説明

滑り案内装置

【課題】滑り案内装置における摺動面の摩擦力を十分に低減する。
【解決手段】基準となる案内面S2が形成された支持体12と、潤滑油を介して案内面S2上を摺動する摺動面S1が形成された移動体11とで構成された滑り案内装置であって、移動体11は、摺動面S1に形成された油溜り用の多数の第一凹部21を有し、支持体12は、案内面S2に形成された油溜り用の多数の第二凹部31を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体上に移動体を滑り移動可能に支持する滑り案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械等の分野においては、ベッドやコラム等の支持体に案内面を形成するとともに、テーブルや主軸頭等の移動体に摺動面を形成し、案内面と摺動面の間に潤滑油を供給して支持体上に移動体を滑り移動可能に支持するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載のものは、摺動面における摩擦力を低減するため、摺動面に機械加工を施して油溜まりとなる多数の凹部を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−207811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、摺動面に凹部を形成するだけでは、摩擦力を十分に低減することができず、加工精度に悪影響を与えるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、基準となる案内面が形成された支持体と、潤滑油を介して案内面上を摺動する摺動面が形成された移動体とで構成された滑り案内装置であって、移動体は、摺動面に形成された油溜り用の多数の第一凹部を有し、支持体は、案内面に形成された油溜り用の多数の第二凹部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、案内面と摺動面にそれぞれ油溜り用の凹部が形成されるので、潤滑性が向上し、摺動面における摩擦力を十分に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施の形態に係る滑り案内装置が適用される工作機械の概略構成を示す図である。
【図2】滑り案内装置の全体構成を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る滑り案内装置の要部構成を示す拡大断面図である。
【図4】摺動面の部分の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1〜図4を参照して、本発明による滑り案内装置の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る滑り案内装置が適用される工作機械の概略構成を示す図であり、一例として立形のマシニングセンタを示している。
【0009】
ベッド1上にコラム2が立設され、コラム2に主軸頭3が上下方向(Z方向)に昇降可能に支持されている。主軸頭3には下向きに工具4が取り付けられている。ベッド1上には水平方向(Y方向)にスライド可能にサドル5が支持され、サドル5上にはY方向と直交する水平方向(X方向)にスライド可能にテーブル6が支持されている。すなわち、主軸頭3、サドル5およびテーブル6は、滑り案内装置10により、それぞれコラム2、ベッド1およびサドル5に滑り移動可能に支持されている。この構成により工具4と、テーブル6上に取り付けられたワークWとは、X,Y,Z方向に相対移動し、ワークWが加工される。
【0010】
図2は、滑り案内装置10の全体構成を示す断面図である。滑り案内装置10は、摺動面S1を有する移動体11と、摺動面S1に対向した案内面S2を有する支持体12とを備える。移動体11は、図1の主軸頭3、サドル5またはテーブル6のことであり、支持体12は、それぞれコラム2、ベッド1またはサドル5のことである。移動体11と支持体12は、例えば鋳鉄等の金属を構成材とした鋳造品であり、必要に応じて機械加工されて形成される。移動体11の下面にはナット部15が設けられ、ナット部15に、紙面垂直方向に延在する送りねじ16が螺合されている。送りねじ16は、モータにより回転駆動され、これにより移動体11が案内面S2上を紙面垂直方向に滑り移動する。
【0011】
