説明

溶銑の脱燐処理における発炎抑制方法

【課題】 混銑車内の溶銑に浸漬ランスを浸漬させ、浸漬ランスから酸素ガスまたは不活性ガスを供給して溶銑を攪拌しながら脱燐処理する際に、炉口の上方に配置する集塵フードに設けられた、浸漬ランスの貫通するランス挿入孔から流出する排ガスの燃焼を抑制する。
【解決手段】 本発明の溶銑の脱燐処理における発炎抑制方法は、混銑車内の溶銑10に浸漬ランス4を浸漬させ、浸漬ランスから酸素ガスまたは不活性ガスを供給して溶銑を攪拌しながら脱燐処理するにあたり、混銑車1の炉口3の上方に配置する集塵フード5に設けられた、前記浸漬ランスの貫通するランス挿入孔7及び/またはその周囲に窒素ガスを吹き付けて、ランス挿入孔及びその周囲の雰囲気ガス中の酸素ガス濃度を低減させ、ランス挿入孔から流出する排ガスの燃焼を抑止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混銑車内の溶銑に浸漬ランスを浸漬させ、浸漬ランスから酸素ガスまたは不活性ガスを供給して溶銑を攪拌しながら脱燐処理する際に、混銑車の炉口上方に配置する集塵フードに設けられた、前記浸漬ランスの貫通するランス挿入孔から流出する排ガスの発炎を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶銑の脱燐処理(「予備脱燐処理」)は、混銑車や転炉などに収容された溶銑に、酸素ガスまたは固体の酸化鉄を脱燐剤として供給し、この脱燐剤中の酸素で溶銑中の燐を酸化して燐酸化物(P25)とし、生成された燐酸化物を脱燐精錬用スラグに吸収することで行われている。脱燐精錬用スラグを形成するための脱燐精錬剤としては、一般的に生石灰(CaO)などのCaO系精錬剤が使用されている。
【0003】
混銑車で脱燐処理を行う場合には、炉口が狭いという混銑車の構造上から、酸素ガスを上吹きしただけでは溶銑の攪拌が十分ではないので、浸漬ランスを溶銑に浸漬させ、浸漬ランスから酸素ガスまたは不活性ガスを溶銑に吹き込み、溶銑を強制的に攪拌しながら行うことが一般的である。また、溶銑に酸素ガスまたは酸化鉄を供給して行うので溶銑中の炭素が酸化され、混銑車の炉口からはCOガスを含有する排ガスが発生し、この排ガスはダスト(酸化鉄、生石灰粉)を含有することから、脱燐処理は、炉口の上方に配置した集塵フード及び集塵フードと接続する集塵機により排ガスを集塵しながら行われる。
【0004】
この混銑車における脱燐処理において、浸漬ランスは集塵フードのランス挿入孔を貫通しており、発生ガス量が多くなった場合などには、このランス挿入孔から排ガスが漏れることが発生する。漏れた排ガスはCOガスを含有しており且つ高温であることから、空気と接触すると燃焼し、火炎を形成する場合が発生する。火炎が大きい場合には、周辺設備を焼損し、最悪の場合には操業不可となる。尚、転炉の上吹きランスは、煙道を貫通しているが、シール構造となっており(例えば特許文献1を参照)、ランス孔から排ガスが漏れるという問題は起こらない。
【0005】
ところで、金属の精錬において、不活性ガスなどを利用して溶融金属の酸化による赤煙の発生を防止する技術は幾つか提案されている。例えば、特許文献2には、溶銑を容器内に注湯する際に、注湯に先立って容器内に不活性ガスを吹きつけることにより空気を排除して容器内雰囲気を不活性化して赤煙の発生を防止する方法が開示され、また、特許文献3には、溶融金属を受銑器内に注湯する際に、可燃性燃料噴射手段で溶融金属流に可燃性燃料を噴射して燃焼させることにより、受銑器内の酸素濃度が12%以下となるように制御して赤煙発生を防止する方法が開示されている。
【0006】
このように、従来、不活性ガスなどを利用して受銑時または受鋼時の赤煙の発生を防止する技術は提案されているが、溶銑の脱燐処理において不活性ガスを利用して排ガスの発炎を抑制する技術は提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−118724号公報
【特許文献2】特開平9−96492号公報
