説明

溶融高炉スラグからの熱回収装置

【課題】スラグ粒子の再融着を防止しつつ溶融高炉スラグの保有する顕熱を高温ガスとしてより多く回収することを可能とする装置を提供する。
【解決手段】溶融高炉スラグを粒滴化する粒化ドラムと、前記粒滴化した溶融高炉スラグに水を噴霧する水噴霧ノズルと、水噴霧により冷却固化された高炉スラグ粒子を後方から排出する回転筒2と、前記排出された高炉スラグ粒子の顕熱を回収する熱交換装置と、前記回転筒から排出された高炉スラグ粒子を前記熱交換装置まで搬送するコンベアとを備えた溶融高炉スラグからの熱回収装置であって、前記回転筒内には、前記回転筒よりも長手方向に短く且つ同心の内筒16が1段以上設置され、又は、前記回転筒よりも長手方向に短く且つ同心の内筒が2段以上、直径の小さい内筒程長手方向の後方に配置されて、前記1段又は2段以上の内筒に飛翔してきた高炉スラグ粒子をその内筒の後方から排出させることができる構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融高炉スラグが保有する熱を回収するための溶融スラグの熱回収方法に関し、更に詳しくは、熱回収過程における高熱スラグ粒子の再融着を防止可能な熱回収装置に関わる。
【背景技術】
【0002】
高炉から出銑される溶銑からスキンマー等により比重分離されて溶融状態にある溶融高炉スラグを、冷却処理して高炉スラグ粒が製造されている。溶融高炉スラグの処理方法として、溶融高炉スラグを大量の水で急冷してスラグ粒を製造する水砕による処理方法と、流下する溶融高炉スラグに機械的な打撃を加えて粒滴化し、冷却してスラグ粒を製造する乾式造粒法による処理方法がある。
【0003】
水砕による処理方法では、溶融高炉スラグの保有する熱が低温の温水として回収され有効に利用することができないのに対して、乾式造粒法による処理方法では、溶融高炉スラグの保有する熱をガスによって熱交換し、高温ガスにより熱回収することができる。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されている発明は、流下する溶融高炉スラグにジェットエアーを吹き付けて粒滴化する造粒機を備えた造粒槽とスラグ粒冷却槽との間に保熱槽を設け、粒滴化後の半溶融状態の高炉スラグを保熱槽に導き、高炉スラグ粒と熱交換させるとともに、結晶質スラグ粒を製造する方法を提案したものである。しかし、スラグの冷却がガスとの熱交換のみで行われる方式では、冷却速度が不足し粒子同士の再融着が起こり、大径・異形の粒子となりコンクリート細骨材としての利用するためにはエネルギー・コストを要する粉砕工程が必要となる問題があった。
【0005】
乾式造粒法によるスラグ処理においてスラグ粒が再融着する問題を解決するために、特許文献2では霧状に水を噴霧した回転ドラム中にスラグを飛翔させて冷却を行う方法が提案されている。特許文献3ではこの方法において、排気温度を測定し水噴霧量を制御する方法が提案されている。しかし、排気温度では局所的にスラグ粒子温度が高い個所を検知できず、再融着を完全に防止できないという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−21110号公報
【特許文献2】特開昭64−52636号公報
【特許文献3】特開平1−111754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような問題に対して、再融着を抑制する方法として、回転筒内の下部に温度センサーを設置し、回転筒下部に堆積する高炉スラグの温度を測定し水噴霧量を制御する手段が考えられる。これにより回転筒下部において局所的にスラグ粒子温度が高くなることを防止し、融着を低減することが可能となる。ただし、この方法においても、回転筒に落下したスラグ粒子は壁面で急速に冷却されるのに対し、回転筒内部を飛翔するスラグ粒子は冷却が遅く、温度差が生じる。このため、回収粒子温度を高く設定すると飛翔するスラグ粒子の温度が再融着限界温度より高くなり、落下時に回転筒の底部に堆積した粒子と融着を起こす可能性があった。一方、融着を防ぐ為に回収粒子温度を低く設定すると回収熱量が減少する可能性があった。
【0008】
