αテーブルを参照してα(k)を求める。
【0048】
(3)次に、前回の制御周期において取得したラインスピードの値(LSpv(k―1))と前回の制御周期におけるノズル圧力の設定値(Psv(k―1))とから、αテーブルを参照してα(k―1)を求める。
【0049】
(4)次に、次式に基づいてαの差分(Δα)を求める。
Δα = α(k)−α(k―1) 式(10)
【0050】
(5)次に、式(2)をノズルギャップ(D)について偏微分し、フィードバックゲイン(調整ゲイン)を考慮した次式に基づいてノズルギャップ変更量(ΔD)を求める。
ΔD = 1/α(k)×ΔCW×FBG1
+(−1/CWpv(k−1))(−1)×(1/α(k))×Δα×FBG2 式(11)
ここで、FBG1、FBG2はフィードバックゲインである。
【0051】
次に、ノズルギャップ設定部48では、演算されたノズルギャップ変更量(ΔD)を、表側ギャップ及び裏側ギャップにそれぞれ割り振る。具体的には、ノズルギャップ変更量(ΔD)は、次式に基づいて表側及び裏側のめっき付着量の設定値に応じて割り振られる。
svf(k+1) = Dpvf(k)+ΔD×CWsvf/CWsvboth 式(12)
svb(k+1) = Dpvb(k)+ΔD×CWsvb/CWsvboth 式(13)
ここで、Dsvf(k+1)は、表側ギャップ(mm)の設定値、Dpvf(k)は、表側ギャップ(mm)の現在値、CWsvfは表側のめっき付着量(g/m)の現在の設定値、Dsvb(k+1)は、裏側ギャップ(mm)の設定値、Dpvb(k)裏側ギャップ(mm)の現在値、CWsvbは裏側のめっき付着量(g/m)の現在の設定値、CWsvbothは、表側及び裏側のめっき付着量(g/m)の現在の設定値の合計値である。
【0052】
ノズルギャップ設定部48は、表側又は裏側のめっき付着量の計測値とその設定値との差が、予め決められた許容値よりも大きい場合には、更に修正演算を行う。
まず、表側ギャップの修正演算は以下の通りである。
表側のめっき付着量の計測値とその設定値との差(ΔCW)は次式に基づいて求められる。
ΔCW = CWsvf(k)−CWpvf(k) 式(14)
ここで、CWsvf(k)は表側のめっき付着量の設定値、CWpvf(k)は表側のめっき付着量の現在値である。
【0053】
表側ギャップの補償値(ΔDcomp_f(k))は、次式に基づいて求められる。
ΔDcomp_f(k) = 1/α(k)×ΔCW×FBCG1 式(15)
ここで、FBCG1はフィードバック補正調整ゲイン(補正用の調整ゲイン)である。
【0054】
求めた表側ギャップの補償値(ΔDcomp_f(k))を上式(12)で求めた表側ギャップ設定値(Dsvf(k+1))に加え、新たな表側ギャップ設定値(Dsvf(k+1))とする。
svf(k+1) = Dsvf(k+1) + ΔDcomp_f(k) 式(16)
【0055】
次に、裏側ギャップの修正演算は以下の通りである。
裏側のめっき付着量の実測値とその設定値との差(ΔCW)は次式に基づいて求められる。
ΔCW = CWsvb(k)−CWpvb(k) 式(17)
ここで、CWsvb(k)は裏側のめっき付着量の設定値、CWpvb(k)は裏側のめっき付着量の現在値である。
【0056】
裏側ギャップの補償値(ΔDcomp_b(k))は、次式に基づいて求められる。
ΔDcomp_b(k) = 1/α(k)×ΔCW×FBCG2 式(18)
ここで、FBCG2はフィードバック補正調整ゲイン(補正用の調整ゲイン)である。
【0057】
求めた裏側ギャップの補償値(ΔDcomp_b(k))を上式(13)で求めた裏側ギャップ設定値Dsvb(k+1)に加え、新たな裏側ギャップ設定値Dsvb(k+1)とする。
svb(k+1) = Dsvb(k+1) + ΔDcomp_b(k) 式(19)
【0058】
ノズルギャップ設定部48は、更に、表側ギャップ(D)、裏側ギャップ(D)、及び上位制御装置36が管理する鋼板11の板厚からノズル位置を求め、このノズル位置をサーボモータ31、32の位置指令に変換して出力する。
【0059】
次に、ノズルギャップ調整部49は、ノズルギャップ設定部48が出力した位置指令に従ってサーボモータ31、32を駆動し、表側ギャップ(D)及び裏側ギャップ(D)をそれぞれ調整する。
【0060】
なお、求めたノズルギャップ調整量がノズルギャップの調整範囲(ノズルの可動範囲)を超えた場合、ノズル圧力設定部45は、Pテーブルから求めたノズル圧力(P)を変更すると共に、ノズルギャップ演算部47はノズルギャップの変更量(ΔD)を再計算する。ノズルギャップ設定部48は、再計算されたノズルギャップの変更量(ΔD)に基づいて、表側ギャップの設定値(Dsvf(k+1))及び裏側ギャップの設定値(Dsvb(k+1))を再計算する。この際のノズル圧力は、次のように変更される。例えば、Pテーブルから求めたノズル圧力(P)が40.0であり、ノズルギャップ(D)をそれ以上小さくすることができない場合には、ノズル圧力が大きくなるように、40.0の左隣の値50.0を採用する(表1参照)。反対にノズルギャップ(D)をそれ以上大きくすることができない場合には、ノズル圧力が小さくなるように、40.0の右隣の値35.0を採用する。