【特許文献3】特開2001−355974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、混銑車内の溶銑に浸漬ランスを浸漬させ、浸漬ランスから酸素ガスまたは不活性ガスを供給して溶銑を攪拌しながら脱燐処理する際に、混銑車の炉口上方に配置する集塵フードに設けられた、浸漬ランスの貫通するランス挿入孔から流出する排ガスの燃焼を抑制することのできる、溶銑の脱燐処理における発炎抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 混銑車内の溶銑に浸漬ランスを浸漬させ、浸漬ランスから酸素ガスまたは不活性ガスを供給して溶銑を攪拌しながら脱燐処理するにあたり、混銑車の炉口上方に配置する集塵フードに設けられた、前記浸漬ランスの貫通するランス挿入孔及び/またはその周囲に窒素ガスを吹き付けて、ランス挿入孔及びその周囲の雰囲気ガス中の酸素ガス濃度を低減させ、ランス挿入孔から流出する排ガスの燃焼を抑止することを特徴とする、溶銑の脱燐処理における発炎抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、集塵フードに設けられた、浸漬ランスの貫通するランス挿入孔及び/またはその周囲に窒素ガスを吹き付けて、ランス挿入孔及びその周囲の雰囲気ガス中の酸素ガス濃度を低減させるので、ランス挿入孔から排ガスが流出しても、排ガスは燃焼しないまま大気に拡散し、流出する排ガスによる火炎の発生を抑制することが達成される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す図であって、本発明を適用して溶銑の脱燐処理を実施する概略図である。
【図2】図1のランス挿入孔7の周囲の平面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明の実施の形態の1例を示す図であって、本発明を適用して溶銑の脱燐処理を実施する概略図である。
【0013】
図1において、混銑車1の混銑車炉体2には溶銑10が収容されており、この溶銑10に浸漬ランス4が混銑車炉体2の炉口3を介して浸漬され、浸漬ランス4から酸素ガス及びこの酸素ガスを搬送用ガスとして粉体のCaO系精錬剤が吹き込まれ、溶銑10に対して脱燐処理が施されている。この場合、CaO系精錬剤に鉄鉱石などの酸化鉄を混合させ、浸漬ランス4からCaO系精錬剤及び酸化鉄を溶銑中に吹き込むようにしてもよく、また、酸素ガスに替えて不活性ガス(例えば窒素ガス)を用い、つまり酸素ガスを使用せずに、浸漬ランス4からCaO系精錬剤と酸化鉄とを吹き込むようにしても構わない。
【0014】
脱燐剤として供給する酸素ガスまたは酸化鉄により、溶銑中の燐は酸化されて燐酸化物(P25)となり、供給されるCaO系精錬剤の滓化によって形成される脱燐精錬用スラグに吸収されて脱燐反応が進行する。この場合、溶銑10は4質量%以上の炭素を含有するので、溶銑中炭素と供給する酸素ガスまたは酸化鉄との反応(脱炭反応)も起こり、COガスが発生する。CaO系精錬剤としては、粉状の生石灰単独、或いは、生石灰と蛍石(CaF2)または酸化アルミニウム(Al23)との混合物などを用いることができる。
【0015】
炉口3の上方には、脱燐処理で発生する排ガス、ダスト、スプラッシュなどを集塵するための集塵フード5が、炉口3を覆うようにして設けられており、集塵フード5は集塵ダクト6を介して集塵機(図示せず)に連結されている。つまり、集塵機を作動させることにより、脱燐処理中に炉口3から排出される排ガス、ダスト、スプラッシュなどが集塵フード5に集められ、集塵されるようになっている。
【0016】
集塵フード5は炉口3を覆っていることから、炉口3を介して溶銑10に浸漬される浸漬ランス4は、集塵フード5に設けられたランス挿入孔7を通って混銑車炉体2に挿入されるようになっている。尚、浸漬ランス4は、上下移動が可能であり、脱燐処理を実施しないときには、混銑車1の移動を妨げることがないように、その下端部が炉口3の上方の待機位置まで上昇するようになっている。浸漬ランス4の上下移動を容易とするために、浸漬ランス4の外周面とランス挿入孔7の内壁面とには間隙が設けられている。
【0017】