そこで、本発明は、スラグ粒子の再融着を防止しつつ、溶融高炉スラグの保有する顕熱をより多く回収することを可能とする装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は、次の通りである。
(1)溶融高炉スラグを当てて飛翔させて粒滴化する放射状羽根を有し、且つ回転する粒化ドラムと、前記粒滴化した溶融高炉スラグに水を噴霧する水噴霧ノズルと、前記水噴霧ノズルを内部に備えると共に水噴霧により冷却固化された高炉スラグ粒子を後方から排出する回転筒と、前記排出された高炉スラグ粒子の顕熱を回収する熱交換装置と、前記回転筒から排出された高炉スラグ粒子を前記熱交換装置まで搬送するコンベアとを備えた溶融高炉スラグからの熱回収装置であって、前記回転筒内には、前記回転筒よりも長手方向に短く且つ同心の内筒が1段以上設置され、又は、前記回転筒よりも長手方向に短く且つ同心の内筒が2段以上、直径の小さい内筒程長手方向の後方に配置されて、前記1段又は2段以上の内筒に飛翔してきた高炉スラグ粒子をその内筒の後方から排出させることができる構造を有することを特徴とする溶融高炉スラグからの熱回収装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の溶融高炉スラグからの熱回収装置は、スラグ粒子の再融着を防止しつつ溶融高炉スラグの保有する熱を、より多く回収することを可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る溶融高炉スラグからの熱回収方法を適用したスラグ顕熱回収設備を示す。図2は、本発明の一実施形態に係る溶融高炉スラグからの熱回収設備のうち、溶融高炉スラグ鍋1から固気分離装置10までの装置構成の一例を示す。図3は、本発明の一実施形態に係る溶融高炉スラグからの熱回収設備のうち、回転筒2の構造の一例を示す。
【0013】
回転筒2の入口に、溶融高炉スラグ鍋1より流下される溶融高炉スラグを表面に設置した羽根板に当てて飛翔させると共に粒滴化するための回転ドラム造粒機5を単数又は複数設置し(図では2台)、回転筒2の上部には、粒滴化した溶融高炉スラグを水噴霧により冷却して固化するための水噴霧ノズル7を単数又は複数設置する。水噴霧ノズル7は水を噴射する一流体ノズルでも、空気等の気体と水を噴射する二流体ノズルでも良い。
【0014】
回転筒2の出口には、固化後に回転筒2の下部に落下した粒状の高炉スラグと雰囲気ガス(高炉スラグの顕熱により蒸発した水蒸気、及び侵入空気等)とを分離する固気分離装置10を設置し、その下部には分離された粒状の高炉スラグを受ける高炉スラグ受け11を設置する。
【0015】
高炉スラグ受け11とその後方に設置する熱交換装置15とは、コンベア12で接続し、粒状の高炉スラグを移送する。コンベア12は断熱材を張り込んだバケットコンベアを想定しているが、スクリューコンベアやベルトコンベアでも良く、形式は特に規定するものではない。コンベア12は断熱構造とし、スラグ粒から顕熱が失われることを防止する。
【0016】
熱交換装置15は、前段の熱交換器3と後段の廃熱ボイラ4によって構成される。熱交換器3には、コンベア12により移送されてくる粒状の高炉スラグと直接接触して熱交換させる熱交換ガスを送風するためのブロア13が付帯設備として設置される。熱交換器3は流動層、移動層などの固体と気体の接触面積が大きい形式の熱交換器が望ましい。粒状の高炉スラグとの熱交換により高温化した熱交換ガスを蒸気として熱回収する設備が、廃熱ボイラ4である。
【0017】
溶融高炉スラグは1400℃以上の高温で本発明の装置に導入され、回転ドラム造粒機5の羽根板に衝突して空中に飛翔すると共に表面張力で球形の粒滴となり、飛翔中に雰囲気ガスおよび水噴霧ノズル7からの噴霧水によって冷却され固化する。
【0018】