また、αテーブルは、カルマンフィルタ等を用いた学習計算によって、逐次更新しても良い。
【0061】
本発明は、前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能である。例えば、前述のそれぞれ実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明を構成する場合も本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
10:溶融金属めっき鋼板の製造装置、11:鋼板、15:溶融金属めっき槽、16:表側ノズル、17:裏側ノズル、18,19:めっき付着量計、20:制御装置、25:シンクロール、26:サポートロール、31、32:サーボモータ、34、35:圧力制御装置、36:上位制御装置、37:ライン制御コントローラ、41:Pテーブル記憶部、42:αテーブル記憶部、45:ノズル圧力設定部、46:ノズル圧力調整部、47:ノズルギャップ演算部、48:ノズルギャップ設定部、49:ノズルギャップ調整部、51:水槽


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属めっきが付着した鋼板の表面に気体を吹き付ける表側ノズルと、前記鋼板の裏面に気体を吹き付ける裏側ノズルと、前記鋼板と前記表側ノズルとの間の表側ギャップ及び前記鋼板と前記裏側ノズルとの間の裏側ギャップをそれぞれ操作量とし、制御モデルに基づいて前記鋼板のめっき付着量をフィードフォワード制御又はフィードバック制御するための制御装置とを備えた溶融金属めっき鋼板の製造装置であって、
前記制御モデルは、次式で表されることを特徴とする溶融金属めっき鋼板の製造装置。
CW = α×D
ここで、CWはめっき付着量、Dは前記表側ギャップ(D)及び前記裏側ギャップ(D)が合算されたノズルギャップ、αはラインスピード(LS)と前記表側ノズル又は前記裏側ノズルが吹き付ける気体の圧力(P)とによって決まる係数である。
【請求項2】
請求項1記載の溶融金属めっき鋼板の製造装置において、前記係数(α)は、前記気体の圧力(P)と前記ラインスピード(LS)と前記ノズルギャップ(D)と前記めっき付着量(CW)とから、前記制御モデルに基づいて予め参照テーブルとして規定され、
前記制御装置は、前記参照テーブルを記憶する記憶部と、
前記ラインスピード(LS)及び前記気体の圧力(P)に基づいて前記参照テーブルを参照して得られた前記係数(α)と、前記めっき付着量(CW)の設定値及び計測値の偏差(ΔCW)と、を求め、前記制御モデルを前記ノズルギャップ(D)について偏微分することにより求められたノズルギャップ変更量(ΔD)、前記係数(α)及び前記めっき付着量(CW)の前記偏差(ΔCW)の関係式に基づいて、前記ノズルギャップ変更量(ΔD)を演算するノズルギャップ演算部と、
前記ノズルギャップ演算部が演算した前記ノズルギャップ変更量(ΔD)に基づいて、前記表側ギャップ(D)及び前記裏側ギャップ(D)を設定するノズルギャップ設定部と、
前記ノズルギャップ設定部が設定した前記表側ギャップ(D)及び前記裏側ギャップ(D)に基づいて前記表側ノズル及び前記裏側ノズルを駆動し、前記ノズルギャップ(D)を調整するためのノズルギャップ調整部とを備えたことを特徴とする溶融金属めっき鋼板の製造装置。
【請求項3】
請求項2記載の溶融金属めっき鋼板の製造装置において、前記フィードフォワード制御は、1)第1コイルから該第1コイルの次にめっき処理される第2コイルへとコイルが切り替わる場合であり、更に前記第1コイルの鋼板と前記第2コイルの鋼板の端部同士を結合する溶接箇所が前記表側ノズル又は前記裏側ノズルから予め決められた距離だけ搬送方向上流側に来たとき、2)前記ラインスピード(LS)が変更された場合、又は3)前記めっき付着量(CW)の設定値が変更された場合に開始され、
前記フィードバック制御は、前記フィードフォワード制御が開始された時から、前記鋼板が予め決められた距離だけ送られた場合に開始されることを特徴とする溶融金属めっき鋼板の製造装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶融金属めっき鋼板の製造装置において、前記参照テーブルは、学習制御により更新されることを特徴とする溶融金属めっき鋼板の製造装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−184791(P2011−184791A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54780(P2010−54780)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】