集塵フード5に連結する集塵機は、通常の脱燐処理において炉口3から排出される排ガスを十分に吸引するだけの集塵能力で稼動しているが、酸素ガスや酸化鉄の供給流量が増加するなどによって脱燐処理による排ガスの発生量が一時的に増加した場合、或いは、集塵ダクト6にダストが付着するなどして吸引量が低下した場合には、ランス挿入孔7から排ガスが流出する。排ガスは、溶銑中の炭素と供給する酸素ガスや酸化鉄との反応で生成するCOガスを含有しており、且つ、高温であることから、ランス挿入孔7から流出する排ガスが着火し燃焼することが発生する。
【0018】
これを防止するために、本発明では、ランス挿入孔7の周囲に至る窒素ガス供給管8を設置し、窒素ガス供給管8を介してランス挿入孔7及び/またはその周囲に窒素ガスを吹き付けて、ランス挿入孔7及びその周囲の雰囲気ガス中の酸素ガス濃度を低減させ、ランス挿入孔7から流出する排ガスの燃焼を抑止する。図2に、ランス挿入孔7の周囲の平面拡大図を示す。
【0019】
図2に示すように、ランス挿入孔7の周囲では浸漬ランス4を周囲から取り囲む環状の形状となる窒素ガス供給管8を設置し、この窒素ガス供給管8に配置したノズル9からランス挿入孔7の方向に向けて窒素ガスを噴射し、ランス挿入孔7及びその周囲の雰囲気ガス中の酸素ガス濃度を低減させ、これにより、ランス挿入孔7から流出する排ガスの燃焼を抑止する。燃焼が抑止された排ガスはその後大気中に拡散し、それ以降の燃焼も抑止される。
【0020】
窒素ガス供給管8から供給する窒素ガス流量は特に規定する必要はなく、例えば、100〜2000NL/minで十分である。但し、ランス挿入孔7から流出する排ガスの流量が多い場合には不足する場合もあるので、そのようなときには、窒素ガス供給管8から供給する窒素ガス流量を多くすればよい。ランス挿入孔7からの排ガスの流出時期は予測できないので、脱燐処理の全期間に亘って窒素ガス供給管8から窒素ガスを供給する。
【0021】
このようにして脱燐処理を実施することで、窒素ガス供給管8から窒素ガスを供給しない期間には30回/月程度の頻度でランス挿入孔7での火炎発生が起こったが、ランス挿入孔7での火炎発生の頻度を最大でも3回/月程度に抑止することが実現されている。
【0022】
このように、本発明によれば、集塵フード5に設けられた、ランス挿入孔7及び/またはその周囲に窒素ガスを吹き付けて、ランス挿入孔7及びその周囲の雰囲気ガス中の酸素ガス濃度を低減させるので、ランス挿入孔7から排ガスが流出しても、排ガスは燃焼しないまま大気に拡散し、流出する排ガスによる火炎の発生を抑制することが達成される。
【0023】
尚、本発明は上記説明に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、上記説明は浸漬ランス4を介して酸素ガスを供給しているが、浸漬ランス4とは別に上吹きランスを設け、この上吹きランスから酸素ガスを溶銑10の浴面に吹き付けるようにしてもよい。この場合には、上吹きランスと集塵フード5との間隙からも排ガスが流出するので、この部位も窒素ガスを吹き付ける必要がある。また、窒素ガス供給管8にノズル9を設置しているが、ノズル9を設置せずに、環状の窒素ガス供給管8に孔を設ける、或いは、水平方向のスリットを設けるようにしても構わない。
【符号の説明】
【0024】
1 混銑車
2 混銑車炉体
3 炉口
4 浸漬ランス
5 集塵フード
6 集塵ダクト
7 ランス挿入孔
8 窒素ガス供給管
9 ノズル
10 溶銑

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混銑車内の溶銑に浸漬ランスを浸漬させ、浸漬ランスから酸素ガスまたは不活性ガスを供給して溶銑を攪拌しながら脱燐処理するにあたり、混銑車の炉口上方に配置する集塵フードに設けられた、前記浸漬ランスの貫通するランス挿入孔及び/またはその周囲に窒素ガスを吹き付けて、ランス挿入孔及びその周囲の雰囲気ガス中の酸素ガス濃度を低減させ、ランス挿入孔から流出する排ガスの燃焼を抑止することを特徴とする、溶銑の脱燐処理における発炎抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−177184(P2012−177184A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41850(P2011−41850)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】