回転筒2の内部には、回転筒2より直径が小さく長さが短い内筒16を設け、回転筒2の入口側に落下した粒子は回転筒2と内筒16の間隙を移動して高炉スラグ受け11に収集され、内筒16に落下した粒子は内筒16の内面を移動して高炉スラグ受け11に収集されるよう構成してある。内筒16の径は、回転筒2の径より400〜600mm小さくし、回転筒2と内筒16の間隙を200〜300mmとするのが、粒子の閉塞トラブルを回避する上で好ましい。内筒16の長さは、回転筒2の長さの1/2〜3/4とするのが好ましい。内筒16の長さが回転筒2の長さの3/4よりも長いと、回転筒2の底部に堆積する粒子は減少するが内筒16の底部の粒子は増加し、十分冷却されないまま内筒16の底部の粒子と内筒16に落下する粒子とが融着し、融着率が高くなってしまう。また、内筒16の長さが長くなりすぎると、重量が増えて必要動力が大きくなるというデメリットもある。逆に、内筒16が回転筒2の長さの1/2よりも短いと、回転筒2の底部に堆積する粒子が増加し、十分冷却されないまま回転筒2の底部の粒子と回転筒2に落下する粒子との融着が増加する。従って、これらのバランスを考えると、内筒16の長さは回転筒2の長さの1/2〜3/4が好ましい。
【0019】
また、内筒16は支柱17により回転筒2に固定する。支柱17の形状は、粒子の移動を阻害しなければよく、特に規定しない。また、上記内筒16を2段以上とし、それぞれ外側の筒の径より400〜600mm小さい径、外側の筒の長さの1/2〜3/4の長さとし、直径の小さい内筒程長手方向の後方(回転筒2の出口側、コンベア12が設置されている側)に配置されるよう構成しても良い。内筒16を2段以上にすると、各筒の底部に堆積する粒子を分散することができ、粒子の融着を低減する効果が向上する。その際、飛翔距離により粒子を各筒に分離するため、直径の小さい内筒は長手方向の後方に配置し、飛翔距離が長い粒子はより内側の筒に落下するようにする。
【0020】
なお、内筒16に飛翔してきた高炉スラグ粒子を内筒16の後方から排出させることができる内筒16の後端部が単純に開放されているか、内筒16の後端部の側面に開口を空けてあれば、スラグ粒子を後方から排出させることができる。
【0021】
内筒16の作用により、回転筒2の底部に堆積するスラグ粒子が少なくなり、飛翔中に十分冷却されないまま落下するスラグ粒子が底部のスラグ粒子と接触して融着する割合が少なくなる。これにより、スラグの融着を低減する効果が得られる。すなわち、飛翔距離が短い粒子は回転筒2に落下し、落下後は回転筒2の底部に留まり、回転筒2と内筒16との間隙を後方へ移動するのに対し、飛翔距離が長い粒子は内筒16に落下し、内筒16の底部を移動する。飛翔距離が長い粒子は回転筒2ではなく内筒16の底部に堆積するため、回転筒2の底部に堆積する粒子は少なくなる。また、飛距離が長い飛翔粒子の一部(特に、上方や側方へ飛翔した粒子)は、回転筒2と内筒16との間を通って、内筒16の外面や回転筒2の内面に衝突し、その後、重力落下で内筒2の底部に移動するため、内筒16の内部に飛翔粒子を多くするためには、回転筒2と内筒16との間隙をできるだけ狭くすることが好ましい。間隙の下限は、回転筒2の底部に存在し、間隙を通過する粒子が、通れるだけの間隙距離となる(好ましくは、粒子幅の1.5倍以上)。
【0022】
また、内筒16を2段以上設けることで、各筒の底部に堆積するスラグ粒子が少なくなり、融着を低減する効果は大きくなる。ただし、内筒の段数を増やすことで製造コストの増加、回転筒2および内筒16を回転させる動力費の増加、回転筒2および内筒16への抜熱による回収熱量の減少といった負の影響があるため、要求される融着率を達成する最低の段数となるよう、実験等により内筒の段数を決定することが好ましい。
【0023】
回転ドラム造粒機5を単基で設置すると、飛翔距離にばらつきがあり、一定割合の粒子が十分冷却されないまま造粒機の近くに落下して融着を生じる可能性がある。これを防止する為、2基の造粒機を設置し、飛翔距離が短い粒子を再飛翔させる構成が取られる。本発明を適用した回転筒2では、内筒16を設けることで飛翔距離の短い粒子でも融着を低減させることが出来、造粒機の数を減らして設備のコストを下げる効果が見込める。
【0024】
以上説明したように、本発明により、スラグ粒子の再融着を防止しつつ溶融高炉スラグの保有する熱を高温ガスとして回収することが可能となる。
【実施例】
【0025】
図2の装置を使用した従来法による比較例と、図2の装置に図3に示す1段の内筒を設けた装置を使用した本発明の実施例とで、高炉スラグの造粒試験を行い、排出された高炉スラグ粒子の温度を固気分離装置10の出口で測定した。
【0026】
図4に、本発明の実施例と従来法の比較例の粒子融着状況の比較を示す。水/スラグ比とは、噴霧水量[T/Hr]を溶融スラグ投入流量[T/Hr]で割った値である。また、融着率は回収粒子中の9.5mm以上の径を有する粒子を融着塊とし、その重量割合と定義した。