移動体11には、潤滑油供給孔14が穿設され、摺動面S1と案内面S2に潤滑油が供給される。潤滑油は、ポンプにより例えば数分毎に数mlづつ供給される。なお、移動体11は、浮き上がりを防止するため、支持体12の両端部を抱き込むように構成され、移動体11と支持体12の各接触面に摺動面S1と案内面S2が設けられている。
【0012】
このような滑り案内装置10によれば、移動体11を面全体で滑り移動可能に支持するため、高い支持剛性が得られ、負荷能力が大きく、吸振性、耐衝撃性にも優れる。このため、ワークWを精度よく支持することが必要な工作機械等に用いて好適であり、工作機械に滑り案内装置10を適用することで、ワーク加工時の負荷変動に拘わらず、ワークWを精度よく加工することができる。
【0013】
一方、滑り案内装置10は、摺動面S1における移動体11と支持体12の接触面積が大きいため、移動体11の摩擦力、すなわち摺動抵抗が大きくなりやすい。とくにワーク加工時に移動体11を往復動する場合には、摩擦力に起因して移動体11の移動量に誤差が生じ、加工精度に悪影響を与えるおそれがある。本実施の形態では、移動体11の摺動抵抗を抑えて精度よいワーク加工を実現するため、以下のように滑り案内装置10を構成する。
【0014】
図3は、本発明の実施の形態に係る滑り案内装置10の要部構成を示す拡大断面図であり、摺動面S1と案内面S2を拡大して示している。なお、図では便宜上、摺動面S1と案内面S2を離間して示している。移動体11の表面には、所定厚さt1(例えば1mm程度)の低摩擦摺動材13が貼付され、低摩擦摺動材13により摺動面S1が形成されている。低摩擦摺動材13は、摩擦係数が小さく滑りやすい材質により構成すればよく、例えばフッ素樹脂等の樹脂材により構成できる。
【0015】
摺動面S1にはきさげ加工または機械加工が施され、案内面S2に接触する全範囲にわたって多数の油溜り用の第一凹部21が形成されている。この摺動面S1には、移動体11に設けられた潤滑油供給孔14(図2)を介して潤滑油が供給され、供給された潤滑油は摺動面S1に沿って各第一凹部21に導かれる。これにより摺動面S1における摩擦係数が低減し、潤滑性が向上する。
【0016】
この場合、移動体11に低摩擦摺動材13を貼付したことにより摺動面S1の硬さが低下するので、摺動面S1におけるきさげ加工が容易となる。機械加工によれば、短時間に所定の第一凹部21を形成することができる。なお、各部品の加工誤差等に起因した摺動面S1の平面度の調整が必要な場合、摺り合せにより摺動面S1の当たり調整が同時に行われる。
【0017】
第一凹部21の形状について詳しく説明する。図4は、摺動面S1の部分平面図であり、楕円形状もしくは長円形状等の細長形状の閉曲線23が多数規則的に描かれている。この閉曲線23は、摺動面S1と第一凹部21との稜線を表している。閉曲線23の内側が皿状にくぼんだ第一凹部21である。図中、移動体11の移動方向をX,これに直交する方向をYで示す。閉曲線23の長手方向がXY平面において45度の傾きで交互に交差して配列され、閉曲線23の端部が部分的に互いに重なり合っている。この閉曲線23の端部が重なり合う部分25は、第一凹部21に溜まった潤滑油が隣の第一凹部21に流れるための通路となり、摺動面S1の第一凹部21に囲まれた部分が案内面S2との接触部27となる。修道面S1に供給された潤滑油は、第一凹部21と通路25を次々に流通して、摺動面S1の全面に行き渡る。
【0018】
ここで、第一凹部12の寸法の一例を示すと、閉曲線23の長手方向の長さが7mm、長手方向と直交する方向の長さが3mm、深さd1が0,12mm、ピッチPx,Pyがともに5mmである。なお、XY平面における閉曲線23の長手方向の傾き角度やピッチPx,Pyを変更して第一凹部21を形成してもよい。
【0019】
図3に示すように、案内面S2には、摺動面S1に接触する全範囲にわたって、多数の油溜り用の第二凹部31が形成されている。これら第二凹部31は、研削加工により案内面S2が所定の面粗度および平面度に表面仕上げされた後で、例えばブラスト加工により所定粒径の球状粒子(鋼球)を衝突させることで形成される。案内面S2には、摺動面S1との接触面を確保するような密度で第二凹部31を形成する。ブラスト加工により形成された凹部の周辺には、微小なバリが生じるので、白砥石や油砥石などの砥石で除去したり、比較的軟らかい樹脂状の投射材を噴射させるブラスト加工によって除去したりして案内面S2を仕上げる。
【0020】