【0027】
実施例の設備は回転筒2の長さ5000mm、径2800mm、回転ドラム造粒機5のドラム径680mm、羽根板の高さ150mm、溶融スラグの投入流量10T/Hrである。ドラム内噴霧ノズル7の噴霧水量は、熱負荷の高い装置入口側で多く、装置入口側で少なくなるよう設定している。
【0028】
本発明の実施例1では、回転筒2の内部に、長さ2500mm、径2400mmの内筒16を、出口の位置がそろうように設置した。
【0029】
従来法の比較例では、内筒16を設けなかった。その他の設備の寸法及びスラグ投入流量は実施例と同一である。
【0030】
従来法の比較例では回転筒2の底部に堆積したスラグ粒子の上に冷却不足のスラグ粒子が落下して融着が生じたために融着率が高くなったのに対し、本発明の実施例では回転筒2の底部に堆積するスラグ粒子が減少した結果融着が抑制され、粒度調整工程の負荷を低減させることができた。
【0031】
図5に、本発明の実施例と従来法の比較例の水/スラグ比とスラグ粒子温度の関係を示す。内筒16を設けることで装置への抜熱量が増加し、水/スラグ比を同等とした場合の回収粒子温度は若干低下する。図4と図5に示した結果より、回収粒子温度が同程度となる水/スラグ比条件において、本発明の実施例では粒子の融着を抑制可能であることが判る。
【0032】
このように、回転筒2に内筒16を設けることにより、再融着を防ぎつつ溶融高炉スラグの保有する熱を回収することが可能となった。
【0033】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態の溶融高炉スラグからの熱回収方法を適用した熱回収設備概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に関わる溶融高炉スラグからの熱回収設備の内、溶融高炉スラグ鍋1から固気分離装置10の範囲を表した図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る溶融高炉スラグからの熱回収設備のうち、回転筒2の構造の一例を示した図である。
【図4】本発明の方法と従来法により製造したスラグ粒子の水/スラグ比と融着率の関係の一例を示した図である。
【図5】本発明の方法および従来法における水/スラグ比とスラグ粒子温度の関係の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0035】
1 溶融高炉スラグ鍋
2 回転筒
3 熱交換器
4 ボイラ
5 回転ドラム造粒機
7 水噴霧ノズル
10 固気分離装置
11 高炉スラグ受け
12 コンベア
13 ブロア
14 熱回収後の高炉スラグ
15 熱交換装置(熱交換器3及び廃熱ボイラ4)
16 内筒
17 支柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融高炉スラグを当てて飛翔させて粒滴化する放射状羽根を外周に有し、且つ回転する粒化ドラムと、
前記粒滴化した溶融高炉スラグに水を噴霧する水噴霧ノズルと、
前記水噴霧ノズルを内部に備えると共に水噴霧により冷却固化された高炉スラグ粒子を後方から排出する回転筒と、
前記排出された高炉スラグ粒子の顕熱を回収する熱交換装置と、
前記回転筒から排出された高炉スラグ粒子を前記熱交換装置まで搬送するコンベアと、
を備えた溶融高炉スラグからの熱回収装置であって、
前記回転筒内には、前記回転筒よりも長手方向に短い内筒が1段設置されるか、又は、前記回転筒よりも長手方向に短く且つ同心の内筒が2段以上、直径の小さい内筒程長手方向の後方に配置されて、前記1段又は2段以上の内筒に飛翔してきた高炉スラグ粒子を当該内筒の後方から排出させることができる構造を有することを特徴とする、溶融高炉スラグからの熱回収装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−204232(P2009−204232A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47414(P2008−47414)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【Fターム(参考)】