案内面S2にブラスト加工すると、第二凹部31の底面は、図示のように鋼球の形状に沿った球面状となる。第二凹部の曲率半径R2は鋼球の大きさ(粒径)に応じて定まるが、油溜りとしての機能を考慮すると、粒径は例えば20μm〜3mm程度とすることが好ましい。案内面S2の基準面としての役割を考慮すると、第二凹部31の深さd2は10μm以下が好ましい。深さd2を10μm以下とすれば、基準面としての機能を損なうことなく、案内面S2に油溜りとしての機能を付与できる。第二凹部31の深さd2は、粒子の噴射圧力を調整することで調整可能である。
【0021】
このとき、互いに隣接する第一凹部21間の接触部27の長さL1が、第二凹部31の長さL2よりも大きくなる。これにより摺動面S1と案内面S2との接触面を十分に確保することができ、案内面S2を基準として移動体11を精度よく支持することができる。
【0022】
本実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)移動体11に形成された摺動面S1に油溜り用の第一凹部21を設けるとともに、支持体12に形成された案内面S2に油溜り用の第二凹部31を設けるようにしたので、摺動面S1と案内面S2に十分に潤滑油を供給することができ、潤滑性が向上する。このため、移動体11の摺動抵抗を抑えることができ、移動体11の滑らかな往復動が可能となり、加工精度を高めることができる。
(2)移動体11の表面に樹脂材などの低摩擦摺動材13を貼付したので、摺動面S1への複雑形状のきさげ加工または機械加工が容易となる。また、案内面S2の磨耗が抑えられて基準面を一定に保つことができ、工作機械の精度を良好に保つことができる。
(3)案内面S2の研削加工後にブラスト加工をして第二凹部31を形成するようにしたので、多数の第二凹部31を容易に形成できる。また、粒径が一定の鋼球を用いるので、多数の第二凹部31を均一に形成することができ、均一な潤滑性を得ることができる。
【0023】
なお、上記実施の形態では、機械加工により移動体11の摺動面S1に油溜り用の第一凹部21を形成するとともに、ブラスト加工により支持体12の案内面S2に油溜り用の第二凹部31を形成したが、これら凹部21,31の加工はいかなるものでもよい。例えば、手作業によるきさげ加工で第一凹部21を形成してもよい。また、ボールエンドミルを用いた機械加工により第二凹部31を形成してもよい。複数の第二凹部31に対応した複数の凸部を有する工具を作成し、その工具を案内面S2に押し当てて第二凹部31を形成してもよい。
【0024】
以上では、立形のマシニングセンタに滑り案内装置10を適用した例を説明したが、横形のマシニングセンタや他の工作機械にも本発明による滑り案内装置を同様に適用可能である。また、高い支持剛性を必要とする他の機械(例えば材料試験機や各種計測器等)にも同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0025】
4 工具
10 滑り案内装置
11 移動体
12 支持体
13 低摩擦摺動材
21 第一凹部
27 接触部
31 第二凹部
S1 摺動面
S2 案内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準となる案内面が形成された支持体と、潤滑油を介して前記案内面上を摺動する摺動面が形成された移動体とで構成された滑り案内装置であって、
前記移動体は、前記摺動面に形成された油溜り用の多数の第一凹部を有し、
前記支持体は、前記案内面に形成された油溜り用の多数の第二凹部を有することを特徴とした滑り案内装置。
【請求項2】
請求項1に記載の滑り案内装置において、
前記移動体は、その表面に貼付された低摩擦摺動材を有し、
前記第一凹部は、前記低摩擦摺動材に形成されている滑り案内装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の滑り案内装置において、
前記案内面は、研削加工後に前記第二凹部がブラスト加工されてなる滑り案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−112121(P2011−112121A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267838(P2009−267838)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000154990)株式会社牧野フライス製作所 (116)
【Fターム(参考)】